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J/53  作者: 池金啓太
九話「悪魔と踊る異国のワルツ」
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落ち度と後始末

今までの会話内容とこの資料に軽く目を通すことで大体状況は把握できた


この寺井という人物には今回の事件に関してなにも知らされておらず、ただ自分が必要であるということだけが伝わっていたらしい


そしてこの紙の束はイギリスで起きたある事件についての資料だ


「寺井さんはその依頼を持ってきたってことですか?」


「いや違う、この資料を届けに来てくれたんだ、有り難く思え」


要するに寺井は資料を運び大体の内容を伝える為だけに来たのだろう


はっきり言えば使い走りだ


「確認しますけど・・・拒否権は?」


「ないと思え・・・いや今回の事に関して言えば私も拒否できない、何せ外交問題だからな」


海外で起きた事件に介入する、自ら首を突っ込むならまだしも向こうから協力要請が出ておいてそれを断るなどということが個人の力でできるはずもない


うなだれる中静希は資料を確認し始める


「なお、今回は町崎の部下を二名同行させる、空港で合流し協力して解決に当たること、あと部下のうちの一人は私の後輩だ」


城島の後輩というだけで何かいろいろと厄介そうな感じがするがそれは城島の名誉の為に黙っておこう


「・・・本当に軍の任務みたいですね・・・」


「何のためにお前を鳥海の部隊に鍛えさせてると思ってるんだ、所属の偽装というのもあるがそういう事態に慣れさせるためだぞ」


なおさら気が重くなりますよとうなだれて資料を何枚かめくる


「それでは私はこれで」


「お疲れ様です」


社交辞令を終えたのか、ただ仕事を終えただけか、寺井は応接室から出て行く


これで案件に対してまともに会話できるというものだ


「で?なんでシズキにそんな面倒事押し付けようとしてるわけ?」


ようやく自分が出てこれる状況になったと確認した途端今回の重要人物メフィがカードの中から現れる


ふわふわと宙に浮き静希の首元に抱きつき城島をまっすぐに見据えている


「五十嵐に押し付けているのではない、お前に押し付けているんだ、悪魔に対しての最善手は悪魔をぶつけることなんでな」


「ふぅん、それは構わないけど私はやるとは言ってないわよ?」


「お前がやらなければ五十嵐が死ぬだけだ、こいつが行くことはもはや決定事項だからな」


城島の視線とメフィの眼差しがぶつかり合う


この二人の間にいる静希は非常に帰りたい衝動にかられるのだが、そうもいかないだろう


「ねえシズキ、私に力を貸してほしい?」


「・・・正直お前の力には頼りたくないけど・・・今回ばっかりはなぁ」


相手が悪魔であることが確定している以上メフィの力がなくてはただの学生でしかない静希はほとんど無力に等しい


悪魔の力を借りなくては生き残れるかも微妙なところだ


「わかったわ、でもちゃんと報酬がないとやる気起きないなぁ」


「・・・駅前のケーキ屋のスペシャルケーキ」


「全力を尽くしてあげるわ」


何と安い代価であろうかと思うかもしれないが、スペシャルケーキはホール一個で七千円するのだ


学生にとっては非常に高く苦しい出費だ


「ちなみに出発は?明日のいつごろですか?」


「出発は今日の十八時、成田空港から転移能力者による移送だ」


「は!?今十四時ですよ?!時間ないじゃないですか!」


移動時間を合わせてもすでに猶予は一、二時間しかない


その僅かな時間で何もかも用意しろというのか


「だから急げといったんだ、最短でも一週間程度いるくらいの覚悟で荷造りした方がいいぞ、あぁ、安心しろ旅費はこちらで持つ」


今は旅費の問題などではなくわが身の心配をしているのだが、そんなことは全くお構いなしの様子だ


「先生は来るんですか?」


「私は別の仕事があるから無理だ、同行者二名の指示に従え」


