キヴォトスに転生した俺、とりあえず逃げ回る。 作:旅する野良猫
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「ハンバーガーってやっぱ最高の食べ物だと思う」
地面に胡坐をかき、アズサを上に乗せながら紙袋から取り出したキヴォトスオニオンバーガーに齧り付きながら俺はそう言う。
表面をカリカリに焼き上げ、肉厚なパティからはゴリゴリとしたスネ肉の旨味が肉汁から溢れオニオンピクルスの爽やかな酸味がそれをクドくならないように支えバンズの麦の甘みが、全てをまとめ上げた見事に調和された一品。
サイドのポテトやオニオンリングはタルタルソースやバジルディップソースが付いて提供され、一口食べればバーガーの口直しどころか新たなメインに成り代わろうとする。
そんなサイドメニューの喧嘩さえバーガーと炭酸によって掻き消す事で完成されるセットメニュー。
ジャンクフードだと言う者もいるだろうが、完璧な調和を生んでいるバーガーセットはもはや料理の一種であると思う。
「その気になれば片手で食べて、戦闘も出来る非常に手頃で優秀なご飯だと思わない、アズサ?」
ポテトにバジルソースをディップしてアズサに与える。
……鳥の雛に餌をやってるみたいでちょっとたのしいなこれ。
「確かに高カロリー高タンパク質なモノを片手間に食べれるのは非常に素晴らしいと思う。ルカ、どうせならバーガーも一口欲しい」
バーガー仲間を増やすべくアズサに食べてない部分を向けて食べさせる。
「貪欲だな……美味かったなら今度アズサの分も買ってくるぞ?」
「もぐ、んぐ。……いや、そこまでしてもらうのはルカに悪い。時々サイドやバーガーを一口貰えたら嬉しい」
「私の食う分が減るでしょうが。奢ってやるから次はアズサの分も買ってくる」
「でしたら私も一口頂いたら今度奢っていただけるのでしょうか?」
「……一口はやるけど、ハナコは私にセクハラするからやだ」
ハナコの一言に少し悩んだ末に手元のハンバーガーをずい、と差し出す。空いてる左手でオニオンリングをほおばり、はよ食えと目線を送る。
「ふふ、では戴きますね♡」
パクリ。
思ったよりも小さい口で、バーガーを口に入れる。
なんというか、普段のハナコからは想像できない可愛らしい食べ方だ。ちょっとドキッとする。
「ん♡お肉から旨味が思ったよりも溢れますね。確かに美味しいです」
一口与えたのでそのまま残りを食おうとするが、ハナコの策略に嵌ったことを悟る。ハナコが口を着けたのは俺の食べてた部分。
それもど真ん中。
「どうしたんですか♪ 残りを食べないんですか?」
そう煽られ、ハナコが確信犯であることを悟り、思わず眉が歪む。今の一言でバーガーの誰も口をつけてない部分にすることすら出来なく――いや、禁止されてしまった。このまま意に介さず食べれば後で
『そんな……まさか気にしないなんて大胆なんですね♡ この程度は当たり前ということでしょうか?』
なんて言ってハナコの行動がエスカレートするのが目に見える。
逆に意識すれば今日のハナコの官能言語レベルが上がることだろう。そうなったらコハルがずっとエ駄死しか口に出来なくなる。つまり、どっちにしろダメージは回避出来ないということ。
……そういうセクハラは俺じゃなくコハルにやってほしいが最近はもっぱら狙い撃ちだ。
「ルカちゃん!! なんで呑気にハンバーガー食べてるんですか!?」
だがそこにちょうど良い子が来た。
「次の試験で合格出来ないと本当にもう後が――モガッ!?」
「サイドでそこそこお腹膨れたから上げる。食べとかないと頭回らないし、体力も持たないぞ」
アズサを降ろしてそっと立ち上がり、お泊り用のカバンを持ったヒフミの口にバーガーの残りを突っ込む。1500円で値段以上に美味いセットが食えるのだが、定期的にテロリストが訪れる上に、ゲヘナで発掘したバーガーショップなのである。
