BLUE ARCHIVE -SONG OF CORAL-   作:Soburero

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いよいよビナー戦(レイド)かつ、対策委員会編ラストスパートです。
今回は特に勢いで書いてるので読みづらかったらユルシテ……!


12.ジャイアントキリング

俺達は今、巨大な白蛇のような何かと向き合っている。

 ホシノ奪還作戦で疲弊しているところに、これだ。

 全く、カーラから“運がない”と言われただけはある。

 

 『敵機から膨大なエネルギー反応!?これは一体……!?』

 

 エアの報告につられて奴を見ると、大きく開いた口に光が集まっている。

 まさかこれは――。

 

 ”レーザーが来る!みんな避けて!!”

 

 瞬間、強烈な光が地面を薙いだ。

 光が触れた場所は砂が溶けており、ガラスのようになっている。

 あんなものが直撃したらひとたまりもない。

 

 「うおぁぁああ!?!?」

 

 「ひゃぁあああ!!」

 

 光から離れるように逃げ惑う者たち。

 何とか直撃は避けられたようだ。

 

 「くっ……!アコ、後方部隊の被害は!?」

 

 『損害無し!行動に支障ありません!』

 

 ”危なかった……!みんな、大丈夫!?”

 

 『こちらは平気です!先生は大丈夫ですか?』

 

 ”私は大丈夫だよ。アヤネはすぐここを離れて!”

 

 「バケモノが……!」

 

 巨大な体格、大出力のレーザー砲、砂地とはいえ地面に潜航できる装甲。

 手持ちの火力で倒せるか分からない相手だ。

 レールキャノンでも持ってくるべきだったか。

 そう考えていると、エアの声が響く。

 

 『皆さん、よく聞いてください。』

 『あのレーザー、おそらく岩盤採掘用のそれを転用したものです。』

 『あれを喰らったらキヴォトス人でも蒸発しかねません。必ず回避を!』

 

 「ウソでしょ!?今からそんな奴と戦えって言うの!?」

 

 「出来なければどの道死ぬだけだ!全員腹をくくれ!!」

 

 アレの機動性を考えたら、車などの足があったとしても逃げられるとは思えない。

 逃げた先で被害が広がることも考えられる。

 いずれにせよ、今ここで撃退するしか選択肢はない。

 

 『レーダー反応、ミサイル、来ます!』

 

 ”避けて!!”

 

 奴の背中からミサイルが垂直に放たれる。

 高く撃ちあがったミサイルは、方向転換の後、こちらに向かって突っ込んできた。

 あのサイズからして、喰らうべきものではない。

 

 「全員散開ッ!!」

 

 「伏せてッ!!」

 

 「くっ!死んでたまるもんですかぁアア!!!」

 

 何を血迷ったのか、セリカがミサイルを迎撃しようと銃を乱射し始めた。

 そんな行動に効果が望めるはずもなく――。

 

 「セリカちゃん、危ない!」

 

 ドォォォン!

 

 ミサイルが、2つの影に直撃した。

 

 「――ッ!えっ!?」

 「ホシノ先輩!?」

 

 「……ふ~、ギリギリセーフってところかな。」

 「大丈夫、セリカちゃん?ケガは無い?」

 

 すんでの所でホシノが庇ったのだ。

 直撃したはずなのに、受け止めた本人はケロッとしている。

 全く、大した耐久力だ。

 

 『セリカちゃん、何で無茶するの!?』

 

 「ごっ、ゴメン!気を付けるから!」

 

 「セリカ、こっち!急いで!」

 

 何とか耐えることが出来たものの、このまま続けたところでこちらがやられるだけだ。

 何か、あのデカブツに有効な決め手を考えなければならない。

 対戦車兵器でもあれば、話は別なのだが。

 

 「クソッ!このままじゃ……!」

 

 ”……ホシノ、ヒナ、レイヴン!”

 

 「「「――ッ!」」」

 

 先生から名前を呼ばれて振り返る。

 その顔には、決意が満ちていた。

 シャーレ、お前そんな顔が出来たのか、と感心してしまう。

 

 ”3人でアレの攻撃を引き付けて欲しい。その間に私が弱点を探る!”

 ”危険だけど、君たちにしか頼めない。いいかい?”

