先生の活躍を見たいから頑張ったけど、なんかおもてたんと違う   作:goldMg

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幕間1 本社/シャーレオフィス

 先日は危うく先生と連絡先を交換する羽目になるところだった。もしも交換してしまえば体良く仕事を振られる可能性がある。俺は先生のことを尊敬してはいるけど、関わり合いになりたいとはあんまり思ってない。

 死なれたら困るからそこら辺は見るぞ、もちろん。

 つーか見たいだけ。

 

「うー……」

 

 ところで、事務員が目の前の書類に悩んでいた。

 書類に書かれている数値の根拠がどこを探せばあるのかが全く分からなかったのだ。請求書の束か、放っておけばすぐに貯まるメールか、それとも書棚にある大量の資料か。

 

「あの、サンダースさん……」

 

「────────あ?」

 

 長々と無視した後、ドスの効いた声が発される。

 意地悪で無視をしていたわけじゃない。

 サンダースの仕事は数的処理が主であり、基本的には電算処理機能を司る部分をPC直結で爆速で仕事を終わらせている。

 人格部分はともかく、処理部分を繋いでしまうと外部からの入力を受け付ける機能は弱くなるので反応が遅くなるってなわけだ。

 

 でも怖すぎだろ。

 

「ひぃぃん……」

 

「はいはい、分かったって……サンダース、あんまり怖がらせちゃダメだろ。今はパワハラとかうるさいんだから」

 

 背中に隠れた事務員とサンダースを取り次ぐ。

 これも社長の仕事ってか? 

 そんなわけないよね? 

 

「知るか。俺も仕事してんだよ。どうせ資料の位置を教えて欲しいとかだろ? 違うか?」

 

「は、はい……」

 

「前も教えただろ。つーか2年目だよな? 良い加減そんくらい自分で調べられるようになれよ。毎日なにしてんの? 俺たちが出張してる間、何して過ごしてんの?」

 

 このロボット、パワハラの才能があり過ぎる。

 

「…………」

 

 事務員は事務員で、下唇を上唇で抱え込んで俯いてしまった。実際サンダースの言うことは尤もなので、俺も注意しづらい。

 

「窓開けて鳥にグチャグチャにされたとかはまだ良いけどよ。資料は資料なんだから、そこ見りゃ出てくんだろ?」

 

 その通り過ぎた。

 その為に戸棚はあるし、電子資料だってちゃんと分類されて見れるようになってる。

 ……このロボット、隙がない! 

 

「おいユウジ、人間の教育は人間にしかできねえんだからちゃんとお前がやってくれよ。俺だって自分の仕事進めたいんだから」

 

「……うす」

 

 あれ、なんで俺社員に命令されてんの? 

 

「この前のヴァルキューレの仕事だけどな。サーバー変えたのか申請方法変えたのか知らねえけど、前と同じ繋ぎ方じゃダメっぽいんだよ。そのせいで処理が進まねえ。なんならサーバー落ちてるっぽい? だから迂回して提出してんだけど、ソレで時間かかるんだよ」

 

「そ、そうか」

 

「頼むぜマジで……」

 

 それじゃあ仕方ないかなあ〜……うん。

 事務処理の鬼が怖いからとか、そんなんじゃないから。

 全然怖くないし? 

 なんなら今から呑みとか行けちゃうし? 

 パンダ(先輩)と呑みとか言っちゃうし? 

 

「ユウジさん……」

 

 ──先輩との呑み、行けなくなっちゃったね☆

 

「ごめんなさい……」

 

「気にすんなよ。あいつも最近色々あってピリついてんだ」

 

 それを後輩にぶつけて良いかどうかは別問題だけど、生死がかかっているので多少は……な? 

