戦後間もなく発足し、かつては世界に驚きを与え続けたソニーが、今も苦しみ続けている。業績は回復してきたものの、国内外で圧倒的なブランド力を築いた面影は、もはやない。日本人に希望をもたらしたソニーは、どこで道を誤ったのか。長くソニーの歩みを見た経営幹部が、今だからこそ話せる赤裸々なエピソードとともに、ソニーの絶頂と凋落を振り返る。あの時、ソニーはどうすべきだったのか。
連載1回目は、現在のソニー社長兼CEO(最高経営責任者)の平井一夫氏が経営者として頭角を現すきっかけを作った人物の証言からスタート。ソニー・ミュージックエンタテインメント社長やソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)会長などを歴任した丸山茂雄氏が語る。今回はその後編(前編「ソニー社長を引き受けた平井さんは軽率だった」、中編「ソニーの使命は大賀時代で終わっていた」も合わせてお読みください)。
聞き手は日経ビジネスの宗像誠之。
1941年8月、東京都生まれ。66年早稲田大学商学部卒業後、読売広告社に入社。68年CBS・ソニー(現ソニー・ミュージックエンタテインメント)入社。88年にCBS・ソニーグループ取締役。92年にCBS・ソニーがソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)に社名変更し、SME副社長に。93年にソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)を、SMEとソニーの合弁で設立し、副社長に就任。97年にSME副会長。98年2月にSME社長に就任。1999年にSCE副会長。2000年12月にSMEJ取締役へ退く。2001年にSCE会長。2002年にSMEJを退職し、SCE取締役へ退く。2007年にSCE取締役を退任(撮影:陶山 勉、以下同)
丸山さんは、出井さんが当初、プレステには反対していたと話しました。その後、プレステが大成功する中で、出井さんとの関係は変わりましたか。
丸山氏(以下、丸山):彼については、あまり多くは語りたくないな。
言えるのは、ソニーの財務的な負担になっていた、当時の米ソニー・ピクチャーズエンタテインメント(SPE)のトップ2人をクビにしたこと。これは出井さんの功績だよ。当時、米SPEで彼らが放漫経営をしていて、ソニーの負債を増やす要因となっていた。これは書籍にもなっているから多くの人が知っている話だけれど、米SPEの経営はその米国人2人に任せっきりで、盛田さんと大賀さんも2人を気に入っていたから、それまでは改善できなかった。
その2人を出井さんが切った。これは、出井さんが10年くらいソニーを経営して、みんなから評価された功績じゃないかな。ほかの出井さんの評価は、その後のソニーを見れば言わなくても分かるでしょ。
具体的な話はできないけれど、太平洋戦争の時の日本の軍隊は、兵站がボロボロだった。そういう部分をしっかりやってないと戦いは長続きしない。大風呂敷を広げるだけじゃだめで、兵站をしっかり整えていないと戦略は進められない。日本は戦略が弱くて、全て戦術になっちゃう。ロングレンジで考えられないんだよな。
出井さんは結局、短期的に利益や株価を上げようとしていた。だからソニー社長時代の前半は調子良く見えた。「株主重視」と言われ始めた当時としては最新の経営トレンドをいち早く取り入れることに成功したよね。
出井さんが掲げた「時価総額経営」も当時の流行だったし。けれど、自分なりの価値観や軸がなかったから、戦略があったわけではなく、トレンドに乗っかるだけになってしまった。短期的には業績も株価も上がったけど、次の成長の種が見つからなくて長期的に低迷した。
それは、ソニーだけじゃないけどな。さっき言ったように、日本に軍隊があった頃から、日本人は戦略を作れない。だからほかの日本企業も似たり寄ったりだよ。最近だと東芝も同じだな。あそこはもっと極端で、短期的に利益を上げるというより、よく見せかけていただけなんだけど、そんなことをしていても、長期的には無理がきてうまくいかなくなる。そこまで見通せてなかったんだろな。
ソニーとバンダイが合併したら、もっと面白いことができる
