BLUE ARCHIVE -SONG OF CORAL-   作:Soburero

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パヴァーヌ編、いよいよ大詰めです。
後1、2話くらいで〆られると思います。
今回登場人物が同時にたくさん出て来るから書くのが大変だった(小並感)
難しい、でも楽しい、けど難しい。ウゴゴ……。


22.被造物の宿命

 エンジニア部のハンガーに、レイヴンのパワードアーマー、ナイトフォールと、それをいじっている生徒、ウタハが1人。

 ナイトフォールは装甲や武装が外されており、フレームや内装がむき出しになっている。

 足元には形や大きさが様々な部品が転がっているが、そのどれもが、黒く染まっていたり、酷く歪んでいるものばかりである。

 

 「ハァ~……。なあレイヴン、一体何をどうやったら、ナイトフォールがここまでボロボロになるんだい?」

 

 ミサトの横で検診を受けている俺に対し、ウタハは怪訝な顔で尋ねる。

 頑丈に作ったという自負はあったらしいが、ナイトフォールにかけていた負担は、彼女の想定を超えていたようだ。

 オーバーホールのためここに持ち込んだ時も、ナイトフォールを一目見た瞬間、友人との再会を喜んでいた笑顔が、自分の作品を滅茶苦茶にした仇を見る顔になった。

 あの顔はしばらく忘れられそうにない。

 

 「それは俺と戦った奴らに言え。」

 

 「そうかい?フレームは衝撃と負荷でガタガタ、装甲も大半が歪んでるし、モーターやブースターは黒焦げ、CPUには各所のリミッターを外したっていう記録が残っている。」

 「ナイトフォールにここまで無茶をさせたのは、君と戦った奴らが原因だと?」

 

 『まあ、大軍と単騎で戦う事が、私達の常ですから。多少の無茶は許してください。』

 

 「何だ?お前なら直せると思っていたんだが。」

 

 「いや直せるよ?直せるが、その……。もう少し大事に使おうって気は無いのかい?」

 

 煤で汚れた顔をこちらに向けてそう問いかけるウタハ。

 俺としては大事に使っているつもりなのだが、やはり考え方が違うようだ。

 俺が整備をしていなかったら、こいつの損傷はもっと酷いものになっていたはずだ。

 無茶をさせている自覚はあるし、何より事実なのだが。

 

 「まあまあ、それで戦ってる以上傷が付くのはしょうがないでしょ。まっ、ちょっと傷つき方がおかしい気はするけど。」

 

 「最近だと、暴走トラックを止めるために真正面からぶつかったんだろう?そんな使い方、私達は想定していないよ……。」

 

 「悪かった。これからもっと酷使する予定だから、しっかり直してくれ。」

 

 「全く君という奴は……!ハァ……。」

 「分かっているよ。マイスターとして、しっかり直すさ。いっそ、次のオーバーホールで改修するのも良いだろうね。」

 

 改修。その言葉に一瞬悪い予感がよぎる。

 どんな機能をつけ足そうとしているのかは知らないが、少なくとも仕様をハッキリさせておいた方が良いことは間違いない。

 

 「それにしても、ソレと一緒にあんたの体も酷使してるんでしょ?見てる感じ、あんたには全く異常が無いのも不思議なのよね。」

 

 俺の横でパソコンのような機材を触りながら言葉をかけるミサト。

 忘れがちだが、ナイトフォールは機動性による負荷や複雑な制御によるストレスを、全てパイロットに押し付けるという、兵器としてはかなり重大な欠陥を抱えているのだ。

 ミサトもそれを分かっているからこその言葉だろう。

 

 「それは俺も分からん。そういう調整でもされてるんじゃないか?」

 

 「ふ~ん、調整ね……。それ、デバイスと関係ありそうね。少し調べても良い?」

 

 『それはやめてください。レイヴンにどんな影響があるのか分かりませんから。』

 

 「まあそうよね。それじゃ、代わりと言っては何だけど。」

 

 そう言ってミサトが取り出したのは、腕時計のような何か。

 ベルトは手首はおろか、腕をぐるりと1周できるような長さ。

 皿の中央には穴が開いている。

 

 「……それは?」

 

 「大丈夫よ、ちょっと血が欲しいだけだから。」

 「……やっぱり注射は苦手?」

 

 ニヤニヤしながらこちらに何かを近づけて来る。

 それを遮るようにエアが質問を返した。

 

