先生の活躍を見たいから頑張ったけど、なんかおもてたんと違う   作:goldMg

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ブラックマーケットでも観察観察ゥ!

「ライディングデュエル……!カッコいい……!」

 

「ええ〜……先生、趣味悪ぅ……」

 

「私もやりたいなあ、ライディングデュエル……」

 

「ダメですよ!バイクに乗りながらカードゲームなんて!ただでさえ先生は危なっかしいんですから!」

 

セリカとアヤネがひどい。

 

「ひどい!私だってバイクに乗って夕陽の中に消えていきたいだけなのに……!」

 

「……先生、そもそもあの2人は何をしてるの?」

 

「あれじゃない?帰りの道すがら遊んでたんじゃない?」

 

何というか、本当に自由な2人だって印象だった。

サンダースとユウジ。

ユウジは最後に意味深なことを言っていたけど……サンダース、彼の動きは目覚ましいものだった。

バイクに搭載された兵装はあまりにも多く、どこにそんなスペースがあるのかというような量をフルに活用してギリギリまで耐え抜いたのだから。

 

「でもまあ……悪い人たちじゃないのかもなあ」

 

深読みしただけになってしまったような気がする。

 

「今度会ったらちゃんと謝ろう」

 

『先生』とか関係なく、普通に失礼なことをしてしまった。助けてくれた相手に対してあんな威圧的な態度を……まだ私も未熟ってことだな。でも……いつもはもうちょっと私だって落ち着いてるのに……なんでだろう。

 

「それにしても……挨拶もせずに帰ってしまうなんて。せめてお礼はさせていただきたかったですね」

 

「ノノミ。世の中にはああいう自由気ままな人もいるから、あんまり気にしない方がいいよ」

 

「シロコちゃんみたいですね……」

 

「え……」

 

暗い顔!

 

「こーら!」

 

「わっ」

 

「そういう時はこう思えばいいの!またいつか、出会えたらその時にお礼をしよう、ってさ!」

 

「!」

 

「そうすれば、次に会う時が楽しみになるでしょ?」

 

「そうですね!その時はしっかりとお礼をさせていただきます!」

 

うんうん、明るい顔が似合ってるんだから!

 

「ちなみに先生は、最後にどんなお話をされたんですか?」

 

「んー……」

 

正直、何の話だったのかよく分からない。小難しい話ってわけじゃなくて、彼にしか見えていないものを語られたという印象だ。

でも……とても大事な話だった気がした。

だから、これをそのまま話すわけにもいかない。

 

「なんか、お金は払えよって」

 

「えっお金取るの!?」

 

「そうなんだよ〜セリカ慰めて〜!」

 

「きゃっ!も、もう!危ないから飛び込んでこないでよ!」

 

「んー……猫ちゃんのいい匂いがする……」

 

「ちょっ、匂い嗅ぐな!」

 

私も良い匂いするはずなのに、生徒達の方がはるかにいい匂いな気がするのは何故だろう。

 

「先生……やっぱり匂いを嗅ぐのが好きなんだね」

 

「――はっ!?」

 

シロコ見られていた!

違う!こんなの私じゃない!

本当の私はもっと理性があって賢くて強くて可愛い女の子なんだ!

 

「ち、ちがうよシロコ!これは誤解なんだ!」

 

「誤解?」

 

「そう!セリカの匂いを嗅ぐのは先生の義務なの!」

 

「………そう」

 

「そう!そうなの!」

 

そうなんだよ!

 

 

――――――

 

 

「はぁ〜……ったく、綺麗だな」

 

「朝っぱらから元気だなおめえも」

 

「ははっ!何つっても、こんな光景はなかなか見れるもんじゃないからな」

 

アビドス自治区は、他の地域に比べると街の活気が乏しい。廃墟に比べたら流石にある方だけど、道のど真ん中で朝っぱらから風景を眺めてても誰にも文句は言われない。

これがD.U.なら疲れた目をしたサラリーケモノマン達がすでに通りを歩いている時間帯だ。ついでにヴァルキューレや連邦生徒会のメンバーなんかもちょくちょく見かける。

 

「んで、こんな砂だらけのところにいつまでも留まるってんだから、それなりの理由があるんだろうな」

 

「まあな」

 

「でもどうすんだ?もう先生の前に顔は出せないぞ」

 

「そもそも出すつもりなんてなかったぞ」

 

「マジで?じゃあ全部偶然なのか?」

 

「そういうこと」

 

本当に、凄まじい運命力だ。

俺じゃなくて彼女の話だけど。

 

「えーっと、そうなるとこれから何するんだ?」

 

「柴関ラーメンを監視する」

 

「またかよ!?お前ラーメン食いたいだけじゃねえだろうな!」

 

「監視するだけだよ」

 

「……我慢できんのか?」

 

「できなくなったら普通にPMCのフリして行く」

 

「バレるに決まってんだろ!」

 

「じゃあアーマー脱いでいく」

 

「………まあ、それなら一応大丈夫か?」

 

大丈夫なわけねえだろ、回路錆びてんのか。

そもそもラーメンが我慢できないってなんだ、俺がそんなピザに見えるか?

 

「………」

 

隣に立って、今まさに地平線から現れたダイヤモンドを眺める。

果たしてロボットであるこいつに、この光景の美しさを解することができるのかは分からない。そもそも、こいつが話している言葉に心というものがあるのかは不明だ。

俺は本当は、独り言を繰り返しているだけに過ぎないのかもしれない。その状況において適している言葉を返すアルゴリズムを持ったロボットが、真に魂など持たずにそこに在るだけなのかもしれない。

だけど、孤独で立ち尽くしているよりは幾分かマシだろう。

 

――赤く、俺たちのアーマーを照らし出す太陽の光の中で、サンダースが身じろぎをした。

 

「なあ、ユウジ」

 

こうして俺の名前を呼ぶということは、割と大事な話だ。

 

「人間でいるってどんな感じなんだ?」

 

「………」

 

「鉄の肉体と何か違うのか?」

 

