顔の筋肉すら動かさない貴女に、どんな感情があるというの?
機械的な通路を一人進む。
オォォ、という無音故に響くこの建物の音に、微かに鎖の擦れる音が重なる。
「アトラハシース……か」
確か、アトラ・ハシース叙事詩の主人公であるノアを指す語だった筈。
原作知識を持つ私からすれば、この船は差し詰め崩壊世界からの異邦人といったところか。
蠢く気配を遠くに、なぜか湧き立つ怒りと共に感じながら歩みを続ける。
バッドエンドを迎えてしまった世界のキヴォトス、そこに現れる三人の人物。
「
無名の司祭という存在がシロコを
近い内に、先生と対峙してその命を全うする存在。
……普通ならば、私をこうして
しかし、あの渦はシロコ*テラーの使う転移そのもの。
私と向こう側の間に因果関係が無ければ、私は今この地を踏めていないだろう。
……若干、
遭遇すらしていない私を呼ぶのならば、一体———
「ん」
と、そこで思考は強制的に途切れた。
途切れさせたというか、切らざるを得なかったというか。
何故ならば———その先の部屋が、
砂漠、と効いて浮かぶものと言えばアビドスだし、そこから連想させられるのは———
「ビナー、だろうな」
黒に侵された極彩色の機械蛇が、その砂漠の中から顔を出す。
自分の立つ場所に砂が入らないという違和感を見ても、色彩……いや、無名の司祭が関わっていると見ていいだろう。
後ろの通路はいつの間にか閉ざされ、私を先に向かわせるように圧を掛けている。
「良いさ、その気なら……何度でも、消し飛ばす」
チリつく心の奥を鎮めるように、私は一歩を踏み出した。
メギドラオンは使わない事にした。
何故かなんて単純明快、使えばこの舟が消滅するから。
私はそこまでして原作崩壊俺TUEEEなんぞする気は一切ない。
物語はいつだって一人ではなく、大勢の人物が折り重なる事で成されるのだから。
という事なので———今回は物理縛りでビナーを倒したいと思います!*1
……まぁ言い方は冗談ぽいが、ちゃんとした理由も一応ある。
なんか普通に魔法耐性がクソ高くてすぐ回避するからだ。
恐らくキヴォトスで殺られたビナーの記録を色彩がサルベージした弊害だろう。
「
だがそれは、物理属性への耐性を疎かにしているのと同義。
「【チャージ】【ストリングアーツ猛獣】」
地面から
「あ」
『———ッッ!?』
したが、その威力があまり高くないに遅れて気づく。
そういえば【ストリングアーツ猛獣】は、攻撃後に攻撃力のデバフが発生するんだった。
「やるなら、【ギガントマキア】だったか……」
攻撃力低下は普通に痛いし、選択を間違えてしまったようだ。
減衰率は20%といったところだろうか……しかし。
「むしろ……もっと沢山、遊べるか?」
その眼差しに、ビナーが狼狽えた気がした。
『王女は鍵を手に入れ、箱舟は用意された』
「名もなき神々の女王、Al_1Sが承認します」
『「———此処に、新たな
静寂を切り裂く極光、折り重なる解釈上の存在を捕捉する穿孔、微かに現れた綻び。
それは、一つの小さな存在を犠牲にして成った。
この『解錠』で勇者の仲間は独り長い旅に赴き、静かに眠る勇者が涙を流した。
夢の中のでの冒険はまだ五人だけど———
自分の思い描いた冒険が、もう泡沫であることに気付かない。
また、いつか———そう飲み込んだ言葉を表すように。
無感情に画面を映す小さなロボットだけが、彼女の手の中に在った。
「この、クソマップ……———ん」
黒混じりの極彩色なビナーを斃した後。
あの砂漠が、何事もなかったかのように元の無機質な空間へと戻ってから少し。
【タルタロスサーチ】でマップを確認して、この空間がランダムに変化するタイプのクソマップだと分かった私が敵を処理する片手間に悪態を吐いたタイミングで、大きな振動を感じる。
「あ、マップ」
同時に、アレほどランダムに変化していたクソマップが一定の法則に則ったマトモなものに戻った。
クソマップ脱却である。
「……よしっ」
小さくガッツポーズをして、音の鳴った方向から自分の居る区域を探せば、自分が大体第二区間辺りに居ることが分かった。
ウトナピシュティムの本船は第一と第三の間辺りに刺さったっぽいので、向こうが合流するのはまだ少し先かもしれない。
……というより、こんなに先生達や私が荒らしてるにも関わらず、第二区間へのゲートは開かないのか。
それほどまでに私を
「……アヌビスが、やるとは……思えない」
恐らく、シロコ*テラーのいた世界線のキヴォトスに私は存在していない。
それだけの理由でここに閉じ込めるなら、あんなにありありと誘う必要は無いのではないか?
