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J/53  作者: 池金啓太
十話「壁と屋上と晩夏のある日」
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実験と実戦

静希は二枚のトランプを手に取りながら内部を観察しようと意識を集中するが、中に何があるのか把握できない


否、把握はできるのだ、光があることは認識できるがどれほどの量が入っているのかが分からない


光などという実体も意識もないような物を入れているのだから仕方ないことだが、試すにはもってこいかもしれない


とはいえその効果は全くの未知数


日中の光を吸収しただけのもので、一体何が起こるのか静希もわかっていない


それこそただのフラッシュ程度の光源になっているかもしれない


「雪姉、ちょっと試すな」


「ん?何か妙案?」


「いや・・・実験」


二枚のトランプをカメラの視界範囲外から二体の無人機を挟み込むように張り付ける


カメラが外部に仕込まれているとはいえ、さすがに外装部にはりつけられた紙状のものに反応できるような性能は持ち合わせていないようだった


「一体何するのさ?新技?」


「新しいのには違いないけど、一体何が起こるのかわかったもんじゃないんだ、一応これ渡しておく」


静希が渡したのは光を遮るための暗幕である


仮面の上から暗幕を目に当てて万が一にも光で目がつぶれないように注意する


「なんかすごい厳重だね、結構やばい攻撃なの?」


「そうだな・・・運が良ければレーザー、運が悪けりゃ照明」


「・・・落差がすごいね」


静希自身太陽の光がどれほどの力を持っているのか分からないのだ


虫眼鏡などを使って太陽光を集めて紙を焼く実験、ほとんどの人間が子供のころにやったことがあるだろう


今回の場合は光を屈折させて光を一点に集めるのではなく、長時間集めた光を一定時間内に放出するというものだ


このトランプの中にどれほどの光量と熱量がため込まれているのか静希自身把握できない


それ故に結果が分からないのだ、慎重にもなるというものだろう


「でもさ、もしレーザーだったら、建物貫通しない?」


「そうだな・・・一応一枚は回収にしておくか」


最初は両方のトランプから同時に光を放出しようと思っていたのだが、なにが起こるか分からない以上、多少の保険をかけておくのも必要かもしれない


なにせ最悪火事になりかねないのだ


雪奈の助言通り一枚は放出用、もう一枚は回収用として一直線上に配置されたトランプを確認してから静希は深呼吸する


「よし、いくか」


「いやぁ、ドキドキするね」


静希も雪奈も興奮とは別の意味で心臓が高鳴っている


不安もそうだがなにが起こるか分からないという未知に対しての高揚感は男女共通らしい


雪奈を普通の女子として見ていいのかはこの際おいておこう


「んじゃ・・・3、2、1、キュー」


静希が指を弾くと同時に片方のトランプから無人機に向けて光の筋が放射される


それはあっという間に無人機の装甲の色を真っ赤に変化させていく、強固であったはずの装甲は融解し数秒で一機を貫通しもう一機に高熱を叩きつける


そしてさらに数秒後には残った一機の無人機も貫通しゴールである収納し続けているトランプへと光を納め始めた


それを確認するや否や静希は光の放出を止めてトランプを回収する


二人はトランプが戻ってくるのを確認してから視線を合わせて恐る恐る扉から顔を出して被害を受けた無人機を覗き見る


無人機は光が照射された場所が見事に変形してしまっている、内部の回路や機材も一緒に熱で溶かされていた


「うっへ・・・予想外の威力、これはまさにビームだね、いやレーザー?」


「どっちでもいいけど、これは安易には使えないな」


「へ?なんで?強いじゃん」


雪奈は強ければ使えるという考えのようだ、単純かつ前衛らしい考えなのだが静希は違う


強すぎるから使ってはいけないのだ


以前から所有している硫化水素のように一歩間違えればたくさんの命を奪える


しかも今回の場合静希が光を放出する際に行った時間が問題だった


「まだこのトランプの中、かなりの光が残ってんだよ・・・二割くらいしか消費してないと思う」


「二割・・・それ全部使ったら・・・」


「・・・最悪、一帯の気温が急上昇する」


静希が日中に太陽光を吸収するのは多く見積もって八時間


そしてそれを七月末から一ヶ月間続けた


真夏の強い日差しを毎日収納し続け、二百四十時間近い光を放出する際、今回は五分で全てを放出するように調整して放出した


だが実際に無人機の破壊にかかった時間は数十秒


一分もかかっていない


もしこれをさらに短い時間に集約して放出した場合一体どれほどの熱量が一点に放たれるのか


間違っても人体に向けてはいけない武器の完成である


仕込みに時間がかかる上に、完成度が不明、しかも発動時間が短いほど威力を増す


なんとも扱い辛い手札ができたものだと静希は頭を抱えてしまう


機械相手にはちょうどいいがこういう無人機などを相手にすることなどもうほとんどないだろう


硫化水素に変わる切札にと思っていたが、これは想像以上だ


毒性の高い硫化水素とはいえ所詮は気体、風などで吹き飛ばすことは容易だがこの攻撃は光と熱の同時攻撃


鏡などで跳ね返せるレベルの熱量ではない


切札と言うには少々攻撃的すぎる


「何にせよ、無人機は破壊できたからいいじゃん、こっからはどうする?」


