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J/53  作者: 池金啓太
九話「悪魔と踊る異国のワルツ」
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不信感と調査

「今回の実験で作る予定だった軍の包囲網っていうか警備で予定変更を余儀なくされたことはあったか?例えば街でイベントがあったとか、またはその予定を聞かされたことはあるか?」


何とか研究内容自体に関わらずに軍だけの内容であるかのように言えばニコラス自身も話しやすいだろう


そしてその計らいは案外うまくいったようで、ニコラスは手帳を取り出して過去のスケジュールを確認しだす


「えっと・・・軍自体に警備と包囲の依頼が来たのが六月の終わり、そこから周囲の交通情報とかを入れてたけど・・・予定が変更されたとかそういうのは無かったな」


「そうか、ありがとう」


ということは少なくとも三日間予定を変更したのは軍部の影響ではなく実験に携わっていた側の問題ということだろう


何とか事情を聞きたいところだが関係者のほとんどは死亡してしまっている


「五十嵐君、気になることがあるならまた教授に話を聞きに行っても」


「いえ、それはちょっとまずいですね」


静希の言葉に大野も小岩も小首をかしげる


ただ話を聞きに行くだけなのに何がまずいのだろうかという顔をしていた


「ニコラス、一度ホテルに戻って情報を整理しておくよ、またエドモンドと接触したらすぐに知らせてほしい」


「わかった、じゃあ送っていこう」


ニコラスの運転する車に揺られてホテルの部屋まで戻ってきた静希達はとりあえずベッドに腰掛けて大きく息を吐く


現在時刻は昼少し前、そろそろ空腹が襲ってくる時間だ


ただ報告に行くだけかと思っていたがとんだハードスケジュールになってしまった


「ちょっと二人ともシャワー浴びた方がいいんじゃない?埃っぽいわよ?」


「あぁ・・・そう言えば地下に潜ってそのままだったな・・・五十嵐君先に入るかい?」


「いえ、ちょっとまとめておきたいことがあるので先にどうぞ」


すでに人外達を解き放ちベッドの上で思考を重ねている静希、今までの情報をまとめる中で重要なものをまとめて並べていく


思考のパズルとでも言えばいいのか、今まで集まった情報や状況がピースとなって一つ一つがかみ合っていく


だがその中で一つ二つどうしてもかみ合わない物が存在する


「ねえ、一つ聞いていい?」


「なんです?」


一旦思考を停止して荷物を整理している小岩に目を向けると彼女は人外に囲まれた静希を見て不思議そうな顔をしていた


「五十嵐君は、悪魔とか神格とか・・・そういう人たちが怖くないの?」


小岩の言葉にその場にいた人外達が僅かに反応する


いつも通りに宙に浮き、いつも通りに座禅を組み、いつも通りに静希の背後に佇み、いつも通りに静希の頭の上にいる人外達の放つ空気が僅かに変異しているのに小岩は気付かなかった


「怖い・・・怖いかぁ・・・んん・・・」


今まで考えていたこととまったく別の事を考えるために静希の思考は遅れる


周りにいる人外達を眺めて考えてはいるものの、なんとも言えない感情しか浮かんでこない


「怖いってのとは少し違いますね・・・何て言うか・・・面倒?」


「め、面倒?」


静希の言葉に小岩は驚くが人外達はなにも言うことは無く静希の言葉を待っていた


「そりゃそうですよ、かたや上級悪魔で気分屋で俺の腹に穴を開けた張本人、かたや神格でいつも甘いものばっかり要求する、かたや霊装で売れば何十億、かたや奇形種で暇さえあれば人の頭の上に乗ってくる、これが面倒でなくてなんですか」


「あ・・・あはは・・・えと・・・」


小岩は愛想笑いしているが静希の周りの人外の空気を察しつつあった


自分が今何を言っているのかわかっているのかと目の前の少年に強い疑念を向けるが静希の言葉はまだ止まらない


「いちいち絡んでくるし、口喧嘩はするし、盲目的になるし、抜け毛はあるし、面倒なことこの上ないですよ、俺の平穏はこいつらに破壊されていると言っても過言じゃないです」


