翼を得た少女は自由の意味を探す   作:ココア@レネ

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誤字脱字報告で気づいたのですが、キヴォトスの通貨って円で良かったんですよね…………何故かクレジットだと思い込んでいました。ラーメンや借金の時の話で、あれだけ円って書いてあったのに…………。


第18話:アル。覚醒する

(ふ、ふふふ風紀委員! …………って、その後ろに居るのは!)

 

 突如現れた風紀委員にも驚きだが、その後ろには少し前に足湯で出会った少女が居た。

 

 おまけに、アルに向かってのほほんと手を振っている。

 

 見た目はお嬢様然としているが、翼に装着されているゼロカスタムが異彩を放っている。

 

「何が風紀委員会だ! 纏めてぶっ飛ばしてやる!」

「そうだそうだ! 一人くらい大したことないぜ!」

「やるぞテメーら!」

 

 不良達はやる気満々だが、アルはどうするか悩む。

 

 明らかに目の前に居る風紀委員は、危険な雰囲気を纏っており、殺る満々である。

 

「ねえ、どうする? 流石に風紀委員が相手だと面倒だよ?」

「少し様子を見ましょう。私達はまだ何もしていないから、問題ないはずだわ」 

 

 風紀委員であるイオリと不良達が話している間に、アルとムツキはこそこそと話をする。

 

 不良達だけが相手ならば別に構わないが、ここに風紀委員が加われば話は別だ。

 

 一応アルもムツキも少なからず、問題児の烙印を押されている。

 

 捕まればしばらくは牢屋暮らしになってしまうので、逃げるのも一つの手なのだ。

 

 だが、知り合いがいる状態で逃げるのはアルとしては嫌であり、とりあえず様子を見る事に決めた。

 

「そっちの二人は被害者か? 被害者なら直ぐに逃げな。でなければ、纏めて捕まえるよ」

「え? 私達は……」

「今だ! 撃てー」

「チッ!」 

 

 そんなアル達をよそに、不良達は銃を構えて、イオリ達だけではなくアル達にも銃を撃って来た。

 

 銃はM4カービンを改造したものを使用しており、当たれば痛いが、数発では軽い怪我をする位だ。

 

 避ければ良いのだが、アルとムツキは反応が遅れたのと、遮蔽物が近くにないため、揃って動きを止めてしまった。

 

 ムツキを庇うために自然と身体を前に出すアルだが、そのアルの前に純白の翼が現れた。

 

 その翼に銃弾が当たるものの、翼は銃弾をアル達へを通すことはなく、手前に落ちていく。

 

 時間にすればほんの数秒。

 

 不良達は驚きに固まるが、その隙をイオリが見逃す事はなく、一人が頭に銃弾を受けて気を失う。

 

 そのせいかアルやエリスから注意が逸れ、イオリと不良達の戦いが始まった。

 

「お怪我はないですか?」

 

 翼が目の前から無くなり、エリスの横顔が姿を現す。

 

 身を挺して誰かを庇う。

 

 その姿に、何となくアルは心が引き寄せられる。

 

「え、ええ。大丈夫よ」

「それは良かったです。さてと、私も参戦しないとですね」

 

 戦いはイオリが優勢なので、イオリが勝つのも時間の問題だが、クッキーを台無しにされた恨みがエリスにはある。

 

 スッとエリスが片手を挙げると、ウェポンハンガーのアームが動き、ゼロカスタムをその手に運ぶ。

 

 ゼロカスタムを受け取ると共に、瞬時に起動状態へ移行させると銃身が伸び、光の線が走る。

 

 その一連の動作は洗練されており、まるで芸術の様であった。

 

 アルは目を離すことが出来ず、エリスの動作を目に焼き付ける。

 

「おい! 向こうも銃を持ってるぞ!」

「そんな奴より、風紀委員だ! こいつかなり強いぞ!」

「いや、でもあの長いのもヤバそうな……」

 

 翼に付いた汚れを払うついでに、エリスはくるりと回転しながら地面を蹴って跳ぶ。

 

 そして半身となり、片手で構えたゼロカスタムを不良達へと向ける。

 

