先生の活躍を見たいから頑張ったけど、なんかおもてたんと違う   作:goldMg

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爆発、破壊、被害

 

 ヴァルキューレ警察学校の校門前。

 公安局局長である尾刃カンナをはじめとして、局員達が集まっている。しかし、統率されてきるべき公安局であるにしては妙にソワソワと落ち着きがない。

 カンナは見るに見かね、そばにいる1人の肩を叩いた。

 

「ほら、シャンとしろ」

 

「うひっ! ──し、しかし局長! あの夜長氏ですよ!? …………ですよ!?」

 

 何かモゴモゴと口走った。

 周りにいる局員も大きく頷く。

 

「はぁ……そこまで畏まる必要などないというのに……」

 

「地形や彼我の適性を見極めて最適な装備を提案する作戦立案能力! 戦場の全てを見透かし、対応したミニマルコントロールで被害を抑える指揮能力! 局長も長い付き合いだと聞きます!」

 

「任務についていれば自然と関わる機会が多くなるだけだ。私以外の三年生も同じくな。……来たか」

 

 わかりやすい。

 彼と彼の相棒が乗る、ハイエンドカスタムの二輪駆動が放つ静かな音。バイク乗りは()()()のが好きだというのが定説だが、彼らに関してはそこまでして自慢するのがカードバトル? がバイクでできる事だというのだから呆れたものだ。

 だが同時に、局員達にとっては喜ばしい存在だった。

 

 ──まるでホバーしているかのように静かながら、確かな存在感を表す重厚な見た目。至って安全運転で到着した2機のロボット──1機はロボティクスアーマーを装着した人間だ──が胸に象った雷のマーク。

 

 

『現着。サンダース、今から記録開始だ』

 

『了解』

 

『──今より、依頼の発注者であるヴァルキューレ警察学校と合流する。時計を合わせるぞ。3、2、1……』

 

 タイマーをセットし、2機はカンナの元へ近付いてきた。

 

「お待ちしてました」

 

『それで、合同作戦の具体内容は? 最近脱獄したという七囚人か?』

 

「…………せっかちですね」

 

『?』

 

 学校の門前で、顔を合わせた途端に仕事の内容説明を求める。確かに迎えた相手に対してやや失礼とも取れる態度だが、話は早い方がいい。

 それは忙しい身であるカンナにとっては好ましい筈なのに、こういった反応は珍しい。

 意図の説明を求めると背後を指差す。

 肩越しの視線。何かキラキラとしたおもはゆいものを感じつつ、そちらに目を向けるとモブ生徒達(ミニオンズ)がいた。

 

『……新しく現場配属になった生徒たち、だな。それもこんな中途半端な時期に別の部署からの異動──特別人事配属か?』

 

「ええ、まだひよっこですが最低限の基礎は叩き込んであります」

 

『ひよっこを七囚人の相手に向かわせるのは無謀じゃないか? それとも……そこまでの人不足?』

 

「もちろん人手は不足しています。──だからこそ、あなたへの依頼というわけです」

 

『そういうことなら、もっと良い手があるぞ』

 

「……なんでしょうか。寡聞にして、これ以上の手を知り得る力もなく」

 

『──シャーレ』

 

「!」

 

 大きな反応。

 カンナも最近のシャーレの目覚ましい活躍は聞き及んでいた。

 

『あらゆる法に縛られず、あらゆる事件、あらゆる学校に介入する事が認められている組織。そんなシャーレを活用しない手はない──そうじゃないか?』

 

『ああ、先生の指揮能力ならそこの彼女達も間違いなく運用できるだろうな』

 

 それをヴァルキューレが本気にすれば仕事を一つ奪われるということだが──2機はまるでブレない。あくまで選択肢の提示だと、根を据えていた。

 

『──とはいえ、今回は既にここまで来てしまっている。今から引き返すと燃料代すら稼げなかったバカが2人になってしまうから、次からの話と考えてもらおう』

 

「あ、はい」

 

『相手は』

 

「…………おそらく、企業を背後につけた犯罪者集団です」

 

『なんだ、そういうことなら──というか、なんで局長が自分でやり取りしてるんだ…………しかも会話って……せめてメールとか……』

 