出井さんが経営トップだった時代に掲げていた「デジタル・ドリーム・キッズ」というキャッチフレーズは、高級なおもちゃを作るというソニーの使命を継承していたようにも見えます。それが、ソニーの長期低迷に入る転換点になっていたのだとしたら歴史の皮肉ですね。
丸山:高級なおもちゃと言えば、ソニーグループを俺が離れた時期に、よくメディアの取材を受けたんだよ。するとほぼ必ず、俺は逆に記者さんに質問をしていたの。「ソニーの競合はどこだと思いますか」ってね。
そうするとみんな、パナソニックとかサムスンとか、国内外の電機大手の社名を挙げる。だから俺が言ってあげるの。「いやいや、ソニーの競合はバンダイ(現バンダイナムコホールティングス)だろ」って。
AIBOもそうだけれど、ソニーは大人が使う、高級なおもちゃを作っていたから、本質的にはバンダイと一緒なんだと俺は思っていたわけ。大人が使うか子供が使うかの違いがあるだけ、ということでね。
AIBOを売っていた時期に、バンダイも似たようなロボットのおもちゃを売っていたんだよね。ソニーのAIBOが30万円くらいだとしたら、バンダイのロボットは3万円くらいだったかな。価格は10倍も違う。見た目は同じようなロボットなのに、ブランド力やら何やらで、そんなに価格差が付いていた。それでも両社は、どちらもおもちゃを作っていて、やってることは同じだから、ソニーとバンダイは競合だと俺は個人的に思っていたの。
よく考えてみてよ。ソニーが作るものって、ほかの電機大手と違って白物家電はないし、社会インフラを担うようなものでもないし、軍事関連製品でもないよね。全て生活必需品ではなくて、やっぱりおもちゃなんだよ。それなのに、自分たちは「日本のエレクトロニクスの雄だ」と勝手に思いこんでいた。だから「京都の花札屋に負けたら格好悪いからゲーム機なんてやらない方がいい」なんていう上から目線の意見を、ソニー本体では平気で言えたわけだ。
繰り返すけれど、ソニーもおもちゃ屋なんだよ。任天堂やバンダイと同じ。だから、もしバンダイとソニーが合併したら、もっとおもしろいことができるって思っていたよ。ソニーが輝いていた時代を知っているのは今や、40代以上の人たちだけでしょ。みんな勘違いしていると思うけれど、ソニーは技術の会社じゃない。それなのに、技術の会社だと依然として思い続けているんだよね。社内の人も、社外の人も。
ソニー幹部もみんな勘違いをしていて、自分たちで「ソニーはこうあるべき」と、ずっと考えていたんだろね。だから最後は米アップルに負けたんじゃないか。
ソニーがiPhoneを作れなかったワケ
丸山:アップルのジョブズ(スティーブ・ジョブズ、アップル創業者)はソニーを尊敬して、よく研究していたから。ジョブズはソニーの本質を理解していたんだと思うよ。だってソニーはアップルに技術で負けたわけではないから。
アイデアやデザイン、ビジネスモデルで負けたわけでしょ。そういう意味では、ソニーは自分たちが何の会社なのか理解する力や、それを突き詰める力が足りなくて、元々持っていたいい部分を伸ばせなくなった。
まあ「iPhone」という凄い製品が出てくるとは、俺も全く想像もしていなかったけどさ。2001年か2002年くらいだったかな、ジョブズが日本にやってきたんだよ。俺は知り合いに頼んで、東京国際フォーラムで行われた彼のプレゼンテーションを見に行けることになった。プレゼンがうまいのなんのって。で、その時に紹介されたのが「iPod」だったかな。
ソニーも当時は、まだ似たようなことやっていたから、そこまではキャッチアップできていたんだよな。その後に引き離されちゃったな。あのiPodが携帯電話やパソコン、カメラとか、いろんな機能を統合したiPhoneになっちゃうとは思わなかったよ。
iPhoneを先に作れなくて、音楽などのコンテンツ配信のビジネスモデルも見通せなかったのだから、やっぱりソニーの完敗だった。「同じものを作れる技術は全てソニーグループの中にあった」と負け惜しみみたいなことを言ってる人がいたけど、もう遅いよな。
大賀さんは伝票を1枚ずつチェックしていた