 その代わり俺がフォローすれば良いし。

 ハイカスタムで演算機能がぶっ飛んでるロボットと人間じゃあ、出来ることが違うのは当たり前の話だ。上手くやるしかない。

 本当はサンダースに後進育成もやらせるべきなんだろうけど、アイツがマジで会社の要すぎて雑用を任せられない。

 

 ……俺だけ外に行ってる時とか、大丈夫なんだよな? コイツら。

 

「なあ、ちょっとこっちこい」

 

「はい」

 

 とりあえず給湯室に連れて来た。

 

「二人の時、サンダースにいじめられたりしてないよな?」

 

「……はい」

 

「ぬおい大丈夫かよ! ……いじめられてるんだったらちゃんと言えよ? 俺、そこらへん厳しいからな」

 

「…………」

 

「マジであるの?」

 

 ちょっとマジの聞き取りをします。

 そう! 業務後に! 

 

「……あったかい」

 

「お疲れ様」

 

「お疲れ様です」

 

 二人で屋台に並んだ。

 俺が最近ハマってるところだ。

 フクロウの店主が取る鶏ガラの出汁がまた美味いんだ。

 単品でもいける。

 何の鳥か聞いたことがあった。

 

『笑』

 

 とだけ返ってきたのでアレ以降は聞いてない。

 飯さえ美味けりゃいいんだよ! 

 

「別嬪さん連れてきたねえ! やるじゃねーか! ホーホー!」

 

「たはは……」

 

「これか? ん?」

 

「常連が一人減りますよ?」

 

「ホッホー! 冗談じゃーん!」

 

 セクハラやめてね。

 いや、本当に。

 怖い。

 

「あうう……」

 

 顔伏せちゃったし……肝が冷えるわい! 

 

「おでんな! おでん! ほら、まずは卵から!」

 

「……あ、おいひい」

 

「だろ? 次は巾着だな」

 

「むぐむぐ……」

 

 餌付けをしているような気分にはなるけど、それはそれとして役得で眼福な満足感が味わえる。何事もやっぱり満足しなきゃな。

 

「おいしーい!」

 

「そか、良かった」

 

「いつもここに来てるんですか?」

 

「いつも……まあ、いつもかな」

 

「私もまた来てもいいですか?」

 

「俺の許可とかいらねえから」

 

 好きにすればよろし。

 基本的にはね。

 

「それで──ごめんな、ちょっと水差しちゃうけど真面目な話するから」

 

「あ、はいっ」

 

「実際どうだ? サンダースから変なことされてないよな?」

 

「それは大丈夫なんですけど……」

 

 けどなんだ。

 一番怖いぞ、その間が。

 

「時折視線が怖いというか……」

 

「仕事ミスしてるからじゃなくて?」

 

「そ、それはごめんなさいって思ってますけど! そーじゃないですよ……もっとなんか……ジトーってしてて……」

 

「HAHAHAHAHA!」

 

「な、なんで笑うんですかあ!」

 

 ロボットの視線がジトっとしてるわけないじゃろがいて。なんか心配して損した。

 

「考えすぎだよ。サンダースは割とサッパリしたやつだから変な意味はない筈だって」

 

「…………うーん……そうなのかなあ……」

 

「もし直接なんか言われたりしたらちゃんと言うんだぞ?」

 

 仮にそんな視線があったとしても、視線だけでとやかく言えるはずもない。せめてなんかあってからじゃないとな。

 というか、サンダースがそんな事するわけないだろ! 

 

 

 ──────

 

 

「…………ちゃん……」

 

 酒は飲ませてない。

 そもそも俺は飲んでない。

 途中で注文して一人だけ飲み始めて勝手に潰れた。

 というわけで持ち帰っている途中です。

 バイクをスローに走らせて、春の夜風に当たりながら彼女の自宅へと帰還。

 

「あらあらあら。潰れちゃってまあ、律儀にまあまあ」

 

 あらかじめ連絡しておいたので、スズメの家政婦が出迎えてくれた。

 

「頼みます」

 

「はいはい任せてくださいね……重いったら仕方ないね!」

 

 そりゃあ色々豊かだし。

 髪とか。

 

「アンタが運んでちょうだい!」

 

「へい」

 

 シャツ越しにグデーって涎が垂れてるのを感じる。

 なんだこの感触……きもちわりい……

 

「まったく……うらわかき乙女がこんな端ない姿を晒して……アンタもアンタだよ! 深くは聞かないけどさ!」

 