 

 《スティールヘイズのスピードでかく乱する。君は背後から叩いてくれ。》

 

 ふと、ラスティのセリフを思い出した。

 壁越えの、“ジャガーノート”と相対した時の言葉だった。

 確かに、この3人であれば、確実に時間は稼げる。

 他の連中が、弱点を叩けるようにしなければ。

 

 「……いいだろう、やってやる!」

 

 「先生からの頼みじゃ、断れないよね。」

 

 「分かった。先生、頼むわよ!」

 

 残りの2人も同じ考えのようだ。

 今は、先生を信じよう。

 

 ”ありがとう。みんな、私の指揮に合わせて!”

 

 『私も敵機の解析を始めます。出来るだけ時間を稼いでください。』

 

 『風紀委員会、対戦車兵器をありったけ持ってきなさい!』

 

 『了解です!待っててくださいよ、委員長!』

 

 『榴弾砲、いつでも撃てます!必要なら合図をください!』

 

 『救急キット、準備完了!いつでもお届けできます!』

 

 沢山の力と信頼が先生に集まっていく。

 妙な感覚だ。理由がないのに、勝てるという確信がある。

 これが、シャーレが持つ力なのだろうか。

 それとも、俺が先生に絆されているだけだろうか。

 

 ”みんな、反撃開始だ!!”

 

 「「「「「オォーーーッ!!」」」」」

 

 どちらにせよ、奴を叩き潰さなければ、俺達は死ぬ。

 俺は、まだ死ぬつもりはない。

 

 バババババッ!

 ダダダダダッ!

 バァン!バァン!

 

 3人で前に出ながら攻撃を加えることで奴の気を引いていく。

 頭を狙って撃っているが、まるで効いている様子がない。

 と、高く持ち上げられた頭が、唐突にこちらを向いた。

 

 ”レイヴン、突っ込んでくるよ!”

 

 「チッ!」

 

 俺ごと地面に潜るつもりか。

 叩きつけられる頭をむしろ胴体側に踏み込むことで回避する。

 その直後、少し離れた位置に再び頭が飛び出してきた。

 

 「こっちに来なさいッ……!」

 

 ズドドドドドッ!!

 

 「――ッ!?弾かれた!?」

 

 翼をアンカーのように使った強力な射撃が意味をなさない。

 よほど硬い装甲を使っているらしい。

 ヒナが弾を詰めなおそうとした時、奴が再び口を開いた。

 

 ”ヒナ、レーザーが来る!避けて!”

 

 「ハァッ!!」

 

 翼を大きくはためかせ、体ごと吹き飛ばして回避する。

 なるほど、体の違いをそう利用するか。

 

 「ほえ~、便利な翼だねぇ。」

 

 「ええ、普段は邪魔なのだけれどね。」

 

 『熱源反応、ミサイルが来ます!』

 

 直後に再び多数の垂直ミサイル。

 ミサイルの避け方、他の奴らはどうか知らないが、俺はよく知っている。

 

 「エア、奴の狙いを俺に引き付けろ!」

 

 ”ミサイルがレイヴンに向かって……!?”

 

 1発、2発目は発射地点に踏み込んで左右に振ることでかわし、3発目はLMGで迎撃。

 3発目の爆風に巻き込まれて2発誘爆した。

 誘爆を逃れた残りの1発が着弾するが、爆心地から遠ざかるようにステップすることで、ダメージを最小限に抑える。

 

 「……すごい。全部かわした……。」

 

 見たかカヨコ、これが強化人間だ。

 

 『敵機の解析完了。』

 『型番、設計要件不明。恐らく、トンネル掘削用の自立ロボットに武装を施したものです。』

 『弱点は、各部の関節と、口内のレーザー発射口。体側は強固な物理装甲で覆われています。』

 『リスキーな賭けになりますが、レーザー発射直前に、口内に狙撃などの強い衝撃を加えることで、エネルギーの暴走を引き起こせるはずです。』

 

 なるほど、大体アイスワームと同じか。

 ならやりようはある。

 命知らず共、愉快な遠足の再開だ。

 

 ”分かった!みんな聞いてたね!関節を狙って!”

 ”イオリ、アル!狙撃準備!アレの口の中を狙って!合図で狙撃!”

 

 「了解、やってやる!」

 

 「任せて頂戴!」

 

 ギュオァアアアア!!!

 

 奴が金切り声を上げながら、再び口を開いた。

 その中を、腕利きの狙撃手が狙っているとも知らずに。

 

 『レーザー砲、来ます!』

 

 口の中に光が集まっていく。

 その光が一層強くなった時。

 

 ”……今だ!!”

