BLUE ARCHIVE -SONG OF CORAL- 作:Soburero
A.そうしないと……ッ、レイヴンは自分が戦えるって……ッ、気づかせられなかったんですぅ……ッ!神秘的なサムシングということで……ッ、何卒……ッ!
『イッタッ!なにすんのよ!!』
バババババババッ!!!
『怯むな!!撃ち返せぇ!!』
ズガガガガガッ!!
『ドローン展開、火力支援、行くよ。』
ドカーン!!
『クソッ!あのドローンからやれェ!!』
ドドドドドドッ!!!
『させませんよー!』
バアアアアアァァァン!!!
『グアアァアッッ!!』
(……話は聞かされていましたが、実際に目にすると……。)
(……異様な光景だ……。俺の知ってる戦場じゃない……。)
飛び交う銃弾と怒声。着弾するたび飛び散る瓦礫と火花。
確かに戦場の様相を呈してはいるのだが、肉や骨どころか血の1滴も飛び散っていないことが、余計に俺を混乱させる。
(……とにかく、仕事に集中しよう。)
(……そうしましょうか、レイヴン。)
気になることが多すぎて頭痛がするが、今は戦闘に集中する。
ライフルのハンドガードを窓枠に押し付け、スコープのクロスヘアをヘルメットよりわずかに下に合わせ、ゆっくりと引き金を引く。
バァン!
『グアッ!?クソッ狙撃だ!』
『校舎のほうにいるぞ!!』
ババババッ!!
ガガガガガッ!!
(チッ、撃ち返してきたか。気づかないと思ってたんだが。)
直撃したようだが、相手は少し怯んだ程度。
逆にこちらの位置を捕捉したようだ。
窓の横に身を隠した直後に大量の銃弾が壁を叩いてくる。
(相手も戦い慣れているようですからね。ただ……。)
(練度は低いな。)(練度は低いですね。)
そう、雑なのだ。
銃を小脇に抱えて棒立ちで乱射。
遮蔽物に隠れているようで、微妙に全身を隠しきれていない。
全体の動きも統率などなく、ただ適当に広がって弾をばら撒いているにすぎない。
ミシガンが、いや、レッドガンの隊員がこの戦い方を見たら、ヘルメット団たちは全員拳骨をもらったうえで、前線から下げさせられるだろう。
(……まあ、死なないともなれば雑にもなるか。このまま端から切り崩すぞ。)
バァン!バァン!バァン!
部隊から離れたやつを中心に狙撃していく。
ダメージの如何はこの際気にしない。
圧力をかけられれば十分だ。
『畜生!!このままじゃ狙い撃ちだぞ!?』
『校舎だ!スナイパーからやれ!』
バァン!バァン!
ガガガガガガッ!!
「ガアッ!グウ……ッ!」
(レイヴンッ!?!?大丈夫ですか、レイヴン!!??)
ヘルメット団からの制圧射撃、そのうちの一発が頭に直撃した。
衝撃と痛みで視界が歪み、思考が一瞬真っ白になる。
被弾した勢いそのままに後ろに倒れこんでしまう。
”レイヴン、大丈夫!?”
「――ッ!平気だ!窓から離れろッ!」
ガガガガッ!!
”うわっ!?”
「先生!こっちに来てください!」
倒れこんだ俺に気づいた先生がこちらに駆け寄ってくるが、何とか近づけさせないようにと声を上げた瞬間、大量の銃弾が窓から飛び込んできた。
それを見ていたアヤネが先生を教室に引き戻す。
(クソッ……。まさか頭にもらうとは……。)
(出血、外傷なし。脳震盪の心配も無さそうです。)
何とか窓枠の下に這い戻り、一度呼吸を落ち着ける。
エアが診断を実行し、戦闘に問題がないことを知らせてくれた。
キヴォトスのルールは、俺にも適応されるらしい。
だがここで、1つの仮説が俺の頭の中をよぎる。
(……なあエア。)
(……何でしょう、レイヴン?)