以前はカイザーPMCに属していたコイツは、ゲヘナ風紀委員会との戦いの中で人格メモリーが含まれたコアを残して破壊された。

俺がいつかゲヘナと戦う時のために備えて偵察していたタイミングだった。

 

戦場に放置されていたので何かの役に立つかもしれないと思い、回収して直した。だけど、直したら直したで既にこいつのID廃棄されていて戻ることはできないということだった。他に行く当てもないというのでウチで雇ってみた。

以来、俺の苦手な金勘定をやらせたり、戦術を教えたり――とはいっても、相手の装備から相性を読み取って武装を変更するってだけだ。鶴翼がどーのとかじゃない。

最初の方は融通が効かなかったし会話も硬過ぎてくそつまらんヤツだったけど、段々と人間らしさを得てこうなった。

そして、人間の肉体に興味が出るお年頃になったようだ。

 

「お前が言う魂は……俺にあるのか?」

 

腕を握って開いて。

その度に内部駆動装置が音を鳴らし、機械であることを強調した。

 

「なんだ、お前もこの光景で何か感じたのか?」

 

「……分からねえんだ」

 

「ああ?」

 

「俺は機械だ………むかつくけど、機械に魂なんてものは宿らない。動かなくなるまで破壊されようが、直されて電子が回路を通過していけば記憶すらばっちり元通りだ」

 

「そうだな、俺たちと違ってお前達は電子部品の塊だからな」

 

「うるせえ!茶化すんじゃねえ!…………お前といると勝手に言葉が出てくる。カイザーにいた時はこんなことなかったのに」

 

「成長したってことだろ」

 

「!」

 

「同じことばっか反復してたら他のことは学べねえし、カイザーにいる奴らも解散させたらお前みたいな感じでもっと個性が出てくるのかもな。こわ……」

 

「お前は……俺のこれが成長だってのか?こんな、言葉尻が荒くなって、仕事にはなんの関係もないことばかり覚えたのが……」

 

「じゃあなんだ。俺たちは意味のあることを常に学んでいなきゃいけないってか?」

 

「………分からない」

 

「そうか、じゃあ俺は腹が減ったから飯屋に行くわ」

 

「……柴関ラーメンか?」

 

「だから!バレないように動くって言ってんだろ!先生に見つかって何かが変わってみろ!全部お釈迦だ!」

 

哲学ロボットは放って1人ご飯や!

 

 

――――――

 

 

「ふぃー、うんこスッキリした〜」

 

人間 成人 男性

この三つの条件を満たすトイレが意外なほどに少ない。というか無い。

なので普通に女子トイレに入らなければならない。

いまだにストレスだぜ。

 

「さーて!今日も監視監視!」

 

「あ、そういえばなんだけどよ」

 

近くにある公園にバイクを隠して移動する最中、思い出したようにサンダースが声を上げた。

 

「あのガキどもが使ってた戦車とか武器とか見てて気付いたんだけど、カイザーが関わってるっぽいぞ」

 

「知ってる」

 

「マジかよ……なんでも知ってるじゃねえか」

 

「なんでもは知らねえよ。知ってることだけ知ってる」

 

くぅ〜!人生で言いたいことの30位くらいに入ってくるセリフ言えた〜!

 

「……まずいんじゃねえの?」

 

「なにが」

 

「カイザーだぞ?俺たちみてえな零細なんて潰されちまうぞ」

 

「そういうのは全部跳ね返してこそのPMCだろ」

 

「マジで?アイツらとやる気なのか?」

 

あんまりにも頭が悪過ぎて萎える。

コイツさっきまであんなに頭使って悩んでたのに、すぐこれかよ。

 

「俺たちの仕事はとにかく見つからないようにすることだ。戦うことじゃねえ。それに――」

 

「それに?」

 

ここから先は色々と込み入ってくるはずだからあんまり近寄りたくはない。

 

「おい、なんだよ」

 

「嫌な予感がするってこと」

 

「ええ!?お前の嫌な予感とか絶対碌なもんじゃねえだろ!帰りてえ!」

 

「今更かよ。帰るなら止めねえけど」

 

「うあ〜……だけど!ここで逃げたら何も掴めねえ!この熱がなんなのか、確かめるためにも俺は残るぜ!――って、あれ生徒だな。しかも――」

 

「!」

 

「あでっ」

 

慌てて木陰に身を潜めた。

サンダースとかいう威勢だけは一丁前なロボットも、突っ立って見ているだけなので引っ張り込んだ。目立つなっつってんだろ。

 

「ちょっと、やだ、私もしかしてこんな場所で油まみれにされちゃうの……!?」

 

「本当にスクラップにするぞ」

 

そば耳を立てる。

本当に、『先生』が現れてからネームドが多くてビビる。もちろんゲームの中での、という意味でだ。

ゲームではモブとしか描写されなかった子達にも名前があって、顔があって、それぞれの人生(青春)がある。俺も関わった子達の名前はちゃんと覚えているぞ。

おおっと!気持ち悪いとか言うな!

仕事した子からは評判悪くないんだからねっ!

 

『アル様!ア、アル様がわざわざこの一帯を探すぐらいなら……わ、わ、私がこの一帯を探します!』

 

『ハ、ハルカ?』

 

『カタカタヘルメット団のアジトを見つけ出して……み、身の程を思い知らせます!』

 

『……ハルカ、ありがとう。その気持ちはとても嬉しいわ』

 

『あ、アル様ああああ!』

 

『落ち着いて!』

 

『は――』

 

『落ち着いて……落ち着いてちょうだい、ハルカ。確かにあなたならこの高難易度任務を達成できるでしょう。でもね、何事も効率ばかり求めていては見逃してしまうものがあるのよ?』

 

『ーーーーー!?』

 

雷に打たれたような顔で驚いている。

 

『わ、私が……アル様の深謀遠慮を邪魔しようとした……!?かくなる上はこの爆弾で――あっ』

 

『ハルカ、社長の邪魔しちゃダメだよ』

 

腹に巻きつけていた爆弾はカヨコに取り上げられた。

 

