BLUE ARCHIVE -SONG OF CORAL- 作:Soburero
テメェ絶対に許さんからな朱腐れ女がよぉ……!
”ヒマリ、エイミ、こんにちは。”
ミレニアムサイエンススクールの一室。
沢山のモニターが並ぶ部屋、そこで2人の生徒が先生を待っていた。
「先生、待ってたよ。」
「お待ちしておりましたよ、先生。このミレニアム最高の学位たる”全知”の称号を持つ美少女ハッカーのお呼び出しに応えていただき、ありがとうございます。」
特異現象捜査部部長、明星ヒマリ。全身を白でまとめた、儚げな雰囲気をまとった、車いすの少女。
その見た目に反し、かなり良い性格をしている。
特異現象捜査部部員、和泉元エイミ。口数は少ないが、仕事は確実にこなす1年生。
ともすれば公序良俗に反するレベルの薄着なのは、本人の体質上仕方ないらしい。
”2人とも元気そうで何よりだよ。それで、聞きたいことって?”
「これを見て。ミレニアムの”廃墟”で見つかったエネルギー反応。これは、ミレニアムのどのデータとも一致しなかった。」
「はい。キヴォトス中にある文献を読み漁りもしましたが、成果は芳しくなく……。」
”……これ、波形?電気って訳じゃなさそうだね。”
エイミから渡されたタブレットには、赤い大きな丸と、その特性を示すであろうグラフが映し出されていた。
その数値からして、膨大なエネルギーであることは間違いない。
ただ、エネルギー量、と書かれたグラフが、大きく不自然に波打っている。
何秒かおきに繰り返されているようだ。
「さすがは先生、そこに気づかれるとは。今回観測されたエネルギーには、奇妙な波形が伴っているのです。」
「一定の規則性はあるようなのですが、それが何の意味を持つのかまでは分からずじまい。」
「そこで、キヴォトスの”外”から来た先生であれば、何か知っているのではないかと思いまして。」
「それか、知っていそうな人を紹介してほしい。ダメなら直接調べに行くから。」
”うーん、知っていそうな人か……。”
先生は考えを巡らせる。
まず、自分は科学に明るい方では無いため、この波形の正体を聞かれたところで答えられない。
かと言って、生徒達で一番詳しそうな子たちは今目の前に居る。
“黒服”に聞くのは論外だ。どんな代償が求められるのか分からない。
あの子でもない、この子でもない。そんな堂々巡りの思考が10秒ほど続いた後、先生の脳はある1人をはじき出した。
”……あっ。レイヴンとエアなら知ってるかも。”
「レイヴン?あの傭兵の?」
”うん。あの子達も“外”から来たらしいんだ。私の居た世界とは違うみたいだけどね。もしかしたら知ってるかも。”
「なるほど、レイヴン達は“外”から……。あの戦い方や戦績は、“外”での経験に由来するものかも知れませんね。」
”うん、そうみたい。“外”でも傭兵みたいな仕事をしてたって聞いてるよ。”
「レイヴンとも交流があるんだ。危険人物って聞いてるけど。」
エイミの言葉を聞いた先生は、僅かに眉根にしわを寄せた。
彼女がアビドスのためにどれほど危険を冒してきたのか知ってるからこそ、彼女をよく知らずに悪く言う事は、例え生徒であろうと看過できることではなかった。
”エイミ、レイヴンはそんな子じゃないよ。確かに、ちょっとやりすぎることはあるけど、とても優しい子だよ。”
「ふふっ、先生はお優しいのですね。」
ヒマリの言葉を余所にスマホを取り出し、電話帳の中から、レイヴンのエンブレムであるカラスのマークをタップした。
スピーカーモードにして、コールが何回か響いた後、外の音がスマホから響き始める。
”レイヴン、聞こえてる?ちょっと聞きたいことがあるんだけど、今大丈夫?”