 『あの、何故レイヴンの血が必要なんですか?目的次第では提供できませんよ。』

 

 「大丈夫、ただ解析したいだけ。あんたの血液成分とDNAの異常を調べるのよ。あんたのそのG耐性、もしかしたら、エイリアンの血が混じってるせいかもしれないからね。」

 

 エイリアン(異星人)。あながち嘘とも言い切れない。

 強化手術でどこまで“改良”されているのかは分からないが、もし何か変なものが見つかってこいつが詰めてきたら、事故のせい、という事にしておこう。

 事実1度はそれで誤魔化せた。

 

 「……見返りは?」

 

 「今回の診療が安くなるわね。欲しいなら処方箋も書くわよ?」

 

 「……良いだろう、好きにやれ。」

 

 「はい、ありがと。それじゃあ、100ml貰うから、そのまま楽にしてて。」

 

 ミサトはそう言うと、椅子に繋げていた機材を横に動かし、採決の道具と思われる物が並んだトレイを引き出した。

 テキパキと準備を進めるミサトだが、椅子の裏に道具を準備していたことを考えると、初めから血を貰うつもりだったのだろう。

 どうも研究者というのは、自分の知的好奇心に勝てないらしい。

 

 『100mlも?少し多くありませんか?』

 

 「あ~、ただ解析するだけならそんなに要らないんだけど、私の実験にも使いたいって気持ちがあって……。」

 

 『……ミサト、あなたの専門はクローニング技術でしょう?レイヴンのクローンを作るわけではありませんよね。』

 

 「おい初耳だぞ。」

 

 もし俺のクローンが出まわったら、キヴォトス中が混乱するなんて事態では済まない。

 戦闘力が再現されているとなれば猶更需要が見込めるだろう。

 というかエア、知っていたのなら早く教えろ。

 

 「違う違う!人工血液の製造にクローニング技術が使えないかって考えてるだけ!そのサンプルとして貰うだけだから!」

 

 『本当でしょうね……?』

 

 「ホントホント!ね~信じて~!お願い~!」

 

 そう言いながら両手を合わせてお辞儀をするミサト。

 その様子を見てるとなんだか気が抜けてしまう。

 悪用することがあっても、俺が潰せばいいだけの話だ。

 

 「……分かった、信じる。妙なことはするなよ。」

 

 「良かった~!ありがと!それじゃあ、そのまま楽にして。」

 

 手袋をはめて準備を進めるミサト。

 アルコールでかぶれたことは無いか、採血で気分が悪くなったことは無いかなど、色々と聞かれながら腕にバンドを巻き付けられる。

 バンドの皿の部分に、注射器を短くしたようなものを取り付けると、僅かな間の後に、ごく小さな針が皮膚を貫く。

 緑のランプが準備が整ったことをミサトに伝え、ミサトは筒状のガラスを、腕から伸びている注射器の中に差し込んだ。

 カチリと押し込まれると、筒の中にごくゆっくりと血が満たされていく。

 

 「……それで?どうしてクローニング技術を学ぼうと思ったんだ?」

 

 興味本位で質問を飛ばす。

 クローンはルビコンでも使われては居なかった。少なくとも、俺が知る範囲では。

 命の倫理感が死んでいたルビコンですらそうだったのだ。

 このキヴォトスで大々的に研究を続けるのは簡単じゃないだろう。

 ミサトは少し驚いた後、何処か寂しそうな顔をしながら、ゆっくりと語り始めた。

 

 「ん~……。まあ、そんな大した話じゃないのよ。」

 「私のおばあちゃん、病気で亡くなってるんだけど、その病気が、臓器移植じゃないと治らないものだったのよ。」

 「しかも、おばあちゃんの体質は珍しいものだったし、その臓器も、脳死した者からでなければ提供できない場所だった。」

 「おばあちゃんはどんどん弱っていくのに、ドナーは中々見つからなかった。で、他に解決策が見つかるわけもなく、そのまま……。」

 「後になって、その病気がありふれている事。おばあちゃんみたいに、適切なドナーが見つからなくて、ほとんどの人がそのまま亡くなってる事を知ったの。」

 「それで、こう考えたのよ。」

 「誰かの臓器がダメなら、自分の臓器を移植すればいいって。」

 

 『……そのための、クローニング技術、という事ですか。』

 

