BLUE ARCHIVE -SONG OF CORAL-   作:Soburero

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パヴァーヌ編、いよいよ選択の時です。

皆さま、この地球が我々を暑さで焼こうとしている中、いかがお過ごしでしょうか。
私は溶けて死にそうです。
部屋は空調を使って、しっかり冷やしましょう。
室内を26℃以下にするのがお勧めです。
令和ちゃん仕事して。俺達死んじゃう。



23.Bad Joke

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

《天童アリス救出》

 

 『レイヴン、これからシャーレとして、君に依頼を出すよ。』

 

 『……アリスの救出に、手を貸してほしい。』

 

 『アリスをさらったのは、ミレニアムの生徒会長、調月リオ。アリスを破壊兵器だと言って、無理矢理連れて行ったんだ。』

 

 『今アリスは、リオが作った街、エリドゥに居る。ただ、このエリドゥの防御は半端じゃない。』

 

 『もし君に手を貸してくれる子達が居たら、その子にも声をかけて欲しい。今は、猫の手でも借りたいくらいだから。』

 

 『……レイヴン、もし君が、アリスを、少しでもあの子の事を、命がある存在だと思ってくれるなら。』

 

 『お願い、アリスを助けてあげて欲しい。』

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

《要塞都市防衛》

 

 『独立傭兵レイヴン、ミレニアムセミナーの会長、調月リオよ。貴女に依頼を提示するわ。』

 

 『依頼の目的は、私が作った要塞都市、エリドゥの防衛よ。』

 

 『私はエリドゥで、ある兵器の解体を行う予定だけど、それを阻止しようとしている者達が居るの。』

 

 『彼らは全体の勢力も指導者も目的も不明で、行動予測が困難よ。だから、貴女にもう1枚の切り札になって欲しいの。』

 

 『エリドゥには、多数の防衛兵器が仕込まれてる。必要に応じて、自律兵器のAMASも展開するわ。』

 

 『また主力として、私が作った大型戦闘ロボットの、アバンギャルド君。そして、C&Cのコールサイン04、飛鳥馬トキを控えさせてる。』

 

 『彼女たちとは、うまく協働して頂戴。』

 

 『当然、報酬は用意したわ。額に不満があれば、相談も受け付ける。』

 

 『説明は以上よ。合理的な判断を期待するわ、レイヴン。』

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「……敵対する両陣営からの依頼、か。独立傭兵らしくなってきたな。」

 

 整備の手を止め、ナイトフォールを前に、ストーカーの中で独り言つ。

 ルビコンで最初にこんな形の依頼が届いたのは、確か、ストライダーに関する依頼だったはずだ。

 少し懐かしい気分になりながら、エアの言葉を聞く。

 

 『レイヴン、この2つの依頼があなたに届いたという事は、あなたの選択次第で、アリスは……。』

 

 「分かってる。リオは伏せてるが、“兵器の解体”がアリスの破壊を意味するのは間違いないだろうな。」

 

 そう、先生からの説明と、リオからの依頼の情報両方を信じるなら、当時の状況はこういう事になる。

 まず、リオがアリスの危険性を理由にアリスを破壊するため、エリドゥへと連れ去る。さらった方法は不明。

 そして、リオは先生達がアリスを取り戻そうとする事を想定し、飛鳥馬トキを味方につけ、アバンギャルドを作った。

 その上で、念には念を、という事なのだろう。最後の切り札として、俺に依頼を出してきている。

 それも、報酬はかなりの高額だ。先生の依頼とは比べ物にならない。

 全く、よく考えているものだ。

 

 『もしリオの依頼を受ければ、あなたはアリスの破壊に加担することになる。』

 『しかし、先生の依頼を受ければ、高度に要塞化された都市に対し、飛び込んでいかなければならない……。』

 『私達は静観する、という選択肢もありますが……。』

 

 「……俺達はこの件に首を突っ込みすぎてる。今更引くことは出来んぞ。」

 

 『レイヴン……。』

 