『ああ、問題ない。どうした?』
レイヴンが答える前に、小さなうめき声と銃声が2つ聞こえたことは無視することにした。
”今ミレニアムの特異現象捜査部って所にいるんだけど、そこの部員から、変な反応が見つかったって聞いたんだ。”
”波形を伴った、強いエネルギー反応、で良かったよね。”
”だったんだ。もしかしたら、レイヴンとエアなら知ってるかなって思って連絡したんだ。今データを送るね。”
『分かった、今確認する。』
マイクを抑えてヒマリ達に顔を向けると、2人は小さく頷いた。
先生の言葉をきっかけに、ヒマリの車いすからホログラムが展開されて、光を何回か叩いていく。
送信が終わったのか、ヒマリが小さくピースサインを先生に向けてきた。
それを見たエイミが小さくため息をこぼす。この部室ではいつもの光景だ。
3人でレイヴンの返答を待って十数秒、先生の予想とは異なる言葉が返ってきた。
『シャーレ、この反応の位置は!』
”えっ?えっと……。ミレニアム郊外の廃工場だけど……。”
『その周辺から住民を全員避難させろ、今すぐに。それと今動かせる戦力をすべて集めろ。』
”レ、レイヴン?いきなりそんなこと言われても――。”
『いいからやれ!そいつは放っておくと死人が出るぞ!』
”レイヴン!?何か知ってるなら教――。”
『今からそちらに、いや、すぐ現地に向かう。お前も早く来い!』
”ちょっとレイ――。”
ブツップーップーップーッ
”……切られちゃった……。”
いつもの冷静な彼女の姿とは大きく異なる、まくし立てるような口調。
先生の記憶の中で、彼女がこれほど焦っていたのは、アビドスで“預言者”を相手取った時くらいである。
だが、戦いにおいて彼女の指示が不適当だったことは、ほぼ無かった。
先生はこれまでの経験から、これは“預言者”以上の脅威なのではないか、と考えていた。
「凄い焦りようだったけど、いつもあの調子って訳じゃ無いよね?」
”うん、初めて見る焦り方だったな……。一体何なんだろう、これ……。”
「あのレイヴンですら焦るような代物……。ふふふっ、興味が湧いてしまいますね。」
「とりあえず、セミナーに知らせた方が良さそうだね。私が説明してくる。」
「全員で行きましょう、エイミ。先生がいれば、少なくともユウカに対しては、説得が楽になるでしょうし。」
”そうだね、みんなで行こう。”
先生たちはセミナーの部室に向けて動き出す。
この時の先生の頭には、ユウカ達にどう説明しようかという考えがグルグルと回っていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
ミレニアム郊外の廃工場。ミレニアム生には“廃墟”と呼ばれる場所。
そこには既にナイトフォールが佇んでいる。
先生がその後ろに近づくと、レイヴンは先生に向かってゆっくりと振り返った。
「来たか、シャーレ。」
”こんにちは、レイヴン。”
「……戦力はそれだけか?」
「あ?何か文句あんのかよ?」
C&Cの00、美甘ネル。
「レイヴンさんとのクエスト!アリス、楽しみです!」
ゲーム開発部、天童アリス。
「悪いけど、今動けるのはこれだけ。」
特異現象捜査部、和泉元エイミ。
「カリンはもう位置についてるぞ。これだけいれば文句ないだろ。」
そして、C&Cの02、角楯カリン。
以上4名が、現在先生が、もといミレニアムが現在動かせる全戦力であった。
「いや足りない。全く足りない。アレが動き出したらこの数だと止められないぞ。」
『レイヴンさん、いきなり言われても困りますよ!そもそも、それが何なのかはっきり聞けて無いんですから!』
『避難させる言い訳を考えるこっちの気持ちも考えてください!』
ユウカの指摘ももっともだろう。だが、アレが1度動き出せばデカグラマトンと同等かそれ以上の被害が出るだろう。
俺は1度戦ったから分かる。あれらはACがあったから対抗できただけだ。
歩兵の火力ではまず太刀打ちできない。
レイヴンはそう考えていた。
『ユウカ、住民の避難はどの程度完了していますか?』
『無視!?ああもう!半径500mの住民の避難がほぼ終わってます!これ以上はセミナーの権限でも難しいですよ!』
『……最低限の避難は終わっていると考えましょう。』
『最低限!?これだけの規模で避難しても最低限ってどういうことですか!?』
『レイヴン、聞こえているかい?私はドローンで上空から監視しているよ。』
『それにしても、君がそれほど焦るなんてね。そこには一体何が眠っているんだい?』
”レイヴン、エア、教えて。あのエネルギーは何なの?”
