F特グラフ(音圧周波数特性グラフ)の読み方と評価方法~詳細ガイド〜ポタオデ求道者に向けて
はじめに
この記事では、イヤホンやヘッドホンの性能を知るうえで大切な「音圧周波数特性(Frequency Response)」いわゆるF特性グラフ、F特グラフについて、グラフの読み方から、音の聞こえ方との関係、そしてその技術的な背景まで、詳しく解説していきます。
本稿はGoogleのGemini2.5Pro(AI)を利用し、西野績葉(せきよぅ)が加筆修正したものです。
音響について学んでいる方や、とくに、深い知識を求めているオーディオファンの方々に向けて、より一歩進んだ理解を目指す内容となっています。
イヤホンのF特性グラフを見れるサイトは、squig.linkなどがあります。
Squiglink - IEM frequency response database by Super* Review
さらにイヤホンの大御所レビュアーであったCrinaleの存在があります。
以下の記事を本稿の前に、まず日本語に翻訳して読んでみることをおすすめします。
グラフ101:ヘッドフォンの測定値の読み方
Graphs 101: How to Read Headphone Measurements – In-Ear Fidelity
また、耳道内の閉塞共鳴については、以下のサイトを参考にしました。
音茶楽Sound Customizeのテクノロジー | ヘッドホン音質革命/音茶楽 Sound Customize
https://ocharaku.jp/sound/technology-1/
「フラットな音が実際にはフラットなグラフではないこと」「フラットの定義」「自由音場補正 (Free-Field Equalization)」については、以下のサイトも参考にしました。
Sandal Audio: フラットな音色のヘッドホンとは?
https://sandalaudio.blogspot.com/2015/11/blog-post.html
1. 音圧周波数特性とは?:定義と意義を深く知る
音圧周波数特性とは、音響機器が入力された電気信号に対して、それぞれの周波数の音をどれくらいの大きさ(音圧)で再生できるかを示す物理的な特性のことです。
これは、音響トランスデューサ(電気信号を音の信号に変換する部品)が持つ、基本的な変換効率を周波数の関数として表したもの、と考えることができます。
具体的には、まず基準となる一定電圧のテスト信号(正弦波)を用意し、その周波数を人間の可聴域(通常20Hz~20kHz)で滑らかに変化させながらイヤホンに入力します。そのとき、イヤホンから出てくる音の大きさを、専用の測定機材(音響カプラやダミーヘッドなど)に搭載されたマイクで周波数ごとに記録し、グラフにしたものが「音圧周波数特性グラフ」、通称「F特グラフ」です。
この特性は、再生される音の音色(Timbre)のバランスを決める、最も基本的な要素の一つです。例えば、グラフの左側(低域)が高ければ、そのイヤホンは豊かで力強い低音を再生する傾向があり、右側(高域)が高ければ、明るくハッキリとした高音を持つ、と推測できます。
理論上は、グラフがフラット(平坦)であれば、入力された信号の周波数バランスを忠実に再現していることになります。しかし、それが必ずしも人間にとって自然で心地よい音に聞こえるとは限りません(詳しくは後の「ターゲットカーブ」や「等ラウドネス曲線」の章で解説します)。
このグラフには、イヤホンの設計思想(特定の音楽ジャンルに合わせたチューニングか、モニター用途の原音忠実再生かなど)や、搭載されているドライバーの種類(ダイナミック型、BA型など)、ハウジングの構造といった、製品の音響的な個性が客観的なデータとして色濃く反映されています。そのため、そのイヤホンの音の性格を理解するための、非常に重要な手がかりになるのです。
2. 音圧周波数特性グラフの基本構造:詳細解説
一般的な音圧周波数特性グラフは、横軸に周波数、縦軸に音圧レベルをとったグラフで、主に以下の要素で構成されています。
横軸(X軸):周波数 (Frequency, Hz)
通常、人間の耳が聞き取れるとされる約20Hzから20kHzの範囲を対数スケール(Logarithmic Scale)で表示します。対数スケールを使うのは、人間の聴覚が周波数の差(例:100Hzと200Hzの差)よりも周波数の比率(例:1オクターブ上がると周波数が2倍になる関係)を同じような音程の変化として認識するためです。このスケールのおかげで、低域から高域まで、グラフ上でバランス良く特性を読み取ることができます。
