俺の切り札は光らない   作:雨 唐衣

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朽木様よりFAをいただきました!
続々するドロシーと可愛らしいユウキちゃんです、やったー!



四十二話 唯一無二とは、場に一体しか出せないものである

 

 


 

「ドローフェイズ。土地をセットして、ターンエンドです。ゴー」

 


 

 

 

「また何もしない?」

 

 あっという間に終わったドロシーのターンに、紙浄ちゃんが首を傾げる。

 気持ちはわかる。

 それにぼくは解説をしようとして。

 

「カウンター使いか」

 

「へえ」

 

 店員さんの発言に、驚いた。

 

「わかるんだ?」

 

「ドローゴーで手札を溜め込むなんてコンボ、バーン、カウンター使いしかいない。そして序盤から溜め込むとしたらバーンかカウンター、でも火力の1枚も出さずにリーサルをチラつかせない火力使いはいない」

 

「店員さん、めっちゃ詳しくあらへん?」

 

「あー私がゲシゲシされた時の動きってことかぁ」

 

「それが成功例。バーン使って、火力不足で倒しきれなかったユウキが失敗例」

 

「殴ってさえくれれば……殴ってさえくれれば、土地の数が足りたんだよ!」

 

「X火力持ってそうな動きしてて、殴るファイターはあんまりいないと思う」

 

「むきぃー!」

 

 ここのお店はどんな激しいファイトをしてるんだろうか。

 うちの部員共も同じぐらい熱心にやってくれたらなぁ。

 無理かな? まだ無理だろうなぁ。

 

「はあ店員さん、めっちゃ詳しいなぁ。こん店、そういう教育しとるん?」

 

「まあ色々なプレイはこなしてるから多少はわかる」

 

「なんとなくわかります、わかったです」

 

 多少って言えるかなぁ。

 二人共、ファイトとかの強豪校とかの生徒なのだろうか。

 小学生か中学生ぐらいの紙浄ちゃんはともかく、サレンって呼ばれてる店員さんは私と同じか少し下ぐらい?

 

 


 

「俺のターン。レディ・アップキープ・ドローフェイズ。受粉ゴブリンとオグルで攻撃」

 

「ライフで受けます」

 

「土地をセットして、ターンエンドです」

 


 

 

「あれ? 普通にクリーチャーで殴った? 土地が増えるのに」

 

「いやそれもありだと思う。土地が増えてでも、まずライフを削らないと倒しきれない」

 

「うん。バーン使いとかなら迂闊な攻撃は危険なんだけどね、攻撃をしなければそれだけ都合がいい……手札を溜めるか、茂札くん」

 

「魔石も落ちたしなぁ」

 

 リナの補足を聞きながら、ぼくは茂札くんの踏ん切りの良さに舌を巻いていた。

 何も考えずにただ攻撃しただけならドロシーの格好のカモだが、きちんと彼の目線は場とドロシーの手元を見ていたのが見えた。

 

 まあ多少は揺れるドロシーの胸に目が吸い込まれていたのは、うん、まあいつものことだ。

 

 しかし、何のカードも使わないとは。

 

 

 


 

「優先権を貰います」

 

「どうぞ」

 

「瞬間魔法<鳴動>を発動。場のクリーチャー及び全ファイターにダメージ2点」

 

「スタックします。受粉ゴブリンから1コスト、土地1枚で、瞬間魔法<森の目覚め>を発動。これが通ればライフカードを1枚デッキに戻して、次のドローフェイズにメイン2枚を引く」

 

「それにスタックします。瞬間魔法<思考>をプレイ、通りますか?」

 

「通ります」

 

「では順番に処理していきます。メインデッキを1枚捲り……これを引きます」

 

「こちらの処理。ライフカードを一枚デッキに戻して、ライフ1回復、次のドローフェイズに2枚引きます」

 

「では<鳴動>を処理します、ダメージを受けてください、ドアも受けます」

 

「ダメージ2点で土地が落ちました……2枚目が魔石だったかぁ、こちらの場は全滅でターンエンドです」

 

「では、ドアのターンを始めます」

 


 

 

 

 

 うん。

 

「さくさく進んでる」

 

「なんでドロシーの速度に追いついてるん? あいつ本当に対戦初めてか?」

 

「カウンターにも慣れてるのかなぁ」

 

 茂札くんのプレイ宣言に対して、ドロシーが追いついているのはぼくらからすればいつものことだけど、逆は珍しい。

 少なくともエレウシス全国クラスでもなければもたついていた記憶がある。

 それでもある程度ドロシー対策としての研究はしていたはずだけど。

 

「もしかして、誰かカウンターに慣れてたり?」

 

「打ち消しとか、除去はデッキに何枚かいれたり使ったことありますけど専用デッキは使ったことないです」

 

 使い慣れてる?

