先生の活躍を見たいから頑張ったけど、なんかおもてたんと違う   作:goldMg

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コハネ・セリカ救出作戦

 

 夜のアビドス高等学校。

 校門の時点で、会議室の照明がついているのは見える。俺のバイクもステルスモードではないので、到着した時点で窓から生徒達の顔が覗いていた。

 バイクを降りて昇降口に向かうと、生徒達は既にそこにいる。とは言っても、いるのはアヤネ、シロコ、ノノミの3人だけだ。

 移動するのに時間がかかったから、既にホシノが探索に動き出しているのだろう。

 

「あ、あなたは確かPMCの……何故ここに?」

 

「……こんな夜中に、どうされたんですか〜?」

 

 やや警戒気味。

 大切な学友が行方不明の最中だから仕方ない。

 

「黒見セリカと伊坂コハネが誘拐されたところを目撃した」

 

「──ど、どこでですか!?」

 

「市街地、柴関ラーメンという店からそう遠くない場所だ」

 

「柴関ラーメンを知っているんですか!?」

 

「ご当地の食事を食べるのは当然だ」

 

「ロボットなのに……?」

 

「ロボットだとしてもアタッチメントで賞味くらいはできる。あと、それは置いといてくれ。本題じゃない」

 

「あ、あの、セリカちゃんたちはどこへ……」

 

「サンダース──仲間に追わせているが、あの人数相手では介入は難しい」

 

「よ、良かった……」

 

「場所はここだ」

 

「…………このエリアは確か、カタカタヘルメット団の主力が集まっている場所です! やはり、カタカタヘルメット団が……!」

 

 ──扉が開く音がした。特徴的なピンクの長髪がモサモサと歩いてくる。

 

「なるほどねー……帰宅途中のセリカちゃんを拉致して、自分達のアジトに連れて行ったってことかー」

 

「ホシノ先輩!」

 

「……人質ってことかな」

 

「考えていても仕方ありません! 早くセリカちゃんを助けに行きましょう!」

 

「──待って」

 

「ホシノ先輩?」

 

「ちょっとこの人と2人で話したいことがあるから、みんなは先行ってて」

 

「で、ですが……」

 

「だいじょぶだいじょぶー、すぐ追い付くから」

 

 2人きりになった空間で、どうなるかは概ねわかっていた。

 

(コッキング音)

 

「変だよねー」

 

 銃口が俺のヘルメットの前に突き出された。

 死ぬことはないにせよ、発射されれば衝撃でぶっ倒れるのは間違いない。

 

「物騒だな」

 

「都合が良すぎるんだよね」

 

「うん?」

 

「セリカちゃんのバイトが終わった時間に、旅をしている人間がたまたま近くにいて、しかも見つからずにやり過ごすなんて……ちょっと信じられないかなー」

 

 やはり、というのが正直なところだった。

 知らぬ大人のことなんて彼女は信用しないだろう。

 

「ねえ旅人さん、そんなことあると思う?」

 

「…………ある!」

 

「え」

 

「俺達はたまたま近くを歩いてて! たまたま見つけた! それが全てだ!」

 

 知ったことか。

 説得とかそういうのはめんどくさいから、先生にやらせればいいんだ。

 

「というか、のんびりしてる時間ないから早く行くぞ!」

 

 俺はただ、泣きべそをかいたセリカが見たいだけだ。

 

「…………」

 

「別に信用しろとか言ってない! だけどな! 俺に銃口を突きつけるならせめて敵対してからにしろ! 俺に後ろから撃たれるのが怖いなら、ずっと俺の後ろにいろ!」

 

「…………信用は、しないよー?」

 

「可愛い後輩が泣いてるんだからさっさと助けに行け!」

 

 キヴォトスでうまく生活するコツは大声で誤魔化すことだ。

 

「──ホシノ先輩、その人は悪い人じゃないよ」

 

「シロコちゃん……先行ってるんじゃなかったの?」

 

「うん、何となく気になって。とりあえず行こう」

 

「…………」

 

 ホシノはシロコに手を引かれて歩いて行った。

 その最中も鋭い眼光が俺のことを睨んでて、やっぱ最高に切れるナイフしてると思いました。

 

 

 ──────

 

 

 ガタガタと揺れる身体。

 水面に浮いているような感覚と、深い沼に引き込まれていくような感覚が同時にあって、それを邪魔するように世界そのものが揺らされていた。

 

