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J/53  作者: 池金啓太
九話「悪魔と踊る異国のワルツ」
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血と唾液の契約

「なんだ?なんかいい案あるのか?」


ずっと静希の背後で待機していたオルビアが声を上げる、こういうとき新しい意見を出してくれるのはありがたい


特にオルビアは戦いに身を置くことが多く、こういう状況にも慣れている


「あまり良い案とは言えませんが、彼らに気付かれないようにここから出ることは可能であると判断します」


自らの剣が確信に満ちた目でそう述べるのを確認すると静希は急いで準備を始める


まだ内容も聞いていないが、オルビアが可能だというのなら可能なのだろうという確信がある


「で、どうすればいい?」


最低限の準備をした後、静希はオルビアに向きあう


「近代においてある程度地下への排水行為が行われていると認識しています、それは日本だけではなくこの地でも同じではないかと」


「そうか・・・下水か!」


ある程度近代的な都市が築かれている場所なら必ずある施設の一つが下水だ


使用した水などを効率的に廃棄し、その先で浄水することで再利用するのも効率的に行える


このホテルのような利用水量の多い施設なら下水に直接つながっていても不思議は無い


そして何よりここ数日間、雨は全く降っていない


それならば下水が水で満ちているということはまずないだろう


「はい、この地下に下水があればそこから外部に出ることも、同じように戻ってくることも容易でしょう、衛生面に問題があるので、少々気後れしますが・・・」


「いいやナイスだオルビア、そうと決まればさっそく行こう、善は急げだ」


静希はすぐさまオルビア達をトランプの中に収納して出発しようとする


「でもどこから繋がってるかなんてわかるのかい?そもそもこのホテルの建物の中にないかもしれないのに」


「たぶんありますよ、従業員が点検するような所ならたぶんね、それじゃ留守番頼みます」


それはつまり関係者以外立ち入り禁止の区画に侵入するということでもある


今回はやたらと不法侵入が多いなと思いながら静希は二人を置いてさっさと部屋を出ていってしまう


階段でまずは一階に下り、従業員の目や監視カメラを回避しながら着々と進んでいく


鏡やカメラなどを駆使して曲がり角などで誰かと接触しないように、そして監視カメラがないかを確認しながら慎重かつ大胆に進んでいくと、立ち入り禁止区域に難なく到達することができる


中に入るとそこにはなにに使うのかもわからないような機械群が大量に置かれていた


恐らくは給湯などに使われる機材なのだろうが今はどうでもいい


静希は地面を観察し、そしてマンホールに似た蓋があるのを発見する


英語で何か書いているようなのだが削れてしまって何と書いてあるのかまでは判別できない


辺りをさらに観察し他にそれらしきものがないのを確認すると静希は近くにあったバールに似た工具を指紋が残らないように手袋をつけた状態で使用し、重い鉄製のふたを持ち上げていく