「……」

 

 カンナがちょいちょいと指差す先。

 今度はまた別の方向だった。

 そこには、特徴的な白いスーツに身を包んだ集団──連邦生徒会のメンバーだ。ピンク髪の特徴的な少女もいる。

 

「ですので……」

 

『なるほどね』

 

 この茶番にもう少しだけお付き合いください、というわけだ。

 

「……ヘルメットを外すのを忘れてた。着け心地が良くてつい、申し訳ない」

 

「いえ」

 

 そう、いつもなら到着した時点で外す筈のヘルメットを今日は着けっぱなしにしていた。カンナが出迎えたことへの驚きがそうさせた。

 

「では改めて、任務の説明を──」

 

 2機は局長直々の説明という、何とも贅沢な──嬉しくない贅沢を享受した。

 

 

 ──────

 

 

「やっと帰ったか」

 

 結局、連邦生徒会のメンバーは任務が終わるまで彼らの監視を続けていた。このような事は初めてではないが、先生が赴任して以降は初めてだ。

 それに、無意識に体も強張る。

 肩をグルグル回すと、あたりの惨状を確認した。

 

「ずいぶん派手にやってくれちゃって、まぁ……」

 

「ちっ……わざわざ2人必要だっつーから来てみりゃ何だよこれ。俺いらねえだろ、これなら」

 

 淡々と、統率のなっていない不良集団どもを制圧した合同部隊。モブ生徒達は初出動で怪我もなく任務を終えたことを喜んでいた。中にはハイタッチをしている子らもおり、なんとも浮かれている。

 戦車まで出てきたからこその達成感だ。

 

「お見事でした」

 

 カンナも、指揮をする彼らのさらに後ろから様子を見ていた。

 

「治安が悪いな」

 

「生徒会長がいなくなってからはこれが通常──というかあなた方も日々仕事に追われているのでは?」

 

「俺たちはほら……ちっちゃくてもう、本当に吹けば飛ぶようなアレだから。小回りが利くんだよ」

 

「何をバカなことを……」

 

「ブラックなんて呼ばれないように日々業務量の調整に頭を悩ましているわけです」

 

 任務前の堅い口調はどこへいったのやら、ヘラヘラと自社を卑下する。社長だからこそできる芸当だった。

 

「なんにせよ、確かに基礎はできてたな」

 

「ええ、十分でしょう?」

 

「おいおい……公安局局長ともあろうものが基礎で満足か?」

 

「大事なことは、体裁ではなく治安を確実に維持すること。そう教えてくれたのはあなたじゃないですか」

 

「…………そうだっけ」

 

「っ……!」

 

「うそうそうそ! 冗談!」

 

「……ふん」

 

 何とも白けたやりとりに、ロボットですら嫌気がさす。そんな空気に割り込んできたのは、先ほどまで指揮を受けていた生徒達だ。そのうちの1人が前に出て頭を下げる。

 

「あの! ありがとうございました!」

 

「ああ、怪我はしてないな? してるならちゃんと治すんだぞ。俺が指揮した後に怪我で体をダメにしたなんてなったら商売上がったりだからな」

 

「はいっ!」

 

 仕事が終わったのならば、帰るのが通常だ。

 次の日に備える必要もあった。

 

「もうお帰りですか?」

 

「また焼肉食いたいの? ちょっとペース早くない?」

 

「──」

 

 局長は肩を怒らせながら帰った。

 局員は、あまりに恐ろしいことを言う外部協力者に慄いた。

 

 そんな事は気にも止めず、PMC2名は先ほどまでのことについて顔を見合わせる。

 

「結局……ありゃあ何だったんだ。生徒会の奴らが何の用だよ」

 

「この先、汚職があるぞ」

 

「──そうか」

 

 サンダースにとっても馴染み深い話なだけに、その短いやり取りだけで理解する事ができた。

 局員達はのっぴきならない単語を耳にはしたが、その意図するところは読めない。しかし、熱血系の彼女にとっては聞き流せないことだ。

 

「今、聞き捨てならないことをお聞きしました! 汚職ですか! 誰ですか! どこのどなたですか! 教えてください!」

 

「うおっw」

 

