透き通った世界観にElinの民をひとつまみ   作:無名さん

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ナギサ様、ティリス民により脳破壊される

「そもそも、どうやってここを――」

 

「さて、どうしてだろうな」

 

ハナコが全部やってくれた。一体どうやってナギサのセーフハウスを全て特定した上でナギサの行動をも予測したのか見当も付かない。あの言動が無ければ本当に優秀な生徒だと手放しに賞賛したいほどだ。

 

「くっ!――どなたかいらっしゃいませんか!侵入者です!」

 

ナギサがそう声を張り上げるが意味はない。私とアズサで警備の者は既に片付けている。

 

「無駄な事はやめろ。私が何故ここに居るのかも分からん程に愚鈍ではあるまい」

 

「……なら!」

 

ナギサが逃走を図ろうとしているのか椅子から立ち上がったのを見て私はナギサに一気に近付き絞首台に括り付けた。流石に逃げられてしまったら面倒な事になる。

 

「こ、これは――!」

 

「無駄な事はやめろと忠告した筈だが?それは私の世界の拷問器具でな。それに括り付けられた者はどんな攻撃を受けようとも絶対に死ぬ事はない。まぁ、痛みはきちんと感じるから、安心してくれていいぞ」

 

まぁそんな事をすれば先生やトリニティの者達に何を言われるか分からないので拷問をするつもりは無い。しかしナギサの方はこれから行われる事を想像してしまったのか顔に怯えが現れ始めている。

 

「そう心配するな。今はまだそのような事をするつもりはない」

 

繰り返すが後になってもそのような事はしない。私個人はナギサに恨みなど無いのだ。なんだったらどちらかと言えば同情的だし、過程はどうあれ結果的にはセイアの為にも笑って過ごしてもらいたいと思っている。

 

「冥途の土産という言葉があるだろう?だから、まずは答え合わせをしてやろうと思ってな」

 

私の友人を紹介しよう。そう言って扉の向こうに合図を出し、程なく二人が入室してくる。

 

「こんばんはナギサさん♡月夜に照らされたナギサさんも良いですね。括り付けられていなければきっと絵になったでしょうね♡」

 

「シュコー……」

 

「浦和ハナコさんに、白洲アズサさん……外部だけでなく、内部にも……では、アズサさんはゲヘナの生徒という訳ですか……」

 

「――ふふっ、かわいらしいですねぇ♡」

 

「ど、どういう意味ですか……?」

 

「いえ、本当に何も情報を掴めていないのだなと改めて思っただけです♡」

 

アズサがどこから転校してきたのかすら把握しきれていないのは確かにおかしい。というより、ナギサがその程度の事すら掴めないとなると、その情報は意図的に隠されていたはず。そしてナギサにも分からない程の情報操作を可能とする影響力の持ち主など限られる。ハナコも出来そうだが、普通に考えればミカも容疑者に入るはずだ。恐らく友人だからと無意識に容疑者から外してしまっているのだろうが、それならば――

 

「ヒフミも補習授業部に入れる必要はあったのか?彼女は君と懇意にしていると聞いていたが」

 

「それは――」

 

「ハナコはまぁ正直分かる。優秀だが言動がアレだしな。そしてアズサもこの時期の転校生であり尚且つ転校前の学校は不明。疑う理由としては十分だろう」

 

しかしコハルとヒフミはどちらかと言えばとばっちりに近い。ヒフミは覆面水着団の事もあるので完全に擁護はしきれないのが困りものだが、コハルに関してはハナコ曰く、正義実現委員会に対する抑止力としての人質のようなものだと言う。そのような強硬手段を取り、尚且つコハルが退学という事態になってしまえば、正義実現委員会とティーパーティーは修復不可能なまでに関係が崩れる可能性もあり得る。そうなれば例えエデン条約が結ばれようとも、トリニティは大きく混乱する事になっていたかもしれない。視野狭窄に陥っていたからこその愚行ではあるのであまり責める事は出来ないが、決して仕方ないで済む問題では無いのも確かだ。

 

「ま、肝心のゲヘナは条約を結ぶ気は無い訳だがな。良かったなナギサ。君のおかげでヒフミはめでたく退学となり、コハルも近くトリニティを去る事になる」

 

「そんな……ヒフミさん、コハルさん……申し訳ありません……」

 