「へい」

 

「PMCだかなんだか知らないけどね。人様の娘を預かってるって事、ちゃんと分かってんのかい?」

 

「へい、すんません」

 

「そこに寝かせて!」

 

「へい」

 

 寝かせたらシュワッチ! (華麗に去るの意)

 帰り際、子うさぎ公園に寄った。

 ホームレスのタヌキと一緒にマシュマロを焼いていると、日々の疲れも吹き飛ぶ気持ちだ。

 

「にいちゃん、たまーにくるよな」

 

「友達がいないもんで」

 

「へへっ、なーに言ってやがんでい! 俺がいんだろー?」

 

「ツマミが欲しいだけだろ」

 

 D.U.のホームレスというのは暗さがない。

 膨大な数の国に該当する学園自治区から徴収された莫大な税金によって地域が管理されているからだ。

 公共の福祉に対する公金の投入というのは相当な額に及び、それは公園一つとっても同じことだった。

 ブラックマーケットや路地裏に屯する学生たちよりも、よほど逞しく生きている。成熟しているのはあるが、それ以上に環境が良かった。

 

「連邦生徒会長さまさまだぜ」

 

「最近は治安良かったですもんね」

 

「カツアゲに来る不良もいねえし、安心して眠れるんだ──っつーのもちょい前の話で、また不穏になってきたけどな」

 

 知り合ったのはそういうキッカケだった。

 

「懐かしいねえ。カツアゲされてるとき、いきなりロボットが止めに入るもんだから驚いたよ。その後に今度はお前さんからカツアゲされるもんだと思ってたのに、一緒に夜酒を飲みだすもんで……ちょうどあんな奴らにつっかかられてたよな」

 

 それは二人組の不良だった。

 通りすがっただけにしては俺たちのことを見過ぎっつーか、ガンつけすぎっつーか? 

 でも、不良っぽくない身なりだ。

 校章がないからどこの子か分からないけど。

 

「こんな感じでしたっけ」

 

「おお……知り合い?」

 

「いや知らない。そっちこそまた変な取引でちょろまかしたとかじゃないでしょうね」 

 

「ば、ばか言うんじゃねえ! 俺だってアレ以降色々ちゃんとやるようになったんだ!」

 

「ふーん……」

 

「撫でんじゃねえ!」

 

(ガチャリ)

 

「おい」

 

「なんだ?」

 

「なんだじゃねえだろ。見りゃ分かるだろ」

 

 鼻先に銃口が突きつけられた。

 さて、俺はこれを一発でも喰らえば頭蓋が吹き飛ぶわけだが……

 

「インスペクト」

 

「──な、なんだ!? なんの光だ!?」

 

「脅すにしても、弾丸は入れといた方がいいんじゃないか?」

 

 スキャンによって下着から所持現金から弾丸の残数まで丸裸にすると、相当ひもじいらしい。見た目も少しやつれているような……

 

「なんか……可哀想になってきた」

 

「お、脅しじゃねえ! タマァ入ってんだよ!」

 

「いいぞ」

 

「え……う、撃つぞ!」

 

「撃ってみろ」

 

「……い、いや、それは…………」

 

「やってみろ。俺にはヘイローがないから当たれば一発で頭が吹き飛ぶ。そのあと好きなだけ漁りな」

 

「…………」

 

「そうでもないなら、そこ座れ」

 

 疲れた顔で目を見合わせて、しょぼくれた様子で座りやがる。なんとも辛気臭い。

 取り敢えず昼飯の残りでもくれてやろう。

 俺は寛大だ。

 

「ほら」

 

 おにぎり二つ。

 シャケと梅干しだけど、贅沢は言うまい。

 

「はぐっ! はぐはぐっ! ……ふぐっ! ……ぐすっ」

 

 おにぎり食ってるだけで泣き始めたので、泣き終わるまで待って話を聞いた。

 

「──それで、バイトをしようにも学籍が無いせいで安全なのはできないし、弾丸もないから強盗もできなくてホームレスを狙ったと」

 

「……ごめんなさい」

 

「はあ……」

 

 なんか……世知辛くて俺まで泣けてくるわ。

 

「た゛い゛へ゛ん゛た゛っ゛た゛な゛あ゛!」

 

 タヌキに至っては号泣してる。

 

「ん゛お゛お゛お゛お゛ん゛!」

 

「…………」

 

 面白いからやめろ! 

