宝箱からコンニチハ‼︎なんてしない   作:珱瑠 耀

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刈り取るさんが存在する世界線におけるブルアカでは、最終編が完結した後にモモトーク欄から特別なストーリーが読めるようになっています
死神と会話後に出現する「ストーリーを読む」タブを押すと「※このストーリーには残酷な描写が含まれます。宜しいですか?※」という忠告表示が出ます





その忠告を承認した先生のみが閲覧できる、死神さんの『今まで』のお話です。







最終編完結記念ストーリー「死を識るヒトはかく語りき」

———あの日(最終編)から約半月、キヴォトスの混乱は漸く収まり始めてきたところだ。

 

それまでは街中の混乱と、行方不明者(シロコ)のメンタルケアや騒動の終結など学校の垣根を越えて協力し合った。

 

それも落ち着きを見せ始め、私もやっと肩の荷が降りたというところ。

 

「"……———ふぅ"」

 

椅子に深く腰掛けて背筋を伸ばせば、ポキポキと関節が音を鳴らした。

 

シッテムの箱に目を向ければ、アロナとA.R.O.N.A.———プラナの二人が青い教室の中で仲良く話している。

 

———あの日、プレナパテスが最期に呟いた願い。

 

『———生徒たちを、よろしくお願いします』

 

彼は私以上に強い大人だった、心も、覚悟も。

 

そして———

 

「……先生、こんばんは」

 

「"……お疲れ様、死神"」

 

彼女(死神)も、例外ではない。

 

彼女からモモトークを貰ったのは、ほんの数日前のこと。

 

『近いうちに話をしよう』という短いメッセージを承認してから、初めての週末。

 

今日はアロナ達にお願いして、シャーレをお休みにしていた。

 

私よりも早くここに来ていた大人の、そして私達大人同士の、小さな話し合いの場だ。

 

以前よりも柔らかくなった表情を見て、そういえば彼女の笑顔を見るのは初めてだな、と思い返す。

 

「"好きなところに座って良いよ。私は珈琲とか淹れてくるから"」

 

「……あの、それなんだが……私は、珈琲の類が飲めないんだ」

 

「"ふふ、大丈夫!珈琲以外にもジュースとかお茶とかもあるよ!生徒達が差し入れでいっぱいくれるんだ"」

 

ちょっと照れている彼女の顔を極力見ないように、でもその表情はしっかりと目に焼き付けてからドリンクケースに向かった。

 

 

 

 

 

「ありがとう、先生」

 

死神が受け取ったのは、意外にもリンゴジュース。

 

聞けば飲む頻度が一番多いらしい。

 

「"さて……私としては、どんな話をされるのか気が気でないんだけれど……"」

 

前みたいに食生活で怒られそうな、そんな感じの。

 

「まぁ、先生の食生活についてはセリナから色々言われてるが……」

 

「"あ、言われてるんだ……"」

 

「……私の、出生についてだ。先生も気になっていただろう?あの船で、私が抱いていた子のことを」

 

そう切り出すと、私の口は言葉を出す直前で固まる。

 

どうにも返答できないでいる私に、彼女は目を伏せてコップの中身を少し飲んでから言った。

 

「身構えなくて良い。全部話す」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———先生は、転生という概念を知っているか?

 

……あぁ、漫画やアニメでよくあるようなものだ。

 

私は、それを2()()経験している。

 

……その反応になるのも、無理はない。

 

私がこうしてしっかり自覚したのも、キヴォトスに来てからだった。

 

元々は普通の家庭に生まれた、仲の良い幼馴染の居るごく普通の一人娘だったんだ。

 

クラスメイトと一緒に何か大きな事を為すのが好きで、皆と仲良くしたくて行動していただけの普通の小学生だった。

 

でもそうしてリーダーシップを執っていれば、小学生の内はそれをよく思わない者もいる訳で。

 

小学三年生になったあたりで、虐めについて知った。

 