丸山さんは、創業者世代の中では大賀さんとの接点が一番多いようです。ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)の前身である、CBS・ソニーで初めて大賀さんと出会った時の印象は。
丸山:俺がCBS・ソニーに入社して驚いたのは、大賀さんは社長なのに、経費の伝票まで見ていたことだよ。営業日報なんか信用してなくて。「伝票を見ていれば、どこからどこにタクシーで移動しているとか、電車を使っているとか、交際費はどうなっているかとか、社員の仕事が見えてくる」って言ってた。
まあ当時は100人くらいの会社だったから、そういうこともできたんだろうけど。「おかしなことをするなよ」と、大賀さんがガバナンスを効かせていたんだな。CBS・ソニーが発足して2~3年くらいの時のことで、ソニーという大会社にいたのに、CBS・ソニーに来たら中小企業のおやじのような経営をちゃんとやっていたんだ。
小さな組織の頃から、わずかな不正も許さないという風土を作った。SMEが今みたいに大きくなってもこの精神がずっと受け継がれているんだから、やはり大賀さんはすごい人なんじゃないかな。管理は厳しかったけれど、それは不正に関してだけ。伝票を見ておかしなことがなければ仕事は現場に任せていた。そのメリハリは見事だったよ。
大賀さんは音楽のことは詳しいけれど、レコード会社の現場の仕事までは知らない。盛田さんに「お前がやれ」と言われて、レコード会社のCBS・ソニーの経営を任されただけだから。それをわきまえていたことが、もう一つ、大賀さんの立派なところだろうな。カネのマネジメントはしっかりやったけれど、仕事全般については現場に任せる、と。
「ソフト分野を理解していたのは大賀さんと盛田さんだけ」
大賀さんは常々、「ソフトとハードは交わってはダメ」と考えていたと、あるソニーOBから聞きました。
丸山:笑っちゃうのは、(米映画会社を買収したけれど、その後手放した)パナソニックと比べて、「ソニーはずっと映画や音楽の会社を持ち続けていて、ソフト分野のことがよく分かっている」なんて世間で言われていることだよ。そんなことなくて、ソニーも分かっていない人がほとんど。ソフト分野の事業が何たるかを理解していた経営陣は、盛田さんと大賀さんの2人だけだよ。
ソニーがパナソニックと違ったのは、同じように米国の映画会社を買収したけれど、資本を入れていただけで、経営は基本的に現地に任せていたことだろうね。レコード会社を買っても同じやり方だった。日本法人だけは大賀さんが立ち上げたけれど、海外のレコード会社に資本を入れても、基本的には経営は任せていたんだよ。あれだけ大金をつぎ込んで買収したのに任せちゃうなんていう度胸があるのが、盛田さんや大賀さんの凄いところだよな。
同じ意味でいうとCBS・ソニーや、社名を変えたあとのSMEは、もの凄く幸せな状況にあったわけだ。ソニー本体でCBS・ソニーに関わった偉い人は大賀さんだけ。結局、CBS・ソニーの日本法人創業時に採用してくれた俺たちをとても大事にして、意見も尊重してくれた。「お前らが自由にやれ」って言ってくれたから、俺たちは気分よく仕事ができた。
だからCBS・ソニーは、SMEに社名変更した後もずっと、ハード屋が牛耳っていたソニー本社から何を言われようとも、関係なく自由にやれたの。当然、SMEの社員は「大賀大明神」って、大賀さんのことを崇めちゃうよね。ハード屋の方針なんて気にせず、SMEに社長として来た大賀さんが、全部方向性を決めて、それを俺たちが実行していたわけ。
経営トップが誰になってから、とは言わないけど、ソニーは「ハードとエンタメの融合」とか「ハードとソフトの融合」みたいなことを打ち出し始めた。けれどエンタメに強い大賀さんが言っていたのは逆。「ハードとエンタメは違う」ということ。だから大賀さんはあえて、ハードとソフトの事業は、距離を置くようにさせていたんだ。
「ハードとソフトは絶対に融合しない」
丸山:大賀さんは二枚舌を使う名人だったんだ。本質を理解していたから、「ハードとエンタメの両方が大事」と言いつつ、「融合」とは言わないし、決して2つの事業を交わらせようとはしなかった。だから、エンタメ分野の一つである音楽事業は、ハード分野の人たちのことを気にせず勝手にやってていいよ、と徹底していたんだ。
