最推しの羽川翼と付き合いたい 作:羽川翼はヤベー奴
火憐と月火との買い物と言う名のデートを終えた月曜日の放課後。
特に代わり映えの無い学校での時間が終わり、少し先にある文化祭の準備を羽川と共に終わらせる。その後、一緒に下駄箱へ向かう途中で羽川が何でもないかのように、唐突に言った。
「ねえ、只野君。あなた阿良々木君の妹さん達とデートに行っていたでしょう?」
「ど、どうして羽川がそのことを……ッ!?」
思わず驚愕した。え?何で!?どうして知ってんのッ!?まさか、尾けられてたってことか!?
「(羽川が俺をストーキング……あれ?悪くない。いや、いじらしいとさえ思う……!!世界一可愛い女の子に監視されるとかゾクゾクしちまうぜっ!
これって、どっちがどっちの一体何プレイなんだろうな!?俺、ワクワクしちまうよ!)」
そんなことを考えていたが、唐突にハッ!と目が覚める。
「(……っていかんいかん。思わず阿良々木や神原みたいなテンションになって何を考えてるんだ馬鹿か俺は。羽川が好きな相手は阿良々木であって俺じゃない。
『凡人』がどれだけ努力したところで、『秀才』が限界なんだ。『特別』になれるわけじゃないだろ)」
そもそも、羽川が阿良々木を好きになってずっと好きで居続けることなんて始めから知っていたんだ。
それでも、前世から含めてずっと好きだったから諦めきれない。なんてことはない。ただそれだけの話なんだから。
「いやいや、私にあの映画を勧めたのは他でもない只野君じゃない。私の方がビックリだよ。何で私が映画に行く日にデートに来ているのよ。
てっきりあれは私に見せつけにきているんじゃないかって、思っていたくらいなんだよ?」
うん、違った。まあ、分かってたことだけどな。
「(幾らなんでも最悪過ぎるだろ。ええ……っ、あの阿良々木でさえもしないだろうミスだろこれ……うわー、マジかよ。死にたい)」
そこまで考えて思い至る。
「いやいや、ちょっと待って欲しいんだ。あれは、デートじゃない。ただの買い物だったんだよ。
それこそ、映画を観たりカフェにも行ったりもしていたけど、それはどっちかというと付き合ってくれたお礼みたいなものだから」
「あんなにお洒落をしていたのに?」
あ、あれぇ……?何で俺はこんな浮気みたいな言い訳をしているんだ?俺が好きなのはずっと羽川なのに。幾らなんでも巡り合わせが悪すぎない?
「まあ、私も只野君が誰と付き合うことになっても構わないんだけどね」
───ぐばあッッ!?!?
い、いきなり、何の予兆もなく致命傷のダメージがッ!?
「私としてはね。中学生の女の子とデートっていうのは世間の目もそんなに良くないと思うんだ。それこそ、今は良いかもしれないけど一年後には只野君は大学生か社会人になっちゃうんだよ。
火憐ちゃんは高校生になるからともかく、月火ちゃんに限っては一年経ってもまだ中学生でしょ?まあ、それを乗り越える覚悟があるなら私は何も言わないけど、二人同時っていうのは正直どうかと思う」
た、確かに、あの場面だけ見たらクソ野郎かもしれないけど、ち、違うんです……あの二人がやたらとガチめなコーディネートなのも、何度も密着してきたのも否定はできないけど、俺に下心とかは何も無かったんです。
……信じて貰える要素が何もないけど。
「両手に花だとは言うけれど、そんな男性が理想とするハーレムが現実で上手くいく筈もないんだからね。流され続けて引き帰せなくなったりしたら泥沼一直線だよ?