『ああ、そんな……!お役に立てなかった私なんて消えれば良いんです!』

 

『………何もしてないんだから落ち着いて』

 

『ところでムツキ、アジトの場所は見つけてあるんだよね?』

 

『うん!バッチシだよ〜!』

 

便利屋68

 

陸八魔アルを筆頭に、鬼方カヨコ、浅黄ムツキ、伊草ハルカの4人で構成された何でも屋集団。

ゲヘナ学園に所属。

問題児として風紀委員会に追われながらも、事務所を持って依頼料を稼いでいる。

いずれも特徴的なヘイローを持っているため、人混みにいても見つけることができるだろう。

 

「あいつらは?ゲヘナのやつっぽいけど……」

 

「ああ、ゲヘナで合ってる」

 

そもそもこの世界、見た目の雰囲気がそこの学園っぽかったら大抵は合ってるのでわかりやすい。

 

「なんで隠れた?堂々としときゃ良いじゃねえか。PMCがいようが気にしねえだろ」

 

「……つい」

 

「はあ……あ、行っちまうぞ」

 

「追いかける」

 

「マジで?バイクは?」

 

「そのままでいい」

 

「……了解」

 

唯一警戒するべき相手はわかっている。

だが、警戒するだけ無駄という可能性もある。だから、ある程度は距離を保ちつつなんとなく付いていく。注視しすぎると周りが見えなくなるというのも一つの理由だ。

 

『でもアルちゃん。急がせるから飛び出してきたけど……わざわざこんなところまでやってきたんだから、たーっぷり報酬は用意してもらってるんだよね?』

 

『……もちろんよ!便利屋68の威光のおかげね!カイザーコーポレーションの理事?から直接依頼されたんだから!』

 

『おー、じゃあ目一杯やるしかないねっ!』

 

『ええ!』

 

ここら辺は比較的人通りが多い。というか、柴関ラーメンだって営利企業だから人がいないところに出店できないよな。

だから獣人やらの人並みに紛れるように――と思ったけど、ちっこいのしかいないから逆に目立っている気がした。

 

『なんでPMCがここに……?』

 

『嫌ね、またお金儲けかしら』

 

『近頃はどこも高くてねえ……』

 

『カイザーコーポレーションに違いないわ』

 

嫌儲ワラワラでワロタ。

 

「おい、なんか目立ってんぞ俺ら」

 

「そりゃあ格好が格好だからな。こんな場所じゃPMCが街中歩き回るなんて中々無いだろうし」

 

「どうすんだよ」

 

「なんも悪いことしてねえし、このまま散歩と洒落込もうぜ」

 

「そうすっか」

 

だけど――便利屋の連中はギャグみたいな感じの振る舞いをしているが、決して間抜けじゃない。背中から聞こえてくるざわつきに敏感に反応してこちらのことを見ていた。

 

『――PMC?なんでこんなところに』

 

『カイザーコーポレーションかな?でも……うーん、あんな格好してたっけ。アルちゃん覚えてる?』

 

『えっ!?あ、いや……直接聞いてみるわ!』

 

「……おい、どうすんだよ……!こっちくるぞ!」

 

「あ?だから普通にしてろよ。俺たちはカイザーコーポレーションからのお使い。そういうことでいいだろ?」

 

「は?いやそれ普通じゃ………そうか、わかった」

 

陸八魔アルはズンズン近づいてくると、腰に手を当てて堂々と言い放った。

 

「あなた達!お話を聞きたいのだけれど!?」

 

「ふほっ」

 

笑うんじゃねえ俺も堪えてんのに。

 

「カ、カイザーコーポレーションのPMCで合ってるかしら!」

 

「ははは、勘は悪くないのかもな」

 

「やっぱりそうなのね!なんでこんなところにいるのかしら!」

 

「おかしいか?」

 

「不自然よ!こんなところにPMCへ依頼をする人間なんているわけないじゃない!」

 

「別に外部の依頼で来たわけではない。俺たちの目的はお前達だ、便利屋68」

 

いつもより4割増くらい硬い口調でお届けします。

 

「私たち!?……な、何かしちゃったかしらカヨコ課長!」

 

「さあね。とりあえず続きを聞いてみなよ」

 

「鬼方カヨコ、お前は話が早くて助かる。俺たちが来たのは、お前達が依頼を完遂できるかの監視の為だ」

 

「え?」

 

「要は、金を払うに値するかどうかを見極める監査役ということだ」

 

「………な……なななな、なんですってええええ!」

 

 

――――――

 

 

なぜか便利屋68はカフェに入った。落ち着きたいとかなんとか言ってたけど、そこら辺でいいだろうに。

というかシュールすぎる。

ロボットと女子4人が向かい合って座ってるんだぞ。

店主のネズミ獣人も「何が起こるんです?」って顔してる。

 

「監視って……そんなの聞いたこともないわよ!」

 

「当たり前だ、今回のためにわざわざ派遣されたんだからな」

 

「なによそれ!私たちのことが信用できないってこと!?」

 

「信用しているかどうかと業務を完了できるかどうかは別問題だ。だからこそ口約束ではなく書面での契約がなされる。それくらいは分かるよな?」

 

「ぐぬぬ……」

 

「別に邪魔をしようってわけではない。ただ見届けるだけだ。本来ならば街中のカメラで十分なのだがな。この寂れた街ではその網も行き届かない。だから俺たちが来た」

 

「――アル様、この2人消しますか?アル様を不快にさせる敵は……」

 

「ヒュッ……や、やめてハルカ!そんなことしたら報酬がパーよ!」

 

冷や汗をかかせてくれるぜ。

爆弾をあちこちに仕掛けられたらどうなることやら。

 

「あんた達、本当に邪魔しないんだよね?」

 

「ああ。目立つなというならばもう少し離れた場所から監視するが」

 

「………」

 

「お前達がカイザーコーポレーションに対して何を思っていようが関係ない。依頼をこなしてくれさえすれば、それで十分だ」

 

「……私は別に良いと思うけど。もしも邪魔したら――」

 