「……あってはならないモノだ。」
「行くぞ。アレが動き出す前に手を打つ必要がある。」
レイヴン達が正面の壊れたゲートから中に入っていく。
自分の予想が外れていることを願いながら。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「今のところ静かだね。部長、どう?」
『こちらも変化はありませんね。エネルギー源は動いてはいないようです。』
『工場のシステムにアクセスできないか試しましたが、既に停止しているようですね。』
「カリン、そっちはどうだ?」
『こちら02、状況に変化なし。本当に何かあるのか?』
『上空から見ても同じだね。今のところ何も映ってないよ。』
「まるでダンジョンですね。アリス、ワクワクしてきます!」
”レイヴン、ヒマリ、本当にここで合ってる?”
『ええ、間違いありません。確かに、この廃工場にエネルギー源があります。』
工場構内の道路を5人で歩いていく。建物には錆や汚れが浮いているものの、ダメージが大きいものは無い。
つい最近まで動いていたようにも感じられる。
だが、人の気配はおろか、いたという痕跡すら見当たらない。
これだけ見るなら、何の変哲もない廃工場だろう。
“声”が見えること以外は。
(……レイヴン、見えていますか。微弱ですが、これは……。)
(……コーラルだ、間違いない。)
小さな赤い星々、それらは互いに引かれあいスパークしている。
廃工場の空間にコーラルが漂っているのだ。これは俺とエアにしか見えていない。
恐らくは、何かから漏れている。
ライガーテイルが流れてきたことを考え、あれらが流れてきてもおかしくは無いと考えていた。
現実になって欲しくは無かったが、来てしまったものは処理するしかない。
“声”が強くなった場所、資材置き場のドアの前で立ち止まって、扉に手をかける。
「……ここだ、開けるぞ。」
”これは……!”
そこにあったのは、俺にとって2度と会いたくないモノの1つ。
大型武装採掘艦を2機で破壊した無人機。
「部長、これ見えてる?」
『ええ、確かに。これは、少なくともミレニアム製ではなさそうですね。』
「わあぁぁ……!アイアンギアです!倒せばきっとレアなアイテムが貰えます!」
腕と頭の無い、武骨なMT。
右腕はオートキャノン、左腕はグレネードランチャーになっているモデルだ。
両足のかかとと、腰の付け根からキャタピラが伸びている。
ゴリアテの派生機と言われれば納得してしまいそうな見た目をしている。
だがこれは、決してキヴォトスで作れる機体ではない。
”カッコイイ……!”
「確かにカッコいいけどよ、アタシはもっとこう……。バーン!って感じの方が好きだな。」
”分かる!でもこの重厚な感じも好きなんだよなぁ……!”
