「どうですか?」
「美味しいです……はい」
ゲヘナ学園へ向かう前に、朝食の代わりを食べる事になったのだが、ハルナさんが用意したのは大量のたい焼きであった。
ニコニコ顔のハルナさんから、次々に渡されながら食べている。
確かに美味しいが、袋ごと私に渡してくれないだろうか?
まるで餌付けされている様に感じてしまう。
たい焼きは無難な餡子やカスタードから始まり、たこ焼きたい焼きやサツマイモたい焼きだったりとバラエティー豊かだ。
甘いだけではなくしょっぱい物もあるので、飽きる事はないが、ビジュアルがなぁ……。
私とハルナさんの身長差は、二十センチ位あるように見える。
二十センチ……私としては二百ミリの方が長さとして分かりやすいが、結構な差である。
生前の年齢は多分私の方が上である筈なのだが……少し恥ずかしく感じる。
「良い食べっぷりですわね。沢山買った買いがありましたわ」
「奢っていただいたのは嬉しいですが、何故手渡しなんですか?」
「聞いた話ですが、誰から貰った料理とは、相手次第ではいつもより美味しく感じるらしいです。なので、折角なので試してみたのですわ」
フフンとハルナさんは笑うが、それをする場合、たい焼きの元の味を知っていなければ意味がないのでは……。
……まあ、美味しいからつっこむのは野暮かしら……。
「しかし、ゲヘナに見学とは、本当に変わったお方ですわね」
「選択肢は少しでも多い方が良い物ですから。それに、入学しないにしても、顔を繋いでおいて損は無いと思うので」
「それは素敵な考えですわね。将来美味しい物が見つかりましたら、私に教えてくれませんこと?」
「覚えていたらで良いのでしたら」
二十個程あったたい焼きを、二人で食べながら歩いていると、ゲヘナ学園に着いた。
正直もっと絡まれるかと思っていたが、ハルナさんをみた生徒は軒並み逃げて行っていたので、それだけハルナさんは危険人物なのだろう。
それと、なにやら歩いてる最中に大きな爆発音があったので、私達に構ってる様な暇な不良はあまりいないのかもしれない。
ゲヘナ学園からも、護送車らしきものが何台も出て行っていたし。
「どうやら私達以外にも、騒ぎを起こしている方たちが居るようですわね。今ならば、落ち着いて学園内を歩き回れるかもしれませんわね」
「それは喜んだ方が良いのでしょうか?」
「挨拶の代わりに銃弾が飛び交い、握手の代わりにグレネードを投げるのがゲヘナでしてよ?」
ちょっと何言ってるが分からないが、SNSでもそこまで酷くは書かれていなかった様な……。
しかし、ミレニアムもそうだが、ゲヘナ学園もとても広いな……。
ただ、当たり前のように銃弾が飛び交っているのだが、これで落ち着いているのか……。
あっ、撃ち合っていた生徒が連行されていった。
「まずは無難に第二校舎へ行きましょう。あそこでしたら、この時間でも真面目に授業をしているはずですわ」
それって裏を返せば、真面目に授業を受けていない校舎があるということだが……しっかりと分けられているのなら、問題ないのかな?
案内されるまま第二校舎に入ると、防音になっているのか、ほとんど外の音が聞こえなくなる。
「あなたは……何故此処に来たんだ! 此処は真面目に勉強をする奴のための場所だ!」
「案内を頼まれまして。安心してください。私は何もする気はなくてよ」
「案内?」
入って直ぐに一人の生徒が、ハルナさんを怒鳴り付けて来た。
やはりハルナさんは、真面目ではない側の人なのだな。
分かっていたけど。
「案内って……なんでこんな奴がゲヘナに来てるんだ? どう見てもトリニティだろう」
「生まれがトリニティではなくて、訳ありな様でして。自分の道は自分で決めると、ゲヘナに来訪したのですわ」
「それは……なんて可哀そうな……それならば白い翼持ちだとしても無下にするのは悪いな。ゲヘナは誰でも受け入れるのモットーだからな」
ハルナさんが上手く言い包めた結果、とりあえず校舎内の見学は出来そうだが、ゲヘナにもちゃんと真面目な人は居るんだな。
そう言えばSNSで、ゲヘナでは風紀委員会がかなり頑張っていると書かれていたな。
流石にメンバーまでは私が見た限り書かれていなかったけど、その関係者がこの校舎に居るのだろうか?