 

 「当たれエェェ!!」

 「落ちなさいッ!!」

 

 2つの銃口から放たれた銃弾は、レーザー砲へとクリーンヒット。

 衝撃によって行き場を失ったエネルギーは暴走し――。

 

 ドォォォン!

 ギャアアアアッ……!!

 

 『敵機、システムダウン!』

 

 爆発。システムを異常停止させた。

 自重を支えられなくなった巨体が、地面に倒れこんでいく。

 

 ”ヒフミ、榴弾砲発射!!”

 

 『はい!榴弾砲、撃て~!!』

 

 倒れこんだ大蛇に対し、追撃の榴弾の雨が降り注ぐ。

 地形を変形させるほどの衝撃が、辺り一帯を揺らしていく。

 

 ドドドドドォォン!!

 

 ギュォオオ……!!

 ギュアアアアアアア!!!

 

 反撃されたことに怒ったのか、こちらに向かってけたたましく吠えてきた。

 だが、衝撃によってひしゃげた装甲は隠せない。

 奴は逃げるように地面に潜っていった。

 

 『敵機損傷、効いています!』

 

 ”よし!このまま続けよう!”

 

 「委員長!ロケラン、有るだけ持ってきましたァ!!」

 

 『なら急いで隊員に渡しなさい!』

 

 ”渡しきったら発射準備!合図で一斉に撃って!”

 

 「聞いてたわね!合図があるまで待機!確実に当てなさい!」

 

 風紀委員会の装甲車が到着すると、中から部員が2人降りてきた。

 装甲車の中に大量のロケットランチャーが積まれているらしい。

 後ろからランチャーを引き出していき、委員たちに手渡していく。

 そんな中、便利屋からも提案があるようだ。

 

 「せ、先生!私達、爆弾をたくさん持ってますが、どうしたら!?」

 

 「それなら私が投げつけて来るよ!爆風は盾でどうにでもなるしっ!」

 

 ”分かった。ハルカ、ムツキ!ホシノに爆弾を渡して!合図で起爆!”

 

 前線のホシノが爆弾を投げつけて、それをムツキが起爆する作戦のようだ。

 自爆特攻のようにも聞こえるが、ホシノの耐久力を考えれば、これも立派な戦術だろう。

 

 「ならこちらで攻撃を引き付ける。エア!狙いを集中させろ!」

 

 『熱信号の偽装開始。これで狙いはあなたに向かうはず。』

 

 地面が揺れる。奴が再び顔を上げた。

 その目は、確かにこちらに向いている。

 

 ギュアアアアアアア!!!

 

 ”レイヴン、来るよ!!”

 

 俺を押しつぶそうと突撃してきたが、見え透いた攻撃など当たらない。

 横にステップしながら、狙撃手たちが撃ちやすいように誘導していく。

 

 「狙い通りか。このまま続けるぞ!」

 

 『超高エネルギー反応……!レーザー、来ます!』

 

 開いた口に光が集まっていく。

 イオリとアルに直撃するルートからは、僅かに頭の角度がずれた方向で。

 

 ”イオリ、アル!”

 

 「これでくたばれッ!!」

 「外しはしないわ!」

 

 ズドンッ!

 ドォォォン!

 

 『システムダウン!好機です!』

 

 「そ~れぇっ!!」

 

 ”みんな、一斉放火!!”

 

 ホシノが頭に爆弾を放り投げた瞬間に、大量の銃弾と砲弾が奴の頭に降り注いでいく。

 ホシノは衝撃から逃れるため、盾を顔に構えながらバックステップ。

 2度目の攻撃は、1度目のそれよりもはるかに苛烈であった。

 

 「ドッカ~ン!!!」

 

 「くたばれェエエ!!」

 

 ドドドドドォォン!!

 

 ギュアアアアアアア!!!

 

 『敵機、損傷拡大!』

 

 「どうだ!私達の力、思い知った!?」

 

 大きく頭を持ち上げながら、天に向かって吠えている。

 頭の装甲は剥がれかけ、僅かに見えた内部からは火花が飛び散っている。

 だが、奴は頭をゆっくりと下ろし、そのまま口を開いていく。

 

 「……待って、様子がおかしい。」

 

 『行動パターンが変化して、これは……。』

 『危険です!!回避を!!』

 

 突如、何処にも狙いを定めず、暴れまわりながらレーザーをまき散らし始めた。

 

 「うぉわあああぁあ!?!?」

 

 「キャアアア!!」

 

 「ウワーッ!装甲車がぁ!!」

 

 辺りにあるもの全てを溶かし、ひとしきり暴れた後、再び地面に潜っていった。

 誰にも当たらなかったのは幸運だった。

 レーザーが止まったことを見てから、それぞれが仲間の無事を確認していく。

 

 『先生、無事ですか!?先生!!』

 

 ”ゲホッ。私は大丈夫。みんなは!?”