 笑っちゃうだろ! 

 

「別の高校に入れないのか?」

 

「足がないし……電車とかもお金が……」

 

「仕送りとか」

 

「最初にやったバイトでミスして口座も差し押さえられてて……」

 

 終わってまーす! 

 この社会は、終わっております! 

 バイトでミスしただけで口座まで差し押さえられるとか、ぜっっったいタチ悪い業者に関わってるじゃん! 

 

「カイザーとか?」

 

「ち、ちがう! 私達だってそんな見えた地雷に突っ込まない!」

 

「じゃあどこだよ」

 

「……マルゼロ直輸」

 

「有名な悪徳運送業者だろうが……」

 

 知識がないと、あるいは知識を使う知恵がないとこうなる。俺もパンダ先輩に色々教えられたからな……

 

「家は?」

 

「……」

 

「バカだなあ」

 

「…………ずびっ」

 

「しゃあねえ、俺が知恵を一捻りしてやりまっか!」

 

「──え」

 

 幸いなことに、ここはD.U.が子ウサギ公園。

 近くには例の建物がある。

 

「ついてこい」

 

「…………」

 

「ほら!」

 

 子ウサギ公園といえば? 

 …………はい! 正解! 

 

「──ここがシャーレだ」

 

「シャーレ……最近来た先生とかいう大人がいるとこ?」

 

「そう」

 

「なんでここに?」

 

「まあ見てろって」

 

 頭部装甲を装着して──ノックしてもしもーし! 

 

『はーい……えっ!?』

 

 すごい勢いで出てきた。

 

「なんで!?」

 

「この子達を預けにきた」

 

「はぇ? ……えっとぉ……この子達は……」

 

「金に困ってるらしいから、なんかシャーレでバイトない?」

 

「いきなりだね!? あと、なんで下スーツでヘルメット被ってるの!?」

 

「シャイだから」

 

「絶対嘘だ!」

 

「常日頃から強化装甲なわけじゃないんだよ。あと、俺じゃなくてこの子達のことな? ほら、俺と話してるから困ってんじゃん」

 

「す、好き勝手すぎるぅ……もう良いからみんな一旦入って!」

 

「おっす、じゃあ任せるわ」

 

「あなたも来るの!」

 

「あれ〜」

 

 

 ──────

 

 

「先生! いきなり外出て行くから逃げたと思っ──誰!?」

 

「…………」

 

 ホワイトボードにガントチャートがあるぞ! 

 もう予定びっしりだ! 

 終わってらあ! 

 終わり終わり! 

 俺は、何も、見なかった! 

 

「──そのロボットは誰ですか!」

 

「ユウジっていうPMCだよ」

 

「ぴ、PMC? なんでPMCがシャーレに来るんですか?」

 

「この子達のことで相談があるんだって」

 

 あるというか、もう相談済みというか……帰らせてもらえなかった理由があるのだろうか。

 

「──が、学校の都合で退学させられて、その上に転校先の用意もなし!? なによそれ……そんなの、ミレニアムだったらありえない!」

 

「そうだね、おかしい」

 

 先生と早瀬ユウカは二人から聞き取りをしていた。

 ユウカは関係ない学校の話なので放っておけば良いのに、律儀なやっちゃな。生来の世話焼きの血が騒いでるのか。

 

「それで……ま、まずは自己紹介からですね。私は早瀬ユウカ、一応ミレニアムサイエンススクールのセミナーで会計をやってます。どういう事で相談に?」

 

「さっきも話したけどシャーレでバイトとかない?」

 

「当番ならありますけど……今日は私が担当してるし、流石に3人ともなればお金が掛かりすぎるから現実的じゃないかと……」

 

「実際どうなんだよ」

 

 ユウカがどう言おうが、先生が良いと言えば良いので。

 

「うーん……ユウカの言う通りではあるんだけど……」

 

「先生、シャーレのお金だって無尽蔵にあるわけじゃないんですよ?」

 

「でもほら、ユウカはシャーレのお手伝いに来なくても困らないけど、この子達は困るじゃない? もちろんユウカが来てくれるのは嬉しいんだけどね」

 

「せ、せんせい……!」

 

「ユウカ!」

 

 ひしっ! じゃないんだよ。

 帰って良いですか? 