「一体どんな気分だ?自分の友人を退学に追い込み、そこまでして尚も私に全てを覆される気分は?ポップコーンがあればそれをつまみながら聞かせてもらいたいものだ」

 

「うぅ……」

 

「この世界には映画という映像を楽しむ娯楽があるのだろう?君の今までの痴態を映像に集録してキヴォトスに流せばきっと大ウケ間違い無しだ」

 

「わ、私は……私の行いは……」

 

「無意味だ。敵である私が同情する程にな。――おっとそうだ。そういえばもう一人友人が居たのをすっかり忘れてしまっていたよ」

 

そろそろヒフミを呼んで終わりとしよう。

 

「紹介しよう。私の友人である覆面水着団の首領――ファウストだ」

 

「――ぇ?」

 

そうして私の合図と共にヒフミがおずおずと入室してくる。表情が見えずとも凄く気まずそうな雰囲気を漂わせているのが分かる。そんなヒフミを見て暫く固まるナギサ。どうやら紙袋のせいか誰なのか把握しきれていないらしい。――しかし流石に服装や特徴的なバッグを見て誰なのか徐々に理解してきたようで、ナギサの顔が次第に蒼白になる。

 

「ま、まさか、うそっ……そんな……!」

 

「状況は理解できたかな?ヒフミもこちら側だ。アビドスの一件で私の事をヒフミから聞かなかったか?」

 

「聞いていました……。そしてヒフミさんが裏組織と関わりがあるのではないかとも疑ってはいました……だからこそ、私は……」

 

その時はヒフミとは一言も言葉を交わしていないので実際には何にも無い。

 

「突然現れた先生とは異なる大人がゲヘナに現れ、タイミング良くヒフミが私と関わり、タイミング良く転校生が現れ、タイミング良くハナコが奇行に走ったとでも?――ナギサ。君は補習授業部に容疑者を集めたんじゃない。集めさせられたんだ。こうして私が動きやすくする為にな。おかげで君はトリニティ内部に釘付けとなり、外に目を向ける余裕が無くなった。コハルも居たのは想定外だったが、実にやりやすかったよ。この場合はお礼をするべきかな。ありがとうナギサ」

 

「うぅ……あぁ……」

 

全くもってそのような事実は無く、全ては奇跡のような偶然の産物でありこの理屈も色々と穴があるはずだが、今のナギサであれば容易に信じるだろう。疑心暗鬼の時は悪い情報だけは信じやすくなる傾向にあるしな。

 

「――さて、そんなヒフミから伝えたい事があるそうだ」

 

「つたえ、たいこと……?」

 

既にキャパオーバーなのだろう。ナギサは涙目になりながらも表情が抜け落ち始めている。あとは一言ヒフミから添えてあげれば心を折れるはずだ。そうしてヒフミに事前に伝えておいた言葉を言うように顎で示す。これで決めてしまえ。

 

「あはは……た、楽しかった、ですよぉ……ナ、ナギサ様との、お、お、お友達、ごっこぉ……!」

 

とんでもなく声を震わせてしまっているし噛み噛みだ。どうやらこの一言だけでも相当に罪悪感を感じているようだ。しかしそんなヒフミの様子にナギサが気付く事は無く、その言葉をありのまま捉えてしまったらしく、とうとう決壊した。

 

「あ、あぁ……うあああ……!ヒフミ、さん……!ううう……!ヒフミさん……!私、えぐっ、私はぁ……ぐすっ……友達、だと……ひっぐ……」

 

ガチ泣きである。ここまでやれば充分だろう。

 

「――やりすぎですよぉ!?ここまでする必要ありましたか!?」

 

ヒフミが遂に耐え切れなくなり紙袋を取り去り私に詰め寄ってくる。正直私もやりすぎたかと今になって思い始めている。私の台詞はほとんどアドリブというか、興が乗ってしまったせいで口走った出鱈目ばかりだった。

 

「わ、私も泣かせるつもりはなかったのですが……どうしましょう、これ」

 

「シュコー……流石だ。人の心の折り方すら熟知しているんだな。でもこれはかわいそうだ」

 

ハナコとアズサすらナギサの現状に同情している。ハナコすら同情する程に追い込めたという事は最低限、いや最大限の目標を達成したという事でもある。これでナギサに対するハナコの仕返しは完了という事でいいだろう。