……少し前から、幼馴染の付き合いが悪くなっていたのは知っていたんだ。

 

でもあの子は「ピアノを弾けるように習い事をしてる」って言っていたし、私はそれに違和感なんて感じられなくて。

 

ある時に忘れ物をして取りに帰ったら、誰も居ない階段で幼馴染が気の強い女子生徒数人に囲まれていたんだ。

 

……あぁ、怒ったさ。

 

そいつらが私の事をよく思ってないことも知ってて、それでいてあの子を標的にした事にも、あの子が虐められているなんて気が付かなかった自分にも。

 

無我夢中になって虐めっ子を追い払おうとして、その内の一人があの子を突き落とそうとしていて……私はそれを助けて。

 

代わりに、私が階段から落ちた。

 

痛みで点滅する視界も、力が抜けて遠くなっていく意識も、肩を揺らされて呼び掛けてくるあの子の声も、全部覚えている。

 

弱くて、ごめんね……って、小さく呟いたあの子の言葉を最後に、私は確かに死を体験したんだ。

 

———だから、訳が分からなかった。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

遠くなった意識がまた元に戻ったと思えば、目の前には知らない天井。

 

手足は動かず、言葉は発せず、身体は重く、知らぬ顔がある。

 

意味が分からず、呆け続けていた。

 

その衝撃に適応するのに、時間はかかる。

 

……今考えてみれば、この時点で既におかしかったんだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()事に。

 

()()()()()()()()()()()()()だなんて、親からしたら不気味極まりないだろう。

 

その顔はよく覚えている。

 

泣く事なく自分を見つめ続ける赤子に、段々と笑顔が消えていく。

 

舌が上手く回らず、喋る事も出来ぬまま私は売られた。

 

……そう、人身売買。

 

アレらは捨てて野垂れ死ぬかもという後ろめたさと売る事で金に変える選択に、後者を選んだ。

 

売買が確定した時の二人の安心したような、憑き物が落ちたような反応が最後まで私を一切見ていなかったのをしっかり覚えている。

 

……売られた場所は、違法風俗店だった。

 

アウトだが隠しているタイプの風俗店だったな。

 

表向きはネットカフェなんだが……いや、すまない。

 

話が逸れた。

 

そこで同じく『商品』とされていたキャストに混じって、私は育てられた。

 

まぁ大抵の事は前世で出来ていたのもあり、私は……5歳だったか?その辺りにはもう風俗嬢になっていた。

 

……だが、売られた場所が悪かったのだろうな。

 

少しすればキャストの顔ぶれが幾らか変わるし、部屋の中では喘ぎ声に混じって悲鳴や下品な笑い声も聞こえる。

 

ルールなんぞ形骸化して形だけのものだった。

 

酒やタバコは日常で、客によっては薬物を持ち込んだりなんて事も。

 

 

 

———そんな生活の中では、妊娠すらも日常の一つだった。

 

 

 

そもそも避妊もせずに酒や薬物を使うのだから、さもありなんと言うべきか。

 

妊娠によってキャストの数が減ると店の方に影響が出てしまう為にそのキャストに少しの休みをくれるので、むしろ妊娠初期が一番ゆったり休める、と私達は()()していた。

 

……私も、その辺りでようやく分かった。

 

 

 

妊娠中絶を乗り切ると、また店に戻されるんだ。

 

 

 

意味が分からないだろう?

 

私も分からなかった、当時の私を()()人の感性も、中絶した後の私を性懲りも無く買い続ける人の感性も何も。

 

…………先生?