 放たれた光の奔流が不良達の手前に着弾し、大きな爆発と共に不良達を吹き飛ばす。

 

 イオリも巻き込まれてしまっているが、この時のエリスはクッキーの恨みのため、巻き込まれたイオリを見ていなかった。

 

「感情のままに行動……意外とスッキリとするものですね」 

 

 アル達の前に着地したエリスは一言呟いてからゼロカスタムをウェポンハンガーに戻す。

 

 その姿は、背は低いながらも、アルが憧れる理想に近かった。

 

 颯爽と現れ、敵を軽々と葬り、意味深気に呟く。

 

 しかもあんな重そうな銃を片手で軽々と扱う様は、カッコイイの一言である。

 

 何よりこれを行ったのはゲヘナの生徒ではなく、見た目はどこからどう見てもトリニティの生徒だ。

 

 相手が誰だろうと関係なく自分の我を通す様は、正しくアウトローと呼べるものだった。

 

 だが、物凄く目を輝かしているアルとは違い、ムツキは目の前の惨劇を見て――いや、アルと同じように心が躍っていた。

 

 風紀委員とともに現れ、軽く銃弾を翼で弾き、そこから一撃にて不良達を纏めて吹き飛ばす。

 

 しかもぽっかりとクレーターも出来上がっている。

 

 これだけクレイジーな人間は、ゲヘナでも中々お目に掛かることは出来ない。

 

 近くに居れば、それはもう面白い事が起きそうだ。そう、ムツキは笑う。

 

「私はこれにて失礼します。また縁がありましたら」

「え、ええ。また逢えたらいいわね」

「うん。またねー」

 

 一人でこの惨状を作っておきながら、エリスは軽やかな足取りで立ち去っていく。

 

 そんなエリスは瓦礫の奥から飛び出てきたイオリに、頭を叩かれるのだが、その前にアルとムツキは踵を返して立ち去り始めていた。

 

「ねぇムツキ」

「なに? アルちゃん」 

「私、まだ少し頑張ってみようと思うわ」

「ふーん。なら頑張ってね。アルちゃんならどうにか出来るよ」 

 

 アルはこれから先……進級した後のビジョンが朧気ながらも頭に浮かび始めていた。

 

 自分が自分らしく生きるための方法。自分が一番上に立つための方法……。

 

「ありがとう。それと……いえ、何でもないわ」

 

 アルはムツキに頼みごとをしようとするが、その事を口にする事は無かった。

 

 まずは自分で出来るだけの事をやり、それからムツキを迎え入れる。

 

 その方がアウトローっぽいと思ったのだ。

 

 口ごもるアルを見て、ムツキは「変なのー」と笑う。

 

 ほんのりと赤く染まり始めたゲヘナの街を、二人は並んで歩くのだった。

 

 

 

 

 

 

1

 

 

 

 

 

「この馬鹿が! 私まで巻き込むなんて、なにを考えているんだ!」  

「いた! いえ、先程のは不可抗力と言いますか、少し威力が高すぎたと言いますか……」

「後少し反応するのが遅かったら、私もああなっていたんだが?」

 

 せっかくクッキーの恨みの晴らせた思ったのに、運悪くイオリさんを巻き込んでしまったせいか、頭を思いっ切り叩かれてしまった。

 

 まあ威力的に仕方ない事ではあるので、仕方ないのである。

 

 因みに不良達は全員壁に叩きつけられ、気を失っている。

 

 今回の私が起こした被害は、道路のクレーターと建物の損傷。

 

 それから街灯と車両の破壊位だろうか?

 

「すみません。これでも威力を抑えたのですが、イオリさんが良いと言ったので……」

「それは……確かにそうだが、これはやり過ぎだ!」

「反省しています」

 

 ぷんすか怒るイオリさんに頭を下げると、ヒナさんと同じようなため息をついた。

 

 これでも本当に抑えたつもりだったのだが、クッキーの恨みのせいか、思いの外神秘を込めてしまったようだ。

 

 心なしか、吹き飛んだ不良達を見てスッキリとした気がする。

 

「まったく……他の風紀委員に連絡をしておいたから、私達は戻るぞ。まだ途中だったからな」 

「はい、この度はすみませんでした」

「……気にするなとは言わないが、エリスの行いは一応褒められるものだ。悪を前にして何もしないのは風紀委員会のポリシーに反するし……」

 

 残念ながら私は風紀委員会ではないし、そもそもゲヘナの生徒ですらないのだが、イオリさんなりの将来の後輩(予定)への激励なのだろうか?

