翼を得た少女は自由の意味を探す   作:ココア@レネ

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本編でワイルドハントについて結構詳しくなり始めているので、上手く物語に反映したいところですが、校則の件があるので中々悩ましい所です。特殊交易部辺りならば簡単に出せそうですが、惨事の予感しかしないですね。


第17話:ガラスが砕けてイオリも切れる

 足湯。何故ゲヘナにあるのかと思ったが、そう言えば温泉開発部がゲヘナにはあるんだった。

 

 さっきも脱走しようとしていたので、問題児はあるのだろうけど、ゲヘナの経済に一役買っているのだろう。

 

「……良いですねー」

「……そうだな」

 

 イオリさんにお連れて来て貰ったのは、温泉が幾つかある通りの、無料の足湯コーナーだった。

 

 しっかりと管理はされているのか、辺りには風紀委員会以外にも民間の警備ロボットも居る。

 

 観光客と思われる人たちもいて、結構賑わっている。

 

 ただ、生徒達は銃を持ってはいるものの、袋に入れて密封している。

 

 おそらく錆びない様に注意しているのだろう。

 

 私のゼロカスタムは素材すら分からないので、多分錆びないだろうからそのままウェポンハンガーに装備したままである。

 

 しかし足湯でこれなら、温泉に入ればもっと気持ちよさそうだ。

 

 イオリさんも結構安らいだ顔をしている。

 

「温泉と言えば百鬼夜行と聞いていましたが、もしかして温泉開発部が関わっていたりするのですか?」

「一部にはな。ゲヘナ内ならともかく、他自治区で暴れられると、後処理が大変で困る」

「そう言えば今朝、ゲヘナへ向かう電車でヒナさんを見かけたのですが、どこかで事件が?」

「さあな。連邦生徒会長に呼び出されて…………いや、今のは聞かなかったことにしてくれ。いいな?」

「はい?」

 

 口が滑ってポロリとしてしまったようだけど、まあ聞かなかったことにしておこう。

 

 私には関係のないことだし、関わっても良いことはないだろうし。

 

「隣良いかしら?」

「はいどうぞ」

 

 しばらく足湯を堪能していると。隣に一人の少女が座ってきた。

 

 態々私の隣に座るなんて酔狂だと思わなくもないが、結構足湯も混んでいるので、仕方ないのかな?

 

 吹き飛ばさないように、あまり翼を動かさないように気を付けておかないとな。

 

「その姿でゲヘナまで来るなんて、中々凄いじゃない。絡まれたりしなかったのかしら?」

「一度だけ絡まれましたが、それだけでですねー。こんなものを背負っているので、そのせいかもしれませんが」

「……えっ」

 

 隣の少女は私の背中を見て、軽く引いた。

 

 つい話しかけられたので答えてしまったが、少し逆上せてきたかも……。

 

「な、中々凄いのね。それって本物なのかしら?」

「はい。装甲車位なら木っ端微塵ですねー」

「おい、そろそろ上がるぞ」

「分かりましたー。それではまたご縁がありましたら」

 

 隣の少女に一言断ってから、イオリさんと一緒に足湯を上がる。

 

 そう言えば翼のせいで、イオリさんから少女は見えていなかったが、知り合いか聞いておいた方が良かっただろうか?

 

 角が生えていたので多分ゲヘナの生徒だろうし。

 

 …………まあいいか。

 

「……逆上せてないか?」

「翼のせいで少し熱が籠ってしまいまして。少しお待ちください」

 

 後ろに人が居ない事を確認してから、一度大きく翼を伸ばして、熱を逃がす。

 

 血が身体を巡り、物凄くスッキリとした。

 

 仕方ないとはいえ、背中が見えないように翼を畳んだままと言うのは、少し辛い。

 

 ついでに少し羽ばたいて筋肉をほぐしておく。

 

「……」

「どうかしましたか?」

「いや、トリニティに一人でかい翼を持っている奴を知ってるんだが、それ以上にでかいと思ってな。飛べたりするのか?」

「銃を外せば飛べますね。ただ、飛んでもこの大きさなので、的にしかなりませんが」

 