考察は回るものの、明確な答えには未だに辿り着けない。
「……良いや。直接、話そう」
色彩と接触したシロコ*テラーなら何か知ってるかもしれないし、その話は全部これが終わってからにしよう。
そうして、通路から現れた敵を撃ち抜けば、増援は一旦の終息になったようだった。
「……敵が、来なくなった」
今までは敵の出てきた横穴もすぐに塞がれてしまい、順路は実質大きな一本道となっていた。
が、今はその横穴も開きっぱなしだが……正直穴の形状的に良いルートとは思えない*2。
なら、一旦戦闘終了だろう。
ビナーを斃して部屋が戻ってもすぐに敵が現れたお陰で、攻撃力デバフを今までずっと引き摺ってしまった*3し、ようやくフラットな状態に戻れると言ったところか。
【勝利の雄叫び】で減った体力と気力が回復したのを確認して、バナナ味の飴を一口。
先生達の反応は先程までこちらに近付いていたが、どうやっても開けられないことが分かったのか引き返して第三区域の方へと引き返していった。
途中で転移の反応もあったが、アレはシロコ*テラーだろう。
やはり自分を誘ったものと同一の転移……しかし、やはり共通点が死の神という部分(むしろ私は神であるかどうかすら怪しい)だけでは理が通らない。
もっと私とシロコ*テラーが引き合わされるような理由があれば良いのだが……これが全くもって浮かばないのだ。
幾ら私が世界線の誤差による別世界からの来訪者だとしても、そこから私をここで隔離させる意味は無い——————
では、私は
Reaper Archonの社長であり、キヴォトスの大人であり、魂を送る死神。
でも、それらではない。
私は、この世界の
「埒が、明かない」
気付けば、その場で座っていた。
凝り固まった肩を伸ばして、回り続ける問いを一旦溜息にして吐き出す。
それだけで、噴火しそうだった頭がすっと軽くなった。
まだ最終編も中盤の折り返しだろうし、まずは私もやる事をやらなければいけない。
ここで脳をパンクさせては、大事な場面で判断を下せないし……
「———?」
そんな私の思考を遮るように、1匹の青い蝶が眼前を横切った。
青い蝶…………ペルソナにおける現世に降りたフィレモンであったり、ファルロスだったり、『胡蝶の夢』の具現化であったり、運命の啓示であったりする存在。
私の目の前に現れた美しい模様の蝶は、ふわりと鱗粉を漂わせながら私の視線を釘付けにする。
そのままその蝶が右から左に飛んで行き……その先に、誰かが見えた。
「…………制、服?」
学生服にしては、薄汚れたそれを着た女子。
……いや違う、この短期間で見慣れた黒い極彩色だ。
女子の体にそれらは
辛うじて理解の通る言語。
その言語の意味を反芻して、心臓が一際強く鳴った。
だって、あの髪型は、
しゃがれた声は、風邪を引いた時のようで。
化粧のように白い頬を汚す黒いソレは、僅かに赤みを残していて。
その首元には———
「色、彩?」
くっついて、なんかじゃない。
アレらは、
首に、目に、腕に、腰に、脚に、腹に、頭に、至る所を傀儡のように掴んでいる。
———あぁ、もう、今は考えるのを止めよう。
「———おい、
自分が出したことのない、途轍もなく低い声が出て。
ギリ、と血が出そうな程にハンドキャノンが軋んで。
「汚い手でッ——————」
漂っていた青い蝶を追い越して。
ベキ、と口の中で鉄の味が微かに香って。
「
繋がっていた鎖が五月蝿く鳴って。
ブツン、と紐が千切れるような音が響いて。
「触るなァァァァァァァ!!!!!!」
———
貴女の
「色彩」と「無名の司祭」のアレコレにオリジナル設定を付けました。
それに従い、この小説のタグに「鬱展開」を追加しました。
本日(2025/03/05)は通っている専門学校の卒業公演(学生最後のライブ)がありました
みーんな情緒がボドボドで涙を流す中私だけ平静を保っていたという(周囲が泣きすぎて逆に、というアレ)
みんな歌上手いから羨ましいですねー
本文と後書きの落差が激しすぎるのは聞かないでください
ちゃんと書きます
【ストリングアーツ猛獣】
敵単体に打撃属性で超特大ダメージ
使用後戦闘終了まで攻撃力が20%低下
【ギガントマキア】
敵全体に打撃属性で超特大ダメージ
【タルタロスサーチ】
現在地からのマップを生成する
内部が変化する場合はその都度更新される
【勝利の雄叫び】
戦闘勝利後にHPとSPが全回復する
随時更新の刈り取るさんのデータベース(更新に時間が掛かります)↓
https://syosetu.org/novel/349213/1.html
なんか刈り取るさんにして欲しい事を書き込む活動報告↓
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=315528&uid=276197