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可愛いの裏側:中国の地雷系女子という闇

今回の記事は中国の地雷系女子の解説です。この文化から中国の社会が見えてくる二つの文章を紹介します。

【コンテンツ注意】
本記事には、摂食障害/過量服薬/自傷・自殺/性搾取に関する記述が含まれます。該当のテーマが精神的負担となり得る方は、今ここで離脱するか、留意しながらお読みください。

本稿は社会的現象の解説を目的としており、行為を助長・美化せず、具体的品名・用量などは記載しません。

「モンスター茶漬け」:日本の拒食カルチャーが中国の少女に届いた

“魔爪泡饭”:日本厌食文化找上中国少女

無限に広がるインターネットには、私たちがまだ開けていない暗室が無数に存在している。もしその暗室に入ろうとするなら、心の準備を万全にしてほしい。今日、私たちが開いたその部屋には、拒食症、精神疾患、そして薬物乱用に向き合う若者たちがいる。

モンスター茶漬け

すべては一杯の「モンスター茶漬け」から始まった。

とある二次元系の投稿者が、抖音(中国版TikTok)で「日本女性の異常食」動画を連投したのだ。

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エナジードリンクのモンスター、カラフルなミントタブレット、白いご飯。それぞれ単体なら普通だが、混ぜ合わせてかき回したときの視覚的インパクトは言うまでもない。

中国の若者が「奇抜」だと思った時、ネット越しに日本の若者から往復ビンタを食らう。東アジア全体を見回しても、日本人ほど精神状態が「奇抜」な民族は見当たらない。手がかりをたどってTikTokへ行くと、抖音の動画は日本の若い女性の投稿の転載だった。

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日本人はお茶漬けが好き、それは周知のとおり。

だが、緑色のエナジードリンクが白米の茶碗にゆっくり注がれ、その上にミントタブレット1箱が覆いかぶさる光景は、冷涼感と異様さが一気に押し寄せ、脳が萎縮する。まるでモンスターがかけられているのは米ではなく、私の頭だ。

国内のショート動画プラットフォームでも、すでに「モンスター茶漬け」に挑戦する人が続出。「いける」という人もいれば、歯を食いしばる人もいる。

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ここで視聴者の疑問「なぜそんな食べ方を?」
理由は単純、インプレッションだ。

地雷系女子

モンスターは普通の人にとってはせいぜい目覚ましの道具。しかし地雷系女子の手にかかれば、欠かせないファッションアイテムだ。初めて「地雷系女子」を聞くと戸惑うかもしれない。新語ではなく、中国の若者のサブカル圈で流行している概念だ。

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「地雷系女子」は日本のSNS発。外見は可愛いが、内面に情緒不安定や極端さを隠し、場合によっては精神疾患を抱え、うっかり地雷を踏むとただでは済まない。そんな像だ。

彼女たちは強いコントラストを持つ。見た目は無害だが、実際には予測不能の攻撃性を帯びる。

「白・細・幼」に耽溺する日本人にとって、病み可愛い(ヤンデレ)要素を兼ね備えた小柄で愛らしい少女像は、オタク層に刺さる。地雷系女子が日本で火がつくのは不思議ではない。

ここから派生して、「地雷系」は特定の着こなしの美学にもなった。ロリータ・甘めの系統をベースに、ダーク系の服にピンクや白、レースやリボンを大量にあしらい、足元は黒の厚底がマスト。

メイクは「無垢感」と「壊れ感」を強調。大径カラコン、垂れ目ライン、チークは必須。甘い顔に対し、顔面のピアスが強烈な反差を生む。SNS写真は過度補正の「大きな瞳のドール」がデフォ。

では、なぜ地雷系女子が中国の若者に刺さったのか?

