キヴォトスに転生した俺、とりあえず逃げ回る。 作:旅する野良猫
『だ、大丈夫ですか!?』
血塗れでその場にへたり込んでしまった俺を心配してか少女は顔をのぞき込もうとする。
『だいじょーぶだから、君も早く入試行きなよ。私も休憩したら行くからさ』
顔を伏せつい強がりを口にする。
入試という人生における重要なターニングポイントでもある日にカツアゲ現場を見かけ、つい首を突っ込んでボコボコにされたバカにはそんな事を言って強がる位しか思いつかなかった。
痛くてしんどくって、とても辛いのを抑えて。
心が折れて泣きそうになる気持ちを抑えて、少女が居なくなるのを待つ。
そして、不意に身体が持ち上がる。
『!?』
『同じ受験生なら放おっておけません……!! 肩を貸すので一緒に行きましょう!!』
心がとても熱くなった。本当にこんな、アニメや漫画でしか見ないようなことをされると思わなかったから。
余りにも単純な自分に振り返ると笑えてくるが、確かにあの時は嬉しかった。
きっと強がっているのも分かっていながら、それでも肩を貸してくれる顔も覚えていない女の子に救われたのを覚えてる。
好きな食べ物はなにか、合格したら入学後に一緒に美味しいもの食べに行こうとかそんな事を話して入試会場に向かった。
あぁイイ話だ。とても素晴らしい青春イベントだったと思う。
でも、コレ何が問題かってこれで向かった入試先
トリニティだったんだよね。
入試会場に着いて間に合ったって仲良く女の子と一緒に喜んで。
ええ、はい。受けましたとも。
トリニティの入試と知らずに。
受付の人からしたらホラーでしかないだろう。
トリニティを受けに来た子から学校欄ミレニアムの受験票渡されるとかさ。
まぁ、志望校書き間違えたのかなとかそんな感じで思ってくれてたら有り難いけど、ここは前世の外国のモデルが英国、なじみ深い日本で言うなら京都。そう―――――
皮肉と煽りが日常で繰り広げられる
(え、何この子。新手の嫌がらせ?)とかならまだマシ。
(マトモに学校名すら書けない知性のなさで志望しないで欲しいんだけど。トリニティの品性が疑われちゃうじゃない)位は考えるのがトリニティクオリティ。こんな思考した生徒がうようよいる学校なのだ。もしも傷だらけじゃ無かったら撃ち殺されてた可能性すらある。
少なくとも俺は入学したくなかった。だからミレニアムを受けようとしてたわけだし。
でも面白いことに
受かっちゃったんだよね。
いやまぁ、ミレニアムに行くために苦手な数学頑張ったりそこそこの成績をキープ出来る程度には努力をしてたと思うよ?
ミレニアムの入試を受けてるもんだと思ってたから当然全力を尽くしてたしね。
でも志望校と別の学校の入試を受けて何故受かってるんだろって疑問を通り越してちょっと怖くなる。
何にせよ、家に合格通知書が届いた時は驚愕した。
中身が何故かトリニティの合格通知だし、
両親は喜んでいつの間にか入学手続き済ませちゃうしで、もはや気が付いたら入学式にいたと言ってもいい。
そんな全くもって意図しない入学に驚いたのは言うまでもないことだろう。
結局その時一緒に会場まで行った子には会えていないので、ひょっとしたらあの子は落ちてしまったのかもと考えると申し訳ない。何なら、私の籍あげるから入学してくれ。こんな胃が死にそうな学校には居たくない……
入学が決まってから、両親からもぎ取った一人暮らしの権利だけでも守らねばと慌ただしく始めたお部屋探しの日々で手に入れた満足いく物件を確保して自由気ままに生活できるようになったのが唯一の救いである。
