先生の活躍を見たいから頑張ったけど、なんかおもてたんと違う   作:goldMg

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労働基準法は適用外となっております

 

「説明……してくれるんですか? 行政官──つまり風紀委員会のナンバー2という立場にいる人が……」

 

『ええ、私としてもそこにいる先生と敵対するのは望むことではありません。ですので、こうして戦闘中であるにも関わらず通信を行った次第です』

 

「…………」

 

『それにしても、アビドスは生徒会のみが残っているという話でしたが……皆様がソレのようですね。それと、5名いるということも事前に伺っているのですが、お一人は何処へ?』

 

「今、ここにはおりません。それと私たちは生徒会ではなく対策委員会です、行政官」

 

『なるほど……なるほど、ということは生徒会の方はいらっしゃらない? 私は生徒会の方とお話をさせていただきたいのですが、奥空アヤネさん』

 

「私の名前を……!?」

 

『そんな驚くようなことではありませんよ。奥空アヤネさん、黒見セリカさん、砂狼シロコさん、十六夜……ノノミさん、そして小鳥遊ホシノさん。アビドス高等学校の全生徒5名程度であれば私の脳みそでも覚えられます。さて、ここにいる皆様が生徒会ではなく対策委員会? だとすれば、小鳥遊ホシノさんが唯一の生徒会にして生徒会長ということでよろしいですか?』

 

 その場に『先生』が割って入ることはできない。

 なぜなら生徒達が、学校に属する生徒として正当に話し合いをしているのだから。

 

「アビドスにもう生徒会はないわよ! とっくに解散して、今は対策委員会が生徒会代行をしているの! ホシノ先輩は対策委員会の会長!」

 

『あら……では、やはり生徒会はいないということですね』

 

「そうよ! 言いたいことがあるなら私たちに言いなさい!」

 

「武器を向けたまま話し合いが出来ると思っているなら、の話ですけどね〜?」

 

『それもそうですね……みなさん、武器を下ろしてください』

 

「…………!」

 

「まさか、本当に下ろすなんて……」

 

『まず、先ほどの愚行については私から謝罪させていただきます』

 

「ぐ、愚行って私に言っているのか!?」

 

『…………』

 

「うっ……」

 

 ジロリとイオリ(愚者)を睨む。

 余計な事をしやがって……というのが仕草の端々から漏れ出ていた。

 

『──さて、アビドスの皆様。話は立ち返りますが…………私たちゲヘナの風紀委員会は、あくまで校則の違反者を逮捕するためにここにやって参りました。いき過ぎた行動があったのは事実ですが……まだ違法と言い切れないところで踏みとどまれました。そこで……先ほどまでの事を水に流す意味も込めて、違反者の逮捕にご協力いただけないでしょうか?』

 

「先ほども言いましたが、それは承諾できません! 他校の敷地内で勝手に武力行為に及ぶのが違法でないというのも、理屈になっていません! 自治権に基づき、便利屋の処遇は私たちが決めます!」

 

 絶対に譲らないと、アヤネは再び意気を漲らせる。

 

『つまり、ご協力はいただけないと?』

 

「そう言っています!」

 

『この人数差……普通に考えれば勝ち目など万に一つもない筈。だというのにそこまで自信に満ちているのは……伊坂先生、貴方がいるからですね?』

 

 行政官の視線は、全員の後方にて見守っていた伊坂コハネの元へ。

 

『シャーレの先生、あなたはアビドスの対策委員会の皆様と同じ意見をお持ちなのですか?』

 

「アル達がやったことは良くないけど……でもまあ、ヤンチャしてなんぼだからね! 私も昔は…………それに、悪い子達じゃないから!」

 

「先生!? アイツらが悪い子じゃないは無理があるわよ!」

 

「セリカ落ち着いて、あれは多分──」

 

「間違って爆発させた!? それが本当なら心底からアホじゃない!」

 

「うん。でも、間違えたからって許せるわけじゃないよ。罰は私たちが与えるべき」

 

「…………そうね!」

 

「私も……まだ腹に据えかねてますね〜!」

 

「──と、いうわけで! 交渉は決裂です! ゲヘナの風紀委員会には即時の撤退を要求します!」

 

『…………ふぅ。まあ、こうなるだろうとは思っていました。なので──ヤっちゃいますか☆』

 

(ダダダダダッ! ダダダダダッ!)