 片翼約二メートル。全て広げれば約四メートル。

 

 おまけに四枚あるので、簡単に当てられるだろう。

 

 まあ撃たれたところで、マシンガン程度ならば少し痛い程度なので、飛行には問題ないけども。

 

「ヒナ委員長も飛べるみたいだけど、飛べる意味ってあるの?」

「私の場合は銃の関係でありますね。下手に水平に撃ちますと、思わぬ被害が出てしまうので」

 

 もしもあの装甲車を破壊する時に、水平に撃っていたら、壁かどっかの施設も巻き添えになっていただろう。

 

 これからも公共の場で銃を撃つ時は、権力者から許可を貰ってから撃つようにしよう。

 

 私が暴れれば、その分被害額が上がってしまう。

 

「そう言えばあのクレーターを作ったのはエリスだったな……っと、着いたよ。此処が噂の店らしい」

 

 足湯のある通りからしばらく歩くと、イオリさんが足を止める。

 

 見た限り、洋菓子の専門店だろうか?

 

 そう言えば案内とは言え、足湯に浸かったりスイーツを食べに来ても良いのだろうか?

 

 ……ゲヘナだし良いのかな?

 

「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」

 

 店員の指示に従い、テーブル席へと座る。店内は落ち着いた雰囲気であり、珈琲やチョコレートの匂いがほんのりと漂っている。

 

「良いお店ですね。何が美味しいのでしょうか?」

「チョコレートクッ……いや、私も初めてだから分からない。メニューに書いてあるんじゃないか?」

 

 イオリさんは誤魔化すようにメニューを取り出し、私に渡して来た。

 

 実は何度か来たことがあるのだろうか?

 

 それともいつか来ようと思って、リサーチとかかな?

 

 メニューは……チョコレート系のスイーツが多いな。

 

 ゲヘナって治安が悪いと言われている割に、案外観光地として栄えているのかな?

 

 後でSNSとかで調べてみるとしよう。

 

 オススメは……スフレチョコレートケーキと、焦がしチョコレートクッキーか。

 

 食べようと思えばどちらも食べられるけど、ここはクッキーと珈琲にしよう。

 

 注文は店員に直接ではなく、タブレットか。

 

 何となく未来感があるな。

 

「私は決まりましたが、イオリさんは大丈夫ですか?」

「大丈夫だ……ってお前」

「はい?」

 

 自分の分を選んでイオリさんに渡すと、何故か睨まれてしまった。

 

「……いや、何でもない」

 

 イオリさんはタブレットを操作して、注文を完了してから元の場所へと戻す。

 

 一体どうしたのだろうか?

 

「お待たせしましたー」

 

 直ぐに店員が頼んだものを運んできてくれたが……成る程、被ってしまっていたのか。

 

 私が頼んだ物を見て、違うものを頼むか悩んだ挙句、一緒の物にしたのだろう。

 

 イオリさんはクッキーが好きなのだろう。

 

 ニコっと微笑んでいると、また睨まれてしまったので、とりあえず焦がしチョコレートクッキー食べてみる。

 

 ザクっとした触感に、チョコレートがほろ苦くて美味しい……これは当たりだな。

 

 帰りにお持ち帰りして、ヒフミさんへのお土産にしよう。

 

 何やらあのキモイ鳥……じゃなくてペロロ様……じゃなくてペロロとのコラボパッケージの奴もあるみたいだし、喜んでくれるだろう。

 

 コーヒーはまずはブラックで飲んでみたが、チョコレートとはまた違った苦みが心地よい。

 

 これからは基本ブラックでも良さそうだ。

 

「美味しいですね」

「ああ。気になっていた店だが、来てみて正解だった」

 

 あっ、やっぱり来たかったから来たのか。

 

 もう取り繕っていないみたいだけど、美味しくて忘れてしまっているのかな?