「ふざけている場合か!」
(IA-05:
C-兵器。
動力にコーラルを使用する兵器の総称。俺が知る限り、その全てがルビコン技研によって作られたもの。
つまり、俺達の目の前には、技研の狂った遺産の1つが転がっているという事だ。
(どうしてこんなものがここに……。)
(……僅かですが、コーラルの増殖が進んでいます。今すぐ対処しましょう。)
「こいつのジェネレーターを引き外して無力化する。周辺を警戒しろ。」
念のためバイザーを下ろし、機体の裏手に回りながら指示を飛ばす。
視界の端にはウィーヴィルの設計図が映し出されており、それを頼りにジェネレーターを外す手立てを考える。
俺のその態度が気に入らなかったのか、ネルが突っかかってきた。
「オイ!これが何なのか、説明されてねぇんだけどな。」
『……私達の世界に存在していた、自律兵器です。今は停止しているようですが、いつ動き出してもおかしくありません。』
「見た感じ、かなりボロボロじゃねえか。まともに動くのかよ。」
『ええ、半世紀野ざらしでも、問題なく稼働した実績があります。』
『半世紀……。50年!?50年野ざらしでも稼働しただと!?燃料は!?潤滑剤は!?いや、各所の劣化はどうなっているんだ!?』
『ウタハ部長、落ち着いてください!エアさん、本当にこんな状態で動くんですか?』
『はい。実際に、レイヴンがこれと戦闘を行っています。その時私は居なかったので、ログを見ただけですが。』
『レイヴンの実力をもってしても、苦戦を強いられた相手です。』
エアの話を聞き流しながらウィーヴィルを確認していく。
今目の前にあるのは設計よりも幾分か小さくなっているようで、大体5mほどの高さがある。
ただ、いくら小さくなっているとはいえ、人間とこの機体のサイズ差では、その質量も致命的な武器だ。
急いで無力化しなければ。
後部にはメンテナンスハッチがあるようで、起動させないように離れた場所から探していく。
”どうしてそんなものがここに……。”
『……私達がキヴォトスに流れ着いたように、この機体も、私達が居た世界から流れてきてしまったのでしょう。』
『なるほど、なるほど。本当に興味深いですね。ちょっと中を見させてもらいましょうか。』
「おいやめろ!何が起動トリガーになってるのか分からないんだぞ!」
『大丈夫ですよ。この湧き出る清水のような美少女にして天才ハッカーに掛かれば、トラップの回避なんて朝飯前です。』
『ヒマリ、今すぐアクセスを止めてください!これが起動したら、この周辺は――。』
”……ん?エア、どうしたの?”
耳鳴りが強まっていく。
赤い光が、目の前のC-兵器に集まっていく。
「あれ?目が光っていませんか?」
(同胞たちの声が、強まって……!)
「起動するぞ、離れろッ!!」
ブースターを吹かして急いで先生達の元へと戻る。
ウィーヴィルの正面横に取り付けられたカメラアイが発光しており、これが目を覚ましたという事を嫌でも理解する。
機体が片膝を突いていた姿勢からゆっくりと立ち上がっていく。
『ほっ、本当に動いた!素晴らしい!!ああ、今すぐ分解して解析したい……!』
「ハッ!いくらデカくてもこんだけボロボロなら、アタシ1人で十分――。」
ギャリリリリリ!!!
「だぁぁああああ!?!?」
「チッ!」
”うわぁああ!?”
かかとのキャタピラを展開して、こちらに突っ込んでくる。
凄まじい加速力で全員かわすのが手一杯。無人機特有のG負荷を無視した挙動だ。
他の建物の壁を突き破りながら上半身をこちらに向け、中央両サイドのハッチが開いた。
そこから大量の飛翔体が打ち上げられる。
『ミサイル、来ます!』
「先生っ!」
ドドドドォォン!!
「先生、大丈夫ですか!」
”うん、大丈夫だよ。ありがとう、アリス。”
山なりに打ち上げられたミサイルは途中で急旋回、こちらに向けて降り注いでくる。
自分はパルスアーマーを張ったため無傷。
先生はアリスが抱えて爆撃範囲から退避、他の2人は建物の影に隠れてやり過ごした。
「なんて機動性……。部長、システムを落として。」
『え、ええ!今すぐシャットダウンしましょう、か……。あ、あれ?』
『……接続できない!?どうして!?』
「こいつはスタンドアローンだ!物理的に破壊するしかない!」
「クソッ!カリン、狙撃しろ!」
『02了解、発射!』
ガキンッ!