「・・・無茶苦茶だ・・・!」


最初からわかっていたことだがこうも理不尽だと泣けてくる


そもそもなぜこんなことになったのか


そんなことを考えていると静希の頭に先日の交流会の記憶が思い出される


「ひょっとして今回の事って・・・俺が悪魔の契約者ってばれたから来たんですか?」


「当たり前だろう、お前があの時やらかしさえしなければ、こうはならなかっただろうな」


あの場にいた関係者の中に確か海外から来た能力者についての関係者もいた記憶がある


まさかこうも早く面倒事が舞い降りるとは


「ただの面倒事ならまだしも、今回の事案は悪魔が関わっている、依頼としては正当だ・・・仕方ないと思って諦めろ」


これがただの私利私欲なら断ることもできただろうが、悪魔が関わっていることがわかっているのであればこちらとしても悪魔の契約者である静希を派遣せざるを得ない、そういう話だ


あっちも切羽詰まっているのだろう、自分の国の問題を晒したうえで他国に協力を要請しているのだから


「逆に考えろ、今お前は向こうに弱みを握られている状態だ、ここでお前が向こうの事件を解決し恩を売ればイーブンの状態に持ち込める・・・まぁ自分のケツは自分で拭けということだ」


確かに交流会のあの場でメフィの力を借りた静希にも落ち度はある


もう少し策を練って悪魔と契約している事を露見させずに行動できたかもしれないのだ


そして相手に情報を握られている関係を清算するには相手の不都合を知る必要がある


悪魔が関わっているということはそれなりの事件であることは確定だ、上手く事件を解決できれば城島の言うように対等の状態に持ち込めるかもしれない


そう考えれば城島の言う通り自分のしでかした不始末への決着と考えるべきかもしれない


「ちなみに、銃とかの武器の支給はあるんですか?」


「あるわけないだろう、学生に銃なんて支給できるか、欲しけりゃ自分で手に入れろ」


銃火器の訓練をさせておいて肝心の銃器の使用をさせないとはどういうことだ


しかも日本は銃社会ではない上に輸入もかなり制限されている


ガンショップなんてものもないから海外で買うしかないが個人では持ち込むことすらできなかったりする


静希は危険物、刃物や銃器などの取り扱い許可証を取得しているため所持、使用に関しては問題ないが入手が一番の問題だった


しかも銃は地味に高い


残念だが銃器を扱えても使用できるのは随分先になりそうだった


「わかりました・・・荷造りして成田に向かいます・・・」


「あぁそうそう、向こうで展開している部隊と接触したら最初にやってもらいたいことがある」


向こうで展開している部隊、まぁそういう話になるだろう、悪魔に対しての対抗策は物量戦だ、大隊規模の部隊がいると考えておくべきだ


「なにしろってんです?」


「簡単だ、舐めた口きけないように脅しを・・・もといお前が実権をとれるように圧力をかけろ、知識的なことでも能力的なことでもいい」


「んな無茶な・・・」


相手は能力者でしかも自分より多くの経験を積んだ軍所属の人間


ちょっと訓練されただけの自分がそんなことをできるはずもない


「あと、同行させる二人もそうだが向こうはお前の能力を知らん、そこを利用することだな」


「はいはい・・・んじゃ行ってきます」


紙の束を掴んで静希は急いで自宅に戻り荷造りを開始する


ナイフなどの各種装備、そしてパスポートに着替え、カメラに財布にその他諸々


メールで明利をはじめとする班員には一週間ほど留守にすると伝えたが一体どんな反応が返ってくるやら


荷物をとりあえず出来る限りコンパクトにまとめ家を出てすぐさま電車に飛び乗る


成田に着いたのは十七時、出国手続きなどを考えると少しギリギリの時間だ


成田空港の中であちこち見まわしているといつだかに見た顔がやってくる


手を振りながらこちらにやってくるのは城島の同級生の町崎だった


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