BLUE ARCHIVE -SONG OF CORAL- 作:Soburero
許してください!コユキが何でもしますから!
労働担当と飯炊き担当と執筆担当で3人に分裂したい。
ある日のミレニアムサイエンススクール。
エンジニア部のハンガーには、あふれんばかりの人でごった返していた。
新素材開発部、MRaD、航空工学部、宇宙調査開発部、オーパーツ研究会、ミレニアム保安部。
部活や所属を問わず、ある出来事を一目見たいと集まっている。
レイヴンがウタハから完成の連絡を受けてミレニアムに来た時には、既にこの状態だった。
もちろん、これは普段のミレニアムからは考えられない、異常な風景である。
あるとしたら、エンジニア部が何かやらかして、保安部とセミナーに詰められる時くらいだろう。
この騒動の中心には、“仕事道具”の作成を依頼したレイヴンと、作成に協力した者たちが集まっている。
彼女たちの視線の先には、レイヴンの新たな相棒となる、2m程度の、首のない鋼鉄の鎧、新型パワードアーマーが鎮座していた。
このパワードアーマーの外見は、RaDの開発した調査・作業用ACのフレームとよく似ている。
鎧の全体は、艶の無い薄い茶色で覆われている。“先代”の機体と同じカラーリングだ。
この外見は、レイヴンとエアからの注文である。
もちろん、エンジニア部によって戦闘向けに、そして人が中に入ることを前提にリビルドされている。
胴体の脇腹辺りにあるはずだったウィンチやラックは取り外され、中央のセンサーも内蔵型に変更、各所が追加装甲で覆われている。
その他各所に変更が施された結果、全体的なシルエットを大きく変えることなく、戦闘に特化させることに成功している。
ブースターはAC規格ではなく、封鎖機構のHC機体から設計を流用。可動域を大きくとることで、総合的な機動性を高めることに成功した。
フレームパーツの換装機能を排することで、シャーシ剛性やアクチュエーター出力などの全体的な性能も高い。
ミレニアムが作り上げた兵器の中でも、特に高い基本性能を獲得している。
無論武装も潤沢である。
右腕には、メインウェポンとなる、7.62mm口径のガトリングガン。
機関部が前腕にマウントされるようになっており、取り回しと火力を両立している。
接近戦に備えるため、特にバレル周りが厳重に補強されている。
左腕は、爆雷散布機、
可動部を油圧シリンダーからソレノイドに変更したことで、軽量化しつつ動作も高速。
爆雷ラックを覆う可動式のカバーは、戦車並の装甲が用いられており、小型の盾としても運用できる。
右肩には、この機体に搭載できるように改造された大口径榴弾砲、MORLEY。
本来の設計では5発の小型榴弾をばら撒く特殊兵装だったが、小型化の影響でオミットされている。
それでも脅威は健在で、高性能の榴弾を上から直接叩き込めば、たいていの兵器はあっけなく沈むだろう。
左肩は、8連分裂ミサイルが搭載されている。
親弾頭から放たれた子弾頭1発1発が別の目標を追跡できるように改良されている。
爆薬の威力も十分で、陣地を崩すならこれを1発撃ち込むだけで十分だろう。
何より、この機体の最大の特徴が、動力源と制御方法である。
搭乗者を動力源兼CPUとしてみなす[コア理論]を採用。
ヘイローアンプによって搭乗者から動力を取り出し、搭乗者の脳に各制御を直結することで、自分の体のようなスムーズな操作を実現する。
もちろん、これを動かせるだけの動力が取り出せるものは少なく、鋼鉄の体の制御に適応できるものはさらに少ない。
結果として、この機体を扱えるのは、レイヴンただ1人である。
そんな怪物が今、レイヴンに引き渡されようとしてる。
「……で?どうしてギャラリーが居るんだ?」
何か原因が無ければ、こんな状況は生まれない。
誰かが噂を流したか、こいつらから話が漏れたかの2択だろうが。
俺の質問に対し、コトリが神妙な面持ちで答える。