地雷系女子という東洋カルチャーの産物は、すぐに国内の二次元サブカル層に伝播した。

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様々な地雷系

二次元界隈はそもそもマウントのヒエラルキーが厳しい。ちょうど「地雷系女子」は本場直系で「日本味」が濃い。「日本度」を高めた血統を示すために、国内の地雷界隈には有名な合言葉がある。

「去中味」(中国味を抜け)

彼女たちが言う「中国味=ダサい」。「去中味」は食から服、髪型、口癖、内面から外見まで、中国人性を示す全てを濾過すること。

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去中味を求める人たち

新宿の地雷系と同様、国内のティーンもダークロリータをまとう(当然に中国国内では正規品/コピー品論争も当然にある)。前髪は厚く、巨大カラコンと付けまつげ、垂れ目ライン・涙袋は標準装備。

ただ外形だけ真似ても「地雷の神髄」は掴めない。ただのファッションだ。
だからこそ本物の地雷系女子は本当に「病む」。

トレンド追随は生活様式と美学の丸ごとの模倣。そこで地雷系女子によく見られる疾患 : ED(Eating Disorder/摂食障害)が重々しく登場する。

EDは通俗的にいえば拒食症。不規則な食、容姿不安、細さの追求で、拒食が日常化。

日々の摂食量はごく僅か1日300kcalにも満たない(成人推奨は約2000kcal)。食事は彼女たちにとって災厄だ。

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EDの一日の食べ物という投稿

日本の「モンスター茶漬け」は、ある意味でED人たちの栄養代替となる。低血糖で倒れるのを避け、安価で一日の糖を補える。日本のこの手のカルチャーは強烈だ。若者は見れば本当に学ぶ。国内の地雷系女子たちも続々模倣、一人一杯・モンスター茶漬け。

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多くのEDは、最初は意図的な食事制限から坂を転がり落ちる。

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上:「この太めの腕、どうやって細くなりますか?お願いします」
返信: 「私みたいに、数日、飢えるだけでよくなるよ」

とあるSNSで「ED地雷」で検索すると、互いに寄り添う若い少女たちが、減量レシピや断食のコツを共有している。

そのレシピを見れば、真の「背筋が凍る体験」が分かる。思春期の少女の食事量は生命の下限だけを辛うじて支える。多くは高校生、最も体力・知力を消耗する時期だ。

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様々なED食

ED(摂食障害)に加え、OD(過量服薬)も日常化。国家の規制前、咳止め薬のODでソフトドラッグ効果を狙うのは珍しくなかった。

咳止め薬が規制されると、すぐに代替品が出回り、食欲抑制・過食防止のためにODするティーンの投稿が現れた。

若者たちは「今日は何錠ODしたか」を語り合う。治療中の患者が聞けば腰を抜かす量だ。実際、これらは医師管理下で繊細に用量調整が必要であり、体重増加、眠気/不眠、頭痛などの副作用もある。

長年のうつ病患者は言う。デリバリー薬局の電子処方でも精神薬が買え、薬局での入手も比較的容易。ネットの利便性が未成年のアクセスを増やしている。SNSでは処方箋の買い方まで議論されている。

さらに深刻化すれば自傷へ。仲間うちではリスカを「改花刀」と呼ぶ。

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「花刀」とは食材への切り込みのこと

精神疾患の若年化

直視すべきは、精神疾患が低年齢化していることだ。多くのティーンが苦しんでいるのに、短絡な親は「反抗」「怠け癖」で一括り。『2022年国民うつ病報告書』によれば、18歳未満が患者の30%、うち50%は在校生。青少年のうつ有病率は15〜20%で成人に近づく。

多くの10代はいまだ息苦しい家庭にあり、家と親が最大のストレスの要因だ。未成年にとって家から逃れるのは遥か先のこと。救助の声は社会の雑音にかき消される。

学校の同調圧力、性の早熟、巨大な学業のプレッシャー、物理・精神的いじめ、どれに躓くか分からない。まして社会全体が女性にモノ化の眼差しを注ぐ。

北京大学付属病院や上海市精神衛生中心の摂食障害病棟では、病を維持しようと「ずる賢く」立ち回る重症の少女もいる。袖やポケットに食を隠し、飯粒を衣服に貼る、椅子のパイプに食べ物を隠す者までいる。