『――ッ!弾かれた!?』
『02、狙われています!退避を!』
カリンの狙撃に反応して上半身が回り始めた。
動きを止めることなく放たれたグレネードが、カリンがいたであろう建物の屋上を吹き飛ばす。
ガラガラと崩れ落ちていく瓦礫の中に、カリンの姿は見えなかった。
「カリン!オイ聞こえるか!?カリン!?クソッ!!」
「……マズいね、これ。」
「だから止めろと言ったんだ……!」
「ここで仕留めるぞ!まずは足を殺せ!履帯とブースターを狙うんだ!」
”分かった。私が指揮を執るよ!”
「やってくれたなァ、鉄クズ野郎ォ!!」
「魔力充填、100%!アリスも行けます!」
「仕方ない、行こう。」
”アリス、アレに向けて砲撃!”
「はい!光よ、貫け!」
スーパーノヴァの銃身が展開して、轟音と共に砲口から放たれた投射体が、光を纏いながらウィーヴィルに向けて飛んでいく。
だが、それが着弾する直前で奴は大きく飛び上がった。
「跳んだ……!?」
「来るぞッ!!」
バオッ!!
”うわぁあああ!!!蹴ってきたぁ!?”
ノズルから赤い炎をまき散らしながら、片足を前にこちらに向けて突っ込んできたのだ。
いわゆる、ライダーキックの姿勢である。
最初に見たときは、自分の正気とACのカメラを疑ったものだ。
『レイヴン、このままでは……!』
「……ナイトフォールの機動性でかく乱する!その隙に撃て!」
”分かった、気を付けて!”
『信号偽装開始、ターゲットをレイヴンに集中させます!』
アサルトブーストでウィーヴィルの進路に先回りするように飛んでいく。
進路がクロスして互いに円を描いて膨らむように距離を取っていく。
その間にもガトリングを叩き込むが、そのほとんどが弾かれてしまう。
オートキャノンの弾幕もあってまともに近づけない。
ドドドドドドッ!!!
バァァァァン!!
「チッ!ガトリングがまともに通らないか!」
『ジェネレータのエネルギー切れを狙うしかないでしょう。それまでこらえてください、レイヴン!』
そう、こいつに使われているのはコーラルを燃料とするジェネレーターだ。
1度エネルギー切れを起こすと、それを回復させるには数秒の猶予が必要な仕様になっている。
つまり、必ず足を数秒間止めるタイミングがある、という事だ。狙うならそこしかない。
『先生、今保安部から増援を送りました!到着まで何とか持ちこたえてください!』
「今更か!?もっと早く動かせただろうが!」
『こんな危険な物だって知っていればすぐに動かしましたよ!とにかく、持ちこたえてください!』
ウィーヴィルが建物に隠れた瞬間、垂直に急上昇。
ガトリングで牽制しながらミサイルを発射するが、ウィーヴィルはそれに合わせてブースターで加速。
ミサイルはウィーヴィルを懸命に追いかけるが、追い付くことは無く、推進剤が切れて地面へと引っ張られていく。
8発のミサイルをその速度だけで振り切っていった。
「クソッ!速すぎて追い付けねぇ!レイヴン、こっちまで誘導しろ!」
「それが出来たらとっくにやってる!!」
”すれ違いざまに撃つしかないのか……。”
ウィーヴィルと並走しながらガトリングを打ち込んでいく。
オートキャノンで反撃されたら、装甲でこらえつつ僅かに減速して後ろ側へ回り込む。
相手もそれに反応して右側に旋回、大きく弧を描きながらこちらへと向き直る。
自分も左に大きく弧を描き、ウィーヴィルの正面に来るように調整する。
パルスアーマーで守りながら最大推力でウィーヴィルに向けて突撃。
オートキャノンとミサイルで削られていくが、こちらもガトリングで応戦。
このままぶつかれば当たり負けするのはこちらの方だ。だが、旋回性能ではこちらに理がある。
衝突する直前、太陽守を展開して爆雷の保持を解除、そのまま右にクイックブーストすることで、影と共に爆雷を置いていく。
勢いそのままに大量の爆雷を踏みしめたウィーヴィルは、ダウンしたACSを復旧させようと急ブレーキをかけた。
”今だ!”