「ハードとソフトは絶対に融合できないんだから一切触らせない」っていうのが大賀さんの方針だったけれど、時代が変わって、いつの間にか「ハードとソフトの融合」みたいな、ちゃんちゃらおかしいこと言う人間がソニー本体から出始めた。
大賀さんみたいに、「現場が分からないから任せてしまう」という一番大事なことを、分かっていないんだ。それを理解できないとソフト事業は成功しないよ。
丸山さんは、大賀さんに加えて、伊庭(保、ソニーの初代CFOなどを歴任)さんのことも尊敬していると言っていました。伊庭さんとはどのような関係なのでしょうか。
丸山:さっき少し話したけど、優等生ばかりのソニー本体にいながら、乱暴なことを言う俺を許容していた珍しい人物が伊庭さんだった。俺が、伊庭さんと違う意見を乱暴に言っても、にやにや笑って見てくれる。そういう人物は、ソニー本体の中ではあの人しかいなかった。
だから俺は伊庭さんが好きだし、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE、現ソニー・インタラクティブマネジメント)を立ち上げる時には、別にやりたくなかったけれど、大賀さんに加え、伊庭さんの言うことも聞いたんだ。
俺は、盛田さんと直接、何かやり取りがあったわけじゃない。だから盛田さんの弟子ではない。けれど盛田さんの弟子だった大賀さんや伊庭さんの弟子が俺だから。そう考えると、俺は盛田さんの孫弟子みたいな位置づけかな。
そういう関係だから、ソニー創業者とはいえ、盛田さんに対する強い愛情は俺にはないわけで、冷静に見たり分析できたりするんだよね。あの輝いていたソニーとはいえ、時代が変われば凋落していくのは仕方ないじゃない、という気持ちが強くてさ。
「盛田さんがソニーでやりたかったことは、本当はこうなんじゃないですか」とか、「ソニーグループが目指すべきなのは、こっちの方向ではないですか」とか、割とあけすけに伊庭さんに意見を言っていたんだよ。
伊庭さんの意見は、俺と違うのは分かっているけど、俺は彼と異なる意見をズバリと言ってしまう。そういう俺の乱暴な意見を、本音はどう思ってるか分からないけれど、ちゃんと聞いてくれた。だから今でも伊庭さんとは仲が良好なんだよ。意見の相違はあっても、そういう付き合いをしてくれるからあの人は大物だと思う。
初めて伊庭さんにお会いしたのは、プレステを立ち上げる時だよ。「何と優秀で、さすがソニー本体の人だな」っていう感想を俺が持ったくらいだから、かなりすごい人なんだよ。今もたまに、伊庭さんのところには勝手に押しかけて話をしている。
伊庭さんは2014年11月から複数回、ソニーの経営改革の提言書などを作り、現経営陣に送っています。伊庭さんから丸山さんに、こうした活動で協力要請はないのでしょうか。
丸山:俺はソニー本体ではなく子会社にいたから、本体からは離れていた。だから昔から、ソニー本体のおかしなところはよく見えていたの。そういう立ち位置だから、伊庭さんと俺は意見が異なるんだろうね。
そこはどう言うかがものすごく難しくって。伊庭さんは、「ソニーは元々、エレキの会社としてスタートしたのに、最近のソニーはエレキらしさが消えてきている」と懸念されている。盛田正明(盛田昭夫氏の実弟で、ソニー副社長などを歴任)さんと一緒の意見でしょ。
創業時のようなソニーでなくなってきているのはなぜなのかというと、「ストリンガーや平井さんといった、エレキ軽視の経営トップが続いたからだ」というのが伊庭さんを始めとする多くのソニーOBの意見。創業時のような勢いがなくなり、いつまでも復活できない原因は、「経営トップにエレキ出身じゃない平井さんがい続けているから」っていうことになるわけ。
それが一般的に見て正しいか否かは別にして、伊庭さんたちから見れば、平井さんはソニーのトップとして「ふさわしくない」わけだ。「ソニーはエレキからスタートした会社なんだから、エレキの匂いが消えるのは許しがたい」と主張している。
でもね、俺から言わせると、それはどうかなと思うわけ。「ソニーは本当にエレキの会社としてこの先、見込みがあるんですか」って、伊庭さんの弟子としてあえて厳しいことを言ってるんだよ。