私たちは精神疾患の低年齢化をSNSの発達のせいにしがちだ。だがSNSは世界的な精神不安の増幅器に過ぎない。近代性こそ人々の精神状態を悪くする主因で、この傾向は20世紀初頭から加速している。SNSは問題の浮上を早め、大衆の視野に入れたに過ぎない。

現代社会は不確実性に対する許容を下げ、個も集団もリスク回避に執着し、学びと仕事の無意味感は深まり、不平等や富への憎悪は増す。

世界はもとより若者に善意を向けていない。地雷系を語るその時、私たちは考えてもよいのではないか。彼女たちはなぜここに至ったのか。私たちは若者にどんな世界を手渡したのか。


以下は実在する中国の地雷系女子へのインタビュー記事です。原文は内容が非常に過激なため一部省略しており、リンクも付けていません。


パパ活、薬物、そして自己破壊:19歳「地雷系女子」の生存サンプル

人物インタビュー:リリス(莉莉丝)
「みんな、私の人生は映画みたいだって言う」

いったいどこで歯車が狂ったのか?

すべては孤児院の前に置かれた段ボール箱から始まった。箱に入っていた赤ん坊、それが今回の主人公、リリスだ。

彼女は言う。「みんな『段ボールに入れられて孤児院の前に置かれていた子』ってしか覚えていないの」

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最悪のスタートと呼んで差し支えないだろう。けれど運命はそこで彼女に死刑宣告を下したわけではなかった。もう一つの窓、養子縁組が開いたのだ。彼女いわく、育ての家族はとても良かった。

こうした家庭環境なら、順風満帆とまではいかなくても、少なくとも極端な道には逸れなさそうだ。だが残念ながら、彼女は模範的な良い子にはならなかった。道を踏み外し、自分には本来関係ないはずの世界へと足を踏み入れていく。

この点で、私は「地雷系は多くが家庭の問題から来る」という自分のステレオタイプを打ち砕かれた。

彼女の自己紹介はこうだ。 

「2006年生まれ、最終学歴は中学。夜の仕事フルタイム。今は違法薬物の手伝いの件で保釈・審理待ち。アウトローだったけど、すでに足を洗った」 

会話の中で、彼女は「他人の違法薬物購入を手伝って警察に連行された」と明かす。それとは別に、彼女は「ストリートワーカー(性労働者)」でもあった。

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自称「店のトップ」で、月収は10万元にもなり、8,000元で撮影を許したこともあるという。現在は薬を断ち、やり直す決意をした。いったい何が彼女をそうさせたのか。彼女の語りをもとに、背景を辿ってみる 

まだ19歳にして、幾つもの「やってはいけない線」を踏み越えた。もし公になったら、即「数年コース」だろう。

守備範囲は広い。人民元のクリーニング(資金洗浄)から性労働、女衒、さらには違法物質の運びまで。彼女は「たくさんの薬物を摂ったが、中毒ではない。ただ依存はした。週に2〜3回、必要だった」と言う。

「毎日OD(オーバードーズ)していた。寝起きの一発目がOD。ある咳止めが自由に買えた頃は、親から食費を騙し取り、それで咳止めを買って飲んでいた」 

診断は双極性障害、ADHD、全般性不安障害。
「今は病気と共生している」と話す。

恋愛脳で、かつ少し歪みがあると自己評価。
元カレに振られた後、彼の大学の寮や教室、図書館で待ち伏せし、家にデリバリーを送り、同級生に様子を探らせた。半月続け、面倒になってやめた。5〜6個のサブアカで彼のSNSの動向を探ることも。

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「こうなった原因は、初めて本気で好きになった相手からのPUA(洗脳的モラハラ)と継続的な言葉の暴力」