 

 突然に鳴り響く銃声。

 連続したそれらはアビドスへ向けてのものか。

 ──否。

 

「うわああ!?」

 

「うたっ、うたれてるっ!」

 

 集まって隊列を作っていた風紀委員会の後方からだ。

 どよめく委員達。

 隊列が乱れ、部隊長にも焦りが見える。

 

「なんだ!? 何が起こっている! 報告しろ!」

 

「しゅ、襲撃です! 便利屋68が後方から攻撃を!」

 

「なんだと!?」

 

『おやおや……まさかこのタイミングで、とは』

 

「そういうことなんだね、風紀委員会」

 

『……カヨコさん、なんですか?』

 

「理解できなかった。何でこんなやり方なのか。私たちを逮捕するにしても規模が大きすぎる。だけど……他の集団を相手取るなら説明がつくよ。…………それでもアビドスは5人。私たちと同規模の相手だ。やっぱり動員数がおかしい」

 

『…………』

 

「だから、アコ。アンタは最初からシャーレの先生を狙ってたんだ」

 

「!?」

 

「な、何ですって!?」

 

「……!」

 

「本当に……そうなんだね」

 

『…………カヨコさんがいるならば、こうなるのは必然でしたね。ですが……驚きましたよシャーレの先生、今の口ぶり、貴方は最初から読んでいたのですか?』

 

「さあ……どうかな?」

 

『──まあ、何にせよ構いません』

 

(ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……)

 

(ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……)

 

(ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……)

 

「12時の方向……それに、3時、6時、9時……四方から更なる兵力が集結しています!」

 

(ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……)

 

 重苦しく空気が沈んでいく。

 四方から。

 それはつまり、単純な計算を行えば今目の前にいる敵兵数が5倍以上になる事を意味する。しかも一方からではなく四方。挟み撃ちどころの騒ぎではない。

 自分の敷地内にも関わらず、完全に戦略面で掌握されていた。

 

『これだけを動かすとなると、私も骨を折りました……ですが、シャーレを相手取る以上はこれぐらい必要でしょう』

 

「い、いやあ……過大評価かなあ……?」

 

『……先生、貴方は自分がこのキヴォトスにおいてどのような存在かを認識していますか?』

 

「え? …………プリティーなコハネちゃん?」

 

『ふふ、なるほど。答える気はないと……』

 

「…………私、プリティーだよね?」

 

「ノーコメント! 今、そんな話してる場合じゃないでしょ!」

 

『正直、シャーレについては何も知らなかったのですが……とある情報を掴みまして』

 

「とある情報? コハネちゃんがプリティーだとか?」

 

『ティーパーティーです』

 

「プリティーなティーパーティー……」

 

『もちろんご存知ですよね? 我が校と長きにわたり敵対状態にあるトリニティ総合学園の生徒会です』

 

「トリニティのプリティーなティーパーティー……」

 

『…………そのティーパーティーが、シャーレに関する情報を掴んだという報告がありました。そうなれば、我々もせめて同程度の情報を掴む必要があります。チナツの報告書を読んで──驚きました』

 

「プリティーだった?」

 

『プリティーではありませんでした。失踪した連邦生徒会長が残した謎の組織……どこの学校にも属さない超法規的な部活。こんなものが存在して良いのか、と正直面食らいました』

 

「それで?」

 

『この先、我々ゲヘナとトリニティは重要な局面を迎えます。きたる条約調印に向けて、不確定要素はなるべく排除しておく必要がある……そういうわけで、せめて調印式が終わるまでは先生を我が風紀委員会の庇護下に置くことで情勢の安定化を図ろうかと♪ ──ついでに違反者も掃除する、という形で』

 

「そっか……」

 

『どうですか? アビドスの皆様がどうおっしゃるかはともかく、私としては先生さえお迎えできれば今すぐにでも撤退したい所なのですが……』

 

 だが、そうは問屋が卸さないと耳をツン立てる者が。

 

