BLUE ARCHIVE -SONG OF CORAL-   作:Soburero

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エデン条約編、ゲヘナでのお仕事からスタートです。

全体の流れ確認してますけど、これ私書けるんか???
いきなり不安になってますが、何とか書ききってやろうと思います。

所で皆さん、HCとかLCが使ってる武器、使いたいなぁって思った事、ありません?


エデン条約編
26.Afternoon Tea


 昼下がりのゲヘナ学園。

 この学園では、今日も元気な銃声と爆発音が響いている。

 そのうちの中で、特に大きな音の1つ。大通りで不良たちと風紀委員会がぶつかっていた。

 

 「正面から新手!!ゴリアテが1機と戦車が2両!!」

 

 「何で不良がそんなもの使ってるんだよッ!!」

 

 『フハハハッ!!怖かろう怖かろう!!私達が手ずからジャンクから修復したんだからなぁ!!』

 『さあさあ!竦めッ!怯えろッ!!泣き叫べぇ!!!』

 

 ゴリアテの両腕から放たれる銃弾が、壁にしているコンクリートと装甲車を激しく叩く。

 ジャンクが元であり、頭部の大砲は取り外され、お粗末な操縦席が取り付けられているだけとはいえ、歩兵隊にとって大きな脅威である事に変わりはない。

 その後ろからも銃火が放たれ、弾幕はさらに分厚くなっていく。

 

 「イオリ隊長、このままじゃ……!」

 

 「……頼りたくなかったけど……!」

 「G13!!ゴリアテと戦車の相手を頼む!!」

 

 『了解した。10秒で現着する。待機しろ。』

 

 「第3小隊!!レイヴンが来るぞ!!急いで離れろッ!!!」

 

 銃声の奥から聞こえる、ジェット機が飛んでいるような音。

 それは確実にこちらに近づいてくる。

 遠くに見える赤い彗星が、ゴリアテの頭上まで飛んだ時、それは地面へと急降下する。

 

 『フッハハハハハッ!!そうだ!逃げるがいい!臆病者の風紀委員ども――』

 

 そして、ゴリアテが1歩前に進もうとした瞬間、赤い刃がゴリアテの首を切り落とした。

 操縦席は重力に真っ直ぐ引き寄せられ、頭脳を無くした体は後ろに力なく倒れていく。

 

 「――へっ?」

 

 ゴリアテを操縦していた不良、その隣に居たのは、土気色の無骨なパワードアーマー。

 左腕には、本来HC型のものである、細長いパルスシールドが取り付けられており、左肩のミサイルポッドは2つに増設されている。

 展開された切っ先を元に戻し、全身のブースターから排気しながら立ち上がると、いくつもの赤い小さな瞳が、未だ操縦席に座っている彼女を睨みつけた。

 

 「……お前か。まだ懲りてなかったんだな。」

 

 風紀委員会に雇われた“黒い凶鳥”、レイヴンその人である。

 

 「……あっ。」

 「アイエエエ!!!レイヴン!?レイヴンナンデェェ!?!?」

 

 「“待て”だ。いいな?」

 

 レイヴンが指差ししながらそういうと、不良は両手を高く上げながら壊れたオモチャのように何度も頷いた。

 それを確認したレイヴンは、残った不良と戦車2両に向かい合った。

 

 『レイヴン、他の部隊からも救援要請が来ています。手早く片づけましょう。』

 

 「分かってる。行くぞ。」

 

 「今の内だ!電撃弾の用意急げ!!」

 

 そのイオリの合図と共に、戦車の砲弾がレイヴンに向けて放たれる。

 レイヴンはその場から動かず、そのまま直撃。爆炎が彼女を包み込む。

 だが当然のように、彼女は無傷である。左腕の赤く透き通る盾が。砲弾の直撃を防いでいた。

 赤いベールの向こう側から、さらに濃い赤が不良たちを見ていた。

 

 「しゅ、主砲が効かない……!?」

 

 「たっ、退却!!退却ゥゥゥ!!!」

 

