翼を得た少女は自由の意味を探す   作:ココア@レネ

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色々な珈琲を飲んできましたが、やはりマンデリンが一番でした。紅茶はウパで、ミルクティーで飲むのが好きです。


第14話:ゲヘナの案内(地獄編)

「お、終った……これを明日から一人でなんて……」

 

 想像を絶する忙しさを乗りきり、片付けか終ったところで、フウカさんが崩れ落ちる。

 

 あまりの忙しさに、まともに世間話すらする時間が取れなかったけど、フウカさんは二年生ではなくて一年生であることだけは分かった。

 

「お疲れ様です。大丈夫ですか?」

「あ、エリス……ちゃん……今日は本当にありがとうね。エリスちゃんがいなかったら、本当に危なかったわ」

 

 料理の一部や皿洗いは機械がやってくれるが、フウカさん一人では間違いなく回せなかった。

 

 個人的に十人くらいは欲しい仕事量であったが…………明日から大丈夫なのかな?

 

「私がやりたかったからやっただけなので、気にしないで下さい」

「……エリスちゃんの様な子がゲヘナにも居ればな……こんなところに入っちゃ駄目よ?」

 

 母校をこんな所と言っては駄目な気もするが、それもゲヘナクオリティなのだろう。

 

 自由に生きるならゲヘナ程良い場所はないけど、責任感のある人はただ苦労しそうだ。

 

「入学については考え中です。今のところどの学校も特色があり、悩ましいところですけどね」

「ハルナに目をつけられている以上、ゲヘナは止めておいた方が良いと思うけど……入学をするなら、歓迎はするわ」

 

 フウカさんは疲れた笑みを浮かべるが、残念ながらゲヘナに入ったとしても給食部だけはない。

 

 私が欲しいのは自由であり、労働による縛りではない。

 

 最後にテーブルも拭き終え、ウェポンハンガーを装備し、フウカさんとお茶を飲んでいると、ふとフウカさん以外の足音が聞こえた。

 

「ちゃんと居るわね」

 

 声のする方を見ると、トレインジャックの犯人を華麗に制圧していた少女が居た。

 

 私ほどではないが長い銃を持っていて、見た目と違って凄い威圧感がある。

 

「あ、委員長」

「私にもお茶を貰えるかしら」

「はい!」

 

 フウカさんは駆け出して行き、私の前に少女が座った。

 

 近くで見ると、とても疲れている様に見えるな……。

 

 化粧で隠しているみたいだけど、薄っすらと隈も見える。

 

 風紀委員会の腕章を付けているが、一体何の用だろうか?

 

「色々とあるけど、まずは自己紹介ね。私は空崎ヒナ。風紀委員長よ」

「私は白凰エリスと申します。電車ではお世話になりました」

 

 ペコリと頭を下げる。

 

 そう言えばヘイローと髪が気になっていて、あの時は腕章に気付かなかったな。

 

 分かっていたから何かあった訳ではないけれど、多分ハルナさんとの出会いは変わっていたかもしれない。

  

「気にしなくて良いわ。それが仕事だもの。質問だけど、学校はどこかしら? 住んでいる自治区は?」 

「学籍は持っていません。住んでいる場所も今はないです。少し込み入った話になるのですが……」

 

 ハルナさんにも話した様に、あれこれと記憶が無い事と、学校回りをしている事を話す。

 

 既にアビドスとミレニアムを周り、ここで三校目になる事も。

 

 途中でフウカさんが戻って来て一緒に聞いていたが、何故か「大変だったね」と同情された。

 

 この話を入学するまでに、あと何回することになるやら……。

 

「そう。ゲヘナまではどうやって?」

「ハルナさんに案内をして頂きました。因みにハルナさんはどうなりましたか?」

「……どういう事かしら?」

「実はゲヘナ学園に向かっている際に、ハルナさんのテロに巻き込まれまして……」 

 

 あのレストランで起きた事を話すと、ヒナさんは私に向かって謝り、フウカさんは怨嗟の声を零す。

 

 ヒナさんが知らないって事は、ハルナさんは捕まらずに逃げ遂せたのか……凄い人だな。

 

 しかし、ここで少し仕返しをするのもありかな?