 「そっ。だから私は、医療用のクローニング技術を研究してる。何より、こうやって患者さんと話をするのは楽しいからね。」

 「ただ、やっぱり問題も多いわね。技術的、運用的問題もそうだけど、やっぱり倫理的問題が1番手ごわいわね。そのせいで予算下りなかったりするし。」

 「今の技術だと、臓器単位よりもクローン1体作る方が簡単なんだけど、それやるとスワンプマンのパラドックス*1に引っ掛かっちゃうのよね。だから今は培養段階の安定性を――。」

 

 「待て待て落ち着け。そこまで聞いてない。」

 

 注射が刺さっていない方の手を振りながらいさめる。

 最後のあたり、ヘリアンサスよろしく、かなりの勢いで口が回っていた。

 やっぱりこいつも研究者らしい。

 正気に戻ったミサトは、血で満たされたガラス筒を外し、腕に巻き付けられた道具を手早く片づけていく。

 

 「――そうだったわね、ごめんなさい、つい。」

 「……はい、これでおしまい。注射打ったところが赤黒くなったり、ジンジンしてきたら教えて。」

 

 消毒を済ませ絆創膏が張られた右腕を、ジャケットの袖で覆い隠す。

 椅子から立ち上がりウタハの元へ近づくと、引き渡しの時と変わらぬ姿のナイトフォールがそこにはあった。

 

 「ウタハ、どうだ。」

 

 「ああ、終わったよ。注文通り、新品同様さ。」

 

 ウタハの足元には大量の部品が転がっている。

 どうも新造した方が早かったらしい。

 それでも元通りに直してくれたのだから、頭が下がる思いだ。

 これでロマンを求めなければ、本当に良い技術屋なのだが。

 

 『やはりいい腕ですね。ありがとうございます、ウタハ。』

 

 「感謝の気持ちがあるなら、ナイトフォールも気遣ってあげてくれ。」

 

 「覚えておくが、約束は出来んな。」

 

 「だろうね……。」

 

 「それで?この後は何するの?また仕事?」

 

 道具の片づけが済んだのか、ミサトがこちらに近づいてきた。

 なんてことはない世間話が続く。

 

 「いや、しばらくは休暇だ。ストーカーに積んでいる物資が無くなりそうでな。」

 

 『この機会ですし、旅行に行くのはどうでしょうか?百鬼夜行に良い温泉宿があるそうですよ。』

 

 「おお、良いじゃないか!私もエンジニア部のみんなでカラオケに行こうかな。」

 

 「は~2人とも羨ましい。私はこれからラボに缶詰……。」

 

 「それが研究者の本分だろう?」

 

 「そうなんだけど、最近は中々休みが取れないのよ~……。う~リフレッシュしたい~。」

 

 そう言いながら、大きく伸びをするミサト。

 やりたい事はやれているが、それはそれとして不満もある。

 人間、思う事はそう変わらないらしい。

 

 「MRaDも大変だね。自分たちの研究に、怪我人の手当てに……。」

 

 「ホンット大変よ。どこかのエンジニア部の常連さんも居るしね。」

 

 「……いつも感謝しているよ、ミサト。」

 

 ミサトに睨まれたウタハが、しおしおと縮こまってしまった。

 どうやら相当世話になっているらしい。

 ロマンを求めて妙な物ばかり作っていれば、当然と言えば当然なのだが。

 

 「感謝の気持ちがあるなら、機械は暴走したり爆発したりしないように作りなさい。」

 

 「覚えておくよ、約束はできないけど……。」

 

 「……2人とも、仲がいいな。」

 

 『喧嘩するほど仲がいい、って事でしょうか?』

 

 「まあ、腐れ縁って――。」

 

 ドォォン!

 

 「――ッ!何だ!?」

 

 衝撃と爆発音。

 身に伝わる感覚から、爆心地がかなり近い場所である事を瞬時に理解する。

 

 「また他の部活がやらかしたのかしら?」

 

 ミレニアムで爆発事故は珍しいものでもない。

 筆頭がエンジニア部、他の部活も色々とやらかしているため、ミレニアムの生徒や周辺の住民も慣れているのだ。

 

 ドォォン!