「オラァアアアア!!」
「光よ!」
その瞬間に撃ち込まれる多数の鉛玉。
ウィーヴィルに取り付けられた右側のノズルがズタズタに引き裂かれた。
『敵機、ブースター破損!』
”効いてる!この調子で――。”
ガシャン
「ヤベ……。」
ガァン!
ACSが復旧し、先生たちにグレネードが撃ち込まれる直前でウィーヴィルの中央にドロップキックを入れる。
よろめいたウィーヴィルは射撃を中断、大きく距離を取るためにキャタピラで走り出した。
「足を止めるな!狙われるぞ!」
「言われなくても分かってんだよ!」
空からウィーヴィルを追いかけながら攻撃、ガトリングもミサイルも大して効果は無い。
だが、使っていない武器があと1つある。それに、経験からしてそろそろ足を止めるはずだ。
放たれたグレネードを空中でかわして着地、太陽守の爆風で視界を塞ぎながら進路をクロスさせる。
ウィーヴィルはこちらに接近しようと旋回していくが、後50mというところで急に足を止めた。エネルギー切れを起こしたのだ。
再び動き出す前に跳躍し、上空からMORLEYを叩き込む。
榴弾は右腕のオートキャノンに着弾し吹き飛ばした。その衝撃でまたスタッガーしたようで、ウィーヴィルはよろめきながら膝を突いた。
『敵機停止、今です!』
着地した瞬間、太陽守とミサイルで爆撃。先生たちも全火力で攻撃している。
だが、ウィーヴィルの装甲に対し仕留めきるには火力が足りない。
ウィーヴィルが立ち上がり、キャタピラを展開してこちらに突っ込もうとした瞬間――。
『ハァッ、こちら02、狙撃成功……!』
キャタピラとかかとを繋ぐジョイントが、カリンの狙撃によって破壊された。
機動力を失い、システムが混乱したウィーヴィルは再び動きを止めた。
とどめを刺すために大きく跳躍、アサルトブーストの勢いでドロップキック。
両足を離すことなくブースターの推力を引き上げて仰向けに転倒させる。
背中のヒートシンクを展開して、ヘイローアンプのリミッターを解除。
攻撃範囲を絞り出力を集中させることで威力をさらに引き上げる。
そして、威力を極限まで高められたアサルトアーマーが放たれ、コーラルによってウィーヴィルの装甲は激しく浸食されていく。
それと同時にコーラルがシステムとジェネレーターに干渉することで、内部のプログラムを完全に焼却した。
『敵機、ジェネレーター破損!』
「爆発するぞ!!離れろ!!」
先生たちがウィーヴィルに背を向けて駆け出した。自分もアサルトブーストで大きく距離を取る。
制御を失い、ジェネレーター内部でコーラルは急激に増殖。
不自然に増えたコーラルは、連鎖する赤い爆発として焼却された。
”はぁ、何とかなったね……。”
「はい!アイアンギア、討伐成功です!」
「凄い性能だった。うちで応用できないかな?」
「まッ、どんだけいい性能してようが、アタシらの敵じゃねぇな。」
『良かった……。みんな無事で何よりです。保安部に辺りの安全を確認させますから、少し待っててください。』
『……あの機動性、ブースターとキャタピラで無理やり引き出しているのか。それならナイトフォールに使ったブースターで再現できるか?――――。』
『ウタハ部長、通信に乗ってますよ。』
自分以外の全員が勝利を喜んでいる。ウタハに至っては技術屋精神を爆発させる始末。
なら何故俺だけが喜んでいないのかだって?
理由は簡単。簡単に済むはずの仕事を、これだけ面倒な事にしたやつがいるからだ。
”……レイヴン?”