 

「は、早くナギサ様を降ろしてあげてください!後でちゃんと謝ってくださいね!私も謝りますから!」

 

「無論だ。アフターケアはきちんと務めさせてもらう」

 

未だすすり泣くナギサを優しく絞首台から降ろす。

 

「――きゅう」

 

絞首台から降ろした所でナギサが気絶してしまった。どうやら相当精神に負荷がかかっていたようで、絞首台で無理やり覚醒させられていただけだったようだ。――本当にやりすぎてしまったなこれ。後でしっかり謝罪とケアは怠らないようにしなければならない。

 

「ナ、ナギサ様!?大丈夫ですか!?」

 

「ただ気絶しているだけだ。絞首台のせいだな。ちょっとこれは想定外だ」

 

まぁ精神的な傷であっても絞首台はその拘束力を発揮すると分かったのは収穫だな。ともあれここに放置しておくのも不味いので、ナギサへの謝罪と説明の為にも一旦補習授業部の建物まで運ぶとしよう。

 

 

 

 

 

**********

 

 

 

 

 

ナギサを補習授業部のところへ運び、ヒフミ達は事の経緯を先生達に報告しに一旦別れ、私はナギサの看病をする事にした。決して先生から怒られたくなくて行かなかったわけではない。寝ているナギサに念の為オディナの癒しと肉体復活の魔法と精神復活の魔法をかけておく。ナギサの寝顔を眺めるが、少し目に隈が出来ている。最近はまともに眠れていないのだろう。この分だと目を覚ますのに時間がかかるかと思っていた矢先、ナギサが目を覚ました。

 

「う、うぅん……こ、ここは……?」

 

「目が覚めたか。ここは補習授業部が勉強している建物だ」

 

「――貴方は!?ではさっきのは夢じゃ、ないん、ですね……」

 

夢では無いが嘘にまみれた作り話だから気にしないで欲しい。

 

「――この際私はどうなろうと構いません。ただ、ミカさんだけは――助けてください」

 

ふむ、思ったよりも落ち着いているが、目覚めてすぐに友人の命乞いとは……。こんな良い子を泣かせてしまったのかと思うと余計に罪悪感が湧き出てしまうな……。

 

「まず、こちらから話す事がある。――すまなかった。謝罪する」

 

「――え?」

 

「君に話を聞いてもらう為に一芝居打ったのだが、少々やりすぎてしまった。泣かせるつもりはなかったのだが……」

 

「そ、それは――!でも、一芝居というのは一体……」

 

泣いた事実を指摘されたのが恥ずかしいのか少し顔を赤くするが、気を取り直してこちらに問いかけてくる。

 

「君は今疑心暗鬼に陥っている。そんな状況で情報を与えても信用されないと思ってな。いっその事一度心を砕いてから話を聞く姿勢を無理やり作ろうとしていたんだ」

 

本当はただのハナコの仕返しから始まっただけではあるのだが、私のせいで泣かせてしまった以上、私が責任を負い全て私が独断で決めた事にした方がいいだろう。

 

「心を……。確かに、あれは効きましたね……」

 

「……繰り返し謝罪する。悪かった」

 

「でも、今でも信じる事は出来ません……もし貴方のその謝罪が私を懐柔する為の手段でしかなかったら?――そうではない証明は出来ますか?」

 

「ふむ、証明は無理だな。逆に聞くが、君はヒフミ達が裏切り者であるという証明は出来るか?」

 

「……出来ません」

 

そうだな。そんな証拠があればナギサはこんな苦労はしていない。そして逆に裏切り者では無いと言う証明も無理だ。だからこそナギサは友人であるヒフミもろとも裏切り者の候補を切り捨てようとしていた。しかし、避けられた事態ではあったはずだ。

 

「ヒフミがどうして裏組織の首領になったか知っているか?ハナコは本来優秀な人材であるはずなのに、今のようなおかしな言動を取るようになったか、知っているか?」

 

「いえ、知りません……」

 

ヒフミはブラックマーケットで誘拐されそうになった時に偶然アビドスに救われ、その際にアビドスに協力する形で覆面水着団というトンチキな組織を作るに至っている。そしてヒフミがブラックマーケットにいた理由だが――

 

