会場の空気
喜吉学園と鳴哀学園の生徒が入った大広間にはすでに他校の生徒たちが談話している最中だった
まるで体育館のように広い空間に四つの専門学校の優秀な一年生がそろったことになる
喜吉、士努、鳴哀、楽導
日本が誇る東西南北に存在する能力者専門学校、その未来を担うであろう一年の会合が始まろうとしていた
会場には大量の料理と飲み物、そして各種制服を着込む生徒達、その奥にはスーツを着込んだ大人たちがいる
ひそひそと小声で話しながら生徒達全員を見比べているようだった
「では全員開始時間まで適当に過ごせ、腹に何か入れておくのも誰かと話すのも自由、好きにしろ、解散」
教師の言葉で喜吉と鳴哀の生徒は会場内に散っていく
「とりあえず飯食おうぜ、腹減ったよ」
「そうだな、あんまり食い過ぎるなよ?」
静希達はまず用意された食事を口にしながら会場の様子を眺めていた
四つの制服入り混じる会場の中は殺伐、という程ではないが緊張感の漂う独特の空気を持っている
特に強い視線が鳴哀学園の淀川に向けられているのに気づいた
「あれが鳴哀の・・・」「奇形種を二体も・・・」「天才ってやつか・・・」「なんであんなに震えてるんだ?」
どうやら鏡花の情報通りかなり優秀な生徒であることに違いはないらしい
ある程度の噂でも流れていたのかそれとも自分から流したのか、どちらにしろ淀川はかなり有名な注目株のようだった
特に大人、スーツを着た人物からの視線が強い、それがどんな意味を持っているのかはさすがに静希達には分からなかった
その中には金髪の外人も見える
以前城島が言っていたイギリスの専門学校の要人のようだった
それだけの注目が集まっているのに当の本人の顔色は最悪、先ほどの恐怖がまだ抜けていないのか、僅かに身体を震わせてしまっている
「にしてもあいつも災難だね、明ちゃんに手を出しちゃうなんてさ」
「確かに、静希が怒るとああなるってのが良くわかったわ」
「おいおい、俺だってちゃんと手加減したぞ?それにあいつの自業自得だ」
「それに関しちゃ同意だな、出る釘は打たれるってか?」
「陽太君、出る杭だよ」
「意味合い的には間違ってはいないのだがな」
食事をしながら辺りを見回していると城島が誰かと話をしているのを見つける
そして静希達の方を見てスーツ姿の男性を連れてこちらにやってきた
「こいつらがそうだ、顔ぐらい覚えておいてやってくれ」
「おぉ、君達が城島の教え子か、皆いい顔をしているな」
突然やってきた男性は豪快に笑いながら静希達の頭をポンポンと叩いていく
「あの・・・先生、この人は?」
「あぁ、こいつは町崎、学生時代私と同じ班だった男だ」
「初めまして、町崎勝だ、軍部に勤めている」
その笑顔に静希達はどこか見覚えがあった
記憶を頼りに回想していくと城島が以前静希達に見せた写真にこの笑顔に似ている人物が確かに写っていた
「「あぁ!ドロップキックされそうになってた人!」」
静希と鏡花が同時に思い出し、町崎の顔色が変わる
「っ!?おい城島、お前まさか学生時代の写真見せたのか!?」
「あぁもちろん、お前がバカ面浮かべて高笑いしてる写真をな」
「あぁ・・・第一印象最悪じゃないか・・・」
町崎はため息をつきながら額に手をあて過去の自分の行いを恥じているようだった
確かにあんなことをしていては恥ずかしく思うのも当然かもわからない
「お前達も挨拶しろ、せっかくコネを作らせてやろうとしてるんだから」
「先生それ露骨すぎないです?」
「いいんだよ、さっさとしろ、班長から」
城島の強引な紹介とコネ作りに鏡花はそれではと場を仕切りなおして咳払いする
「初めまして、喜吉学園一年B組一班班長、清水鏡花です、以後お見知りおきを」
「同じく一班、五十嵐静希です、よろしくお願いします」
「同じく一班響陽太、よろしくおなしゃす」
「同じく一班、幹原明利です、よろしくお願いします」
全員が頭を下げ終わると町崎は後ろで見ていた二年二人の方に視線を移す
「君はひょっとして『切裂き魔』の深山雪奈かい?」
「・・・そうですけど?」
自分の呼び名ともなっている切裂き魔と言われ雪奈はあまり嬉しそうではなかった
「良くわかりましたね、ひょっとして雪姉って有名?」
「あんまり嬉しくないよ・・・」
「いやすまない、喜吉学園で刃物を大量に持っているからもしやと思ったんだが」
二年生ともなればある程度知名度はあるのか、雪奈の姿や装備が特徴的すぎるのか、先ほどからちらちらと人の視線が雪奈に向けられているのに気づく
何せ刀二本に体中にナイフを装備しているのだ、目立たない方がおかしい
「雪さんって有名だったんすね」
「彼女は凄腕だよ、何せ年間奇形種討伐の学生記録保持者だからね、一年生の段階で『切裂き魔』の称号を得たのは伊達じゃない」
