先生の活躍を見たいから頑張ったけど、なんかおもてたんと違う   作:goldMg

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#0 プロローグ
動き出す学園都市


 

『特報! 特報です!』

 

 街角のビルに設置された大型ディスプレイで流れたそれは、まさにこのキヴォトスにおいては緊急のNEWSという他ない。

 

『我がクロノススクールは、連邦生徒会が収容していた七囚人が脱獄したという情報を──』

 

「……そうか、そういう時期か」

 

 ざわつく街中。

 犬やら猫やら狸やら背の低い獣人ども。

 そして全身機械の生命体とすら呼べない奴らが隣にいる奴同士で一斉に話している。

 誰もが驚愕と戦慄に身を包まれていた。

 

「蚊でも飛んでるか?」

 

「ははは、そうじゃねえ」

 

「じゃあなんだよ」

 

 隣を歩くコイツ──サンダースも、そんな奴らに類するように完全なロボットだ。計算能力なんか俺より遥かに高いそいつに、真実を話してやった。

 

「この世界は今から動き出す」

 

「なんだお前……それよりも、脱走者が出るってことは大分荒れそうだな。出動も増えそうで嬉しいねえ」

 

「そうだな。確かに稼ぎ時だけど……派手にやると死ぬことになるぞ」

 

「なんか知ってんのか?」

 

「ああ、よ〜く知ってるとも」

 

「ふーん……じゃあやっぱりお前と一緒にいるのが正解だな」

 

 もはや、歓喜と恐怖を抑えることはできなかった。

 

「へっ…………どうなるか、楽しみだな……!」

 

「キッショ、死ねよ」

 

「いいや死なない。何せ俺は安全第一だからな」

 

「そういう話はしてねえんだよなあ……」

 

 ここはキヴォトス。

 D.U.のただの街角。

 PMCたる俺たちがここにきていたのは、商売を営むモノである以上は届出を出さなければならないからだ。子供が営む異常で広大な学園都市では、たとえ大人であっても子供達の運営する政治母体の中にて生活を行うしかない。

 因果の逆転したヘンテコな世界だが、好き好んで足を踏み入れたのは俺だ。 

 生まれは外の世界だけどな。

 

 物心ついた時には、キヴォトスがあるのは当然知ってた。通常世界とは違い学生や獣人、自我を持った機械──つまり、神秘に魂を塗された生命体が集う場所なんて、外界の人間が知らぬわけがない。

 だが同時に、その危険性とやらも喧伝されている。

 銃火器が効かない──無力というわけではないが、相当に威力が減衰した状態で着弾するという特性を当たり前に備えている彼女らが生活するそこは銃弾飛び交う魔境。足を踏み入れれば最後、さまざまな兵器でミンチにされるということは聞いていた。

 

 ──だけど、それは聞く前から知っていたことだ。

 

 知っていたし見ていたことだ。

 

 

 ──────

 

 

『──キ、キヴォトスに行くううう!?』

 

『お前、男だろうが!』

 

『そもそも高校卒業したば──だから進路相談にクラゲとか書いてたのか!?』

 

 家族には大反対されたが、そんなのどうでもよかった。大事なのは俺がいかに満足して生き抜くことができるってことだ。せっかく知っている世界に生まれ直したのだから、思う存分見て回りたいと思って何が悪い? 

 所謂、聖地巡礼という奴だ。

 

『来たぜ、キヴォトス……!』

 

 そういうわけで俺こと夜長(ヨナガ)ユウジは高校を卒業したばかり──わかりやすく表せば6年前の春にこのキヴォトスに入国? した。だーれも乗ってない列車にガタゴト揺られて、遥々遠方からやってきた。列車を降りる前から聞こえてくる砲撃音にワクワクが止まらなかったね。それに、あの『先生』と同じ道を辿っていると思うとたまらなく嬉しかった。

 

 ──まあ、そういう喜びは基本的に最初だけってのが相場だ。

 