 どう考えても、先生の依頼を受けるのは得策じゃない。

 ブリーフィングに載っている情報だけでも、解放戦線の“壁”よろしく、エリドゥの防衛網はかなり分厚いことが分かる。

 そも海上には面しておらず、上空、地上、そのどちらのルートでも何らかの兵器が待ち構えている。

 正面から襲撃を仕掛けることは困難だ。やるとすれば、内側から瓦解させるしかないだろう。

 まあ、そうする気などないのだが。

 リオとしては、アリスが暴走するリスクを抱えておきたくなどないんだろう。

 何より、ミレニアムにアリスをどうこうする気など無いだろうから。

 

 「……リオに依頼を受けると――。」

 

 『レイヴン、少しだけ待てませんか?』

 

 「どうした?」

 

 『……私には、アリスがただの兵器だとは、思えないんです。』

 『高度かつ柔軟な判断を行うために、人間の精神構造を模倣しているというのなら、私も理解できます。』

 『ですが、兵器として作られたなら、心を、それに近いものを備える必要は、ないはずです。』

 

 こいつが何を言いたいのか、嫌でも理解する。

 頭頂部に付いた猟犬の耳が、ゆっくりと後ろに倒れていくのを感じた。

 

 「……お前、アリスを助けるって言うのか?」

 

 『その判断に、もっと材料が欲しいんです。アリスとの戦闘を覚えていますか?』

 

 「ああ、覚えてるさ。最後の方で、ナイトフォールを乗っ取られそうになったこともな。」

 

 スーパーノヴァを叩きつける直前、アレがナイトフォールの制御を奪おうと、システムに侵入してきたのだ。

 すぐエアによって遮断されたが、俺が感じた以上、エアにもそれは分かっていたはず。

 だが、どうもそれだけでは無いらしい。

 

 『あの時、あれが私にコンタクトを取ってきたんです。“名も無き神々の王女のために、お前も手を貸せ”、と。』

 『その時に感じた思考パターンは、完全にアリスとは異なっていました。恐らく、何らかの形で体の制御を乗っ取られていたのでしょう。』

 『アリスが戦った事は、アリスにとっても不本意だったのではないでしょうか。』

 

 「つまり、その異常なプログラムを消去できれば、アリスを破壊する必要は無いと?」

 

 『その通りです。あれが何であれ、プログラムである以上、プログラムそのものを排除出来れば、アリスが暴れることも無くなるはず。』

 

 「……アリスの精神にどう干渉する気だ?少なくともキヴォトスの技術で作られたものではない。」

 「精神に干渉することが、あれが動き出すトリガーになっているのかもしれんぞ。」

 

 『……そこは未知数です。まずは、アリスの事を調べ上げる必要があります。』

 

 「ダメだ。危険すぎる。アリスが暴れだしたらどう抑えるつもりだ。」

 「アイビスの火の顛末を忘れたのか。」

 

 アイビスの火。コーラルの研究者達によって引き起こされた、星系を焼き払った未曽有の大災害にして、破綻を回避するための最終手段。

 その発端は、技研がコーラルをルビコンの外に持ち出そうと、バスキュラープラントによってコーラルを吸い上げ始めたこと。

 研究者達は人類の発展を願っていたのかもしれないが、結果引き起こされたのは、全てを灰へと還す炎だ。

 俺達も全てを知っているわけではないが、意志を持たぬコーラルでさえ、人の手には余る力だったのだ。

 人の意志だけに、世界を預けるわけにはいかない。

 

 『……確かに、私達だけでは不可能です。ですが、アリスはミレニアム生、キヴォトスの知性が集まった学校の、生徒です。』

 『それぞれの分野の専門家たちが協力することができれば、アリスの解析や異常プログラムの無力化だけでなく、他の科学だって発展するかもしれません。』

 

 「……お前、それが感情から言ってるだけだと分かってるのか?」

 

 『分かっています。コーラルと同じように、あの子には可能性があるんです。』

 『私達や、友人達と共存できる、可能性が。』

 