有名といってもやっぱり物騒な方だったかと全員納得しながら雪奈を見る
奇形種に対しての戦闘ならこの中で随一、それどころかレコードホルダーだったとは驚きである
「もうやだよ、もっと女の子らしい有名さが欲しいよ」
「よしよし、あとで何かおごってやるから元気出しなさい」
静希が慰めているが雪奈は女の子らしくない自分の評価に嘆いているようだった
「それはさておき、先生はなんで町崎さんを俺達に?」
「ん・・・いやお前達というか、本命はお前だ五十嵐」
「俺?・・・ってことはそういうことですか」
城島がそれ以上なにも言わずとも話の内容を察知した静希はため息をつく
「城島、話が見えないんだが」
「んん、詳しく話すことはできんが、こいつが関わった面倒事に関してだ」
さすがに静希が悪魔と神格と霊装を保持しているなどといえる訳もなく城島は言葉を濁す
「こいつが関わった面倒事で一つ解決していないものがあってな、鳥海のバカがやらかさなきゃそれでことは済んだんだが」
「ん?鳥海が関わっていたってことは・・・あれか?四月にあった訓練中の話か?」
どうやら軍部にいるだけあって最低限の事情くらいは知っているようだった
だがそこから先、細部までは知らない様子である
「そうだ、あいつがヘマこいて重要参考人を取り逃がしてな、おかげで手掛かりは小さなボタン一つだ」
「ん?待て話がまた見えなくなったぞ、一体なにがどうしてそうなる?それにあいつの部隊が取り逃がす?バカ言うな、あれでもあの部隊は優秀だぞ?」
事情をほとんど知らないだけあってなかなか納得していなかったがそこで静希達は一つ疑問が浮かぶ
「鳥海さんも先生達の学生時代のチームメイトだったんですか?」
もしそうなら町崎にドロップキックをかましたのは鳥海ということになる
だが二人は首を横に振って否定する
「いや、あいつは私の軍部時代の同期ってだけだ・・・話を戻そう、仮面を付けた妙な奴が包囲網を抜けて逃走したって部下からの報告があったそうだ、エルフかどうかは未確認、面倒事の発端であると主犯格からの証言も取れてる」
城島は町崎に仮面の絵柄の書かれた紙を手渡しておく
「それでなぜ俺をこの子に?」
「こいつはなんでか面倒事に巻き込まれる体質らしくてな、高校生になってからまだ半年も経っていないのに抱えた面倒事は三つ・・・いやこの前四つになったのか?ほぼ月一ペースだ」
悪魔、神格、霊装、奇形種の使い魔
着々と面倒事を抱え込んでいく静希に対して城島はさすがに自分で言っていて恐ろしくなったのか大きくため息をつく
「そのうち私やこいつらだけでは処理できない問題が起こりそうでな、一応お前にも協力してもらおうと思ってな」
「それは構わないが、学生が抱える面倒事なんて大したものじゃないだろう?お前がそこまで気にすることか?先生になって丸くなったのか?」
「・・・まぁ普通のことなら私もそう思ったんだがな」
「?」
城島の態度に町崎はどうにも事態を正確に認識できていないようだった
もちろん町崎の言うことはおおむね正しい
能力者とはいえ高校生が抱える問題など精々物を壊してしまってその賠償だとか人を傷つけて云々程度
だが静希の場合は違う
面倒事のレベルが段違いだ
「とにかくだ、もしかしたらお前にこいつの面倒を見てもらうことがあるかも知れん、その時は頼む」
「あぁ、まぁ気には留めておくよ」
静希を改めて見ながらやはりそんなたいしたことにはならないだろうと安請け合いする
そんなやり取りをしていると明利が静希の服の裾を引っ張る
「静希君、フィアが帰ってきたよ」
「ほんとか?どこにいる?」
ずっと偵察に出していた使い魔の帰還に静希はあたりを見回すが小さなリスの姿はどこにも見えない
「外にいるけど、入れないみたい」
「あ、そっか、ちょっと迎えに行ってくるか」
静希は一度会場の洋館から外に出る
するといままで何処にいたのか静希の頭めがけて正確にフィアが落下してくる
「おぉ、お疲れ様、ゆっくり休めよ」
軽く頭を撫でてトランプの中にしまいまた会場内へと戻る
するとどうやらイベントが始まっているらしく、会場内は暗く、そして壇上近くのはスクリーンで写真などが映し出されていた
どうやらこの一学期で班がどのような行動をしたのかというものらしい
各班護衛や討伐、そういった派手な任務が目立つ
「静希おかえり、ちょうど始まったところよ」
「あれってもしかしてここにいる班全部の写真映す気か?」
「いつ撮ったんだろうな」
「監査の先生かな」
今まで静希達は任務中に監査の先生がいることも承知していたし一度ではあるが遭遇したこともある
だが写真撮影されているとは知らなかった
誤字報告をいただいたのでまとめて投稿
これだとチェックが面倒だけどその分投稿回数が少ないから結果的に楽です
これからもお楽しみいただければ幸いです