 中にいたところで金を持ってなきゃ生活はできない。俺は最初、運送会社に就職した。パンダの上司が可愛くて、隙があったら持ち帰って家で愛でてやろうかと思っていた。そのために部屋の内装は笹柄にしたし、竹も定期的に買って酒飲みに誘ったりしていた。

 意外と安定した生活を送りながらも、銃を持つってことにややストレスを感じていた。

 そして、ある日──

 

『うおああっ!』

 

 突然。

 俺の運転していたトラックが撃たれてパンクした。

 咄嗟に安全に停止させることができたけど、不良学生らが四人組で近づいてきた。

 もはやここまでと俺は逃げ出したさ。

 そしたら何故かあいつら、追ってきやがんの。

 

(ダダダダダッ!)

 

 何を撃たれてるのかもわからず逃げ出した。幸いなことに脚には強化機械脚を取り付けていたから速力で負けることはなかった。

 

『どわあああっ!?』

 

『待てやゴルァアア!』

 

『待たない!』

 

『待てば金取るだけで済ませてやるよお!』

 

『撃たれたら死ぬから! それかすったら死ぬから! 手からまずは銃を下ろして話そうぜ!』

 

『そんなら待てやあああ!』

 

『待つかああああ!』

 

 そうなるのは半ばわかっていたので、持久力と筋力だけは死ぬほど鍛えていた。キヴォトス人の身体能力や神秘は脅威だが、不良やってるような奴のスタミナは大したことない。砂漠に住むオオカミとか特別な奴らはともかく、大抵はそこらへんにいる奴を盾にすれば済む話だった。

 つまり、強化脚と鍛えた肉体は意外にも通用した。

 

 だけど逃げるのが毎回成功するわけじゃない。

 

『……ぐっ……く、くそっ』

 

『あ──血、血が……え、な、冗談だったんじゃ……』

 

『くそ、やっぱ痛えや……』

 

『わ、私は……そんなつもりじゃ……』

 

『触んな……失せろガキ』

 

『ひっ──』

 

 肉体は絶えず生傷だらけだったし、時にはまともに食らって病院送りってことだって相当数あった。そんなことを経験してりゃ……ガキ相手に大人気ないとかいう甘ったれた感情はなくなる。

 俺は──

 

『毎度〜』

 

 俺は戦闘用の武装を購入した。

 迷彩柄のロボットPMCどもと同じような見た目のものだ。

 装着するとマウントディスプレイになっていて、外部の情報が取り込まれる。銃弾予測や気温、天気予報、おすすめの飲食店など様々なものが映し出され、運動を補助する機能もついた優れものだ。

 それを活用すれば学生どもに対して身体能力で負けることは無くなった。

 

 しかしどこでも売ってるようなアーマーとはレベルが違うので、大分溜めていた金が底をついて、パンダ上司に泣きついたものだ。

 

『お金ないのほほおおん!』

 

『だから言っただろうが! ちゃんと目的を持って買い物しろって!』

 

『だって痛いのやなんだもおおん! ラーメン奢ってええ!』

 

『こ、このっ……!』

 

 とはいえ、いつ何時でも身につけていては身体感覚も衰える。買い物の時なんかは基本的にボディープレート以外は付けないことにしている。しかし、トラブルに欠かないのがキヴォトスだ。

 モールで買い物をしている時だって──

 

『──!』

 

『銃声? ……もしかしてモチモチイヤーズ団がまた暴れてるの?』

 

『どうだろう、見に行ってみようか』

 

 銃声の鳴る方へは行かないのが無難に生きるための正解だ。シンプルだけど、キヴォトスの住民は銃を脅威に感じてないから割と野次馬根性で行くんだよな。

 ──俺も行くっっ! 