 「…………俺達が共存の可能性を追求して、ルビコンはどうなった?」

 

 『――ッ!それは……!』

 

 そして、俺達はコーラルを焼き払う事を拒絶し、コーラルリリースという共存の可能性を追求した結果、人類世界を破綻させた。

 星系はおろか、世界そのものを、俺達は壊したんだ。それが、人類とコーラルが共存する最善の道だと、信じていた。

 オーバーシアーはそれを破綻と呼び、ドルマヤンはそれを人類世界の悲惨と呼び、リリースを知る全ての人間から、その選択肢を否定され続けてきたのに、だ。

 

 「……だが、今回はお前が正しい。」

 「進路をミレニアムに変更しろ。まずはシャーレの連中から話を聞くぞ。」

 

 だが、コーラルとアリスの違いは、まだ猶予がある、という点だ。

 ルビコンは惑星封鎖機構によって封鎖され、研究データはアイビスの火によってほぼ焼失していたが、ミレニアムには、アリスを研究するだけのリソースや時間が十分にある。

 ほぼゼロからの研究という点は共通するが、アリスを狙おうとする者がほぼいない事は救いか。

 対抗策を作りながら、慎重に研究していけばいい。そのための猶予は、十分あるはずだ。

 

 『レイヴン……!ありがとう……!』

 

 「ただし、条件がある。」

 「奴らにアリスを確保した後の考えが何も無ければ、俺はリオに付く。お前もそれを忘れるなよ。」

 

 『分かっています。行きましょう、レイヴン!』

 

 ヘリは姿勢を変え、左にゆっくりと旋回していく。

 ミレニアムの上の空には、分厚い雲から、まばゆい光がさしていた。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ミレニアムの廊下を通り、会議室の1つへと向かう。

 ドアノブをひねり枠をくぐる俺に最初に気づいたのは、ミサトだった。

 

 「えっ、レイヴン!?どうしてあんたがここに?てか、何でもうナイトフォールを?」

 

 「……オイ、何でこのイカレ野郎が来てんだよ。誰が呼んだんだ?」

 

 ”私が呼んだんだ。レイヴン、来てくれてありが――。”

 

 「受けるとは言ってないぞ、シャーレ。」

 

 「ハァ?冷やかしなら他所でやって来いよ!」

 

 「……話を聞きに来た。依頼を受けるかどうかは、その後に決める。」

 

 そう言いながら軽く見渡すと、想像していたよりも人の数が多い。

 ヴェリタスの3人に加え、初めて見る顔が1人。ゲーム開発部の、初対面の時には姿が見えていなかった、ユズを含めた3人。エンジニア部の3人。C&Cが4人。

 そしてMRaDのミサトに、セミナーもホログラム通信で参加している。

 恐らくは先生と同じく、アリスを助けたいと考えている者達だろう。

 連れ戻した後の事を、何も考えていない事も含めて。

 

 「話だァ?テメェはホンっとに人をイラつかせるのが上手いな……!」

 

 ”ネル、落ち着いて。それで、話って?”

 

 「……お前達、アリスを取り戻した後、どうするつもりだ?」

 

 「どうするって……。」

 

 『レイヴンさん!アリスちゃんは攫われたんですよ!会長に、無理矢理!助ける理由なんてそれで……!』

 

 「ダメだ。確かにアイツはアリスだが、同時に兵器でもある。エア、教えてやれ。」

 

 俺がそう声を掛けると、エアは中央にあったホログラムの画像を変え、情報を開示していく。

 

 『アリスとの戦闘を覚えていますか?あの時、アリスの体を制御していたのは、アリスではありません。』

 『もっと別の、アリスとは別の指令を与えられた、異常なプログラムです。』

 『それがアリスの中に残っている以上、常に暴走するリスクが付きまといます。』

 『あなた達は、このプログラムについて、何か知っていませんか?』

 

 「……ごめん、私としては、何も。他の皆は?」

 