 

「宜しければ此処に呼びましょうか? おそらく来ると思いますが」

「いいわ。探すのも風紀委員会の仕事よ。身内の事で外部の助けを借りることは出来ないわ」

 

 ……断られてしまったか。

 

「分かりました」

「次だけど、その翼にあるのは本物?」

「はい。お店にあったクレーターを作ったのも、この銃になります」 

「見た目はトリニティが似合いそうだけど、中身はゲヘナでも生きていけそうね」

「誉め言葉として受け取らせていただきます」

「トリニティでもやっていけそうね」

 

 ズズズとお茶を飲み、ほっと一息つく。

 

 見た限り警戒心は持たれてはいるが、敵対心まではいっていないので、問題は無いだろう。

 

 電車での戦いを見た限り、ヒナさんは物凄く強い。 

 

 遠距離でならばともかく、この距離ではヒナさんの方が有利だろう。

 

「ふぅ。問題を起こさないなら好きにして構わないわ。個人的にゲヘナへの入学は勧めないけど、ゲヘナを選んでくれた時は歓迎するわ」

「ありがとうございます」

「それで、無関係の人を働かせていた訳だけど、何があったの?」 

 

 私への質問は一旦終わり、矛先がフウカさんの方に向く。

 

 言葉に少し棘があるが、私が言った事はただの善意であり、お金が出る事は無い。

 

 そしてお金を出す余裕は給食部には無い。

 

 お金には余裕があり、不良から巻き上げているので問題は無いが、ゲヘナ学園としての面子の問題なのだろう。

 

 舐められたらそれで終わりみたいな学園だし。

 

「うっ……実は、私以外の給食部の部員が全員辞めてしまいまして……食堂を閉めるわけにもいかなく、エリスちゃんに手伝って貰いました」 

 

 あっ、ヒナさんが目を閉じて動かなくなった。

 

 ハルナさんを始め、苦労してるんだろうな……。

 

「人員の当ては?」

「ないです」 

「……使えるか分からないけど、数名貸し出すから、来年度までには何とかして」

「頑張ります……」

 

 完全に他人事であるけれど、大変そうだなー。

 

「エリスはこれからどうするつもり?」

「そうですね……風紀員会本部と部室棟を回ってみようかと思っています」

 

 第一校舎については食堂に向かうまでにハルナさんから話を聞いているし、第二校舎の方は見たので、見なくてもそれはそれで良い。

 

 この後ヒナさんは多分本部に戻るだろうから、それに便乗しようという魂胆である。

 

「本部をね…………一人案内役を付けるわ。その子に従うなら、見て回っても良いわ」

「本当ですか! ありがとうございます」

「その代わり、絶対に指示には従うようにね。此処では何が起きても保証出来ないから」

 

 それはもう此処に来るまでに十分理解している。

 

 単純なダメージならウタハさんとの出会い頭が一番だけど、ハルナさんの爆破も中々のインパクトであった。

 

 普通の生徒ならば一体どうなっていた事やら……。

 

「本部の前までは私が連れて行くわ。お茶ご馳走様。あなたも頑張りなさい」

「あ、はい。ありがとうございます」

 

 立ち上がったヒナさんいい続いて私も立ち上がり、フウカさんに別れの挨拶をする。

 

 今度会う事になるのがいつか分からないが、どうか強く生きて欲しい。

 

 

 

 

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 食堂を出たヒナは、後ろからついてくるエリスについて考えを巡らせる。

 

 案の定アコに頼んでいたエリスの情報は、一つとして見つかる事はなく、どこの誰で一体何が目的なのか、どうやって此処まで来たのか不明だった。

 

 トリニティ自治区に居る生徒と同じ姿をしているエリスが出歩いていれば、間違いなく因縁を付けられたり、囲まれて袋叩きにされてもおかしくない。

  

 それが不思議で仕方なかったが、理由を聞いて納得……とまではいかないが、それならば誰もエリスに因縁をつけないだろうと理解した。

 

 二年である黒舘ハルナ。美食研究会の部長であり、ゲヘナでは温泉開発部の鬼怒川カスミと双璧を成す問題児である。

 

 そんなハルナに連れられているトリニティ生と思われる少女を見掛けたとして、殆どの人間は今からハルナに食べられてしまうのだろうと恐怖する事になる。

 

 誰か好き好んで地雷原の足を踏み入れるか。そう言う事だ。

 

 ゲヘナ学園で普通に働いていたのは誤算ではあったが、とりあえず無傷で出会う事が出来て良かったと、ヒナはエリスをチラリと見る。

 

 エリスがトリニティ出身という情報も確証もなく、本人も違うと言っているが、それを信じる事はヒナには出来ない。

 

 大企業からの刺客。トリニティからのスパイ。ブラックマーケットの暗部。

 

 考えられる可能性はいくらでもある。

 

 キヴォトスで全く素性が分からない人間は基本的にあり得ない。

 

 学籍がそのまま身分証明となっているため、学生であるならば最低でも学園と年齢程度は調べれば出てくる。

 

 それは退学していたとしてもだ。

 