 下がろうとする戦車に対しクイックブーストで急接近。

 正面から衝突しようとする直前で、左、前、そして反転。

 レイヴンは1秒足らずで戦車の後ろに回り込む。

 そして左腕の盾を腕に沿わせ、先端のカバーを開き、整波装置を露出させる。

 そこに赤い光がスパークしながら集まり、拳を前に突き出した瞬間、光の杭として解き放たれる。

 杭は車体後方のエンジンを、装甲ごと抉り取る。さらに盾から伸びた赤い刃が振りぬかれ、履帯をバターのように焼き切った。

 

 もう一両の戦車に対し横から急接近。向けられていた砲身を、進路を開くためにブレードで3つにぶった切る。

 勢いは衰えず、その刃を履帯のスプロケットに突き刺し、身を屈めながら戦車の正面に向けて前進。

 片側のスプロケットをほぼすべて焼き切っていく。

 戦車から刃を引き抜くと、そのまま風紀委員の壁になる様に盾を張って急停止。

 直後、レイヴンの後ろから不良たちに向けて、いくつもの細長い筒が山なりに放たれる。

 放たれた筒は空中で電極を広げ、不良たちの頭上で高電圧の電撃をまき散らす。

 不良たちにそれをかわすすべなどなく、感電の激痛と体の誤作動に倒れるしかなかった。

 その直後、動けなくなった戦車のハッチから、小さな白旗が生えてきた。

 

 「こ、降参します……!だからもう勘弁してください……!」

 

 「良いだろう。大人しくしていろ。」

 

 それにつられた様に、他の不良たちも銃を捨てて大人しくなり、それを見たイオリたちが確保のために動き出した。

 レイヴンはパルスシールドを閉じ、左腕に沿わせ、ため息をつきながら姿勢を直す。

 レイヴンが到着してから、僅か1分の出来事。ゲヘナの新たな日常風景である。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 不良たちをひとしきり片づけた夕暮れ時。

 まだ動ける者は、風紀委員会の車に自分で乗り込んでいき、動けないものは風紀委員によって、同じ車に放り込まれていく。

 不良たちが逃げ出さないように監視していると、後ろから聞きなれた声が聞こえてくる。

 

 「レイヴン、お疲れ様。今日も助かった。」

 

 「助けになれたなら何よりだ、ヒナ。」

 

 ゲヘナの風紀委員長、空﨑ヒナである。俺に定期的に仕事を投げてくれるので、良いビジネスパートナーとなっている。

 それもあってか、最近のゲヘナでは『ヒナが鳴くと親鳥(レイヴン)が来る』なんて言葉が流行しているらしい。

 

 「あなたが風紀委員会に居てくれると、本当に助かるのだけど、うちに来る気は無い?」

 

 「ハッ、お断りだ。」

 

 「ふふっ、手厳しい。」

 

 ヒナが風紀委員会へ勧誘し、俺はそれを断る。

 風紀委員会の仕事のたびに、同じやり取りをしている。これが“天丼”という物だろうか。

 そんなことを考えていると、視界の端にメッセージが映し出される。

 どうやら仕事の連絡のようだが、要件が簡潔すぎる。

 

 「……ん?」

 

 (レイヴン、依頼が届きました。正確には、仕事の説明のために、直接会いたい、という依頼ですが。)

 

 (そうか、差出人は?)

 

 (それが、トリニティの生徒会、ティーパーティーのホスト代理、桐藤ナギサ本人からなんです。)

 

 「レイヴン、どうしたの?」

 

 そう言いながら、俺の顔を覗き込もうとするヒナ。

 不審がる様子のヒナを、手で軽く制しながら口を開いた。

 

 「いや、珍しい奴から依頼が来てな。」

 

 「傭兵として引っ張りだこなのね。いっそ私も傭兵になろうかな。」

 

 「おすすめはしないぞ。やるなら、裏の事情に詳しい仲間を見つけておくんだな。」

 

 「そう、覚えておく。」

 

 (ナギサ本人。つまりティーパーティーとしての依頼ではない、という事か。)

 

 (恐らくそうです。ティーパーティー内部にも伝えたくない話なのでしょう。)

 

 (……ロクな話じゃなさそうだ。)

 

 何度かその手の依頼を受けたことがあるが、ロクな結末になった試しがない。

 ある組織のトップを潰して欲しいという依頼を受けたら、そも依頼人がトップであり、ただ不穏分子の粛清に手を貸しただけ、というような話がいい例だ。

 その時は腹が立ったから、依頼人を組織ごと潰してやった。

 

 (同感です。断りましょうか?)

