話を聞かない子・何度言ってもわかってくれない子の「聞く力」を伸ばす方法【脳専門の小児科医師が解説】

「絵本を読み終わったら片付けようね」「お友だちをたたいちゃダメだよ」などの注意を何度しても、同じことを繰り返してしまう。そんな子どもに対して、「なんでわかってくれないんだろう」と頭を抱えている方はいませんか?実はそれ、子どもの性格や気質に問題があるわけではなく、脳の「聞く力」が十分に育っていないせいかもしれません。
小児科専門医の加藤俊徳先生によると、そうした子どもはそもそも話を「聞けていない」ので、何度言い聞かせても意味がないのだとか。だとしたら、どうすればいいのでしょうか。加藤先生は「保護者や保育者のちょっとした働きかけで、“聞けない脳”を“聞ける脳”に変えられる」と言います。脳の話と聞くとなんだか難しそうですが、ちょっとした働きかけであればすぐにでも実践できそうですよね。聞く力を育てるための方法やポイントについて、詳しく聞いてみましょう。
\お話をうかがった方/
加藤俊徳さん
脳内科医・小児科専門医、加藤プラチナクリニック院長
音読困難を改善する助詞強調音読法や、機能別に脳を鍛える脳番地トレーニングの提唱者。1995年から2001年まで、米ミネソタ大学放射線科で脳画像研究に従事。帰国後、慶應義塾大学、東京大学などで脳研究に従事し、「脳の学校」を創業。現在は「加藤プラチナクリニック」を開設し、独自のMRI脳画像診断で薬だけに頼らない脳の処方を行っている。多くの著書・監修書を手がけており、最新刊に『脳を育てる 0さいから おやこのおんどくえほん』(KADOKAWA)、『1万人の脳を見た名医がつきとめた 機嫌の強化書』(SBクリエイティブ)がある。

人の話を「聞けない」子に、何度言っても意味がない理由

──同じことを何度言ってもわかってくれない、人の話をきちんと聞けない。子どもに対して、そんな悩みを持つ保育士は少なくないように思います。話を聞けないのは、子どもの性格が関係しているのでしょうか。
加藤:性格は関係ありません。私自身、かつては話を聞けない子どもだったのですが、自分が「聞けない子だった」と気づいたのは45歳ごろのこと。脳の専門家として経験を積み、脳に関する知見を極めたことで、ようやく認識できたのです。
話をきちんと聞けない原因は、脳にあります。言い方を変えるなら、「聞けない脳」になっているのです。聞けない脳とは、物理的に音が届いていても、それを適切に理解したり、情報を記憶してうまく処理したりできない脳のことです。そして、脳の聞く力が弱いと、相手の声が音として聞こえていても話の内容が頭に残らず、右から左へと通り過ぎてしまいます。何度言ってもルールを守ってくれないのは、そのせいなんです。
──聞かないのではなく、脳の理解や記憶が追いついていないのですね。もし、聞けない脳が未発達なままだと、どのような弊害が生じるのでしょう。
加藤:脳の聞く力が弱い、つまり情報を適切に理解したり、処理したりする機能が十分に育っていないと、園生活に支障が出る可能性があります。言うことを聞かずに保護者や保育者を困らせてしまうのも、そのひとつです。また、子どもは3歳を過ぎると同じ年齢くらいの子ども同士で会話をするようになりますが、相手の話を聞けなかったり、お友だちの声に注意が向かなったりするとコミュニケーションが成立しません。
小学校に進学して勉強するようになると、影響はより大きくなります。学校の授業はおよそ9割が「先生の話を聞く」ことですよね? ですから、話を聞けないと学力が上がらないのはもちろんのこと、授業がつまらなくて勉強が嫌いになったり、最悪の場合、不登校につながったりすることもあります。
──それは心配です。そうならないための対処法はあるのでしょうか。
加藤:安心してください。脳の聞く力は、何歳からでも育てることができます。特別なトレーニングをしなくても、周囲の大人がちょっと意識して子どもに接するだけで、「聞ける脳」に変えられるのです。
聴覚系・理解系・記憶系脳番地の発達が、聞く力に関わってくる

──聞ける脳の育て方をお聞きする前に、子どもが聞ける脳なのか、聞けない脳なのかを見極める方法があれば教えてください。
加藤:見極めは簡単です。子どもに対して言ったことを、そのまま同じように復唱させてみてください。3歳くらいの子だと「かわいいお人形」とか「赤い風船」「黄色いひまわり」くらいの言葉でしょうか。4歳以降になると短い文章を話すようになるので、「今日は朝ごはんを食べてきました」くらいがいいかもしれません。それを一度聞いただけで、間違えずに言えればOK。聴覚系脳番地と記憶系脳番地の発達に問題はないと考えていいでしょう。
──「脳番地」というのは、先生のご専門ですね。もう少し詳しく教えていただけますか?
加藤:せっかくなので、聞けない脳のメカニズムからお話しましょう。人間の脳には1,000億個を超える神経細胞が存在しており、同じような働きをする脳細胞同士が集まって、いくつかのエリアを形成しています。
私は、働きごとに分かれた脳のエリアのことを「脳番地」と呼んでいますが、脳番地には以下の8つがあります。
| ・聴覚系脳番地…耳で聞いた情報を脳に取り込む ・視覚系脳番地…目で見た情報を脳に取り込む ・記憶系脳番地…耳や目からの入力情報や経験した情報をたくわえ、必要なときに供給する ・理解系脳番地…与えられた情報を理解し、役立つように整理する ・思考系脳番地…何かを考えたり、判断したりすることに関係する ・伝達系脳番地…コミュニケーションを通じて意思疎通を行う ・運動系脳番地…身体を動かすこと全般に関係する ・感情系脳番地…喜怒哀楽などの感情を感じ取る/自分の気持を生成して表現する |
8つの脳番地のうち、聞く力にダイレクトに関係するのは、左右の耳のすぐ近くの脳に位置する聴覚系脳番地です。耳から入った情報は、まず脳幹に入り、そこから聴覚系脳番地に届きます。ここの発達が遅れ気味だと、音を正しく聞き取ることが苦手になってしまいます。
そして、聴覚系脳番地に届けられた情報を理解するためには理解系脳番地へ、記憶するためには記憶系脳番地へと、十分な情報を届けなければなりません。このふたつの脳番地に情報が届くことで、ようやく「聞けた」ことになるのです。
脳を成長させるには、「情報を入れて出す」のくり返しが大事