今の平井さんがどこまで深く考えてソニーの経営をしているのか、俺は知らない。けれど今のソニーの、エンタメやソフト分野へ注力する路線は、必ずしも間違っていないんだよね。
ソニーOBが盛り上がる久夛良木待望論
伊庭さんも明言はしていませんが、久夛良木さんのことを評価していて、ソニー経営トップへの“久夛良木待望論”を支持しているように思えます。伊庭さん以外のソニーOBに聞いても久夛良木さん待望論は多い。こうした声をどのように見ていますか。
丸山:もう久夛良木本人はソニー社長をやろうなんて思ってないんじゃないかな。あいつは賢いから、ネット全盛のこの時代では、いくらスーパー技術者だった久夛良木でも、「俺の知見はもう古い」と悟っているはずだよ。
エレキ出身のソニーOBたちは、とにかく今の経営トップから平井さんを降ろしたくて仕方ない。けれど、ほかに任せられる選択肢が思い浮かばないから、「じゃあ久夛良木だ」って言っているだけでしょ。
今のソニーの経営陣に文句を言ってるソニーOBたちの最大の問題点は、「じゃあ平井さんの次の社長は、誰にしたらいいと思ってるの?」っていう俺の質問に、誰も的確に答えてくれないことなんだ。
名だたるソニーOBの皆さんが言うのは、「平井さんはダメだ」ってことだけ。そう主張するOBでも「今、執行役のこの人が次期社長になるべきだ」といった具体的な候補者の名前は出てこない。全盛期を知るOBたちが評価できるような、次のソニーのトップになれる人材は、今のソニーにはいないということなんだよ。それなのに平井さんに反対するOBたちも無責任だと思うよ。
「裕福な地方のボンボン」=ソニー
振り返ると、盛田さんはエレキだけでなく、音楽や映画、金融といった事業ポートフォリオを拡大していきました。この手腕をどのように評価していますか。
丸山:パナソニックを創った松下幸之助さんと、盛田さんを比べると分かりやすいけど、盛田さんの生い立ちがソニーの多角化の背景にあると思うよ。
パナソニック創業者の松下さんは、一般的に言われているのは、裕福な家に育ったわけではなくて、電球のソケットを作って立身出世していくわけでしょ。だから今のパナソニックは電球を作っているし、生活必需品の白物家電や住宅とか、社会インフラに近い事業もやっているんだと思う。
だけどソニーは同じ電機業界の会社でありながら、テレビやオーディオみたいなデジタル家電はやっているけど、白物家電はやらない。この違いは、松下さんと盛田さんの生い立ちの違いだよ。だからパナソニックは生活に必要不可欠な必需品を作るし、ソニーは生活必需品ではなくて娯楽に近い電機製品だけを作っている。
なんでソニーがそうなったかというと、盛田さんが名古屋の田舎の酒蔵のボンボンで、派手な生活が好きだったからだろうね。オーディオが好き、カメラも好き、音楽や映画も大好きだった。
そんなハイカラな生活が好きな地方の酒蔵のボンボンが盛田さん。当時はみんな貧しかった日本で、裕福な家に生まれた人が創業者の一人だったというのがソニーなんだよ。だから盛田さんはソニーで、自分がやりたい事業を好きなようにやってきた。
盛田さんは「ソフト屋」だった
斬新なソニー論ですね。しかし、ソニーがなぜ何のシナジーもなさそうな事業ポートフォリオを持つコングロマリットになったのかという疑問に対する一つの解でもある。「一体、今のソニーは何の会社なのか」を明快に説明できる人は、社外はもちろん、ソニーの社内にもいません。
丸山:盛田さんのやってきたことを冷静に見れば、あの人はソニーをエレキの会社だとは思ってなかった節がある。だって、エレキのハード屋の会社だというなら、なんで冷蔵庫や洗濯機など白物家電を作らないのと思うよね。
技術の会社なら、重電みたいな社会インフラまで突き詰めてもいいと思うけれど、そうはならなかった。創業時は電気座布団や炊飯器といった白物家電を作ってしのいでいたのに、会社に余裕が出てくるとそこには戻らなかった。
一方で米国の映画会社や音楽会社を買い始めるわけでしょ。こんな発想はソフト分野に近い人じゃないと出てこない。ソニー創業者の井深さんがハード屋だったことは間違いない。けれど盛田さんはソフト屋だったんじゃないかと思うよね。