「──っ!?」

 

 目を覚ますとセリカの匂いがした。

 だけど、それよりも頭が痛い。

 

「うっ……」

 

「先生、起きたの!?」

 

「あ──セ、セリカ……」

 

「先生、迫撃砲で気絶しちゃってたのよ。どこか痛まない?」

 

「う、うん……ごめんね、守れなくて」

 

「何言ってんのよ! 先生は外の人なんだから、守るとか無理でしょ! それより怪我してないよね!?」

 

 生徒にここまで心配させてしまったなんて、先生失格だ。

 

「私は大丈夫、それよりここは──」

 

 この揺れからして、トラックの荷台なのは分かった。だけど現在地が分からない。

 そうだ、シッテムの箱を──

 

「…………?」

 

「どうしたの?」

 

「…………」

 

 着ている服を何度まさぐっても、シッテムの箱がなかった。

 

「持ち物なんか没収されてるわよ」

 

「…………」

 

 そうなると、私はただのプリティーな女の子ということになってしまう。

 

「とりあえず、この隙間から…………っ!」

 

「どうしたの?」

 

「…………ここ、砂漠線路だ」

 

「つまり?」

 

「ここはアビドス郊外の砂漠ってこと!」

 

「……外部への連絡は無理ってことね」

 

「みんな、心配してるかな……」

 

「…………大丈夫だよ、セリカ。絶対なんとかする」

 

 そうは言ったものの、どうしたものか。

 この鉄の箱を破壊できるような腕力はない。

 せめて武器を持ってきていれば──というのは無いものねだりか。

 頼みの綱のシッテムの箱も落とした。

 この中でできることは……

 

 とにかく、元気でいること! 

 

「ぐすっ……」

 

「セリカちゃん、だいじょぶだよ」

 

「ちゃん付けすんなあ……」

 

「だいじょーぶ! 絶対なんとかなる!」

 

「…………」

 

 仲間とはぐれて、寂しくて泣いているひとりぼっちの女の子がいたらどうするべきか。そんなの決まっていた。

 

「よしよし」

 

「……」

 

「ほら、泣いてたら可愛いお顔が台無しだよ?」

 

「……泣いてないし」

 

「にーっ!」

 

「…………ふふっ、バカみたい」

 

「あー! 言ったな!」

 

「心配してた私もバカみたいじゃない」

 

「そうだね、バカコンビだね!」

 

「そこは否定しなさいよ……」

 

 ──揺れが止まった。

 

「な、なに……?」

 

「さあ……」

 

 閉じられていた入口が開き、トラックの荷台からヘルメットを被った生徒達が入り込んでくる。

 折角なら彼女達に聞いてみよう。

 

「ねえ、あなたたち。ここは──」

 

「黙れ!」

 

「うぐっ」

 

「ちょ、ちょっと! 無抵抗な相手を殴るなんて何考えてるのよ!」

 

「何言ってるんだ? 前回の襲撃の時に散々抵抗してくれたじゃないか。ほら、腕を後ろに回せ。動いたら撃つからな」

 

 腕を縄で縛られて歩かされる。

 だけど縄がキツすぎて、歩くたびに痛みが走る。

 

「ちょっと! 先生の縄がきつすぎるんじゃないの!?」

 

「知るか」

 

 そうして歩かされた先にあったのはコンテナ。

 

「入れ」

 

「え──」

 

 凍りついたようなセリカの声。

 隣にあるヘリからして、さらに遠くへ輸送されるのは間違いなかった。

 そしてそれは、否応なしに嫌な予感を加速させる。

 

「せ、んせい……」

 

 泣きそうな顔を見て、決意を固めた。

 

「セリカの代わりに──」

 

 爆発が、声を飲み込んだ。

 

『なんだ!?』

 

『襲撃か!?』

 

『──うわあああ!』

 

 次々と巻き起こる爆発。

 さらに、放り込まれた発煙筒か何かのせいで視界が確保できない。

 

「げほっ! げほっ! ──うわっ!?」

 

 砂煙が口の中に入って咽せていたら、いきなり持ち上げられた。

 

「──ちょ、ちょっと何するのよ!」

 

 続いてセリカも。

 2人とも抵抗しようとしたけどビクともしない。

 それどころか、ますます強く掴まれる。

 

「暴れんな」

 

「…………その声、どこかで」

 

「黙って運ばれとけ」

 

 セリカと私は、右肩と左肩にそれぞれ担がれていた。

 硬くてゴツゴツしたフォルムがお腹に食い込むので、正直痛い。後ろ手に縛られたままの縄も痛い。

 だけど、まずは言われた通りに黙って運ばれることに。

 すると、ある程度移動した段階でストンと下ろされた。

 

「えっと……」

 

「縄を切る」

 

「……」

 

 確か……サンダース、だよね? 