(……頭に直撃してこのダメージなら、ACの戦い方が通用するんじゃないか?)
(……やってみましょうか?)
(……残りの敵をすべてマーク、HUDに表示しろ。)
――――――――――――――――――――――――――――――
「クソックソックソォ!!このままじゃやられちまう!!」
「逃げんじゃねえッ!カタカタヘルメット団の意地を見せんだよ!!」
「うへー、みんなやけにやる気だよー。どーする先生?」
『”……えっと……。”』
『レイヴン、敵陣営の横から接近します。誤射に注意してください。』
フッ
ドゴォッッ!!!
「カヒュ……ッ!?!?」
エアからの警告の直後、ヘルメットを被った少女の姿が消え、次の瞬間には建物の壁に叩きつけられていた。
そして、その少女がいたはずの場所には、深紅のヘイローと猟犬の耳を携えた、アビドスの新入りの姿があった。
「な、なんだコイツ!?」
「えっ!?レイヴン!?なんでいるのよ!?」
『”レイヴン、みんなの方に飛び出して行っちゃったみたい……。”』
「……お、おい、テメェ!追い詰められてんのはテメェの方だぞ!そ、それを分かって――。」
今レイヴンがいるのは敵陣の中央。
当然周りの少女たちが一斉に銃口を向ける。
だがレイヴンがそれに怯むことはない、どころか――。
ヒュッ
メシャッッ!!!
「――ッッ!?!?」
地面を蹴ったとほぼ同時と思えるほどの速さで、己の拳をアクリルの風防に叩きつける。
勢いそのままヘルメットは地面へと叩きつけられ、レイヴンの拳はアクリルの欠片と共に、顔面へと吸い込まれていった。
ズチャッ……
「フゥー…………。」
いくら銃弾では死なずといえど、単純に硬いわけではないらしい。
速度を伴った大質量を叩きつけることで、容易に無力化できるようだ。
それならば、話は早い。
血が付いた拳を引き抜いて立ち上がり、呼吸を整えながら、残党達に向かってゆっくりと振り返る。
「お前ら。」
「ヒッ!?」
「覚悟はいいな?」
「――ッ!?に、逃げ――。」
「逃がすか。」
逃げ出そうとした者から仕留めていく。
1人は飛び上がった勢いでヘルメットを踏みつけ砕き、もう1人は銃弾を打ち込み動きが止まった瞬間に、足を振りぬく全力の蹴りを首筋へと打ち込む。
足をつかんで引き倒し、顔面に向けた全力のストンプ。
武器を弾き飛ばし、首を直接握りつぶしてヒューマンシールド。
盾が気絶したら、手榴弾を仕込んで蹴り飛ばし人間砲弾に。
殴りかかってきた奴は拳を捉え腕をへし折り、顎をつかんで放り投げる。
少々物足りないが、やはり――。
ギャァアアアァァ!!
マ、マッテ、オネガイ、ユルシテ!!
オ、オカアsプギュッ!!
ガアアアアアァァァァ!!!!!
やはり戦いはいい!
『敵勢力、残り僅か。もう一押しです。』
エアが静かにそう告げる。
既にほかのメンバーは銃を下ろしており、眼前の惨劇をただ見つめることしか出来なかった。
「……あー……。」
「……えっと……。」
ここで、対策委員会は共通の結論にたどり着く。
『……もう、レイヴンさんに任せましょっか……。』
『”……そうだね……。”』
イ、イダイイダイイダイ、オ、オレルウゥゥゥゥゥ!!!!