「実は、レイヴンさんのパワードアーマーの噂がミレニアム中に伝わってしまって、その性能を一目見たいという事で、こんなに集まってしまったんです……。」
「そう珍しいものでもないだろうに……。」
「パワードアーマー自体はそう。でもこれは、オーパーツ由来の技術を大量に注ぎ込んでる。それがどう動くか気になったみたい。もちろん私達も。」
流石は研究者集団、好奇心旺盛なことだ。
知られたところで大した問題ではないのだが、大勢に見られるというのは、どうも落ち着かない。
ところで、さっきからミサトが険しい顔でタブレットとにらめっこをしているのだが、一体何を見ているのだろうか。
「言っておくけど、それの性能は人を殺せるものよ。乗った人間をね。」
「キヴォトス人でも12Gが限界の所を、こいつは20Gを平然と出せる性能をしてる。これまで作られた兵器の中でも、一線を画す負荷よ。」
「絶対に限界性能は出さない事、良い?私、知り合いの臓器破裂の応急処置なんてしたくないわよ。」
「問題ない。その性能で作れと依頼したからな。」
そもそも、元のACの時点で相当な負荷がかかる。
それに耐えるため、そしてACの性能を引き出すために強化人間技術がある。
俺は第4世代と言えど、コンセプトは同じだ。何も問題ない。
それを知らないミサトが負荷を心配するのは当然のことだろうが。
「そういう問題じゃ……!ああもう……。」
「とにかく、今回の起動試験は、常時バイタルを録らせてもらうから。何か異常が出たら即中止、良いわね?」
「了解だ。」
「……で?見ない顔も居るようだが。」
真っ白の制服、非常に長い白髪にヘッドギア、実体化しているような白いヘイロー、ブレザーのポケットから下げられたミレニアムの身分証。
そいつはメモ帳を片手に抱えながら、俺に対し軽く頭を下げてきた。
「初めまして。私は、セミナーで書記を担当しています、生塩ノアです。よろしくお願いします。」
『……どうしてセミナーが?普段は商品の引き渡しには干渉しないでしょう?』
「その通りです。が、今回は使われている技術が技術なので、はいどうぞ、と簡単に渡せるものではなくて。」
「それで、お前が監視役として来た、というわけか。」
キヴォトスからすれば、こいつはオーバーテクノロジーの塊だ。
他所に解析に回されたら困るから、本当に渡して大丈夫なのか確認する気なのだろう。
そう驚くような話でもない。
「はい。それと念のため、引き渡しの際にいくつか書類を書いて欲しいんです。」
「これはほとんど形式的なものなので、あまり気にする必要はありませんよ。」
「そうか。整備はエンジニア部に任せる予定だから、技術流出は心配しなくても問題ないと思うが。」
「まあ、一応規則ですので。お願いしますね、レイヴンさん。」
「さあ、立ち話もここまでにして、これを起動してみようじゃないか。」
「そうだな、始めよう。」
機体に近づき、せり出した左肩の先端に触れる。
そこには、エンジニア部に要望を出していた、新たなエンブレムが描かれている。
白地の盾の中に、翼を広げた黒い鳥。その鳥には、もう一対翼が付いている。
赤く透き通った翼。黒いレイヴンの翼と、赤いエアの翼だ。
今の俺達にはピッタリのエンブレムだろう。
機体の後ろに回り込み、背中に軽く触れる。
搭乗者を認識した機体が、腰のあたりを軸に前後2つに開いた。
適当な出っ張りを掴んで体を持ち上げ、足を差し込みながら背中のあたりに腰を据える。
そこから、足を中に滑り込ませ、つま先を底まで運ぶ。
左腕から肩の中に差し込み、深く差し入れてから、中のグリップを握る。
右腕も同じように差し込み、上半身を前半分に預ける。
ゆっくりと上半身が持ち上がっていき、プシューという音と共に、鎧が閉じられた。
ウタハたちが機体に近づき、手に持ったタブレットと共に、各所を確認していく。
まだ起動させてはいないので、動けないのがもどかしい。
「……うん、問題なさそうだ。」
「それじゃあ、早速起動しましょう!」