 ミサトが首を振って周りに目を向けるも、先生を含めて誰も口を開こうとはしない。

 やはり、リオ以外は何も知らないのか。

 そう考えていると、背中からモーターの小さな駆動音が近づいてきた。

 

 「ありますよ、情報なら。」

 

 明星ヒマリ、特異現象捜査部の現部長にして、ヴェリタスの元部長。

 ヴェリタスの現部長、各務チヒロはヒマリが来ると思っていなかったのか、心底驚いていた。

 

 「――ッ!?部長!どうしてここに!?」

 

 「何やら大変そうな話が聞こえてきたので、つい。」

 

 そう言いながら俺の横に陣取り、車いすのホログラムを操作すると、再び中央のホログラムが変化した。

 それを資料に、ヒマリは話を続ける。

 

 「あれは、“Key”。恐らくは、主人格に対する問題の発生に備えて作られた、サブプログラムでしょう。」

 「それの目的は、“名も無き神々の王女”、アリスを補佐すること。そして、アリスの本来の目的は、“忘れられし神々”、つまりヘイローを持つ者達の排除。」

 「あの時アリスが暴れだしたのは、Keyが本来の目的を果たそうとしたからでしょうね。」

 

 「お前、それを知っていて、何故今まで話さなかった?」

 

 「不確定要素が多すぎたからですよ。今私が話した情報も、大半は私の推測によるものです。」

 「不確かな情報で、ミレニアム中を混乱させるわけにはいかなかったんですよ。」

 

 「……黙っていた理由は分かった。なら、そのKeyとやらを封じる方法は?」

 

 「プログラムである以上、削除が可能なはず。もし消せなくても、プログラムの優先順位を、不可逆な方法で下げてあげればよいのです。」

 「それこそ、アリスの食欲に簡単に抑え込まれるくらいに、ね。」

 

 『アリスの精神にはどう接続しますか?記憶領域に干渉できない限り、対策は根本から不可能ですよ。』

 

 そうエアが質問を返すと、ヒマリは急に黙り込み、苦虫を嚙み潰したような表情で考え出した。

 僅かな間を置き、ヒマリは口を開く。

 

 「……一応、あるにはありますが、あの下水のような女が作ったものですからね。安全に接続する方法は、これから探しますよ。」

 

 「ん?下水って、誰の事だ?」

 

 「……リオですよ。人さらいの分からず屋です。その上、可愛い後輩のヘイローを砕こうとするなんて……。」

 

 「ハァ、まあいい。思うところがあるなら、事が終わってから好きにやればいい。」

 「……それで、肉体の動きはどう封じる?」

 

 「アァ?ンなもんアタシらでどうにかすりゃ良いだろ。」

 

 そう言って銃を掲げたのは、C&Cのネルだった。

 確かに、戦闘力としては申し分ないだろう。だが突っこみたいのはそこではない。

 

 「お前達が別件で不在の時はどうするんだ?ずっとあいつの傍について回る気か。」

 

 「やはり、アリスちゃんはC&Cの新メンバーとして迎えましょう。そうすれば、私達がずっと監視できますし、何より、アリスちゃんにはメイド服がとてもよく似合うと思うんです。」

 

 「さんせーい!絶対楽しくなるよ!」

 

 「ちょっとちょっと!アリスはゲーム開発部の部員なんだけど!?メイド部には渡さないかんね!」

 

 「……そういう事じゃない。誰でも使える拘束手段は無いのかと聞いてるんだ。」

 

 「……それなら、私達が作るさ。」

 

 手を挙げたのは、エンジニア部のウタハ。

 ヒビキとコトリも、どこか不敵な笑みを浮かべている。

 

 「失敗作の中に、強化型のネットガンがあるんだけど、それを改良すれば、アリスにも効くように出来るかも。」

 

 「いっそ、さらに原始に立ち返るのも良いでしょう!古代の狩猟具にボーラという物がありまして、石を括りつけた三又の縄によって獲物を拘束する仕組みです!」

 「それを私達の技術で改修すれば、アリスだけでなく、暴れる人たちを無傷で捕らえる道具が出来るはずです!」

 