 

 「2回目!?一体何なのよ!」

 

 ただ、2回連続の爆発はそう簡単に起きることではない。

 この爆発音、どこかで聞いたことがある。

 俺は記憶の引き出しを片っ端から抜き取って、音の持ち主を探し始める。

 

 「……いいやまさか、そんな……!」

 

 『……ウタハ、何か知っているなら教えてください。』

 

 「……この音は爆発じゃない、スーパーノヴァの音だ!」

 

 スーパーノヴァ、アリスが抱えていた、大型のレールキャノン。

 その砲声が聞こえるという事は、アリスがそれを使わざるを得ない状況に居る、という事。

 この場に居る全員が、同じ結論にたどり着いた。

 

 「……アリスちゃんが危ない!」

 

 「レイヴン、私から依頼を出す!アリスを助けてあげてくれ!報酬はセミナーから!」

 

 「良いだろう、引き受ける。」

 

 『レイヴン、ナイトフォールを使いましょう。生身でスーパーノヴァが直撃すれば、ダメージは避けられません。』

 

 「了解だ、行くぞ!」

 

 ウタハがナイトフォールの足元から部品を乱暴にどかし、俺は開いた背中からナイトフォールに飛び乗る。

 両腕と頭を差し込んで、メインシステムを直接戦闘モードで起動させる。

 その間に、ミサトも道具の片づけを済ませ、ハンガーの入り口で声を上げる。

 

 「私は医務室の準備してくる!怪我人は片っ端から連れてきて!」

 

 「分かった!私もドローンを出す!囮程度にはなるはずだ。」

 

 「レイヴン!アリスちゃんを頼んだわよ!」

 

 「ああ、任せろ。」

 

 ナイトフォールの足元からウタハが離れ、別の場所へと向かっていく。

 各所のチェックを飛ばし、デバイスに強引に接続して制御権をむしり取る。

 開かれたシャッターに向けて走り出し、外に出た瞬間、アサルトブーストで空へ飛びあがる。

 今にも雨が降り出しそうな、鉛色の空へと向かって。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 瓦礫と崩れた部屋、サーバーやパソコンの残骸、空の薬莢やマガジンが散らばる戦場。

 先生は生徒達を守るため、指揮を執っていた。

 その先生達の前に立っていたのは、アリスだった。

 

 『アリスちゃん!お願い、落ち着いて!』

 

 『お姉ちゃん、しっかりして!お姉ちゃんっ!』

 

 『先生、マズいです!私達だけでは……!』

 

 『”……どうすれば……!”』

 

 上空から見ても様子がおかしい。

 まず、アリスが先生たちに敵対している事。

 そのアリスの周りでは、ボールからタコのような手足が伸びているような見た目の何かが、アリスを守る様に動いている事。

 先生側の人員は、明らかに非戦闘員である事。

 自身の経験から外れたことではあるが、やることは変わらない。

 

 「こちらレイヴン、状況を説明しろ。何が起きている。」

 

 『”――ッ!レイヴン、アリスが変なロボットと一緒に暴れだしたんだ!あの子を抑えるのを手伝って!”』

 

 「了解した。戦闘に参加する。」

 

 『”ありがとう!みんな、レイヴンが来てくれたよ!”』

 

 『レイヴン!?レイヴンって、あの傭兵のレイヴン!?何でいるの!?』

 

 「説明は後だ。まずはアリスを取り押さえるぞ。」

 

 推力を引き上げて急降下、先生達とアリスの間に割り込むように着地。

 全てのブースターを稼働させて急停止させる。

 姿勢を整えてアリスと向き合うが、その瞬間、見知らぬ人間を前にした時のような、言いようのない感覚が襲ってくる。

 俺はアリスを知っている。だから、こんな感覚がすることは本来ありえない。

 

 「……何だ、この違和感は……。」

 

 『……以前とは異なる思考パターンを感じます。アレは、アリスではありません。』

 

 “それ”は俺を、俺達をじっと見つめる。

 アリスのそれとは異なる、紫色の瞳で。

 

 「……優先排除対象、強化人間C4-621を確認。」

 

 “それ”は、俺の“本名”を呼んだ。

 

 「オペレーション、パターンBに移行。」

 

 それが何者なのかは分からないが、これだけはハッキリと感じた。

 

 「対象を、排除します。」

 

 これは、俺達を殺す気だ。

 

