BLUE ARCHIVE -SONG OF CORAL-   作:Soburero

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いくらアイデアが出てこないからってこんな難産なことある???
という事でレイヴンの日常回です。
平和ではないです。まあキヴォトスだからね。


20.レイヴンのあり方

 夜の帳が降りたブラックマーケット。

 その一角にあるTim's Dinerにて。

 すっかりレイヴンのお気に入りとなったこの店で、ある生徒が店主と話し込んでいた。

 灰色の髪に、赤いヘイローを持つ生徒が。

 

 「――だから言ってやったんだ。その程度じゃ俺は倒せないってな。」

 

 「はいはい分かった。その辺にしとけ。そろそろ本物にブチ殺されるぞ。」

 

 「何言ってんだ?俺が本物のレイヴンだぞ。あの”黒い凶鳥”だ。」

 

 猟犬の象徴である犬の耳は無く、ヘイローは赤い1つの輪が浮いているだけ。

 髪は適当に染めたのか、ところどころ黒が混じっている。

 目は赤色だが、コーラルの色ではないし、虹彩の端に紫色の輪郭がある。

 勝気な表情で“自身”の功績を語るそいつを、俺は窓を1枚挟んだ場所から見ていた。

 それでレイヴンを名乗ろうとしているのが可笑しく思えてしまう。

 

 (いよいよニセモノが出てきたか。それだけ名前が売れてきたと考えるべきか?)

 

 (まあ、最近の仕事は規模が大きいものが多かったですからね。あなたの威を借りたいと考える者が居ても不思議じゃ無いでしょう。)

 (それにしても、あなたが本物のレイヴンと呼ばれる日が来るなんて、ルビコンでは考えもしませんでしたね。)

 

 (そもそもルビコンでも、俺がニセモノだって気づいてたのはブランチぐらいだろう。封鎖機構でさえ気づいてなかったぞ。)

 (とりあえず、あのニセモノには灸をすえておこう。”レイヴン”の名に傷がつくのは困る。)

 

 ダイナーに入ってニセモノの後ろを通り過ぎ、いつものカウンター席に腰掛ける。

 ニセモノの左隣の席だ。

 奴は俺が近づいたことに気づいていないのか、店主と話を続けている。

 だが店主の眉間にしわが寄っている。どうやら、随分こいつの話に付き合っていたらしい。

 流石に助け舟を出してやろう。

 

 「マスター、せっかく来たんだ。いつものを頼むよ。」

 

 「お前払う金があんのか?」

 

 「面白そうな話をしてるじゃないか。聞かせてくれ。」

 

 「おお!俺の話に興味があるのか!いいぜ、何から聞きたい?」

 

 そいつは俺の方に向き直ったが、どうも顔を見ていないらしく、声を掛けても気づかない始末だ。

 この状況がなんだか面白くなってきた。少しからかってやるとするか。

 

 「最近の仕事はどうだ?」

 

 「聞いて驚くなよ?カイザーの工場を叩き潰してきたんだ。それも、たった1人でな。」

 

 「工場は警備が多かっただろう。そいつらはどうした?」

 

 「決まってるだろ?全員薙ぎ倒したのさ!ショットガンを1発ぶち込めばイチコロさ。」

 

 リサーチはしているようだが、情報に穴があるようだ。

 いい加減なモノマネで騙せると思っているらしい。

 俺はニセモノ野郎の方を向くことなく質問を続ける。

 

 「生身で制圧したのか、大したものだな。それなら、オペレーターはどうしてる?」

 

 「アイツか。その時に雇ったきりだから知らないな。今頃どこかで遊んでるんじゃないか?」

 

 「名前も知らずに雇ったのか?随分リスキーなことをするな。」

 

 「傭兵ってのはそう言うもんだろ?ハイリスクハイリターンが鉄則だ!」

 

 「……俺が聞いた話だと、奴には専属のオペレーターがいるらしいが。」

 

 「えっ?デマじゃないか?そんな奴がいるなんて聞いて――ん゛んっ!いないけどな?」

 

 ボロが出始めた。両手を広げながら調子よく語っていたのが、一気に失速し始めた。

 奴は怪訝そうな目線をこちらに向けている。

 そろそろ、種明かしと行こうか。

 