実家ではろくにドローンなんて作らせて貰えなかったし、炭酸飲料なんてもってのほか。ハンバーガーやラーメンなんて食べた日には夕食が俺だけハギスだったなんてこともある。
正直なことを言えばこのまま自分の城に引きこもって自堕落な生活を送っていたいのが本音だった。でも、ここはトリニティ総合学園。
二年生に自分の知っているティーパーティの面々が居ることからどうあがいても、エデン条約編が始まることは事実。
トリニティ生徒なら巻き込まれることは確定していた。
ならばどうにか被害を抑えられるように原作ストーリーキャラ達との接触をしないよう努めようと。
一年前のボッチ飯の最中、そう決意したのだ。
「え、えっと那賀波さん!!」
決意したと同時に呼ばれた方へ顔を向けば、一番警戒しなければならない相手。
「ルカちゃん良ければお昼……」
「人違いですぅーーーーーーーーーー!!!!」
被害を抑えるべく全速力で逃げ出した。
それはもう、お弁当も置き去って逃げた。
「な、なんでにげるんですかーーーー!?」
全身がちょっと軋む様な感覚に気付き、目が覚める。
「懐かしい夢だったのに嫌なこと思い出させんなよ……」
夢特有のごちゃごちゃとした過去のプレイバック。
ヒフミに関しては正直思い返す度に心は痛むが、絶対に絆されてはいけない。
過去に一度だけ、追いかけ続けられて、撒くことが出来ず捕まった際に、観念して一緒にファミレスへ行ったことがある。
その時はなんで私から逃げるのかとか色々聞かれて、ストーリーとかネームドとかそういうのを濁して話していたと思う。
注文した料理が丁度届いて、一息つこうとしたタイミングで砲弾が飛んできた。
後、その戦闘に巻き込まれていた正実の子も飛んできた。
結果、俺の頼んだ料理は目の前で吹き飛んで食べれなかったし、帰り道にヒフミはヘルメット団に拉致されるしで、散々な目にあったのを覚えている。
その時は泥まみれになりながらスニーキングしてヒフミの拘束解いて、スクーターをパクッて帰ったのだ。
クリーニングが間に合わず翌日はジャージで登校し、廊下ですれ違った生徒に笑われたのを覚えている。
そんなことがあってからヒフミに関わるのは命に関わると察した俺は、見つかる前に逃げ出すの繰り返しで、難を逃れてきた。
何だかんだネームドと関わらない様にしているとはいえ、一番接点があるということで、個人的に最も危険なネームドキャラになっている。
因みに、ちょくちょくヘルメット団に因縁をつけられたりもこの出来事があってからだ。
「んで、ここどこだろ?」
気が付けばベッドの上。少々体が痛むが動けるので起き上がって辺りを確認する。
消毒液など医類品特有の清潔感のある独特の香り、病院や保健室で見かけるベッドカーテン。
歴史と気品?のようななにかを感じる壁、どこからか聞こえる宇沢の声。
「あぁ、ここ救護室か……」
トリニティの保健室で、救護騎士団の活動拠点でもある一室。正面玄関口付近に位置するので、時々玄関先で揉めてると聞こえてくるらしい。
そういえば俺、ヒフミに轢かれたんだったな……あの子俺特効のなにかヤバい神秘内包してたりしない?
最近ニアミスしまくってたし異常なレベルで警戒通知スマホに来てた覚えがある。
ベッドに腰かけ、床に置かれたスリッパを履いてそっと、カーテンの先に顔を出す。
「気が付いたんですね」
カーテンから俺が顔を出すのが分かっていたかのように、真正面に微笑みながら立ってこちらを見つめる少女。
「に、逃げないですから、そんな監視してなくても……」
「ふふふ、ルカちゃんはそう言いながら逃げ出しますよね?
