時差と疲労と悪魔の言葉
「でも能力によっては身体が原形をとどめててもおかしくないんじゃないかい?ほら例えば気体を作り出すとか」
気体と言えば聞こえはいいが気体の中には猛毒の物も含まれる
大野がいいたいのはつまり直接攻撃系ではない能力であった場合の話だ
もちろんその可能性も静希は考慮に入れている
「その能力だった場合、ここの人たちが逃げ出さずにずっとここにいたと?殺されそうになっているのに?ちょっと考えられないですよ、近くにエドモンドもいたはずです、無茶な能力は使えなかったにしろ殺すだけなら苦労はしないのに」
この部屋に枠取りされた死体の数は十七、被害者の数と一致する
そして資料ではその十七人が今回の実験に関わっていたメンバーだ
どのような状況だったにせよほぼ一瞬のうちに全員が殺された可能性が高い
広範囲の能力か、罠か、それとも定点攻撃か
どちらにしろ人を殺せるだけの能力に違いは無いが抵抗させずに、または逃げ出すことをできなくするような能力だったのだろう
「ニコラス、被害者の死因はわかる?」
「被害者は全員窒息死、この辺りにあるシミは全部糞尿の類だよ」
人間は窒息死すると全身の穴という穴が弛緩して体内の液体や物体が流れ出る
つまりこの部屋の異臭は被害者の流した糞尿の臭いだったということだ
大体の清掃は行われたようだが換気が行われていないために臭いだけがどんよりと残ってしまっているのだろう
その時の状況を僅かに想像して気分が悪くなり、部屋から出ていくと同じく話だけは聞いていたのか小岩が顔を青くしながら待っていた
「大丈夫ですか?顔色悪いですよ」
「う・・・うん、大丈夫・・・」
気丈に振る舞ってはいるものの大丈夫には見えない
この場に実際死体があれば静希もおそらく同じような顔色になっていただろう
ここにいつまでもいるのは危険だなと思い静希達は足早に外の空気を吸いに行くことにした
「にしても、悪魔じゃなくて人間の仕業なら、かなり優秀な能力者だね」
「十七人一斉に殺してる訳ですからね、後はどんな能力かってことだけ」
「ねえ、一旦この話止めない?せっかく外に出たのに・・・」
小岩の言葉に静希達ははっとなって周囲を見る、確かに実験棟から出ればそこは一般人なども通る事のできる場所だ、こういった話をするべきではなかったかもしれない
「・・・じゃあ次はどうする?また聞き込み?」
「今度は当日実験棟にいた人物を探しましょう、そういうの管理してるとことか無いですかね?」
「当直記録とかあればいいんだけど・・・」
とりあえず大学の中で教員や研究者について扱っている人事課に向かうことにする
大学ならどの時間はどの教授がどこにいるかなど大まかにならば判断できる
それが研究室や実験室の使用ならなおさらわかりやすいはずだ
事件が起こったのが昼過ぎなので実際その場にいたのがどのくらいの人数になるのかはかなり曖昧になるだろうが暇を持て余すよりはましである
その後二時間近くかけて当日その場にいたと思われる教師や研究者の元を訪ね回ったのだが結局教授が持つ以上の情報は得られなかった
皆一様に実験室に入っていたためわからない、事件発生した時間に何をしていたかと聞けば研究の報告書作成や実験にいそしんでいたりと事件に実際関わる事は無かった
むしろそれは幸運かもしれない
万が一悪魔に遭遇していたらついでに殺されていたかもしれないのだ
偶然なんかで殺されてはたまらないだろう
時間は十五時過ぎ、日本に比べると涼しいがそれでも夏は夏、暑いと感じるのは当然のこと、さらに静希の疲労はピークに達していた
肉体的及び精神的な消耗、さらに寝ずにここまで行動するとさすがに辛くなってくる
静希程ではないが大野と小岩も同じようで少し疲れている様子だった
「ねえ五十嵐君、ちょっと休まない?すごい顔してるわよ?」
「今にも寝そうだな・・・一度ホテルで仮眠でも・・・」
「今寝たら変な時間に起きちゃいますよ・・・ギリギリまで粘って二十時くらいに寝ればいい感じに時差を乗り越えられるはずです・・・」
実動時間はたいしたことないのだ、現在時間を日本時間に直すと深夜零時、普段もこの時間までは普通に起きたりしている
だが訓練した後イギリスに移動、その後情報収集にいろんなところに行って人の話を聞いていたために疲労感が強すぎる
「それにしてもさすが軍人さんですね、二人はかなり平気そうだ」
静希に比べ随分と平気そうな顔をしている二人に向けて感心するのだが大野と小岩は顔を見合わせて気不味そうな顔をする
「えと・・・私達夜勤明けで・・・午前中から寝てたから・・・」
「睡眠は結構足りてるんだよ」
なんというかごめんと付け加えられた謝罪に静希は乾いた笑みを浮かべながら恨めしそうに二人を見ていた
寝不足なのはどうやら静希だけらしい
「ちくしょう・・・俺も訓練なんてなければ・・・」
今更ながら訓練させられるような状況になってしまったことを恨みながら静希は今までの情報をまとめながら車に揺られていく