 

 先生、砂による擦り傷。

 

 「私達は平気です!ホシノ先輩!?」

 

 「大丈~夫、おじさんは簡単にやられたりしないって。」

 

 ホシノ、レーザーと爆発による軽いやけど。

 他アビドス、ほぼ無傷。

 

 「ハァッ、ムツキ、カヨコ、ハルカ!」

 

 「社長!こっちも平気!」

 

 便利屋、全員健在、ほぼ無傷。

 

 『委員長!ご無事ですか!?』

 

 「私は平気。イオリ、チナツ!負傷者がいたら手当を急いで!」

 

 「分かりました、委員長。でも、無理はしないでください。」

 

 「任せろ委員長!アイツ、好き勝手暴れて……!」

 

 ヒナ、飛び石による切り傷、軽いやけど。

 チナツ、擦り傷。

 他風紀委員会、ほぼ無傷。

 

 「……このままじゃ、アビドスが滅茶苦茶になる……。」

 

 離れた位置に立ち上がる砂煙。

 最後の抵抗なのか、地面の中で暴れまわっているようだ。

 地盤が緩めば、このアビドスがさらに居住には適さない場所となる。

 それは避けなければ。

 

 「なら今ここで仕留めるぞ。ヒフミ、榴弾砲は!?」

 

 『そ、それが……!さっき撃ったのが最後で……!』

 

 「ロケランもあの装甲車の中に入ってたんだ!車ごとダメになったけどな!!」

 

 「爆弾も全部使っちゃった!どうするの、先生!?」

 

 ”マズい……!これじゃ決め手が……!”

 

 どうやら先ほどの追撃で火力を使い切ってしまったらしい。

 だが、まだやりようはある。

 

 「……俺がやる。」

 

 ”えっ、レイヴン?”

 

 「エア、奴のコアはどこだ?」

 

 『頭部中央に格納されています。カメラアイから銃弾を通すことが出来れば、あるいは……。』

 

 「なら張り付いて直接破壊する。全員援護しろ!」

 

 ”ウソでしょ!?!?”

 

 冗談のような作戦だが、冗談を言っているつもりはない。

 これが今奴を仕留める確実な方法だ。

 

 「本気で言ってる!?死ぬつもりか!?」

 

 「レイヴン!!さすがのあなたでも無茶よ!!」

 

 「他に手はあるのか!?」

 

 イオリとアルが咎めてくるが、他に手がないことも事実。

 どうやら、先生は覚悟を決めたようだ。

 

 ”……分かった。無理はしないで。”

 ”全員、レイヴンを援護して!イオリとアルは狙撃準備!”

 

 「うひゃ~、もうやるしかないんだねぇ。」

 

 「はい!みんなでやっちゃいましょう!」

 

 「レイヴン、やられるんじゃないわよ!!」

 

 「ドローン展開、出来るだけ弱らせる!」

 

 近づいてくる地震と砂煙。

 その途中で、奴の背中から何かが放たれた。

 それを見た俺は、武器を構え、肉薄するため一気に突撃する。

 

 『ミサイルが来ます!レイヴンさん、避けてください!』

 

 まず2発を回避、3発目の爆風を利用して飛び上がる。

 4発目は身をよじってかわし、残りの2発をかわした瞬間、ショットガンで撃ち抜いて誘爆させる。

 その爆風によって、さらに高く飛び上がった。

 自身の真下には、口を開けた大蛇がいる。

 

 「と、飛んだぁ!?」

 

 ギュオァアアアア!!!

 

 『レーザー砲が来ます!狙いは……!』

 

 「マズい、これじゃ狙えない!!」

 

 ”レイヴンッ!!”

 

 バババババッ!

 ズドンッズドンッズドンッ!

 

 落下しながら口内に向けて両手で乱射する。

 ショットガンの弾が切れたら、それを手放してナイフを握る。

 これほどの銃弾の雨に耐えきれるはずもなく――。

 

 ドォォォン!