──聞ける脳になるためには、聴覚系脳番地だけでなく、理解系脳番地と記憶系脳番地も育てなくてはいけないということですか?
加藤:そのとおりです。さらに言うと、聞けた情報が最後に伝達系脳番地に届くことで、その情報を話す、書くといったアウトプットにつながります。
実は、脳が成長するのに欠かせないのが、「情報を入れる(インプット)」と「情報を出す(アウトプット)」というふたつの活動です。このふたつの経験を積み重ねることで、各脳番地が発達するだけでなく、脳番地同士をつなぐネットワークが強化され、脳がどんどん成長していくのです。
──とはいえ、聞けない子の場合は耳に情報を入れること自体が難しいのではありませんか。
加藤:それにはちょっとしたコツがあります。まずは、できるだけ1対1になって話すようにしてください。そのときは、「あなたに話をしているんだよ」とわかるように、対面で相手を見つめながらゆっくり話します。あるいは、肩を抱きながら話してもいいかもしれません。
言いたいことを話し終えたら、ちょっと待つようにしましょう。子どもの多くは脳内ネットワークの発達が未熟なので、聴覚系脳番地から音情報が入り、それを理解系脳番地や記憶系脳番地に送り届けるのに時間がかかってしまいます。しびれを切らして、「ちゃんと聞いてるの?」などとせかすのは禁物です。
しばらく待ってみても表情が変わらない、返事がないようであれば、情報が脳に届いていない証拠。次は耳元でしっかり、もう一度同じ言葉を伝えてあげてください。そうしたことをくり返しているうちに、それぞれの脳番地が発達し、ネットワークの枝ぶりが太くなっていきます。
返事があった場合は、「あなたの話をきちんと聞いていますよ」と相手に伝わるような言葉がけや表情を意識しながら、話を聞いてあげるようにしましょう。「やさしく聞いてもらった」という記憶が残ると、それを脳が学習し、今度は自分が人の話をしっかり聞こうとするはずです。
「音を聞きながら体を動かす遊び」が脳番地を発達させる

──子どもが話を「聞いていない」のではなく、脳の聞く力が育っていないのだと知っていれば、イライラしたり焦ったりすることもなくなりそうです。
加藤:そもそも、聞き方がわかっていないのだから、ルールなどを言って聞かせようとしてもうまく伝わりませんよね。そんなときは、子どもが興味を持つ話から始めるのがいいかもしれません。
なぜかと言うと、人間の脳は「楽しい」と感じるときに活発に働くからです。その意味では、遊びのなかに「聞く」という行為を組み込むのもおすすめです。
たとえば、ダンスやラジオ体操など、音を聞きながら体を動かす遊びをみんなでやってみてください。そうすることで、聴覚系脳番地から運動系脳番地へのルートが強化される可能性が高まります。
また、逆さ言葉遊びやしりとりも、聴覚系・伝達系・理解系脳番地の発達を促進します。声には出さないけれど、思考の手段として心のなかで使われる言葉を「内言語」と呼びますが、聞けない子どもは自分の声も聞いていないのです。自分の声が聞こえていない子どもは、話すときに語尾が下がり、相手に聞こえにくいのが特徴。内言語を育てるためにも「スイカを逆から言ってごらん」と問題を出してみたり、しりとりで遊んだりしてみましょう。
それから、「大きな栗の木の下で」「グー・チョキ・パーで何つくろう」「アルプス一万尺」などの手遊び歌も、ぜひやってほしい遊びのひとつです。大人が歌にあわせて手本を見せたら、子どもたちはそれにならって手や体を動かす。このときは自分の声がしっかり聞こえるように歌ってほしいです。それによって、聴覚系→運動系脳番地のルートが強化されます。相手の動きを見て、それをまねて動くと、視覚系→運動系脳番地のルートも鍛えられるでしょう。
──手遊び歌が、聞く力につながるというのは意外でした。子どもたちの大好きな遊びですから、すぐにでも保育園で実践できると思います。
加藤:私のクリニックには、聞けない脳のせいで仕事やプライベートに問題を抱えた大人が数多く訪れますが、大人の脳育ては子どもに比べて労力も時間も桁違いに多くかかります。
聞けないまま成長したために、大人になってから深刻なトラブルに見舞われてしまった。そんな事態を回避するためにも、脳が成長しやすい子どものうちに、聞けない脳を聞ける脳にしておきたいものです。
今回、お話した話し方のコツや手遊びなどを保育活動に取り入れて、子どもたちの聞く力をしっかり育ててあげてください。
取材・文/岸良ゆか