「え・・・えと、助かったりは・・・?」


「そりゃ助かってますよ?でも不満だってたくさんあります、家族みたいなもんなんですからそのくらいありますよ」


家族


静希は人外達をそう言った


静希達は悪魔を脅威として見ない、神格を崇拝しない、霊装を物扱いしない、奇形種を危険視しない


あくまで彼の家族として扱っているのだ


普段家族の帰らない家に突然やってきて奇妙な共同生活を送ることになった五十嵐家


それははたから見ればただ静希が人外達を使役しているか、逆に脅されているかと思えるかもしれない


だが静希は使役という事をしない、あくまで対等な関係にあろうとしている


悪魔の最初の契約が対等であったように、他のもの全て対等に接しようとしていた


先ほどまで黙って聞いていた人外達は満足そうに安堵の空気を放ちだす


特に言葉をはさむことなくじっと聞いていた人外達と静希の間には確固たる信頼があるように思えた


それがどのような形かは小岩にもわからない、故にこの奇妙な家族がとても不可思議で歪で安定しているように思えた


大野の後に静希もシャワーを浴び終え、着替えながら先ほど得た情報を大野と小岩に話しだしていた


石動と実月から得た情報を話し終えると大野も小岩も黙りいろいろと考え始めているようだった


「今の話を聞いて、それでも教授に何か聞こうって思います?」


静希の言葉に大野も小岩も難しい顔をしながら首を横に振る


この二人は軍に所属している能力者だ、現に静希よりも任務などに慣れている


思考のまとめ方や状況把握は恐らく静希より優れていると思っていいだろう


その二人からしても今回のことでの教授へのこれ以上の協力は危険と判断された


「そもそもエドモンドがその場にいたっていう証言も今のところノーマン教授のものだけ、監視カメラにも記録が残っていないし・・・」


「その三日のずれをどうして作ったのか、それも気になるわね・・・」


「どちらにしろ教授が何か隠しているのは事実・・・でもこれ以上突っ込めば藪蛇になりかねないし・・・」


静希が最も懸念しているのは教授自身がエドモンドと共犯であるか、あるいは教授がこの事件の犯人であるという可能性である


あの殺人の犯人がエドモンドではないことはほぼ確定だが他に犯人がいないとも限らない


もしかしたらエドモンドが包囲網を突破せずにこの辺りで停滞しているのは共犯者と合流するためかもわからないのだ


「部隊長に進言して教授の身辺を調べてもらうのはどうだろうか?」


「そうなれば確実に教授の耳に入るわ・・・逆にエドモンドが狙ってるかもしれないから警備を強化するってのはどうかしら、警備は裏を返せば監視にもなるし」


「いいですね・・・ニコラスに伝えて警備を強化してもらいましょう」


現在情報を握りそしてこちらとしてもあちらとしても重要人物となっている教授の警備の強化、恐らく断られることは無いだろう


さっそく小岩がニコラスに連絡しその旨を伝えると予想通り了承されたようだった


「でもそうなると、教授自身に何か聞く訳にはいかないし・・・後はエドモンドを捕まえるくらいしかできることは無いんじゃないかな?」


「・・・いえ・・・まだやれることはあります」


静希の言葉に大野と小岩は耳を傾ける


現状、情報収集に関してはかなり密に行っている、むしろ無駄な情報も仕入れているのではないかと思えるほどだ


空振りの情報も多いがその分実りのある情報もある


「片方は簡単でしょうけど、もう片方が問題ですね・・・」


「ってことは二つ?何をするんだい?」


「エドモンドと教授の家に何かないか探します」


その言葉に二人は顔をゆがませる


エドモンドの方は警察などが家宅調査に入っていてある程度資料や物品押収なども始まっているかもしれないしニコラスなどの軍部から願い出れば家を調べることも押収した物品を見るのも可能かもしれないが教授の方は別、むしろ今回の事件としては被害者兼目撃者にカテゴリーされている


