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J/53  作者: 池金啓太
十話「壁と屋上と晩夏のある日」
375/1032

悪魔の力

カメラが再びダムを映すと半壊、いやほぼ全壊したダムの姿がある


分厚い石の壁はいとも容易く砕かれ、強力な衝撃を受けたかのように半円状に瓦解し始めている


その様子を見てその場の全ての人間が息をのんだ


『さて皆さん、この光景を見てどのように思いましたか?恐ろしいですか?利用したいと思いましたか?どんな感想でも結構です・・・ですが俺に敵意を向けた場合、そしてその情報が何らかの形で流れ、特定できた場合、あのダムと同じ運命をたどっていただきます』


再び画面上に現れた静希はとびきりの邪笑を浮かべてカメラに視線を向ける


『重ねて、もう少しわかりやすく申し上げます、もう一度でもなめた真似しやがったら皆殺しにしてやるからそのところ承知しておけ?』


静希がどんな乱暴な言葉を使っているのか、字幕からでは伝わらなかったがその笑みと瞳に込められた殺気が映像越しからでもその場にいた全員を僅かに震え上がらせた


映像はそこで終わり、部屋が明るくなり始める


「・・・今のは・・・」


「日本の悪魔の契約者シズキ・イガラシという人物を何者かが暗殺しようとし、その依頼をテオドールに頼み・・・そして彼は返り討ちにされ、二度とそんな真似をしないようにこの映像を持たせたんだそうだ」


その場にいたテオドールの友人である人物がその場にいる全員に簡単にまとめ始める


簡単に内容をまとめておいても中身が頭に入っていかない者もいる


何せ突然悪魔の契約者などと言われて強力な力を見せつけられたのだ、理解が追い付かないのも無理はない


「確か・・・以前起きた召喚事件の解決に彼の協力を要請したと・・・」


「そう・・・彼のおかげで事件は解決に向かったと私も聞いている、なのに何者か・・・我々の中の誰かがこの書状を作り、暗殺を企てた、これは忌々しき問題だ」


テオドールに渡された政府の勅命入りの書状


何者かから渡されたというその内容は嘘偽りも偽装もないということが証明されており、この中にいる誰かの犯行であることは確定的だった


「ミスターイガラシには後ほど謝罪する必要があるだろう・・・そしてテオドールを生かしておいてくれた礼もしなくてはな」


その場を収め状況を正しく把握しているその人物は辺りを注意深く観察しながらおおきくため息をつく


今回の悪魔の契約者への暗殺


日本に現れた学生能力者でありながら悪魔の契約者である少年の存在が今回の事件を引き起こしたと言っていい


この世界で悪魔の契約者は片手で数えられるほどにしか存在しない


その中でしっかりと所在がつかめているのは五十嵐静希だけ、最近契約者となったエドモンド・パークスは父親の仕事を手伝いながら世界中を放浪している


ある意味、日本政府には悪魔の契約者と言う切札ができている事になる


パワーバランスを考慮し、その存在を消そうとしたという理屈は理解できる


だが仮にも人々の上に立つ様な人物が、十五そこらの少年に目くじらを立てるのはどうかと呆れてもいたのだ


そして先ほどの映像を見て、いや悪魔の力を見せつけられたせいか、すでにその場にいる何人かは静希に恩を売る算段でも考えているのだろう


政界に身を置いて長いが、これほどまでに腐った考えをしている人間が多いとは思わなかった


「テオドール、お前には彼とのメッセンジャーになってもらいたい、構わないか?」


「・・・あぁ、携帯の番号やらなんやらいろいろと押さえられた・・・連絡を付けることくらいならできる」


まったくもって遺憾だがなと苦笑しながら映像の記録されたディスクを取り出して能力を発動し完全に破壊してしまう


証拠は残さない、静希からの徹底された主義からくる指示を終えてテオドールは友人の肩に手を置く


「あいつを利用するのはやめておけ、本当に殺されかねない」


「・・・お前にそこまで言わせる奴なのかい?そのミスターイガラシと言うのは」


テオドールの事を昔からよく知る彼は少しばかり興味深そうに耳を傾ける


昔からテオドールは優秀だった、そこまで強い能力を持っている訳ではなかったがその場の機転と能力の応用で多くの死線を潜り抜けてきた男だ


そのテオドールにここまでの評価をさせる少年が一体どのような存在か気になったのだ


「正直に言うなら、もう二度と関わりたくないな・・・底が知れない上に、ガキのする目じゃない、悪魔の契約者ってのは皆あぁなのかね?」


静希と実際に戦闘しその目を、その表情を見たテオドールは今でもまだ僅かに身震いする


能力を把握できなかったというのもそうだが自分が対峙していたのが本当に子供なのかと疑いたくなるような錯覚を覚える


あの表情が忘れられない、静希が浮かべる笑み


まるでこの世の全てを嘲笑うかのような邪悪な笑い


テオドールは知る由もないが、過去同級生で同じ班になりながらも同じ表情を向けられて同じようにトラウマになりかけた少女がいる


一時でも静希に敵であると判断されようものなら、その笑みと躊躇も容赦もない攻撃と策略が相手を襲う


そのことをテオドールは身にしみて理解していた


「とにかく、何と連絡したものか・・・日本に伝わるドゲザでもするかい?」


「やり方が分からん、それにできたとして電話かメール・・・またはエアメールだろう?まさかまた日本にいけと言うのか?」


はっはっは、冗談だ、悪かったよと軽口をたたきながらその場の会議は粛々と終了していく


静希の送ったビデオレターは良くも悪くも事態を収束へと導いたのだ


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