 

 イオリさんの尻尾がくるりと動き機嫌が良さそう――あっ。

 

「あの……大丈夫ですか」

「……」

 

 窓ガラスが砕け、飛んできた銃弾がイオリさんの頭へと直撃した。

 

 ガラス片でクッキーや珈琲は台無しになり、イオリさんの顔に影が差し込む。

 

「何がアウトローじゃ糞ヤロー共が! 文句があるなら掛かってこいや!」

「ええ。望み通りやってあげるわ。ムツキ!」

「まったくアルちゃんったら、しかたないなー」 

 

 銃弾が飛んできた方を見ると、先程足湯で隣に座っていた少女が、不良達と睨み合っている。

 

 不良の内一人が銃を構えているので、その流れ弾だろうか?

 

 折角のクッキーが台無しである。

 

「――少し待ってな。馬鹿共を捕まえてくる」

 

 ふらりと立ち上がったイオリさんは銃を肩に担ぎ、今にも飛び出そうとしている。

 

「私もお供します。見ての通りですので」

 

 イオリさんのが駄目になったという事は、私のも一緒にガラス塗れとなっている。

 

 正当防衛をするには丁度良い。

 

「……それなら仕方ないな。けど、私の指示には従うようにな」

「はい」

 

 イオリさんが店から飛び出し、店員さんに直ぐに戻ると断ってから私も外へ出る。

 

 ガラスが割れたのは私達の所だけではないので、片付けが終わるまではクッキーをお代わりするのは無理だろう。

 

「風紀委員会だ。痛い目見てから捕まるか、ボコボコにされてから捕まるか選びな」

 

 それは絶対にクッキーの恨みを晴らすという事だろうか?

 

「何が風紀委員会だ! 纏めてぶっ飛ばしてやる!」

「そうだそうだ! 一人くらい大したことないぜ!」

「やるぞテメーら!」

  

 不良達が八人に、別に二人。

 

 足湯で会った少女は私を見て驚いているので、イオリさんの後ろで手を振っておく。

 

「そっちの二人は被害者か? 被害者なら直ぐに逃げな。でなければ、纏めて捕まえるよ」

「え? 私達は……」

「今だ! 撃てー」

「チッ!」

 

 イオリさんが話している間に、不良達は銃を発砲して来た。

 

 見境なし……か。イオリさんは軽やかな身のこなしで弾を避け、近くの遮蔽に隠れながら銃を撃つ。

 

 完全に置いてけぼりにされたので、私は二人の少女を庇うために、地面を踏みぬいて跳んだ。

 

 

 

 

 

 

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 陸八魔アル。彼女がエリスと出会ったのは、偶然だった。

 

 昔の自分を捨て、高校デビューを決めようとして幾星霜……程ではないが、それなりの月日が経った。

 

 中々上手くいかない日々にも慣れ始め、疲れを癒そうと足湯をしに来た。

 

 無料という事もあり足湯は混んでいるためか、ほとんど埋まっていたのだが、一ヶ所だけまるで避けられるように空いており、アルは腰を下ろした。

 

「隣良いかしら?」

「はいどうぞ」

 

 随分と立派な翼を持っているのが見えたが、今は疲れを癒すのが先決だった。

 

 いや、そもそも疲れていなければ、見るからに訳ありの少女の隣になんて、座ろうとはしなかただろう。

 

 頭が回る位まで疲労が回復したアルは、ふと隣の少女を見た。

 

(え、なに? もしかしてトリニティの生徒? 嘘、何でこんな所に居るのよ!)

 

 今更になって隣に誰が居るのかが分かり、アルは顔を白くするが、かと言って直ぐにこの場から逃げるのは、アルの中のアウトローに反する行為である。

 

「その姿でゲヘナまで来るなんて、中々凄いじゃない。絡まれたりしなかったの?」

「一度だけ絡まれましたが、それだけでですねー。こんなものを背負っているので、そのせいかもしれませんが」

「……えっ」

 

 冷静を装って話しかけるが、言われた通りにしっかりと背中の翼を見ると、アルが持っている銃よりもゴツイのが二丁、翼に装備されていた。

 

(えっ、トリニティってこれが普通なのかしら? これだけ大きければ、痛いじゃ済まないわよ! それにしても、こんな子に絡むなんて……) 

 

 色々と驚かされたアルだが、よくよく見ればエリスはただのお嬢様にしか見えない。

 

 話し方は勿論、見た目や汚れの無い翼はまるで籠の中の小鳥だ。

 