 『レイヴン、スタンニードルランチャーを覚えていますか?あれと同じように、着弾の瞬間に電撃を展開する弾頭を作ることができれば、アリスを傷つけずに無力化する事ができるはずです。』

 

 「それはいいアイデアだね、エア!アリスが帰ってきたら、早速40mmグレネード規格で作ってみようか!」

 

 「ヴェリタスも協力するよ。アリスのプログラム構造の解析は任せて。いいよね、部長。」

 

 「MRaDも手を貸せるかも。あの子の体の構造が分かれば、力を弱める方法が分かるかもしれない。」

 

 「さて、レイヴン?これだけ対応策が出てきたのですよ。もちろん、協力してくれますよね?」

 

 ”レイヴン、お願い。私も、アリスの対応に、全力を尽くすから。”

 

 「………………。」

 

 確かに対策案としては十分だ。だが、未だ言いようのない不安が拭えない。

 これが思考ではなく感情から来るものだと分かっていたが、どうにも頷く気になれない。

 どちらに付くべきか決めあぐねていると、パーカーを羽織った赤毛の少女が、ゲーム開発部のユズが俺の前に出てきた。

 そいつは、声と体の震えを抑え込み、俺の目を見ながら願いを口にした。

 

 「……ユズ?」

 

 「ユズちゃん?」

 

 「……レイヴン、さん。アリスちゃんは、わ、わたしの、大切な、友達なんです……!だ、だから……!」

 「……アリスちゃんを、助けてください……!お願いします……!」

 

 「えぇっ!?ユズが頭下げてる!?」

 

 「……レイヴンさん!私からも、お願いします!手を貸してください!」

 

 「で?やるの、やらないの?どっち!?」

 

 「お姉ちゃん……!」

 

 ゲーム開発部が、モモイを除いた全員が頭を下げる。

 友達を失いたくない、その一心なのだろう。

 その様子を見かねてか、ミサトも口を開いた。

 

 「……レイヴン、スワンプマンのパラドックスって、知ってる?」

 

 「……知らない。それがどうした?」

 

 「……私はね、もしスワンプマン問題に答えを出すとしたら、私はイエスと答える。」

 「もし元の体が完全に消滅していても、本人を含めたあらゆる人が、その人を本物だと思っているのなら。私は、その人は本物だと思うの。」

 「お願いレイヴン、手を貸して。アリスちゃんが、アリスちゃんであり続けるために。」

 

 『……レイヴン。私からも、お願いします。きっとあの子なら、良い未来を紡いで行けると、思うんです。』

 

 「………………。」

 

 俺はただ、認めたくなかった。その選択肢を認めるという事は、俺の過ちを認めることでもあるから。

 人の願いが世界を救うというのなら、俺達が選んだコーラスリリースは、何だったと言うんだ。

 だが、いい加減選ぶべきなのだろう。C4-621ではなく、レイヴンとしての選択を。

 

 「……分かった!協力する。」

 

 ”レイヴン!本当にありがとう!”

 

 「ただし!条件がある。」

 「またあいつが暴走しているところを見かけたときは、依頼の有無に関わらずあいつを殺す。それは忘れるなよ。」

 

 「テメェ、今までの話――!」

 

 「分かった。覚えておくよ。」

 

 「ハァ!?何言ってんだよウタハ!?」

 

 「要は、暴走させなければいいんだろう?もししたとしても、君が来る前に鎮圧すればいい。だろう?」

 

 「ヴェリタスにかかれば、精神構造の解析に1週間とかからないでしょう。アリスも協力してくれるでしょうしね。」

 

 「うちはスキャナーの精度を上げとく。体の構造が分かれば、対策を考えるのも、楽になるでしょ?」

 

 「拘束器具のプロトタイプも、すぐに出来上がる見込みだよ。何回かテストは必要だろうけど、すぐ実用化できるはずさ。」

 

 ただ、友人を失いたくないという願いが、人を呼び、力を集め、大きなうねりになろうとしている。

 もしルビコンでこんな事が起きていれば、ルビコンの未来も、もう少し違ったのだろうか。

 なあ、戦友。こういうことは、お前の方が詳しいだろう。何か知っていたら、教えてくれないか。

 

 『……レイヴンさん、セミナーからも依頼を出します。アリスちゃんの救出に、協力してください。』

 

 「良いだろう、引き受ける。支払いはシャーレにツケておくぞ。」

 

 ”え゛っ私!?”