超低域 (Sub-bass, 20Hz~60Hz程度): 地鳴りのような深みや、映画の爆発シーンでの衝撃、パイプオルガンの最も低い音など、体で振動を感じるような音域です。この帯域の再生能力は、高性能なイヤホンやスピーカーで特に重視されます。
低域 (Bass, 60Hz~250Hz程度): ベースギターやバスドラムといったリズムの土台、チェロやコントラバスの豊かな響き、男性ボーカルの低い部分など、音楽の力強さや厚みを支える帯域です。ここが不足すると音が軽く薄っぺらに聞こえ、逆に多すぎると「ブーミー」な音になり他の音域を邪魔してしまいます。
中低域 (Lower Midrange, 250Hz~500Hz程度): スネアドラムの胴鳴り、ギターの低音弦、ボーカルの厚みや暖かみに関わる部分です。この帯域が多すぎると音がこもって聞こえ、不足すると音が痩せて冷たい印象になります。
中域 (Midrange, 500Hz~2kHz程度): 人の声の最も基本的な部分や、ピアノ、ギター、バイオリンなど多くの楽器の主要な音が含まれる、非常に重要な帯域です。音の明瞭さや存在感、質感を大きく左右し、ここが適切に再生されるとボーカルや楽器の音がリアルに感じられます。
中高域 (Upper Midrange, 2kHz~4kHz程度): ボーカルの子音のハッキリ具合、楽器のアタック感(音の立ち上がりの鋭さ)など、音の輪郭や鮮明さを決定づけます。人の耳が最も敏感に反応する帯域の一つでもあり(理由は後述します)、少し持ち上がっていると音が前に出て聞こえますが、強調しすぎると刺激的で耳障りな音(ハーシュネス)の原因になります。
高域 (Treble, 4kHz~10kHz程度): シンバルやハイハットの金属的な響き、弦楽器の倍音、ボーカルの息づかいなど、音の明るさ、きらびやかさ、空気感を担当します。特に6kHz~8kHzあたりは、サ行の音が耳に刺さるように聞こえる「歯擦音(シビランス)」が出やすい帯域です。
超高域 (Upper Treble/Air, 10kHz~20kHz程度): 音の繊細さや空間の広がり、録音現場の微細な響きなど、いわゆる「空気感」や「抜けの良さ」に貢献します。ハイレゾ音源のディテールを表現する上で重要ですが、年齢と共に聞こえにくくなりやすい帯域でもあります。
縦軸(Y軸):音圧レベル (Sound Pressure Level, dB SPL)
音の大きさを「デシベル(dB)」という単位で表します。基準となる「0dB」は、健康な若者が1kHzの音をやっと聞き取れるくらいの非常に小さな音圧(20マイクロパスカル)と国際的に定められています。
グラフを見る上で大切なのは、全体の高さ(例:平均80dBか90dBか)よりも、周波数ごとの相対的なレベル差、つまりグラフの線の形です。仮にあるイヤホンが別のイヤホンより全体的に10dB大きな音を出したとしても、グラフの形が同じであれば、音色のバランスは(理想的には)同じになります。
プロット(実線または点線):
これがイヤホンを実際に測定した結果を示す曲線です。この線のデコボコ(ピークやディップ)や全体的な傾きが、そのイヤホンの音の個性を具体的に示しています。
測定は、IEC 60318-4(通称 IEC 711)といった国際規格に準拠した、人間の耳の音響特性を模した専用の機材(イヤシミュレータ)を使って行われます。これにより、誰が測定してもある程度一貫したデータが得られるようになっています。ただし、イヤホンの装着具合(深さや密閉度)によっても結果は変わりやすいため、異なるサイトのデータを比較する際は注意が必要です。
3. 周波数特性の解釈と音響心理学的考察:より深く
注記: 以下の各周波数帯域が持つ聴感上の印象についての解説は、著名なレビュアーであるCrinacle氏の優れたガイド記事「Graph 101: How to Read Headphone Measurements」で述べられている解釈を参考にしつつ、西野績葉(せきよぅ)が加筆して記述しています。
音圧周波数特性グラフのパターンは、私たちが実際に音を聴いたときの印象と深く結びついています。ここでは、各帯域の特性について、もう少し詳しく見ていきましょう。
低域特性 (20Hz - 250Hz):
強調されている場合: 量感や迫力が増し、特にポップス、ロック、EDMといったジャンルでは心地よく感じられることが多いです。バスドラムのキックが「お腹に響く」ような感覚や、ベースラインが「うねる」ような表現が得られます。しかし、やりすぎ(特に100Hz~200Hz付近の膨らみ)は「ブーミー」と呼ばれ、音がぼやけてしまい、中域のボーカルなどを覆い隠してしまう(マスキング効果)原因になります。