 

……あぁ、まぁ……分かりたくないだろうな。

 

那月は……あの子は、()()()()()()()()()()()()

 

まぁ、生まれる前に死んでしまった訳だが……

 

中絶された日には、泣いて泣いて、涙も枯れた果てには笑えてしまった。

 

そうして笑ったのを向こうは「まだいける」と判断したのか、少しの間を空けて私を店に復帰させたんだ。

 

人の心なんぞ無い、利益と欲に塗れた屑の巣窟。

 

苦しみに耐え切れずに心を壊したり、薬物に逃げられるならまだマシだっただろうな。

 

でも中途半端に踏み切れなかったり精神が強い人にとっては地獄。

 

手放す事も逃げる事も出来ない、文字通りの地獄だ。

 

……あぁ、でも二年後には那月を妊娠できたんだ。

 

流石に二人目となると私に何か目につくものがあったのか、流産させずに仕事を続けさせられたが。

 

ああいうのは、やはり周囲の助けがあると辛さが変わる。

 

男は全く触れてこなかったから、逆に楽だったかもしれない。

 

だから、気が付かなかった。

 

いつの間にか、那月がキャストになっていた事に。

 

熱を出した日があったんだが、その時に男達が那月を唆したらしくてな。

 

疲れきった笑顔で『お母さんの役に立てたよ』と言われてしまうと、どうしても怒る事が出来なかった。

 

私は非道い親だと、苛立ちと嫌悪が止まらなかった。

 

泣き叫びたいのを抑えつけて、形ばかりのありがとうを言うしかなくて。

 

嘔吐と嗚咽を夜な夜な繰り返して、それに慣れた時にはもう那月は7つになる所だった。

 

 

 

———そして、那月が死んだのもその年だった。

 

 

 

首を絞められながら抱き潰されて死んでいた。

 

首に跡が残ったままの遺体を見下ろす事しか出来なかった私を見て、それでも男達は笑っていて。

 

那月の遺体が連れて行かれるのを、見ていることしか……抱き締めてあげる事すら出来なかった。

 

……

 

…………

 

……今思い返せば、あんな環境で那月がまともに生きられていたのは奇跡にも近いのだろうな。

 

あんな所、気を狂わせてもおかしく無いというのに。

 

……いや、まともでは無かったのだろうな。

 

私達が……()が一番まともだと思い込んでいただけ。

 

私と那月が二人で寄り添い寝る時だけは、あの時だけは本当の親子だった。

 

どれだけキャストの仕事が苦しくても、見知った顔が居なくなっても、私の事を母と呼んでくれる那月と二人きりでいる時だけが、私の人生だった。

 

……だから、那月が死んでから私も後を追った。

 

静かな浴槽に腕を沈めて、譫言(うわごと)のように那月への愛を呟いて。

 

浅くなってゆく呼吸と離れていく意識が、「やっと終われる」と安心感を与えてくれて。

 

 

 

———そして、目が覚めた時にはもう、ここ(キヴォトス)に居た。

 

 

 

心の中をぽっかりと空けた喪失感と、それを埋めるように大人になった肉体を持って、そこで……キヴォトスに詳しい()()()()の助けを借りて。

 

後の事は先生の知っている通りだ。

 

……くだらない話だっただろう、時間を割いてくれてすまない。

 

 

 

 

 

「"……くだらない、なんて事は無いよ"」

 

話が終わってお互いにコップの中身を飲み、重苦しい室内の空気を言葉で切り裂く。

 

「"君の今までの人生を馬鹿にするような発言はしない"」

 

「……そっか。なら、それでいいよ」

 

……この後は、特にお互い何かを言う訳でもなく解散となった。

 

死神は慰められたい訳ではなく、私も慰めたかった訳ではない。

 

今までの人生を生き抜いて、それでも学ぶ機会の少なかった彼女は今や立派な大人となっている。

 

そんな彼女の人生にとやかく言うのは、ある種の侮辱にも等しい。

 

ならば———

 

「"死神"」

 

「?」

 

「"そういえば、死神の本名を聞いてなかったよね"」

 

「?……———あ」

 

その言葉に少し考えてから、彼女は今気付いたように声を溢した。

 

「"今までは名乗りたく無かったとか、あるかもしれないけど……今なら、さ"」

 

