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なぜ日本の学者は「まちがえても撤回できない」のか

学者とは人柄を知らない時には、まったく素晴らしく偉い人に思われるのだが、近づけば近づくだけ嫌になるような人柄の人が多い。
学問が国民とまったく遊離しているという時の学者の典型は専門家である。
まったくの利己主義、独善主義、そして傲慢、しかも出世に対する極端な希求。早く、こんな型の学者の消え去る日が来ますように。

上の文章を私の日記だと言っても、ふだんこのnoteを読む人なら信じるだろう。まぁある時期からずっと、似たことばかり書いてるからだ。

「利己主義、独善主義、そして傲慢」ゆえかはともかく、学者がまちがいを撤回しない例としては、ノルドストリーム爆破事件(2022年9月)が広く知られる。当初は "ロシアの犯行" だと専門家に喧伝されたが、後の捜査はもうここまで来た。

ポーランド当局に逮捕されたのは、ウクライナ国籍の男性ダイバーです。また、イタリア警察もウクライナ軍元将校を逮捕しています。2人ともドイツ当局の逮捕状に基づいています。
 (中 略)
独メディアによると、元将校はウクライナ保安局(SBU)で働いていた経験があり、事件に関与したグループの中心メンバーとみられています。さらに、偽名のパスポートもウクライナで正規に発行されていたことから、国家レベルでの関与が疑われています。

毎日新聞、2025.10.2
強調は引用者

学者は別に神様じゃないのだから、①自分のまちがいを認めた上で、②理由を検証し「他山の石」に供する姿を見せれば、印象もよく信用が増すと思うのだが、そう考えない人もいるらしい。「出世に対する極端な希求」から来るのかは知らないが、参考までにご本人の弁を引いておこう。

それまで私はまったくもって無名の研究者で、誰にも知られることなく研究・教育生活を送っていたのですが、侵略開始以降数ヶ月は、日々の記憶が途切れるほど忙しくメディア対応をこなしていました。
 (中 略)
ウクライナに関する報道も減ってはきたものの、それでも私のような者に、今でも絶えず出演のお声がけをいただいております。
また、これまで想像もしなかったようなご縁での講演の機会など、新たなお仕事も数多くいただけるようになりました。

東野篤子氏note、2024.6.16

元「まったくもって無名の研究者」氏を相手にするだけでも、時間を取られて大変なのだが、近日は単著もあり「そこそこ有名だった研究者」からも、強力なライバルが出現した。以下でご紹介した、東京大学教授の隠岐さや香氏である。

9/29に前橋地裁で、「草津町長から性被害を受けた」と虚偽の告訴をした元町議に有罪判決が下った。で、2019年の問題発生時に(嘘の)告発を鵜呑みにし、名誉毀損を繰り広げながら謝罪を拒む者への批判が高まり、その代表が隠岐氏なのだ。

強調・リンクも原文ママ

学者が①冤罪で他人を中傷し、しかも②誤りが立証されたのに謝らないのはかなりマズいと思うが、本人は平気らしい。なのでいまや、この人を起用する "人権派のリベラル紙" にまで、キャンセルが広がりそうな勢いだ。

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2025.10.3(撮影)

しかし本人の繰り出す「謝らない理由」は、掘り下げるとなかなか深い。要約すると、「第三者委員会を設けずに冤罪に反論したから、怪しく見えたんだ。そもそも怪しい振るまいをしたやつが悪い!」だそうである。

当事者が「犯罪だ!」「冤罪だ!」と叫びあって、声の大きさで事実が決まるわけはなく、通常は捜査機関や司法が真実の解明にあたる(実際に町長は即、名誉毀損で告訴していた)。ところがそうでなく "第三者委員会" なるものが、正しさを判定する不可欠の審級だと信じる人もいるらしい。

名づけるなら "第三者幻想" だろう。もっぱら「当事者ではなく、第三者だ」という立ち位置にいることをもって、だから公平中立な正解を出せる(はずだ)と思い込む俗信である。