 警告、前方、砲撃。

 スーパーノヴァの砲口が俺に向けられた。

 横にクイックブーストすることで狙いを逸らそうとするが、放たれた砲弾は左腕の太陽守をかすめる。

 アリスの周囲を回りながらガトリングで銃弾を浴びせるが、スーパーノヴァを盾代わりにすることでほとんどが防がれる。

 アリスからの2発目を上空に飛び上がって回避。

 ガトリングで牽制しつつMORLEYを撃ち込むも、着弾の直前でタコがアリスを庇うように立ちふさがり、タコはそのまま大破。

 アリス自身は無傷だった。

 

 「ロボット達の狙いが、変わった……!?」

 

 「アリスちゃんも、ロボットも、レイヴンさんを狙ってる……!」

 

 ”……優先排除対象、強化人間……。”

 ”レイヴン、君は一体……。”

 

 周りのタコをロックオンし、ミサイルを放とうとした瞬間に警告。

 右から左へとクイックブーストすることで急制動、3発目は空を切り、後ろの倉庫へと着弾した。

 間髪入れずに突撃し、ミサイルとガトリングでアリスの回避を封じつつ急接近。

 俺を止めるために突っ込んできたタコを左腕で振り払い、軽く飛び上がってドロップキック。

 スーパーノヴァで受け止められたものの、衝撃で大きく後退。スーパーノヴァを地面へ突き立てて減速しようとする。

 アリスの姿勢が整う前に太陽守で追撃することで、ようやく直撃した。

 だが、ダメージを受けた本人はそれを気にする素振りを見せない。

 そも硬すぎて半端な攻撃が通らないのか。

 ブーストで後退しながら、MORLEYの弾頭を焼夷弾へと切り替える。

 

 「オイ先生ェ!何ボーっとしてんだ!」

 

 ”――ッ!ネル、来てくれたの!”

 

 「私達も居るよ!」

 

 ”ありがとう、助かるよ!”

 

 C&C4名の合流によって戦力は多少マシになった。

 だが、今のアリスは俺以外を狙おうとしないため、事実上の1対1である事には変わりない。

 事実、“それ”は先生達に見向きもしない。

 

 ”ネル、レイヴンと一緒にアリスを抑えて!他の皆はロボットを!”

 

 「任せろ!」

 

 「お任せください、ご主人様。」

 

 「戦闘は苦手ですけど、やるしかないですよね……!」

 

 「お願いアリスちゃん、もうやめて……!」

 

 先生の指揮を取り戻した一行からの援護射撃。

 無数の鉛玉によって残った3機のタコの内、2機がダウン。

 残りの1機もカリンの狙撃によって大破した。

 

 「随伴機、ロスト。サブルーチン106を試行。」

 

 突如アリスが走り出す。

 俺から一定の距離を取りながら、俺の周りをまわる様に。

 後退しようとブースターを吹かした瞬間、地面に突き立てられたスーパーノヴァが、瓦礫をすくい上げ飛ばして来る。

 システムに干渉し、稼働限界と誤認させてターミナルアーマーを発動させ被弾を回避。

 瓦礫を目くらましにするかのようにスーパーノヴァを向けて来るが、アーマーを持続させながら前進することでこれを無視。

 それを察したのかアリスは射撃を止め、大きく後退し始めた。

 

 「チッ!ちっとはこっち向けチビ!!」

 

 ネルが大きく接近しながら両手のサブマシンガンで攻撃を加え続けているが、アリスは意に介そうともしない。

 ただひたすらに、俺だけを見据え、俺だけを殺そうとしている。

 もういい、それなら。

 俺もその殺意に、応えるまでだ。

 

 MORLEYの弾頭に時限信管をセット。

 アリスの頭から僅かに上を狙い、砲弾を放つ。

 アリスの頭上をかすめようとした時、信管が作動。破裂した弾頭が焼夷剤をまき散らす。

 アリスはスーパーノヴァを横に大きく振り、焼夷剤を払おうとする。

 全ての防御が崩れたその瞬間、ナイトフォールの足が、アリスへと向けて振りぬかれる。

 蹴りはアリスへ吸い込まれるように直撃し、小さな体を大きく吹き飛ばす。

 1度地面に叩きつけられたが、すぐにスーパーノヴァを軸にして空中で回転。

 地面へと突き立てて減速しようとするが、2発目の榴弾を叩き込んで復帰を阻止。

 すかさず上空へ飛び上がり、ブースターの推力を限界以上に引き上げて、アリスに向けて急降下。

 踏みつけた時の衝撃波によって、榴弾の煙が一気にはれる。

 “それ”は、踏みつけの直撃をスーパーノヴァを盾にすることで防いでいた。致命傷を避けたつもりなのだろう。

 だが俺が欲しかったのは、この状況そのものだ。

 