シルカ。
ア゜ッッッ。
――――――――――――――――――――――――――――――
”みんな、お疲れ様。よくやったね。”
「みなさん、お疲れさまでした!」
ヘルメット団の殲滅を確認し、教室へと帰還した対策委員会。
オペレーターのアヤネと先生がねぎらいの言葉をかけていく。
「いやー何とか倒せたねー、よかったよかった、って言いたいけど……。」
「……何だ?」
レイヴンに突き刺さる6つの視線。
そのすべてが困惑の色をにじませている。
「いや”何だ?”じゃないわよ!ほとんどあんたが倒してるじゃない!っていうか、なんでそんなに強いのよ!?」
「……ヘルメット団、レイヴンが来てから、完全に怯えてた。」
「……お仕置にしては、ちょっと、過激じゃないですか……?」
”……正直、やりすぎだと思うよ。”
口々にやりすぎだと咎める一行。
一部に関しては怯えすら見える。
失敬な。こちらにも考えはある。
「……何故だ?やるなら徹底的に叩き潰した方がいいだろう?それに、誰も死んでいないじゃないか。敵も味方もな。」
「「「「「”………………。”」」」」」
沈黙。
恐怖の色が一層濃くなる。
何かおかしなことを言っただろうか?
「……何だ?」
「うわーん!おじさんヤバい子拾ってきちゃったかも!どうしよノノミちゃーん!」
「も、もっといいやり方を教えていけばいけます、よね?」
「……正直、私も怖かった……。」
「あの、手加減って、できませんか……?」
「あんた、バケモノか何かなの……?」
”レイヴン、確かにあの子たちはアビドスに襲い掛かってきた。”
”だからって、あそこまでボコボコにする必要は無いでしょ。”
揃いも揃って俺をバケモノ呼ばわり、心外だ。
自制心がないわけではないし、自分なりの理論がある。
「いや、ある。」
”えっ?”
「奴らに教訓を教えてやれる。」
「”アビドスに手を出すと死ぬぞ”とな。」
「そうすれば、ヘルメット団だけでなく、ほかの連中にも警告が伝わり、アビドスを狙う奴は居なくなる。」
「「「「「”………………。”」」」」」
再び沈黙。
部屋の空気が恐怖一色に染まる。
「……何だ?」
「……やっぱり元の場所に返した方がいいかな?」
「お別れの時は一緒に行きましょうか……。」
「先輩、助けて、食べられちゃうかも。」
「いったい、どんな人生を送ったらそうなるんですか……!?」
「やっぱりバケモノよ、あんた……。」
”レイヴン、めっ!やりすぎ禁止!”
「……ハァ……。」
前途多難とはこの事だろうか。
カーラがこの話を聞いたら、腹を抱えて大笑いするに違いない。
そうでなければ、俺が惨めじゃないか。
――――――――――――――――――――――――――――――
あの後、ヘルメット団の襲撃でうやむやになっていた、対策委員会の自己紹介と事情の説明を済ませた。
エアに関しては、俺をサポートするAIだと誤魔化しておいた。
どうやら先生も"外"から来たらしく、仲良くなれるかもしれないと語っていたが、まあ難しいだろう。
少し話しただけで、互いの常識が違うというのはひしひしと感じている。
少しでもあの世界を知っているなら、ヘルメット団に対する俺のやり方を咎めないだろう。
一通りの話が済んだところで、ホシノから提案があった。
”近くにあるヘルメット団の拠点を叩いておきたい”と。
これに対し、先生も含めた全員が賛成。
そして今、我々対策委員会は、件の拠点から少し離れた位置で待機していた。
『敵勢力、およそ30人。周辺に増援なし。全員油断しているようです。』
『戦車などの兵器も無さそうです。これなら楽勝ですね!』
『”みんな、油断だけはしないでね。”』
「よーし、じゃあ作戦会議!」
ホシノの号令で全員が一か所に集まる。
ヘルメット団の連中、さっき襲撃に向かったやつらが帰ってこないことに疑問はないのだろうか?