銃をちらつかせている。

 

「はぁ……お前らこそ分かっているのか?俺たちが邪魔するということはカイザーコーポレーションが確定的に敵に回ったタイミングということだ。俺達がやられようが関係ない。お前らが全滅して、それで終わりだ」

 

「………」

 

「ちょ、ちょちょちょ!2人とも落ち着いて!ほら、ヒッヒッフーよ!」

 

「……社長、それ出産の時にするやつだよ」

 

「と、とにかく!監視するだけなら全然気にしないわ!……あなたもいいのよねっ、それで!仕事をこなせば払ってもらえるのよね!?」

 

「最初からそう言っている」

 

「よ、よし!それなら大丈夫よ!私たちにこなせない仕事なんてないんだから!」

 

かくして俺たちは彼女達の監視を堂々と行えるようになった。カヨコとムツキは警戒を怠らないだろうが、最終的に決定するのはアルだ。

彼女が白といえば黒でも白になる。

それで――

 

「なぜ、一緒に歩く必要が?」

 

「あ、あなた達が監視するなら!私たちだって監視させてもらうわ!」

 

「ふむ」

 

「だから、そのゴテゴテした格好を覆い隠して欲しいわ!」

 

「……まあ良いだろう」

 

そういうわけで、サンダースはお気に入りのパーカーを。俺は理事リスペクトのアロハシャツを買ってアーマーの上から着た。

テンション上がってきたな!

 

「知ってるかザックス」

 

「…………んお、ああ俺か」

 

本名で呼ぶわけねえだろ。

 

「かつてアビドスは希少鉱石の産地だったんだ。グラム単価10万を超えるような希少な鉱石がわんさか採れて、産地もここだけだから大いに発展に貢献したんだとか」

 

「へー」

 

「なんだ、反応浅いな」

 

「昔の話だろ。今もあるんならこんな砂だらけの……クソ!みてえな土地になってないだろうしな!」

 

「お前、人前でそういうこと言うなよ……」

 

「なんと言われようが、関節に砂が詰まるこの感覚は生体生物には理解できねえよ」

 

「――い、いいいいいまの話!」

 

「あ?」

 

アルが凄い勢いで近寄ってきた。

こいつ人の話聞いてたの?

 

「今の話、ほんてょうなにょ!?」

 

「なんて?」

 

「グラム単価10万円って!」

 

「もう採れないぞ」

 

「あえっ……」

 

「楽して儲けようとするな。まずは今、目の前にある仕事を片付けてから次のことに取り掛かれ」

 

「わ、分かってるわよう……」

 

恨めしそうな顔で便利屋の輪の中に戻って行った。

 

「……俺は知らないんだけど、実際のところアイツらの戦闘能力ってどんなもんなんだ?」

 

「難しいな」

 

ヒナやホシノ相手だと壊滅する。

一般生徒相手だと無双する。

 

「上の下といったところだな」

 

「ふーん……」

 

「個人個人の質は高いが際立っているわけではない。ただ、厄介なのは間違いないな」

 

「なるほどな」

 

外郭部には人がいると原作においてシロコが言っていた通り、ここらへんには店もある程度充実していた。

 

「……おっ、あそこのパフェなんか美味そうだな。買ってくるわ」

 

「なんでこのタイミング?」

 

「やりたい時にやりたい事をやれる。それもまた個人の裁量ってやつだ」

 

「マジで羨ましい……味覚ユニットだけでも積もうかな……」

 

急いで喫茶店のパフェだけ購入して戻ると、ムツキがニヤニヤと寄ってきていた。

 

「仕事中なのにパフェなんていいのー?」

 

「言っただろう。目標さえ達成すれば過程は気にしない。その過程において業務に支障が出るようなことならともかく、この行動にはなんの問題もない」

 

「へー、カイザーの人間にしては柔軟なんだねー?」

 

「なんなら買ってやろうか」

 

「えっ!?」

 

「なんだ?子供に奢るのくらいわけないぞ」

 

「……業務に支障が出ないようにってことー?」

 

「そうだな」

 

このアウトロー達と敵として関わり合いになりたくないという打算ありきではあった。

 

「――ありがとっ!」

 

「ふ、ふふっ!この便利屋68も接待を受けるほど大きくなったということね!事業拡大も夢じゃないわ!」

 

「あ、ありがとうございます!ありがとうございます!ありがとうございます!」

 

「………」

 

「あれ?カヨコちゃんいらないのー?じゃあ私食べちゃおっかなー」

 

「やめて」

 

場所は街中のとある空き雑居ビル。

俺なら万全に万全を備えて行くけど、銃弾が肉を貫通しない身体ってのは羨ましいねえ。

 

「……ここね」

 

表の街を歩いている時よりも静かに歩みを進め、ビルの一階から出てきた生徒を静かに気絶させると一気に中に踏み込んだ。

 

『なんだお前達!』

 

『悪いけど、あなた達は終わりよ』

 

『……お、お前ら!敵襲だ!……ぐあっ!』

 

そこからは参加せず、外で成り行きを見守った。

 

『ど、どけっ!』

 

「はいよ」

 

『てめえも仲間かっ!喰らぐええっ』

 

入り口で突っ立っているだけなので、当然勘違いして突っかかってくる奴もいる。危害を加えようとしてきた時には鉄拳制裁だ。

この世界、基本的には銃弾よりも拳の方が通りがいい。もちろんアーマーを着てこその話ではあるが、1発撃つごとに数十円が飛んでいくことを思うとコチラの方が理に叶っている。

 

『ひっ!な、なんでPMCまでいるんだよ!』

 

「逃げたいなら追わないぞ」

 

『………へへ、後ろから撃とうったってそうは問屋がぁっ!?』

 

「危ない危ない、逃すところだった」

 

「すでに3人逃げている」

 

「………」

 

「続けろ」

 

一応監視ですからね、そういうワンポイントも。

 

「――そろそろ終わるか」

 

待ってから中に踏み入ると、割れたガラスや書類、置きっ放しのインスタントフードの容器などが散乱している。

 