 

『うおらあっ! 撃たれたくなかったらさっさとそいつをよこせ!』

 

『ひ、ひいいい! 誰か助けてええええっ!』

 

 そこでは銃を構えたガキどもが、ケモミミを取り囲んでいるところだった。ヘルミットはトゲトゲしていて、モチモチイヤーズ団じゃなくて別の団体ということがわかる。

 

『モ、モチモチイヤーズ団か!?』

 

『ああん!? あんなクソだせえ奴らと一緒にすんな! ウチらはトゲトゲキャップ団、だよ!』

 

 クソダサい名前の集団がのさばっているが、そういうのもまたキヴォトスの文化というやつだ。奴ら、学生特有の無意味な自信に溢れていて各校の風紀委員だけではとてもじゃないが制御できない。

 

 たまに俺も出動するぜ。

 なにせ今の職業はPMCだからな。依頼されりゃあ動く、そういうもんだ。

 というか、運ちゃんやってたの一年目だけだし。

 運ちゃんは割と安全ではあるけど、アーマーのメンテナンス費やら単純な稼ぎを考えるとPMCの方が良かった。運送会社の方も円満退社できて、今でもパンダ上司とはたまに出かけたりする。

 可愛くて、撫でるとプンプン怒るのに手からは逃げないのがまたええんだ。

 

 学生とは……関わるとしたら事務の学生が多い。何せ窓口にいるのが学生だからな。あとは治安維持系の部門のやつらと共同作戦をすることもある。あいつらは指揮に従ってくれるからやりやすいんだよな。

 相手の装備を見ればどんな武器が通じやすいかがわかるし、地形を見ればある程度は戦術も練れる──というのも、ゲームと同じだからな。敵が向かってきたらどこにいるかってのは一瞬で頭に叩き込んで、移動を見て潰していくだけの仕事だが……死にたくないから死に物狂いで身につけた。

 それを活かせるのも、真面目に指示を聞いてくれればこそだ。これが不良どもと組まされると大変なのなんのって。

 

 仕事関係で学生の名簿を見ることもある。それとなく探してはみるものの、ネームドはほぼない。というか、見つけたところでわざわざ探しに行こうとは思わない。

 俺は俺で忙しい日々を送ってたからな。

 

 ──あ、もちろん連邦生徒会のメンバーは良く見るぞ? テレビによく出るからな。それに、ネームドと絡んだ回数もゼロってわけじゃない。職種が近いと絡むこともあるからな。

 

 

 ──────

 

 

「そんで……お前はいつまでこんなところに通い続けるつもりだ?」

 

「決まってんだろ。満足するまでだよ」

 

 クロノススクールがいの一番に生徒会長アロナの失踪を放映して以降、俺はこうしてD.U.に存在するランドマーク、キヴォトスを象徴する建物でもあるサンクトゥムタワーに通っていた。

 折角なら『先生』がどんな風貌をしているか真っ先に見てみたいというミーハーな欲望だ。

 一番気になるのは生え際だな。

 ハゲ散らかしたオッサンだったら手を叩いて喜ぶ。多分モモトーク交換しちゃうわ。

 

「それにしても……どこからその知識は仕入れてきたんだよ」

 

「ブラックマーケット」

 

「そうですか……あー…………マジで治安が激悪になるとは思わなかった」

 

 サンダースが首を鳴らした。

 ロボットなのにそういう人間くさい仕草が多いんだよなこいつら。神秘ってすげえなあ。

 

「所詮は圧倒的なカリスマが束ねていただけのガキどもだ、それがいなくなればそんなもんでしかねえよ。そんな状態運営を続けられているのは個々人の能力の高さだろうけどな」

 

「連邦生徒会長がいなくなったって、お前あの時から言ってるけどマジなのか? それに代わりの人間が来るって……」

 

「……ふん」

 

 どちらでもいい。

 結局、大事なのは俺がこの世界で見届けることができるか否かということだ。生徒を愛し、生徒を導く大人として在れる先生ならば──きっと、これから訪れる苦難だって乗り越えるだろう。

 俺は、それが見たい。

 そのためにワザワザ、銃弾に体を撃ち貫かれながらこのイカれた都市で生きてきたんだ。

 

「待ってりゃくるんだよ」

 

「でもよお、もう2週間だぜ?」

 

「付いてこいなんて頼んでないぞ」

 