 

 「当然だ。元はと言えば、お前からの依頼なんだからな。戦闘手当付きで請求しておくぞ。」

 

 ”……覚悟しときます……!”

 

 その答えを聞いてからため息を1つつき、頭を仕事へと切り替える。

 先生達に付いた以上、俺はアリスを助けなければならないのだから。

 

 「それで、作戦はあるのか?」

 

 『もちろんです。まず、C&Cが陽動として地上からエリドゥに突入します。その後、先生率いる後発隊が、無人輸送列車を通じてエリドゥに侵入。』

 『防衛網を突破してタワーにたどり着いた後、アリスちゃんを救出して離脱。これが、作戦の全体の流れです。』

 

 ノアからの情報を補足するようにホログラムが表示される。それは、エリドゥの全体図だった。

 要塞都市の名に恥じない大規模な街。今からそこを、ここに居るメンバーで攻め落とす必要がある。

 

 「了解した。俺達の情報も共有しておく。エア。」

 

 『実は、件の人物である、調月リオからも依頼を受けていました。肝心な情報は伏せられていますが、あなた達による侵攻を想定していることは、間違いないでしょう。』

 

 『会長、どうして私達じゃなくて、レイヴンさんに……。』

 

 「……何も知らない部下に対して、人を殺すから手伝えなどと、口が裂けても言えんだろうよ。」

 

 「ハァ……。浄化槽に浮かぶ汚水のような、あの女らしい対応ですね。」

 

 やはり、リオとヒマリには浅からぬ因縁があるようだが、エアはヒマリの苦い顔を無視して話を続ける。

 

 『このエリドゥですが、防衛兵器がタワーを中心に、何重にも円状に展開されています。上空から接近するのは極めて危険です。』

 

 「シンプル故に強固な守りだ。会長らしい設計だね。」

 

 タワーを中心に赤い円がいくつも表示される。この円の中に対空砲が仕込まれているのだ。

 掻い潜るなら地上スレスレを飛ぶしかない。

 だが、地上に降りても脅威が待ち構えている。

 

 『地上は大量の自律兵器、AMASによって守られています。スペックから推測して、レイヴンとナイトフォールであれば、強行突破可能です。ですが、生身だと物量に押し切られる可能性が高いでしょう。』

 

 「関係あるかよ。正面からぶっ飛ばすだけだ。」

 

 「けど、こんなに数が居ると、私達でも大変だよ?」

 

 「そんな時こそ、お任せください。私、爆薬を使ったお掃除は、大得意ですので。」

 

 「私は全体を見渡せる位置に陣取っておく。何か見えたら知らせる。」

 

 カリンが指し示したのは、エリドゥからそう遠くないビルの屋上。

 タワーの裏側以外はエリドゥ全域を見渡せる、お手本のような位置取りだ。

 

 『そして、今回私達にとって最大の脅威となるが、大型戦闘ロボット、アバンギャルド。そして、C&Cのコールサイン04、飛鳥馬トキです。』

 『アバンギャルドは、戦車型の脚部を持ち、4本の腕によって大量の火器を同時制御しています。装甲も尋常ではない耐久力です。』

 

 「だが、必ず構造上の弱点は出来る。こいつで言うなら、足のキャタピラと、腕の関節、それと頭だな。」

 「この感じなら、頭にセンサーが集中してるんだろう。そこを潰せれば、少なくとも動きが鈍るはずだ。」

 