家に侵入すること自体が難しいかもしれない上に、普通に犯罪扱いだ


大野と小岩もそのことを懸念しているのだろう


「うぅん・・・問題は教授の家だね・・・どうやって侵入するか・・・鍵を壊すわけにもいかないし」


「いえ、侵入する手口はもう考えてあるんですけど、問題はニコラスの監視なんですよ」


もう考えてあるのかと冷汗を垂らしながら苦笑いをしている二人をよそに静希は頭を悩ませる


教授の家を静希達が知らない以上確実にニコラスに案内してもらわなければならない


そこからニコラスの監視をどのように振り切るか


完全に犯罪行為をするというのに監視なんて付けていたら自殺行為も甚だしい


だが住所だけ聞いてその場所にたどり着けるほど静希達は土地勘があるわけでもない


監視から逃れる為にいくつも考えを巡らせるのだがどうにも上手くいかないのだ


「いっそのこと隊長に教授が犯人かもしれないと正直に言った方がいいんじゃないかい?」


「いやぁ・・・それはやめといた方がいいかもですよ?今まで平然と攻撃してたのが犯人じゃないかもなんて知らされたら組織の面子丸つぶれでしょう・・・証拠がない状態じゃ信じてもらえませんよ」


状況証拠しかないとはいえ実際悪魔をひきつれているというのは非常に危険だ


その状態を維持しているのだからエドモンドが犯人だと思われても仕方ない、新しい可能性があったとしてもまずはエドモンドの確保を優先するだろう


事実彼と悪魔にかなり虚仮にされている、そのせいでとにかく捕まえなければならないと躍起になっている節がある


これが国内の問題だったら城島のコネを使ってうまく軍をコントロールすることもできたのかもしれないが、海外なのが今回の一番のネックである


「ねえ、いっそのことそのニコラスってやつ気絶でも何でもさせちゃえばいいんじゃないの?」


先ほどからずっと黙っていたメフィが随分と物騒な意見を出すが全員が呆れかえりながら宙に浮く悪魔に視線を向ける


「そんなことできるわけないだろ・・・何とかして危害を加えずに振り払いたいんだよ」


「人間って面倒なのね・・・難しく考えないで全部ぶっ放しちゃえばいいのに」


悪魔なりの解決法としてはそれでも正しいのかもしれないが静希達は残念ながら人間である


人間である以上人間社会に適した解決法をしなくてはならないのだ


「いっそのこと一度見に行ってその後自分たちで歩いていくってのはどうだろう?」


「それも考えましたけど、このホテル全体を見張られてる可能性もあるんですよ?出入り口にそれらしく怪しいのが見えますし」


ホテルの窓のカーテンを僅かにずらして外を覗くと先ほどからずっとホテルの近辺に座って携帯をいじったり新聞を読み続けている人物が何人かいる


恐らくあれは静希達の監視だろう


余計なことはするなということか、どちらにせよあまり気持ちは良くない


「あ、じゃあシズキ、いっそのこと別人になっちゃえばいいじゃない」


「は?別人ってどういう・・・」


そういいかけて静希ははっとする、この悪魔の言いたいことが理解できてしまったのだ


「まじか・・・あれはやりたくないんだけど・・・」


「そうこう言ってる場合じゃないんでしょ?やるしかないんじゃないの?」


ニヤニヤと笑うメフィは明らかに楽しんでいる、この状況でまともな手段をとっていられるような余裕がないとはいえ本当にできるなら二度とやりたくないことでもあったのだ


「一体何するんだい?」


「まぁそれは・・・いや知らない方がいいですね、俺が勝手に動く方がそっちとしてもいいだろうし」


それはそれで困るんだけどなと苦笑するがメフィや邪薙たち人外を含めればこの三人の中で最も強力で凶悪な戦闘能力を持っている


今更護衛がどうのこうの言うよりも今は任務の成功を願うべきだろう


「まずはエドモンドの家にあった物を確認して、その後に教授の家に案内してもらって・・・そうですね・・・そっからはアドリブでいきましょうか」


静希はすぐさま装備を整えて準備を始める


ホテルで軽く昼食をとりすぐにニコラスに来てもらいまずはエドモンドの家へと向かった


エドモンドの住まいはマンション、というかアパートのような集合住宅で一般人も多く住まう場所だった


ニコラスに案内されて入った部屋の中は大方の物がすべて外された後だったが、ニコラスが前もって警察に連絡を付けて資料を預かってきたようだ


分厚い黒いファイルの中に収められた資料にはこの部屋にあった物が逐一記されている