「ちょっと待ちなさいよ!」

 

『はい?』

 

「そんなこと言われて、私たちがおとなしく身を引くとでも!? そもそも違法に侵入して戦闘仕掛けてきたのは全然許してないからね!」

 

『ああ、そうですよね。ですので……今から皆様を殲滅させていただきます』

 

 酷薄に、冷徹に、殲滅が宣言された。

 敵の数を見る。

 自分たちの数を見る。

 差は歴然だ。

 

(ガシャリ)

 

 再び、武器を構え直す。

 

「こうなったらとことんやってやるわよ!」

 

『本当の話ですよ? 本当に、最初は荒っぽくするつもりはなかったのですが……まあ、それもいまは昔の話。では作戦を──』

 

『待て』

 

『! ……今のはどなたが?』

 

 戦場に響く、硬くて低く、黒い声。

 先ほどまで大気を伝っていたのは高い音だ。

 どこまで行っても少女達の柔らかさを含んだ音。それが、今の声にはどこも柔らかさがなかった。

 異物がいることを認識したアコは視線をめぐらし、見つける。

 

 声を発したのはアビドスの対策委員会ではない。『先生』のさらに後方で腕組みをしている2人組のロボットのうちの一機。

 

『本当に始めるのか?』

 

『……あなた方は?』

 

『俺たちは野暮用で居合わせただけのしがない傭兵だが…………本当にこのまま始めてしまっても良いのか?』

 

『どこのどなたが存じ上げませんが──いえ、その紋章…………まさかあなたがミニオントレーサー? ……であれば、噂はかねがね』

 

『ミニ…………すまないがそれは知らない。ゲヘナの諜報部の情報網に引っかかるような何かをした覚えもない』

 

『ミニオントレーサー、そう呼ばれるPMCがいるということは治安維持部隊の中では有名な話です。戦術指揮に長けており、傭兵や生徒達をまとめて指揮官として動くことが多い。私ではありませんが……風紀委員会も煮湯を飲まされた経験があります』

 

『確かに色々なところで仕事はしたけど…………ますます分からない。いや、本当に』

 

『ふむ……では、何故この場にいるのか話を伺っても? その装備、明らかに戦闘を想定したものですが……まさか私たちとコトを構える気ですか?』

 

『いいや、そんな大仰な話じゃない。既定路線を守らせるためというべきかな。大きく軸がズレないようにするのが俺の目的だ』

 

『……話が見えてこないのでシンプルにしましょう。貴方はゲヘナとアビドス、どちら側に付くおつもりで?』

 

『そこが違う』

 

『はい?』

 

『ゲヘナとアビドスがやり合うのは好きにしてくれればいい。大事なのは先生だ』

 

『…………なるほど。彼女の危険性について理解していたのは私達だけではなかったという事ですか』

 

 酷薄に笑う。

 

『ですが分かりますか? 先生は今アビドスの味方としてこの場に立っています。そんな彼女をどうにかしようということは、私たちゲヘナを相手取るということです』

 

 敵意が2人へ向く。

 指示一つで無数の銃撃が彼らを襲うだろう。

 サンダースはともかく、人間であるユウジがそれを喰らえばミンチになる。だが余裕を持って両腕を広げると、ホログラムに映し出されるアコを指差した。

 

『それこそ誤解だ。俺は君たちと敵対する気なんかない』

 

『ならばどうするんです?』

 

『なにも』

 

『ふふっ、何もせずに場を収められると思っているのですか?』

 

 すでに戦力は集結した。

 あとは合図を受けるのみの状況で、何もしないというのはどういうことだ。御涙頂戴の芝居でも始まるのかと、嫌な予感に少し距離を取ったサンダース(社員)

 

『とりあえず……先生は保護させてもらう』

 

 何者をも恐れず、先ほどと同じくコハネに近づくと電磁結界を張った。

 

「どういうつもり?」

 

『さっきも言った通り……奴らの狙いは先生、君だ。色々な事情があるから勝手に守らせてもらう。信じるのは難しいだろうけど──』

 

「わかった! 信じるよ!」

 

『…………なんてーか……予想通り底抜けのバカだな』

 

「バカで上等!」

 

 特等席で『先生』の指揮を観戦。

 尽きることのない増援に対して前線を張る対策委員会達へと、ひっきりなしに指示が飛ぶ。

 

「ノノミ! 迫撃を撃ち落として!」

 

「無茶を……言います!」

 

(ダダダダダダダダダダッ!)