 「いるんだよ、奴にはな。お前がレイヴンなら知ってるはずだ。そのオペレーターの名前をな。」

 

 「そ、それを聞いてどうする気だよ。俺は仕事仲間を売る気は無いぞ!」

 

 「それなら、これは答えられるだろ?奴が最近仕入れた”仕事道具”の名前を言ってみろ。」

 

 「それは、えっと……!さ、さっきから何なんだよアンタ!それとも、アンタが本物だって言いだすつもりか!?」

 

 「察しが良いな。」

 

 奴は立ち上がってこちらを指さしながら怒鳴りつける。

 それに応えるように立ち上がって、真正面からニセモノの顔を見つめた。

 焦りに満ちていた表情は、一瞬で恐怖の表情へと変わった。

 

 「いぃえ!?ほ、本物ォ!?!?」

 

 「言わんこっちゃない……。」

 

 「リサーチが杜撰だな。誰かを騙りたいなら、もっとよく調べることだ。」

 

 「えっ、あっ……!いや……!俺が本物のレイヴンだ!ニセモノはお前の方だろ!」

 

 どうやらこの期に及んでまだレイヴンだと名乗るつもりのようだ。

 俺にとってもレイヴンの名は借り物ではあるが、先代から勝ち取ったものでもある。

 いっそ、コイツに資格があるのか、確かめてみよう。

 一歩距離を詰めながら、ゆっくりと口を開く。

 

 「そうか。なら試してみるか?」

 

 「はっ?何をだよ!」

 

 「お前がレイヴンを名乗るにふさわしいかどうかだ。俺が負けたら、レイヴンの名は譲ってやる。」

 

 「――ッ!上等だ、やってやる!尤も、勝つのは俺だがな!」

 

 「そうか。なら避けてみろ。」

 

 「えっ――?」

 

 握りしめた右の手を、何の小細工も無く、ただニセモノ野郎の顔面に向けて突き出す。

 拳はそのまま顔面へと突き刺さり、押し出された頭に体が引っ張られていく。

 両足は地面から離れ、支えを失った体が拳のひねりを受けて錐もみ回転を始める。

 右腕が伸びきると拳から顔面が剥がれ、体はダイナーの窓に向けて直進。

 勢いそのまま窓を突き破り、反対の建物の壁に激突。

 潰れたカエルのような姿勢で張り付いたのち、その姿勢のまま地面にズルズルと滑り落ちていった。

 

 「これが避けられないようじゃ、お前にレイヴンを名乗る資格は無い。」

 

 何が起きるのか察していた客たちは、俺達の正面の延長線上から逸れていたため、巻き込まれた奴は居なかったようだ。

 ジャケットを羽織り直して、カウンター席に座る。

 すると、このダイナーの店主、ファットマンが笑いながらフィーカを差し出してきた。

 

 「ハハハッ。いいショーだったぞ。そら、サービスだ。」

 

 「悪いな、ファットマン。窓を割っちまった。修理代は出しておく。」

 

 「構わねぇよ。窓が割れるなんざいつもの事さ。保険も降りるだろうから、気にすんな。」

 

 「そうか。感謝する、ファットマン。それじゃあ、いつものを頼む。」

 

 「おう。ちょっと待ってな。」

 

 そう注文すると、ファットマンは店の奥に消えていった。

 フィーカを啜りながら料理を待っていると、エアから声がかかる。

 

 (レイヴン。彼女の話、少し気になることがありました。レイヴンを、”黒い凶鳥”と呼んでいましたね。)

 

 (俺にあだ名が付くとは思えん。奴が適当に名乗っただけじゃないのか?)

 

 (それが、そうでもなさそうなんです。少し調べただけでも、あなたの二つ名と思われる名称がいくつも出てきます。)

 (金で雇える最終兵器(リーサルウェポン)、七囚人の八人目、ブラックマーケットの最後の切り札(ワイルドカード)。そして――。)

 (黒い凶鳥。最近はこの呼び名が広まっているようですね。)

 

 (黒い凶鳥、か。大層な二つ名だ。)

 

 (どうも、この二つ名には由来がありそうです。今調べていますが……。)

 (……ありました。“外”の古い伝承のようですね。一緒に読んでみましょう、レイヴン。)

 

 エアがそう言うと、視界一杯に文章がズラリと広がる。

 文章量自体は、本1ページに収まってしまう程度の、伝承としては少なく感じるものだった。

 