「正直俺らの仕事は無いと思うぞ?地下からは鏡花達、正面から陽太、たぶん地下からあがってきた二人と合流して上に移動するだろうし」


静希の読みは大方あたっている


時間は少しだけ遡り、門を突破した陽太はまず最初に目についた無人機に急接近し横から思い切り殴り付けていた


技術など何もないようなただのパンチ


だがその一撃で無人機は装甲をへこませ、ドラム型の機体は宙に浮き数m吹っ飛ばされる


そして転がった無人機を足蹴にし炎を全開にして内部にある回路ごと熱して破壊していく


「さぁてお仕事お仕事」


陽太の仕事は派手に暴れること、手始めに表に出ている無人機をすべて破壊するところから始めようとしていた


意気揚々と走りだし曲がり角でちょうど出くわした無人機を蹴りあげ、壁に叩きつけたうえで炎で熱し破壊していく


隊列を組んで攻撃を仕掛けてくるのならまだしも、単体でただ一定速度で巡回している程度の無人機に陽太は遅れなどとらない


カメラに陽太の姿を捉えてから攻撃態勢に入るのに若干の時間がかかる、その時間を見逃すほど陽太は甘くない


高速で外周を移動しながら四機の無人機を一分もかからずに破壊し終えると陽太は正面玄関の前に立つ


「よしよし、派手に行きますか!」


右腕に炎を集中し大きく息を吸い込む


陽太が槍を作成するにあたって得た副産物


炎の集中と解放


巨大な槍状にするには高い集中と時間を要するが、拳より少し大きい程度の形に押しとどめるなら数十秒程度でできるようになっていた


炎が直径二十センチほどの球体となって右手と同化したのを見ると、陽太は大きく振りかぶり、拳を扉に向けて叩きつける


そして拳と扉が触れる瞬間に炎を解放して物理的な破壊に加え爆発による衝撃を起こし扉を吹き飛ばす


陽太の予想よりも大きな音を立てて吹き飛んだ扉、どうやら机などを並べてバリケードを作っていたようだ


だが陽太の拳の前にはまったく無意味、そこいらに並べてあったバリケードごと力任せに破壊され、焦げた臭いをまき散らし、辺りにはガラクタと化した机が散乱している


「この!止まれ!止まらないと撃つぞ!」


廊下の一点から聞こえたのは男の声だ、だがその声は僅かに震えている


陽太がその声の方向に目をやると自動小銃をこちらに向けている囚人の姿がある


どうやらその様子からこの刑務所を占拠した犯人グループの一人のようだ


だがその姿は陽太の目から見てもあまりにもお粗末な構えだった


以前見た特殊部隊の人間のような型にはまったものではない


腰が引けている上に恐らく狙いも定まっていない、完全に訓練されていない無能力者のようだった


しかもその体は僅かに震えている


恐らく陽太の姿と先ほどの攻撃を見ていたのだろう、明らかにその表情は恐怖に支配されている


「おとなしく投降しろ!そうすれば怪我しないで済むぞ!」


「ふ、ふざけるな!我々は『神の手』を救いだすまで止まらん!」


声を裏返しながら引き金にかけている指に力を込め始める


話をしている余裕なんてないなと理解すると同時に陽太は疾走する


陽太が動くと犯人は大声を上げながら銃を乱射する


だが高速で左右に移動しながら接近してくる陽太には一発もあたることはない


距離がゼロになる瞬間陽太は通り過ぎざまに持っていた小銃を掴み熱と腕力で二度と使用できないように破壊してしまう


「ったく、誰かに当たったらどうするつもりだっての・・・で?まだやるか?」


「ひっ・・・!」


男は恐怖で顔をゆがめながら尻もちをつきながら後ずさりしている


さすがに何の武器もなしに能力者と戦うような気合はないようだった


いや、陽太のこの姿を見ては戦う気力など簡単に削がれてしまうことだろう


とにかくまずは拘束しなくてはと思い近付こうとすると後ずさりしていく男の向こう側の曲がり角から無人機が姿を現した


とっさに地面を蹴り男の頭上を跳びこしながら急接近するも僅かに相手の攻撃の方が早い


機体側部から飛び出した黒い物体から何発か制圧用のゴム弾が射出される


常人が受ければまず強烈な痛みを覚えるだろう威力を備えているそれは、陽太の能力の前にはまったく意味をなさなかった


腕を盾にして弾丸を防御しながら距離を失くし下から掬いあげるように思い切り殴り付ける


装甲と飛び出ていた射出口をひしゃげさせながら重いはずの機体は壁や天井を何度もバウンドしながら床に転がる


再起動しないようにしっかりと熱で破壊した後で陽太は近くにいる男を火傷しないように掴む


何か拘束できるようなロープか何かがあればよかったのだが近くにそんなものはない


「いいか?表にいきゃ警察の人がいるから、そこに自首しろ、でなきゃ消し炭にすんぞ?わかったな?」


「はははっはい!わかりましたから!殺さないで!」


さすがにビビり過ぎではないかと思いながらも、男を正面玄関から外へと放り投げる


無能力者からすれば自分は化物なんだなと改めて自覚しながら陽太は大きくため息をつく


「お前!そこで何をしている!」


またしても僅かに震えた声が聞こえる


どうやら二階から一人降りてきたようだった


やるせなさなど今は置いておこう


今はただ派手に暴れるだけ


陽太は大声を上げながら銃を放ってくる男に向けて突進する


メッセージにより誤字報告を受けまして、カウントが5になったので複数投稿


先日他の方の作品を見たときに挿絵が入っていまして、画才があるのがすごくうらやましくなりました


画才どころか文才もないですが・・・


情けない話ですがこれからもお楽しみいただければ幸いです

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