「変わってるね」と言われているうちに本当に予後が悪くなった


 「君は変わってるね」と言われて喜ぶ人間が憎い。奇を衒ったふるまいをしたり、あえて周囲とは逆のことを言ってみたりして、一般的な価値からズレを演出するような自称・変人が憎い。

 なぜならそいつらは「ふつう」をわかった上でそこからズレようとしているから。わたしにはどうしても「ふつう」がわからない。ずっと「ふつう」でいようとしているのに、いつもどこにも馴染めなくて集団から浮いている。あらゆる職場で「おまえは頭の病気でもあるんか?」とか「ふつうの子はこんなこと言わなくてもわかる」と怒られてきた。ことばにされなくても態度で伝わってきたりもした。発達障害も双極性障害もカミングアウトしていないのに。
 「ふつう」を理解できるというある種の特権を持っているにもかかわらず、アイデンティティづくりのためにそれを捨てられるなんて、どんな嗜好品よりもよっぽどぜいたくだ。


 たしかにわたしは昔からたくさんの人に「変わってるね」「個性的だね」と言われてきて、まあそう見えているならば仕方ないと片づけてきたけれども、30歳を目前にしていよいよ「変わってる」ことのやばさをひしひしと実感している。

 だいたいどこのバイト先でもいちばん仕事ができなくて、お荷物や腫れ物のように扱われる。マルチタスクももちろんできないし、メモを取っても同じミスばかりを繰り返すし、あとは壊滅的に空気が読めない。空気を読もうとして選んだことが空回りして逆に怒られる。
 パワハラは悪という規範ができてくれているが、正直わたしみたいな人間はパワハラを受けて当然だと思う。いっしょに働いていて不愉快な上に邪魔でしかないから。どんな人間でもムカつくことはムカつくし、それが態度に出てしまうこともあるだろう。

 居酒屋、ラーメン屋、ファストフード店、いろいろなオペレーションの店舗でバイトをしてきたけれども、結末はいつも同じ。どうしたってわたしは他人を悩ませてしまう。
 飲食店に向いていないだけなのではと思い、出版社、デザイン会社、ジュエリー販売店に雇ってもらったが、出版社は双極性障害の悪化により4ヶ月で退職、デザイン会社は3日でクビ、ジュエリー販売店はパワハラというほどでもないが複数の社員から高圧的な態度を取られがちになり、じんましんが止まらなくなって2ヶ月で退職。


 いちばん続いたのはコンカフェ。いろいろな不運というか不可抗力が重なって在籍の店舗が閉店することが多かったが、トータルで6年ほどつづけられた。
 しかしそれもお情けのようなもので、コンカフェなんてまあ人間性がどうしようもない若い女性がたくさん働きにくるし、彼女たちはちょっと気に食わないことがあるとすぐに辞めていく。ある程度の良識さえあれば経営者から嫌われても後輩には慕ってもらえる。それぐらいおしまいの人間がたくさんいる業界だ。そしてキャストの定着率はどの店舗もそんなに高くないので、経営者もそう簡単にはクビにしない。

 そうこうしているうちに重鎮になってしまって、誰にもおかしさを指摘されないままわたしは狂っていった。6年間働いたが今でも連絡を取り合っているキャストは2人。その2人がいてくれるだけでも本当にありがたい。しかしまわりのキャストを見ていると、退勤後にそのまま飲みに行ったりプライベートでも遊びに行ったりしていて、わたしにはそういうことがいっさいなかった。
 なんとなく全員からうっすら距離を置かれていることは肌感覚でわかっていた。しかし生きていくためにお金は必要で、一定数のお客さんがついて応援してくれていたおかげで6年つづけることができた。

 そして、もう年齢もコンカフェ世代ではないし、在籍していた店が風営法違反をしていたため摘発で現行犯逮捕をされたこともあり、去年の秋ごろに業界ごと辞めた。


 いまはスナックとバーで働いている。しかしここでもやはり業務がうまくこなせない。接客はできるけれども、逆に言えば接客以外は何もできない。
 いくら障害年金をいただいていても、さすがに週3~4の夜だけのバイトでは生活ができない。何かバイトを探さないといけない。フルタイムで働くと双極性障害で頭がおかしくなるということはいい加減に理解した。しかしパートタイムで働ける求人のほとんどは飲食店か資格系である。資格なんて英検2級と漢検2級しかない。これが何になるというのか。