まあ油断してくれるならありがたい。
こちらとしても仕留めやすくなるに越したことはないからな。
「そのことだが、ここは俺に任せてくれないか?」
「ん?何か作戦があるの?」
「いや、俺1人で行く。」
『えぇっ!?危険ですよ!あの人数から一斉に撃たれたら……!』
アヤネから反対の声が上がる。
まあもっともな指摘だ。
だが俺も、理由や考えもなしに、敵陣に突っ込む訳じゃない。
「問題ない。さっき戦った連中が、ヘルメット団の平均的な練度なら、十分対処可能だ。」
「だめですよレイヴンちゃん。危ないから一緒に行きましょう。」
『私からも問題ないと言っておきます。レイヴンには、みなさんが思う以上の実戦経験があります。』
『あの数と練度であれば、レイヴン1人でも勝算は十分です。』
「もっと言えば、俺の戦い方だと味方を巻き込みかねないし、お前たちからの誤射の危険が付きまとう。1人で動く方が都合がいい。」
「それに、生身での戦い方に慣れておきたい。キヴォトスで生きるなら、必要な技能だろう?」
ルビコンでの仕事は、たまに共同することはあったが、そのほとんどを単独でこなしていた。
ACに乗っているかと、生身で動くかの違いはあるが、さっきの戦闘でACの動きが応用できることも分かっている。
今更慎重に立ち回るなど、無理な話だ。
『”……分かった。でも、絶対に無理はしないでね。手加減も忘れないこと。”』
「ちょっと何言ってるのよ先生!?本当に1人で行かせるわけ!?」
「うへー無茶するなあ。じゃあおじさんたちは近くで隠れてよっか。」
「そうしましょう!レイヴンちゃん、助けが欲しくなったらいつでも言ってくださいね。」
「先輩たちまで!?ああもう分かったわよ!」
「……無理はしないで、レイヴン。」
「感謝する。終わり次第連絡する。」
レイヴン以外のメンバーは、潜伏場所を見つけるために、拠点から少しずれた方向へと走り出した。
俺はヘルメット団からむしり取った、LMGとショットガンを握りしめ、敵陣へと駆け出す。
さあ、カタカタヘルメット団。
もう少し、俺の狩りに付き合ってもらうぞ。
――――――――――――――――――――――――――――――
「……とは言ってたけど、本当に大丈夫かなぁ。おじさん心配だよー。」
「そうですよね……。レイヴンちゃん、大丈夫でしょうか……。」
「ふん!すぐにやられて泣いて帰ってくればいいのよ!」
「……多分、ヘルメット団が泣いて出ていくと思う……。」
『私もそう思います……。ちゃんと手加減してくれればいいんですけど……。』
『レイヴン、交戦開始。』
パパパパパッ
バン!バン!
「おっ、始まったねー。」
『チクショォ!何だよアイツ!?』
『ビビんな!相手は一人だ!撃ちまくれ!!』
『今のところ、レイヴンさんが優勢みたいです。』
「おおー!やるねーレイヴンちゃん!」
「うう……。本当に何なのよ、アイツ……。」
『クソッ!こいつ仲間を盾にしてやがる!?』
『ソイツごとやっちまえ!じゃねえとやられるぞ!!』
『”また生徒を盾にしてるみたいだね。帰ってきたらお説教かな……。”』
「……レイヴンの得意技なのかな?」
『ハァ!?こいつスライディングから飛び蹴りかましやがった!?!?』
『マジで何なんだよアイツ!?!?何であたしらがこんな……ッ!?』
「……なんだか、すごいセリフが聞こえませんでした……?」
「スライディングからの飛び蹴り……?私の耳がおかしくなっちゃったの……?」
『アイツ弾切れだ!!今がチャン――ごえッッ!?!?』
『銃ぶん投げるってありかよォー!?!?』
「……うへー、またメチャクチャになってそうだなー。」
『……血が出て無さそうなだけマシかもしれません……。』
『……ッッ!ギッ……ギブ……ギ、ブ……ッッ!』
『あ、ぁあぁ……っ!アタシらが、アタシらが何したってんだよォ……!?』
『……このあたりのヘルメット団、居なくなっちゃいそうですね……。』