エデン条約が近づいてピリついている今の時期、どうしたって行くのが難しいので心の中で泣き崩れる。
「とは言っても、多分今日一日は掃除で終わるなぁ……」
そういって目線を合宿の会場である建物に移す。
知識としては知ってはいたが想像してた以上に汚いというか、何というか……
本当に放置されていたんだなというのが分かる程度には汚れている。
本気で掃除してたら一日じゃ終わらないだろ。
そんなどうでもいいことを考えながら、昨日先生とナギサの元へカチコミに行った時のことを振り返る。
――――――――――――
「あら、先生。お疲れ様です。それと……」
こちらの入室に気づいたらしく、手元のチェス盤から視線を移しこちらを見据えるナギサ。
「数日ぶりですね、ルカさん」
その眼は疑心暗鬼によるものなのか若干濁った印象を受ける。が、俺を一瞥して先生を見るときには濁りは消えていた。
「補習授業部の方はいかがですか?」
「と言いつつ、話はすでに知っているでしょう、ナギサ様?」
「ふふ、ルカさんは分かりやすいですね。先生もその了見を聞きたくて来たのでしょうか?」
話しながら紅茶を口にするナギサ。だが、そこに優雅さはなくどちらかといえば狡猾なナニカを感じた。
「さて今日は先生に、お伝えしておこうと思ったことがあったのですが……」
そう言って再び俺を見て言葉を続ける。
「先生の方から何か言いたげなことがあるように見受けられますね」
「えぇ、なんであんな条件をヒフミに言ったのかと思ったので」
「……今、先生にお聞きしたのですが」
「先生が聞きたいことは粗方事前回答していまして、私が聞きたいことに答えて貰ってもよろしいでしょうか?」
ナギサの向かいに椅子を引いて座る。
「先生はルカさんの回答が合っているか分からないから来たのだと思いますが……」
「うん、そうだね。ルカが合ってるか分からなかったし、それに……」
「私一人で来てたらナギサ様は警戒するでしょう?」
先生が余計な一言を言う前に割り込んでそう問いかける。
返ってきた答えは何も言わない、沈黙。その通りだったのだろう。
まぁだからこそ、先生と一緒に来てこうしてちゃっかり席について長話をする準備を整えられた。
一人で来ていれば、サクッと要件を誤魔化されお茶菓子を咥えさせられて家に返されていたことだろう。
「それで本題なんですけど、俺以外の補習授業部員を退学ってどういうことですか?」
「はぁ……簡単なお話です。そもそも補習授業部は生徒を退学させるために作ったのですから」
裏表なく、副音声一つない只の真実で流された。
「どうしてそんなことを?」
先生が疑問の声をぽつりと漏らす。
「それはあの中に、トリニティの裏切り者がいるからです」
ナギサの言葉は重く、確信を持った様子で話を続ける。
「その裏切り者の狙いは、エデン条約締結の阻止。この言葉の意味を理解するには『エデン条約』そのものについてを、お教えする必要がありますが……」
「ルカから聞いてるよ。
『トリニティとゲヘナ間における不可侵条約』『“
「それでしたら分かるかと思います。この念願の条約が締結される直前まで来た、このタイミングで小耳にはさんだ裏切り者の存在の恐ろしさが」
そういいながらナギサはカップに口を付け、中身を飲み干してカラにする。優雅さのかけらもない行動。
「残念ながらそれが誰なのか特定するには至りませんでした。ですがその可能性の目を潰すことはできます」
席を立ち、湯を沸かし始めた。足音の響く音が部屋に反響する。
茶菓子を俺と先生の前において、お茶の準備に戻りながらナギサは話を再開しだす。
「それはいざとなった時、まとめて捨てやすいように。ルカさんであれば、お判りでしょう、それこそが『補習授業部』です。先生にはその『箱』の制作にご協力いただきました」
違う。俺が聞きたいのはそういうことじゃない。
それ以前に何故ここまでコケにするような行動をした生徒に指摘をしない?