「まあそうだけど……そうじゃなくねえ?」

 

 キュイイと駆動音を鳴らして隣に座ると、充電バッテリーを取り出した。ここで食事をとるらしい。

 

「こんなに仕事しないで、大丈夫なのか?」

 

「俺は仕事したい時に仕事するの」

 

「でもメールとかめっちゃ溜まってんじゃねえの?」

 

 そのとおり。

 メールは溜まってるし、鬼電も来る。

 鬱陶しいから留守電モードに設定して電話は一旦受け付けないことにした。そもそも、暫く仕事しないって連絡をお得意先には既にしてある。それでも電話してくるなら俺の知ったことじゃない。

 ヴァルキューレだろうがカイザーだろうが、客と依頼者ってのは対等だってのをわかってねえんだ。

 

「なんだったっけか……事件の件数が先週の数倍に跳ね上がってるとか言ってたよな」

 

「そう! だから今受けようが受けまいが、大して変わらねえんだよ。なんなら得意先がこの機会に2、3個潰れてくれりゃあもう少し楽できる」

 

「こええな……まあ、お前に付いてきゃ楽できるからなんでもいいんだけどさ」

 

「独立しろ」

 

「なんでだよ!」

 

「なんかムカついたから」

 

 俺はあんな痛い思いして頑張ってきたのに、コイツらは痛みとかない。衝撃で吹っ飛んだり、撃たれて怒りを見せることはあってもロボットはロボットということだ。

 しかも、そんな頑張ってきた人間様が作った会社に乗っかって生活しようってんだからふてえ野郎だ。

 いや、従業員3人(代表含む)て……

 

「俺がいなくなったら困るのあんただろ〜」

 

「まあな」

 

 こいつはロボットなので、単純な計算能力だけなら人間の脳みそじゃ及ばない。創造性が無いから事業拡大とか既存事業を任せるのは無理だけど、経理とか精算はコイツに全部やらせてる。

 

 そもそも拡大するほど大きくなかったわ……

 

「はあ……おっ、首席行政官様だぞ」

 

「本当だ」

 

 入り口から堂々と現れたのは首席行政官の七神リン。俺が直接顔を合わせる機会は無いけど、行政関係のトップ2だから知られた存在だ。

 そもそも原作からして有名だからな、名前を聞いてすぐにピンと来た。最初にその存在に気づいたのは彼女が高校一年生の時で、行政経営部だか事業部だかの部署の端っこに名前が書かれていた。

 

『うおお……!?』

 

 ってなったよね。

 2年前のことだった。

 

「いっぱい取材が来てらあ」

 

「そりゃあ来るだろうよ。なにせこんだけ変わっちまったんだから」

 

 物価の上昇もすごいし、運送業だってボンボン潰れている。連邦生徒会長という堰に止められていた(歪み)が溢れ出すのは当然だったな。

 基本的には治安の悪化が全てに影響している感じだ。秀でた奴がいれば劣った奴がいるのは道理で、特にそういったもの()に敏感な学生が自由にやっている都市だからこそ、こうなるのもやむなしというか。

 

 ──連邦生徒会長

 

 彼女が生徒会長として立つ前はそこまで治安が悪かったのかと言われれば……そこそこ悪かったけど、3倍4倍って程じゃ無い。ただ、治安が良くなったのは事実だ。

 彼女がいなくなった事が公然の事実にならなくてもこれだけ影響を与えると考えると、超人なんて言われることもある彼女の処理能力は大したもんだ。

 

 だけど、結局は圧政の一種でしかない。ナマモノ(在任期間の短い学生)に任せる以上は、抑圧されていた色々が解放されるのも当然の帰結だ。

 まあ、暫しの平和ってやつもなかなか楽しめたけどな。

 

 そんで、その皺寄せは彼女に行くと。

 

『なぜ連邦生徒会長はいまだに姿を現さないのですか!』

 

『連邦生徒会はこのことについてどのように責任をとるおつもりなのですか!』

 