 

 (……いや、話は聞こう。連絡を頼む。)

 

 だが、差出人が差出人だ。何を依頼しようとしているかは分からないが、俺を頼らざるを得ない状況まで追い込まれているのかもしれない。

 話を聞き、状況を把握するだけならタダだろう。もし俺を消そうとしてきたら、俺とトリニティの全面戦争になるだけだ。

 エアが連絡を送ると、すぐに返信が来た。数日後、トリニティ本校舎前で待ち合わせとのことだった。

 意識を現実に戻すと、不良たちは全員車に入ったようで、車はゲヘナ校舎に向けて走り出した。

 それを合図に、俺とヒナは別れ、再び仕事へと戻っていった。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 トリニティの街並みを、自分の足で歩いていく。

 ヘリで本校舎に乗り付けても良かったのだが、念のため騒ぎにならないように、こちらから離れた上空で待機させている。

 しばらく歩くと正面に見えてきたのは、白を基調とした一際大きな建物。ここがトリニティの本校舎だ。

 この辺りで案内役が待っているはずだ。ティーパーティーの制服に、胸元に赤いブローチを付けている、とのことだった。

 少し辺りを見渡していると、相手の方がこちらに気づいたのか、こちらに駆け寄ってスカートを摘まみ上げる礼をした。

 

 「レイヴン様、お待ちしておりました。」

 「私、案内役の、ハンナと申します。お見知りおきを。」

 

 「ああ、よろしく頼む、ハンナ。」

 

 「はい。よろしくお願いいたします。では、早速ご案内します。」

 

 校舎に向けて歩き出したハンナに、その少し後ろでついていく。

 建物内も外見に違わず清潔にされているようだ。

 ゲヘナだと修復途中の弾痕が目立っていたりするが、トリニティは外部から見られても恥ずかしくないようにと、気を使っているのかもしれない。

 あるいは、ゲヘナも気を使ってはいるものの、銃撃戦が多すぎて手が回っていないのか。

 

 「ティーパーティーが傭兵に依頼を出すとはな。内容は聞いていないのか?」

 

 「申し訳ありませんが、私は何も。依頼内容は、ナギサ様からお聞きください。」

 

 「……そうさせてもらう。」

 

 軽く周りを見渡すと、こちらに興味を示すものは少ない。

 流石に、よそ者を異様に嫌う、という文化はなさそうだ。

 何故俺がそんなことを気にするのかというと、トリニティが余所者の手を借りようとすることは、まずあり得ないからだ。

 ゲヘナやミレニアムも程度の差はあるが、独力で解決できることでは余所者の手を借りない。トリニティは特にその傾向が強いのだ。

 事実、前に受けた正義実現委員会からの依頼は、委員長の独断だったそうだ。

 

 「そういえば、エデン条約の調印が近いと聞いているが、トリニティの状況はどうだ?」

 

 「う~ん……。トリニティの内部事情は、複雑極まるのですが……。簡単な説明でもよろしければ、私がお話しします。」

 

 「構わない。話してくれ。」

 

 「はい。まず、トリニティの現状ですが……。混沌としている、と表現して差し支えないかと。」

 「トリニティ3大派閥。フィリウス、パテル、サンクトゥスがティーパーティーのトップなのですが、そのリーダー達の間ですら、厳密には意見がまとまっていないのです。」

 「ナギサ様率いるフィリウス派が、制定推進派。聖園ミカ様を長とするパテル派が現在も制定に強く反対しており、サンクトゥス派は百合園セイア様が病床に伏せられているため、内部では分裂が進んでいる状態です。」

 

 想像以上に混沌としている。

 このハンナという少女、ティーパーティーではあれど、恐らく権限的には何も持っていないんだろう。

 そのハンナですら混沌と表現するほどの状況というわけだ。話を聞く前に断りたくなってきた。

 