「でも本当に利用するつもりなら、こうして今話してないよね」
ストーリーそのままな会話。
でもなにか歪な感覚が小骨が喉に引っかかったかのように残る。
「補習授業部にいる裏切り者を、探していただけませんか?」
思考の外で話は進む。
原作通り。それでいいはずなのに、気持ち悪い違和感が残り続ける。
「……もし、考えが変わったのならまたお話に来てください。それとルカさん」
たった一言。そっと耳打ちされ、違和感は確信に変わる。
「……私は貴女の味方です」
それの確信は、いずれ自分の想定をはるかに上回る未知として訪れるのではないかという、底知れぬ恐怖。
――――
――――――――
「ほらルカちゃん、コハルちゃん先行ってるんですからいきますよ?」
「ヘビィだぁ……帰りたい」
「またアズサちゃんに縛ってもらいます?」
「スイマセンデシタ、モウヒキズラナイデ」
「ふざけてないで早く原付とその無駄にデカい荷物もって行きますよ」
「無駄じゃないよロマンがつまって……」
「行きますよ?」
「ハイ」
どうしたものかと頭を回しながら原付を押して、ヒフミの後を追いかける。
合宿所として使う建物の脇に原付を止めて文字通り色々と入ったガンケースを右に、着替えの入ったキャリーケースは左で転がして、もはやツール持ち歩きようになっている学生カバンは背負って建物内へと入る。
すると丁度アズサが合宿所内を調べているところだったようで、凛々しい顔で黙々と銃身で様々な距離やら長さを目測で頭に叩き込んでいた。
「アズサ今、暇?」
「うん、今ちょうど偵察が終わったところ。運ぶの手伝おうか?」
「あー、じゃあキャリーケースだけお願いしていい?」
声を掛けたら思ったより気遣われて戸惑いつつも、左手のキャリーケースを渡す。
「分かった。命に代えても必ず守る」
「いや着替えに命を懸けるな」
まだ、初期の一面がありつつもどこかエデン条約編後のような一面を見せるアズサを見て、昨日のことを思い出す。底知れぬ未知。ちょっとした間違いで世界が崩壊する恐怖。
「……いや、少なくともまだそれが起こるのは今日じゃない」
「ルカ、何か言った?」
「なんも言ってない。早くヒフミのとこ行かないと磔にされるから行こう」
「うん」
埃っぽいエントランスの階段を上がって二階に。アズサに部屋を教えてもらいながら、みんなと寝る部屋に向かう。
どこもかしこも大した汚れこそないが埃まみれだ。
場所によってはカビまみれになっているであろうことを考えると身の毛がよだつ。
「そういえば、なんでルカのガンケースはそんなに大きいの? それじゃサイズが合わないし、とても運びづらいんじゃないか?」
俺が右手で持ってる自分でデザインしたガンケースを指さす。
合金で作られたケースには金属同士を合わせた繋ぎ目と普通ありえないであろう位置にある持ち手、謎の窪みと確かにケースとしては非合理の極みみたいな仕上がりだ。
「これはまぁ、夢とかロマンとかそういうのも詰まってるテロリスト対策のケースだからな」
「そういうものなのか」
「そういうもんなの」
そんな話をして到着。ハナコがコハルを弄って遊んでいるので少し入室しづらい。
「あれ、そういえばルカちゃんとアズサちゃんは……?」
「アズサちゃんは、先ほどまではいたのですが……まさかルカちゃんを逃がしてッ!?」
「いやちゃんといるから。ホントに帰るぞ」
「残念だけど出入口は私が塞いでる。大人しくして」
一緒だったアズサに銃口を背中にごりごりされたので大人しくする。
「偵察をしてた」
「て……偵察ですか?」
「うん。ルカが逃げた時の逃亡ルートやそのパターンに合わせた対策も考えてる。いざという時は入り口を塞いだり、防火扉を使ってルートを誘導して捕まえよう」
「え、あれ私対策用!?」
「す……素晴らしいですアズサちゃん!!」
「いやいやいやいや!? 私信用なさすぎない!?」
「いまさら何言ってんのよ。どうせそういいながらいつもみたいに逃げるんでしょ」
「コハルちゃんもこう言っているほどなので……お察しですね♡」
想像以上に俺の株価が底値を突き抜けているらしい。なんで……?
「……というわけで、あらためておさらいしようか。私たちは一次試験に落ちました。私に至っては謹慎明け一発目に何も知らずやらされた一次試験がダメだったので、この別館で合宿をすることになりました。私たちは二次試験までの一週間、ここに滞在することになります。ここまではオーケー?」
全員の顔を見てうなずくのを確認する。
「アズサのチェックを聞く限り、シャワー室も使えるし地下にある食堂施設も使えるらしい。ベッドもこことかほかの部屋にもあるから生活するうえでは特に大丈夫だろう。先生もいるしね」
そう言って目線をやると先生がサムズアップして答える。
「うん、任せて」
「とのことなので、ガンガン頼ります。部屋は男女一緒は問題なので別にしますが。そんじゃ私以外の全員の退学懸かってるし荷物置いて勉強するぞ、と言いたいところですが、それよりもまず手始めにすることがあります」
先生を含め全員が固唾を飲んで、こちらを見据え緊張した空気へと切り替わる。
ちょっと切り出すのを苦しそうにわざと溜めて、空間に張り詰めた糸が限界まで張ったタイミングを見計らって切り出す。
「掃除をします!! 埃まみれで集中できるかぁ!!!! 全員掃除できる格好して今日一日は掃除だピッカピカに磨き上げろ!!!!」
次回お掃除回か番外編です。
来年もまたゆっくり書いていきますが、お付き合いいただけますと幸いです。
いつも誤字脱字報告、感想、評価ありがとうございます!!
作者は乞食なのでいつもガソリンになってます!!
今後も頂ければ咽び泣きます。
それでは皆様良いお年を……!!