 実はタンクACもほぼ同じ場所が弱点なのだが、ACSによる装甲制御で致命傷を防いでいた。

 恐らくこいつには、ACSのような動的な防御システムは搭載されていない。

 足さえ潰せれば、後はただの的だろう。

 話はもう1人の主力、飛鳥馬トキへと移る。

 

 「トキはどうなの?ネルたちは知ってる?」

 

 「ほとんど知らねぇ。アイツはリオの専属だからな。」

 

 「ただ、“装備”って言うのを使ってました。まるで、チートを使ってるみたいな動きで……。」

 

 「少なくとも、エンジニア部製ではなさそうだ。ミサトはどうだい?」

 

 「私もさっぱり。ただ映像見たけど、あれだけ高速で動いてたら、少なからず使用者に負担がかかるはず。もし戦うなら、スタミナ切れを狙うのが得策ね。」

 

 「ならアイツはアタシにやらせろ。このままやられっぱなしで終われるかよ!」

 

 『では、アバンギャルドは私達が対処しましょう。戦力を分散することができれば、それだけ侵攻も楽になるはずです。』

 

 「エリドゥのソフトは私達で解析する。上手くいけば、AMASを味方に付けるくらいは出来るかも。」

 

 「あのリオ会長との、真っ向勝負……。」

 

 「行ける行ける!なんたって、あたし達は天下のヴェリタスだもん!」

 

 「マキは変わらないですね……。」

 

 「フフッ。それでこそ、私の可愛い後輩たちです。」

 

 システム面はヴェリタスとヒマリが遠隔で対応するようだ。こちらの手が空いたら、エアにも手伝わせておこう。

 残りのエンジニア部とゲーム開発部が、先生に同行する後発隊。そして、真っ先にタワーにたどり着くであろう部隊である。

 もう指揮官である先生が前線に出るなというツッコミはしない事にした。

 

 「よし、全体をまとめるぞ。」

 「まず、俺とエアがヘリを使って低空で突入。可能な限り暴れまわって、リオの注意を引く。C&Cは、タイミングを見て、俺達の反対側から仕掛けろ。戦力を分散させる。」

 「シャーレ、お前は戦力が薄くなった頃合いを見て突入だ。ヴェリタスは警戒システムの解除を忘れるなよ。」

 「シャーレ突入後は、主力であるアバンギャルドと飛鳥馬トキを、俺とC&Cで対処する。それが終わり次第合流し、全勢力でタワーへ突入。アリスを確保して離脱する。」

 「シャーレ、セミナー。それでいいな?」

 

 『はい!皆さん、アリスちゃんをお願いします!』

 

 ”大丈夫だよ。早速準備しよう!”

 

 「ああ、そうだ。セミナー、1つ確認したい。」

 

 『えっ?何ですか?』

 

 「リオの処遇だ。タワーに突入したら、奴と鉢合わせる可能性が高い。その時はどうする?」

 

 『もちろん、無事に連れ戻してください!リオ会長には聞かなきゃいけない事とか、お説教しなきゃいけない事がたくさんありますから!』

 

 『ユウカちゃん、口ではこう言ってますけど、本当は会長に無事に帰ってきて欲しいだけですよ。』

 

 『ノア!』

 

 「……分かった。出来るだけ、無傷で連れ戻す。」

 

 『……レイヴンさん、よろしくお願いします!』

 

 条件は追加されたが、大した問題じゃない。

 あの依頼のブリーフィングからして、アリスを置いて逃げ出すような考えはしていないだろう。

 アリスにたどり着こうとする限り、確実にリオの前に立つことになるはずだ。

 そいつに拳骨を1発喰らわせてから、アリスと一緒に連れ戻せばいい。

 

 ”それじゃあ、30分後にエリドゥに向かおう。準備を始めて!必要なものがあったら私に言って!”

 

 「待てシャーレ。」

 

 ”――ッ!どうしたの?”