フラットに近い場合: 原音のバランスに近く、自然で引き締まった低域になります。アコースティック楽器の質感や、クラシック音楽でのコントラバスの自然な響きなどを大切にしたい場合に適しています。
減衰している場合: タイトですっきりとした、スピード感のある低音に感じられることがあります。ただし、あまりに不足すると音楽全体の土台が失われ、迫力のない「軽い」音になってしまいます。
中域特性 (250Hz - 4kHz):
フラットに近い場合: 最も自然でバランスの取れた音色とされ、ボーカルや楽器の質感が忠実に再現されます。声の自然な暖かみや、ピアノの豊かな響き、弦楽器の繊細なニュアンスなどが正確に伝わります。
ディップ(谷)がある場合: 特定の音域が引っ込んで聞こえ、明瞭さや存在感が失われます。
500Hz~1kHz付近のディップ: ボーカルが少し遠くに聞こえたり、スネアドラムのアタックが弱く感じられたりします。いわゆる「ドンシャリ」サウンドのイヤホンでは、意図的にこの帯域が抑えられていることがあります。
2kHz~4kHz付近のディップ: 音の鮮明さや輪郭が失われ、全体的に少しこもった、あるいは元気のない音に感じられることがあります。
ピーク(山)がある場合: 特定の音域が強調され、前に出すぎて聞こえることがあります。
1kHz~2kHz付近のピーク: ボーカルが少し硬い質感になったり、トランペットのような楽器が耳障りに感じられたりすることがあります。「電話のような音」と表現されることもあります。
2kHz~4kHzのピーク: 音を明瞭にし、細部を際立たせる効果がありますが、強すぎると非常に刺激的で攻撃的な音(ハーシュネス)になり、長時間のリスニングでは疲れやすくなります。
高域特性 (4kHz - 20kHz):
滑らかに伸びている場合: クリアで伸びやかな高音、良好な空気感やディテールの表現につながり、音の広がり(音場)も広く感じられることが多いです。シンバルの余韻が美しく伸び、弦楽器の豊かな倍音が心地よく響きます。
ピークがある場合:
6kHz~10kHz付近のピーク: 歯擦音(シビランス)を過度に強調し、ボーカルの「サ行」や「ts」の音が耳に突き刺さるように聞こえる原因になります。
早い段階で減衰している場合 (ロールオフ): 高域が抑えられ、全体的にマイルドで聴き疲れしにくい音質になります。しかし、極端すぎると音の抜けが悪くこもった印象になり、音楽の持つ輝きや空気感が失われてしまいます。
4. ターゲットカーブ(目標応答曲線)の深掘り
多くのF特グラフには、測定されたグラフとは別に、もう一本の「ターゲットカーブ」と呼ばれる線が描かれています。これは、多くの人が「心地よい」と感じるであろう、いわば「理想の周波数特性」の目標を示すものです。なぜなら、前述の通り、物理的にフラットな特性が必ずしも人間にとって最高の音とは限らないからです。
自由音場補正 (Free-Field Equalization): 正面に置いたスピーカーから出る音を、ヘッドホンで聴いたときに再現しよう、という考え方の一つです。無響室で正面に置いたスピーカーから出る音を聴いたとき、鼓膜に届く音の特性を目標とします。
拡散音場補正 (Diffuse-Field Equalization): 自由音場補正とはちがい、前方だけでなく四方八方から均等に音がやってくる空間(コンサートホールの客席など)での音の聞こえ方を目標とするものです。より自然な音の広がりを目指しています。
ハーマンターゲット (Harman Target): 近年、特にイヤホン・ヘッドホンの世界で非常に大きな影響力を持つターゲットカーブです。Harman社の研究者たちが、多くの人への聴感テストを繰り返すことで統計的に導き出した「多くの人が好む音のバランス」を示しています。一般的に、低域は少し持ち上げられ、高域は自然に減衰する形をしています。
独自ターゲット: メーカーや著名なレビュアーが、独自の哲学や経験に基づいて設定する目標カーブです。
ターゲットカーブの意義と限界:
測定されたグラフがターゲットカーブにどれだけ近いかは、そのイヤホンの音質傾向を知る上でとても参考になります。しかし、これはあくまで「平均的な好み」や「一つの目標」であり、絶対的な正解ではありません。最終的にどんな音を良いと感じるかは、個人の好みや聴く音楽によって大きく変わるからです。
5. コミュニティにおける測定データの役割と影響力のあるレビュアー
近年、個人でも高精度な測定ができるようになり、熱心なオーディオファンやレビュアーが中心となって、膨大な測定データベースが作られるようになりました。その代表格が、レビュアーであるCrinacle氏です。彼は数千ものイヤホン・ヘッドホンを同じ環境で厳密に測定し、そのデータをウェブサイトで公開しています。