 なんで彼がここに? 

 確か旅をしているとかで5日前には別れたのに。

 そもそももう1人は? 

 

 色々な疑問が浮かんでは消えるけど、とにかく一時的に状況を凌いだというのは間違いなかった。

 

 

 ──────

 

 

「──くそがあああ!」

 

「うわっ、わわっ、わっ、わっ!」

 

「先生は顔出さないで!」

 

 私たちは今、めちゃくちゃ追われてます。

 

『待てこらああああ!』

 

『逃さねえぞゴラアアアアアアア!』

 

 相手はカタカタヘルメット団の総力。

 銃もミサイルもメチャクチャに撃ちながら追いかけてくる。

 

「ど、どんだけ私たちを捕まえたいのよー!」

 

 セリカの叫びもごもっとも。

 明らかにこれは異常だ。

 執着の度合いが通常のそれを超えている。学校を占拠したいという目的を果たすにしても、もう少しやり方があるはずだ。

 

 だけど、そんな総力から追い付かれていないのはひとえに──

 

「砂、砂、砂、砂! あの野郎! こんなに砂だって言ってなかったじゃねえか! くそっ、絶対に手当いっぱいもらってやる! そうじゃなきゃ殴り合いだ! 俺はやるぞ! たとえオンボロロボだと言われても、やる時はやるんだ! 言うなれば、そう! 『男を見せる』ってやつだ!」

 

 操縦技術の賜物だった。

 

「あのっ!」

 

「ああ!?」

 

「なんでここにいたんですか!」

 

「それ、今か!? 今答えなきゃダメか!? ……あ、そうだ。これ」

 

「へっ? ──シッテムの箱!?」

 

 しかもセリカの銃まで。

 

「それ、お前らのなんだよな?」

 

「うん! でも……どうやって!?」

 

「ロケラン打ち込んだ」

 

 どういうこと!? 

 

「あとはこれも食べろ!」

 

「!」

 

 奪い取るように受け取って、セリカと分け合った。

 水と食糧──きっと、旅で使うためのものだ。だけど、荷台に閉じ込められていた私たちにとってはまさに天からの賜り物のように感じられた。

 あの時と一緒で。

 

「──振り落とされんなよ!」

 

「え? ……ちょ、ちょっと!?」

 

 前方からは部隊が迫ってきていた。

 それなのに、バイクはさらに加速していく。

 

「俺だってできるんだぜ!」

 

「なにが!?」

 

 装甲車から放たれた徹甲弾をすり抜け、廃墟の間を縫うようにしてさらに進む。もはや、風の一部になったような速度だった。

 食べるのとしがみつくので精一杯。

 

「ひゃっはああああ! この速度ならもう怖いものはねえ! 砂なんざ蹴散らしてやるよ!」

 

ふぁ()ふぁひ(なに)と戦ってるの!?」

 

「砂だ! 俺の天敵は砂、海水、ウチの社長だからな! 覚えとけ!」

 

「…………っ…………バイク部隊まで!?」

 

 やはり、おかしい。

 これほどの規模の部隊をたかが不良達が持っているはずが──

 

「おい、あんた!」

 

「っ……なに!?」

 

「指揮がうめえんだろ!?」

 

「うまいっていうか……まあ、できるよ? でも、なんで?」

 

「戦闘でも逃走でも降伏でもいい。この状況、切り抜けられると思うか?」

 

「それは……」

 

「絶望的な状況にあって、あんたはどうする? 先生」

 

「…………ぜーったいに、切り抜ける!」

 

 人からなんと言われたって。

 どれだけ苦しくたって。

 絶対絶命。

 無理無茶無謀。

 そんな状況だとしても。

 生徒が辛い目に遭っているのなら、遭いそうなら、そこで立ち上がらなきゃ先生なんて名乗れない! 