 ただ、本人が言う通う事が本当ならば、将来的には大きな力になる可能性がある。

 

 翼に備え付けられた、大口径の二丁の銃。

 

 カスタマイズとかそんな次元ではなく、一から作られたであろう一品物。

 

 どれだけの火力があるのか……。

 

「ミレニアムもそうですが、ゲヘナも広いですね」

「生徒数だけなら多分キヴォトス一よ。真面目に勉強している生徒は、キヴォトスで一番少ないだろうけど」

 

 時間的には授業が行われている時間だが、敷地内ではどう見ても授業なんてしていないゲヘナ生徒がちらほら見える。

 

 それはヒナにも言える事だが、どの学校もしっかりとテストで点数さえ出せれば、あまり授業の出席は煩くはないのだ。

 

「学校の見学だけど、アビドスやミレニアムはどうだったの?」

「アビドスでは学校を見学中に不良に襲われましたね。ミレニアムではこの翼に付いている、ウェポンハンガーの作製をする際に、暴走した機械に襲われたりしましたね」

 

 エリスは今の所毎回巻き込まれており、ハルナの言っていた通り、挨拶の代わりに銃撃戦をするのが当たり前なのかもしれないと、少しだけ考え始めている。

 

「……他も似たり寄ったりな様ね」

「ハルナさんのおかげだとは思ますが、誰にも絡まれないのは、ゲヘナが初めてですね。ハルナさんには巻き込まれましたが」

 

 悪を持って悪を征す。

 

 最も治安が悪いとされている場所とされているゲヘナが、今の所エリスへの被害は一番小さい。

 

 まだ初日だからというのもあるが、巨悪の近くに居れば、ゲヘナは案外平和なのかもしれない。

 

「それで……」

「あら? あれは……」

 

 ヒナが何か話そうとすると、ゲヘナ学園の一角で大きな爆発が起こった。

 

 直ぐにヒナのスマホがなり、ヒナは電話に出る。

 

「どうしたの?」

 

『温泉開発部が脱走しました! それにともない、収容していた生徒達が、うわぁー!』

 

 一方的に通話が切れ、ついでとばかりにまた大きな爆発が起こる。

 

 脱走の対処をしなければならないが、エリスも一人にするわけにはいかない。

 

 この様子では、案内を頼んだ生徒も鎮圧に駆り出されている事だろう。

 

 思わず眉間にシワが寄るが……。

 

「あの、私も着いていって良いですか?」

「どうして? 火中の栗を拾うようなものよ」

「もしかしたら将来通うことになるかも知れませんので、手助けを出来たらと思いまして。火力と耐久力には自信がありますので」

 

 エリスを一人には出来ず、かと言ってただ一緒に連れていくのは、風紀委員会として出来ないことだ。

 

 せめて見た目がゲヘナに相応しいなら、そもそも放っておいても良いのだが……。

 

 ヒナは悩みに悩み、そして……。

 

「……今日一日は、風紀委員会への体験入部ということにしておくから、何か聞かれたらそう答えなさい。それなら着いてきても良いわ」

「ありがとうございます」

 

 後々万魔殿に何か言われるかも知れないが、建前があれば取り敢えずは問題ない。

 

 正体不明のエリスを自由にしておくよりは、マシだろうとヒナは納得する。

 

 ヒナは現場に向かって走りだし、それをエリスが追う。

 

 最初は軽く、そして徐々にスピードを上げていくが、エリスは問題なくヒナのスピードに合わせて走る。

 

 遂にいつものペースまでスピードを上げるが、エリスは苦もなさそうな顔で走っていた。

 

「あ! 委員長!」

「状況は?」

「既に半分以上が壊滅しています。後数分もすれば、防衛網が破られそうです」

「ありがとう。エリスは……そうね」

「一緒に行かせていただきます。その方が安全でしょうから」

「ならついて来て」 

「え、トリニティ?」

 

 困惑する風紀委員会の生徒達をその場に残し、ヒナたちは前線へと駆けていく。

 

 何故風紀委員長が、トリニティの生徒と一緒に居るのか?