 

 先生の肩を掴んで引き留める。

 今俺がシャーレに聞きたいことは、ただ1つ。

 

 「答えは出せたか?」

 

 ”……うん。”

 

 ”……やっぱり私は、選べないよ。私は、誰も傷つかない、傷つく必要のない、3つ目の選択肢を探したい。”

 

 「……それで、2人とも死んだとしてもか?」

 

 ”……もしそうなったら、それは私の責任であり、私の罪。”

 ”それでも私は、みんなが笑顔になれる可能性を、探すよ。”

 

 そいつの目は、確かに決意が満ちていた。

 きっと、その選択肢が自分と引き換えだったとしても、こいつは躊躇なく選ぶだろう。

 存外、狂った奴だったようだな。

 

 「……そうか。なら好きにしろ。俺もそうする。」

 

 シャーレから離れてストーカーに向かう。

 建物から出て空を見上げると、予報外れの分厚い雲は、すっかり晴れていた。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 事前の作戦通り、エリドゥに向けて飛行するストーカー。

 まもなくエリドゥ上空に入ろうとしている。

 コックピットのガラス越しに、エリドゥを見下ろす。

 

 『要塞都市とは聞いていましたが、これは……。』

 

 「なんて規模だ……。想像以上だな……。」

 

 『この規模の都市を設計するだけでも、尋常ではない労力が必要です。一体、何がリオを、ここまで……。』

 『――ッ!レイヴン、リオから通信です!』

 

 『……どうして貴女がそこに居るのかしら、レイヴン。先生達にいくら積まれたの?それとも、この破壊兵器に絆されたのかしら。』

 

 「今でもバカな選択をしたとは思ってる。だが、仕事が終わった後を考えると、こっちの方が笑えそうでな。」

 

 『笑える……?どういう事?』

 

 「古い友人のモットーだ。《生きてるなら笑え》、だとな。聞いたときは分からなかったが、今なら分かる。」

 「悪いな、リオ。お前の選択は、笑えないんだ。」

 

 『そう……。残念よ、レイヴン。貴女なら、私の考えを理解すると思っていたのだけれど。』

 『あなた達が私をどう思おうと、私は、私の使命を果たすわ。』

 

 話を終えた瞬間、機内に響く警告音。

 ブザーパターンから、ロックオンされていることが分かる。

 

 『――ッ!レーダーロックオン!対空砲火、来ます!』

 

 「高度を落として全速で突入しろ!小細工は抜きだ!」

 

 指示を出した瞬間、ほぼ垂直に降下するストーカー。

 しばらく機内に風切り音が響いた後、ビルの間の道路スレスレで姿勢を取り戻し、タワーへと向けて飛んでいく。

 だが、その手前のビルから大量の小さなシルエットが、道を塞ぐように出てくる。

 

 『前方に多数のAMAS!このまま突っ込みます!』

 

 「それでいい!高度を維持しろ!直接降下する!」

 

 機体後部のハッチすれすれに立ってから、ブースターを後ろへ軽く吹かして地上へと降りる。

 それと同時に、ストーカーはフレアとチャフを大量に撒きながら高度を上げていく。

 ブースターを吹かして減速し、ダウンウォッシュによって視界が開けると、目の前には大量のAMASが待ち構えていた。

 バイザーを下ろし、戦闘モードを起動する。

 

 『ストーカー、作戦領域外へ離脱します!』

 

 「さあ、調月リオ。」

 「お前の選択、楽しませてもらおうか。」

 

 どちらの選択が正しいかは、力で決めようじゃないか。




多すぎる
 登場人物が
  多すぎる
登場機会の
 均等化無理
    ――投稿者――

あくまでもうちのレイヴンの選択だという事を忘れないでくださいね。
もし「レイヴンはこんな選択しねぇ!!!」と思われた人が居たら、あなたも二次創作に手を出しましょう。
妄想を形にするのは!!!楽しいぞ!!!だからこっちに来い!!!

次回
天童アリス救出
『生死の去来するは棚頭の傀儡たり一線断ゆる時落落磊磊。』

次回も気長にお待ちくださいませ……。
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