 少し似つかわしくない銃を装備しているが、それ以外は誰もが想像するお嬢様みたいな見た目だ。

 

「おい、そろそろ上がるぞ」

「分かりましたー。それではまたご縁がありましたら」

 

 お互いに名乗る事無く、エリスは足湯を上がり、イオリと帰っていってしまった。

 

 運が悪い事に、アルからイオリを見る事が出来ず、イオリの声もアルには届いていなかった。

 

 この届いていなかったは声量が足りないのではなく、アルの頭が真っ白だったからだ。

 

 一人残されたアルはしばらくしてから我に返り、足湯から上がる。

 

「あっ、アルちゃんじゃん。やほー」

「ムツキ。こんな所に来るなんて、珍しいわね」

 

 大きなボストンバッグをぶら下げながら歩くムツキは、アルに駆け寄った。

 

「ちょっと気になってたものが売ってるって情報が手に入ってね。その帰りだよ。アルちゃんは?」

「私は……ちょっと足湯に、入りに来てただけよ。休むのに丁度良いと思って」

「ふーん」

 

 ふと先程のトリニティの生徒の事が頭に過り、少しだけアルは言葉に詰まってしまった。

 

 その様子にムツキは不思議に思いながらも、それ以上は聞かずに一緒に歩く。

 

「最近あまり学校に来てないけど、忙しいの?」

「ちょっとだけよ。ただ……いえ、何でもないわ。そう言えば近くに美味しいスイーツのお店があるらしいけど、良かったらどう?」

「くふふ。良いね。いこっか」

 

 あからさまな様子のアルに対して、 ムツキは追及をしない。

 

 ムツキはアルの幼馴染であり、高校に進学すると共に変わろうとしているのを知っている。

 

 しかしそれは上手くいかず、燻っている事も、また知っている。

 

 そんなアルが腐っていく様を見るのはムツキとしては嫌だが、アルならばきっと立ち直り、凄い事をやってくれるのではないかという、期待もある。

 

 だから、ムツキはまだアルの事を見守るだけだ。

 

 だが、もしも……もしもアルが心半ばで倒れるというのならば……。

 

「イタ! おい、どこ見て歩いてるんだおらぁ!」  

「イタって……今あなた達がぶつかって来たでしょうに……」

 

 アルとムツキが歩いていると、あからさまに壁を作り、態々ぶつかってきた不良達が居た。

 

 無論当たる前にアル達は足を止めたのだが、そんなのはお構いなしである。

 

「これはあれだなー。服が汚れちまったから、クリーニングに出さないとだなー…………つーわけで、有り金全部置いてきな」

「あらら。どうする? アルちゃん?」

 

 不良達はアル達に威嚇射撃をし、辺りに居た一般市民や生徒達はそそくさと逃げていく。

 

 銃弾はアル達に当たることはなかったが、壁や店のガラスに当たり、相応の被害が出ている。

 

 僅かに動揺を露にするアルとは違い、ムツキは驚くこと無くアルに話し掛ける。

 

 ムツキからすればこの程度、周りの被害を気にしなければどうにかなる相手だ。

 

 多少怪我をするかもしれないが、最悪は起こらない。

 

 昔のアルならば、不良に絡まれれば怯えることしか出来なかった。そして、もしもムツキが傍らに居なければ、昔と同じ様になっていたかもしれない。

 

(変わらないと! そうじゃないと私はいつまでも……)

 

「――やるわよムツキ。ここで逃げるのは、アウトローじゃないわ」

 

 やる気を見せるアルに、思わずムルキはニッコリと笑う。

 

「何がアウトローじゃ糞ヤロー共が! 文句がるなら掛かってこいや!」

「ええ。望み通りやってあげるわ。ムツキ!」

「まったくアルちゃんったら、しかたないなー」 

 

 アルに付き纏っていた暗い影は晴れ、愛銃を構える。

 

 しかし……。

 

「風紀委員会だ。痛い目見てから捕まるか、ボコボコにされてから捕まるか選びな」

 

 いつも以上に機嫌の悪いイオリが現れ、流れが変わった。

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