 『――ッ!ネル、下がってください!』

 

 「アァ!?何で――。」

 

 『いいから下がって!!』

 

 ブースターを空に向けて吹かすことで、アリスごとナイトフォールを地面へと押し付け抵抗を封じる。

 背中のヒートシンクを展開し、アサルトアーマーの攻撃範囲を極短距離へとセット。

 ヘイローアンプの出力リミッターを解放して、コーラル密度を限界以上に引き上げる。

 ナイトフォールの全身に仕込まれた廃熱機構も白熱し、コーラルが漏れ出している。

 レイヴンの周りの空間にコーラルが漂い始め、バチバチとスパークする。

 そして、赤い光は悲鳴のような声と共に、爆発として解き放たれた。

 

 強烈な光が収まった後、その爆心地に居たのは、全身の装甲が浸食され、細くなってしまったナイトフォール。

 そして、そのナイトフォールに踏みつけられている、顔が焼けてしまったアリス。

 それでもなお、互いの後頭部にはヘイローが灯っている。

 四角形が連なったそれはノイズ混じりで消えかけ、ブラックホールを中心に赤い輪を連ねたそれは、未だバチバチと光を放っていた。

 まず先に動いたのは、俺の方だった。

 ゆっくりとアリスから足を離し、使い物にならなくなった太陽守をパージする。

 スーパーノヴァを持ち上げて、左手で握る。

 そして、再びアリスを渾身の力で踏みつけた。

 

 「……プロトコル……。」

 「……不能。」

 

 スーパーノヴァの制御を奪い、残っていた全エネルギーを銃身部へと集中させる。

 それに応えるように銃身が展開された瞬間、砲口をアリスの顔面へと叩きつける。

 既に充電率は100%を超えていた。

 

 「人のまま死ね……!」

 

 ”レイヴン、ダメッ!!!”

 

 先生の懇願は、俺の耳に届いてすらいない。

 “これ”を完全に殺すために、スーパーノヴァの引き金を引こうとした瞬間。

 突如、ナイトフォールからのフィードバックが完全に消えた。

 視界が暗闇に包まれ、身を守っていた鎧は、動きを封じる拘束具と化した。

 自分の第2の体だったはずのそれが、唐突に動きを止めたのだ。

 

 「――ッ!?何だ、何が起きた!?」

 

 『パワーダウン!?原因不明です!』

 

 「……さすがに見過ごせないよ、レイヴン。」

 

 後ろから聞こえる、ウタハの沈むような声。

 これの設計者はエアだが、作ったのは、ウタハを部長とするエンジニア部だ。

 俺は各校の治安維持機関から脅威とみなされている事から、恐らくはセミナーからの引き渡しの条件として、専用の対抗策が要求されたのだろう。

 そして、機械の動作を外部から強制的に停止させる、確実な方法が1つある。

 

 「……キルスイッチだとッ……!?何のつもりだ、ウタハァ!!」

 

 「それは私のセリフだよ!君には、アリスを助けてくれと頼んだんだ!殺せとは一言も言ってない!」

 

 「機械が暴走したらその時点で敵だ!それとも、この個体をこのまま放っておくつもりか!」

 

 ”レイヴン、その子はただの機械じゃない。このミレニアムの生徒であり、みんなの友達だよ。”

 

 「ならバックアップをスペアに移してやり直せばいいだろうが!お前達の技術力でそんなに難しい事か!?」

 

 暗闇の中で叫び続ける。

 外からの刺激は、先生の諭すような声と、こちらに近づいてくる足音が、いくつか聞こえるばかり。

 だが、ウタハからの提案と共に、声と足音は静まった。

 

 「……レイヴン、君はまさか……。」

 「レイヴン、今後の対策を練るためにも、アリスを回収したい。君がアリスを破壊しないのであれば、キルスイッチを戻そう。」

 

 「…………分かった。早く復旧させろ。」

 

 ため息の後にそう言うと、1つの足音が俺の後ろへと回り込む。

 背中に伝わる僅かな振動が少し続いた後、まずヘイローアンプが起動。

 メインシステムが復旧したことで、再びナイトフォールと一体になる。

 アリスから足を離し、左手に握っていたスーパーノヴァを、地面へと勢いよく突き立てる。

 