 たまたま通りがかった生活安全局の中務キリノだった。

 若くて、熱くて、正義に燃えている。

 とても好ましい少女だ。

 だからこそ話せないこともある。

 

「汚職とは……俺たちのことだ!」

 

「ええっ!?」

 

「俺たちはカードゲームの為ならなんでもするこわ〜い組織なのさ!」

 

「……んふっ」

 

「笑ったな! ならば、見せてやろう!」

 

 お仕事終わりで関節の調子を整えたい相棒(サンダース)は乗り気じゃないが、社長の強権の前には無抵抗も等しい。

 

「今からかよお……しかも子供を乗せてとか……」

 

「本官は子供ではありません! 高校一年生です!」

 

「はいはい…………まあ、切り替えるか!」

 

 腕から飛び出すはデュエルディスク、ロボットだからこそ可能な芸当だ。

 人間大好きなユウジも、この一点に関しては羨ましがっている。

 

「「デュエル、スタート!」」

 

「あの……本官は一応生活安全局の一員なので……速度超過だけは気をつけていただけると……」

 

「俺のターン! ドロー!」

 

「話を聞いてください!」

 

 

 ──────

 

 

「はてさて、状況はどう続いていくのかね」

 

「ああ?」

 

 夜の事務所。

 最高級のオフィスチェアーに背中を預けた1人と1機は、書類に手を付けることなくグダグダと雑談を楽しんでいた。

 

「明日だ」

 

「なにが」

 

「もう一度アビドスに行く」

 

「またあ〜!?」

 

「コレは保険だ。一つ間違えれば、待ってるのは破滅だからな」

 

「──そんなに?」

 

 驚きに腰を上げる。

 破滅というあまりにも物騒な単語。

 まじめ腐った顔で言われたそれを聞き流すには、少々信頼度が高すぎた。私用10割だと思っていたところのコレなので落差による驚きも含まれているが、それでもスルーは不可能だ。

 

「それ、アイツには話してるのか?」

 

「いいや」

 

「……怒るんじゃないか?」

 

「教えればアイツは止まらない」

 

「約束はしたんだろ」

 

「それを守るような度胸無しじゃないぞ」

 

「褒めてるんだか貶してるんだか…………」

 

「ただの評価だよ」

 

「……じゃあ、明日行くか」

 

「お前来るの?」

 

「何かあったらどうせ呼ばれるんだろ。それなら最初から一緒にいたほうが事情も理解できるし、時間もかからない」

 

「流石。でもまあ……前みたいなことにはならないと思うけどな」

 

「へー」

 

 翌日、再び訪れたのはアビドス自治区の市街部。

 毎度のことながら高校を直接訪れる事はない。

 歩道橋の欄干にもたれかかりながら、2人は揃って街の様子を眺めていた。

 

「…………」

 

「…………」

 

 微風に乗ってきた砂が少しずつ道端に溜まっていく。

 溜まったそばから風に流されて消え去る。

 流入と流出が釣り合った状態。アビドスの中心区が侵食されているという情報通りの光景だった。

 

 街を歩く獣人の数も、他学園自治区に比べると明らかに少ない。ビルはあるのに、それを活用する手がない。

 自治区としてはまさに詰みの状態だ。

 税金はあるだろう。

 しかしインフラを支えるための資金など、自治区として用意しなければならないものは多岐にわたる。

 基本的に、現代のインフラとは少数の人間で支えられるものではない。ある一定以上の人口、そしてそこから発生する税金を前提とした仕組みになっている。

 

「この有様じゃあ……厳しいねえ」

 

 首振りとインターフェースによって、嘆かわしさを表現する。

 サンダースは既に、アビドス高等学校の生徒たちの善性に触れている。彼女たちの頑張る姿を見ている。

 それが全て無駄だと、サンダースには理解できてしまう。

 

「……それでもお前は、あのガキどもに何かあると思うんだろ?」

 

 腕組みをして、ただまっすぐを見つめる男。

 ヘルムに隠され、その表情を伺うことはできない。だが険しい空気が伝わってくる。

 

「ユウジ?」

 

「…………」

 

「どうした」

 

「ちっ……気分が悪いな」

 

「!」

 

「ふーっ…………」

 