全てが英語だったが小岩に翻訳してもらいながら内容を確認するがどれもこれも普通の男性なら持っていそうなものばかり


パソコン、剃刀、衣類に自身の研究の資料、趣味なのかいくつかのゲームに父親からの手紙など本当にとりとめのないものばかり、しかも中身もたいしたものではないようだった


一番有力と思われたパソコンの中のデータも特にこれと言って不審なところもない


ここまでなにも出ないとなるとエドモンドが犯人に関わっていた場合、余程入念に計画を練ったか、あるいはまったく計画も何もなかったかのどちらかに二分する


エドモンド自身が関わっていた研究も悪魔どころか能力にすら関わっていない内容で今回の手掛かりになるとも思えない


無駄足だったかもしれないなと思いながら一瞥した後、静希達は車に戻ることにする


ここからはニコラスをどのように騙すかで大きく内容が変わる、会話には注意しなくてはならない


「次は教授の家に行ってくれないか?」


「教授はまだ入院しているよ?何でまた?」


「エドモンドが教授に目撃されたことを知ってるなら、教授の部屋で待ち伏せとかするかもしれないだろ、近くまで行けばさすがに気付ける、可能性は何でも試すしかないだろ」


エドモンドの行方が知れない中これが一番妥当な理由づけだった


静希としては教授の家なんかにエドモンドがいるとは思えない


そもそもエドモンドが教授の家を知っているのかという疑問がある


だがニコラスからすればなるほどと納得したのか静希達を教授宅、先ほどのエドモンドの住んでいたアパートよりも数段大きなマンションへと連れて来てくれる


「ここの307号室が教授の部屋だ・・・どうだい?気配はあるか?」


「・・・いえ・・・なんとも言い難いですね、今のところは無いです」


静希はあたりを確認しながらマンションのセキュリティをチェックする


日本のようにオートロックなどではない、誰でも入れるような簡易式の出入り口だ


「このマンションに監視カメラは?」


「入り口と各階のエレベーターのところにあるだけ、エレベーターの中にもある」


静希は鼻を鳴らしながら今度は周囲を確認しだす


周りは普通の住宅街が広がっているのに加えて近くに公衆トイレがあるのが確認できた


「教授のご家族は?」


「部屋にはいないだろう、息子がいるようだが今はもう働いていて一人暮らしをしているといっていた、実質教授も一人暮らしみたいなものらしいね」


「奥さんは?」


「数年前に病気で亡くなったそうだ」


なるほどと静希はさらに周囲を気にしだす、誰もいないのであれば好都合、誰かがいた方が教授の過去については聞きやすかったかもしれないがこの状況では有り難い


今知りたいのは教授の近辺の情報ではなく教授が何を隠しているかだ


さてと息をついて軽く伸びをした後静希は数歩後退してマンションの全容を確認した後足を踏みをしだす


「ニコラス、ちょっとトイレ行ってもいいか?」


「あぁ・・・ちょうどいい、そこに公衆トイレがある」


そりゃラッキーだと言って静希は公衆トイレに駆け込む


中にはちょうど他にも誰か入っていたらしい、小便器が三つ、大便器が三つずつある


入口は一つ、窓は一つあるが格子がはめられていて人が通れる場所ではなさそうだった


静希は個室に入り、僅かにため息をついて準備を始める


静希がトイレに行ってからどれほど経っただろうか、公衆トイレからは二人程金髪の男性が出てきたのが確認できただけで静希はまだ出てこない


一体この状況でどのようにニコラスの監視から抜け出すのかと大野と小岩は少し心配していたのだがさすがにあまりにも静希が出てこないので別の意味で心配になってくる


「ずいぶん遅いわね・・・」


「ちょっと様子見てくるよ」


大野がしびれを切らして中に入り辺りを見渡すがそこには静希の姿を確認できなかった


小便器にも大便器の個室にもどこにも静希の姿は無い


「五十嵐君!?どこだ!?」


「ちょっと!?どうしたの?!」


「五十嵐君がいない!」


大野が驚いて飛び出すと小岩とニコラスが驚愕の表情を作って中に飛びいる


だが大野が見た時と同じ、個室の中にもどこにも静希はいない、格子が破壊された形跡もない、ただ静希だけがそこから消えていた


お気に入り件数1000件突破+pv2,000,000突破記念で3回分まとめて投稿


たくさんの方に読んでいただき嬉しい限りです


これからもお楽しみいただけるように努力していこうと思います!

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