「……まぁ、そうだね。じゃあ、改めて———」

 

目を伏せた彼女は、微笑みながら此方を向いて———

 

 

 

 

 

水無瀬(ミナセ) 那奈(ナナ)という。今後とも宜しく、先生」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———なお、翌日。

 

「"さて、今日も……あれ、死神からモモトーク?……って"」

 

『昨夜の話が盗聴されていたらしいのだが、どうしよう』

 

『ヨルハがくっついて離れない』

 

「"———ッスーー…………忘れてた"」

 

『どうにかしてよ シャーレでしょ』*1

*1
元は「しっぽきって やくめでしょ」のセリフ。モンスターふんたー(ハンターではない)におけるプレイヤーネーム「ゆうた」がマルチプレイ中の別プレイヤーに上から目線で言ったチャットが元々。今はちゃんとした社会人らしいですよ




※このエピソードで出てきた事件、事象、経営や場所、人物などは全て架空のものです。
実在のものとは一切関係がありません。
また、この作品は人身売買や風営法に違反した経営を示唆するものでもありません。



どうも皆様、筆者です。
このエピソードを最後に、最終編は一旦終わりになります。
ここに脳内掲示板と刈り取るさん時空掲示板、あといくつかの間話を挟んだらまた日常編に戻るかもしれません。

元々この最終編が始まった時から何回かお話ししてましたが、死神(もとい)水無瀬 那奈ちゃんの人生は最終編の構想があった時には既にざっくりと大元が出来てました。
そこに辻褄が合うように年数や時間を調整して、「これ本当に主人公の人生なのか?」という自問から目を逸らして、漸くこのエピソードを書き切りました。
もう、そのね、書いてて私も心が擦り切れちゃってね(←書いた本人)
アトラ・ハシースの箱舟でプレナパテスと何を話していたのかとか、箱舟脱出直後のお話しを間話には詰め込もうと思っていますので、次の更新をお待ち頂ければと思います。

また、このエピソードの投稿に伴って一番最初のエピソード「データのまとめなんてしない」を大幅に更新します。
こちらも更新に時間が掛かりますが、更新が完了次第新しいエピソードの後書きに追記致しますので、良ければご覧下さい。

それでは、一旦こちらで。
また次のエピソードでお会いしましょう。





余談ですが、一個前のエピソードでペルソナが刈り取るさんに「死ぬ必要のない所で死ぬ」と言ったのはこの最初の死のことです
本当はこのまま見殺しにしてればこんな過酷な人生を歩む事は無かったのに、という後の祭り満載な話をしてやがるこのペルソナ()

また、『親切な人』は脳内掲示板のスレ民達の事です(第四の壁貫通事案になるとしっちゃかめっちゃかになる事が分かっているので濁した)


ざっくり那奈ちゃんの時系列を書き出すと、
0歳 水無瀬(ミナセ) 那奈(ナナ)誕生
9歳 小学三年生、虐められていた幼馴染を庇って階段から転落死

0歳(9年目) 一度目の転生(理性持ち赤子になる)
2歳(11年目) 違法風俗店に売られる
5歳(14年目) 那奈キャスト勤務開始(源氏名:ナナミ)
10歳(19年目) 長女を妊娠、中絶させられる
12歳(21年目) 次女・那月の妊娠、出産
17歳(26年目) 那月キャスト勤務開始(源氏名:ナツキ)
19歳(28年目) 那月死亡、後を追って那奈が浴槽で自殺しキヴォトスに二度目の転生

現在(一応29歳) 刈り取るさんとしてキヴォトスで生活中

これが主人公の人生ってマジ?(←筆者)



随時更新の刈り取るさんのデータベース(更新に時間が掛かります)↓
https://syosetu.org/novel/349213/1.html


なんか刈り取るさんにして欲しい事を書き込む活動報告↓
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=315528&uid=276197
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