 

(ドン! バォンッ! ドガン!)

 

 宙を舞い、放物線を描いて飛来する物体に対して新しく何かをぶつけるのは至難。

 しかし全てはタイミングの産物だ。

 指示通りにノノミは機関銃によって榴弾を撃ち落とした。驚いたように武器と手を見て、先生に視線を向けると笑顔でグッドのジェスチャーをしている。

 

「はああ!」

 

(ダダッ! ダダッ! ダダダダッ!)

 

 シロコは地面のみならずビルの外壁、歩道橋、街路樹などあらゆるものを使って撹乱を行っていた。挟撃する便利屋の中で最も好戦的なハルカと同じく、突っ込んで離れてを繰り返していく。

 

「──これで、第2波を倒した!」

 

『ふむ……では、第6中隊から第8中隊まで。待機をやめて行動を開始してください』

 

「ま、まだ来るっているの!? どんだけ先生を誘拐したいのよ!」

 

『確かに圧倒的な指揮能力ですね。人数に対して通常揃えれば良いはずの戦力では絶対に足りなかったでしょう。でも、隙がないわけじゃない。問題は…………』

 

 バリアは、先ほどから対策委員会の間をすり抜けて飛来している銃撃砲撃を全て防いでいる。

 

『これほど時間がかかるとは思っていませんでした。もしも委員長にこのことが知られてしまうようなことがあれば──』

 

『アコ?』

 

『!?』

 

 

 ──────

 

 

「いや〜……何が何だかわからないけど、とにかくみんなが無事でよかったよ〜。連絡に気付くのが遅れちゃってごめんね? アヤネちゃん」

 

「本当ですよ! 大変だったんですからね!」

 

「ごめんってぇ〜……ところで、どういう状況だったの?」

 

「それが……私たちもよくわからず戦ってたところがあって……説明できるほどには理解していないというか……」

 

「そっか〜。じゃあ先生は? 先生なら何かわかってない? …………先生?」

 

 声が聞こえているのかいないのか妙に静かだ。

 

「おーい、せんせー」

 

「あ──うん! なに?」

 

「さっきまでの状況を教えてもらえないかなって」

 

「えっと……そうだね。じゃあ歩きながら話そっか」

 

 ラーメン店爆発。

 民間警備会社サンダース(PMC)の介入。

 便利屋との抗争。

 ゲヘナ風紀委員会の乱入。

 

 そして、空崎ヒナによる事態の終結。

 これに関してはホシノもほぼ同タイミングでやってきたので理解しているはずだ。

 

「ホシノがいなかったら、もう少し酷い事になってたかもね」

 

「ええ〜? そんなことないよ〜。おじさんに期待しすぎだって!」

 

 アビドスのメンバーと先生はベンチに座って冷静に状況を話し合うが、一方で道路の真ん中では喧しい口論が繰り広げられていた──というか、俺たちが便利屋に絡まれていた。

 ダレカタスケテー。

 

「ちょっと、どういう事なのよ! カイザーの監査担当じゃなかったの!?」

 

「ん? うん」

 

「私たちを騙したのね!」

 

「ああ!」

 

「なっ……なんて清々しい笑顔!」

 

「そもそも監査担当なんて暇な役職があるわけないだろ」

 

「…………わ、私はもちろん最初からわかってたけれども!? 私以外のみんなを騙した事、謝ってもらおうかしら!」

 

「ごめん」

 

「ごめんじゃないでしょー!」

 

(ダァンッ!)