 

「──気に入った!」

 

「え?」

 

「任せるぜ!」

 

「……なにが?」

 

 困惑する私達をよそに、サンダースはバイクを止めた。

 

「おい猫耳!」

 

「ちょっと、なんでバイク止め──猫耳って呼ぶな! 私には黒見セリカって名前があるのよ!」

 

「銃は使えるな?」

 

「話聞いてる!?」

 

「──もうバイクの燃料はない。これ以上走っても徐々に追い付かれるだけだ。それならこっちから打って出よう」

 

「は!?」

 

「もちろんお前らにも戦ってもらう」

 

「えっ」

 

 セリカは驚いてるけど、私もちょっとだけ。私自身は別に銃火器のスペシャリストってわけじゃ……というかこのロボット、さっきから人の話全然聞いてないんだけど。

 とんでもなく我田引水だ……

 

「先生が銃なんて打ったら肩取れちゃうわよ!」

 

「セリカ……私、そこまで貧弱じゃないよ?」

 

「……とにかく! あんな量の敵を迎え撃つなんて無理!」

 

 無理。

 そう、確かに無理だ。

 どんな勝算をもとに彼は戦うと決めたのか。

 

「幸いなことに、ここは切り立った崖に挟まれている。つまり、あんな大量の車は一気に通れないってわけだ」

 

 ──なるほど。

 

「いいか? 俺は武装を色々持ってる。高速換装用のアタッチメントも積んであるから、切り替えて色々とやれる自信もあるぜ。そんで……アンタなら俺のとこを上手く使える。そうだな?」

 

「…………やってみる!」

 

「心強いぜ。そしたら、まずは最初に狙う標的が肝心だ。そういうのを頼む」

 

「うん、そうだね。前方部分の車──装甲車を一台でも潰せばかなり遅らせられるはずだよ」

 

「ふむ」

 

「それだけじゃない、見える? 上にある岩は不安定で、あれが落ちればかなりの打撃を与えられるのは間違いない。仮にやるとしたら、今のうちにあそこに細工をしておきたい」

 

「ならそれは俺がやるぜ」

 

「お願い。セリカは──」

 

「ま、待って待って! 本当にやるの!?」

 

「うん」

 

「でも、あんな大人数相手に……」

 

「大丈夫、絶対になんとかするから」

 

 セリカの華奢な体を抱きしめた。

 

「……子供扱いすんな」

 

 子供のいい匂いがする。

 絶対に守らなきゃいけない匂いだ。

 大人である私が子供を矢面に立たせて戦わせるなんて情けないけど……それでも、出来ることは全部やる! 

 

 

 ──────

 

 

『──爆発音です!』

 

 先行していたアヤネのドローンが、急行して戻ってきた。どうやら先の方で爆発音が聞こえてきたらしい。

 ということは──

 

「やってるみたいだな」

 

「やってるって……まさか戦闘を?」

 

「そう、戦闘をやってる。しかも近い場所で」

 

「こんな砂漠で誰が戦闘なんてしてるの?」

 

「おいおい、誰ってそんなの決まってんだろ」

 

「え?」

 

「女の子と、先生と、ウチの従業員だよ」

 

「!」

 

 向こうの車内が一気に剣呑な空気に飲み込まれた。

 そしてその中でホシノが車窓から身を乗り出す。

 

「そしたらさー……私だけでも先に行きたいから、乗せてくれない?」

 

「いいぜ」

 

「──待って、私も行く」

 

 シロコも同じく身を乗りだした。

 

「どっちかにしろ」

 

「シロコちゃん、ここは私に譲って?」

 

「私だってセリカの事を助けたい」

 

「それでも、お願い」

 

「……わかった」

 

 バイクを駆って進むと音が近付いてくる。

 爆発音。

 車の走行音。

 銃声。

 背後で銃を静かに取り出すのが聞こえた。

 

「小鳥遊ホシノ! 準備はいいか!」

 

「……うん!」

 

「──カーブだ! 一気に行くぞ!」

 

「!」

 

 限界まで車体を斜めにして加速していくと──

 

「セリカちゃん! 先生!」

 

 今まさに、戦車が砲塔を向けているタイミングだった。

 セリカは『先生』を庇うように抱きしめている。

 ホシノは俺の顔面を蹴って飛び出すと、そのまま盾を構えた。地面に強く押し付けられた盾は砲弾を完全に弾き飛ばし、返す刀で盾を持ったまま突っ込むと戦車が破壊された。

 