『う、うう……』

 

そして倒れたヘルメット姿の生徒達。

カタカタヘルメット団だ。

 

「金さえもらえれば、なんでもする……それがアウトローたる所以よ」

 

「何言ってんだコイツ」

 

「う、うひゃあ!?――ん、んんっ!どうだった?私たちの働き具合は」

 

「70点だな」

 

「ええっ!?どこが!?完璧に倒したわよ!」

 

「どこって……正面から突っ込んでるし……スペックでゴリ押してるだけだし……」

 

「そ、そんな……」

 

「ただ、それが問題というわけではない。要は仕事をこなせばいいのだから」

 

「!」

 

まるで意味のないやりとりを終え、事務員に電話をかけてカイザーに連絡したフリをした。

 

「引き続き業務達成に向けて努力するように」

 

「ほっ……」

 

「今日は近くにいたが、明日からは離れたところから観察させてもらう」

 

「な、なんで?」

 

「俺たちは姿が浮いているからだ」

 

「……そ、それもそうね」

 

 

――――――

 

 

「おいおい……いくら何でもぴったりすぎだろ」

 

次の日。

柴関ラーメンを監視していたら『先生』、対策委員会、便利屋68が揃い踏みだ。予想通りと言えばそうか。

 

「マジかよ……イカれてんのか?」

 

「こんなこともあるもんなんだな」

 

「…………どっちだ?わかんねえ……」

 

「見るなら俺じゃなくてあっち見ろ」

 

原作通りのやり取りを済ませて、柴関ラーメンの外で楽しそうにやり取りをしている。別れたあと、暫くしてから――

 

『な、なんですってー!?』

 

「なるほど……カタカタヘルメット団の仕事を引き継ぐってのはそういうことか。………あの取り巻きの奴らは随分と鬼畜だな」

 

「直情的なタイプだから、実際に敵として対面した時に知ったらボロが出そうだ。しょうがねえんじゃねえか」

 

「そもそもターゲットの顔くらい先に知っとけよ」

 

「人のこと言えた口か?」

 

自分だって最初の頃は金のことしか見てなかったくせによ。

 

「う、うるへー!」

 

『――バイトを集めるわ!』

 

集めたバイト達と共にアビドス高等学校へと向かう便利屋68。しかし、直線距離にして15kmもある。折角バイクがあるのだから俺たちは活用させてもらおう。

もちろん、バイト共に見つからないように道は変えている。なんなら先んじてアビドスの近くにやってきた。

すでに『先生』は対策委員会のメンバーと外に出て待っている。

 

『………まだ、来ないみたいだね』

 

『現在、校舎の南5kmを移動しています!まもなくやってくるかと!』

 

『みんな!準備はいいね!』

 

『おっけー!……全く、こんなにおじさんを働かせるなんて感心しないよねー』

 

『私たちとそんなに歳変わらないでしょ!』

 

そこからは予定調和と言うべきか。

残当と言うべきか。

 

『お疲れっした〜』

 

『いやー、働いた働いた』

 

『――ちょっと!なんで帰っちゃうの!?』

 

『定時なんで』

 

『まさか、こんな時間まで決着がつかないなんてね〜……こうなったらたいさーん!』

 

『………お、覚えてなさいよー!』

 

『この恥知らず共!2度とくんな!ラーメンサービスして損したわよ!』

 

『っ……!』

 

 

――――――

 

 

「まずいわ……」

 

電子口座に残された残金。

500円。

 

「これでお金が手に入るはずだったのに……」

 

事務者に戻ったアルは、1人悩んでいた。

カイザーPMC理事から直々の依頼、しかも大金がかかっていたこともあり、前金をほぼ使い切ってバイトを雇ったのに。

 

「あ、あんなの想定外じゃない……!」

 

明らかに。

対策委員会の戦力は単純に人数や武器から見積もったそれよりもはるかに上だった。数人でこれまで学校を守ってきたゆえの実力というやつか。

 

「でも、やるしかないわ」

 

連絡をした際、理事は何故か今回の敗北について言及しなかった。

 

「練習……そう、練習なのよ!」

 

あれは練習。

本番は次だ。

恩人と二度も戦わなければならないという儘ならない現実がそこにあっても、自分たちの――便利屋68の矜持を示さなければならない。

一日一悪。

自分たちは、金さえもらえれば何だってやる悪党(アウトロー)なのだから。

 

「兎にも角にも融資を受けて、武器を買って、それで何とかしないと……!」

 

ブツブツと呟く社長の声は、事務所の扉の外にまで届いていた。そこには二つの影が。

 

「もうアレだね。引けなくなっちゃってるよね」

 

「はあ……だからもっと安い事務所にしなよっていつも言ってるのに」

 

「えー?でもそれじゃアルちゃんらしくないじゃーん?」

 

「……それより、あの監視役のこと」

 

「………」

 

2人が思い出すのは、珍妙なロボット二体。

パーカーを着ているのはザックス。

もう一体、シャツを着ていたのは――名前を名乗らなかった。

サックスの方も名乗ったわけではないが、どうにもチグハグだった。

 

「カイザーコーポレーションの監視役にしては随分親しみやすかったね」

 

「ね〜」

 

「だからこそ怪しいんだけど……」

 

「でも、外の人間じゃ知り得ないことでもあるんだよね」

 

二人が知るカイザーコーポレーションと言えば、金と規則でガチガチに固められた組織だ。あんな風にパフェを奢るなんてのは――もちろん美味しかったが、考えられなかった。

しかし、アルがカイザーコーポレーションから依頼を受けていたというのは今日になってから知った事だ。それを知っている傭兵がカイザーコーポレーションでないわけもない。

 

「思い違い……?」

 

「さあねー。ただ、もしも仮にアルちゃんに何かしようって事なら――」

 

「……顔、出てるよ」

 

「おっと」

 

ムニムニと顔をときほぐす。

幼馴染のことになると、途端にムツキは凶暴になるのだ。

 

「もう今日は帰ろっか」

 