とりあえずホテルの一室に戻ってきた一行は今までの情報をまとめるとともに有事に対しての行動を決めていた
現状できる限りの情報は集めた、後は部隊がエドモンドの目撃情報を得るだけである
ホテルの室内には三人の人間と人外三人、そして邪薙の頭の上に小動物が一匹
はたから見ればかなり異様な空間である
「でも五十嵐君、エドモンドの能力に関しての情報は集めなくてよかったのか?一応戦闘になるのに・・・」
ホテルで購入した水を飲みながらベッドに腰掛ける大野からしたら犯人のエドモンドの方が気がかりである
十七人を殺した犯人かもしれないのだ、さぞ優秀な能力を保持しているのはほぼ間違いない
「誰かに聞いたところでわかるとは思ってませんよ、それに俺の役目は悪魔の相手をする事です、悪魔と対峙しても死者を出さなかった部隊なら人間一人くらい簡単に相手できるでしょ」
決して楽観視している訳ではないが特別な状況にならない限り能力者の戦闘は実力と相性と数で決定する
一対一ならば実力と相性による割合が大きくなるが、多対多の場合実力と人数による割合が大きくなる
そして実力の中には連携などといった大人数特有の戦闘も含まれる
個人技ではなく互いのフォローなどで戦うのが能力者の戦闘だ
静希達が悪魔を抑えれば相手は一人、こちらは大人数
たとえ強力な能力を持っていても多勢に無勢、こちらが負ける要素は無い
「私の仕事は相手の悪魔を抑えておくことかしら?」
部屋の中でふわふわと浮かんでいるメフィは一応の為確認するが、今回はそれだけでは終わらない可能性がある
「なぁ、今回の悪魔、お前はどう思うんだ?」
「どう思う、っていうのはどういう意味かしら?」
「操られてるのか、協力してるのかってことだよ」
静希が言いたいのは以前メフィが話した悪魔にいう事を聞かせる方法に関してのことだった
悪魔の心臓と呼ばれる核に仕掛けをして脅し従順にさせる、言わば拳銃を押し付けているのと一緒だ
今回の悪魔がその状態にいるのであれば悪魔も被害者側の存在になる
ならばわざわざ悪魔を打倒しなくても済む可能性もある
「状況だけ見たら操られているように思うわ、じゃなきゃわざわざ人間を殺す意味がわからないもの」
エドモンドが十七人を殺害した理由
この件に関して静希とメフィの意見は一致していた
殺した理由が口封じならばその場を見ていたノーマン教授も殺されて然るべきである、だが彼が生きていることから察するに口封じではない
ならばどうしてか、それはメフィの言っていたトラウマの再現による行動不可と心臓への細工
十七人はトラウマの再現に利用された
現状で考えられる一番有力な説だ
「心臓への仕掛けってのは他人じゃ外せないのか?」
「いいえ、外せるわよ、特にシズキの能力ならね」
その言葉にその場にいた全員が耳を傾ける
静希の能力
今までただの収納系の能力かと思っていたが、人外達との接触によりまた違った作用が起こるとわかってからいろいろ試した
物体、気体、時には人外達に協力を要請していくつかの項目に分けて実験を行ったが今までと同じような能力の発動しかしない
静希だけでは分からなかったのだ
「なあメフィ、今回はもう死人も出てる、結構緊迫した状況だから言うけど、確信のないことはしたくないんだ、俺の能力について説明してもらうぞ」
静希がすごむとメフィは仕方ないわねと呟きながら大野と小岩の方を見る
一瞬何かわからなかったようだが両名はその視線の意味を察して一時的に部屋から退出してくれる
他人の能力を知るというのはかなり重要な意味を持つ
長い付き合いの人間ならともかく今回だけ同じ任務につくような人間に知らせるような内容ではない
無能力者的に言えば銀行の口座番号と暗証番号をカードを預けた他人に教えるようなものだ
はっきり言って危険行為そのもの、自分の首を絞めると同時に他人まで迷惑に晒してしまうかもしれない
以前のようにただ弱いだけの能力と誤解している状態なら別に口外しても問題はなかったが、今の静希は敵が多い立場にある
下手に自分の能力を他人に言いふらすのは避けていた
「確認しておくぞ、俺の能力は収納系統で間違いないんだな?」
「それは間違いないわ、貴方は収納系統に属する能力者、私たちが保証してあげる」
私達、それは静希のトランプの中を根城とする人外達
悪魔、神格、霊装、奇形種
今まで静希が収納し共に過ごしてきた人外達全員が静希の能力について確信を持っている
自分の能力の事を他人に聞くなど能力者としては二流以下だが今回は能力者としてのプライドよりも実益を優先するべきだ
悪魔と対峙するならそれ相応の覚悟がいる
以前メフィに殺されかけて学んだことでもある
私事の為に予約投稿しました
ついでに誤字報告が五件たまったのでまとめて投稿
反応が遅れてしまうかもしれませんがご容赦ください
これからもお楽しみいただければ幸いです