 

 その疑問が頭を巡るが、その事を考えている余裕はない。

 

 今は脱走者たちの鎮圧を、しなければならないのだから。

 

「押せー! 今ならばあの委員長も居ない! この隙に逃げるんだー!」

「温泉開発部に続けー!」

「気に喰わないが、今は逃げるのが優先だー!」

 

 どこから手に入れたのか、収容施設を背にして大量の少女達が銃を撃ちまくり、好きを見ては爆弾を投げている。

 

 周りを囲っている風紀委員会の生徒達は何とか拮抗しているが、時間の問題だろう。

 

 いまはまだ抑えられているが、外部から装甲車でも突入しようものなら、その時点で風紀委員会の防衛網は破られ、全員に逃げられてしまう。

 

「来たわ。前に出るから、立て直しなさい」

「わかりまし……え? トリニティ? 何で?」

 

 ヒナは銃のセーフティを外し、素早く銃口を脱走者達へ向ける。

 

「ヒナが来たぞ! 今だ!」

「待ってましたー」

 

 ヒナが出た瞬間に、大量のロケットランチャーがヒナに向かって放たれる。

 

 実は逃げようとすれば直ぐにでも逃げられたのだが、ヒナが居る以上はまた直ぐに捕まってしまう。

 

 なので態々ヒナが来るまで待機し、ヒナを倒せるように罠を張っていたのだ。

 

 破壊力は戦車に比べれば落ちるが、数撃てば流石のヒナにもダメージを受けて怪我をする。

 

「クッ!」

 

 ヒナは驚きながらも、冷静にダメージを最小に出来る方法を計算する。

 

 弾速は携帯式であるため遅いが、ヒナが避ければ後ろに居る背生徒達へ被害が出てしまう。

 

 全てを薙ぐだけのチャージをする時間はなく、それなりの被弾を覚悟しなければならない。

 

 ――そう、なる筈だった。

 

 ヒナが引き金を引くよりも早く、二本の光の筋がヒナの後ろから放たれ、全ての弾頭を爆発させる。

 

「うわぁー!」

「ばあぁかなぁー!」

 

 爆発の余波は脱走者達に広がり、更に光が建物の一部を壊し、脱走者達の頭上へと降り注ぐ。

 

 ヒナが振り返ると、そこには翼を広げ、二メートル以上もある銃を両手に構えたエリスが立っていた。

 

 銃身には光の線が走り、僅かながら銃口が光っているのが見える。

 

「大丈夫ですか? ヒナさん?」

「……ええ、助かったわ」

 

 威力の高さはを分かっていたつもりだったヒナだが、実際に見て肌で感じた事により、エリスの危険度を跳ね上げた。

 

 後ろからヒナを撃たずに、しっかりと助けた以上善人なのだろう。

 

 しかし、その銃口がヒナに。ゲヘナに向かないとは限らない。

 

 本来の威力が今ヒナが見た通りならばともかく、店に開いていたクレーターを考えれば、威力を調性出来るのだと分かる。

 

 最大威力……それがどれだけの威力なのか……。

 

 ヒナをもってしても、光の筋には思わず悪寒が走るほどの脅威を感じた。

 

 ヒナは構えていた銃を下ろし、エリスの後ろに居る風紀委員会の生徒達を見るが、何故か皆、エリスから顔を背けていた。

 

「残っている部隊は、倒れている生徒達を再び収容しなさい。それと、火器は全部取り上げるように」

「は、はい!」

「これがエロニティか……」

 

 ヒナからは見えないが、エリスはゼロカスタムを装備した関係で翼を広げ、背中を隠している翼を完全に開いてしまっている状態に、なってしまっている。

 

 よって、下着が丸見えなのだ。

 

 翼の広がりや、ロケットランチャーの弾頭を全て破壊したインパクトもあるが、目の前で背中を丸出しにされたインパクトも中々な物であったのだ。

 

 エリスはゼロカスタムを翼に収納し、翼を折り畳む。

 

 これで終わり……といかないのがゲヘナである。

 

 収容施設の入口付近で爆発が起こり、一台の装甲車が飛び出してたのだ。

 

 ヒナは警告もなく発砲するが、一撃では壊すには至らず、壊すよりも逃げられる方が先になると判断する。

 

「エリス」 

「承知しました。少し被害が出ますが、許して下さいね」

 

 再びエリスはゼロカスタムを瞬時に装備し、合体させる。

 

 翼をはためかせ大きくジャンプしたエリスは、その銃口を装甲車へと向ける。

 

 ほんの少しだけヒナは大丈夫だろうか考えるが、脱走する方が悪いと思考を放棄する。

 

 今のヒナは、かなり疲れているのだ。

 

 もしもヒナが普通の状態であれば、エリスに頼むなんて愚行をしなかっただろう。

 

 先程よりも強い光が放たれ、走り去ろうとする装甲車に着弾する。

 

 大きな爆発と共に装甲車は爆発四散し、中から数名の生徒が収容施設の方へと飛んでいく。

 

 見事なクレーターが出来上がり、この日、ゲヘナに新たな噂が広がる事となった。

 

 ――風紀委員長は天使の加護を受けている。

 

 少し先の未来、噂を知ったヒナは、少しだけ頬を緩めるのだった。

 

 

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