健康な脳みそから頑張ってエピソードを捻り出しました。
がんばりました。
———先生に自分の出自を話した、その日の夜。
眠る私は、重力の変わる感覚に身を震わせる。
淡い光に目を若干刺されながらも、目を覚ませば。
「———こんばんは、那奈さん」
いつもと変わらない柔らかい笑みを浮かべた女性———連邦生徒会長と。
「ようこそ……我らが、ベルベットルームへ」
長鼻の老人———イゴール。
…………そして。
『……やはり、ワレの存在は不要だったのだな……』
「スカルマン??」
机の上に、喋るスカルマンが居た。
なんで動いて、てか喋って、と困惑したが、その直後にスカルマンが発した言葉に意識が向く。
『
その言葉で、一つの結論に達した。
「君……あの時の、ペルソナ?」
私のその質問に、しょぼくれていたスカルマン(?)がこちらを向く。
『む……?あぁ、そうだ。ワレは以前、あの
「ペルソナのようなモノ……?いや、というか突き放されたとかそういう言い方はちょっと」
『うぬ……す、済まぬ……良い言い方が分からなくてだな……あの時も……』
不満を指摘するとまたもやしょぼん、と頭を下げるスカルマン(ペルソナ)。
「……いや、良いよ。よく考えれば突き放した事に変わりはないし、あの時の言葉は悪意とかじゃなくて「発破」だったってのも分かってるから」
『其れでも……』
「———はいっ!!ペルくんも那奈ちゃんもそこまで!今日はそんな話をしに来たんじゃありません!」
二人でうだうだと続きそうだった話が、連邦生徒会長の柏手と言葉で止められる。
話していた私としてもこの雰囲気が長く続くのは嫌だったので正直ありがた……というか。
「いつの間にちゃん付けで……」
「良いじゃないですか!
まぁ、それはそうなんだが……こんな自由で良いんか?とイゴールに視線を向ける。
「ふふ……今は言えば『余暇』。この学園都市の山場を越え、貴方の魂の成長を見届けた今は、何にも縛られる事のない緩やかな時」
「一旦のエンドロール後だから割と緩くても良いって事ね……」
そんなんでいいのか生徒会長、と視線を再び彼女に向ければ、その頬ははち切れんばかりに空気が詰まっていた。
「もー!なんで『やっぱコイツアロナしてるわ』みたいな目をするんですかー!」
『もごご!?れっ、連邦の者!?くるっ、苦し……!?』
あーあー、流れ弾でスカルマン(ペルソナ)が窒息食らってるし。
そろそろ止めよう?スカルマン死ぬよ?人形だから呼吸してるか知らないけど。
イゴールは孫でも見てるのか目を閉じたまま何も言わないし。
「どうせ、どうせ私はポンコツアロナですよぅ!青封筒しか出さないで『何やってんだアロナァ!』って言われてネットのおもちゃにされる可哀想なアロナちゃんですよぉ!!」
『もごごごご!!もごーーーー!!?』
「……」イラッ*1
「落ち着いた?」
「ごめんなさぃ……」*2
うるさいアロナを黙らせて、改めてイゴールに質問。
「……で、これまたどうして呼んだの?」
その言葉に漸く目を開いた彼が、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「———貴方は客人とは似て非なる存在。影の力を纏い、されどその行いは光を行く人。白でも黒でもない、混ざり合う灰色の魂……その成長を、私は嬉しく思うのです」
「前に教えてくれましたよね?隔絶された世界で侵入者の精神を喰らう敵、その『完成系』だと」
「……でもそれらは、結局私を『大人のように』させていただけだ。例え
前世と前々世、合わせて28年を生きて尚、私はまだ自分のことを成人……大人だとは思えていない。
『前々世が9つと、前世では……19だったか』
「成人の節目を経験していないと、どうしても『本当に大人になったのか』と思ってしまいますよね……」
「あぁ。どれ程に歳を重ねたと自覚していても、記憶と経験に残らないものは節目でもなんでもないから」
私の奥では、前々世の9歳の自分と前世の19歳の自分が未だに自身の成人を待っている。
……それが苦痛だとは思わない。
私の心がそれをしっかりと受け入れて、前に進もうとしているのだから。
それに———
「それに……
彼と、あの舟で別れる直前の事を思い出す。
『言ってしまうと、私からすれば君はまだまだ子供だよ。10を大人として……4か3くらいかな』
『えっ半分以下!?』
『そう、半分以下。だから……君が
『宿、題……』
『とは言っても、強制するとか最優先事項にしろとか……そういう事では全くないから、頭の片隅で小さく覚えている程度のもので良いよ……良いよ?』
『……あ、すまない。宿題とか久し振りに聞いて……その、宿題は?』
『そっか、それじゃあ——————漠然としたものでも良い。色々なものを見聞きして、体験して、協力しあって……そうして、君が『
『どんな大人で、在りたいか?』
『そう。これから君は、永い永い『死ぬ為の準備』を始める。その途中では、さっき言ったように協力や見聞、体験を続け、色々なものに出会い、別れるだろう』
