悪魔の心臓
「そういえば今回の宿泊先とかはどうなってるんですか?」
「ん?今回は部隊が駐留している大学近くのホテルをとってあるよ」
「なにか要望でもあるの?」
静希からすれば場所は重要ではない、重要なのは機密性だ
「まず部屋に盗聴や監視カメラなどが仕掛けられていないかを確認したいです、なければ問題ないのですが、もしあった場合は部屋を変えることも視野に入れてほしいです」
「あぁ・・・そっか、一応秘密にしておきたいんだもんね」
理解が早くて助かる、実際メフィ達をずっとカードの中に入れておくわけにはいかない
閉鎖的な空間にこの人外達を放置していることは正直強いストレスを与える、きちんと定期的に出して開放感を与えてやらなければならない
人外を飼う時の注意点みたいで何か嫌だなと思いながら静希は資料を熟読し始める
事件が起こったのは現地時間で昨日の昼過ぎ
以前からイギリス政府の許可を得た大学の研究機関が悪魔の召喚の実験を行うため準備をしていたところ、同大学の研究者兼準教授のエドモンド・パークスが勝手に悪魔の召喚陣を使用、悪魔を召喚しその場に居合わせた研究チーム十七人を殺害、その後悪魔と共に逃亡している
現場を見ていた悪魔召喚実験の責任者ノーマン・ライズ教授に事情を聞いたところ本来の実験開始は三日後を予定していたのだが以前からこの実験に興味を持っていたエドモンドが研究者と共に部屋に入っていくのが見え、何か研究のことで質問でもあるのかと実験室に行ってみると研究者は全員死んでおり、悪魔を従えたエドモンドがいた
驚いて声を上げた瞬間エドモンドは悪魔と共に逃亡したそうだ
現場写真などは付属されていないが資料の中には殺害された研究員の情報がいくつも入っていた
『メフィ、この事件どう見る?』
悪魔でありこの中で一番状況を理解できるであろうメフィに聞いてみるのだが、気まぐれな悪魔は間延びした声を響かせている
『状況が分かりにくいわ、実際に見てみないと何とも言えないかも』
『そうか・・・でもこの資料を見る限り悪魔をきちんと制御してるみたいだな』
召喚者を連れて逃げているところを見ると静希とメフィのようなきちんとした協力関係を成り立たせているのは確実、そうでなければ確実に全員皆殺しにされていることがあるのだ
『もしかしたら、心臓に細工されたのかもね』
『心臓?お前ら心臓あるのか?』
根本的な疑問なのだがそもそも悪魔に内臓があるのかも怪しい
ものを食べているところを見たことがないから消化器官があるかもわからない
味覚などがあるため五感があるのは確実だが
『貴方達人間と少しニュアンスは変わるわね、どっちかっていうと私達の身体を形成してる核みたいなものよ』
『ふぅん、でその核に細工されるとどうなるんだ?』
『悪魔を意のままに操れるわ』
静希は一瞬言葉を失った
悪魔の力は壮絶だ、自然災害にも似た威力を出せる
その悪魔の力を意のままに操れるとしたら
想像しただけで身震いする
『それって・・・催眠とかそういう感じか?』
『いいえ、人間的に言えば死にたくなけりゃ言うこときけって感じ、無理矢理言うことを聞かせてる訳だけど、悪魔だって死にたくないもの、言うこときくしかないじゃない?』
なるほどと頷きながら静希は再び資料に目を落とす
『その悪魔の心臓への細工って、簡単にできるものなのか?』
『いいえ、さっきも言ったけど心臓は私達を形成してるものだから心臓の攻撃や細工は特に警戒してる、召喚時なんて特にね』
『じゃあ、どうすれば悪魔の心臓に細工できる?』
メフィは悩むような声を出して長考し始める
実際自分だったらというふうに考えているのだろう、悪魔に聞くのであればこういう深いところの質問が一番だ
『その悪魔の根本っていうか・・・トラウマを刺激すればいいんじゃないかしら、少しでも動きが鈍るからその隙にやっちゃえばいいわ』
『トラウマ・・・悪魔にトラウマなんてあんのかよ』
当たり前じゃない、悪魔をなんだと思ってんのよとメフィは憤慨しているが悪魔を人間と同じようなものだと思っていない静希にとって予想外の返答が多すぎる
資料の中で不可解な点がいくつかあるがその中でも不思議なのがこの犠牲者だ
一般的なトラウマは人の死やコンプレックスが関係することが多い
『ならメフィ、この十七人の犠牲、お前はどう見る?』
悪魔を召喚するのにどれくらいの人数が必要なのかは分からないが集めた全員を殺していることから口封じの可能性が大きいが、ならなぜ教授は殺されなかったのか
そう考えると口封じ以外の何かがある
『たぶんだけど、その十七人は悪魔に殺されたんじゃなくて、そのエドモンドとか言うのに殺されたのね』
『なにが目的で?』
悪魔召喚の生贄、いやエルフの村で生贄があったなどということは聞かない
だとすれば他の何があるだろうか
『簡単に言えばトラウマの再現よ』