 “かつて、人類を救おうとした神が居た。神は人類のために、新たな秩序を作ろうとした。”

 “だが、神が秩序を作らんとするたびに、人類の中からそれを邪魔するものが現れた。”

 “神は困惑した。故に神は邪魔者を排除しようとした。”

 “だがそれは、終ぞなされなかった。”

 “自らの意志で戦い、立ちふさがるものを焼き尽くし、神さえも黒く焼き尽くさんとする者。”

 “人々は、かの者達をこう呼んだ。”

 “黒い鳥と。”

 

 (……神が秩序を作ろうとする時、それは必ず現れる。)

 

 (……レイヴン、この伝承、まるで……。)

 

 (……ブランチの、前のレイヴンのあり方と同じだ。)

 

 (自らが信じる自由のために、立ちはだかる全てを黒く焼き尽くす……。ゆえに、“黒い鳥(レイヴン)”……。)

 

 (ブランチの連中、これを知っていたから、自由意志の象徴として、レイヴンと名乗っていたのかもしれんな。)

 

 (ありえなくはない、というのが恐ろしいところですね……。)

 (とにかく、黒い凶鳥の二つ名自体は、あなたの実力を証明するものとして広まっているようです。折角ですし、利用させてもらいましょう。)

 

 (同感だ。そうしよう。)

 

 「そら、いつものだ。」

 

 顎に手を当てて考え込んでいると、目の前にハンバーガーとポテトが乗った皿が差し出される。

 もちろんポテトは山盛り、バーガーは顔サイズの物が3つだ。

 ファットマンに軽く手を上げて礼を言い、熱々のポテトからつまみ始める。

 ここの料理はいい。味はそこそこだが量が多い。常に仕事で動き回ってる身としてはありがたい限りだ。

 出来たての料理に舌鼓を打っていると、またエアから声が掛かった。

 

 (……ん?レイヴン、先生から、というより、シャーレから依頼が届きました。)

 (明日、ブラックマーケットの実態調査を行うため、現地ガイド兼護衛として同行してほしい、とのことです。)

 

 届いたのは、ブリーフィングの無い簡単なメッセージ。

 詳しいことは現地に着いてから話す、という事だろう。

 普段であれば警戒するところだが、差出人の性格を考えれば、相手を騙すという考えすら無いだろう。

 

 (奴個人ではなく、シャーレとして、か。奴め、噂通り、余計な仕事を引き受けているようだな。)

 

 (あの人に関してはいつもの事でしょう。多分変える気は無いですよ。)

 

 (だろうな……。受けると連絡してくれ。準備しておく。)

 

 追加で俺以外の護衛を雇った方が良いと忠告しようかと思ったが、止めた。

 あの能天気な奴の事だ、君がいれば大丈夫だのなんだの抜かし始めるのが目に見えている。

 そんなことを考えつつ、久々の生身での仕事に備えるため、俺は目の前の巨大バーガーにかぶりつくのだった。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 適当な建物の壁に寄りかかりながら、クロノスのニュースフィードを眺める。

 トリニティにて権力争いと思われる不審な動き、ゲヘナは温泉開発部がインフラを破壊、ミレニアムでは実験に失敗して貴重な資材が消失。

 大方いつも通りのキヴォトスであることを実感しながら、時間を潰す。

 そうこうしていると先生の声が聞こえてきたので、フィードを指で弾いて消す。

 

 ”こんにちは、レイヴン。”

 

 「来たかシャーレ。で、隣の奴は?」

 

 白い髪と水色のヘイローに、一般的な白いセーラー服。

 身長や体格もごく普通。

 ここまでだったらただの生徒だと思うだろう。

 

 「初めまして。SRT特殊学園RABBIT小隊隊長、月雪ミヤコです。よろしくお願いします。」

 

 SMGに防弾チョッキ、腕を覆っているのは布状の防弾アーマーだろう。

 キヴォトスでもかなりの重装備だ。

 そして、SRT、連邦生徒会専属特殊作戦部隊。兵士としてはエリートに属する奴らの集まりだ。

 問題は、SRTは学校としては解体されている、という点なのだが、まあ今気にすることではないだろう。

 ミヤコは敬礼しながら、俺に向き合ってきた。

 