『七神首席行政官!』

 

 詰め寄られた彼女は、立ち止まると真っ直ぐ報道陣を見つめた。

 

『──このことに関しては、進展があり次第皆様にご報告させていただきます』

 

 それを受けて報道陣も畳み掛ける。

 

『それではこの件に関して連邦生徒会長はなんの進展もなく2週間を過ごしてきたということですか!』

 

『逃げないでください!』

 

 しかし、七神リンは車に乗り込むとその場を去った。

 

「あーあー、物騒だね」

 

「そうかあ?」

 

「物騒だろ。あんなに生徒会がバタバタしてんの、久しぶりに見るぞ」

 

「どうせ最長でも3年で代替わりするんだから、そんな大した事じゃねえよ」

 

「生徒会長様がいなくなったって言ってんのにお前は本当に……」

 

「40年間シコシコ働かなきゃいけねえのに、この程度でいちいち狼狽えてたらなんもできねえだろ」

 

「でも隣町は停電したとか言ってたぞ」

 

「だからなんだよ」

 

「お前の大好きなウォシュレットも電気がなかったら動かねえぞ」

 

「…………それもそうか。おい連邦生徒会! ふざけんなー!」

 

「クズすぎる……」

 

 

 ──────

 

 

「なあ仕事しようぜえー……流石になまっちまうよ……」

 

「…………」

 

「お前がいないと敵の位置わかんねえんだよ……」

 

 あれからさらに2週間。

 俺も待つことには飽き飽きしつつ、いつ現れるのかと逆に意地になるくらい待った。

 停電したり下水が溢れかえったり、巨大モンスターが現れたり、俺じゃなくてサンダースに対して連絡が来るようになったりと色々あったがそれは全てスルーして待った。

 サンダースに関しては気を張るのもアホらしくなったのか、最近は戦闘用の装備じゃなくてパーカーを着てくるようになった。もちろん銃は持っている。

 

 ──車だ。

 

「なんか違うな」

 

「ああ? ……車はいつも来てんだろ」

 

「何か違う気がする」

 

「やれやれ……何が違うのかね……」

 

 サンダースは双眼鏡を取り出した。こいつ、気になってないフリしてこんなもん持ってきてたのかよ……俺も持ってるけど。

 

 ちなみにサンダースは標準でスコープアイ機能付きだし、俺もヘルムを飾っていれば同じことができる。要は、こいつの双眼鏡に関してはただのフリ、お遊びってわけ。

 

「なんかおかしいか?」

 

「わからん、黒塗りされてるな」

 

「じゃあおかしいじゃねえか」

 

 車は地下駐車場へ向かってしまったため、中を見ることはできなかった。

 

「……どう思う?」

 

「場所を変える」

 

「え? 場所って……どこに?」

 

「シャーレだ」

 

「シャーレ?」

 

「きっと戦場になる、気を引き締めろ」

 

「えええ……せっかくお気にのパーカー着てきたのに……というかどこだよ」

 

 こんなところにお気にのパーカーを着てくるのが悪い。遊びじゃねえんだぞ。

 そもそもロボットがパーカーなんか着るな。

 

「お前が見たいっつって来てるだけなんだから遊びみたいなもんだろうが!」

 

「いやいや、俺は真面目に『先生』の到着を待ってたから」

 

 これは本当だ。

『先生』が来るということは、キヴォトスという街が大きく変容することを意味する。『先生』と生徒が紡ぐ物語によって、この世界を覆う『青春の物語』(ブルーアーカイブ)は次の段階へと進む。それまではただ、学生の生活という固定された概念でしか無かったそれらは白日の下に晒され、定義付けられ、動きを見せるようになる。

 それはキヴォトスに住まう、学生以外の存在にすら影響を及ばす。

 俺もきっと、以前よりハードなことになるだろう。

 だからキッカケを見逃すわけにはいかないんだ。

 

「遠いのか!?」

 

「いや、近い。30kmだ」

 