 

 スタンした大蛇の顔面に、左手で握ったナイフを突き立て、それを支えにしがみつく。

 そして、無防備な目玉に向けてLMGの銃口を突き立て、引き金を引いた。

 

 バキンッ!ガガガガガガッ!

 

 ギャアアアアアア!!!!

 ギュオオオオオオオオオ!!!!

 

 銃弾が大蛇の頭の中で暴れまわり、回路を滅茶苦茶にかき回していく。

 もだえ苦しむ大蛇が俺を振りほどこうと暴れ始めるが、構うことなく引き金を引き続ける。

 

 「アイツ、のたうち回って……!」

 

 ”……一斉放火!レイヴンを助けるんだ!!”

 

 「いい加減、落ちなさいっ……!!」

 

 「死んでください!死んでください!死んでください!!」

 

 「全弾、発射ですっ!!」

 

 「とっととくたばれバケモノォ!!!」

 

 『お願い、これで……!』

 

 全生徒からの一斉放火。

 頭上に浮かぶヘイローにはヒビが入り始め、苦痛から逃れようと暴れることしかできない。

 もはや相手は瀕死であった。

 だが――。

 

 『レイヴン、残弾が……!』

 

 ガガガガガガガキンッ!

 

 こちらの手が尽きた。

 LMGの弾薬が底を突いたのだ。

 弾が切れたLMGを引き抜き、大蛇へとへばりつく。

 その時、不思議なことが起こった。

 

 「――ッ!いい加減……!!」

 

 レイヴンのヘイローが、変形し始めた。

 中心の小さな星が消えた次の瞬間、光輪の内側ギリギリまで肥大化した。

 それは光を通さない、まるでブラックホールのような見た目をしていた。

 そして、ブラックホールに赤い光が集まり始めた。

 光同士が引かれあい、バチバチとスパークする。

 大蛇が頭を持ち上げ、赤い光が一層強くなった時。

 

 ギャアアアアアア!!!!

 

 「くたばれェッッ!!!!」

 

 それは、爆発として放たれた。

 大蛇の頭を覆い隠すほどの、巨大な赤い球体。

 それは、大蛇の光輪を完全に吹き飛ばし、焼き払った。

 レイヴンが大蛇から飛び下がると、力を失った大蛇が、地面にゆっくりと倒れていった。

 

 ドシィン!

 

 ”……止まった。”

 

 『……敵機、システムダウン。』

 『完全停止です……!』

 

 エアが静かに、先生一行の勝利を告げた。

 我々は、勝ったのだ。

 

 「……やった。」

 

 「……勝ったんだ、私達。」

 

 「……ぃよっしゃぁああ!!」

 

 「はあぁあ、怖かったぁ……!」

 

 「やったぁ!!やりましたね!」

 

 「見たか!これが私達の力よ!!」

 

 「良かった、何とかなった……。」

 

 『お疲れ様です、委員長!今、回収部隊を向かわせます!』

 

 『やりました!きっとこれもペロロ様のおかげです!』

 

 『皆さん!本当にお疲れ様でした!』

 

 各々、友人たちと肩を抱き、勝利の喜びを分かち合う。

 強大な敵に対し、絆の力で打ち勝ったのだと。

 

 ”みんな、力を貸してくれてありがとう。”

 

 「フ、フフッ。この程度、私達なら朝飯前よ!」

 

 「無理しないでいいよ社長。膝笑ってるよ。」

 

 「負傷者の数も最小限でした。無事に終わって何よりです。」

 

 「よ~し、今日は帰ったらゴロゴロするぞ~。レイヴンちゃんもおじさんに付き合う?」

 

 ただ、怪物にとどめを刺した、1人を除いて。

 

 ”……レイヴン?”

 

 「……ちょっと、どうしたのよレイヴン?急に黙っちゃって。」

 

 「……頭が……!」

 

 『そんな、レイヴン……!』

 

 レイヴンが頭を押さえながら膝を突く。

 激しい耳鳴りと強烈な頭痛。手足の痙攣。過呼吸と血圧低下。

 旧世代型強化人間特有の発作が、レイヴンに牙を突き立てていた。

 

 「レイヴン、どうしました?レイヴン!」

 

 「ハアッハアッハアッ……!」

 

 ”レイヴン、大丈夫!?”

 

 「レイヴンちゃん、しっかり!」

 

 「いけない、痙攣とチアノーゼが……!」

 

 体を支えられず、砂の上に倒れこむ。

 それ見ていた友人たちがレイヴンの傍に駆け寄っていく。

 既にレイヴンの体は限界であり、意識さえ奪い取ろうとしていた。

 

 「レイヴン、寝ちゃダメ!レイヴン!」

 

 ”救護班の手配を!急いで!”