 

「あ、そうだ! ユウジも手伝ってよ!」

 

「あぇ? いや俺はもう帰りたいんだけど……」

 

「大人でしょー? 自分のお尻は自分で拭かなきゃ!」

 

「先生だろ? 生徒の為にはなんでもやれよ」

 

「そりゃあやるけど、手伝って!」

 

「そもそも、前回の払い込みもまだなんだけど」

 

「うっ……」

 

 ユウカの目線が鋭くなり、ガン詰めタイム? が始まった。

 

「先生! 振り込みの処理があるんなら早く行ってくださいっていつも言ってますよね!」

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

 頭が上がらないという様子だ。

 帰っても良いだろうか(n回目)。

 

「あの……」

 

「ん?」

 

「私たち、いつまでここにいれば……」

 

「あー……おい、早瀬ユウカ」

 

 詰めている最中だろうが関係ねえ! 

 俺は帰りたいんじゃ! 

 

「先生を詰めるのは、せめて客がいない場所でにしてもらって……この二人のバイトの話をまず決着つけてほしい」

 

「あ……すみません、私ったらつい」

 

「いやいや、気持ちはわかるから。でも、な?」

 

「えっと…………先生! 座ってないで立ってください!」

 

 へー、プラモとか置いてあるんだ。

 でも作る時間ないだろうし、塗りの感じ的にも既製品かな。そもそも、まだ赴任して1ヶ月経ってないもんな。

 

「えっと……そしたら二人は一旦これの処理を任せても良いかな?」

 

「い、いいんですか? その、学籍もないのに……私たち……」

 

「大丈夫! 何たって私は先生だからね! 私と一緒にいるってことはすなわち生徒なの!」

 

 うおっ、ムシクイーンのレアカードだ。

 なになに……ミイデラゴミクズムシ? 

 よく分からんけど、先生はどうやら俺の『敵』みたいだな。

 ほいでこっちのは……生徒からの贈り物? 

 一つ一つ飾ってあるのか、先生らしいな。

 でも、いつか置き切れなくなったらどうすんだろ。

 貸し倉庫とかに置くのかな。

 流石に捨てないよな。

 

「それに、あそこにいるユウジも協力させるから!」

 

「先生! あの人はPMCですよ!? 前回の支払いも終わってないのに協力してくれるわけないじゃないですか!」

 

「まあまあ」

 

「私は先生のためを思って言ってるんですよ?!」

 

「大丈夫、PMCもみんながみんな悪い人じゃないから」

 

「それは勿論そうでしょうけれど……あのーユウジさん?」

 

 ちょっと待ってくれ。

 ユウカの中ではPMC≒金の亡者みたいな図式が成り立ってるの? ちょっとネガキャンが過ぎない? 

 ……払拭するか、それともここで協力して好感度を少しだけ稼ぐか。

 うーん…………

 

「じゃあ、何やればいいんだ?」

 

「えっ!」

 

「セミナーの会計様の好感度を少しだけあげておこうと思ってな」

 

「そこは私じゃないんだ」

 

「先生の好感度を上げる意味ってなんかある?」

 

 俺ってば難しいことはあんまりよく分からねえんだけどよ。先生って悪性の相手に対しても善性を発揮してくれるから、殊更に敵対するとかじゃなきゃおそるべき相手じゃないんだよね。そういう予定もないし。

 

「可愛い女の子の好感度を上げない意味ってある?」

 

「女の子じゃないとかそういう話も……」

 

「コハネちゃんは可愛い」

 

「えっ」

 

「復唱、コハネちゃんは可愛い」

 

「いや……」

 

「コハネちゃんは、可愛い」

 

 可愛いことを否定はしてないだろうが! 