 明らかに様子がおかしい。

 何かに対してイラついている。

 

「おい、1人で抱えるな」

 

「これはそういうのじゃない」

 

「じゃあ何だよ、何でもねえなら気になるようなことすんな」

 

「…………待つしかないな」

 

 その言葉の通り、何もない景色をぼーっと眺めていたところ遠方にて爆発が発生した。

 その方角とは──

 

「柴関ラーメンの方だな」

 

「…………」

 

 向かってみると、それはもうひどい有様だ。

 

「おいおい、なんだこりゃ。ガス爆発か? …………ってあれは……」

 

 瓦礫からは見覚えのあるモフ毛が出ている。

 そして、他にもまた見覚えのある姿がいくつか。

 便利屋68。陸八魔アルを筆頭としたゲヘナ学園の悪童達が同じように埋もれているようだ。

 出血は見られないが、瓦礫を掘り起こししたときにどうなっているか。少なくとも、どんな容体だとしても、速やかな救助が望まれた。

 

 たとえ、事情を完璧に理解していても。

 

「──救助する」

 

「了解」

 

 瓦礫をどけ、しば犬の大将を安全な場所まで抱き連れて行く。腕があらぬ方向に曲がっていて、骨折の可能性を大きく示唆している。

 

「ぐ……うう…………あ、あんたら……例のPMC……」

 

「大将、ずいぶん毛並みが乱れちまったな」

 

「へっ……あうっ」

 

 前述の通りアビドスの公共機関はボドボドなので、到着するとしても時間を要する──2人の調べでは医療機関など存在しない。

 この場で2人が手当てをするのがそのまま最終医療行為になる可能性すらある。

 

「よし、次はアイツらだ」

 

「ああ」

 

 同じく瓦礫を引き起こす。

 やはりヘイロー──神秘の力か、擦り傷以外にさしたる外傷は見られない。

 

「こいつらも不運だな、まさかラーメンを食べに来てるときにこんなのに巻き込まれるなんて」

 

「…………そうだな」

 

 暫くすると、地面に転がしていた便利屋が目を覚ました。

 

『はっ!? こ、ここは……私は確か…………』

 

 惨状を目にし、それぞれがそれぞれの反応を見せている。

 

『え……本当に店がなくなってる……』

 

『嘘でしょ……社長、本当にやったの?』

 

『……す…………すっごーい! アルちゃん、本当にやったの!? まさに血も涙もない大悪党! 恩を仇で返す、アウトローの名に恥じぬ外道! やるじゃん!』

 

『あ……へ……あ………………お、おーほっほ! コレも全て私の狙い通り! どう? この完璧な計画!』

 

 口に手を当て、高らかに犯行に自白した陸八魔アル。

 そこに全く別の声が混ざる。

 

「てめえら……」

 

「え?」

 

「ガキがやるオイタにしては……ちと、見逃してやれねえな」

 

「あ、あなたは確か……カイザーPMCの……?」

 

「ここの大将には何回か世話になってる、それをこんな風にされたんじゃあ……」

 

(ガシャリ)

 

「お仕置きしてやるよ」

 

 サンダースの基本兵装はセミオートライフルだが、複数対の時はグレネードを多用する。それに限らず、改造ロボットらしく有り余った出力を活用してそこにある武器であれば何でも使える。

 しかし、今回は少々話が違った。

 

「き、消えた!?」

 

「姿が透明に……これって光学迷彩!? みんな、気をつけて!」

 

(カラン)

 

「──フラッシュバン!」

 

 弾ける。

 彼らの使う閃光手榴弾は通常よりも光量を大幅に上げてある。一瞬だが、放たれる光度は10万カンデラに到達する。まともに食らえば一時的な失明どころか、永久的に視界を喪失する危険性すらあった。

 当然、気付いたとしても瞼などという薄い皮膚組織は貫通して目潰しの効果をもたらす。

 

「くっ…………はっ!?」

 

(ダダダダダ!)

 

「うああっ!」

 

 至近距離での連射。

 まず1人。最もフラッシュバンに近い位置にいた鬼方カヨコが沈黙した。

 

「カヨコちゃん、どうなってるの!?」

 

「…………」

 

(ダダダダダ!)