 

 ということはそういうテーマデッキ使いなのかな?

 なんか複数デッキを使ってるみたいなこといってたけど、適性……共鳴するデッキをまだ見つけてないのかもしれない。

 

「でも本格的なカウンター使いって初めて見る……」

 

 

()()()()()使()()()()()()()

 

 

「え」

 

「私が()ってきた奴には色々なやつがいたけど、大体のカウンター使いは弱かった」

 

「そうなの? サレンさん。打ち消しとかって強いって思ったけど」

 

「打ち消しは強い。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「超えない?」

 

「カウンター使いっていうのはかなり特殊なんだ」

 

 紙浄ちゃんと謎の強者な雰囲気を漂わせてきた店員さんの会話に、口を挟む。

 

「どんな強いカードでも打ち消してしまえば無効化されるし、場に出たカードだってすぐに除去してしまえば殆ど影響はなくなる」

 

「だよね。特殊勝利とか、即死する火力とかだって打ち消せばまだ戦えるし」

 

「とく……え?」

 

 希少(レア)過ぎる例えじゃないかな、それ。

 

「じゃあユウキ。もしも手札いっぱいに打ち消しカードとコストもじゃらじゃらだったら強いと思う?」

 

「うーん……頼もしいし、これなら負けない! と思うんじゃないかな?」

 

 そう考える紙浄ちゃんの顔にはどこか納得がいっていない色が浮かんでいた。

 うん、その気持ちは正しい。

 

「それならどうやって勝つ?」

 

「…………え?」

 

 驚いたような顔をして、うぬぬぬと腕を組んで悩み出す。

 コロコロと表情が変わる子だなぁ。

 殆ど変化のない店員さんと比べて表情豊かで、並べて見ると本当に可愛らしい。

 

 ちょっと頭を撫でてみた。あ、髪ちょっと硬そうだったけどさらさらだ。

 

「なんですかー!」

 

「いや、なんか撫でたくなって」

 

「わかる。ユウキはなんか撫でたくなる、あとイジるとかわいい」

 

 店員さんも紙浄ちゃんの頭を撫で始めた。

 

「私は全然嬉しくないよ!?」

 

「かわいい」

 

「かわいいんだよ」

 

「撫でるのやめて~」

 

 両サイドから撫でるぼくたちの手を頑張って引き剥がす紙浄ちゃん。

 うーん、残念。

 出来ればほっぺもつまんでみたかったなあ。

 

「話を戻そうか。店員さんがいうカウンター使いには共通した弱点がある、なんだと思う?」

 

「……打ち消す、除去するだけじゃあなにも変わらないから?」

 

「うん、正解だね」

 

 紙浄ちゃんの答えに拍手する。

 

「カウンター使いってのは誰もが一度は考えて、その結果挫折するデッキなんだ」

 

 相手が何を出してくるかわからないから打ち消しをたくさんいれよう。

 相手がどんなクリーチャーを出して襲ってくるかわからないから除去をたくさんいれよう。

 そうやって消して消して消して。

 

 それで、何も進まない。

 

()()()()()()()()()()()()()。それがカウンター使いの限界だ」

 

「……ああ、だから勝てない?」

 

「そう。別の勝ち筋を用意しないとライフもどんどん削れていって、ダメージレースで押し負けるか上手くいっても引き分けになるというのがぼくの知ってるカウンター使いの末路さ」

 

 全国大会。

 名前を上げてきたドロシー、そしてあの女帝への対策として一人のカウンター使いが出てきた。

 けどものの見事に何も進めずに敗北した。

 

 あの<切り札>によって。

 

 ……ぼくが知る限り、カウンター使いとして名を馳せたファイターはたった二人だけ。

 エレウシス前年度の覇者の【女帝】とドロシーだけだ。

 

 まあそれもそのはず、だってドロシーは――

 

 

「カウンター使いは共鳴使えないから弱いしね」

 

 

 店員さんの言葉に、思考が途切れた。

 

「え?」

 

「え」

 

「ん? どうしたの」

 

「共鳴って……共鳴率のことかい?」

 

 あれは表向き都市伝説のはずだ。

 

 共鳴率を実感し、使いこなせていたのは全国でも強者のファイターだけ。

 それも自分にしか使いこなせないデッキや、自然と引きが良くなるみたいな適性のデッキの話じゃない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 得ているもの、自覚しているもので圧倒的な差が付く。

 プロになれる、上の段階へと登り詰めるために不可欠な()()

 

 まさかそれを彼女は知っているのか?