ふたを開けるとそこは深い闇が広がっていて側面には人が降りる為のはしごも取り付けられていた


ビンゴと呟きながら工具を元の場所に戻した後、静希はそこからゆっくりと降りていく


内側からふたを器用に戻して口にライトを咥えた状態でどんどん下へと降りていく


靴と金属がぶつかる独特の音が響く中静希は最下層に到着する


そこはどうやら排水量を測定する場所でもあるらしい、淀んだ匂いが充満しておりお世辞にも快適な空間とはいい難い


近くに下水への入り口が見え、オルビアの案が上手くいっていることを示していた


問題があるとすれば下水の幅が思ったよりも狭いということだろうか、人一人通れるかどうかという大きさだ


コンパスと地図を確認し目的地に近い方角へと移動できる道を選び、屈みながら進んでいく


下水というだけあって悪臭が強い、事件現場のそれとはまた違った匂いで強い吐き気を催すが今はそんなことを言っている場合ではない


靴が汚水を何度も弾きながら進むこと十数分、いくつかの下水が集まる少し広い空間に出る


下水会社などが点検するために訪れる作業区画のようだった


狭い空間から解放され軽く伸びをした後静希は地上へと続く梯子を登っていく


マンホールを少し強めに押して無理矢理にどかし地上への道が開く


周囲に誰もいないことを確認し素早く身体を地上に出して即座に蓋を閉める


新鮮な地上の空気を深呼吸で満喫し、僅かに身体についた汚水の匂いに嫌気がさしながら静希は移動を開始する


だがここでも見つかってはいけない、特に今見つかるとまずいのは部隊の人間と警察だ


犯人と接触するなどと分かれば面倒なことになるのはわかりきっている


先ほどのように曲がり角に注意しながら着実に進み、ついに以前入った地下鉄まで続く通風孔へとたどり着く


地図を確認し地面に格子によってつけられた傷があるのを確認してまたも地下へと侵入する


一体何度地下へもぐればいいのだろうかと嫌になってくるが、隠れて行動するためには地下での行動は不可欠ということだろうか


この事件が解決したら長い間は地下には行かないと心に決める静希であった


『なんだか地下に潜ってばっかりね・・・陰鬱な気分になるわ・・・』


『そう言うなよ・・・俺だってそろそろ嫌になってきてるんだから・・・』


メフィの悪態も軽く流しながらライトを口に咥え地下への道を進んでいく


地下鉄の線路がある場所まで降りて辺りを確認するとすぐ近くを列車が通過していく


時刻は二十時、部屋からここまで来るのに一時間もかけてしまった、探索の部分も含めれば早くこれたと思うべきか


静希が進むとエドモンドとヴァラファールは以前いた時と同じようにそこに座り込んでいた


「やあ、待ってたよ・・・なんだかご機嫌斜めみたいだね・・・」


「あぁ、おかげ様で身体から悪臭がとれねえよ」


下水と地下を通ってきたことで静希の身体は埃まみれな上にその匂いが服に染み付いてしまっている


イギリスまでやってきてこんな状況になるなど誰が予想できるだろうか


どうにもこの国と静希は相性が悪いように思える


前回は孤島に漂流、今度は地下へ探検、普通の観光もできやしない


「で、さっさと本題に入れ、何の用で呼んだんだ?」


「あ、あぁ・・・君に聞きたいことがある・・・ノーマン教授の居場所を教えてほしい」


予想した質問の中で可能性としては二番目くらいに位置していた質問を受けたことで安心したのか呆れたのか、静希は大きくため息をつく


エドモンドから少し離れて座り、近くにメフィストフェレスもトランプから出して悪魔同士での対話をさせておいて静希はエドモンドと対峙する


「それを聞いてどうするんだ?敵討ちにでも行くつもりか?」


「・・・そうだよ、友人を殺されたんだ・・・このままじゃ・・・」


「それで殺したらお前は本当に犯罪者だ、俺は犯罪者には容赦しないぞ?」


「・・・覚悟の上だ・・・」


エドモンドの決意は本物らしく、たとえ静希が敵になってでもノーマンへの裁きを与えることに固執してしまっているようだった


友人を殺され自分を追い込んだということに対する怒りは相当強いらしい


自分の策が上手くいっていたなら罰を受けさせることも考えられたのだろうが、その策が無駄に終わった今強行策しか頭に思い浮かばなかったのだろう


「・・・俺は犯罪の加担はできない」


「・・・なら無理やりにでも聞きだすよ」


エドモンドの意志にヴァラファールも同意しているのか敵意をむき出しにしながら立ち上がる


メフィは僅かに警戒の色を強めたが静希は動かない


「これは俺の能力でな・・・」


静希は掌にトランプを取り出してエドモンドに見せつける


「収納系統に属してて、トランプ一枚に五百グラム以下の物を何でも入れることができる能力だ」


次の瞬間に静希の周りには悪魔、神格、霊装、使い魔の人外達が勢ぞろいする


「な・・・!?」


「・・・これは・・・」


突然現れた異形の存在にエドモンドとヴァラファールは驚愕する


頭部だけ犬の大男、金髪で鎧を装着し剣を持った騎士、静希の頭に乗ったリス


今まで見たことのない者が唐突に現れたことで僅かに萎縮した


特にヴァラファールは近くにいる犬顔の大男が神格であることを見抜き警戒の色を強くした


「お前、相手を一度殺す程度で許すつもりなのか?」


「・・・どういうことだ?」


静希の言葉にエドモンドは眉をひそめる


座ったままエドモンドを睨みつける静希は僅かに苛立ちを抱いているようだった


「俺にも大事な奴がいる、昔からの腐れ縁のバカと、ほっとけない幼馴染と、変なところで情けない姉貴分、それに少し口五月蠅い同級生、お前からすりゃそいつらを殺されたのと同じ位の辛さか?」