 「レイヴン、独立傭兵だ。よろしく頼む。」

 

 「レイヴン……。あなたの噂は聞いています。何処にも属さない、腕利きの傭兵だと。」

 

 「独立傭兵とはそういうものだ。それにしても、お前がSRTを連れて来るとはな?」

 

 ”今日はミヤコが当番だったからね。レイヴンとミヤコで顔を合わせておこうかなって思って連れてきたんだ。”

 

 「そういう事か。で、どこから始める?」

 

 ”ブラックマーケットと他の自治区の境目かな。そのあたりは、どうしても他の学校と衝突することになるから。”

 

 「RABBIT1、了解しました。行きましょう。」

 

 ミヤコと俺で先生を挟むようにして歩き出す。

 何も起きなければ楽な仕事なのだが、ここはキヴォトス。

 すぐに銃を抜けるようにしておこうか。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「先生。何故レイヴンさんを雇われたんですか?護衛でしたら、私1人でも十分ですよ?」

 

 ミヤコは歩きながら、先生に顔を向けて質問を飛ばす。

 こいつ、腕に自信があるのか自分1人でもいいと抜かしよる。

 ここがどこなのか忘れているようだな。

 

 ”まあ、ブラックマーケットについてなら、ミヤコよりレイヴンの方が詳しいからね。”

 

 「なるほど……。確かにその通りですね。」

 「それにしても、この一帯、変に静かですね。近くから銃声が聞こえてもおかしくないのですが。」

 

 『周りの人たちの様子を見れば分かると思いますよ、ミヤコ。』

 

 「――ッ!?今のは一体!?」

 

 エアの声に驚いたミヤコが、背負っていた銃に素早く手をかけた。

 流石に訓練は受けているらしい。

 

 「俺のオペレーターのエアだ。気にするな。」

 

 「はぁ、びっくりした……。居るなら初めに言ってください、エアさん。」

 

 そんなやり取りを尻目に、先生は辺りをキョロキョロと見まわす。

 先生の方を見てひそひそ話をする者。先生が近づくとそそくさと銃を片づける者。先生に近づこうとするものの首根っこを掴んで引き留める者。

 周りの状況を見て察したのか、表情がやや険しいものになっていく。

 

 ”……私達を、いや、レイヴンを避けてる?”

 

 『その通りです。この辺りじゃ、レイヴンの姿を見て喧嘩を仕掛ける人はいませんよ。』

 

 そう、アビドスの借金問題の解決。その道中で起こしたマーケットガードとの大規模戦闘。

 その様子はブラックマーケットはおろかキヴォトス中で話題になったのだ。

 その事件は、レイヴンは絶対に手を出してはいけない傭兵なのだと認識させるには十分すぎた。

 まあ最初の内は、その話をただの噂だと考えた連中が喧嘩を売ってきたこともあった。

 そういう奴らを1人ずつ潰していったら、そのうち仕掛けてくる奴は居なくなったが。

 ただ、物事には何事も例外がある。

 

 「おっ?シャーレのセンセーじゃんか!それにレイヴンと、ヴァルキューレか?」

 

 『……新参者と命知らず以外は。』

 

 6人組のヘルメットをかぶった集団が道を塞ぐように立ちふさがる。

 全員頭頂部にヘイローが浮かんでいるから、恐らく学校に居られなくなった不良生徒だろう。

 そいつらの発言が気に入らなかったのか、ミヤコの眉間に僅かにしわが寄った。

 

 「……私はヴァルキューレではありません。SRTです。」

 

 「SRTィ?もう解体されてんだろ、あの学校?ヴァルキューレに行ったんじゃないのかよ?」

 

 「確かに解体されています。ですが、私達がSRTの正義と誇りを捨てない限り、SRTは不滅です。」

 

 「あっそ。まあコイツのどうでもいい話は置いといて。」

 「今日はオマエに用があるんだわ、レイヴンさん。」

 

 「――ッ!先生、私の後ろに!」

 

 6人全員が俺に対して銃口を向けて来る。

 何が起きるのか察したミヤコが、先生を自分を盾にするように下がらせた。

 俺は銃を抜くことはせず、両腕を下げたままリーダーらしき生徒を見つめる。

 

 「……何の用だ?」

 

 「そんな難しい事じゃねえよ。ただ、アンタに掛かってる賞金が欲しいんだわ。」

 

 ”賞金……?レイヴン、どういう事?”