 

「うおっと」

 

「許せない許せない許せない許せない許せない許せない! アル様をよくも……よくもアル様のことを騙したなああ!」

 

「ハ、ハルカ? 私は騙されてないわよ……?」

 

「はっ!? す、すみませんすみません虚偽を口走ってすみません! アル様が騙されるわけないですよねそうですよね騙されてるのは私たちだけでアル様が騙されるわけですよね!」

 

「……ええ、そうよ!」

 

 結局のところ、アウトロー的には騙される方が悪いという話になるんだよなあ……

 

「実害はなかっただろ? それにクレープも奢ってやったじゃん」

 

「あー、やっぱり変だと思ったんだよね〜」

 

「まあな。カイザーのヤツはぜっったいに奢ってくれないからな」

 

「……知り合いがいるの?」

 

「いるよ。こういう仕事してりゃ勝手に知り合う」

 

「ふーん」

 

「俺たちも、まさかこんな事に巻き込まれるとは思わなかったけど……取り敢えず状況は落ち着いたって事で、帰ろうかな」

 

『ちょっと待って!』

 

 やや離れたところから聞こえた声。

 しかし立ち止まらずに進む。

 そう、俺の目的は一旦終わったからな。

 足舐めが見られなかったし、これ以上いる意味ないわ。

 

「あれっ聞こえてるよね!? 待って〜!」

 

「……どうしました?」

 

「何でちょっとだけ嫌そうな顔するの!? というか敬語!? さっきは普通に話してたよね?!」

 

「いや、ほら……俺たちも仕事しなきゃいけないから」

 

「まあまあ! ちょっとだけだからさ!」

 

 反抗すれば先生の肩が亜脱臼もしくは脱臼し、面倒くさいことになるのは必定だ。あれよあれよとペースに巻き込まれて対策委員会の待つ場所へと連れてこられた。

 これが先生のチカラ……? 

 

「えーと……どうも?」

 

「どうも。そっちはどうやら大変な事に巻き込まれているみたいだな。まさか爆破テロに加えてゲヘナの風紀委員会まで介入してくるなんて」

 

「そうね…………」

 

「……ほら、やっぱり話す事ないだろ?」

 

 アビドスの面々と俺たちが関わったのなんて数時間にも満たないんだから、とんでもなく気まずくなるに決まってるんだ。先生ならそういうイジメに繋がりそうな要素はちゃんと拾ってくれないと。

 

「な、なに? 何で私のことジト目で見るの?」

 

「いや……少し期待ハズレだったから」

 

 完璧超人──生徒会長みたいにはいかないか。

 原典からしてそうだし。

 

「私、結構頑張ってなかった!? ……ねえセリカ!」

 

「私に振らないでよ」

 

 そっちの話じゃねえ。

 

「うえーん! セリカがいじめる〜!」

 

「よしよし、先生は頑張ってますよー」

 

「ノノミー! ……うへへ」

 

 気持ち悪い

 気持ち悪いな

 気持ち悪い

 

「はっ!? な、何その目……私が何したってんだい!」

 

「帰っていい?」

 

「──ちがう! 話すことがあったんだった!」

 

「おう、早く言ってくれ」

 

「いつも私に付き纏ってるじゃん?」

 

「いや?」

 

「またまた〜! それでさ、どうせ付きまとうなら色々手伝ってくれないかなって!」

 

 付き纏いって言い方やめてくれないかな……アビドスだけじゃなくて便利屋68からの視線も痛いんだけど。ついでに社員からの視線も。

 …………味方がいない!? 

 

「…………かくなる上は!」

 

「おい待て、お前何しようとしてやがる。何でディスク展開した」

 

「決まってるだろう! デュエルだ!」 

 

「はあ!?」

 

「多勢に無勢──そんな状況でこんな場所にいられるか! 俺のフィールドに引き摺り込む!」

 

「脳みそまでデュエルにやられてんのか!? 良い加減にしろバカ!」

 

 そうだ…………俺はキヴォトスの会社経営者である前にデュエリストなんだ! 

 

「そもそもデュエル人口少ねえからなあ」

 

「ぐはっ」

 

 そう。

 そうなのだ。

 子供にはこのゲームの良さが分からないらしい。

 ムシクイーンなどという二番煎じのゲームにいつまでも引っ付きやがって……俺がプロモーションをやって少しでもこの神ゲーの人口を増やすんだ! 

 なあ相棒! 

 

「確かに楽しいけど、俺はそこまで……」

 

 は、ハシゴが……ハシゴがない! 