 ……強すぎて草生える。

 

 遅れてノノミ達も到着、セリカを保護した。

 

「アヤネ、半泣きのセリカいたよ」

 

『良かった……セリカちゃん、無事だったんですね!』

 

「な、泣いてないわよ!」

 

 遅れてやってきたシロコとノノミが、2人の前に立つ。

 

「セリカちゃん、そんなに泣いて……大丈夫でしたか?」

 

「あーもう! 泣いてないっての!」

 

 感動の再会中だが、サンダースはどこだ。

 

「ゔぉい゛」

 

 後ろだった。

 

「お疲れ」

 

「お疲れじゃねえだろうがよ、ああ?」

 

「……可愛い女の子を2人も助けるなんて役得だろ?」

 

「砂! 先んじて言っておくべきだろうが!」

 

「言っても変わんねえだろ」

 

「変わるわ! 途中から目の調子悪いんだよ!」

 

「はいはい」

 

「手当ちゃんと払えよ!」

 

「分かってるって、休んどけ」

 

 高級な電解質パックをとりあえず渡した。

 

「さっきので最後だったか」

 

「…………ああ! かなり離してたからな、追いついてきた奴らの中だとあの戦車で終わりのはずだ」

 

「燃料は?」

 

「勿論0」

 

「そう言うと思って、ちゃんと持ってきてある」

 

 アビドス高校に帰ることになった。

 

 

 ──────

 

 

「……みんな、ありがとう」

 

「セリカがデレた」

 

「で、デレてない! 真面目に言ってるの! 茶化さないでよ……シロコ先輩のバカ」

 

 日付は変わってから時間が経ち、朝日が顔を見せている。根本的な問題など何一つ解決していないが、とりあえず喫緊の問題の一つを排除することはできた。

 そういう段階だ。

 

 俺たちは俺たちで話すこともある。

 委員会と「先生」は置いといて、2人でな。

 

「サンダース、実際やってみてどうだった」

 

「正直……敵の位置に関してはありえない精度だった。敵の位置なんざ見えてすらいないのに、指示が滑らかすぎる。ありゃあ……確かに化け物だな。お前と違って実践経験もないんだろ?」

 

「そうだな」

 

「……お前はあれを分かってたのか?」

 

「まあ、先生ならそれぐらいできるだろうよ」

 

 何せ、シッテムの箱があるのだから。

 それに『先生』自身もただの人間じゃない可能性を残している。本当にただの人間である俺と違って、彼女は『先生』だ。主人公たる彼女が、未だ明かされぬ力を有していても何らおかしくない。

 

「じゃあこれは?」

 

「?」

 

「──あの女は()()()()()()()()()()

 

「…………!」

 

「へっ、やっぱり分かってなかったか」

 

「本当なのか?」

 

「間違いねえぜ」

 

『先生』が生徒を最高効率で運用するには、相性というファクターと切って切り離すことはできない。そのほかにも好感度やレベルもあるが、武装に関しては0.5倍程度の差が現れる極めて重い要素のはずだ。

 

「…………もしかして」

 

 ここは現実の世界だ。

 貫通は重装甲に対して有利を取れるというのがゲームシステムとしての在り方だけど、普通に考えればスナイパーライフルは軽装備やノーマル装甲など容易く弾き飛ばす。

 俺はこれまでゲームに従ってやっていたけど……もしかしたら間違っていたのか? 

 

「なあ、お前は間違ってないぜ」

 

「……何で分かる?」

 

「何でってお前──」

 

「…………」

 

 階段を降りてくる足音だ。

 革靴の特徴的なこれは──

 

「2人とも、今回はありがとう」

 

 先生だ。

 相手はサンダースに任せよう。

 

「気にすんな。金払ってくれりゃそれでいい」

 

「え゛っ」

 

「ん? そこまで吹っかける気はねえぞ。俺たちはヴァルキューレとかとも仕事してるけど、良心的な値段ってことで大人気だ。公の仕事にかかる手間もある程度は把握してる」

 

「そ、そうなんだね……いや、その、実はまだ赴任して1週間くらいで……お給料が……あと経理関係も全然慣れなくて……その……」

 

