推定有罪

虚偽の自白で殺人犯にされた男を救おうとする若き弁護士の苦闘.刑事裁判のあり方を根底から問う傑作.(解説=野村吉太郎)

ジャンル
書籍  > 岩波現代文庫  > 文芸
日本十進分類  > 文学  > 日本文学小説・物語
通し番号
文芸161
刊行日
2010/03/16
体裁
A6・並製・カバー・540頁
ISBN
9784006021610
Cコード
0193
在庫
品切れ
この本の内容
著者略歴
約20年前の日雇い労働者の町での殺人事件,偽りの自白と不確かな目撃証言で被告とされた男を必死に弁護する若き弁護士の苦闘.推定無罪の原則から遠く隔たった,日本の刑事裁判の歪みを象徴する事件をノンフィクション・ノベルとして丹念に描きだした傑作.裁判員制度の下でどう裁くかを読者に深く問いかける.(解説=野村吉太郎)

■編集部からのメッセージ

1990年4月,横浜の労働者の街で,焚き火の周りで酒を酌み交わしていた土木作業員の一人が刺し殺されました.国選弁護人として控訴審から担当した奥村弁護士は当初から一審での審理に不審の念を持たざるをえませんでした.なぜなら凶器が果物ナイフとしては,被害者は深手を負いすぎている,果たして五年前の五千円の借金の未返済が殺意に結びつくのか,そして目撃者の尋問も行われておらず,一審での担当弁護人には意欲が全く欠如していたという事情があったからです.
 奥村弁護士は被告への面会を重ねる中で,取調官から責め立てられた被告が自暴自棄になり,偽りの自白をしてしまったことを確認します.被告は公判廷でその自白を覆しましたが,裁判長は被告人の無実に結びつく証拠の見直しや証人の採用を行わず,有罪判決となったのです.
 奥村弁護士は,現場に残された血痕の矛盾点,被告人の供述とナイフによる殺害過程の矛盾点,犯行現場にいた証言者の証言の信憑性など一審判決の問題点を次々に解明して,被告がいかに追い詰められ,虚偽に虚偽を重ねた自白を強いられたかを解明していきます.同時に被告のアリバイを証明する新たな目撃者を探し出そうと必死の努力をするのです.その結果,被告の無実を確信する土木作業員の仲間を見つけ,決定的な証言に出会うのです.
 奥村弁護士は,これらの新証言によって,逆転無罪への努力を惜しみませんでした.だが,自信満々で迅速な審理を進めんとする二審裁判長にそれがどう届いたかは予断を許しませんでした.証人尋問がようやく実現され,新事実がマスコミにも報道され,この事件の多くの問題点にやっと世間の眼が向きつつある中で,判決は言い渡されます――

 本書は実在した殺人事件をモデルにした優れた「ノンフィクション・ノベル」です.検察側の有罪の立証が十分ではない場合,疑わしきは被告人の利益にという刑事訴訟法の推定無罪の原則が日本の刑事裁判では蔑ろにされてきたのではなかったのか.その問題意識が著者をして,「推定有罪」というタイトルをつけさせ,冤罪がいかなるプロセスで作られていったのかの解明に没頭させることになったのです.
 本書がもし純然たるノンフィクションとして描かれるならば,膨大な裁判資料を咀嚼しつつ関係者の証言を活かし,広範な読者に届き得る作品にするという点で多くの困難があったと思われます.もちろん小説として描くのも,多くの困難を乗り越えての作業でありました.著者は裁判資料を渉猟し,二審以降の審理を綿密に取材しつつも,奥村弁護士たちが冤罪の構造を解き明かしていくプロセスを見事に小説作品として結晶化させました.それゆえ,単に特異な一事例ではなく,日本の刑事裁判の病巣が一つの物語として読者に届いていく可能性を有していると思われます.とりわけ,裁判官が心証形成の過程で,被告の人間性を理解し,彼がいかに偽りの自白を強いられていったのか汲み取ることが,なぜできなかったのか,なぜ新証人の証言や証拠を吟味せずに判決に至ったのかという問いが正面から提示されているのです.
 裁判員制度の開始によって,本書で描かれた裁判は旧制度のものになっています.しかし,長きにわたって行われてきた日本の刑事裁判にどのような問題点があったのかは,今も決して古びていない主題です.それは,足利事件や幾多の冤罪事件が生み出され,その真相が今も未解明のままに残されていることからも明らかです.裁判員制度自体の改革を志向する上でも,本書で示された冤罪を生み出す構造をいかに変えていくのかが必須の課題でしょう.本書の意義の一つとして,かかる社会的な緊張感を有する主題に正面から迫っている作品であることも見逃せないものがあります.本書は共同通信配信の連載小説として1994年10月から96年8月まで,神奈川新聞,山陽新聞ほか13紙に連載され,96年12月に文藝春秋から刊行されました.
 岩波現代文庫版の刊行に際して,本書に奥村弁護士として描かれている弁護士・野村吉太郎氏が「解説」を自ら執筆されていることも大いに注目されます.多くの読者の皆様に本書のご一読を心よりお勧めするものです.
笹倉 明(ささくら あきら)
1948年兵庫県に生まれる.早稲田大学文学部文芸科卒業後,広告代理店勤務等を経て,1980年『海を越えた者たち』で第4回すばる文学賞佳作.88年『漂流裁判』で第6回サントリーミステリー大賞を受賞.89年『遠い国からの殺人者』にて第101回直木賞を受ける.主著に『にっぽん国恋愛事件』『砂漠の岸に咲け』『愛をゆく舟』『旅人岬』等がある.
岩波現代文庫
品切れ