 

「いたたたたた!」

 

「む……妙なものをつけてやがるな」

 

「アルちゃん! 距離を取って!」

 

「狙撃はさせないぞ」

 

 フラッシュバンなどなくとも、ステルス迷彩の効果により極めて視認しづらいようになっている。さらにもう一つ。

 

(カラン)

 

「フラッシュバンくるよ!」

 

(ぷしゅううううう!)

 

「──違う、スモークだ! コレじゃあアルちゃんの視界が潰されて狙撃ができない!」

 

 光を乱反射させる効果のある白のスモークが一帯を覆っていく。

 

「こんなもの……!」

 

(ドォン!)

 

 再度、空気を揺らす爆発が巻き起こった。

 風が吹き荒れ、滞留するはずだった煙が吹き飛ばされる。

 

「わかるか、ガキども」

 

(ガシャリ)

 

「ちょ、ちょっと! 離しなさいよ!」

 

 サンダースは煙幕がある内に陸八魔アルの背後に近づき、爆風で煙を吹き飛ばれた時には既に首根っこを捕まえていた。迷彩を解き、怒りマークをフェイスに表示させて説教を始める。

 

「お前らがおふざけ半分で爆発させるとどれだけの損害が発生すると思う?」

 

「そ、損害って……アウトローはそんな細かいこと気にしないわ!」

 

「食材、内装、電気、水道、ガス、外装、解体、医療! どれだけ安く済んでも5000万円はくだらないぞ!」

 

「5、5000……」

 

「反省しろ! このバカが!」

 

(ゴツン!)

 

「いったあああああい!」

 

 物価上昇チョップがアルの頭に振り落とされた。

 

「あ、アル様! ……許せない……許せない許せない許せない許せない許せない許せない!! アル様の頭を汚れた鉄の拳如きで触れるなんて!」

 

 何とも混沌とした状況。

 ユウジは静観していた。

 柴大将にこれ以上の危害が及ばないように、サンダースがピンチに陥ればいつでも飛び込めるように、やり過ぎそうになったら止められるように。

 

「あ! いた! たいしょ──なんでアンタがここに!?」

 

「アンタとはずいぶんな言い草だな……それよりも大将を安全な場所へ連れて行ってくれ。おそらく骨折している。手当はしてあるけど、医療機関にあてがないから運べなくてな」

 

「わ、わかった! アヤネお願い!」

 

「えっと……おんぶで……?」

 

 アヤネは大柄ではない。

 もちろんその腕力は柴大将を運ぶのに不足ないだけのものを有しているが、運び方に気を付けないと怪我が重くなるかもしれない。

 

「──俺のバイクを使え」

 

「え? バイク……が……1人でに走ってる……!?」

 

 やって来たのは、誰も乗っていないにもかかわらず安定した走りを見せる1台のバイク。瓦礫をものともせず到着し、ピタリと静止した。

 

「一旦預ける。運んでやってくれ」

 

「自動操縦、それにこれって……!」

 

「ほら早く」

 

「……いいんですか?」

 

「俺はココを離れられないからな」

 

 本当に借りていいのかとためらいを見せるアヤネだが、トントンと軽く肩を叩かれた。

 

「アヤネ! こう言ってるから! 行っちゃっていいよ!」

 

「……わかりました! 失礼します!」

 

 『先生』はやはりアビドスと共に行動しているようだ。

 アヤネを見送り、意味深な視線をユウジへと向ける。

 

「やっぱり、いるんだね」

 

「偶然だ」

 

「……状況は?」

 

「便利屋68が柴関ラーメンを爆破。爆発に気付いて駆けつけた時にはあたり一帯瓦礫の山だ。それでサンダースがキレて戦ってる」

 

「なんでキレてるの?」

 

「破壊に伴った損害金がトラウマになってるから」

 

「過去に何があったのさ……」

 

「ちょっとな」

 

 乱入した対策委員会の面々は、今にも飛びかかりそうだ。特にセリカが。

 

「許せない……! あんた達! こんな……こんなことを!」

 

「わ、私達はアウトローよ! 施しを受けたからといって手を休める事はないわ!」

 