「ヒフミの好きな、なんと言ったか?なんとかふれんず?のペペロンナとかいうグッズを買う為だけにそんなところへ赴いたらしいぞ。なんとも気の抜ける話だが」

 

「確か、モモフレンズのペナンシェ様だったかと思います。ですが、それを隠れ蓑にして暗躍している可能性はありませんか?」

 

「あぁ、そんな名前だったか。――確かにその可能性はあるだろう。しかし、君の中でヒフミはそこまで疑うべき人物だろうか?私が見た涙を見るに、そうは思えない。泣かせた私が言うのもおかしな話だが」

 

「……」

 

「先生が言っていたよ。もっとお互いに信じる事が出来ていたら、こうはならなかったと」

 

「信じる……」

 

ハナコの事情に関しては個人的なものなのでここで開示するのは避けるが、ハナコにはハナコの事情があった。それを聞いた上で判断すれば、今ほど切羽詰まった状況にはならなかったかもしれない。

 

「ですが私は、ヒフミさん達に取り返しのつかない事を」

 

「今ならいくらでも取り返せる。まだ退学にはなっていないし、あの子達は勉学にきちんと励んでいるそうだ。試験も問題なく受かるだろう」

 

謝罪すれば補習授業部の子達は許してくれるだろう。そこまで狭量な子達ではない事は付き合いの短い私でも感じ取れる。後はそれを信じられるかどうかだが。

 

「私に信じる事が出来るのでしょうか……今でも不安なんです。貴方の事も、補習授業部の皆さんの事も……心の中でどうしても疑念が浮かんでしまって」

 

「そもそも、信じるという行為は信頼関係があって初めて生まれるものだ。少なくとも、ヒフミとナギサの間には信頼関係はあるだろう?私なんて先ほどナギサを泣かせた事を怒られてしまったよ」

 

「ヒフミさんが?」

 

「あぁ。ヒフミはナギサの意図を理解してなお、彼女は君を大切に思っている」

 

「わ、私も、ヒフミさんの事が大切です……」

 

「では後でそれを言葉にして伝えてあげてくれ。きっと喜ぶ。そうして少しずつ信用していけばいい」

 

ナギサが信用出来ないのは当然の事だ。少なくとも私とは初対面。信頼関係もクソも無い。そんな中でいきなり信用する事が出来るのは底無しの考えなしか、善人だけだ。ナギサはトリニティのトップとしての義務もある。であるならば疑う心を持つことも大切だ。ただ今回は少しばかり行き過ぎていただけ。不幸な事故だ。

 

「これからは私の事を知ってもらいたい。私も君に信用してもらえるように努めよう。ゲヘナ側である私と信頼関係を築ければ、この先のエデン条約もきっと悪いようにはならないはずだ」

 

打算的な発言だが、きっかけが打算的であろうと信頼関係が築けないという道理もないだろう。

 

「――はい。私に、貴方を信用させてください」

 

「努力しよう」

 

「そして、私の事も知って頂きたいです。よ、よろしいでしょうか……?」

 

「あぁ、教えてくれ。君の今までの頑張りを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして暫くナギサの事を教えてもらった。エデン条約を締結しようと思った理由や、それを形にするまでの軌跡も。私的な事も教えてもらった。紅茶が好きな事。アイスティーは好みでは無く温かい紅茶しか口にしないそうだ。ミカの天真爛漫な性格に振り回されて困った話や、報復としてロールケーキを口に突っ込んだ事など色々と聞かせてもらった。――ロールケーキを口に突っ込むのも中々に凄いな……ティーパーティー全員やんちゃでは?

 

「申し訳ございません、私の話ばかりしてしまって。最近はこういった時間もあまりなかったもので……」

 

「構わないさ。張り詰めた時ほど息抜きは大切だ。ティータイムと言うには紅茶が足りなかったが」

 

しかし時間はそれなりに経ってしまったのでそろそろ本題に入ろう。私の話もしてあげたかったが、それはまたの機会にしよう。

 

「これからナギサには大きく分けて二つ情報を教える必要がある。良い情報と悪い情報だ」

 

どちらから聞きたい?とは聞かない。悪い情報はミカの件についてだ。これは二人きりで話す事では無いし、順序立てて話す必要がある。なのでまずは良い情報であるセイアの生存から明かす。

 

「良い情報、ですか?想像つきませんね。なんでしょう?」

 