 下調べはしてある。

 お互いに用意していたバイクに乗り込み、道を進む。おそらくサンクトゥムタワーでは大事なお話(電車の語らい)の最中だろうし、俺たち2人が無策で入れるような甘い警備ではない。タワーの根元で待っていたところで、ということだ。

 それなら先にシャーレ近辺に乗り入れ、やってきた姿を拝む方がよほどマシというものじゃないか。

 

「シャーレ、ねえ……変な名前だな。どんな意味があるんだ?」

 

 走行中、インカムを通じて聞こえてきたサンダースの疑問。それは『先生』が最初に抱くのと同じものだ。

 

「意味というか、連邦生徒会が立ち上げた独立捜査部門の名前だ」

 

「独立捜査? 独立して捜査って……ただの探偵じゃねえのか?」

 

「……あらゆる学園に属さず、法律すら超えたところで全てを捜査する権限を持つ超法規的組織。それがシャーレだ」

 

「はあ!? そ、そんなんありかよ! なんでも見られちまうじゃねえか!」

 

「そんなすげえ組織が立ち上がるところ、見てえだろ?」

 

「……お前やっぱり未来から来た?」

 

「全然。独自の情報網ってやつだ」

 

「そうかよ……!」

 

 サンダースの声に勢いが出始めた。これはやる気が出た時のサインだ。

 目──に該当する顔面のサインがニコちゃんマークになっていることだろう。

 

「なあ」

 

「あ?」

 

「どんなやつなんだ? その先生ってのは」

 

「…………難しいな」

 

「難しい?」

 

「俺も会ったことがあるわけじゃねえからな」

 

「でもお前、外の世界から来たんだろ?」

 

「外の世界じゃ先生なんて珍しくもなんともない、ただの一般人だ」

 

「じゃあなんで見に来たんだ?」

 

「ここに呼ばれるような奴が一般人なわけないだろ」

 

「…………確かに?」

 

 サンクトゥムタワーから20分弱──シャーレまであと1、2kmってところ。30kmという道のりだったが、交通ルールを守りつつ飛ばすとこんなもんだろう。

 

「ああ、すでに集まり始めてるな」

 

「なんだ……?」

 

 

 ──────

 

 

 シャーレそのものではなくシャーレ周囲の市街地において、不穏な空気が蔓延していた。

 道を堂々と歩く不良たちは寄らば切ると鋭い視線をあたりに向け、関わり合いになりたくない住民も目を逸らしたりしている。

 

『おらおら! どけえ!』

 

『何こっち見てんだよ!』

 

 ガラが悪い。

 

「スケバンだな。集められたって考えるのが妥当か?」

 

「誰に?」

 

「嫌な予感がするから言わない」

 

「じゃあ聞かない……やるのか?」

 

「いいや、突っかかってこない限りはやらない。そもそもやる意味もない」

 

 金だってどこからも発生しない。

 

「だけどよ、今から先生が来るんだろ? 外の人間はお前と同じで銃弾に対しての耐性が無いのに、大丈夫なのか?」

 

「仮にダメならダメってことだよ。俺は大人しく外に帰るぜ」

 

「うわズッル! 俺は置いてけぼりかよ!」

 

 自分で考えて話すロボットなんて外にはいないからな。付いてきたら実験第一号になるのは間違いない。

 もちろん俺も相応の待遇だろうけど、コイツよりはマシのはずだ。

 

「キヴォトスが滅びるときは、お前も一緒ダヨ」

 

「なんで俺だけなんだよ! お前も一緒に死ねや!」

 

「俺はなんの責任もないから……」

 

 ごめんね、自由で。

 

「くそっ、マジでムカつく……!」

 

「ここら辺にバイク隠すか」

 

「ったく! 常に急だなお前は!」

 

 そこら辺にバイク置いとくと、鍵抜いたとかチェーン付けたとか関係無しに盗まれる。チェーンは爆破されて、電子錠はハッキングされて、鍵ない時はレッカーされる。

 4桁万円がアボンですよ! 

 頭おかしくなりゅう! 