 

 『……ブラックマーケットには、独自の賞金システムがあるんです。掛かった賞金額の多さが、一種の強さの指標になっています。』

 

 ブラックマーケットの賞金システム、通称“ランクボード”。

 誰かの恨みを買った奴が賞金を懸けられることでボードに名前が載り、そいつを倒すとこで賞金が受け取れる。

 ただ、表のバウンティボードとは異なり、もし賞金首を倒して賞金を受け取った場合、受け取った賞金と同額の賞金が自分の首に懸かることになる。

 当然、賞金首が倒されればボードから名前が消されるため、賞金額が多ければ多いほど、名前が載っている時期が長いほど、自分は実力者だと喧伝することが出来る。

 今の俺は独立傭兵としてはトップクラスの賞金額だ。アビドスの件で仕掛けてきたのは、この賞金に目がくらんだ奴も多い。

 

 「そういう事!アタシら『ゴロゴロヘルメット団』がレイヴンに一泡吹かせたとくれば、アタシらの名声もうなぎ上りって寸法よ!」

 

 「……その人数でか?」

 

 「おっ?何々?ビビってんの?まーそりゃそうか!6人がかりなんて、アンタも経験したことないだろ!」

 「まぁ?アンタが?どーしても降参したいって言うなら?聞いてあげても良いけどなぁ?」

 

 6人組を確認する。銃こそ握っているが全員素人。

 戦闘経験が足りないから想定外に対応できないはず。

 

 「……30秒だ。」

 

 「は?」

 

 「30秒で片づける。」

 

 「――ッ!上と――。」

 

 まず真正面に居るリーダー格に急接近して飛び上がり、勢いが乗った膝を顔面に叩きつける。

 飛び上がった勢いそのままに足裏を顔面に合わせ、鉄板仕込みの靴底とアスファルトでサンドイッチ。

 残りの奴らの反応が追い付く前に顔面を踏みつけた方の足で踏み切り、姿勢を限界までかがめて2人組の1人の片足をすくい上げる。

 すくい上げた足を両手で握り、立ち上がりながら大きく振りかぶり、残ったもう1人に向けハンマーの如く振り下ろして叩きつけ。

 残りの3人はここでようやく思考が追い付いたのか、こちらに向けて引き金を引こうとしている。

 ここで逃げない蛮勇だけは褒めてやる。

 

 引き金が引かれる前に3人組の1人に接近、ライフルのハンドガードを掴み銃口を逸らしつつ、脛を蹴り飛ばし首を直接握って抱き寄せる。

 肉の盾で銃弾を防ぎながらライフルのグリップに空中で持ち替え。

 1人に銃口を向け、1マガジン分の銃弾をフルヒットさせてノックアウト。

 半ば狂乱状態の最後の1人が、盾ごと俺を打ち抜こうとしてくるが、弾は無限ではない。

 カチン、という音と共に射撃が止まる。最後の1人が握った銃を見つめながら何度も引き金を引くも、もう銃が答えることは無い。

 気絶した盾とライフルを投げ捨て、最後の1人に近づいていく。そいつは銃を捨てて、両手を前に突き出しながら後ずさり。

 降参、という事なのだろうが、かける情けはもう残っていない。

 一気に踏み込み相手の横をすれ違おうとした瞬間、下から弧を描くように振りぬかれた拳は、鳩尾にクリーンヒット。

 相手の足が地面から僅かに浮き上がる。拳を引き抜かれた後、力なく崩れ落ち、腹を抱え僅かに呻きながら、胎児のようにうずくまった。

 

 ”……うわぁ……。”

 

 「……先生、レイヴンさんって、いつもあんな戦い方を?」

 

 ”うん、そうだね……。”

 

 「……28秒。もう少し縮められるか。」

 

 ジャケットを羽織り直しながら、視界の端のストップウォッチを止める。

 最後で遊ばなければ、もう3秒早く終わっただろう。

 そう考えている俺に、先生は何とも言えない表情で口を開いた。

 

 ”ねえレイヴン。いつも思うんだけど、やりすぎじゃないかな……?”

