「彼は典型的なユダヤ人だね」。私のひと言にその場は凍りついた。体制転換が進むハンガリーを欧州メディアに混じって共同取材した時のことだ。英国フィナンシャルタイムズの彼はいつも最前列に陣取り、鋭い質問を浴びせた。仲間内で彼のことが話題になった時、仕事ぶりをたたえたつもりで発した表現は、明らかにNGだった。
私は虎の尻尾を踏んだらしい。後で分かったことだが、取材団そのものが「ユダヤ人脈」によって組成されていた。元締めは当時IMF副総裁、元ハンガリー中央銀行総裁。金融界でユダヤ系の重鎮とされる人物だ。体制転換に必要な資金を世界から呼び込もうと西側メディアを使った。市場経済へと進むハンガリーが一斉に記事になれば投資に火がつく。朝日新聞に声がかかったのは、日本からの資金を期待したからだ。メディアと金融をつなぐ仕掛けは周到に張られていた。事情を知らぬ記者がその真ん中で「典型的なユダヤ」と口走ったのだから周囲は言葉を失った。
ハーバード大学の記者プログラムに参加した時、12人いた米国記者のうち3人はユダヤ系。その1人の父親はニューヨークタイムズ(NYT)の著名なコラムニストだった。ユダヤ系のメディア支配は公知の事実で「NYTにいる5人のコラムニストは全員がユダヤ系」と聞かされた。教授陣にもユダヤ系が目立った。祖国を失って2千年、散り散りになりながら差別に屈することなく独自の宗教と生活習慣を守り抜いた彼らの結束は固く、組織や職場の壁を越えて支え合う。それだけに独善や身内優先が鼻につく。
ホロコーストの悲劇を経て建国したイスラエルは、住んでいたパレスチナ人を追い出し、4度にわたる中東戦争で支配地を広げた。国連安保理が武力侵攻を批判し「占領地からの撤退・難民救済」を決議しても無視し続けている。「国連決議違反」はロシアや北朝鮮には鋭く突き刺さるが、イスラエルに甘い。
戦いは軍事力だけではない。「世論」が趨勢を左右する。世界の主要メディアはパレスチナ問題を公平・中立に報じて来ただろうか。深く張り巡らされた人脈がイスラエルによる「力のおごり」を見えにくくしてきたのではないか。そして行き着いた先がハマスの絶望的な反撃である。
「テロ行為」は正当化できないが、これまでの犠牲者は圧倒的にパレスチナ人が多い。「メディアは、イスラエルの被害は生々しく伝え、パレスチナ人の死者は数字でしかない」と言われてきた。
米国はイスラエル(人口940万人)に次ぐ推計500万人ものユダヤ人が住む国家だ。人口の2%にも満たないが、全米ユダヤ人協会は民主・共和両党に強い影響力を持ち、政権をイスラエル寄りにしてきた。このゆがみに米国メディアの監視機能は極めて弱い。世界が注目するガザ地区で、米国と主要メディアはどう振る舞うのだろうか。