「調整しながら起動させるから、変な感じがするかも。気を付けて。」
「分かった。始めてくれ。」
『細かい調整はこちらで行います。始めましょう。』
ウタハたちがタブレットを触り始める。
後ろから聞こえる微かな駆動音が、こいつが目覚めることを知らせてくれる。
「ヘイローアンプ起動、出力上昇。」
「メインシステム起動、通常モードで作動中。」
『デバイスにアクセス、各種接続を同期、完了。』
「稼働準備OKです!アクチュエーターロック解除!」
各センサーがデバイスに接続され、感覚が一気に拡張されていく。懐かしい感覚が戻ってきた。
腕を持ち上げ、軽く手を開いて握り、感触を確かめていく。
前は確か、カイザーから強奪したパワーローダーだったか。
アレは性能が少し物足りなかった。こいつなら、俺に応えてくれるだろう。
「バイタル異常なし。ここまでは順調ね。」
「OK、ゆっくりよ。こっちに向かってゆっくり歩いて――。」
エアのおかげで同期と調整がほぼ終わっていたので、ごく自然にミサトの元へと歩く。
ミサトは俺が歩けると思っていなかったのか、目をパチクリさせていた。
何だったら、他の連中も同じような顔をしている。
「……何で、普通に歩いて来るの?訓練がいるものでしょ普通?」
「昔似たものに乗ってたからな。感覚はそう変わらん。」
「答えになってないわよ……!」
「ま、まあ、通常動作は問題なさそうだね。」
「これ、どうぞ。」
「そのヘルメットは気密構造となっています!バイザーを下ろせば、下は深度30m、上は1/4気圧の環境でも活動可能です!」
渡されたのは、この機体のためのヘルメット。
デザインは、“先代”が使っていた頭部パーツ、SHADE EYEとほぼ同じ。
バイザーをかぶせる部分が空洞になっており、肉眼でも外を確認できる。
両側を持って持ち上げ、頭へ深くかぶせる。
軽く揺すって調整すると、カチリと何かがはまったような音がした。
そのまま両手を放し、両目を閉じて軽くイメージする。
するとヘルメットのギミックが作動、バイザーが目の前まで周り、視界が閉じられた。
その瞬間、一気に視界が広がった。エアがヘルメットのセンサーをデバイスに接続したのだろう。
「接続も、問題ないようだね。次のテストに移ろう。」
ウタハに促され、ハンガーから外に出る。
普段であれば、屋外にも様々な機材が転がっているのだが、テストのために片づけてくれたらしい。
ここからは戦闘機動テスト。
実際に戦闘時と同じ動きを行い、問題が無いかを確かめていく。
正直やる意味はあるのか疑問だが、やらないと引き渡せない、と言われているので大人しく付き合う。
『機能制限を解除。ブースターを起動します。』
膝を曲げて軽くかがみ、すべてのブースターを稼働させる。
軽くイメージすれば、各所のノズルから赤い炎が噴き出した。
ブースター制御も問題ないようだ。
オォォ!!
カッコイイ!
イイナーウラヤマシイ。
「ここから本題よ。まずは出力を絞って――。」
ドゴォォン!
「爆発!?一体何が!?」
『こちら保安部!ジャンカーコヨーテスの襲撃を受けています!応援をお願いします!!』
ミレニアムの治安維持組織、保安部からの通信が入った。
ジャンカーコヨーテス。確か、ミレニアムの不良生徒達で構築された、反ミレニアム集団。
ジャンクを使って自立ロボットを作り上げ、時折ミレニアムを襲撃しているらしい。
決して
丁度いい、こいつらにはテストに付き合ってもらうとしよう。
『……なるほど。レイヴン、ここは私達の出番のようです。行きましょう。』
「えッ!?ちょ、ちょっと待って!まだ調整が――!」
『戦闘モード起動。出力制限解除。アサルトブースト始動。』
大きく屈みながら背中のヒートシンクを展開、ブースターのノズルが大きく開く。
キヒュルル、という独特な吸気音の後、レイヴンは赤い翼を大きく広げ、獲物の元へと飛び立ってしまった。
「……行ってしまったね。」
「……何なの、この負荷は……!」
<Over G! Over G!