 「……そんな調子じゃ、条約を結んだ所で上手く行くとは思えんが。」

 

 「そんなことはありませんよ。私は、エデン条約はトリニティとゲヘナの融和、その第一歩と考えております。」

 「初めこそ混乱するでしょうが、皆いずれ、相容れない相手とも互いに手を取り合う事の重要性を、理解してくれるでしょう。」

 

 「だといいがな。俺の経験だと、その手の条約が上手く行った試しがない。」

 

 「なら、このエデン条約が、初めての成功体験になりますね。」

 

 俺の頭に蘇ってくるのは、アイスワーム討伐戦。

 あれはベイラムとアーキバスによる合同作戦だった。

 一時的とはいえ、確かに両社は手を結んだ。だがそれは、惑星封鎖機構という、共通の敵が存在していたからだ。

 事実アイスワームを討ち取った後は、アーキバスは封鎖機構から鹵獲した兵器で、ベイラムと解放戦線を潰しにかかったのだから。

 

 「他の派閥はどうだ?どうせ一枚岩ではないんだろう?」

 

 「そうですね……。3大派閥の他に大きい組織ですと、救護騎士団とシスターフッドでしょうか。」

 「ただ、どちらの組織も政治には干渉しない、という姿勢をとっておりまして。内情を推し量る事は難しいですね。」

 「また小さな派閥も、エデン条約をきっかけに分裂と合併を繰り返しており、ティーパーティーですらトリニティ全体を把握しきれていないのが実情です。」

 

 「……条約に現を抜かしている場合じゃないんじゃないのか?」

 

 「……正直、私もそう思います。連邦生徒会長が失踪してから、混乱はさらに深まりましたから。」

 「ですが、きっとナギサ様はそれを解消するための一手を考えているはず。そのために、あなたの力が必要になったのでは?」

 

 「それならいいがな……。」

 

 そうしてたどり着いたのは、見事な彫刻が施された、両開きの扉。

 その両側には、門番と思われるティーパーティーの生徒が、銃剣を付けた長銃を抱え、背筋を正して立っていた。

 

 「ナギサ様はこの先でお待ちです。武器はこちらにお願いします。」

 

 ハンナに促されるまま、赤いテーブルクロスが敷かれた机の上に、背中から取り出したLMGとショットガンを置く。

 そのまま扉に向けて進もうとするが、扉の前で長銃をクロスさせるように掲げられたことで阻止された。

 

 「すみません、3丁目もこちらに。」

 

 「予習はしているようだな。」

 

 ハンナの指示に従い、机の前まで戻って、腰から引き抜いたリボルバーを机に置く。

 丸腰というのは落ち着かないが、仕方ない事でもある。大人しく従っておこう。

 

 改めて扉の前に進むと、今度は通してくれるようで、門番はドアを引き開ける。

 その先にあったのは、真っ白で広大な空間に置かれた、長いテーブル。

 その上には、客人をもてなす為と思われる茶菓子が置かれている。

 その先に座っているのが、恐らくは今回の依頼人。

 彼女の付き人と見られる生徒が開いた椅子を引き、俺はその椅子に座る。

 紅茶を1杯俺の前に置いた後、残った生徒達も全員部屋から出ていった。

 そいつが口を開いたのは、全員出払い、扉が閉められた後だった。

 

 「初めまして、独立傭兵レイヴン。私は桐藤ナギサ。ティーパーティーのリーダーの1人です。本日はお越しいただき、ありがとうございます。」

 

 「フィリウス派リーダー、桐藤ナギサ。知己を得て光栄だ。しかし、珍しいこともあるものだな。ティーパーティーは余所者の手を借りないと思っていたんだが。」

 

 「慣例的には、そうですね。ティーパーティーのメンバーはおろか、トリニティの生徒ですらない貴女がこの場に呼ばれることは、確かに異例なことです。」

 「……ですが、状況が状況ですので、今回は特例です。」

 

 「ハンナからそう聞いている。エデン条約をきっかけに、トリニティ全体が混乱状態にあるとな。」

 