ネット書店で購入

Amazon
e-hon 全国書店ネットワーク
紀伊國屋書店ウェブストア
セブンネットショッピング
楽天ブックス
Honya Club.com
ヨドバシ.com

同じジャンルの商品

購入する
ご注文方法
お届けおよび送料について

●お届け(送品)は、宅配便(ゆうパック)となります。

●商品の合計金額に送料が加わります。

●送料は1回のご注文につき一律650円( )とさせていただきます。

●配送時間は「午前」「12~14時」「14~16時」「16~18時」「18~20時」「20~21時」をお選びいただけます。

●ご注文受付後、7営業日内のお届けとなります(既刊書のみのご注文の場合)。ご注文に未刊の新刊が含まれる場合、全ての商品が揃い次第の発送となりますのでご注意ください。

●ご注文の書籍が品切、および価格変更になるケースがあります。その場合にはお電話にて確認のご連絡をいたしますが、記入された電話番号で連絡が取れない場合には、注文を取り消させていただきます。何卒ご了承ください。

●日本国外への発送はできません。  

岩波ブックオーダーの送料改定につきまして

 平素は格別のお引き立てを賜り厚く御礼申し上げます。
 この度、小社で利用しております運送会社送料値上げに伴い、送料の改定をさせていただきます。
 つきましては、お客様には大変申し訳ございませんが、 2018年7月2日出荷分より送料を650円に改定させて頂きます。
 今回の改定でお客様のご負担が大きくなってしまいます事を心よりお詫び申し上げますとともに、送料値上げに関しましてご理解いただき、今後とも変わらぬご愛顧のほど賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

お支払い方法について

●クレジットカードでのお支払いのみのお取り扱いとさせていただきます。

●ご利用の際は、カードの種類(VISA・MASTER・JCB)、会員番号、有効期限をご確認のうえ、ご入力ください。

●郵便振替、代金引換(手数料200円付加)をご希望される場合には、お手数ですが ブックオーダー係まで直接ご注文くださいますようお願いいたします。

◆お支払い方法の変更について

 平素より小社ウェブサイトをご利用いただき誠にありがとうございます。

 これまでウェブサイトでの書籍のご購入におきましては、「クレジットカード」「郵便振替」「代金引換」のいずれかのお支払い方法をお選びいただいておりましたが、2016年12月7日より「クレジットカード」のみとさせていただきます。

 クレジットカード以外でのお支払い方法をご希望される場合は、下記の ブックオーダー係に直接ご注文のうえ「郵便振替」「代金引換」をご指定いただくか、もしくはお近くの書店をご利用くださいますようお願い申し上げます。なお書店によっては、在庫の無い場合や取扱いのできない場合もあります。あらかじめご承知おきください。

 この度の変更により読者の皆様にはご不便をお掛けいたしますが、何卒ご了承くださいますようお願い申し上げます。


●書籍購入についてのお問い合わせは、岩波書店ブックオーダー係で承ります。 

  岩波書店ブックオーダー係

  電話 04-2951-5032  FAX 04-2951-5034

ご請求金額について

●本サイトで商品をご購入いただいた際、消費税の計算方式の都合上、クレジットカード会社からの請求金額と小社からの請求金額の間に、端数計算による数円単位の差が生じる場合があります。何卒ご了承ください。

お取り替えについて

●原則として返品はご容赦ください。下記の場合はお取り替えいたしかねます。

 1. 開封してある場合(CD-ROM等電子出版物の場合)

 2. 書き込み等のある場合

 3. お客様の責任で破損した場合

 4. 現品到着後11日以上経過した場合

●落丁・乱丁・品違い・破損本等があった場合は、お取り替えの手続きについてご説明させていだきますので、お手数ですが電話か問い合わせフォームにて事前のご連絡をお願いいたします。

●お客様のご都合でお取り替えする場合、返送料金はご負担いただきます。ご了承ください。

お問い合わせ

●書籍購入についてのお問い合わせは、岩波書店ブックオーダー係で承ります。

 

  岩波書店ブックオーダー係

  電話 04-2951-5032  FAX 04-2951-5034

 

●お問い合わせの際は、ご注文確認メールに記載されている受注番号をお知らせください。

●書籍購入以外のお問い合わせはご容赦ください。

●FAXは24時間受け付けております。

●お電話によるお問い合せは、月曜~金曜(祝日・社休日を除く)10:00~16:00とさせていただきます。
 ※当面の間、受付時間を10:00~16:00にさせていただきます。ご了承ください。