生存本能
「陽太!お前は常に奇形種に突っ込め!距離を置くなよ!雪姉は陽太が逃がしそうになったら逃げ道の先に先回り、鏡花と俺はカバーだ!」
能力がわかったからこそ油断せず相手を追い込む
手がわかっているからこそ次どのように動くかがわかる、それは詰め将棋のようなもの
一手一手が着実に相手を追い込みやがてはその命を奪うことになる
だが一手を間違えば逆転を許してしまう
油断はできない、間違いは許されない
陽太は避け続ける奇形種に対し連続して突撃を繰り返している
だがそこは腐っても野生動物、陽太の攻撃を殺意と一瞬の動きを察知して確実に安全圏へ移動し続けている
何度目かのラッシュを奇形種が跳躍し退避し、無防備にさらされた体めがけ雪奈の刀が襲いかかる
瞬間、奇形種が吠える
雪奈の身体は空中で全ての動きを止める
その表情、走らせた刀、落下さえせずに空中に停止していた
「ビンゴ!鏡花!」
「了解!」
静希が跳びかかりオルビアを振り下ろす瞬間鏡花が奇形種の手足を固定する
逃げられないと悟ったのか奇形種は身をよじりその長い尾をオルビアの刃めがけてぶつける
多少鱗が生えたくらいではこの刃を止めることなどできない
だが十分にその身体本体を守ることには成功した
刃は本来の軌道から外れ尾を切り落としただけで地面にたたきつけられる
オルビアの剣は斬れ味こそ素晴らしいの一言に尽きるが剣本来が持つ重量がない、故に簡単に軌道を変えられてしまう
重量がないのは利点でもあるのだが同時に大きな弱点でもあるのだ
そして無理矢理に手足を拘束からはずし血を流しながら明利達のいる部屋の外れに全力疾走した
「やべ!陽太!」
「行かせるか!」
奇形種の先に回り込み道をふさごうとするが、その口から咆哮が轟き、雪奈の刀が宙を裂くと同時に今度は陽太の動きが止まる
「あれ?!どこ行った?!」
雪奈は突然の状況に状況判断が追い付いていない
鏡花がとっさに壁を作り出すが持ち前の運動能力で壁が完成する前に飛び越えられてしまう
相手の能力は分かっていた
空間停止
一定空間に対し時間停止を行える能力
恐らくは自身に停止をかけて長い時間生き残っていたのだろうが、その空間は一つしか作り出すことはできないようだった
そこまで限定されているのがわかっていたのに、ここまで厄介なものとは思っていなかった
能力を受けたからこそわかるが一気に状況が変わるせいで全くと言っていいほど頭の理解が追い付かない
そして今重要だった足止めの陽太が止められた、雪奈もどういう状況なのか把握できていない
鏡花の足止めも飛び越えられた
静希がトランプを放ちナイフで一斉攻撃を繰り出すが奇形種は止まらず明利と熊田めがけて一直線に進んでいく
熊田が攻撃の構えをした瞬間、明利の手のひらにいたフィアが飛び出す
「あ!フィアちゃん!」
明利の手から離れたフィアは僅かに光る
大きく開かれた口が襲いかかる寸前小さな体がその形を変える
次の瞬間現れたのは巨大な牙を覗かせた口
下から奇形種の喉笛めがけ襲いかかるその口は肉を裂き骨を砕き血を噴き出させながらその命を奪っていく
姿形が変化したフィアの姿は、大きな獣
高さだけで明利と同じ位ありそうな、犬と狐を混ぜたような白銀の体毛をした魔獣
奇形種の喉を完全に破壊し地面に落とすと高々と咆哮を響かせる
全員が唖然とする中、その魔獣は静希の元に駆け寄り身体をすりよせてくる
「お・・・お前フィアか!?な、なにがどうなって・・・?」
静希が触れてみるとその現象を理解した
確かにこの場にこの身体はあり、体毛も確かにある、だが一、二本毛を抜いてみるとその毛は霧散して消えてしまう
「おぉぉおぉぉ!フィアちゃん大きくなったなぁ!お姉さんびっくりしちゃったぞ!」
もふもふの身体に抱きつきながら雪奈が喜ぶのもつかの間、明利と熊田もこちらに駆け寄ってくる
「明利、熊田先輩、二人とも怪我は?」
「大丈夫、それより・・・」
「フィアはどうしたんだ?」
静希に身体をすりよせる巨大な獣は明利に撫でられると嬉しそうに喉を鳴らす
「たぶんこれがフィアの能力なんだろうな・・・ほれ」
静希が毛を抜いて全員に見せると銀の体毛は空気に溶けるように消えていく
発現系統にある分身の能力、自分と同じ身体を複数作り操作する、以前監査の先生が見せた能力、それに似た能力だろう
フィアの場合自分の体を覆うように作りだした身体を操ってあたかも自分が巨大な獣に変身したように見せかけているのだ
久しぶりに誤字報告をいただいたので複数投稿
最近誤字の報告がないから気が抜けていたのかもしれないですね
引き締めてこれからも投稿していこうと思います
これからもお楽しみいただければ幸いです