彼が収集したデータは、「squig.link」のような比較サイトの基盤となっており、世界中のオーディオファンが製品を選ぶ際の重要な参考情報となっています。こうした第三者による客観的なデータは、メーカーの宣伝文句とは違う視点から製品を評価する上で、非常に大きな役割を果たしています。
6. カナル型イヤホン特有の音響現象:閉管共鳴の詳説
カナル型イヤホンを耳に装着すると、イヤホンと耳の穴(外耳道)によって作られる空間で、特定の音域が共鳴して大きく聞こえる現象が起こります。とりあえずは「耳道内を閉塞した場合の閉管共鳴、耳道閉塞共鳴」と呼びます。
物理的なメカニズム:
イヤホンで耳の穴を塞ぐと、外耳道は一方が鼓膜で閉じられ、もう一方をイヤホンが塞ぐ「閉じた管」のような状態になります。
管の長さによって特定の周波数が共鳴する現象(理科の授業で習う気柱の共鳴と同じ原理)が起こります。この共鳴周波数は、外耳道の長さやイヤホンの挿入深度によって人それぞれ異なりますが、一般的には5kHz~8kHz付近に鋭いピーク(山)として現れることが多いです。
閉塞共鳴(共振)の聴感への影響:
この共鳴によるピークは、高音域の特定の周波数を不自然に強調し、シンバルや女性ボーカルなどが「刺さる」ように聞こえる原因となります。
この共鳴によるピークによって、中音域の情報が相対的に目立たなくなり、感じにくくなります。
F特グラフに現れる8KHz付近のピーク:
IEC 60318-4(通称 IEC 711)国際規格に準拠した、人間の耳の音響特性を模した専用の機材(イヤシミュレータ)を使って測定した多くのグラフでは、8KHzあたりに大きなピークが現れます。このピークは測定機材の「カプラー」の内部での共振によるもの。カプラーでは耳とは違った周波数でピークが現れるために生じているもので、実際の耳では、個々人の耳で異なりますが、5~7KHzでの周波数でピークとなって現れる場合が多いです。
IEC 711という国際標準やG43AG(GRAS社の耳と頬のシミュレータ)を使わずB&K 5128 (B&K 4620)など考え方が違った設計の機材を使うと、おそらくこの8KHzのピークは消えるのだと思いますが(使ったこともないので未確証)、イヤホン側で特別な対策をしていなければ、人間の耳では依然として共振が現れます。グラフがどういった測定条件なのか確認することが重要です。
パラメトリックイコライザー(Parametric EQ)によるパーソナライズされた補正:
この問題を解決するために非常に有効なのが、パラメトリックEQです。これは、特定の周波数をピンポイントで狙い撃ちし、その音量と影響範囲(Q値)を細かく調整できるイコライザーです。
補正には個人差が重要:
共鳴が起こる周波数は、耳の穴の長さや形、イヤホンの着け心地によって人それぞれ全く違います。Aさんにとっての補正ポイントが6kHzでも、Bさんにとっては8kHzかもしれません。他人の設定を真似しても効果がないどころか、かえってバランスを崩してしまうこともあります。
共振周波数の特定とEQ調整の方法:
準備: パラメトリックEQが使えるアプリやソフトを用意します。
周波数の特定: トーンジェネレーター(特定の周波数の音を出すツール)を使い、必ず小さな音量で、1kHz~15kHz付近まで、周波数を変化させながら音を再生します。その中で、ひときわ音が大きく、耳に鋭く聞こえる周波数があれば、それがあなたの共鳴周波数の可能性が高いです。
EQ設定: 見つけた周波数を中心に、パラメトリックEQでゲインを-3dB~-10dB程度下げ、Q値(影響範囲)を2.0~6.0くらいに設定して、ピークをなだらかにします。
微調整: 実際に音楽を聴きながら、刺さる音が和らぎ、かつ不自然にならないようにゲインやQ値を微調整します。
脚注:トーンジェネレーターには以下のサイトが便利です。
7. F特グラフに現れにくい要素:オーディオケーブルの影響
音圧周波数特性は音質を知る上で重要ですが、それだけでは説明できないとされる現象もあります。その代表例が、オーディオケーブルによる音質変化です。これはオーディオの世界で長く議論されているテーマです。
ケーブルの電気的特性とF特への影響:
ケーブルには「抵抗」「静電容量」「インダクタンス」という電気的な特性があり、理論上はこれらが音に影響します。
しかし、イヤホンで使われる程度の長さのケーブルでは、これらの影響は非常に小さく、一般的なF特測定では、ケーブルによる違いはほとんど、あるいは全く検出されません。
測定と聴感のズレ、そして未解明な領域:
測定では差が出ないにもかかわらず、多くの人がケーブルを交換することで「解像度が上がった」「音場が広がった」といった変化を感じています。この「測定結果と聴感のズレ」が、ケーブルの議論を面白く、そして複雑にしています。
この変化を説明するために、導体の材質(銅、銀など)や純度、ノイズ対策のシールド性能など、様々な要因が挙げられますが、多くは科学的なコンセンサスが得られておらず、理論的な背景がまだ乏しいのが現状です。
ケーブルによる音質変化は、F特グラフという一つの指標では捉えきれない、非常に複雑な現象と言えます。プラセボ効果(思い込み)の可能性も指摘されていますが、多くの人が体験的に感じているのも事実であり、オーディオの奥深さを示す一つのテーマであり続けています。
8. 音響心理学からの補足:等ラウドネス曲線の詳細
F特グラフを正しく解釈するためには、人間の聴覚そのものが持つユニークな特性を理解しておくことも大切です。その代表が「等ラウドネス曲線」です。
等ラウドネス曲線の定義と意義:
人間の耳は、物理的に同じ音の大きさ(音圧)でも、周波数によって聞こえる「音量感(ラウドネス)」が異なります。等ラウドネス曲線とは、「どの周波数なら、何dBの大きさで再生すれば、基準の音(1kHz)と同じ音量感に聞こえるか」を調べ、線で結んだものです。
現在、国際的な標準としてISO 226:2003が広く参照されています。
この曲線から、主に以下のことが分かります。
人間の耳は中音域(特に2kHz~5kHzあたり)の感度が最も高い。
低音域と高音域では感度が低くなる。つまり、同じ音圧でも低音や高音は小さく聞こえます。
この感度差は、音量が小さいときほど顕著になります。小さな音量で音楽を聴くと、低音と高音が聞こえにくく感じるのはこのためです。
F特グラフとの関係:
この特性があるため、物理的に(理想的なターゲットカーブで)フラットに聴こえるF特を持つイヤホンでも、特に小さな音量で聴くと、低音と高音が物足りなく感じられることがあります。
逆に、大きな音量で聴くと、耳の感度差が小さくなるため、同じイヤホンでも低音や高音がしっかり聞こえるようになります。
そのため、イヤホンを評価・試聴する際は、自分が普段音楽を聴くのと同じくらいの音量で行うことが非常に重要です。
9. 結論と展望:音質を総合的に理解するために
音圧周波数特性グラフは、イヤホンの基本的な音の性能や音色の傾向を客観的に知るための、非常に強力で不可欠なツールです。しかし、これが音質の全てではない、という点も忘れてはいけません。
より深く音質を評価するためには、
過渡特性(Transient Response): 音の立ち上がりの速さ、キレの良さ。
歪み特性(Distortion): 音の濁りや粗さのなさ。
位相特性(Phase): 音像の定位や自然さ。
左右の特性の一致度(Channel Matching): ステレオイメージの安定性。
筐体の材質差。
振動板のコーティングの有無や素材や種類。
スピーカーならば部屋の広さや材質や反響。
など、F特グラフには直接現れない多くの要素を総合的に考慮する必要があります。
最終的に、音の評価は主観的な印象に大きく左右されます。F特グラフのような客観的なデータを理解することは、その主観的な感想に「なぜそう聞こえるのか」という根拠を与え、より深く、的確に音を語るための土台となってくれます。
この記事が、音圧周波数特性への理解を深め、皆さんがより高度なオーディオの世界を探求していくための一助となれば幸いです。
おわりに
本稿はGemini 2.5 ProモデルのLLM(AI)の支援を受けつつ、イヤホンやポタオデの世界で、少しでも役に立つ基礎的な情報を提示できれば、という視点で、F特グラフの読み方から、どういった意味を持っているかなど、なるべく妥当であるよう、また多くの人が読めるような文体での記述を心がけました。
F特グラフって何なの?という質問を分野外の友人から受けたことが本稿を書くきっかけになっていますが、本稿を執筆するのに実は1年以上かかっています。
特に耳の共鳴(共振)の部分はなんとしても書きたかった部分です。
私も普段はパラメトリックEQなど使わず聴いていますが、PEQでの共振つぶしをやるとやらないとで音楽の情報のつかみやすさは格段に違いますし、耳障りさの多くの部分は耳道内の閉塞共鳴によるところが大きいと思います。
結果、グラフを見る方法だけでなく、包括的な解説になることができていれば幸いです。
本稿を作成するために友人からも下読みをしてもらったりと、支援を受けました。大変感謝しております。
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