「……これじゃ他の人も居なくなっちゃうよ……。」
「……アイツ、まさか殺し屋じゃないでしょうね……?」
「それはない、と思いますけど……。」
「……ん?なんだか静かになってない?」
『……戦闘終了。ヘルメット団拠点の制圧、完了しました。』
「ホ、ホントに一人で制圧した……!?」
「うへぇ、本当にヤバい子拾ってきちゃったなー……。」
「……とりあえず、レイヴンちゃんのところに行きましょうか。」
「……ん、そうだね……。」
――――――――――――――――――――――――――――――
「――だから知らねえって!!さっき言ったことが全部だよ!!」
「ふざけるな。予想ぐらいはつくだろう。早く話せ。」
「ほ、ホントになにもしらないんだよぉおぉ……!し、しんじてくれよぉ……!」
ヘルメットをはがされたであろう少女が、レイヴンに胸倉を掴み上げられている。
何かを聞き出そうとしているようだが、少女は何も知らないと答えるしかない。
事実、レイヴンが聞き出そうとしていることは知らないのだから。
少女の目には大粒の涙がたまり、ついにはボロボロと泣き出してしまった。
「はーいレイヴンちゃん、そこまでだよー。」
「いくら何でも、泣くまでやるのはやりすぎよ……。」
「レイヴンちゃん、イジワルはめッ!ですよ!」
ホシノとノノミがたしなめると、レイヴンはしぶしぶといった様子で、少女の服から手を放した。
ずいぶん手荒い尋問だったのか、手を離した途端、少女はその場にへたり込んでしまった。
「……ほら、早く行って。」
「……う、うあああぁああぁぁぁぁん!!もう不良やめるううぅぅうぅ!!」
『”……レイヴン、帰ってきたらお説教だからね。”』
シロコが軽く促すと、少女は泣きながら全力で駆け出した。
レイヴンの尋問がよほど堪えたらしい。
先生も、これを無視することはできなかったようだ。
レイヴンがそうまで聞きたかったこととは――。
「……カイザー。」
「この名前に聞き覚えは?」
「キヴォトス有数の大企業ですけど、それが一体……?」
ノノミが小首を傾げながら質問に答える。
なぜここでカイザーの名前が?
対策委員会は考えを巡らせるも、カイザーとヘルメット団がつながることはない。
その答えは、程なくしてエアから告げられた。
『どうやら、カタカタヘルメット団は、カイザーから依頼を受けていたようです。』
『アビドス高校を襲撃し、対策委員会のメンバーを排除しろ、と。』
『そのために必要な、武器や弾薬の横流し、軍資金の提供などを受けていたようです。』
『これなら、彼女たちの潤沢な装備にも、納得がいきます。』
『”……それって、つまり……。”』
『アビドスを欲しがっているのは、ヘルメット団じゃなくて、カイザー……?』
「アビドス。」
「この問題は、思っている以上に根が深いぞ。」
恩師の言葉が、頭の中でこだまする。
≪不測の事態を予測しろ。≫
――――――――――――――――――――――――――――――
「……またとんでもないものが出てきちゃったねぇ。」
「ええ、まさか、カイザーが……。でもどうして……?」
再び教室へと戻ってきた対策委員会。
だが、行きとは打って変わって、教室には重苦しい雰囲気が漂っている。
ただのチンピラが相手なら、叩き潰して終わりだが、企業が相手となるとそうも行かない。
物理的に攻撃しようにも、こちらにはその合法的な理由がない。
カイザーにとっては、多数の傭兵を雇いこみ、アビドスを押しつぶすことは難しいことではないだろう。
情報を握って強請ろうにも、カイザーにとって致命的なものでなければ握りつぶされるのがオチだ。
そもそも、その情報を手に入れる手段も限られている。
これは対策委員会にとって、事実上の手詰まりであった。
「……ああ、もう!イライラする!うちには借金もあるってのに!どうすればいいのよ!?」
”……借金って?”