 

 「とにかく応急処――!」

 

 『レイヴン、――――――――!』

 

 「レイ――――。――――。」

 

 「――――……。」

 

 「………………。」

 

 その日、レイヴンが目覚めることは無かった。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 621。

 

 

 

 

 お前に意味を与えてやる。

 

 

 

 

 仕事の時間だ。

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 目を開ける。

 ぼやけた視界に映るのは白い天井と、青白い光。

 ゆっくりと音が戻っていく。しかし、耳鳴りが頭に響くのみ。

 確か、発作を起こして気絶したんだったか。

 今は、何時だ。体の感覚が薄い。

 左を見れば、誰かが俺の傍にいる。

 俺の手を、握っているようだ。握り返そうと力を入れる。

 少しずつだが、体が動き始めた。

 そのことに気づいたのか、その人が俺に声を掛けてきた。

 

 「ーーーー(621)……。」

 

 ああ、ウォルター。手間をかけさせました。

 俺を“調整”してくれたのでしょう?

 言葉を返さなければ。未だ感覚の薄い唇を動かし、呼びかけに答える。

 

 「ウォルター……。」

 

 そう声を掛けた瞬間、彼が怪訝な顔をした気がした。

 まるで、名前を呼び間違えてしまったかのような。

 何度か瞬きを繰り返すと、視界がはっきりしてくる。

 改めて左を見れば――。

 

 ”レイヴン、大丈夫……?”

 

 シャーレの先生が座っていた。

 やってしまった。こいつを恩人と間違えるとは。

 

 「……お前か。」

 

 ”うん、先生だよ。私をウォルターって呼んでたけど、大丈夫?”

 

 「ああ、寝ぼけていただけだ。大丈夫……。」

 

 体の感覚が戻ってきたので、ゆっくりと体を起こす。

 それを見ていた先生が俺を支え始めた。

 体を起こしきった時には、体はほとんど動かせるようになってきた。

 あとは時間が解決してくれるだろう。

 

 「……ここはどこだ?」

 

 ”アビドスの保健室だよ。本当は病院に連れて行きたかったんだけど……。”

 

 「立地の関係で難しかったんだろ。分かってる。」

 

 ここアビドスに陸路で行くには専用のノウハウが必要だ。

 救急車両がそれを備えておけというのは酷というものだろう。

 

 ”……チナツとセナが言うには、過労なんじゃないかって。”

 ”レイヴン、今まで何があったの?何をしていたの?”

 ”……私じゃ助けられない事だった?”

 

 「……そうだな。お前が来たところで、足手まといになるだけだ。」

 「エアも居ることだしな。」

 

 ”…………そっか。”

 

 今までの仕事の内容とそのやり方、間違いなくこいつの小言が飛んでくる。

 仕事が終わるたびにお説教を受けるのはごめんだ。

 だが、シャーレはその答えが気に入らなかったらしい。

 妙な顔のまま固まっている。

 

 「……シャーレ、何を気にしている?」

 

 ”……私じゃ、レイヴンの助けになれないのかなって。”

 

 「必要ない、というだけだ。1人は慣れてる。」

 

 ”それでもだよ。思えば、私から手を貸してほしいって言ったことはあるけど……。”

 ”……君から、助けて、って言われたことは無いなって。”

 

 「……お人好しめ。」

 

 先生のお節介は相変わらずのようだな。

 よそ者である俺にまで手を伸ばそうとする。

 そう考える俺を知ってか知らずか、先生はゆっくりと口を開いた。

 

 ”……ホシノがカイザーとの取引に乗った理由はね、レイヴンをこれ以上傷つけたくなかったんだ。”

 ”自分たちは安全な場所にいるのに、君は自分から危険な場所に飛び込んでいく。”

 ”その恩恵に与りながら、君のやり方に口を出すことが、辛かったんだって。”

 

 「……罪悪感から逃げるために、犠牲になろうとしたと?本当に大バカだな……。」

 

 ”そう言わないであげて。ホシノは君を心配してたんだから。”

 

 全く、ここにはお人好ししかいないのか?