で、それはこの国では、昔から珍しくない。

2013年に私と作った共著で、日本中世史の東島誠氏いわく――

東島 御家人Aと御家人Bが対立した場合、AもBも、将軍との主従関係をパーソナルに(一対一に)結んでいるわけですから、将軍がどちらかに肩入れするわけにはいかない。……だとすれば、訴訟担当は別に作ったほうがいいということになる。
だから〔足利〕尊氏は、訴訟を裁許する「下知状」を一切出さず、もっぱら弟直義に委ねたというわけです。

89頁(段落を改変)

この発想の欠点は、まず①じゃあその「第三者ポジション」を狙えば美味しくね? といったハイエナを惹き寄せることだ。私はあくまでセンモンカ、あれこれ口は出すけど実行はしない役職です、当事者じゃないんで、みたいな話である。

次に、そんな役得ポジションを設けると、②当事者が責任回避のために依存する悪癖が生じやすい。第三者の「裁定に従っただけなんで…」という形にすれば、後で失敗がわかっても言い逃れられる、とつい頼っちゃうわけだ。センモンカに諮問する政府のように。

無名か有名かはともかく、学者が妙に「第三者を持ち上げる」のは、ひょっとすると本人がその椅子に座りたいのかもしれない。

が、世の中は甘くない。

そんな虫のいいポジションに他の "人" が座るくらいなら、同じ責任回避でもむしろAIに外注しますね――といった、今日の事態について、10/10のプレジデントオンラインでお話しした。せっかくだし、歴史の「専門家」らしいひねりを入れて。

こうした現象には歴史上、先例が多い。有名なのは戦時中の陸海軍です。
 (中 略)
敗北し司令官が更迭されても、当の作戦を立てた参謀はそのまま居座って、次の作戦も立てる例が多かった。名義上の運用者と実権の所在とが異なる「参謀型リーダーシップ」が、無責任をはびこらせ敗戦につながったと、半藤一利氏など多くの昭和史家が指摘しました。

参謀や専門家に判断を丸投げし、「プロの助言に従っただけだ」として責任の回避を図る日本の指導者は、書類づくりを生成AIにやらせれば、ミスを指摘されても「AIが言ったんで……」で乗り切れると思う若者と変わらない。意思決定の責任を負うことを渋ってきた日本人の習い性に、いまはAIが接続されただけとも言えます。

1-2頁

センモンカのような口だけ参謀や、さらにそのネット取り巻きのリポストだけ参謀(笑)が、令和になっても "戦時中" をコピーしている件は、まさにノルドストリーム爆破の頃から指摘してきた。ホンモノの歴史家には、このくらい楽勝である。

笑えないのは、今回の冒頭の引用だ。

戦後80年の話題書のひとつだった『南方抑留』に、東京帝大の哲学科を出た後、見習士官としてビルマに飛ばされた林禮二の手記が出てくる。1920年生だから、翌年生まれの山本七平とも(学歴は高いけど)そう変わらない。

日記でも「考へる葦としての個人」であろうと努める、醒めた知性を持っていた林は、敗戦を目前にして、日本軍の欠陥をこう記した。学者や専門家が "参謀病" に憑かれた令和のいま、彼らにつけるべき薬は、すでにこのとき出尽くしている。

「参謀とは人柄を知らない時には、全く素晴らしく偉い人に思はれるのだが、近附けば近附くだけ嫌になるやうな人柄の人が多い。
 軍が国民と全く遊離してゐるといふ時の軍人の典型は参謀である。
 全くの利己主義、独善主義、そして傲慢、而も立身に対する極端なる希求。早く、こんな型の軍人の消去るべき日の来らんことを」
(一九四五年七月六日)

85頁

参考記事:

(ヘッダーは「謝ったら死ぬ病」を論じる、今年3月の産経新聞より)

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はじめまして!楽しく拝読させていただきました。先生がつく仕事の人にろくなやつがない、みたいな話は好物なのですが、最近だと学者とそれに金を与えるグループをDSと呼ぶくらいには問題化されて良い傾向だと喜んでいます。 既読かもですがノルドストリーム爆破関連についてはフランスの学者エマニュ…

2025年5月に『江藤淳と加藤典洋』を出して、「戦後批評の正嫡」になりました。もとは日本史のお店で修業したので、歴史の素材を活かした味つけに定評があります。ここに載るのはささっと仕上げた軽めの料理ですが、楽しんでくだされば幸いです。(2023年11月開店)
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