「そういうことか! 心配すんな、昔の伝手だけど知り合いの闇金がいる。良心的な闇金ってことで有名だからそこで借りてこい」

 

「闇金は良心なんてないよ!? ……な、なんとか延ばしてもらえませんか……?」

 

「ガガガ! 冗談だ! まあ、金のない相手から無理やり取るのは連邦生徒会でも無理だからな。準備ができたら払ってくれや」

 

 むしろ、透明性を求められる連邦生徒会だからこそ無理というのが正しいだろう。トリニティの暗部とか普通に腎臓抜いてそうだもん。

 

「それで……聞きたいことがあるんだ」

 

「なんだ?」

 

「どうやって私たちの場所を見つけたの?」

 

「たまたま見てたからな」

 

「ううん、それは建前でしょ?」

 

「へ?」

 

「ホシノから聞いたよ、柴関ラーメンの近くで私たちを見つけたって。それでピンと来て大将に聞いたら教えてくれた、ロボットが毎日通ってたって」

 

「…………」

 

「もしも柴関ラーメンが美味しくて通ってるだけならそれでいい。本当にたまたま見つけてくれただけなら疑ってごめんなさい。だけど…………もし、生徒を傷付けようとしているなら……」

 

 シッテムの箱が明るく輝いた。

『先生』は俺のことを強く睨んでいる。

 サンダースではなく、俺を。

 

「っ……」

 

 サンダースが圧力に押されて一歩下がった。

 返答を間違えれば俺たちは彼女の敵とみなされるのかもしれない。悲しそうな表情を浮かべているのは、誰にも敵であって欲しくない彼女の本質か。それはわからない。

 だけど変に嘘をつくのは良くないだろう。

 

「教えて」

 

「…………俺たちはそんな大層なタマじゃない。だけど確かに嘘はついてる」

 

「!」

 

「偶然お前らを見つけたわけでもない。最初から、お前がどう動くのかを見ていた」

 

「…………私?」

 

 意外そうに自分のことを指差した。

 

「先生、俺たちはお前に期待している」

 

「期待? 生徒のみんなじゃなくて私に? ……そもそもなにを?」

 

「全てだ」

 

「す、すべてって……」

 

「難しいことはない。すべては、お前がしっかりと『先生』として責任を果たすことができるかに掛かってる。それだけだ」

 

「!」

 

「俺はお前の選択の果てを見届けたい。だから今この場にいる」

 

「選択の……果て……?」

 

「──詰まるところ! 俺たちにかかずらわっている暇があったら生徒のところに戻って好感度上げろよって話だ! ダーッハハハッ!」

 

 結局のところ、それに尽きた。

 

「じゃあな、先生! ──いいや、伊坂コハネ! 因果の深い名前だ、お前はきっとやれるはずさ! 奇跡を祈る!」

 

「…………奇跡? 幸運じゃなくて?」

 

 サンダースに合図を出す。

 

「よしっ、いくかっ!」

 

「ああ! 俺たちは帰還する!」

 

「──対策委員会のみんなには挨拶しなくていいの?」

 

「別に世話にはなってないからな!」

 

 

 ──────

 

 

 バイクで直走る。

 高校を出た瞬間からフルスロットルだ! 

 

「帰還なんてするかばーか! 俺たちはしばらくこのアビドスでお前らのことを監視し続けるんだよおおおん! はははは! 間抜け! 大間抜けめ! シッテムの箱でもフルにスペックを活用しなければ気付くことはできまい!」

 

「うわああああ! アビドス滅びろよおおお! ……砂なんてこの世から無くなっちまえ! 反吐が出るんだよ! ペッペッ! 砂嵐ごと巨大戦車砲でぶっ壊れちまえ!」

 

 そもそも舌なんかついてないだろお前。

 というか微妙に予言みたいなこと言うのやめてほしい。

 

「……そういえばさあ」

 

「おう」

 

「俺ももう少し人間っぽいボディーにしようかなって」

 

「なんでだよ」

 

「お前がラーメン美味そうに食ってるの見てムカついたから」

 

「それだけが理由なら金出さないからな」

 

「別にいいよ、俺がそうしたいだけだから」

 

「へー、お前も人間のなんたるかを理解し始めたか?」

 

「そんな感じだよ」

 

「…………まあ、従業員だからな。いくらかは出してやるよ」

 

「……そうかよ」

 

「どんな姿がいいとかはあんのか?」

 

「……え? お、あー……わかんねえ、どんな姿がいいんだろうな」

 

「どうせならデカパイの美人な──あっぶねえええ!」

 

 こいつ、マグナムぶっ放してきやがった! 