「うん、アルちゃんもそのうち寝るだろうしね」

 

 

――――――

 

 

「おいよお」

 

「なに?」

 

「俺たちはなんでブラックマーケットなんぞに来てんだ?」

 

「なんだ、馴染みあるだろ?」

 

「あるなしの話じゃねえよ。なんで来たんだって話してるだけだ」

 

『あーっ!それアタシが目ぇ付けてたのに!』

 

『ああん?知るか、私が先に取ったんだから私のものだ』

 

『てんめええ!』

 

『やんのかあああ!』

 

「ほれ見ろ、早速トラブルだ」

 

「俺たちのトラブルじゃないな」

 

ここはブラックマーケット、名前から分かる通り闇市場だ。非合法な兵器や物品、学生服、食品などあらゆるものが売っている。俺の鎧もここに流せば相当な高値で売れることだろう。

とはいえ、俺は健全な経営を心がけるPMCの社長。

進んでここにいる奴らと取引をすることはない。

 

「欲しいものがあんならわざわざこんな場所に来なくて良いだろ」

 

「別にねえよ、欲しいものなんか」

 

「何しに来たんだよ!?」

 

「決まってんだろ、観察だよ」

 

「ああ?………いや、待て。マジか?」

 

「今日、おそらく先生はここにくる」

 

「ええ〜……昨日から今日に至るまで俺たち結構一緒にいた気がするんだけど……」

 

「独自の調査網ってやつだ」

 

「そればっかじゃねえかよ……」

 

『ああ……うう……』

 

「うおっと、きったねえな」

 

壁に寄りかかるようにして学生が涎を垂らしている。サンダースは危うく涎たまりを踏みそうになっていた。

 

「……クスリか」

 

「だろうな。世も末だぜまったく」

 

ロボットにそんなこと言われたら本当に世も末だよ。

とはいえ、学生の間でクスリが流行るってのは極めて不健全だ。山海經あたりから流れてきてるのかねえ。

 

「お前はクスリとかやんのか?」

 

「やってるように見えんのか?」

 

「見えるぅ……」

 

「やってるように見えんのか?」

 

「見えるぅ……」

 

「やってるように……見えないよなあ?」

 

「見えません!」

 

さすが機械鎧!ロボットの頭だろうがイチコロだぜ!

 

「くっそお……俺がもっと強ければ……!」

 

欲しいか?力が……

 

「先生はどこにいるんだよ」

 

「知らねえよ。探せよ」

 

「何言ってんだお前がここにくるかもっつったんだろうが!お前が探せよ!お前が見たいんだろ!」

 

「お前がお前がって……主体性は無いのか?……あっ、そっかあ!ロボットだもんね!ごめんごめん!指示がないと動けないんだったあ!しょうがねえなあ!人間様が!先に!動いてやるかあ!」

 

「コロス!」

 

――グラナーダ!

 

(バゴォン!)

 

『わああああ!商品があああ!』

 

「てめえ今日こそぶっ殺してやる!闇のゲームで魂奪うなんて迂遠な真似しなくても――おあつらえ向きにこんなところにロケットランチャーがあるからなあ!」

 

「ばーか!」

 

「死ねゴラァ!」

 

『えっ、ちょっ、それもしょうひ――』

 

ブラックマーケットの一角は爆炎に包まれた。

 

 

――――――

 

 

「なんだか騒がしいような気がしますね……」

 

「ブラックマーケットだからねー、こういうことも頻繁にあるでしょ」

 

「そんなことよりも早く型番を追わないと」

 

(タタタタタ!)

 

「ちょっと!結構近いわよ!?何箇所も同時に戦闘が起きるのが毎日なの!?――って、なんか人が……」

 

「わ、わあああ!すみませーん!どいてくださーい!」

 

「きゃあっ!」

 

避けようとしたセリカとお見合いの形になり、胸の中へと1人の少女が突っ込んできた。

 

「いてて……ご、ごめんなさい……」

 

「ま、前見なさいよね!」

 

「うう……」

 

「もう……ほら、立って」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「なんで急いでたの――って、聞く必要ないみたいね」

 

学校からドロップアウトして街に居着いているチンピラ達が、彼女の後を追うようにその場に現れた。

 

「ちょっと、あんた達何よ!」

 

「はあ?誰だお前、どけ。アタシらはトリニティの生徒に用があんだよ」

 

「わ、私はないんですけど……」

 

『!――そ、そうです!思い出しました!その制服、キヴォトスいちのマンモス校のひとつ、トリニティ総合学園です!』

 

「そんで、いっちゃん金持ってるやつらでもある!だから拉致って身代金をたんまりもらおうってわけさ!」

 

「どうだ?頭いいだろ、金なんて簡単に稼げるんだぜ。お前らも乗るなら分け前は――」

 

(カチャリ)

 

「――?」

 

(バスッ!バスッ!)

 

「ぎゃあっ!?」

 

「あがっ……」

 

突然の凶弾。

目を回して倒れ込むスケバン。

銃を構えたのは治安の悪化に敏感な高校生だ。

 

「悪人は成敗です☆」

 

「ん」

 

 

――――――

 

 

「おっ、あっちも騒がしくなってきたか?」

 

イリーガルなところではイリーガルに動き回るのが楽しく生きるコツだ。人も物も等しく違法なんだから、モラルを気にするだけ無駄ってもんよ。

 

『うう……店があ……』

 

「まあ、これに懲りたらちゃんとしたところにお店を出すこったな」

 

『壊しといて言うセリフかあ!金かえ――』

 

(ドゴ!バキ!)