「こんなことなら……ラーメンを奢ってあげるんじゃなかった!」

 

「くっ…………カヨコ課長! は気絶してるから……ムツキ室長! 傭兵を呼んでちょうだい! ……いい加減に離しなさいよ!」

 

 アルはずーっと首根っこを掴まれている。

 金属疲労という長期的な話を除けば、燃料が尽きるまでの間サンダースは最大出力を維持することができる。当然、至近距離にいるのでハルカのショットガンも不用意に放つことはできない。

 人質としての役割は満点だ。

 

「ちょっと! そいつは私たちがやるから!」

 

 しかし、部外者の介入が気に食わないセリカに一喝されてアルの悪魔角を見つめる。

 

「…………まあ、いいか」

 

「──いったーい! ……はっ!?」

 

 いきなり落とされて尻を打ちつけるも、周囲からの視線に気づいてすぐさま立ち上がった。

 距離を取り、便利屋68は再び一ヶ所に集まる。

 

「ムツキ室長! カヨコ課長を起こしてちょうだい!」

 

「カヨコちゃーん、おーい」

 

「──ぅ?」

 

 制圧が一瞬すぎて便利屋側の損耗はほぼなかった。

 場は完全な仕切り直しだ。

 

 

 ──────

 

 

『セリカは前進! シロコは制圧射撃! 右前方からの射線を潰して』

 

『まっかせて!』

 

『ん』

 

 烏合の衆。

 傭兵と言っても正規な訓練を受けた警察や軍隊からの流入ではなく不良学生だ。

 先生が指揮するアビドスが手間取る要素は無い。

 

「ぐええ!」

 

「うわああ!」

 

「何だコイツら! 強いぞ!」

 

 ポンポンと弾き飛ばされていく。

 

「うーん……」

 

「どうした」

 

「やっぱ似てるなって」

 

「似てる?」

 

「ああ、似てるわ」

 

 サンダースは顔を左右に振る。

 ユウジ(社長)コハネ(先生)を繰り返し見る。

 

「アイツの指揮、お前みたいだ」

 

「多分逆だと思うけどな……おっ、そろそろ詰まるか」

 

『よし! あとは便利屋のみんなだけだよ!』

 

 『先生』は楽しそうだ。

 真剣ではあるが、どこか余裕を感じる。

 知り合いを制圧するということに何か感じることはないのだろうか。

 

「くっ……コイツら、しぶとい!」

 

「というより、前も思ったけど先生の指揮が異常に上手いね。こっちの行動を先んじて潰されてるっていうかさ」

 

「このままじゃ埒が──」

 

(ドッカ────ーン!!)

 

「何!?」

 

「これは……」

 

『砲撃です! 3kmの距離に多数の榴弾兵を確認!』

 

 地面を抉り飛ばす威力。

 50mm迫撃砲が特有の風切り音を鳴らしながら次々と飛んでくる。

 

「50mm迫撃砲って……」

 

『所属の確認できました! ゲヘナの風紀委員会! 一個中隊の規模です!』

 

 

 ──────

 

 

 迫撃砲により便利屋は既に失神している。

 頑丈なキヴォトス人と言っても、強力な迫撃砲による集中砲火を喰らえばこうなるのは必然だ。

 問題はそこではなく、アビドスの自治区に他学園の武力組織が侵入しているということだが。

 

 学園・学校間においては、当然のこととして自治権というものが存在する。学区内において起きる出来事はその学園の人間が対処するが、他の学園がそこに介入することはできないということだ。

 その大前提を突き崩して、ゲヘナ学園の治安維持組織が乗り込んできた。

 

「どうやら変なのが来たらしいな」

 

「狙いは俺たちじゃない」

 

「ふーん…………じゃあ俺たちは退散するか」

 

「いや、待て」

 

「風紀委員長の空崎ヒナは最強だから近付くなって言ってたのはお前だろ。目付けられたらどうすんだよ」

 

「待てって…………ん」

 

 顎が指し示すのは『先生』だ。

 

「アレがどうしたよ」

 

「迫撃砲に巻き込まれたら死ぬから、一応見ておくぞ」

 

「はあ〜!? 最近のお前おかしいぞ! そんなの自己責任だろうが!」

 