エレキ事業のハード屋は、工場で1円、1銭単位のコスト削減を地道にやるじゃない。ソフト屋にそんな意識はない。実際、盛田さんは買収した米国の映画会社で、放漫経営を続けていた米国人経営者たちに、自由にカネを使わせていたからね。地道にコスト削減に励む普通のハード屋から見れば、全く理解できないことやっていたわけ。
で、コンテンツにとどまらず、金融分野にまで出ていっちゃった。保険や銀行などの金融事業をやりたがったのは盛田さんだよ。盛田さんの願望を身近で聞いて、それを具体化したのが伊庭さんなんだ。
こうして見ると、ソニーのエレキ事業の利益を使って、田舎のハイカラなボンボンが、子供の頃に好きだった映画や音楽の会社を次から次へと手に入れたというのが、これまでのソニーの歴史ってことなんじゃないか。盛田さんやその親族も含めて誰もそんな説明をしたことないけどさ。
実際、今のソニーグループの事業ポートフォリオの一貫性がどこにあるのか、誰も全く理解できないから、多分そういうことなんだと思う。確固とした戦略があったり、一貫性があったりしたわけじゃなくて、単にソニー創業者の盛田さんがやりたいようにやっていただけなんだよ。だから今のソニーは何の会社か分からなくなっている。
複雑怪奇な事業ポートフォリオ、経営は誰だって難しい
創業者世代が去り、サラリーマン社長が今のような複雑な事業ポートフォリオのグループを束ねるのは大変だと思います。とても一人ではエンタメからエレキまで、理解できないはずです。
丸山:それだけ、創業者の力や思いは絶大なんだよ。意思決定のスピードも速い。創業者が死んで、社長の世代が変わってくると、創業者が元々何を考えて今のような事業ポートフォリオを作ったのかなんて分からなくなるわけだから。
時代が変わり、外部からは「ガバナンスの徹底」とか、政府からは「取締役会に社外取締役を増やせ」とか言われたりして、「株主を意識した経営」とか面倒なこともやらされる。そりゃあ社長になる準備もしてない状況で「社長やって」と言われた人が、こんな状態のソニーのトップに就いたら、いろいろ迷うよね。
ライフサイクルや特徴の違う事業ばかりで複雑怪奇、ほぼシナジーがない事業ポートフォリオのソニーグループを、足元でどう経営して、将来はどんな企業体を目指すのかなんて、誰も想像もできないよ。答えは盛田さんしか知らないんだから。
ソニーは中長期的な種まきをしてこなかった
今後のソニーグループはどういう企業体になるべきだと思いますか。
丸山:俺はもう、ソニーグループが今後、どうなっていくかなんて知ったこっちゃねえよ。こういうことを言うとハレーションが起こるだろうけれど。あえて乱暴に言うとだな、ソニーはもう「ハードの会社で、技術の会社」と言える時代は終わったんだ。
今のソニーはイメージセンサーなどが好調で、業績的には回復してきたけれど、イメージセンサーの根本は30年くらい前に岩間(和夫、元ソニー社長)さんが種まきをやってきたのが、ようやく実を結んでいるわけでしょ。そういう長期的な観点に基づいた種まきをしばらくしてこなかったし、今もやっていない。次の種を仕込んでないんだから、一時的に業績は回復するかもしれないけれど、その後、中長期でどうなるかは明白だよ。
ソニー本体の中にも、日本人にも、ソニーがまだ昔と同じという幻想を抱いている人は多い。だけど、ソニーが技術の会社だというのは絶対に違う。この先、ソニーが新しい成長フェーズに入るには、まずこの現実を、ソニー自らが自覚して、呪縛から逃れることだな。そうしたら自由な発想ができるようになって、次の展開が見えると思うよ。
ソニーは、今はもうエンタメ系の事業でユーザーを喜ばせるソフトや道具を作る会社なんだよ。昔からずっとハードを作っていたからって、今も同じだと勘違いするのは、もうやめたほうがいい。
「ソニーの製品って格好いい」と思われていた会社だったけれど、実は凄い軍事技術を持っているわけでもなく、大半はエンタメ向けの技術ばかり。だから今後はエレキではなく、エンタメ路線が中心になるのは間違いないよ。
大事なことだから最後にもう1回言うよ。ソニーの本質は高級なおもちゃ会社なんだよ。(終)
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