 

 ──というわけで、俺のバイクは光学迷彩付きだ。あと、あまりやらないけど戦術指揮を行えば自立戦闘形態になって戦ってくれる。

 

「経費で落としてくれてマジでありがたい」

 

「3人だからな、これくらいはする」

 

「デレた!」

 

「黙れ、解雇するぞ」

 

「ナイスジョーク!」

 

「…………」

 

「じょ、冗談だよな?」

 

 あんまりふざけた事言ってると別のやつ探さなきゃいけないな……

 

「──そ、それより! あの嬢ちゃんボンキュッボンだぞ!」

 

「……隠れるぞ!」

 

「え、いきな──どわあっ!」

 

 サンダースの頭を引っ掴んで物陰へ。

 見つけたのは、イカれた学園都市の中でもぶっちぎりでやべえと評判の狐耳だった。

 

『〜〜♪』

 

 呑気に鼻歌を歌い、背中には軽装備のスケバンや戦車を従えている。歩く先は、俺たちが向かいたいのと同じ方向。

 

「狐坂ワカモ」

 

「あー……七囚人か!」

 

 PMCとして生活していると、犯罪者なんて飽きるほど見る。牢屋にぶち込まれて出てこないやつのことなんか大して気にも留めなくなるというものだ。

 

 勿論、俺は常に気にしていた。

 

「そうだな」

 

「あの狐耳は何したんだっけ」

 

「街の破壊。まあ普通だな」

 

「へー」

 

 そう。

 七囚人というのはつまり、素行不良で世の中を舐めたガキってことだ。一番関わり合いになりたくない。

 

「お、お前このタイミングで迷彩かよ……」

 

 ステルス迷彩を起動した。

 鼻や耳のいいヤツへの対策として、体表面近くの空気の流れを操る機能をつけてある。俺がここにいることを誰にも気付かせなくさせる技術だ。

 開発設計は俺じゃない。あくまで前世の記憶を頼りにアイデアをエンジニアに提供して作らせただけだ。

 

「絶対に関わりたくねえ」

 

「……じゃ、じゃあ俺も」

 

 そうだな。

 もしもあの狐耳と積極的に関わるとか言い出したらこの場で解体だった。

 

「あいつら、どこ向かってんだ?」

 

「お前……その高性能AIは何のためにあるんだよ」

 

「はあ? んなこと言われたって…………ああ、シャーレか」

 

「当たり前だろ」

 

「でも、何でシャーレに?」

 

「連邦生徒会に閉じ込められてたわけだからな。その所有物の建物を占領するか破壊するかして鬱憤を晴らそうってんだろ」

 

「ほーん……学校行けや」

 

「それはそう──っと、始まるぞ」

 

「は? なにが……っ!?」

 

 キュラキュラとキャタピラを鳴らしていた戦車が止まり、その砲塔を回転させていく。その向く先は何でもない小物屋。

 ウサギの獣人が経営する店のようだ。

 

 ──一瞬にして瓦礫と化した。

 

「おいおい、こんないきなり始めんのかよ……!」

 

「まあ、腐っても七囚人ってことだろ」

 

「…………そういえばニュースに出てたな」

 

『ウフフ……ウフフフフ!』

 

 彼女の真紅の災厄(固有銃)から放たれる銃弾も彼女自身の神秘によって強化されているのか、着弾地点を抉り散らかしていく。

 

『キャアアアア!?』

 

『う、うわああああ!』

 

『逃げろおおおお!』

 

 阿鼻叫喚。

 街は一瞬にして戦場と化した。

 ──戦いと表現するとやや誤解が生じるので、無差別破壊と言い直そう。

 ワカモと彼女の引き連れたスケバンどもは街をどんどん破壊していく。

 

「あーあー……あんなに壊したらどれだけの被害額が……」

 

「お前もそういうのわかるようになってきたか」

 

「当たり前だろ。どんだけ計算させられてると思ってんだ」

 