 

「それ以外ある?」

 

 この店員は一体……

 

「共鳴使えないって、そんなデッキあるの?」

 

 え?

 普通についていってる?

 

「あるよ。例えば混合デッキ、ファイターに相性が悪いテーマとかを二種類、三種類とかいれたりするとデュアル・トリプルとかのどれらにも好かれたり、共鳴しやすいやつじゃないと使えない。悪質な精霊(ヤツ)こみならわざと事故らせてくる、まあ()ったけど」

 

「まあ、事故るのなら()つだろうね」

 

「ん? ……続ける。あともう一つパターンがある」

 

 なんで今小首傾げたんだ?

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 フルスクラッチ?

 

「フルスクラッチってなんですか」

 

「テーマや種族に拘らず、シナジー……()()()()()()沿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のこと」

 

「?」

 

 店員さんの言葉に、紙浄ちゃんが首を傾げた。

 

 この店員本当に何者だよ。

 

「そんなデッキあるの?」

 

「ある。昔、私が戦った男……()()()()使()()がフルスクラッチデッキだった」

 

「ガラクタ使いって、サレンさん勝ったの?」

 

「いや引き分けた」

 

「サレンさんが?!」

 

「やばかった。ヴァイスファングの魂葬をギリギリねじこめただけで、なかったらこっちが削り負けてた。次はきちんと勝つ。むん」

 

「負けず嫌いだ~」

 

 無表情に力こぶのポーズする店員さん。

 このお店もしかしなくてもかなり血の気が強い?

 

 ……茂札くんがバイトしてるならそりゃそうか。

 

「ふむ」

 

 しかし本当に凄いな。

 この店員さん。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 まあ参考にしたらしい女帝のと違って、一枚ずつ入れ替えていった結果のものらしいけど。

 

「いや、お前ら。喋ってないで、ファイトみろや。」

 

「あ、ごめん」

 

 横目では見ていたつもりだったが、リナに怒られてしまった。

 だから改めて向き直る。

 

 


 

 

「クリーチャー<ごつごつ岩のゴードン>をプレイ。通りますか?」

 

「通ります」

 

「では召喚されます。除去しないならこのままターンエンドします」

 

「エンドフェイズに、瞬間魔法<とんぼ返り>。ゴードンを手札に戻してください、通りますか?」

 

「通します、おかえり。変身させた土地をバウンドしてもいいんだよ? クリーチャー扱いにもなるし」

 

「ゴードンの土地変身は起動ですよね。召喚酔い中に除去すれば1ターン確実に遅れるじゃないですか」

 

「賢い、エンド」

 

「勉強しましたから、ドアのターンです」

 

 


 

 

 

 

 かなりのターンが進んでいる。

 ライフを確認、茂札くんのライフは12,ドロシーのライフは既に5を切っていた。

 

 ()()()()()()()()だ。

 

 茂札くんの手札の数はまだ複数枚残っている。

 無理に攻め込まずに、ドロシーの手札を使わせていくように振る舞っているのだろう。

 ここまでの相手ならば攻め急ぎ、残りライフを削りに来ている。

 だがそれをしていない。

 ドロシーのデッキを調べたのか、それとも単純に慣れているのか。

 

 なんとなく後者だろうなと思った。

 

「カウンター使いって、本当に変わった感じですね。ライフが減ってきてるのに顔色が変わってないみたいな」

 

「だね。冷静に使い所を見極めてる、あれは知らない動きだ」

 

「サレンさんでも?」

 

「少なくともデッキ頼りじゃないカウンター使いだ。いや、カウンターするもしないも選んでる……」

 

「ぼくは、ぼくらはドアの戦い方をカウンター使いとは呼んでいない」

 

 ふむと、顎に手を当てる店員さんに、ぼくは言った。

 

「せやな。あの子はもう一歩前に、奥に踏み込んどる」

 

 そう、あの子の戦い方を、カードの使い方を見て呼ばれたのは。

 