静希は軽く想像してみた


誰かが自分の友人を殺した、そうなったら静希はどうなるだろうか


恐らく烈火のごとく怒り狂うだろう


腸は煮えくり返り、まともな思考さえ失われるだろう


「俺なら殺さない・・・死にたくなるほど追いつめて、殺してくれと懇願するまで痛めつけて、それでも殺さずに生き地獄を味わわせる」


実際静希はそうするだろう、生かさず殺さず、苦しみを延々と与え続けるだろう、それこそ相手が発狂し続けてもずっと


「・・・一度殺したくらいじゃ許せないさ・・・でも・・・!」


「ならなぜそうしない?お前には今それができる条件がそろってるんだぞ?」


静希は立ちあがりエドモンドに詰め寄る


近くに並んで立つだけでその身長差は明確、一回りは大きいその体に静希は肉薄し力強く眼光をぶつける


「それでも俺と同じ悪魔の契約者か?目的があるなら手段を選ぶなよ、そんな余裕がある状況でもないってのに」


「だが・・・どうすれば・・・」


「簡単だ、俺を利用すればいい」


静希の言葉にエドモンドは目を見開く


話の流れから静希が協力してくれるのかと思った、協力を申し出てくれるのだとばかり思っていた、だが静希は自分を利用しろと言ってきたのだ


「利用って・・・」


「その分、俺もお前を利用する、お互いに利益が出るように調整すればいいだけだ」


「でも・・・それじゃ」


「安心しろ、俺もその分お前を利用する」


隠すことなくそう言った静希は自分の考えをエドモンドに伝えていく


先ほどテッド達に話した内容と一言一句変わらない内容の作戦を


話を聞き終えてエドモンドは思考を巡らせているようだった


そして強く静希に対して疑惑を浮かべているように見える


「一ついいか?君は何故・・・そうまで率直に・・・」


静希の案で一番危険になるのはエドモンドだ、そしてその事も包み隠さず全て伝えてある


静希の案であれば確かにノーマンに対して十分以上の報復ができるだろう、エドモンドとしても満足が行くかもしれない形で


恐らくは何故隠そうともしないで全てを話すのかが気になるのだろうが、静希からすれば交渉の基本でもあった


「人を信用させたいのであれば自分の手の内は全て見せたうえで、事実を話すこと、もう俺の手の内は全部見せた、事実も話した、お前を信用させるためだ」


今回の作戦で一番必要なのは連携などではない、信用だ


どれほど自分を偽って誰かの好みになろうと根っこから信じられていなければ成功しないと思ったから静希は自分の手の内を明かした


「お前を利用するにはお前の信用を勝ち取らなきゃいけない、こっちにだってやらなきゃいけないことがあるんだ、なりふり構ってらんないんだよ」


能力者にとって敵であるかもしれない相手に自分の手の内を明かすことはかなり危険なことでもある


これは一種の賭けだ


能力と自分の保有する戦力をすべて明かし、その上で静希はエドモンドを信用させようとしていた


少なくとも今静希がやらなくてはいけないことは教授からあの召喚陣の書類を誰から受け取ったのかを聞きだすこと、そのためには教授が何らかの犯人であることが好ましい


そうすればいくつだって証言や証拠品など出てくるだろう


そのためなら多少の危険は承知の上だった


「君はどうしてそこまで、君は何が目的なんだ?」


自分の能力まで明かすという行動まで起こした静希にエドモンドは疑問が尽きないようだった


少なくとも静希がこの件に関して部外者であることはエドモンドも知っている、だからこそわからなかった、なぜ静希がここまでするのか


「・・・俺が悪魔と関わることになった事件があってな、まだ完全に解決してない、今回の事件と俺が関わった事件が繋がってるかもしれない、それを確かめるためだ」


静希からすれば自分をこんな人外大量発生な状況を作らせる発端となった犯人を思い切り殴って土下座させた上で刑務所にぶち込んでやりたいという気持ちでいっぱいだったが、どうやらエドモンドは事件解決の為に尽力する少年という風に受け取ったらしかった