 

「ぶっ殺すぞてめえ!」

 

「殺されるところだわ! せっかく人が良い案出してやってんのに何してくれてんだ!」

 

「うるせえ! こっちは真面目に考えてんのによお! ……あんま舐めてるとやっちまうぞ!?」

 

「ああ!? 勝てると思ってんのかてめえ! 誰が鍛えてやったか分からせてやろうか!?」

 

「上等だあ! 鉛玉1発ぶちこみゃ終いだからな! てめえぶっ殺して会社丸ごと俺のものにしてやんよ!」

 

「……なら、分かってんだろうなあ!」

 

「ああ! 次の角を最初に曲がったやつが先行だぁ!」

 

「「ライディングデュエル! アクセラレーション!」」

 

 そう──俺たちの間では今、カードゲームが流行っていた! 

 

 カードゲームKIVOTOS

 君だけのデッキを作って戦え! 

 カードの種類は1000種類以上! 

 各校の名を冠するグランドカードから体力を削り取った者が勝ちだ! 

 キヴォトスに出現する巨大モンスター達をモチーフにしたカードも登場! 

 ──そしてこの春! 

 連邦生徒会長がカードラインナップに追加! 

 さあ! みんなも始めよう! 

 

『見てください! アビドス市街地の公道を燃やしながら、PMCと思しきロボット2体がカードゲームをやっています! これは一体どういうことなのでしょうか! ……あ! ロボット達が手を振っています! 話を聞いてみましょう!』

 

 ──場面が切り替わる。

 

『あれはライディングデュエル。俺が知り合いから教えてもらった最新のデュエル方法だ』

 

『こんなこと言ってるけど、コイツ知り合いとかいなんでおかしな頭で思いついうわあああ! 潰れるううう! 人格ユニットが音立ててるううう!』

 

 ──場面が切り替わる。

 

『いいか、ライディングデュエルはバイクを持っている者の間でしかできない。それに危険で、子供が行うのは良くない行為だ。世の中には闇のゲームと言って、負けた人間の魂を持っていってしまう危険なデュエルもあるからな』

 

『そうなんですか!? それはまさか、噂に聞こえるトリニティ総合学園のシスター達の魂の隷属と似たような……!?』

 

『ああ!』

 

 ──場面が切り替わる。

 

『お前ぇぇえ! 何だ闇のゲームって! 俺にそんなこと一言も言ってないだろうがぁぁああ!』

 

『うるせえ! ロボットに魂なんかないだろうが! もってかれる魂もないくせにほざくんじゃねえ!』

 

『聞いたか画面の向こうのみんな! コイツ今、ロボット差別したぞ!?』

 

『文句あるのか?』

 

『大有りだろうが!』

 

『……それなら!』

 

『……!』

 

 ──場面が切り替わる。

 

『スピードワールドがねえからな……本当はもっとかっこよく出来るのに……』

 

『ごちゃごちゃ言ってねえで始めんぞ!』

 

 バイクを噴かし、準備が整った2人。腕には謎のディスクが装着されている。

 クロノス報道部はそれについても聞いてみた。

 

『これはライディングデュエル用に知り合いに作らせたデュエルディスクだ。こうすると──』

 

 何と、驚くべきことに彼が選んだカードがピタリとディスクに張り付き、空中にホログラムとして映し出されたのだ。遊興に用いるにしてはあまりに高精細な技術は、それだけ本気ということの証明か。

 

『カッコいいだろう?』

 

『……はい!』

 

 これがかっこいいと、よくわからないことを言うロボットは(ヘッドパーツ)を輝かせていた。

 

 ──場面が切り替わる。

 

『んじゃっ! 俺たち帰るから』

 

『えっ、今からデュエルをするのでは!?』

 

『今日はもういいや。普通にガソリンの無駄遣いだし、なんか説明してたら気分落ち着いた』

 

『ええ……』

 

『みんなもやってくれよな! ライディングデュエル!』

 

 謎のPMC2人はこうして、夕焼けの中に去っていった。

 

 

 

 




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