 美大卒などというなかなか役に立つことのない学歴だけはあるが、絵の求人などそんなに多くもない。そもそもべつに絵は上手くもないので、儲かるような流行りの絵柄に寄せて描けるほどの能力はない。デザインもこれに同じ。
 美大を卒業したところでろくな働き口がないことなんて、美大を志望した時点でわかりきっていた。それでも親の教育虐待と学歴エリート主義から逃げるためには美大に行くしかなかった。わたしの人生においてわたしが主導権を握るためにはそれしかなかったと思うので、後悔はしていない。

 ようやく絵画教室の講師の求人を見つけて採用してもらったのに、企業と連絡が取れなくなった。これはおそらく運悪く飛ばれているだけなので、わたしに非があるわけではないと思いたい。
 個人でデザインやイラストの仕事を細々としているけれども、デザイン会社で顧客とのコネクションを作ったわけでもないので規模は小さく、わたしの創作物への需要もいつだってあるわけではなくて波がある。こちらの収入はあまり当てにしてはならない。


 まあ何が言いたいのかというと、人間としての能力の欠如で生活が困窮しているということだ。

 こんなことになっている要因にはもちろん発達障害や双極性障害が大きくかかわっているのだろうが、きっとわたしの人間性のところにもかなり問題があるのだろう。いやもう障害と人格がかなり癒着しているのでどこからどこまでというのもわからない。ただ自分が「変わっている」ことだけはわかる。
 わたしに「変わってるね」と言ってきた人たちが、障害のことを察していたのか、人間性の問題を忠告してくれていたのか、はたまたどちらのことも含めて言っていたのかはわからないけれども、まあそんなことはどうでもいい。わたしはどうがんばっても「ふつう」にはなれないらしい。「変わってるね」と言われているうちに本当に予後が悪くなった。


 バカデカい愛というアカウントをフォローしている約8000人の中には、そういう「変わっている」ところを魅力に感じてくれている人もいるのだろう。そうやってコンテンツとして楽しんでくれるぶんにはぜんぜんかまわないし、むしろ善意に支えてもらってばかりで申し訳ない。本当にありがとね。
 でも現状はそれだけで暮らしていけるわけではない。バーを間借り営業させてもらうとお金を払って会いにきてくれるフォロワーも、鬱の時期にほしい物リストで支援してくれるフォロワーも、たくさんいるけれどそれだけでは生活は成り立たない。


 じつはいま自分の店を持つことを目標にしているところで、年明けごろにはクラウドファウンディングをする予定があって、来年のうちにはどうにかするつもりで動いている。どこでもうまく働けないならば、うまく働ける場所を自分でつくるしかないのだ。
 いわばこれは最終手段のようなもので、正社員もだめ、フリーターもだめとなったら個人事業主しか残されていないのだ。いまはそれでうまくいく可能性に期待することができるのでそれが救いではあるが、じゃあこれでうまくいかなかったらどうするんだという話で、そのときはいよいよ死ぬしかないんじゃないかと思う。

 希死念慮とはまったくべつのところで、現実的な選択肢として「死」が出てきた。先の不安について考えてもしかたがないとはいえ、いずれ向き合うことになる問題ではある。


 どうしてこんなことになってしまったのだろうと考える。でも、人生のどこをどう切り取っても現在のようになっている未来が見えてしまう。きっと生まれたときからこうなることは決まっていたような気がする。どこかで分岐していてもけっきょくはここに回収されていたのだろう。

 そう思うともう何をしてもいいような気にもなる。無敵の人のような方面に行くつもりはないが、いまさら「ふつう」に生きていくこともできないだろうから、「ふつう」じゃないなりに幸せに生きていく方法を探していくしかない。というか、正直もはや幸せだとか理想だとかがどうでもよくなっている。死なないかぎりつづいてしまう生活にしがみついているだけだ。がんばって死のうとしても完遂するのはかなり難しい。ただの惰性と消化試合で、60年後に実存から解放されてすべてが終わるのを待つのみ。


 いまのわたしに希望がないわけではない。自分の店を出すという当面の目標はある。だからと言って未来が明るく見えているわけでもない。でも、予後が悪いなりにやっていくしかない。
 いまさらになって「変わっているね」の重みに気づいたところで過去は変えられないので、生活をつづけていく。ただそうすることしかできない。






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