ブリーフィング
「なるほど、そういうことならもう少し穏便に連れてきて欲しかったものだ」
「すいません止められなくて」
全員に紅茶を出しながら静希が詫びると熊田は周囲を見ながら怪訝な顔をする
「なんというか、すごい部屋だな」
「そう言えば熊田先輩は静希んち来るの初めてでしたっけ?すごいっしょこの機材」
「いや、機材ではなく・・・」
熊田が言っているのは悪魔、神格、そして熊田は初めて見る金髪の女性が同じ空間にいるこの異様な状況についてのようだ
確かに入学当初、おおよそ二ヶ月前からは想像もできないことになっている
「シズキー茶菓子も出しましょうよ、クッキーなんていいんじゃない?」
「ふむ、ケーキを出すには少々早いな、クッキーで手を打とう」
「貴方達少しは自重しなさい」
悪魔と神格が結託して茶菓子を要求している中ただ一人オルビアが止めに入っている
砂漠の中のオアシスのような存在だと心癒されながら静希は大皿にクッキーを盛り付けて全員の前に出す
「一応熊田先輩にも紹介しておきます、部外秘ですけど俺の所有する霊装という扱いのオルビアです」
静希が自分の隣にオルビアを立たせ紹介するとオルビアは姿勢をただし頭を下げる
「オルビア・リーヴァスと申します、マスターともどもよろしくお願いいたします」
「熊田春臣だ、よろしく頼む・・・とはいえ霊装・・・また厄介なものを抱え込んだな」
苦笑いしている熊田だがもう何が来てもそう驚くことはないというかのように肩をすくめて見せる
「霊装ということは本体は道具か何かか?」
「私の本体はこの剣です、この家の中ではマスターの命により自由に行動させていただいています」
オルビアが自分の腰にさしてある剣を抜いて全員に見せる
その刀身は美しく輝き、一片の曇りもない
「なるほど、五十嵐に心強いお供が増えたということか」
「お供って・・・あいつらそんなタマじゃないですよ」
二人の人外、特にメフィを見ながら静希は呆れる
お供というにはメフィは力があり過ぎる
もちろん邪薙とて人間に比べれば相当高い能力を有しているが、メフィの場合性格上の問題で危険だ
何よりもまず気まぐれで行動されては静希もコントロールしきれない
「新顔の紹介も終わったんだ、鏡花本題に入ろうぜ」
クッキーを口の中に放り込んで鏡花に話をせかす陽太を発端として全員の緩んだ空気が一瞬引き締まる
さて今まで非常に面倒事を押し付けられてきた静希達だ、今度はどんな厄介事面倒事を押しつけられることだろうかと身構えている
「あんまり身構えなくてもよさそうだけど、形式上しっかり言わせてもらうわね、今回の任務は第一回の実習と同じ害獣駆除、委員会の審査では九割の確率で奇形種であると判断されてる」
鏡花の言葉に全員、特に雪奈が笑みを浮かべる
「奇形種か、いいね、ただの動物よりずっといい」
「一年が主体だぞ、俺達は補助に回るべきだということを忘れるな」
「ていうかたぶん熊田先輩と明利に一番働いてもらうことになるかもしれないです」
その言葉に鏡花以外の全員が疑問符を飛ばした
熊田はともかく明利に戦闘能力はほとんどない
奇形種相手なら一番働くのは陽太か雪奈ではないのだろうか
「先に目的地を言っておくわね、目的地は支倉町、依頼者は支倉町の漁業組合、静希今のうちに町の資料を出しておいてくれる?」
「わかった」
全員に任務詳細の資料に目を通してもらっている間に静希はパソコンで支倉町の情報を探し出す
支倉町はどうやら町の中心を流れる川で行われる漁業が有名な土地らしい
釣りのスポットとしても名所と呼ばれるくらいに名が通っているらしく町のHPから釣りサイトなどのリンクが張られている程だった
山から流れる新鮮で綺麗な水と、そこに住む魚でどの季節でも釣りを楽しむことができるらしい
そのことを鏡花含め全員に伝えると鏡花は別の資料を取りだす
「静希の言う通り今回は水辺にすむ生物の奇形種である可能性が高いわ、魚である可能性も否定できないんだけど・・・」
「なんだよ、妙に歯切れ悪いじゃんか」
陽太の言葉に鏡花はうぅんと唸って資料の中から一枚の紙を取り出す
「資料があるんだけどね、これが今回の目標、ピントが合ってないからぼやけてるけど」
鏡花が出した資料には赤い色をした胴の長い何かが映っている
恐らく頭部であろう部位の近くには胴体から伸びたハサミのようなもの、そして頭部には髭のような部分があり体中からは鋭いとげのようなものがあるのが把握できる
全体的にピントが合っていないせいで風景も何もかもがぼやけてしまっている
だがそれが真上から撮られているものだということが分かった
そして静希と陽太はその輪郭からそれがなんであるか、何とはなしに理解できた
「今回の目標は、ザリガニよ」