別れて以後、人が変わったようになり、自称「地雷系女子」へ。以前は普通だったが、喧嘩のたび情緒が爆発し、自傷や自殺をほのめかし相手を脅すように。

最悪の時は、様々な薬物を合わせて100錠以上を服用。遺書はあらかじめ送っていた。丸一日意識がなく、ルームメイトが警察に通報、遺書を見た母も通報。

朧げな記憶では、医師に「救命は不要」と何度も言った。だが事態は彼女の意志を超えて進み、気づけばICUのベッドの上だった。

「ICUは9回。死ななかったのは運が良かっただけ」 

彼女の誇れるところは、13歳で中退後、半年の独学で英語音楽や動画を翻訳できるまでにし、日本語も独学で学び海外旅行が楽にできる程度まで身につけたこと。 

いま彼女は宙ぶらりんの立場にいる。
「『普通の人』は私を『おかしい』と嫌い、私は『おかしい人たち』に耐えられない。ただ、今は徹底的に生き方を変えたいだけ」 

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彼女は幸い、薬物・薬の乱用からは完全に抜けた。今はまっとうに暮らしたい。明日がどうなるか分からなくても、今はシラフで生きたい。 

「今の夢は、平凡でいいからちゃんと生きること。振り返ると、まだ19歳。みんな私の人生は映画だって言う」

インタビュー

Q:直球で。もし「地雷系女子」、「精神病」などを使わずに一言で自己紹介するなら?
A:独立した思考を持つ「電波系のウジ虫」 

Q:孤児院の段ボールの話は、いつどう知った?
A:13歳。発作的に母と喧嘩した後、近所の人に聞いた。

Q:家庭は良さそうなのに、なぜ悪の花が咲いた?
A:環境、そして大人が「子どもの悪ふざけ」と誤解したこと。中学のいじめで学業を嫌悪。両親が私を叱らなかったのは自由に育てたかったから。ネットのOD検証を見て咳止めを試し、この界隈の人と知り合ってから全てが変わった。違法までの道のりは遠いと思っていた、ODは薬物ではないと思っていた。長期乱用で認知が変わり、付き合う人間が変わり、気づけば奈落。振り返った時には手錠がかかっていた。 

Q:最初の恋人のPUAや言葉の暴力の例は?
A:「お前みたいなのと付き合うのは俺くらいだ」、「その性格で友達がいないのは当然」、「俺はお前のためにやってる」 

Q:薬物100錠超でICU。目覚めた瞬間の感情は?
A:罪悪感。50年以上飛行機に乗らなかった母が、初めて乗ったのが私の自殺騒動のため。誰も巻き込みたくなかった。 

結びに

リリスの物語は、現代の若者が直面する情緒の袋小路と生存戦略の苛烈な標本に見える。PUAによる破壊、薬物依存、性労働、違法スレスレのラインを渡り歩き、断薬を試みる。それは単純な堕落の話ではない。

家族が心理の武装を与えず、教育が拠り所の価値を示せず、情欲の世界が搾取と背信に満ちた時、彼女に残るのは「自分の身体と欲望」と「手近な即効薬」だけだった。

矛盾こそ彼女の真実だ。 

法/道徳、情/利、絶望/希望という両極端の板挟みで「自分が必要とされたい」価値を証明しようとする。その代償が自己消費であっても。 

彼女が語るのは懺悔ではない。むしろ逆向きの救済だ。
自分の「いちばん見せたくない姿」を晒し、「ODするな」と道を示す。
「みんなが好奇心で辿るかもしれない道は、もっと深い痛みに通じる」と。 

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彼女はまだ19歳だが、すでに衝突と危険に満ちた個人史を生きた。
「みんな私の人生は映画みたい」と彼女が言う。彼女は物語を演じているのではない。極限状況で、自分の耐久と再生可能性をテストしている。

結末がどうあれ、彼女の努力はすでに個を越えた。小さくも眩しい灯台になった。人が道を誤るのは「道がない」からではなく、「道はあるのに、灯りが点っていない」からかもしれない。

彼女はいま、その灯りになろうとしている。たとえ壊れかけの灯芯でも。 


※注:本文にはOD(過量服薬)や自傷、性労働などの記述が含まれますが、いずれも推奨・助長する意図はありません。日本で緊急の助けが必要な場合、#7119(救急安心センター)や、地域の自殺予防・精神保健の相談窓口等にご相談ください。

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