相手は多感な時期の女子中学生なんだから、年上であるあなたがその辺りのことも気を付けてあげないと。───只野君、しっかりしなさい」
「…………ハイ」
正し過ぎる委員長にそう言われてしまえば、悪はもちろん俺でしかない。平謝りするしかないのだ。
「(また、阿良々木みたいな思考になってた。そうだよ、中学生相手に欲情なんてしないのが普通だし、恋人なんてもっての外なのにな……いや、そもそも羽川以外の女子を好きになることなんて無いけどさ)」
何と言うか人生ままならないものである。
「(というか、好きな女子と二人で下校するとか青春だよな……えっ?幸せ過ぎない?俺ほど恵まれた奴なんて他にいる?)」
こんなに幸せでそのうち罰が当たらない?まあ、罰よりも羽川との青春か。比べるまでもなかったわ。
「只野君ってコミュニケーション能力高過ぎだよね。よくそこまで人との繋がりを広げられるものだよ」
「そうかな?ただ自分にできることをしていたら、いつの間にかこうなってたってだけだよ」
「いやいやいや、学校中の生徒と知り合いなの只野君くらいだよ?普通じゃないよ」
……普通かどうかをあなたに言われてもなぁ。精神力が怪異でしょうが。
地球並みのストレスって何?感情を切り離して自由自在に多重人格作っちゃう人に、普通じゃないって言われても素直に頷けねーよ。
あっ、でもそんなところも好き。
「みんなの困り事を度々解決してるんでしょう?すごいことじゃない」
「知った以上は無視するのは違うからね」
「助けてって言われなくても助けに行っちゃうんでしょ?事によっては相手に余計なお節介だと思われたり、言われてしまいかねないと思うんだけど、どうしてそうするの?」
「俺は阿良々木みたいな言われないと分からない、鈍感にはなりたくないんだよ。言ってしまえば、知覚過敏で居たいんだ」
「歯茎の象牙質知覚過敏以外で、知覚過敏って言葉を使うのは多分只野君だけだね。私以外だと冷たいものを飲んで、苦しみたいって思っちゃうんじゃない?」
「まあ、別にいいんじゃないかな。ここには羽川しかいないんだしさ」
唯一の欠点だと思う……あーいや、ロリコンとかシスコンだとかは擁護できないし、しない。良いところだけ学んでそうじゃないところは反面教師すれば、いつかはスーパー阿良々木暦になれる筈だ。
「痛っ……!」
「羽川っ!?……どうした?大丈夫?」
羽川が頭を抑えて全身から力が抜けるように壁に寄り掛かる。
「う、うん、少し前から偏頭痛と貧血気味なの。季節の変わり目だからかもね」
……確か、忍野の仕掛けなんだっけか。頭痛でストレスの掛かり具合を分かるようにしたの。とはいえ、こんなに酷かったのか。
どうにかしたいけど、俺じゃあブラック羽川の相手はできないしどうしようもない、か。
「保健室とか行くなら送っていくけど」
「ううん、大丈夫。すぐに良くなるから。それにもう下駄箱まで来ちゃったしまた戻るのもね」
そう言うと、何事もなかったかのように歩き出す。やせ我慢なのかどうか分からないけど、多分やせ我慢なんだろうな。
「それでも一応は保健室で診ても「おーいっ!天翔!早く来てよー!」って……」
下駄箱の先の学校の正面玄関で、手を振りながら俺を呼び掛ける人影が居た。
「……ほら、行ってあげて。多分ずっと待っててくれたんだから」
「あー……、まあ、分かったよ。何かあったら連絡して欲しい。すぐに駆け付けるから」
そう言って、羽川と別れて下駄箱から靴を出して上靴と履き替える。あんまり相性良くないからな。
その人の前まで来ると疑問を投げ掛ける。
「まさか、学校が終わってからずっとここで待っていたのか?それこそ一時間は経ってるだろうに」
「だって今日はもう予定は無いんだもん!だったら一緒に帰ろうかなーって、えへへっ!」
無邪気で天真爛漫。絵に描いたような可愛いヒロイン。実際に可愛い……のだが、俺はたまに寒気がしてしまう。やっぱり前世の記憶というのも万能ではないらしい。
短い髪で整えたその同級生の女子は、俺の腕に抱き付くと澄んだ瞳を向けながら口を開いた。
「ほらっ、帰って数式パズルしよーよ、お兄ちゃんっ!私、面白そうなパズル見付けたんだーっ!できたらちゃんと褒めてよー?」
戸籍が同じとなった俺の義妹だ。
……いや、もうお前誰やねん。
「痛い……」
Q.友達(羽川翼)がテロリストになりました。あなたはどう思う?
A.あの人がそんなことするなんて信じられないッ!
A.こっわ……そんな思想犯だったのかよあいつ。騙されてたわ……。
A.知らない。そんな人のことなんて知らない。友達じゃないから巻き込まないで。
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A.Whoooo!! そうだよな!羽川はそうでないとっ!あっ、それはそうと付き合って下さい!