「この荷重、いつブラックアウトしてもおかしくないのに……!」
ミサトのタブレットからは常に警告が鳴り響いており、本来であればすぐにテストを中止するべき状況だった。
だが、ウタハやヒビキがレイヴンのバイタルを確認すると――。
「……何も異常が無いね……。」
「もしや、これもレイヴンさんの能力の1つなのでしょうか……!?」
そう、戦闘時の興奮状態であること以外は、何も異常が無いのだ。
通常、人体が強いG荷重にさらされれば、血流が阻害されて視野狭窄などを引き起こす。
それが起きる兆候すらないという事は、測定機器の不調を疑わなければならないほどの異常事態なのだ。
それをノアも分かっているのか、神妙な面持ちでウタハに語りかける。
「う~ん……。ウタハ部長、やっぱり引き渡すのはやめた方が良いでしょうか……?」
「いや、渡しておこう。もうお代も貰ってしまっているし、それに……。」
「それに?」
「……今、アレを使えるのは、レイヴン、彼女だけだ。つまり、アレの稼働中のデータを録れるのは彼女がいるときだけ。」
「こんなチャンスを逃す手は無いよ。」
そう語るウタハの瞳は妙にキラキラとしている。
まるで、新しいおもちゃを貰った子供のように。
それを見ていたミサトがウタハを咎めた。
「レイヴンに何も異常が無ければね。戻ってきたら精密検査しないと……。」
「まあ、心配しなくても大丈夫だろう。彼女はそこまでヤワじゃ無いだろうさ。」
「それどこに根拠があるのよ……。」
「……マイスターの、直感さ。」
遠くで響く銃声と爆発音。
レイヴンと相対することになるコヨーテ達に、ウタハは心の中でそっと指をクロスさせた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
銃をぶっ放す多数の不良たち。その周りには錆が浮いていたり、ちぐはぐな塗装が目立つ沢山のロボット。
防衛線は保安部が何とか抑え込んでいるが、数の差が大きすぎる。
破られるのは時間の問題だろう。
「ハッハァ!!ミレニアムの真の支配者は、アタシら、ジャンカーコヨーテスだぁ!!」
「何言ってるんだ!そのロボットは元々ミレニアムのジャンクだろ!!」
「知らねぇなそんなこと!アタシらが作ってるからアタシらのモンなんだよぉ!!」
「コヨーテ共!やっちま――。」
ドゴォォン!
空から撃ち下ろされる榴弾。
その爆発に巻き込まれた不良とロボットたちが吹き飛ばされていく。
凄まじい爆風に、保安部たちも咄嗟に顔を逸らす。
「うわッ!なんだ!?」
「お、おい!空から何か来るぞ!」
パシュッドドドドォォン!!
赤い閃光と1本の飛行機雲。
雲が弾けた瞬間、それは8つに分かれ、不良たちへと襲い掛かる。
ミサイルの爆発と共に、烏は地面へと降り立った。
ドォォン!
「何だありゃぁ!?エンジニア部の新型か!?」
「あのアーマー、まさか……。」
バァァァァン!!
コヨーテ達の周りを旋回しながらガトリングを叩きこんでいく。
ブースターによる機動力が、相手が狙いを定めることを許さない。
回転する銃身から放たれた7.62mm弾が、不良の意識を奪い、ロボット達をズタズタに引き裂いていく。
「ウオォォォ!?!?何だあのスピード!?」
「クソッ!何でもいいから撃ち返せぇ!!」
コヨーテ達の周りを丁度1回転。
保安部とコヨーテ達の間を塞ぐように立ち止まり、左腕を構える。
盾のカバーが開きアームが延長。
左腕を振りぬくと同時に爆雷が放たれ、無数の爆発がコヨーテ達を焼き尽くした。
ガシャガシャン
バララララァァン!!