『それを経ていざ再び私達と……あの子と向き合う時に……そこまでの時間を、『死ぬ為の準備』ではなく『家族に逢う為の準備』だと言えるようになって欲しい。その為に、君が自分で『どんな大人で在りたい』かを模索し、そしてそれに向かって進んで欲しいんだ』
『……そう、だよね。今度こそ、那月の親だと胸を張れるようになるんだ』
『今はそれだけで良いよ。でもきっとこの先、それと同じくらいに強い志が君の中に沢山現れる。君にとってそれは、これからの人生を鮮やかに彩る
『だから……
「———私の
大切なものを包むように、胸元で手を握ってそう言う。
その言葉がお気に召したのか、イゴールは突いていた鼻杖を辞めて緩やかな拍手で応えた。
「素晴らしい……
『ワレも、其の選択に称賛と敬意を』
スカルマンとニッコニコの連邦生徒会長が、次いで拍手をして彼の言葉に賛同を示す。
「
ゆったりとした動作で再び鼻杖をしたイゴールは、閉じていた瞳を開いて真っ直ぐに私を見た。
———貴方は、最高の客人だ。
「……貴方程の方から、そこまで言ってくれるとは」
「プラチナトロフィーですもんね!」*3
小さく笑みが漏れる。
「……とはいえ、これからも日常は続き、貴方の旅路は終わらない。『鍵』はその役目を終えて消えますが……」
「代わりに、私達からこちらを」
連邦生徒会長から差し出されたのは、裏面のカード。
ペルソナ4のカードの模様であるそれに触れた瞬間、私の心の中にあった何かが軽い音を立てて溶けて砕けたような気がした。
恐らく『鍵』が役目を終え、自壊したのだろう。
捲ってみると———
「……これは」
「どうやら、私の従者はかの客人達と最後に相対した際、栞を渡していたようで。それに倣い、再会を誓い、そしてこれからの日々を彩る為の目印になれば……と」
本を持った人間が、右の方を見上げながら歩き出そうとしている。
地面は草が生い茂り、背中を太陽が照らし、来たる始まりを祝福するかのような『
私の知っている、しかし既存のものとは全く違う模様のカードだった。
「貴方の旅路の成功を祈り、この『愚者』のカードを貴方への花向けと致します」
よく見れば、その旅人の姿には少し既視感があった。
「この旅人は……
『左様。連邦の者と境界の者、そしてワレがナンジの為に作ったカードだ』
新しい『鍵』としての役割のみのカードではあるものの、それが逆に心地良い。
ふわりと淡い光に包まれて私の胸の中に消えるカードを見届けて、私は前を向いて微笑んだ。
「ありがとう、三人共」
そう礼を言えば、次第に視界に靄が掛かり始めた。
———目覚める時間なのだ。
「
「また来てくださいね!次はお菓子も用意するので!」
『達者でな、死神よ』
「あぁ———また」
そう別れの言葉を言う面々に頷きで返したところで、私の意識は遠のき……そして、落ちていった。
胸の上の重さで、私は目を覚ました。
「———ん」
時刻は朝7時、窓からは雨の音が聞こえず、一日中晴天であると予感させる。
そして違和感のある胸元を見ると———
「……ヨルハ?」
「……ずび」
布団の下で私に抱き付くようにヨルハがくっ付いていた。
「ヨルハ、おはよう。朝だよ」
「ぐす……しゃちょぉ……———はっ!?朝!?」
肩を揺らせばすぐ起きた彼女だが、その手は依然として私の胴に回ったまま。
「おはよう、ヨルハ……で、なんで抱きついてるの?」
「あっ、おはようございます社長!……その、抱きついてたのはですね」
片手でメガネを取り出したヨルハがちょっとだけ気まずそうな顔をする。
「その……昨日、先生とお話ししていた事を……盗聴、してしまいまして」
「え゛」
次いで出た言葉に、私の喉からひしゃげたカエルみたいな言葉が出た。
「聞いてるのは悪かったと思ってますけど……その、あんな人生を聞いてしまうとなんかなみだがぁぅぁ」
「oh……」
話の途中で泣きじゃくり出したヨルハの背中を優しく摩りながら、天井を仰ぐ。
「盗聴器は全部外したから大丈夫」って言ってたのにどうしてくれるんだ先生ェ……
……取り敢えず、先生に抗議メールを送る所から始めよう。
私の
そんな私達を見守るように、銀色に煌めく愚者のカードが朝陽で反射した。
どうも、筆者です。
お読み頂きありがとうございます。
次のエピソードが掲示板回という事で、キャラが喋るエピソードはこれが最後となります。
一旦ではありますが、ここまで長い間追って頂きありがとうございました。
死神———水無瀬那奈を取り巻く29年の軌跡はここまで。
これからは、
日常編エピソードの更新はまちまちとなるかもしれませんが、どうか応援の程宜しくお願いします。
活動報告のリクエストもお待ちしておりますので、そちらも何卒。
それでは、次のエピソードでお会いしましょう。
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