「少し待っててくれ。今連絡を――」

 

「その必要は無いよ。こちらから出向いたからね。なんとも気の利く女だろう?」

 

そんな台詞と共にセイアが私達の居る部屋へと入ってくる。――なんというかセイアはタイミングを見計らったように登場してくるのが好きだな。気が利くのは確かだから文句は無いのだが。

 

「――――えっ?」

 

「紹介しよう。私の友人である百合園セイアだ」

 

「――っ。そ、その言い方はちょっと心臓に悪いのでやめてください……」

 

ちょっとした悪ふざけのつもりだったのだが、ナギサには刺激が強かったみたいだ。トラウマになっていなければいいのだが……。

 

「へぇ?死んだはずの友人と会ったというのに、すぐに男の方へ意識を向けるとはね、ナギサ?息災で何よりだよ」

 

「い、いえ、そういうつもりでは……で、でもどうしてセイアさんが……ご無事だったのですか?」

 

「お陰様でね。襲撃の後は身を隠してミネに看病して貰っていたのさ。それからしばらくして彼と出会って、良くしてもらえたおかげで元気一杯さ」

 

言葉自体は穏やかなものだが、何故かセイアから不機嫌な雰囲気を感じる。これあれだ。ヒナが私を浮気認定してきた時の雰囲気と酷似している。――今回は何もしていないぞ?

 

『――これからは私の事を知ってもらいたい。私も君に信用してもらえるように努めよう』

 

「「……」」

 

何やらセイアが私の物真似をし始めた。

 

『私の事も知って頂きたいです。よ、よろしいでしょうか……?』

 

「「…………」」

 

続いてナギサの物真似をする。

 

「なんだい?この思わず砂糖を吐きたくなるような台詞は。よもや君がそこまでの節操無しとは思わなかったよ。私ですらこんな熱い言葉をかけてもらった記憶は無いのだがね」

 

ナギサは泣かせてしまった後ろめたさがあるので少しばかり優しく接しただけであって熱い言葉をかけたつもりは特に無いのだが……。

 

「ナギサ、君もだ。ちょっと口説かれたくらいで堕ちるな。ちょろすぎるだろう」

 

「く、口説かれてなんて、い、いませんよ?」

 

「堕ちたところは否定しないのだね」

 

「もう!セイアさん!からかわないでください!」

 

「まぁ君が女誑しなのは既知の事だ。今更誰を堕とそうと口うるさく言うつもりはないさ。ただ、私にもちゃんと愛の言葉を囁いて貰わねばフェアではないと思ってね」

 

あ、セイアはそこを気にしてたのか。いや愛の言葉を囁いたつもりもないが。あと女誑しでもない。ヒナもそうだったが、キヴォトスに来てからそういった事を言われる機会が増えてきてしまっている。風評被害甚だしいのでどうにかしなければならない。

 

「セ、セイアさん……もしや貴女もこのお方に……?」

 

「語るに落ちたねナギサ。貴女()とは一体どういう事かな?」

 

「こ、言葉の綾です!」

 

「ほう?では彼は譲ってもらえるね?彼とは私が先に出会っていたからね」

 

「出会った順番は関係ないと思います。それに彼とはこれから良いお付き合いを続けて信頼関係を築いていくのですから」

 

「やはりちょろすぎるね君は……」

 

ナギサはセイアと違って調教を受けたわけでもなく、人を信じる事を恐れていた。そう簡単に人に靡いたりするなら苦労はしないだろう。むしろナギサはこれから人を信じていく段階なのだからあまりからかったりするものではない。これで変に怖気づいたらどうするんだ。

 

「君は人を堕とすくせしてどうもその辺が疎いね。乙女心を舐めない方がいいよ」

 

「セ、セイアさん!」

 

「今までたった一人で奮闘していた所にさっきのような口説き文句を言われて揺らがないはずがないだろう。ナギサなんて特にちょろいのだから」

 

「これ以上言うとセイアさんにもロールケーキをぶち込みますよ!?」

 

なるほど。こんな感じでミカはロールケーキをぶち込まれたのか。図らずもティーパーティーが健在だった頃の日常が垣間見えたような気がした。

思っていた方向性とは違うが、ナギサの元気を取り戻せたようで何よりだ。




脳破壊したら恋愛脳に変わったような気が…まぁ気のせいか。
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