「……ハッカー、名前は何だ?」
『は、はい!そういえば、自己紹介がまだでしたね!私は特異現象捜査部部長、ミレニアムに咲く1輪の高嶺の花こと、明星ヒマリ――。』
「ヒマリ、今回奴を起動させたのは、お前だと気づいているよな。」
『ええ、もちろんです。ですが、賢人とは歴史だけではなく、失敗からも学ぶもの。今回の件はいい教訓に――。』
「教訓だと……?」
「ふざけるなッ!!初めに止めろと言っただろうが!!お前の好奇心のせいで何人死にかけたと思ってる!!」
そう、勝手にウィーヴィルのシステムにアクセスして、それを起動させたヒマリだ。
どうも自分ならどうにかなる、と思っていたらしいが、その驕りによってこの事態が引き起こされている。
ここで灸をすえておくべきだろう。
『そ、そんな大袈裟な。戦いに情報支援は――。』
『好奇心は猫をも殺す、という言葉を知らないんですか、ヒマリ。私達の警告を無視してアクセスを続けたのはあなたですよ。』
『今回は偶然無力化できただけです。本来歩兵程度では、あっという間に蹂躙されて終わりです。』
『確かに、事前に詳細を話さなかった私達にも非があります。ですが、あなたが手を出さなければ、これのジェネレーターを引き抜けば終わる簡単な仕事になったんです。』
『わ、私は、そんな、つもりじゃ……。』
「そうだろうな、お前は自分の感情の赴くままに動いただけだ。その結果がこれだ。分かるか!?」
「無駄に被害を増やし、俺達を殺しかけたのは、お前の選択の結果だ。それを忘れるなよ……!」
”レイヴン、言いすぎだよ。ヒマリは私達を助けようとしただけだって。”
”ミスは誰にだってある。それは糧にして、前に進めばいい。でしょ?”
先生が俺を咎めてきたが、何を咎めようとしているのやら。
生徒を対し、怒りを理不尽にぶつけることだろうか。
それとも、ヒマリを気負わせないようにそう言っているだけなのか。
俺の代わりにエアが言葉を続ける。
『そのミスで人命が失われた時、あなたは同じセリフが言えるのですか、先生?』
『残された者はいいでしょう。次があります。ですが、死んだ者に次は無いんです。教訓を生かすことも、伝えることも出来ないんですよ。』
『それを分かった上で言っているのですか、先生?』
”……そうならないように大人が、私がいる。”
先生は答えない。いや、答えられないんだろう。
すべての生徒の味方だと公言している以上、生徒が自分の、すべての敵になった時など考えたくも無いんだろう。
その甘さが、いつか誰かを殺すぞ、シャーレ。
「……ハァ、もういい。俺は帰るぞ。仕事は済んだ。」
『……あ~、レイヴン。この自律兵器だが、私達で解析してもいいかい?ヒマリもそうだが、私としても興味深いんだ。』
「……勝手にしろ。ただし、得られた技術は全て封印しろ。絶対に外に漏らすな。」
「もし漏れたら、その時は……。」
『……その時は……?』
「技術を知っている物を全員殺す。お前も例外じゃないぞ、シャーレ。」
バイザーを引き上げて、目を合わせ指を指してそう答える。
殺気に当てられたのか、先生は急激に縮こまってしまった。
”わァ……ア……!”
「泣いちゃった。」
「うわーん!先生がなんかちっちゃくなっちゃいました!」
「どうなってんだよそれ……。」
『……分かった、絶対に漏らさない。約束しよう。』
この後、ウィーヴィルとの戦闘は、ミレニアム試作兵器の暴走として片が付いた。
そしてユウカの元には、レイヴンからセミナー名義の多額の請求書が1枚届いたという。
前話で弱音こぼしたら思ってたよりあったかい感想を頂けて感無量です。
この調子で好きに書いて理不尽に死にますので、生暖かく見守ってください。
次回
ニセモノ騒動
レイヴンとは意志の表彰
次回も気長にお待ちくださいませ……。