「折角だ。私が案内しよう。ハルナはいらないが、ついてくるか?」
「はい。頼まれたのは私なので、御一緒させていただきますわ……うふふ」
ああ、ハルナさんが笑っている……。
仮にゲヘナに入学するなら、ハルナさんとは関わらない方が絶対に良さそうだ。
武器については特に触れられることなく、ゲヘナの生徒の案内で第二校舎内をグルっと見て回る。
第二校舎と呼ばれているが結構大きく、思いの外生徒が居る。
途中で窓の外から見える城みたいな校舎が第一校舎と言われたが…………窓ガラスが割れていたりするのが見える。
壁の清掃をしている生徒もいれば、壁を汚している生徒も見えるので、中々シュールである。
正直、もっと酷い生徒の集まりだと思っていたが、仕方なくゲヘナに通っている生徒も一定数居るのだろう。
それに、やり過ぎれば風紀員が鎮圧に動いてくれるので、酷い争いにもならないらしい。
あっ、そう言えば。
「質問なのですが、ゲヘナの生徒会はどの様な所なんですか?」
「生徒会? ああ、万魔殿の事か。あるのは知っているが、何をしているのかは知らないな。此処に居る生徒にとっては、平和に暮らせるかどうか以外は関心が無いし」
「ふふ。そうですわね。どちらかと言えば、ゲヘナでは風紀委員会の方が表向きは動いていると思っている生徒が多いかと」
「確かに、風紀委員会にはお世話になるが、万魔殿は誰がトップなのかも知らないな」
……それで良いのかゲヘナは……。
まあ争いさえ起きなければ良いと言う考えもあるだろうし、どうやら風紀委員会は基本的に独自で動いているらしいので、何かあれば直接風紀委員会に頼むのが普通らしい。
大抵の場合は頼むというか、お世話になるのがゲヘナの生徒の日常らしいが、多分更正とかは無理なのだろう。
しかしやはり翼のせいか、あまり良い目では見られないな。
トリニティとゲヘナは、昔から敵対関係にあるのは分かっていたけど、中々根深いものみたいだな。
何故かハルナさんにはその様な素振りは見られないし、案内をしてくれている生徒も、最初以外はとても親身である。
多分ゲヘナに入学すると、最初は苦労しそうだけど、なんとかなりそうな気もする。
「……第二校舎はこんなものだな。購買や食堂は第一校舎にしかないけど、外で食えば馬鹿共に巻き込まれる可能性は少ない。まあ追い返せる力があるなら問題ないが……」
第二校舎内を回り終えて、ホールまで戻ってきたところで、案内の生徒が私の身体を上から下へと見回す。
「……えっ、なにそれこわ」
今になって私のゼロカスタムに気付いたのか、ドン引きされてしまった。
どうやら本当に気付いてなかったらしい。
「それってダンボールで作った紛い物とかじゃなくて、本物だよな?」
「はいこの様に動かす事も出来ます」
ロビーはかなり広いので、ゼロカスタムをウェポンハンガーから装備して、それからまた戻す。
「なんだいそれは! メッチャカッコいいじゃないか! つか、よく振り回せるな」
「何故か筋力だけはありまして。流石に撃つことは出来ませんが、威力も相応にあります」
「へー、あたしはハンドガン位しかまともに使えないが、まあもしも入学を考えているなら応援してるよ。頑張れよ」
案内をしてくれた生徒に見送られて、ハルナさんと一緒に第二校舎を出る。
そう言えば結局名前を聞けなかったが……また会うことが出来た時で良いだろう。
「初めて第二校舎に入りましたけど、第一校舎とは違って静かなものでしたわね」
「……そんなに第一と第二って違うんですか?」
初めてなのかとツッコミをいれたくなるが、ここは堪えておく。
まだそんなにハルナさんと話したわけではないが、一々反応していては駄目なのだと学んだ。
「ええ。テストの時以外は、気が向いた時にしか行きませんが、少々刺激がありまして、面白いものでしてよ」
「授業に面白みを求めるのはどうなんでしょうか?」
「テストの点数が低いならまだしも、これでも高成績でして。問題ありませんわ」
そうか……問題ないのか……。
少し怖いが、このまま第一校舎も案内してもらうかな……。
購買とか食堂はこっちにしかないって言ってたし、通う事になったら嫌でも顔を出さなければならない。
そう言えば、ゲヘナの食堂は給食部が食事を作っていると書かれていたな。
ミレニアムの場合は外部委託とロボットで賄っていたが、ゲヘナでは生徒が作っている。
詳細はあまり書かれていないが、不味いと評判らしい。
うん。不味いらしい。
怖いもの見たさもあるので後で行ってみるつもりだけど、腑に落ちない点がある。
ゲヘナならば、不味い料理を作る生徒程度、皆で囲ってボゴボゴにしそうなものだが、その様な情報は一つとしてSNSには上がっていなかった。
どうしてなのかとても気になる。
「ハルナさんは、給食部に行った事はありますか?」
「ありますわよ。特に来年部長になる、フウカさんにはとてもお世話になっていますわ」
「お世話にですか?」
「はい。食堂では人手の関係であまり美味しくないですが、実際の料理の腕は中々な物でして。来年から更に大変になると思いますが、強く生きて欲しいですわね」
やはり料理の腕自体は有るのか。
来年部長ってことは、二年生なのだろうか?
「あまり良い噂を聞かなかったのですが、実際に給食部はどうなんですか?」
「人さえいればもっと良くなるでしょう。しかし、ゲヘナにそんな殊勝な方は極めて稀にしか入学してきませんわ。私の美食研究会も、基本的には食べる事が主流で、作ってまで食べる事はあまりないですわ」
つまり、人がいないなか量を作らなくてはいけないため、極限まで手を抜いた結果、不味くなってしまっていると。
なんともゲヘナらしい内容だが、多分被害者であるフウカさんとやらは笑えない状況だろう。
「百聞は一見にしかずとも言いますし、まずは給食部に寄って行きますか? 今でしたら、まだ平和でしょうから」
暇や忙しいではなくて平和って……まあ生徒の数を考えれば、食事は文字通り戦争なのだろう。
時間は……十時半か。
ハルナさんの言う通り、食事をしに行くには早いが、見学をしに行くには丁度良いかもしれないな。
一応知り合いらしいし、無下にされる事もないだろうし。
「分かりました。よろしくお願いします」
「ええ。私にお任せくださいませ」
ニコリと微笑み、ハルナさんは私の手を取って歩き出す。
なんで握るんですかね?