 ”レイヴン……。少し、みんなと話そう。”

 

 恐怖、怒り、困惑。

 先生達の表情は様々だが、1つ共通点があった。

 人ならざる者、怪物を見ている時の顔だった。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 先生が椅子に座り、机を挟んで正面の椅子に俺が座る。

 残りの生徒、ヴェリタスの3人、C&Cの4人、ゲーム開発部のミドリとユズ。

 そして、現場に駆けつけてきたウタハが、俺達2人を取り囲むように座っている。

 

 「まず1つ目、アレは何だ。」

 

 「……私達が、ゲーム開発部を廃部にしたくなくて、色々やってた時に、“遺跡”から連れてきた子です。」

 

 「そう、アリスは旧世代の遺物、オーパーツなんだよ。君は、ミレニアム製のアンドロイドだと思っていたようだがね。」

 「アリスは、1点物。替えが効かないんだ。人と同じようにね。」

 

 ミドリがうつむいたまま質問に答え、ウタハがそれを補足する。

 すかさずエアが質問を投げつける。

 

 『それなら、何故アリスがミレニアムの生徒として登録されていたのですか?』

 

 「あ~、それは私達のせい。生徒名簿をちょこっと書き換えて、ね。」

 

 伏し目がちに手を挙げたのは、ヴェリタスの小塗マキ。

 眉間にしわが寄るのを感じながら、ゆっくりと目を向ける。

 

 「……理由は?」

 

 「……面白そうだったから、つい。」

 

 「それに、ゲーム開発部を見捨てるのは、気分のいいものではないので。自分たちの部活が無くなるのは、辛いですから。」

 

 「そうそう!だよね、ハレ先輩!」

 

 つまり、マキ個人ではなく、ヴェリタス全員がアリスの身分証の偽造に関与していた、という事。

 製造元不明の戦闘用アンドロイドを、ただ人情で生徒として引き入れたのだ。

 愚かしさもここまでくるといっそ清々しい。

 

 『……あの戦闘の最中、アリスの行動パターンは以前から大きく変化していました。外部からの干渉を受けていたか、内部に仕込まれていたプログラムが作動したのだと思います。』

 『皆さんは、アリスの事を、どこまで知っているのですか?』

 

 「………………。」

 

 誰も質問に答えない。あるいは、答えられないのだろう。

 そも、アリスについて、何も知らないが故に。

 

 『……正体すら不明、という事ですか。』

 

 「ああ。辛うじて、戦闘用として作られたと推察できるくらいだね。」

 

 「……シャーレ、それを知っていたんだろう。何故野放しにしていた?」

 

 そう、今までの発言から、こいつが一部始終を知っていることは分かっている。

 生徒を守ると言いながら、実際は学校全体を危険に晒すようなことに平然と手を貸している。

 ただ子供だからと、救いようがない奴に情けをかけようとする。

 今回は一体何を考えていたのやら。

 

 ”……レイヴン、アリスは、ただのアンドロイドじゃない。心を持ち、自分で考えて、自分の足で歩いて行ける、人間なんだよ。”

 ”ゲーム開発部と一緒に、アリスを廃墟で見つけたあの時から、あの子は、私の生徒だよ。”

 ”私は、大人で先生、生徒を導く権利と義務がある。あの子の責任は、私が背負うよ。”

 

 「……答えになっていないな。」

 

 腰からリボルバーを引き抜き、先生に向けると同時に、4つの銃口も俺に向けられる。

 C&Cのメイドたちの銃口が。ネルに至っては銃口をゴリゴリと頭に押し付けて来る始末だ。

 

 「オイ、銃を下ろせ。」

 

 「噂は聞いている。“箱”が手元にある限り、お前は死ねないんだろう?」

 

 「聞こえてねぇのかよ!銃を下ろ――。」

 

 ”みんな、大丈夫。銃を下ろして。”

 

 「……ッ!クソッ!」

 

 C&C全員が、渋々といった様子で銃を下ろした。

 リボルバーの銃口は、未だ先生に向けられている。

 

 「もう一度聞くぞ。回答次第ではお前を撃つ。何故アレを野放しにしていた?」

 

 「テメェらばっか質問してんじゃねぇよ。お前、もしチビがただの生徒だったら、どうしてたんだ。」

 「遠慮なくブッ壊せるアンドロイドじゃなくて、生きてる人間だったら、どうするつもりだったんだよ!!」

 

 ”ネル!”