去年今年と健康診断から逃げ出したのまだ覚えてますからね?」
目の前にいる桜色の髪をした少女の表情は、笑っているはずなのに目が一切笑っていない。
なんならちょっと暗くよどんでるまである。怖い。
「ハイ、スイマセン」
「声が小さいですよ?」
「すいませんでしたぁ!!!!」
勢いよく頭を下げ、出来るだけ大きい声で謝罪を口にする。
「いっ……!?」
「あ、傷の直りが早いからと言って激しく動かないでください! ルカちゃん、仮にも轢かれてるんですからね?」
「はい……」
「分かったならいいです、ベッドに座ってください。包帯変えますね」
さて、俺の立ち位置を確認しよう。
前世でプレイしていたゲーム、ブルーアーカイブの世界に転生して、前世の知識を悪用されるなんてことが起きないようストーリーに極力絡まない様に逃げている。
その方法の一つとして、ネームドキャラ達から必死に距離をとるという形でストーリーに触れないよう生きてきた。
そしてそれは勿論、健康診断も含む。
健康診断には救護騎士団所属の生徒がサポートして動いている。
それならネームドと遭遇しやすい健康診断も参加しない方がいいと考え、別日に病院で行った健康診断の結果を提出している。
なんなら必要なもの以外にもちょっとお高めの精密検査も受けて提出までした。だから問題はないはずなのである……が、恐らくそれが琴線に引っかかってしまったのだろう。しょっちゅう救護騎士団のお便りプリントなどが机や下駄箱に入ってたりする程度には目を付けられている。
特に一年生の時にクラスが同じだった目の前の少女セリナには特に目をつけられている。具体的に言えば仮病で学校を休もうとした日には家庭訪問に来たことがあるくらいには信用されていない。
「はぁ……考え事をするのも良いですけど、少しは話を聞いて欲しいです。身体のこととかも聞いてるのに……いっその事ミネ団長にお願いしてみましょうか」
「話を聞かずにすいませんでした……なのでミネさんだけは勘弁して下さい……!!」
「今回は元クラスメイトのよしみで許します。が、次に同じことを繰り返すなら本当にミネ団長にお願いすることを考慮します」
そう、現状俺の目的であるネームドとの交流をしないというのは
かろうじて、俺も相手も知人位の塩梅でなんとかなっているといった状態である。
「それと、ナギサ様からお話があるそうですので、後で向かって下さい」
「……はい」
しかしたった今、ネームドと交流を持たねば殺すと世界に宣言された。
うん、まぁやっぱそうなるよねぇ……
モモフレンズのゲリラライブに参加しようとしてたヒフミに轢かれた時点でもう察してはいたが、現実を直視したくないが故に
考えないようにしていた。
そう――――
補習授業部入り確定コースである。
ものすっごく行きたくない。今までの努力が全部泡になって消え、明日から死の恐怖に怯える日々が日常になる恐ろしさはきっと誰にも分かるまい。
「定期考査をサボってたんですから自業自得です。ちゃんとお叱りを受けてきて下さいね」
人を監視して逃げられないようにしておきながらよく言う。
俺、知ってるんだぞ。時々シャーレの先生のストーキングしてるの。どうやってストーキングしてるのか分かんないけど。
「……後、私はルカちゃんの包帯を変えるために来ただけです。決してルカちゃんの監視をしていた訳ではありません。そんなストーカーじみたことしません」
「え、いや私は何も言ってない……」
「顔を見れば判るくらいには顔に書いてますよ」
「え、いやそんな……」
「ストーカーじゃ無いですよ?」
「ハイ……」
圧力に屈して大人しくする。ネームドに関わらない誓いはヒフミに轢かれたことで瓦解したのだ。まぁ、基本方針は極力関わらない方向でいくけど。
「包帯、巻き終わりましたよ。もう少し休んでても良いですけどちゃんと話は聞きに行ってくださいね? それと荷物の方はロッカーにまとめて入ってますから」
「うん、ありがと」
「それじゃ私はシャーレに向かう用事が出来ましたので失礼します」
そう言ってセリナは救護室を後にする。
とりあえず、ロッカーに入ってる自分の学生カバンと愛銃を取り出し、外に出られるようにする。
無論ティーパーティの一角、トリニティギシンアンキこと桐藤ナギサとのお話をする為だ。
本当に行きたく無いけど。
念のためカバンの中身を確認しておく。
炭酸飲料、ガムに教科書、予備用のミニドローンにゴーグルもあるし、銃弾も問題なし。
セール品のお値打ちグレネード達もヨシと……改めて思うけど女子高生のカバンの中身じゃないなこれ。
でも万が一、戦闘に巻き込まれても逃げれる程度の備えにはなってるな。
「そんじゃ行くか……」
次回ナギサ様との面談です。
今後もゆっくり書いていきますがお付き合いいただけると幸いです。
尚、作者は乞食なので評価やコメントを頂けるとなんかこう、滅茶苦茶喜びます。
前回コメント、評価くださった人ありがとうございます!
作者のガソリンになってます。