 あの人とはえらい違いだ。

 

 ”……ホシノは、心配してたんだ。”

 ”君が、いつか取り返しのつかないことをしてしまう(ルビコン川を渡ってしまう)んじゃないかって。”

 ”それがもし、アビドスを助けるためだとしたら……。”

 

 「……今更だな。」

 

 俺はとっくに向こう側にいる。

 今更引き戻そうとしたところで無駄だ。

 やり直しは、決して出来ないのだから。

 

 「それでもだよ。」

 

 「……ホシノか。どこから聞いていた?」

 

 「……ごめんね、最初から。」

 

 盗み聞きとは、いい趣味をしている。

 まあ、ホシノの心情を勝手に話した先生も先生だが。

 ホシノがパイプ椅子を広げて、近くに座ってくる。

 普段の昼行燈な姿からは打って変わって、真剣な表情でこちらを見つめる。

 

 「……いくつか、聞いてもいい?」

 

 「……ああ。」

 

 「……ウォルターって、誰なの?レイヴンにとって、どんな人だった?」

 

 「……かつての恩人だ。もう死んでるが。」

 

 「……っ。そっか、変なこと聞いちゃったね。」

 

 「……昔のことだ。」

 

 ルビコンでは、誰かが戦場で死ぬことは当たり前のことだ。

 ただあの時、コーラルリリース直前のザイレムでの戦いが、彼にとってそうだったというだけ。

 だから、俺が彼の死を今更悲しむ必要は無い。

 その権利もない。

 

 「……寂しくないの?」

 

 「………………。」

 

 「……私ね、先輩が居たんだ。少し前には、私とその先輩しか居なくてさ。」

 「励ましあったり、時々喧嘩したり、2人で何とかやってたんだ。でも……。」

 「……1回、酷い喧嘩しちゃってさ。原因もくだらなくてさ。私が、ちょっとイライラしてただけで。」

 「それで、私が飛び出しちゃって。先輩の分からず屋~!って思いながらさ。そしたら……。」

 「……それっきり、先輩には会えなくなっちゃった。」

 

 「……なぜ、その話を?」

 

 「……私が、話しておきたかったから。」

 「……私は、寂しいよ。先輩に、会いたいよ。」

 「……その資格が無いって、分かってるけどさ。」

 「……もしかしたら、レイヴンちゃんも同じかなって思ってね。」

 

 「…………何が、言いたい?」

 

 「……今の私には、可愛い後輩たちが居る。アビドスの、仲間がいる。」

 「その仲間に、レイヴンちゃんが居てくれたら、嬉しいなって。」

 「一緒に笑って、一緒に泣いて、時々喧嘩したりして。」

 「そんな私の日常に、レイヴンちゃんが居てくれたら、私は嬉しい。」

 

 「…………。」

 

 「……レイヴンちゃんが、どんな過去を背負ってるのか、私は分からないけどさ。これは言わせて。」

 「ねえ、レイヴンちゃん。私達を助けてくれて、ありがとう。」

 「レイヴンちゃんは、もうアビドスの一員。」

 「私の、友達だよ。」

 

 「……そうか。」

 

 「なーにが“そうか”よ!カッコつけちゃって!」

 

 「あぁっセリカちゃん!落ち着いて!」

 

 「もうっ、水臭いですよホシノ先輩!素直にアビドス高校にようこそって言えばいいんです!」

 

 「……ごめんね、先生、先輩。抑えきれなかった……。」

 

 「うへぇっ!?みんないつから居たの!?」

 

 突如対策委員会のメンバーがぞろぞろと入ってきた。

 というかちょっと待て、アビドス高校にようこそとはどういうことだ。

 事情を知っていそうな先生に視線を向けると、にこにこと笑いながら1枚の書類を差し出してきた。

 

 ”アビドス高校の入学届だよ。ちゃんと正式な物だから、安心して。”

 

 「いや待て、心配してるのはそこじゃない。」

 

 「も~おじさんの変な話聞かれちゃったじゃんかぁ。これはレイヴンちゃんに責任取ってもらおうかな~。」

 

 「うふふっ。これでアビドスが、もっとにぎやかになりますねっ☆」

 

 「ん。レイヴンが居てくれたら、私も嬉しい。一緒にサイクリング、しよ。」

 

 「そうよ!アンタはもう対策委員会の一員なんだから!今度は、私が普通のバイト、教えてあげる!」

 

 「レイヴンさん、あなたはきっと、いろんなものを見てきたんだと思います。でも……。」

 「私達を助けるって言ったとき、本気で言ってくれたんだって、すぐに分かったんです。理由なんか無いんですけどね。」

 「そんな、強くて優しいあなたが、このアビドスに居てくれたら、私も嬉しいです。」

 