 

 襟首を掴み上げられ、ネルの怒り顔と至近距離で向き合う。

 だが、誰がどう考えどう動こうが、俺の答えは変わらない。

 右手に握ったリボルバーの銃口を、ネルの顎の下に押し付けながら口を開く。

 

 「殺す。少なくとも後悔させる。」

 

 「――は?」

 

 「1つ教えておく。戦いの本質は殺し合いだ。どちらかが死ぬまで終わることは無い。」

 「俺には分かる。アレは、俺達を殺そうとしていたんだ。なら俺は、そいつを殺すだけだ。生きていようが機械だろうが関係ない。」

 

 「……イカレてるよ、お前。」

 

 ネルの手が離れ、ゆっくりと後ずさりしていく。

 リボルバーを膝に下ろして言葉を続けた。

 

 「俺からすれば、イカレてるのはこの世界の方だ。俺にとって銃を抜くときは、相手を殺す時だ。相手が誰であろうとな。」

 

 ”……レイヴン、君の過去に何があったのかは分からないけど、ここでは誰も殺す必要なんかないんだよ。”

 

 「お前、生徒が殺されそうな時に、同じことが言えるのか?」

 

 ”――ッ!”

 

 今回の件、アリスという生徒が、その場にいた生徒を殺そうとしている。

 

 「そいつに銃を向けてる奴を殺すことでしかそいつを助けられない時、本当に同じことが言えるのか、シャーレ。」

 「銃を向けている奴が生徒だった時、本当に同じことを言うつもりか。」

 

 殺意の籠った銃弾が飛び交う中で、『生き延びたいが誰も殺したくない』などという甘えは通用しない。

 

 ”…………き、きっと、他に方法が――!”

 

 「無い。2つに1つだ。何かの間違いということも無い。」

 

 生き延びたくば、相手を殺すほかない。

 戦場とは、そういう場所だ。

 

 「選ぶんだ、シャーレ。お前は、どちらを殺す?」

 

 「そこまでですよ、レイヴンさん。」

 

 唐突に、部屋の入り口から声が届く。

 セミナーの会計、早瀬ユウカの姿がそこにはあった。

 恐らくは、セミナーとして今回の件の聞き取りをしようとしていたのだろう。

 ユウカは神妙な顔で言葉を続ける。

 

 「ミレニアムの治安維持に協力してくれたことは、感謝します。ですがあの子は、天童アリスは、ミレニアムの生徒名簿に登録されている、本校の正式な生徒です。」

 「本校の生徒に対する過剰防衛は、セミナーとして見過ごせません。」

 

 「……それで、どうするつもりだ?」

 

 「今日の所は、お引き取り下さい。そうすれば、今日のことは不問とします。」

 

 ユウカの言葉に従い、椅子から立ち上がってリボルバーを収める。

 未だうつむいている先生の後ろで、こう呟いた。

 

 「……シャーレ、次合う時までに、答えを出しておくことだ。」

 

 僅かに憎しみの籠った瞳を向けるユウカの横を通り過ぎ、ドアをくぐって部屋を出ていく。

 鉛のように重い空気の中で、言葉を発するものは誰もおらず、空から降り注ぐ大粒の雨が、窓を叩いていた。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 アリスの暴走から数日後。

 結局新造されたナイトフォールを整備しているレイヴンに、エアからの報告が入る。

 

 「……レイヴン、アリスに関する依頼が届きました。ですが問題が1つ。」

 

 「どうした?」

 

 「差出人が2人いるんです。1人は、シャーレの先生。もう1人は――。」

 「ミレニアムの生徒会長、調月リオです。」

 

 選択の時は、来たれり。

*1
自己同一性に対する思考実験。自分が消滅した瞬間に、以前の自分と全く同じ自分が生まれたら、それは本当に自分なのか、という問い。




ちょっとレイヴンと他の人物達との関係を露悪的にしすぎたかもしれぬ。
かと言って殺しがまず起きないキヴォトスで、人殺しと仲良くしろと言われてもなぁ……。
ヘイトコントロールって大変なのね……。

次回
ゲームオブスローンズ
王女よ、玉座と共にあれ

次回も気長にお待ちくださいませ……。
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