 しかし、やいのやいのと騒いでいれば目立ちもする。

 

「あ、あのー……」

 

「──先生、さっきの迫撃砲で怪我はないか?」

 

「うん、ありがとう! それは大丈夫だよ! ところで何の話を? 私が死ぬとか……」

 

「ああ、ゲヘナ学園はわかるか?」

 

「えっと……あはは……」

 

「ゲヘナ学園はキヴォトスで今、二大巨頭と呼ばれるマンモス校のうちの一つだ。見ろ、アレがゲヘナの制服だ」

 

「…………なるほど?」

 

 隊列を乱すことなくやって来た黒基調の制服集団。

 先頭に立つ銀髪の少女も併せて、全員が赤い腕章を身につけている。

 

「奴らの狙いはアンタと、そしてあの便利屋達だ」

 

「えっ……なんで私を?」

 

「連邦生徒会長直々に推薦され、あらゆる事象に介入する権限を持つシャーレ。既に、破裂しそうだったキヴォトスの緊張を一時的とはいえ緩和することに成功している。これだけで確保する理由にはなるぞ」

 

「……その為だけにアビドスに?」

 

「そうだ」

 

「でも、何で? 何でわかるの?」

 

「分からない理由がない」

 

「…………」

 

「さて、このままだと……」

 

 

 ──────

 

 

「アビドスだな」

 

 銀髪、ツインテ、褐色肌。

 性癖のバーゲンセールがそこに立っていた。

 

「あなた方は! 何故いきなり砲撃を!」

 

「逃げ込んだ違反者を確実に制圧する為だ」

 

「──便利屋の皆さんのことですね!」

 

「そう、便利屋だ。厄介なことになかなか捕まえられなくてな、今回はやっと見つけたから良い機会なんだ。引き渡してもらおう」

 

「ここはアビドスですよ! ゲヘナが勝手に活動することは認められていません!」

 

「引き渡さないってことか? なら、分かってるよな?」

 

「……っ」

 

 アヤネは素早く状況を理解した。

 ゲヘナの風紀委員は精強にして、人数差、兵器の数的不利を考えると戦闘は賢いとは言えない。アビドスの主力であるホシノが不在という事もそれに拍車をかけた。

 腰に下げた銃も頼りなく、通信用のタブレットを持っていたところでなんの役にも立たない。出される答えは敗北の一本。

 どうすれば、と冷や汗を流すことしかできなかった。

 

「──ふざけないで!」

 

 代わりに意思表示を行ったのはセリカ。

 眉を逆ハの字に主張し、イオリ()を睨みつける。

 

「勝手に人様の自治区内にやってきといて、便利屋を引き渡せって!? アヤネの言う通り、ここは私たちのアビドスよ! あのクズどもは絶対に渡さないわ! 関係ない大将を巻き込んだ罪は償わせるんだから!」

 

「へえ? 良いじゃん、威勢が良くて──威勢だけは良くて、の間違いか」

 

「な、なんですって!」

 

「最初からこうすればよかったんだよ……アコ達のやり方は遠回りすぎる。そもそも、こんなところまで来て言葉でなんて──」

 

「!?」

 

「さっ!」

 

「キャッ!」

 

 地を蹴り、銀の線を残して加速したイオリは、銃よりもこちらの方が好みだと言わんばかりのドロップキックをセリカにお見舞いした。盾になった愛銃を取り落とし、数m吹き飛ぶ。1/2mv^2(運動エネルギー)たっぷりで、戦闘慣れしていなければ出てこない攻撃方法だ。

 当然、出会い頭に一発お見舞い──などという生ぬるい話ではない。次の標的へ視線を向けた。

 

「──はっ!?」

 

 鋭く尖った視線。

 三日月に歪んだ口元。

 狩りの楽しみを知った獣の如く、赤い瞳が爛々とゆらめいた。

 

「っ……止まってください!」

 

(パンッ、パンッ)

 

 軽い銃声はアヤネの手に握られた拳銃から発されたものだ。だが、その程度で怯むような女子であれば風紀委員会のトップに近い位置になど辿り着かない。

 

「生ぬるい……!」

 

 瞬間、イオリはアヤネの足元に潜り込んでいた。

 