 「……エア、助けてくれ。」

 

 『……すみません、レイヴン。話しかけられる雰囲気ではなかったので。』

 『ですが、どんな選択であれ、私はあなたをサポートします。あの時、そう決めましたから。』

 

 この野郎、つまり丸投げじゃないか。恨むぞ。

 要は、俺にはアビドス高校に正式に入学する権利がある、それを行使するかは自由、という事か。

 先生から書類を受け取り、目を通していく。記入欄には、俺の名前を書く欄がある。

 俺の、新しい名前を書く欄が。

 

 「………………。」

 

 強化人間C4ー621。それが、俺の本名。

 ウォルターは、俺を621と呼んでくれた。

 代替可能な部品ではなく、俺個人として、そう呼んでくれた。

 その名前にこだわってしまうのは、人情というものなのだろうか。

 

 しばらく迷ってから、結局俺は、書類をホシノに突き返した。

 

 「……やっぱりだめ、だよね。」

 

 「……結局俺は、よそ者でしかない。アビドスも、この世界にとっても。だが……。」

 「よそ者なりに、このキヴォトスを歩いてみようと思う。それに飽きたら、腰を据えるのも、悪くないだろう。」

 「それまで、お前が持っていてくれ、ホシノ。」

 

 「……!うへへっ、もう、素直じゃないなぁ。」

 

 いつか、放浪暮らしに疲れる時が来るだろう。その時は、ここに根を張るのも、悪くない。

 ウォルターやカーラ、チャティには悪いが、これも選択の結果なのだろうから。

 

 「はぁ……。残念だけど、まあいいわ!」

 

 「ん……。元気でね、レイヴン。たまに帰ってきて。」

 

 「う~、やっぱり寂しいです!レイヴンちゃんを補給させてください!」

 

 「ふぐっ、ほいほほみ(おいノノミ)……。」

 

 「あっ、ノノミ先輩!もう……。じゃあ私も!」

 

 「それじゃあ、私も一緒に。」

 

 「みんなずるい!私も!」

 

 「うひゃ~、もみくちゃだぁ。私も抱き着いちゃお。」

 

 「……はひほふへ(アビドスめ)。」

 

 それからしばらく、俺は対策委員会が飽きるまでもみくちゃにされていた。

 その様子を、先生はにこやかに見つめていたとか。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 荷物をまとめて背負い、D.U.へと向かう道。

 最寄り駅まで歩いて向かおうとしていたところ、エアからの問いかけが。

 

 『……本当に良かったんですか?』

 

 「ああ、キヴォトスを歩きたいっていうのは、本当だからな。」

 「しばらく、傭兵として生きようと思う。」

 「手伝ってくれるだろ、エア。」

 

 『……ええ、もちろんです。私は、あなたのパートナーですから。』

 

 全く、本当に頼もしいな、俺のパートナーは。

 そういえば、当てもなくD.U.に向かっているが、その次はどこへ行こうか。

 

 「なあエア。D.U.の次はどこに行こうか。ゲヘナのいい店を巡ってもいいかもな。」

 

 『私はミレニアムに行ってみたいです。キヴォトスの科学が集まった場所と聞いています。』

 

 「そういえば、ミレニアムには技術屋連中が居るって聞いてる。新しい仕事道具を調達するのもいいかもな。」

 

 『トリニティも良いと思います。あそこは紅茶とお菓子が有名ですから。』

 

 「飯関係なら、山海経や百鬼夜行も良いって話だ。いつか行ってみよう。」

 

 『……レイヴン。これが、自由なのですね。』

 

 「……そうだな、エア。ようやく、自由になったんだな。」

 

 俺達は今、どこにでも行ける。何にでもなれる。

 危険が付きまとうが、それだけ選択肢も多い。

 何を選んでも、自分次第。

 思惑に振り回されてきたルビコンでは、無かった感覚だ。

 しばらくは、自由を楽しんでみようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おう姉チャン!ちょっと金貸してくれねぇか?」

 

 そうだった。ここはそういう世界だった。

 全く、退屈しないな、キヴォトスは。




書ききったぁアア!!この達成感よ!
ここまで読んでいただき本当にありがとうございます!!
またコーラルが脳ミソから溢れたら書き出しますので気長にお待ちくださいませ!!

あと思うままに書いていたら思っていたより透き通ったラストになってびっくりしてる。
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