 

『あへえ……』

 

「ふう、余計な手間かけさせやがって」

 

くそお(ぐぞお)……次は絶対負けねえ(つぎはぜっだいまげねえ)……!」

 

「はいはい、演技乙。ロボットがそんなダミ声出す生理的必要性とかどこにもないから」

 

「てめっ、まじでころしてやる!殺して俺も死ぬ!」

 

赤面ロボットのヤンデレはお呼びじゃねえ。

 

「くっそ……………相変わらず色んな店があるな」

 

『そこのお前たち!止まれ!』

 

『お縄につけ!荒らしているって通報が入ってるんだ!』

 

「馬鹿どもが、素直に捕まると思ってんのか!」

 

『うわっ、なんだ!?煙幕!?』

 

『どこだ!どこいった!』

 

『探せ探せ!』

 

当然、ステルス迷彩の敵ではない。

とはいえ近くにいたら、激しく動き回る治安維持隊のガキどもの身体に当たってバレる可能性もあるから離れた。

 

「撒いたか」

 

「……アレって」

 

「どうやら良いタイミングだったみたいだな」

 

そこでは自称『普通の女子高生』らしい顔をした少女がアビドス――対策委員会の面々に囲まれていた。

そして『先生』も。

 

「本当に来るのか、先生……何のやりとりを……?」

 

「さあな」

 

「追いかけるんだろ?」

 

「勿論。残った仕事はアイツに任せてあるからな」

 

 

――――――

 

 

「これがブラックマーケットかあ……」

 

「先生は来たことないんですよね?」

 

「うん、ノノミは?」

 

「私もないです。用事なんて無かったですし……でも、なんというか……大人な感じの場所ですね?」

 

「あー……」

 

一行がいるのはピンクピンクな場所だった。

 

『お姉ちゃんたち入ってく?良い子揃ってるよ』

 

『一杯だけ!一杯だけだから!1000円で終わるから!』

 

『お姉さん、どう?うちに就職しない?お姉さんの顔なら稼げるよ?』

 

一行は顔を真っ赤にしながら退散した。

 

「ふぅ……あっついなぁもう……学生に見せるもんじゃないよあんなの……というか女の子ばっかじゃん」

 

「な、ななななんなのよあそこは!変なお店ばっかじゃない!」

 

「あはは……ブラックマーケットは変なお店もたくさんありますから……でも、あそこがいちばんの近道なんですよ?」

 

「ヒフミは結構度胸あるんだね……」

 

「ペロロ様の為なら、この程度なら何でもありません!」

 

「そ、そっか……」

 

コハネ(先生)はヒフミのリュックに取り付けられた缶バッジやらペロロ様のアクセサリー類を改めて観察した。ニワトリとペンギンを足して2で割ったような怪生物をデフォルメした、というのが最も的確な表現だろうか。

先ほども熱タップリに解説してくれたソレのグッズを集めるためにこんな場所にまでやってくる彼女のバイタリティーたるや、凄まじいの一言に尽きた。

 

「――先生!」

 

「うわっ!な、なに?」

 

ジックリ見ていたところ、いきなりヒフミの顔が眼前に突き出された。

 

「先生もペロロ様に興味がおありですか!?」

 

「え?えっとお……」

 

「もしもペロロ様のことが好きなのでしたら、こちらを差し上げます!」

 

「……缶バッヂ?」

 

「はい!」

 

「ふ、布教用ってやつかな?」

 

「はい!………ご迷惑でしたか?」

 

「あ、いやいや!そんなことないよ!可愛いから本当にもらって良いのか分からなくてさ」

 

「せ、先生!」

 

「ヒフミ!」

 

「――2人とも何してんの!早く行くわよ!ヒフミは案内してくれるんだから先進んでよね!先生も!チンタラしてる夕方になっちゃうんだから!」

 

「あ、はい!」

 

キンキンとした声に呼び出されて、ヒフミは慌てて離れた。そうしてペロロ様缶バッヂをボーッと見つめるコハネの元へとノノミがやってくる。

 

「ふふ、よかったですね先生。ペロロ様のバッヂがもらえて」

 

「うん」

 

どうするか悩み、胸ポケットにつけた。

ソレがきっといちばん喜んでもらえるから。

 

 

――――――

 

 

「アイツらずーっと歩いてんな……」

 

ブラックマーケットは広い。

単純な面積だけ見ても学園数個分の規模を有している。各校からあぶれた人間やワルが最終的に集まる地点だからだ。そんなところを徒歩で移動していれば、当然数時間歩き通しというのも当然のこと。

 

「店に並んだぞ!」

 

そんな声出すことか?

お腹空いてそうだったし普通だろ。

 

「たい焼き?……何かのデータでも受け取ったのか?」

 

たい焼きを買っただけだ。

 

「全員食べてるぞ!まさかドーピング系の……だからあんなにポテンシャルが高いのか!?」

 

たい焼きを食べているだけだ。

 

『おいひー!』

 

「美味しい?先生が美味しいって言ったぞ今!」

 

こうしてカスハラに繋がるんだろうなあ……

 

「ん?なんか止まって話し始めたぞ」

 

「!」

 

ホシノが持っている情報端末から空中にアヤネの上半身が浮かび上がる。整理した情報をまとめているようだ。

 

『戦車……これだけ探したのに全く見つからないなんて有り得ません。必ずどこかしらに情報はあるはずなのに……意図的に隠されているような気さえします。いくら企業でもここまで徹底的に、それこそ小さな流通記録まで完全に消し去るなんて不合理です』

 

『ブラックマーケットなら何でも有りな気はするけど、そんなにおかしいの?』

 

『極端な例ですけど……1発で世界を滅ぼすような兵器に対してこれくらい緻密に情報を隠すならわかります。でも戦車ですよ?そこまでします?』

 

『よくわかんないけど、やっぱりヒフミちゃん詳しいんだねー』

 

『下調べはちゃんとするタイプなんです』

 

『……そしたら、あの建物ってなんなのかわかる?』

 

『あれは闇銀行ですね。ブラックマーケット随一の金融機関で、キヴォトスの盗品の15%はあそこに流れ着くとか』

 

『15%………すんごい金額なんだろうねー』

 

『あらゆる品や兵器、単純なお金などがあそこに流れ着き、経路が複雑に覆い隠されてまた別の犯罪者の手に渡ります』

 

『ソレって……銀行が犯罪者と癒着してるってことですか?』

 

『そのとおりです。だからこそ、闇銀行というわけです。この街にあるものは全て、正規に集められるようなものではないですから』

 