「……セリカ、どういうことだ?」
「あ、いや、その……っ!」
どうやらアビドスはまだ問題を抱えていたようだ。
アヤネがわずかに逡巡したのち、ゆっくりと口を開く。
「……このアビドスには借金があるんです。額にして、9億6235万……。」
「当然これだけの額が、私たちだけで返せる訳もなく……。」
「……今は、利息の支払いだけで、手一杯です。」
「利息も払えなくなったら、アビドスは銀行の手に渡ってしまうんです……。」
「――ッ!?なんで言っちゃうのよアヤネ!?この大人も、レイヴンも!こいつらが信用できるって分かったわけじゃないでしょ!」
「だが今の俺たちが打てる手は限られてる、違うか?」
「ッ!それは……ッ!?」
「使えるものは全て使うべきだ。追い詰められているなら、なおさらな。」
そうしなければ戦える相手ではない。
相手はまだ手段を選んでいる段階だ。
対処するなら、力押しされる前にケリをつける必要がある。
ルビコンで嫌というほど学んできたことだ。
「……いいんだよ、レイヴンちゃん、先生も。借金には関わらなくてもさ。」
「こんな状況だけど、今まで私たちで何とかなってきたから。ヘルメット団が落ち着いたら、私たちも借金に集中できるからさ。」
”……そうだとしても、私は見捨てたくないよ。”
「……へ?」
ホシノの問いかけを、いや、これ以上踏み込むなという警告を、先生は無視した。
もちろんここまで協力した以上、俺もアビドスを放り出す気はない。
”みんなこうして頑張ってるのに、私は何もしないなんてできない。”
”私にこのアビドスを、みんなのことを、助けさせて欲しいな。”
「俺も協力する。」
「一宿一飯の恩、という奴だ。それに、借りを残しておくのは嫌いでな。」
そう、受けた恩は、返せるうちに返した方がいい。
返す相手が、居なくなってしまう前に。
恩を、仇でしか返せなくなる前に。
「……それ、本当?」
”もちろん。それが、大人である、私がやるべきことだからね。”
「……ッッ!その言葉、嘘だったら承知しないから!」
”大丈夫、私は嘘をつかないよ。”
「先生、レイヴンさん……ッ!ありがとうございます!」
「わあ!よろしくお願いしますね、先生、レイヴンちゃん!」
裏切るつもりはないと、うなずくことでその意思を示す。
元より彼女たちに拾われた身だ。
彼女たちのために使うのも、悪くないだろう。
「……二人とも、無理しないでいいからね。しんどかったらおじさんに言うんだよ?」
「覚えておく、ホシノ。」
どうやらホシノは、どうにもならなくなることを想定しているらしい。
最後のプランでも握っているのだろうか。
予測でしかないが、妙な確信がある。
それを使わせないためにも、まずやるべきことは――。
「……話がまとまったところで、情報を整理するぞ。」
『まず、アビドスには10億弱の借金があります。おそらく、担保となっているのは、このアビドスの土地そのもの。』
『そして、カイザーはカタカタヘルメット団に対し、アビドスへの襲撃依頼を出し、それを支援していた。』
「……こうして整理すると、相当苦しい状況だな。」
『………………。』
エアが黙りこくっている。
こういう時は、頭の中で考えを巡らせている時だ。
『……ノノミ。カイザーは金融事業を展開していませんか?』
「えっ?確かに、カイザーローンって子会社がありますけど……。」
”……まさか。”
『……なるほど。これで繋がりました。』
「ん?何か分かったの?」
どうやらエアと先生が答えにたどり着いたようだ。
二人に対し、あえて何も言わないことで話を促す。
『これは、私の仮説ですが、アビドスへの融資元が、そのカイザーローンであった場合。』