「!」

 

 打ち上げられるは掌底。

 顎を狙った一撃を喰らっていれば意識は花火の如く儚く散っただろう。だが、そこは精強なアビドス対策委員会の一員。非戦闘要員であってもタダでやられてはやらない。

 辛うじて頭を反らし、痛打を避けた。

 ──その程度で逃れられるはずもない。

 

「ばーか!」

 

「ぅっ!? ──くっ……あ、うぁっ!?」

 

 徒手格闘という、それこそ援護要員のアヤネでは太刀打ちできない領域の追撃は、咄嗟に組んだクロスガードを容易く剥がして銃床による腹部殴打で終結した。

 

「へっ、そうそう! こっちの方が──っと!」

 

(ダダダダダッ!)

 

 横向きに倒れたアヤネの肩を踏みつけ、イヤらしい笑みを浮かべたイオリは言い終える前に飛んだ。

 

「はぁぁっ!」

 

 対策委員会2年生、砂狼シロコだ。

 真っ直ぐに構えた[WHITE FANG 465]をブレさせることなく、トリガーを引きながら突っ込んできた。

 

「こいっ!」

 

「言われなくてもっ!」

 

 先に引き金を引いていたシロコの射線から車陰(誰かの持ち物)に身を隠したイオリは、反転してライフルをぶっ放す。エネルギーをまとった銃弾は辛うじてシロコの右頬を掠め、先生目掛けて一直線! 

 

「──っ!?」

 

「先生っ!」

 

 銃弾1発で死ねるであろう先生は、慌てるも遮蔽がどこにもなかった。このままでは死ぬ、とノノミが手を伸ばした次の瞬間。

 

『──アルファシールド展開』

 

 イオリは目を細めた。

 自身が放った銃弾が、青い半球のフィールド──つまりは電磁結界によって弾き飛ばされたのだ。張られた電磁結界は六角形と五角形の組み合わさった半正多面体を半分にした形をしている。

 展開したのは汎用PMCより幾分かゴツい見た目をしたロボット。先生の前に立ち塞がり、地面に円筒型の機械を置いていた。

 

「なんだあいつ……?」

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

「ちっ!」

 

 一瞬の隙。

 敵が妙な光景に気を取られている瞬間に距離を詰めたシロコは回し蹴りを繰り出した。イオリはそれを頑強なライフルの銃身で受け止め、お返しと言わんばかりにソバットをお見舞いする。

 

「っ! ……やああっ!」

 

 握り止め、強く引けばイオリの身体は当然に引き寄せられる。その鼻先目掛けて銃口を──

 

(ジャキッ)

 

 コッキング音。

 シロコの視界の中心にはやや赤熱した鉄の筒が突きつけられていた。

 

「ふんっ……やるな」

 

「…………」

 

 完全なるお見合い。

 どちらかが少しでも動けば、その瞬間に引き金が引かれて鼻先に着弾する。

 この距離であれば鼻骨骨折は免れまい。

 

「待って!」

 

「ん? …………アンタ、さっきの……」

 

(ダダダダッ!)

 

「くっ!」

 

 隙を見せたらこうなる。

 腹に数発くらい、即座に下がった。

 

「みんな、大丈夫!?」

 

「はい……」

 

 『先生』はバリアの前に出てアヤネを助け起こし、全員に声をかける。幸いなことに、今の攻防で動けなくなるほどのダメージを喰らった生徒はいない。

 

「──伊坂先生、貴方がまさかアビドスの元にいるとは思ってもいませんでした」

 

「伊坂先生……それってシャーレの!?」

 

「そういうことです」

 

 張り詰めた空気の中で、明るく手を振る。

 

「チナツ、やっほ!」

 

「やっ……はぁ……相変わらず気の抜ける方ですね……出来るならば貴方に敵対的な行動は取りたくなかったのですが……」

 

「事情を教えて欲しいかな、何か行き違いがあるのならまずはそこから正さないと」

 

「それは──」

 

『それは、私から話させていただきます』

 

「アコ行政官……?」

 

「アコ……って、だあれ?」

 




すごくみんなが応援してくれて嬉しいです。
このまま私を嬉しくしてください。
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