 サンダースのぼやきも宜なるかな。

 なにせ一団が通り過ぎた後には瓦礫の山しか残っていない。破壊の権化と言っても過分に当たらないだろう。

 

「バイク、後ろの方に残しといて良かった……」

 

「こうなると踏んでたからな」

 

「うーん、この安心感」

 

 それにしても、やはり凄まじい。

 

『ウフフフフ! 連邦生徒会の所有物が壊れていく! 無くなっていく! ウフフフ! 何と愉快なのでしょう!』

 

 不良どもの不安を煽って一瞬で洗脳し、戦場を作り上げる。単体としての戦闘力もそこそこ高いのは神秘のおかげだろうが、単純に総合力が高い。

 ──負けるとは思わないけどな。

 

「勝率は?」

 

「60」

 

「シビいな」

 

「無双タイプじゃないからな。まだやれる方だ」

 

「そうか……属性は?」

 

「神秘の軽装だ」

 

「神秘の軽装……ええっと、そしたら……なんだ、いつものでいいじゃん」

 

「やる気はないけどな」

 

「バイクで逃げながらって感じか?」

 

「……そうだな」

 

 バイクに積んでる装甲を軽装備から重装甲に換えておけば更に一安心だろう。

 

「でもアレだろ? ぜーったい割に合わねえじゃん」

 

「いや? 仮にやるってなったら相当な報酬額になるはずだぞ」

 

「……誰が出すんだ?」

 

「企業のお偉いさんとか。七囚人を飼ってみたいってやつなんかいくらでもいるだろ」

 

「あー……」

 

「やらないぞ?」

 

「…………金に困ったら?」

 

「その考えがこの後も続けばいいな」

 

 

 ──────

 

 

「──あ? ……あれか? ……おい、おい、おい! なんか来たぞ! なんか歩いてくる!」

 

「キタキタダンスが何だよ」

 

「ぶっ殺すぞお前」

 

 冗談もわからないとか、これだからロボットは……っ! 

 

「確かに……来たようだなあ……!」

 

「ア、アルカイックスマイル……」

 

 ヘリから降り、ワカモたちを追い掛けるように歩いてきたのは、俺がよく知る学生たちだ。勿論、しっかりとした面識はない。

 

「──!」

 

「キモいキモいキモいキモい、その顔やめろって」

 

 早瀬ユウカ(爆発/軽装備)火宮チナツ(貫通/軽装備)羽川ハスミ(貫通/重装甲)

 生で見るのは初めてじゃない。ハスミに関しては正義実現委員会との合同作戦で何度か顔を合わせたことがある。勿論、フルアーマー状態だ。

 ……うん、新幹線だったな。

 俺の身長に背伸びすれば届くくらい高いし新幹線だった。相変わらず黒の服に赤いヘイローが似合うことで。

 

「ていうか、あっちの赤い女ってゲヘナの風紀委員じゃなかったか? たまにテレビで見るぞ」

 

「そうだな」

 

「属性は? ──ってもう1人いるぞ? 何だアイツ、丸腰じゃん」

 

「…………っ!?」

 

「んん? スーツを着てるな。それに、あの年の感じ…………あれ、学生じゃなくて大人だ! 初めて見たぞ、お前以外の──いや、待てよ!?」

 

 サンダースがこちらを強く見ているのがわかる。

 

「え、ま、まさかアレ……」

 

 俺たちが目にしたのは、紛れもなくあの場面だ。

 

「アレが……」

 

 ゲヘナ、トリニティ、ミレニアムというゲームを象徴するような3校のお偉いさんを引き連れて、シャーレを襲撃した不届きものを撃退する。

 いわばチュートリアルだ。

 

 外界からやってきた『先生』(俺たち)がこの世界での戦い方を知るための準備運動。

 そんな場に現れる大人なんて、1人しかいない。

 

「アレが先生か!?」

 

 俺たち2人の目の前に姿を現したそいつは……黒い長髪を棚引かせる『彼女』は、堂々と宣言した。

 

「私が指揮する! 任せて!」

 

 ──女だ!? 

 

 

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