「チクショォ……。反則だろ、それ……。」
『敵部隊の殲滅を確認。』
『ミッション完了です。』
最初の榴弾砲の着弾から殲滅完了まで、僅か30秒。
これが、新たな翼を手に入れた、レイヴン本来のポテンシャルである。
――――――――――――――――――――――――――――――――
コヨーテ達との戦いの後、最終調整が必要とのことで、一旦エンジニア部にパワードアーマーを返すことになった。
2度と無茶はするなとこってり絞られたが。
「何でッ……!」
「何で何1つ異常が無いのよォ……!」
ミサトの指示で精密検査を受けたのだが、結果は何も異常なし。
強化人間の能力がまだ残っているおかげだろう。
ミサトとしては、この結果は信じられないらしいが。
「さあな、俺が知りたい。」
「でしょうね。そうでしょうねッ!ハァ……。」
「もう検査はおしまい。何1つ異常なし。健康体その物よ。何か違和感があったらすぐに教えて。いいわね。」
「了解だ。」
「それで?アレ、ナイトフォールだっけ?それがすんなり使えたのは、頭のデバイスと関係ある?」
ナイトフォール。“先代”が使っていた機体の名前。
エンジニア部の連中から名前の候補がいくつか上がっていたが、どれもふざけているとしか思えないネーミングセンスだったので、自分でつけることにした。
レイヴンの名前を借りていることだから、こちらも借りてしまおうという事で、この名前にしたのだ。
『確かにあります。アレはBMI*1デバイスとしても機能しますから。』
『最初の搭乗時に粗方調整は済ませてあります。』
「なるほどね。だから訓練なしでいきなり使えたって訳ね。」
「まあ、そのデバイスについても気になることが多いの。もし話す気になったら教えて頂戴。うちのサイバネ部が喜ぶから。」
「覚えておこう。」
「それじゃあ、ウタハ達の調整が終わるまで――。」
唐突にドアが開く。
その先に居たのは、床に擦るほど長く伸ばした髪、子供と見紛うほどの小さな体躯。
何より、その体躯に似つかわしくない、背中に背負った巨大な何か。
ミレニアムの制服を着ているから、生徒であることは間違いないだろう。
だが、何か違和感がある。
俺の疑問を余所に、彼女はミサトとウタハに駆け寄っていく。
「ミサト先輩、ウタハ先輩、こんにちは!」
「ん?おお、アリスか。調子はどうだい?」
「はい!今のアリスは、HPもMPも満タンです!」
「それは何よりだよ。」
「あらどうしたのアリスちゃん?剣の調子が悪くなったとか?」
「大丈夫です。勇者の剣は壊れたりしません!」
「そっかそっか。それじゃあ、クエストでここに来たの?」
「いえ、アリスはミレニアムにお客さんが来ていると聞きました。アリス、その人に会ってみたいです!」
「ならちょうどいい時に来たね。彼女がそのお客さんだよ。」
「そうなんですね!こんにちは、私はアリスです!よろしくお願いします!」
ウタハがそう促すと、アリスと名乗る少女はこちらの手を元気よく掴んだ。
純粋な幼子のような印象を受けるが、彼女は本当に生徒なのか?
「……ああ、よろしく頼む。」
「今のうちに子供の相手は慣れときなさい。将来苦労するわよ~?」
「どういう事だ……?」
「むっ。アリスは子供じゃありません。勇者です!」
「アハハッ!そうだったわね、ごめんね?」
『……ところで、何故アンドロイドがここまで高度な自我を?彼女は戦闘用でしょう?』
「――ッ!?」
エアの発言で場の空気が凍り付く。
彼女から感じた微かな違和感。
ルビコン、洋上都市ザイレムにて、多数の無人兵器と戦ったことがある。
その時に感じた、有人機とは異なる、微妙な感覚の違い。
何故か彼女から同じものを感じていたのだ。
「……どうして、そう思うんだい?」
『生体反応が無かったものですから。体内構造も、人間とは全く異なります。一体なぜ?』
「あ、アリスは、アンドロイドじゃ……!」
「……あなたと同じように、この子にも事情があるの。あまり深入りしないでくれると助かるわ。」
「……そうか。そうする。」
ミサトから険しい顔でそう言われたので、大人しく引き下がる。
まあ、ここはミレニアムサイエンススクールだ。
人造人間としてアンドロイドを作っていても何ら不思議じゃない。
カーラが作った、チャティという前例も居たことだしな。
「……そうだ!アリス、1つクエストをお願いしてもいいかい?」