 「お恥ずかしながら、その通りなのです。やはり、長く続いた因縁を治めるとなれば、多少の混乱も、ある意味では致し方ないのかもしれません。」

 「しかし、エデン条約が制定されれば、自然と混乱は収まるはず。今回貴女をお呼びしたのは、条約の制定のために、私達に力を貸していただけないかと、そのお願いをするためです。」

 

 「こんな条約に意味があるとは思えんがな。まあいい、話を聞こう。」

 

 しばしの沈黙。ナギサは紅茶を一口すすってから、口を開いた。

 その眉間には、若干しわが寄っている。

 

 「……今回、貴女に依頼したい事は2つ。もちろん、どちらも断っていただいても構いません。」

 「まず1つ目は、私専属の護衛になっていただきたいのです。」

 「……今このトリニティには、裏切者がいるのです。エデン条約の制定をよしとしない者が。」

 「その者は命を奪う事をためらわず、事実、その毒牙はティーパーティーにもかかっているのです。」

 

 「つまり、お前がその裏切者に狙われているから守って欲しい、という事か。」

 

 「その通りです。お話が早くて助か――」

 

 「断る。」

 

 「……理由を伺っても?」

 

 ナギサの動きが一瞬止まる。

 断られるとは思っていなかったか、あるいは俺以外に頼れる人間が居ないか。

 恐らくは後者だろうが、ナギサが望むような動きは出来んだろう。

 

 「第一、俺は直接戦闘が専門だ。長期護衛は得意じゃない。」

 「何より、俺を呼んだ所で、そいつが止まるわけが無い。その手の奴は、相手の肩書に臆さんぞ。」

 「俺を雇ったところで、お前はいずれ殺される。そいつが正面から来てくれるなら、話は別だがな。」

 

 「では、どのような対策が有効でしょうか……。」

 

 「何人か護衛が得意な傭兵を知ってる。紹介しようか?」

 

 「……では、連絡先だけ、頂いても?」

 

 「良いだろう。エアに送らせておく。で、2つ目は?」

 

 「はい。もう1つは、その裏切者の炙り出しに協力してほしい、という事です。」

 「裏切者が誰なのか、それさえハッキリ分かれば、ティーパーティーとして公的かつ厳正な対処が可能です。」

 「レイヴン。裏社会を生きてきた貴女だからこそ、見えてくるものもあると思います。どうかその力を、このトリニティの平穏のために、貸して頂けませんか?」

 

 なるほど、どちらも重要ではあるが、こちらの方が本題、という事か。

 確かに裏切者を先んじて排除することが出来れば、自身の身の安全は確保される。

 少なくとも、ナギサはそう考えているようだ。

 

 「……いくつか質問をしていいか?」

 

 「はい。何でしょうか?」

 

 「何故そんなことを俺に頼む?」

 

 「えっ……?」

 

 「当ててやろう。もう裏切者の炙り出し自体は済んでいるんだろう?」

 

 このトリニティの上層部では、欺瞞策謀騙し合いが日常と聞いている。

 ハンナの話を聞いて、それは確信に変わった。

 であれば、それに対抗する手段をティーパーティーが持っていないとは考えづらい。

 ティーパーティーが傭兵を必要とするときは、裏切者に“消えて”貰いたいときだろう。

 

 「……噂以上の、聡いお方ですね。」

 「その通りです。裏切者の疑いが掛かっている生徒達、彼女たち4名は今、《補習授業部》という部活にまとめてあります。」

 「ですが、その4人の内、誰が裏切者なのかがハッキリしないのです。その証拠さえつかめれば、後は私達で対処するのですが……。」

 

 「お前、見積もりが甘すぎるぞ。」

 

 「――ッ!それは、どういう……。」

 

 「何故裏切者が1人だと決めつけている?その証拠でもあるのか?」

 「何故その裏切者に協力者が居ないと思い込んでいるんだ?その1人を潰せれば終わりだと思っているのか?」

 「はっきり言え、桐藤ナギサ。お前は俺に何をさせたい?」

 

 俺は足を組んで座り直し、ナギサは持っていたティーカップをそっと机に置く。

 その手は、微かだが震えていた。

 

 「……では、裏切者は、1人ではないと?」

 