 ”もう少しこう、何というか……手心というか……手加減というか……。”

 

 「痛みが無ければ覚えんぞ。こういう連中は、特にな。」

 

 ”いや、そういう事じゃ……!う~~ん……!”

 

 先生は顔を両手で覆いながら天を仰ぐ。

 いい加減俺が手加減出来ない人間だと覚えて欲しいものだ。

 と、おもむろにミヤコがこちらに近づいてくる。

 僅かに敵意をにじませながら。

 

 「……レイヴンさん、今あなたがやったのは、戦闘ではありません、蹂躙です。」

 

 「それがどうした?互いの実力を見誤った奴らの力不足だろう?」

 

 「――ッ!実力差があると理解したうえで、あんなことをしたのですか?」

 

 「そうだ。ああいう奴らの相手を一々したくないんでな。丁度いい見せしめだ。」

 

 この二言で大体わかった。こいつ、青いな。

 実戦経験が少ないから、戦場の本質を理解しきれていない。

 弱者とて、数が揃えば十分に脅威足りうる。

 個々の実力が劣っているからと侮っていたら、背中から急所を貫かれることなどざらにある事だ。

 だから俺は、誰が相手だろうと手加減はしないし、出来ない。

 自身の全力を以って叩き潰す。それが俺なりの、戦場での礼儀だ。

 

 「……私は、正義を信じています。強きを挫き、弱きを助ける。正しい事のために力を使う。そんな正義を。」

 「教えてください、レイヴンさん。あなたの正義は、いえ……。」

 「あなたに、正義はあるのですか?」

 

 「あるさ。力だ。」

 「戦いの本質は殺し合いだ。どんな形であれ、戦場で最後まで立っていた者が強者だ。」

 「どんな世界であれ、強くあることは意味がある。キヴォトスのように、戦いが絶えない世界では、特にな。」

 「だから俺は、力を信じる。どんな相手も叩き潰し、踏み越える力を。」

 「暴力を。」

 

 「……私は、あなたとは相容れないみたいです。」

 

 「奇遇だな、俺も同じことを思っていた所だ。」

 

 全く、こいつと話をしているとG(ガンズ)6を思い出す。

 ルビコンに似合わないくらい真っ直ぐな奴だった。

 最後は戦場に押しつぶされたが。

 

 ”レイヴン、ミヤコ……!”

 

 『……皆さん、そろそろ移動しましょう。ギャラリーが集まってきています。』

 

 ”そうだねエア。ほら、2人とも行こう。”

 

 「……RABBIT1、了解しました。」

 

 「了解した。」

 

 俺達は再び歩き出す。俺とミヤコの間に漂う、ピリついた空気と一緒に。

 だが、ミヤコがレッドと同じ轍を踏むと考えると、どうも後味の悪い気分になってくる。

 この言葉が口を突いたのは、単なる気まぐれだった。

 

 「……そうだ。1つ助言を贈ろう、ミヤコ。」

 

 「……なんですか?」

 

 「正義というモノを信じすぎるな。人がやることに、本来正しさは無いからな。」

 

 「……覚えておきます。」

 

 拷問、インフラへの攻撃、再教育センターでの洗脳、“ファクトリー”による人体の加工。

 そして、旧世代型強化手術。

 思い返せば、ルビコンは人の欲望や悪意が煮詰まった場所だった。

 そこでしばらく生きていれば、この言葉は自然と出てくるだろう。

 

 俺は、自分がやってきたことを正しい事だと思ったことは無い。

 だが、正しさが足を止める理由にもならない。

 俺はただ、望むままに進むだけ。その邪魔をする奴が居るなら、叩き潰すだけ。

 今までそうやって生きてきたんだ、今更変えられるものか。

 

 その後、特にトラブルに見舞われることなく仕事は終わった。

 帰り際にミヤコに睨まれた気がするが、無視することにした。

 どうせ戦場に出たら、俺の言葉の意味を、嫌でも理解することになるだろうから。




読者よ……!
(お気に入り登録者1000人越え&一杯の赤バーを)
御照覧あれぃ!!!(感謝の火吹き)

ハァァ……!!ウレシイ……!ウレシイ……!
これからも好きに書いてくぜヒャッハー!!!

次回
強制監査
ミステリーは警察が有能すぎると書きづらくなるってそれ一。

次回も気長にお待ちくださいませ……。
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