『カイザーは、初めからアビドスの土地を狙って、融資を行ったのでしょう。』
『そして、借金を完済させる気など初めから無く、融資当初から、多数の嫌がらせを行っていた可能性があります。』
『全ては、合法的にアビドスを手に入れるためでしょう。』
エアの仮説は、対策委員会と先生にとって信じがたいものだった。
その仮説が、最も正解に近いであろうことも含めて。
俺にとっては、さして驚くような話ではない。
ホシノにとっても同じなのか、彼女が大きく姿勢を変えることはなかった。
「……ッッ!!」
「そんな……ッ!」
「何よ……ッ!何なのよッそれ……ッッ!」
”……今は、その想定で行くしか無さそうだね。”
「でも、もしそれが本当なら、どれだけ対策しても……。」
「……どこに行っても、企業のやることは変わらない……。」
ベイラムも、アーキバスも、理念の違いはあれど、コーラルを――それによってもたらされる富を――求めていたことは変わらない。
利益のために払われた犠牲は、上層部に届くころには、ただのコストとして計算されている。
コーラルをめぐって、一体どれだけの命が失われたのだろう。
俺は、一体どれだけの命を奪ったのだろう。
『……レイヴン、私から提案があるのですが。』
「どうした?」
『実は、ブラックマーケットと呼ばれる場所から、大量の公示が出ていることが分かりました。』
『これらの仕事をこなし、傭兵として名を揚げることで、レイヴンに対しカイザーから指名が入れば――。』
「――それを足掛かりにして、情報を引き出すことができる。」
どうやら気落ちしている場合ではないらしい。
武器を背中にかけ、バッグを掴み、可能な限り物資を詰め込んでいく。
「あれ?レイヴンちゃん、どこ行くの?」
「ブラックマーケットに行く。早速だが仕事に取り掛かる。」
「えぇっ!?危ないですよ!あそこは不良生徒のたまり場で――。」
なるほど、それが本当なら確かに危険だ。
不良どもが訓練を受けているならば、の話だが。
「その不良を1人で薙ぎ倒したのは誰だ?」
「それでも1人じゃ危ない。私も行く。」
「だめだ、シロコ。お前たちはカイザーに顔が割れている可能性が高い。」
「名を揚げたところで、カイザーから指名は入らないだろう。あるいは、死地に送り込まれて使いつぶされるのがオチだ。」
「これは、俺でなければ難しい仕事だ。」
”……本当に、行くんだね、レイヴン。”
「ああ。こういうことは慣れている、問題ない。」
全員の目がこちらに向いている。
心配、不安、迷い、その感情は様々だ。
そういった感情がにじむ瞳たちをまっすぐ見つめ返す。
この考えを曲げるつもりはないと、伝えるために。
「……そっか。無理しちゃだめだよ、レイヴンちゃん。何かあったら、すぐおじさん達に教えてね。」
「はい!いつでもどこでも、助けに行きますよ!レイヴンちゃんは、もうアビドスの仲間なんですから!」
「ん、残念……。いつでも帰ってきて。」
「……そうね、これはアンタにしか頼めないわ。ケガするんじゃないわよ、レイヴン!」
「レイヴンさん、アビドスを、よろしくお願いします……!」
”無理はしないでね、レイヴン。手加減も忘れないであげて。”
「ああ、覚えておく。」
俺は今まで、奪うために戦ってきた。
わずかな可能性を掴むために、あらゆるものを奪い去っていった。
だがこれは、新たな友人たちと、その故郷を守るための戦いだ。
「アビドスを頼んだぞ。」
そうかラスティ、背景を手に入れるとは、こういうことなのだな。
ようやくレイヴンを傭兵にする理由付けが出来ました……
次回からブラックマーケットに入ります
次も気長にお待ちくださいませ……
次回
キヴォトスのルール
ナメられたら、ぶっ飛ばす!