 詰め寄るな! 

 暑苦しい! 

 

「SAY! コハネちゃんは可愛い!」

 

「コハネちゃんは可愛い……」

 

「もっと! コハネちゃんは可愛い!」

 

「コハネちゃんは可愛い」

 

「ねっ!」

 

 だから可愛いことは(ry)

 

「あの、何で私の好感度……を? 何か意味が……」

 

「いやいや、ご冗談を。ミレニアムのセミナーから悪く思われるよりは良く思われてた方がいいって普通じゃない?」

 

「……私の権限はあくまでセミナー内、ミレニアム内の話であって、外のPMCに対して何かを言うことはないんですけど……」

 

「それはそう」

 

「???」

 

 最速バッドエンドじゃなきゃ、また会うかもしれないからな。ミレニアム訪れる機会増えるだろうし。

 最速バッドエンドなら仕方ない、キヴォトスからはおさらばだ。

 

「はいこれ!」

 

「?」

 

 席につき、渡された書類の量。

 生徒二人の量。

 書類の量。

 二人の量。

 

「おーい」

 

「さて! 頑張るよ!」

 

「おーい」

 

「質問の時は手をあげてね!」

 

「はい! コハネちゃん! はい!」

 

「はい! ユウジくん!」

 

「俺だけ書類の量がおかしいと思います!」

 

「え? 普通じゃない?」

 

「二人にやり方教えるついでの量くらいで考えてたんだが。というか、なんでそっちと俺が同じくらいなんだよ」

 

「……えへっ?」

 

「…………まあいいや」

 

 話が通じなさそうだったので、2人に教えるためにも急いで一個処理した。案の定システムが違うので、それも急いでマニュアルを探して覚えて……冷静になった。

 

「俺、なんで仕事終わりにこんなことしてるんだろ」

 

「今?! このタイミングで!? 先生、やっぱりこの人ちょっと変ですよ!」

 

「もう夕飯も食べて帰るモードだったんだよな……あ、そこは全体共有ファイルの収集用ってところ見て」

 

 人に教えるのは特に嫌いってわけじゃないけど、なんか虚しい気がする。

 

「ここは何書けばいいんですか?」

 

「うん? ああ……これは先生に聞いて。多分向こうの匙加減次第だから」

 

「向こう?」

 

「連邦生徒会」

 

「!」

 

 いきなり中央機関の名前が出てきてびっくりしちゃったらしい。

 可愛い。

 

「──めっちゃ早く終わった!」

 

「早いっつって、もう11時だけどな」

 

「その割には元気だね……」

 

 常日頃から走り込んでるからな。

 逃げるためにも。

 

「学生をこんな時間まで労働させたら普通にしょっ引かれそう」

 

「そ、それは外での話だから! そもそも始めた時間が遅かったのは連れてくるのが遅かったそっちが悪いんじゃん!」

 

 ……帰るか。

 のんびりとソファーに座ってコーヒーを飲む、なんてのは生徒達とやってくれ。2人もお疲れみたいだし。

 

「2人は今日、泊まってくんだよね?」

 

「え……いいん……ですか?」

 

「今は家ないんでしょ? じゃあ空室に泊まっていいからさ。冷蔵庫とか案内するから──」

 

 外に出ると、ビル光によって星明かりはまるで見えない。それでも超巨大なヘイローが煌々と浮かんでいる。これが生徒には見えないってマジ? 

 

「オートリモート起動」

 

『自動追尾機能起動。自宅までの最短ルートを検索します』

 

 視界内に映った危険因子やらを自動分析してくれるので、無駄に弾を使わなくて済む。

 

「……あの2人、俺のこと人間だってバラしてないよな」

 

 シャーレに入る前に、秘密だってことは話してるわけですがね。最悪は仕方ない。

 あまり期待してもいい結果につながらないのがいつものことだ。

 

「まあ、のんびり帰りますか」

 

 窓辺から手を振る4人に手を振り返した。

 

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