 

 ……ふむ、イオリ先輩か。呼び方としては悪くない。

 

 お店は少しだけゼロカスタムの被害を受けていたが、ギリギリセーフだろう。

 

 割れた窓の部分にはシートが張られ、ガラス片は全て片付けられている。

 

 流石に客は私たち以外いなくなってしまったが、営業は続けているとの事だ。

 

 この程度はゲヘナ……というよりはキヴォトスでは日常なのだろう。

 

 風通しが良くなった店内で、再び同じメニューを頼む、ついでにお持ち帰り用のモモフレンズセットもお願いしておく。

 

「ふぅ……報告には聞いていたけど、本当にとんでもない威力だな。あれでどれくらいなんだ?」

 

 届いた珈琲を一口飲み、頬杖をつきながらイオリさんが聞いてきた。

 

 威力……。

 

「全体で見た場合ですと、一割程度になります。単体なら大体三割弱ですかね?」

「あれでか……まだグレランやロケランの方が可愛げがあるよ……」

 

 なんにでも神秘が宿っているこの世界で、私のゼロカスタムは全てに特効を持っている様な物なので仕方ない。

 

 もしも神秘をまったく持っていなかった場合、私のゼロカスタムの弾は意味を成さないかも知れないけど、地面を撃って吹き飛ばしたり、今ならハンドガンも持っているので、戦えないこともない。

 

 まあ神秘を持っていないということは、身体の強度も低いので、殴れば良いのだけれど。

 

 なんとなく……私の失われている記憶と、俺や混ざっている記録を鑑みるに、そんな存在とその内会いそうな気もする。

 

「その分かなり重いですけどね。見ての通り椅子に座る時は注意しないといけないので」

「スナイパーライフルと言うよりは、完全に砲台や砲塔クラスだもんな。持てたとしても、持とうとは思わないよ。室内じゃ使えないし」

 

 私自身もいまだにゼロカスタムについて悩む部分はあるけど、ゼロカスタムを手放す選択肢は無い。

 

 ミレニアムのエンジニア部で沢山撃ったおかげで、ゼロカスタムの最大出力が朧気ながら見えてきているのだが、その威力はキヴォトスを焼き払う事が出来る可能性がある。

 

 シェルターを破壊とは書かれていたけど、つまりどの様な方法でも、ゼロカスタムを防ぐ事が出来ないのだ。

 

 私専用ではあるが、私以外が使えないとも限らないし、誰かが悪用すれば、キヴォトスは崩壊するだろう。

 

 何せ、キヴォトスを消滅させた相手用に作られた武器なのだから。

 

 何を思ってあの男がゼロカスタムを残したのか、私にはあまり理解できない。

 

 万が一とは言っていたが、そういうものは黙って隠しておくべきだ。

 

 金庫に隠しておけばいいものを、態々持ち歩くのはリスクとリターンが釣り合わない。

 

 けれど……それでもゼロカスタムを持ち出さないという選択肢は私には無かった。

 

 力を欲したとか、男の無念に同情したとか、そんなものではなく、一種の義務感だ。

 

 今思えば、私にそんな感情があったのかと不思議に思う。

 

 生前の私は……私にはそんなものは無かった気がする。

 

 自由……か。自由とは一体何なのだろうか?