「・・・君は・・・正義感が強いんだね」


「正義感?ふざけんな、誰がそんな安っぽいもんの為に動くか、あの事件が起こったせいで悪魔やら神格やら面倒なもんばっか引き受けてその上こんな厄介な事件にまで巻き込まれて・・・絶対にとっちめてブタ箱にぶち込んでやる・・・そうしないと気が済まないんだよ!」


感情をむき出しにして怒りと苛立ちをぶつける静希の言葉にエドモンドは笑いだす、なにがおかしいのか静希もメフィも、その場にいる誰もが理解できなかったが、その笑みを止めてエドモンドは大きく息を吸って静希の前に立つ


「君は・・・何というか、思った以上に単純なんだね」


「そう見えるか?・・・ていうかそれは褒めてるのか?」


もちろん褒めているつもりだよと呟いてエドモンドは静希に向けて真直ぐと視線を向ける


その目は何かを決心したようで、逸らすことなく静希の目を見ている


「わかったよ、君に協力する、僕もなりふり構っていられる場合じゃないみたいだしね」


そう言ってエドモンドは笑みを浮かべて右手を差し出してくる


彼の浮かべる笑みは穏やかでありながら強い意志を持っているようだった


「そうかい、頼りにさせてもらうぞ、エドモンド」


「エドでいいよ、これからよろしくイガラシ」


「なら俺も静希でいい、よろしくなエド」


かたく握手を結びお互いの信頼を確認し合うと互いの背後にいた人外達は安堵の息を吐く


先ほどまでどのような事の顛末になるかもわかっていなかった彼らもようやく警戒を解除できる事を安心しているようだった


「それにしても・・・壮観だね」


「この光景か?もう慣れちゃったよ」


静希の後ろにいる悪魔、神格、霊装


エドモンドはその存在がいったいどのようなものなのか詳細は分からないが、数日とはいえ悪魔と寝食を共にしたことで彼らが人外のものであり、自身とは違う異質の存在であることに気付いていた


自身がその力の強さの片鱗に触れているからこそ、人ならざる存在を三人も許容し行使している静希に敬意を持っていた


自分にはこんなことはできないだろうと思いながらエドモンドは人外達と会話する静希と自分の傍らにいる悪魔ヴァラファールを眺める


「そう言えばお前達はどんな契約を結んだんだ?そこら辺詳しく知りたいんだけど」


初めて悪魔の契約者と会ったことでまだ聞きたいことはいくつもある、この作戦を行う前にも確認しておかなくてはならないことが山ほどあった


「僕らは一応対等契約を結んでるよ、今は目的が一致してるからね、シズキは?」


「俺も対等契約だ、こいつにいきなり唇奪われてな・・・」


「へえ、そんなことしたんだ、僕はヴァルに血をあげただけだったよ」


エドモンドの言葉に静希は眉間にしわを寄せながら自分の契約する悪魔の方を見る


メフィはというとまずい事になったなという顔をしながら視線をそらして口笛を吹いている


「おいメフィ・・・あのキスには何か意味があったのか?」


「あ、あったわよ?私とシズキの間にリンクを作るために」


「お前あの時俺の腹刺してたよな?俺の血はあったよな?それじゃダメでキスする意味はあったのか?」


「え・・・えっと・・・血の代わりに、唾液でもいいかなって・・・ダメ?」


「・・・あぁん?」


静希がメフィに詰め寄ると回答に困った悪魔はひらひらと宙に浮き身体の大きなエドモンドとヴァラファールの後ろに隠れてしまう


どうやら契約を交わす為には自分の体液または自分の体の一部分を悪魔に捧げればいいのだろう、エドモンドの場合血液を、静希の場合は唾液を捧げている


そんなことの為に自分は恥をかいたのかと静希は頭を抱えてメフィを睨んでいる


この恨みは帰国した後でたっぷりと晴らすべきだなと心に決めながら静希は大きくため息をつく


誤字報告が十件分たまったので三回分まとめて投稿


いやはや話が進む進む


それはさておき、これからもお楽しみいただければ幸いです

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