 「間違いなく、な。俺なら校内に協力者を作る。条約に反対している奴らを中心にな。」

 「そういえば、パテル派は制定直前の今も反対してるそうじゃないか。そいつらの感情を少し煽れば、良い駒になるだろうな。」

 

 「ティーパーティー内部にも、協力者が居るかもしれないと……!?もしそれが本当なら、私は誰を信じれば……!?」

 

 目に見えて動揺し始めた。

 トリニティのトップの1人と言えど、結局はただの生徒だ。

 自身が既に檻の中にいる、という可能性に今気づいたのだろう。

 ナギサのそんな姿が少し不憫に思えたので、自分の教訓を送る事にした。

 

 「……1つ、昔話をしようか。」

 「ある男が居た。そいつは企業に虐げられながら生きていたが、ある時その企業が、戦闘員を公募した。」

 「そいつはその話に乗り、企業の一員となった。そいつの実力もあって、僅か半年で幹部へと上り詰めた。」

 「だがそいつは、レジスタンスの密偵だった。幹部になったのも、レジスタンスの幹部の手引きだったんだ。」

 「そいつは、同じ企業の幹部を、協力者にしていたんだ。自分よりも権限のある幹部を、な。」

 

 「……それじゃあ、各派閥のリーダーも、誰も信用できない、という事ですか……?」

 

 「呑み込みが早くて助かる。それと、この話には教訓がある。」

 「“裏切者は、身内から探せ。”」

 「お前に近い奴ほど、お前のやり方を知っている。お前のやり方が分かれば、それだけ対策もしやすくなる。」

 「誰かを裏切りたいなら、そいつの近くにいる方が好都合だ。」

 

 「……もし、もし本当に、裏切者が、私の近くにいるとしたら、私は、どうすれば……。」

 

 考えたくなかった可能性に行きついてしまったのだろう。

 ナギサは完全にうつむいてしまい、その表情をうかがい知る事は出来なくなった。

 

 「……集めた情報を、もう一度整理した方が良い。別のものが見えてくるかもしれん。」

 

 そう言い残して立ち上がり、ドアに向けて歩いていく。

 俺が座っていた席の前には、1滴も減っていない紅茶が、今も香りを放っていた。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 (エア、どうだった?)

 

 トリニティの校舎から離れて、やや遠くに着陸させたヘリに向かう。

 その道中で、エアの報告を聞くことにした。

 

 (当たりですね。ナギサのスマホの通話履歴を覗けました。もう2人のティーパーティートップ、ミカとセイアと頻繁に通話していたようです。)

 (ですが、ある時期を境に、セイアとの通話を一切していません。恐らく、この時期にセイアが暗殺されたのでしょう。)

 

 (そうでなければ、奴があそこまで怯える理由がない。傭兵である、俺を呼びつけるほどにな。)

 

 俺とナギサが話している間に、エアにナギサのスマホを調べさせていたのだ。

 どんな話が飛び出してもおかしくはなかったし、何か情報を伏せられていたとしても、それで状況が大体把握できると踏んでいたのだ。

 だが出てきたのは、傭兵の使い方を間違っているとしか思えない依頼。

 アーキバス並みに使い捨てて来るのかと思っていたが、それはナギサに失礼だろうか。

 

 (……エデン条約を発端とする、暗殺事件。これはトリニティだけで終わる問題ではなさそうです。)

 

 (同感だ。ヒナに情報を流しておこう。)

 

 歩きながらヒナに通信を試みる。この時間だと、仕事で出張っている可能性が高い。

 これで出てこなければメッセージを送ろうと考え始めた時、紙をひっかくような音が聞こえてきた。

 どうやら書類と格闘しているらしい。

 

 「ヒナ、聞こえるか?」

 

 『ええ、聞いてる。どうしたの?』

 

 「今日、ティーパーティーから依頼を聞いた。ただ、内容が内容でな。お前にも伝えておく。」

 

 『ティーパーティーから?それは私が聞いていいものなの?』

 

 「知るか。奴が独立傭兵を頼ろうとしたのが悪い。」

 

 『なるほど……。分かった、内容を教えて。』

 

 カチリと硬い何かがぶつかる音。ペンを置いて話を聞くことに集中したのだろう。

 エアが仕入れた情報を準備しつつ、言葉を続ける。

 