「はい!どんなクエストですか?」
「彼女と、レイヴンと一緒にゲームをしてきて欲しい。この鎧の調整に時間が必要なんだ。」
「分かりました!レイヴンさん、行きましょう!」
「お、おいちょっと……!」
「はーい行ってらっしゃい。戻るころには終わってるはずよ。」
アリスは俺の手を掴んで、強引に引っ張っていった。
ウタハとミサトはアリスに引きずられていく俺を、生暖かく見守っていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「モモイ、ミドリ!ウタハ先輩からのクエストです!」
「うわぁ!?どうしたのアリス!?ていうか誰その人!?」
「アリスちゃん、いきなり人を連れてきちゃダメだよ。」
「大丈夫です!レイヴンさんと一緒にゲームをしてほしいっていうクエストですから!」
アリスに連れてこられたのは、小さな部室。
コントローラーや、その親機と思わしきもの、お菓子やジュースがたくさん転がった部屋だ。
その中に居たのは、瓜二つの少女が2人。
まとう雰囲気と瞳の色が違うくらいか。
「ああ、そういう事だったんだ。」
「な~んだ、お客さんだったんだね!」
「私達はゲーム開発部。私はシナリオ担当のモモイ。よろしくね!」
「姉、モモイの妹の、ミドリです。イラストレーター担当です。よろしくお願いします。」
「私はアリス。ゲーム開発部の勇者です!これまで何度も世界を救ってきました!」
「それはゲームの話でしょ、アリスちゃん。」
「部長のユズも今いるんだけど……。」
「……ロッカーの中、か。」
ガタンッ!
「すみません、人見知りなんです。」
僅かだが、ロッカーからチラチラとヘイローが見えていたのですぐに気づいた。
俺とアリスが入室した直後に、少女がバタバタとロッカーに駆け込んでいたのも見えていた。
恐らくはその少女がユズだろう。
「……レイヴン、傭兵だ。」
『そのオペレーターのエアです。よろしくお願いします。』
「はいはい!よろしくね!」
「傭兵……、荒くれものですね!パンパカパーン!レイヴンがパーティーに加わった!」
アリス、高度な自我を持っている割に、言葉遣いが怪しい。
というより、常に何かに例えているため、意図が読みにくい。
ミレニアムの技術力で、ハキハキ喋らせることができなかったとは思えない。
「……なあ、こいつは……。」
「えっと、こういう癖みたいなものなんです。気にしないでください。」
「……そうか、個性的だな。」
「それじゃ、何やろっか。ゲームなら色々あるよ。」
ミドリから促され、適当なクッションに座る。
すると、何故かアリスが隣にちょこんと座ってきた。
それにつられてか、ミドリももう反対に座っている。
「はい!アリスは、[テイルズ・サガ・クロニクル]が良いと思います!アリスの最初の冒険です!」
「おっいいね!初代と2どっちがいいかな?」
「ここは初代から遊んでもらいたいけど……。レイヴンさん、時間は大丈夫ですか?」
「ああ、俺は構わない。」
「じゃあ決まり!初代はどこ行ったっけ?」
そう言うと、モモイは四つん這いになって辺りを探り始めた。
あとから探すくらいなら片づければいいものを、と思ってしまったのはここだけの話。
『そういえば、ゲームは初めて遊びますね、レイヴン。』
「えぇー!もったいな!絶対人生損してるよ!」
「じゃあ、これがレイヴンさんの初めての冒険になるんですね!アリス、嬉しいです!」
「よしっ見つけた!じゃ、これセットして……。」
「これがコントローラーです。こう、両手で持ってください。」
ミドリから渡されたのは、長方形の薄いコントローラー。
丁度板チョコサイズのそれだ。
それには十字キーとボタンが2つ付いているだけであった。
ACと比べたら、ボタンの数が10倍は違う。
「……ボタンはこれだけなのか?」
「まあRPGだから。複雑な操作いらないし、初心者でも遊べるから大丈夫!」
「あっ、始まります!レイヴンさんの冒険の始まりです!」
そうして小さな画面に映し出された、ドット調の世界。
こうして俺は、少女たちに囲まれながら、画面の中の世界を旅することになった。
ちびっ子たちに囲まれながらゲームを初めて遊ぶ強面お姉さん。
お盆かな?事案かな?
次回
正義執行
正義を名乗る奴にロクな奴は居ないはず
次回も気長にお待ちくださいませ……。