 外されたとかじゃなくて最初からない! 

 

「ねー、カードゲームの話もしたいけど今は真面目な話してよー」

 

「ああ……手伝いね、手伝い」

 

「そう! 色々持ってそうだし、色々やれそうだし……ダメ?」

 

 ふむん。

 協力。

 

「サンダース、お前やれば?」

 

「え? やだよ」

 

「あ、そう……じゃあそういうことで──何してんの?」

 

 手を膝に当て、上体はやや前屈み。

 中腰に近い体勢。

 胸が寄っている。

 顔の正面はやや下向きだが上目遣いのため、問題なくこちらを見ている。

 しかし、何故か頬が赤く染まっている。

 目も細かく動いて動揺の色が濃いな。

 サンダースの方を向いたから気付かなかったけど、これは──

 

「色仕掛けか!」

 

(パチンッ)

 

「!?」

 

 小気味よく鳴った音と相まって、俺の思考は完全に正確だと自信を持って言えた。パーフェクトってやつだ! 

 

「おい見ろよサンダース! 先生ってこういう手も使えるんだな!」

 

「は、はわわわわわ」

 

「いやあ感心だ。確かに効くもんな! 俺もグッときた!」

 

「プシュウウウウ……」

 

「だが残念ながら、そうは問屋が──?」

 

 何故か萎んだような体勢で地面に蹲っている。

 もしかして……実は何処かに跳弾が当たっていたのか!? 土手っ腹に風穴を!? 

 

「おい先生! 大丈夫か!」

 

「見ないで……見ないで……」

 

「こんな状況でも辛抱を!?」

 

「やめてよ……うう……」

 

「今救急車呼ぶからな! いや救急車より俺の方がはえーや! すぐに──」

 

 ガシリと、二つの感触があった。

 細くやわっこいのと硬くてカチカチなのだ。

 

「もう、やめてあげてほしい」

 

「そこまでにしとけ。いくら何でも……ムゴいぜお前」

 

 シロコとサンダースの言っている意味がよく分からなかった。ムゴいとは一体。

 

「うう……もう私はダメなんだ……可愛いことしか取り柄がなくなっちゃった……」

 

「ん。先生は可愛いだけでいいよ」

 

「シロコに酷いこと言われた〜!」

 

 すごく釈然としない。

 俺は真面目に心配していたというのに、何だろうこの疎外感は。

 

「なあ、お前って天然キャラ似合わないからやめときな?」

 

 なんだこいつ、やんのか? 

 スクラップにすんぞ? お? 

 

「良いから、本当にやめたげろよ」

 

「そうです! 先生はシャツを裏返しに着るしスパッツだけでアビトス高校までやってくるし隙あらば人の匂い嗅ごうとしてきますけど……一緒にいるだけでみんなの心を明るくしてくれるんです!」

 

「そうよ! いくら先生が、ラーメンばっかり食べてるくせに暇さえあればお腹の肉が……とか舐めたこと言ってるからって、さっきのはあんまりよ! ね! アヤネ!」

 

「そうなんです! 胸にだって行ってるくせに!」

 

「お前らもな?」

 

 帰ろうかな……家に。

 

「──本当に協力はナシ?」

 

「うん」

 

「本当の本当に?」

 

「先生、まだ分からないか? 生徒を守れるのはお前だけだ」

 

「……あなたは?」

 

「俺はそういうの向いてないから。刹那的に生きる方が性に合ってるし……もう手一杯なんだわ」

 

 器が違う。

 多分先生なら、時代を股にかけた聖杯戦争とかも何とかしそうな気がする。

 だって、これからすごい数の生徒と関わって問題を解決して、深夜残業当たり前で、棒グラフメチャクソ重なるほど忙しいんでしょ? 

 無理ぽよ。

 普通にすごいわ。

 

「なんか……その目で見られると凄い恥ずかしいかなって」

 

 頑張れって感じのモブだ。

 

「あ、じゃあじゃあ、連絡先教えてよ! それなら必要になった時に呼べるじゃん!」

 

「さよなら」

 

「えー!?」

 

 ほな。

 ブィィィィィイインwwwウィリーwww

 




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