「彼女は許可を求める、許可を出す上位者」

 

 

 

 

「――許可を強いさせるもの(パーミッション)、だ」

 

 

 

 

「めちゃくちゃなんかかっこいい!」

 

「これは流行る」

 

「でもあのデッキ嫌われるけどなぁ」

 

「ほんとそう、胃が痛くなるしね」

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 チラリと観客スペースのほうに目を向ける。

 うむ、美少女が四人。目の保養になるが、うん。

 

「なんか色々言われてないか?」

 

「ドアのファイトはいつもそうです……なんか場面動いたら教えてーって、うぅ」

 

「パーミ使いは地味だからねえ」

 

「?」

 

 使っても、突破するほうも地獄のように苦しいんだけどね。

 あーラムネ食いてえ。

 ミラーじゃないからなんとかなるけど、前世だったらそろそろ脳が痛くなってくる頃だ

 ちまちまと手札を消費してトロルオーケストラのクリーチャーや、カードを捩じ込んでるが、彼女の顔からして余裕。

 展開を加速させるカードだけ的確に叩き落されてるし、複数並べられると全体除去で消し飛ばされている。

 

 1:1交換以上を徹底している。

 

 見事としかいいようがない丁寧なプレイニングだ。

 気楽なフリプだったら褒めちぎりたくなるし、全身全霊でぶち殺すことを誓っているところだが、彼女と俺はそんな関係ではないので、カードゲーム的な殺意を込めて殴りかかるしかない。

 

「ドアのターンです」

 

 しかし。

 

「レディフェイズ、アップキープフェイズ、ドローフェイズ。メイン・ライフドロー……」

 

 もう即死が見えてくる圏内だというのに平静そのもの。

 そろそろ出してくるか?

 

「チッ」

 

 ? 舌打ち?

 

「え、俺なんかした?」

 

 別にセクハラしてないよな?

 店長、どうなんですか!

 

 くそ、小首傾げてどうかした? じゃないんだよ、可愛いか!

 

「いえ、ドアの問題です……ふぅ。メインフェイズ1です」

 

 

「瞬間魔法<沈黙>をプレイ。通りますか?」

 

 

 

「通ります」

 

 くるか。

 下手すれば死ぬが、妨害カードはない。

 除去と、あれが刺さるかどうかだが。

 

「茂札さんはこのターン、カードを手札からプレイ出来ません。そして、7コスト生産します」

 

 滑らかな指先で、土地を七枚。

 切腹加速も駆使して増やした土地をステイに起動する――コストは2残してやがる。

 

 

 

 

天を見張りなさい。地を見下しなさい

 

 

 

 バトルフィールドがざわついた。

 バチバチと放電が起こる。

 

「!? このカードは」

 

「ジャッジ、静かに」

 

 店長が異変に気づく。

 けれど、手を伸ばして止める。

 

 これはゲーム、彼女がそういったならば――信じる。

 

 

 

それは座に御わす管理者、全てを伏せさせる律の具現である

 

 

 

 信じる、が。

 

 唱える言葉は物騒そのもので。

 

 まっすぐにこちらを見据える天儀の視線がなければ、動揺の一つでもしていただろう。

 

「いきます――通りますか?

 

「来いよ――通るぜ

 

 

 

「7コスト支払い――幻獣(クリーチャー)<律たるもの天界龍・エンジェルハウンド>を召喚!

 

 

 

 空気が重く、白く色付いた。

 まるで雲の上のように真っ白な霧が生み出される。

 

 そして、天儀ドロシー。その背後に現れたのは巨大な龍。

 渦巻く東洋龍のような姿、真っ白な鱗に、淡く光で生み出された光翼を生やし、天輪(ハイロウ)を背負った幻獣。

 天虚世界、その次元の門を護る理不尽の化身。

 

「きやがったな」

 

 そのカードの効果を俺は知っている。

 

「効果を説明します」

 

 天儀が唱える。

 絶望的な効果を。

 

 

「7コスト、パワー5、タフネス5。飛行、瞬間発動。破壊不可能――」

 

 

 ああ、そうだ。

 これだけでも面倒。

 大型クリーチャーで飛ぶ上に破壊出来ない飛行要塞、その上で。

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 敗北というルールを踏みにじるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




 法は彼の忠実な下僕である。

 管理するものはいつだって法に忠実だ。
 彼が正しいと思うように変えるのだから。


                           ――律たるもの天界龍
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