『ヒフミは、そんな街でペロロ様人形を買ったの?』

 

『ぺ、ペロロ様人形は別です!他の場所では絶対にもう、2度と手に入らないんです!だから、流れ着くならここだろうって!』

 

『ごめん私の負け』

 

『か、勝ち負けの話はしてないですけど……』

 

「今日は静かだな。先生は」

 

「対策委員会がメインってことだろ。あくまで見守り役だ」

 

そうは言っても、ずーっと無言なわけじゃなくてちょこちょこと生徒たちに話しかけている。楽しそうだ。

 

「俺はこんな無機質なロボットと2人きりなのに……くすん」

 

「やっぱ殺そうかな……というか話に行けよそんなに女と話したいなら」

 

「俺が話しかけたらなんか変わっちゃうかもしれないだろ」

 

「はあ?」

 

「それに、女の子同士が楽しそうに話してるのを見た方が目の保養にもなる」

 

「気持ちわりぃ……本当に気持ち悪いなお前って」

 

「そんなんじゃ人間様には追いつけねえぞ〜?」

 

「………トラックだ」

 

「銀行の輸送車だな」

 

『――あれって、うちに集金に来てるあの銀行員じゃない!?』

 

『あれ、ホントだ』

 

カイザーローンと印字されたトラック。

降りたロボットが、闇銀行の受け取り役に金を渡して去っていった。

それを見た対策委員会の連中は焚いている。

 

「お前のとこの奴らだな」

 

「元、な?今はカイザーじゃねえし」

 

『カイザーはトリニティの区域にも進出している企業です。完全な黒とは言えないものの、さまざまな憶測が飛び交っている怪しさがあるため、「ティーパーティー」でも目を光らせているんです。火のないところに煙は立ちませんから……アビドスはあんな企業から融資を?』

 

『話すと長くなるんだよねー。アヤネちゃん、さっきの現金輸送車のルート調べられる?』

 

「お前の元所属先ボロンチョに言われてんぞ」

 

「……分かってんだろ」

 

「カイザーPMCにいた時は現金護送とかやったことあんのか?」

 

「ねえよ。あんなところに回されんのは前線で戦うのができねえ腰抜けだ」

 

「襲撃とかめっちゃされそうだけど」

 

「装甲どんだけ積んでると思ってんだ」

 

対策委員会の顔色が悪くなっていく。

しかし自称『普通の女子高生』がピンと指を立てた。

 

『あの!さっきサインをしてた書類を確認できれば、証拠書類になりませんか!?』

 

「……何を言ってるんだ?あの連中は」

 

「状況が変わらなくても整理はできるだろ。情報は多ければ多いほど良い」

 

「カイザーに行った時点であとはカイザーの責任だろ」

 

アビドスの借金が結果として闇銀行に流れていた。

それが嘘でも本当でも、アビドスが直接金を渡していたという事にはならない。それにここはブラックマーケット、連邦生徒会ですら手が出せなかった無法地帯だ。

何かが分かったとて、それをどうにか出来るはずもない。

 

しかし状況を確定できればその先に進むことはできる。債務整理なのか交渉なのか破滅なのかは分からんけどな。

 

「なんか変なマスクを被ったぞ」

 

「おお……これがあの……」

 

「ああん?」

 

「感動だ。感動しかない………俺は今感動している……!」

 

「ええ……」

 

『悪い銀行をやっつけちゃいましょう☆』

 

「やっつける?何をする気だあいつら………おい、解説しろ!」

 

「聞いとけって」

 

『ちょ、ちょっと待ってください!みなさん、先ほどから何を……!?』

 

『マジでやるんだよね?………はあ……じゃあ、とことんやるしかないよね!』

 

『!?』

 

「!?」

 

次々と覆面を被り出す少女たち。

1人取り残された普通の少女(阿慈谷ヒフミ)は、ヘンテコな集団の中で唯一素顔を晒す集団となった。

 

『ごめんねヒフミちゃん、これでバレたりしたら全部トリニティのせいって言うしかないねー』

 

『な、なにが……さっきから何の話を……覆面を何故……うう……』

 

『それは可哀想です!』

 

『ノ、ノノミさん……!』

 

救世主現る。

ヒフミは豊満な肉体の不審者に祈るような視線向けた。やっぱりモモフレンズが好きな人に悪い人はいないんだ!とでも言いたげだ

 

『ですので、こちらを差し上げます☆』

 

紙袋が差し出された。

 

『え?』

 

『はーい、こうしてこうしてこうしてー』

 

『ううっ……たい焼きのいい香りが……何で私まで……』

 

覆面はまだいい。

顔を隠すためのものとして成立した形であり商品だからだ。

 

『ん、完璧』

 

しかしそこにいるのは、紙袋に穴を開けただけのものを被った一際異常な存在だった。口元は穴を開けていないため、呼吸するたびにシュコシュコと紙が動いている。

 

『あの……勘違いじゃなければこれって闇銀行の襲撃をするってことですよね?』

 

『そうだよー。数字は5だけど悪の頭領って感じの見た目だね』

 

『うう……どうしてこんなことに……せ、先生ェ……』

 

『似合ってるよ!ヒフミ!』

 

グー!

 

『嬉しくないです……先生の立場として銀行襲撃ってどうなんですか……?』

 

『え?まあ闇銀行も違法組織だからね。私としては全然良いと思ってるけど……あ、もちろんヒフミ達のことを邪魔しようとかいう話はないよ?』

 

『えー……』

 

銀行強盗推進派の教職がそこにいた。

 

『ヒフミ!そんな気にする必要ないわよ!だって悪いのはあっちなんだからね!コテンパンにやってやりましょ!』

 

『さあみんな!銀行を襲お〜!』

 

『おー!』

 

先生の合図と共に一団は進軍を開始した。

 

「モラルが終わってる……」

 

サンダースの虚無の呟きだけが耳に響いた。

 




高評価をいただいてとてもうれしかったので筆が進みました。
もっとください。
感想も嬉しかったです。
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