 「依頼人は、ティーパーティーホスト代理、桐藤ナギサ。ティーパーティーを通していない、奴個人からの依頼だった。」

 「エデン条約の制定を、トリニティの裏切者が阻止しようとしているらしい。その裏切者は、命のやり取りも辞さない奴だそうだ。」

 「問題は、ナギサが俺に依頼を出したきっかけが、トップの1人、百合園セイアが暗殺された事、という点でな。」

 

 『暗殺!?ちょっと待って、それは本当なの……!?』

 

 「あくまでも推察だが、ほぼ黒だな。今ナギサの通話履歴を送る。」

 「ここまでの話で気づいただろうが、これはトリニティやゲヘナの内部だけで終わる話じゃない。でなければ、キヴォトス人が誰かを殺すような真似はせんだろう。」

 

 『冗談でしょう……。どうしてこんな面倒な事になるの……!』

 『情報の精査は必要だけど、もしそれが本当なら……。暗殺がゲヘナのせいって事になったら、ゲヘナとトリニティの全面戦争だってあり得る……!』

 

 「……もしかしたら、裏切者の狙いはそれかもしれん。ゲヘナとトリニティを殺し合わせて、キヴォトスのパワーバランスを崩し、両者を共倒れさせるつもりなのかもな。」

 「いずれにせよ、まともな話では無い。気を付けろよ、ヒナ。お前はゲヘナの最高戦力だ。連中がお前を潰しにかかってもおかしくは無い。」

 

 『……そうね。私が裏切者なら、まず私を動けないようにしておく。』

 『情報提供に感謝するわ。すぐに先生に伝えなきゃ……!』

 

 ガタン、という大きな音と、紙がこすれ合う音。

 書類庫にでも行こうとしているのか。

 先生への信頼は俺もある。だが、今回は奴に動かれるとマズい。

 

 「それは駄目だ。あいつの事だ、すぐに事態を収拾しようと動き出すだろう。裏切者どもを刺激しかねない。」

 「奴に情報を回すのは、相手の正体が分かってからの方が良いだろう。」

 

 『……それもそうね。そのせいでまた犠牲者が出たら、それこそ取り返しがつかない……。もしそれが先生だったら……。』

 

 「……その混乱は、キヴォトス中に波及する。」

 

 『……情報部を動かすわ。トリニティに協力者がいる。エデン条約に賛同してくれている子がね。まずはその子の安全を確保しないと。』

 

 「俺はトリニティを中心に仕事を受ける。また何か分かったら、お前にも知らせておこう。」

 

 『分かった、頼むわよ。それとレイヴン。』

 

 「なんだ?」

 

 『私が裏切者なら、あなたを味方に付けるか、それが出来なければ真っ先に潰す。気を付けて。』

 

 「……覚えておく。」

 

 そうして通信を切った後、ため息を1つ。

 鼻に紅茶の匂いが流れ込んでくる。

 紅茶党であれば、それで多少落ち着くのかもしれないが、今回は事態が大きすぎる。

 何より、俺はフィーカ派だ。

 

 (……これは、面倒な事になったな。)

 

 (アビドスとカイザー、アリスの次は、トリニティとゲヘナ……。私達はトラブルを引き寄せてしまうようですね。)

 (ひとまず、トリニティの公示と、有力な情報屋をリストアップしました。次に何をするかは、あなたにお任せします。)

 

 (……仕事を受けよう。まずは信用を得るぞ。)

 

 止めておいたヘリに乗り込み、ハッチを閉じて上昇させる。

 エアの言う通り、どうも俺は、誰かの思惑に巻き込まれやすいようだ。

 そう考えながら、ナイトフォールを万全の体制にするため、弾薬箱とスペアパーツを取り出した。




ナギサ様がちょっと可哀そうな事になってますが、この段階のナギサ様は疑心暗鬼MAXだろうからどうにもなりませんでした。
レイヴンの昔話がいい方向に導く事を信じましょうか。
書いてる私がこれを言うってどういうことなの???

次回
最大の脅威
行政は余計な仕事は早い

次回も気長にお待ちくださいませ……。
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