 

「ちゃんと護身用にハンドガンも持っています。この通り」

 

 コンビニで買った、無改造の銃を懐から取り出す。

 

 実は買う時に少しだけゴタゴタがあったのだが、多分もうコンビニで銃を買う事は無いだろう。

 

「ガバメントって……確かに選択としては悪くないけど……うん? 少し貸してくれないか」

「はいどうぞ」

 

 何やらイオリさんは思う所があるらしく、素直に銃を渡しておく。

 

 バレルを引き、弾倉を確認し、軽くバラしてから組み立てるイオリさんの顔は、苦々しいものになっていた。

 

「これはどこで買ったんだ?」

「コンビニですね。これだけでは近距離が不安だったので、適当に買いました。場所はアビドスです」

「そうか……まあゲヘナじゃないから良いけど、これは一種の違法銃だ。見た目はガバメントだが、色々と改造されているし、登録番号も刻印されていない。特に一番分かりやすいのはこのマズルだな。通常品はこんなスレッドは付いていないし、コッキングのスライドももっと彫りが浅い」

 

 詳細に説明をしてくれるイオリさんには悪いが、生憎私はそこまで銃に詳しくない。

 

 記憶が無いのもあるけど、生前に使っていたSIG550をカスタマイズした銃も、使いやすいから使っていた感じだった気がするし。

 

 イオリさんの説明を珈琲とクッキーをいただきながら聞き、適当に相づちを打ちながら終わるのを待つ。

 

「なるほど、そうだったんですね。このまま使っても大丈夫なんでしょうか?」

 

 とりあえず私が分かったのは、違法銃ということと、未登録なので、無くした時に私の下に帰ってこないという事だけである。

 

 それとサイレンサーを取り付けられる事位かな?

 

「まあブラックマーケットに行けば違法銃なんてごまんとあるし、持っているからって罰せられる事は無いから、好きにすれば良いさ」 

 

 あっ、そんな感じなんですね。

 

 イオリさんとしてはゲヘナの外の事件になるので、あまり関心がないのだろう。

 

 自治区内だけでも大変なのに、他の事に構っている余裕は無いか。

 

 私も今日だけで三回……電車を含めれば四回巻き込まれている。

 

 この後はホテルに向かうだけだけど、絶対に安全とは言えない。

 

 誤差ではあるが、一番巻き込まれているのは今の所ゲヘナである。

 

「分かりました。護身用程度にしか考えていないので、このまま使おうと思います」

「そうか。違法銃だが、カスタムとしてはかなりの優れものだ。大事にしなよ」

 

 イオリさんから返してもらい、懐にしまう。

 

 サイレンサーか……ハンドガンにはどうかと思うけど、買っておこうかな?

 

 それと、話の途中にブラックマーケットと言うのが出てきたけど、後で少し調べてみるとしよう。

 

「さてと、この後はどうするんだ? 駅か? それともホテル?」

 

 しっかりとクッキーを堪能し、お土産用のクッキーも無事に買えたので外に出る。

 

 クッキーの賞味期限は一週間あるので、もしも明日ヒフミさんの予定が合わなかったとしても問題は無さそうだ。

 

 時間的に明日とは言わずに、明後日か明々後日位で空いているか確認した方が良いかな?

 

「ホテルでお願いします。出来れば電子マネーが使えるところでお願いします」

「わかった……そこだ!」

 

 少しだけ歩いた後、イオリさんはいきなり銃を構えて後ろに発砲した。

 

「糞! 逃げろ!」

 

 数名の少女たちが慌てて逃げていき、一人はイオリさんの弾が当たったのか、気を失っていた。

 

「今のは?」

「私達の後をつけてきて、後であんたを捕まえようとしてたんだろう。見た目はどう見てもお嬢様だから、持っているであろう金を狙ってな」

「こう見えて現金はほとんどなく、家すらも無いんですけどね」

 

 現金の残りは後食事数回分しか残っていない。

 

 その代わり電子マネーは一杯あるけど。

 

「人なんてのは見た目や雰囲気で判断するからな。その銃をもっと見やすい様にしておけば、少しは変わるさ」

「そうすると背中が丸見えになりまして……」

 

 翼についているウェポンハンガーは前からでも後ろからでも見えるけど、ゼロカスタムは背中を隠す関係で、後ろからは視認できない。

 

 真正面から喧嘩を売られた事は今の所ないので、翼の畳み方は服を手に入れてから考えよう。

 

「……ああ、なるほどね。それだけ大きいと、難儀するみたいだね」

「それはもう、その通りとしか言えませんね」

 

 飛べるのは良いけど、それ以外が大変でしかない。

 

 苦笑いするイオリさんに同じく苦笑いで返し、ホテルへと向かった。

 

 

 

 

 

 




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