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J/53  作者: 池金啓太
五話「五月半ばの家族の一日」
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情報漏洩

「せっかく久しぶりに陽太に会えると思ったんだがな・・・プレゼントも無駄になってしまったか」


「実月さんもう帰っちゃうんですか?」


「あぁ、時間がなくてね、帰りはさすがに飛行機だ、いろいろとやらなくてはいけないことがたくさんあるんだよ」


時刻は今四時を回ったところだ


海外の大学でいくつかの研究も手掛けている実月は非常に多忙だ


今日も時間を作るために相当無理をしたのだろう


実月が少しさみしそうにプレゼントを眺めているのを見て静希は鏡花に向けてメールを出す


内容は今どこにいるのかこれからどこに行こうとしているのかというものだ


返信はすぐきた


静希は内心陽太に謝罪しながら携帯を閉じる


「さあ実月ちゃん、空港まで送るよ」


「はい、ありがとうございます」


「あー・・・実月さん」


二人が出ていく寸前に静希は実月を呼びとめる


「もし寄れたらの話ですけど、隣町の駄菓子屋に行ってみるといいかもですよ」


静希の言った言葉を恐らく実月は正しい意味で理解したのだろう


少し驚いた顔を浮かべてそのあと薄くほほ笑む


「ありがとう、静希君」


実月は和仁と共に退出していく


「ちょっと静、いいのばらしちゃって」


「いいんだよ、陽太も少しはあの人にやさしくすればいいんだ」


一人っ子である静希にとって兄弟というのはうらやましい存在だった


姉代わりの雪奈がいてもそれは姉ではない


自分のことを一心に想ってくれる姉などそうはいないだろうと断言できる


「でも陽太君はなんで実月さんが苦手なのかな」


「そりゃあんだけ愛してくれてるからだろ?陽太は両親からは疎まれてるからなぁ」


陽太は両親とは折り合いが悪い、静希も明利も雪奈も、陽太の両親と面識があるがそれこそ子を見るような目ではない


嫌いというのではなく存在が許せないという印象を受けた


そんな両親をまったく無視して姉である実月は陽太に愛情を注ぎ続けた


それはもう周りが見ていて煩わしく思う程に


陽太は直接感情を向けられるのが苦手だ


もっといえば歯に衣着せず感情をそのまま向けてくる相手が苦手だ


だからこそ鏡花とも相性が悪いのだが、実月はもっと相性が悪い


陽太の苦手の代名詞が実月と言っても過言ではないだろう


「あとはあの人がきちんとおめでとうを陽太に言えるかどうかだな」


「それは大丈夫でしょ、陽があの人の鉄拳を避けられるわけがない」


実月の放つ拳は格闘技よりもランクが一つ異なる


拳に対して部位狙いという概念が存在するのなら実月の放つ拳は急所狙い


人体のありとあらゆる急所に対しピンポイントで拳をめり込ませることができる


しかもその速度は人ならざる速さだ


頭脳明晰とはいえそこは陽太の姉、本来は身体を動かすことを好み、昔から護身用として各種格闘技を身に付けた


能力を使わない状況下なら静希の知る中で最も強い人物である


できる限り敵にはしたくない人物ナンバーワンだ


「ねえシズキ、あの子ほんとにヨータのお姉さんなの?」


「そうだよ、正真正銘陽太の姉だ」


「似てないってわけじゃないけど・・・なんか雰囲気違うわよね」


メフィの言葉に邪薙もオルビアも同意しているようだった


確かに陽太のような元気の塊が歩いているような人ではない、どちらかというなら元気を内に秘めたタイプの人間だ


「ですが口元は良く似ておられましたね、血縁ならではの類似点がいくつか見受けられました」


「あぁ、顔の形なんかも少し似ていたな」


「えぇー、そうだったかしら?」


やいのやいのと人外パーティーが実月に対して議論している中静希は手を叩いて静かにさせる


「三人ともそろそろ夕方だから帰ってくれ、時間的にちょうどいいだろ?」


とにかく父がいない今こそ三人を解散させる好機


これを見逃す手はないと静希は三人を玄関に向けて押していく


「え?帰るってだって私達は」


「そうですね、いつまでも厄介になるわけにはいきません、さあメフィストフェレス、邪薙私達はお暇しましょう!」


唯一オルビアだけが静希の気持ちを理解してくれたのか二人を引っ張って玄関に立つ


「それでは長々とお邪魔しました」


「これからも静希をよろしくね、この子無鉄砲なところあるから」


リビングの扉まで見送る母麻衣の言葉にオルビアはほほ笑みながらうなずく


そして母の死角になったところで三人をトランプの中に即座に収納する


これで当面の問題は回避された


なんとも心休まらない休日だと静希は大きくため息をついた


翌日の学校で陽太は眉間にしわを寄せながら机に突っ伏していた


「陽太、何をそんなに不機嫌そうにしてんだよ」


「それがわからねえかよ静希・・・姉貴に情報をリークしたのはお前だそうじゃねえか」


どうやら実月を自分の元に導いたことを根に持っているらしく歯ぎしりしながら静希を睨みつけている


「いいじゃねえか、誕生日プレゼントだって貰ったんだろ?何もらったんだ?」


「・・・音楽プレイヤーだよ、中に俺好みの洋楽が入ってた」


陽太が取り出す小型のプレイヤー、最近発売されたばかりの物でそれなりに値の張るものだと静希でもわかった


「ほんと、あれだけ愛されてるのに何で苦手なのかしら、わかんないわね」


「なんていうか、こいつの感情制御の訓練したのも実月さんだからな、ある種トラウマになってるのかもしれないぞ?」


「あぁ・・・失敗=鉄拳だっけ・・・」


実月の拳の精度を見ている鏡花は若干顔をひきつらせる


仮に自分が実月に師事を仰ぐときに失敗すると同時に拳が襲いかかってくればそれは確かにトラウマ確定だ


「ちょっと待ってよ、明利はあの人に同調の手ほどき受けたのよね?やっぱり鉄拳なの?」


「ち、違うよ、実月さんはしっかり教えてくれるし、私は一度も叩かれたことないよ」


「ふむ、人を選ぶのか、それとも明利が優秀だったのか・・・」


考え出す鏡花をよそに明利は静希に笑みを向けていた


「昨日はありがとうね、お父さんもお母さんも楽しそうだった」


「そりゃよかった、うちの親の話で楽しめたなら幸いだよ」


昨日の夜、五十嵐家と幹原家は宣言通り食事会を設け、お互いの近況やこの状況などを話し合い大いに盛り上がった


子供からしたら恥ずかしいことこの上ないのだがそれでも久しぶりの家族の団らんというべきもの


静希はもちろん明利も十分楽しんでいた


そして食事会が終わるや否や二人はすぐに仕事へ戻ると言って空港へととんぼ返り


なんとも忙しい両親だと苦笑しながら静希の綱渡りの平穏は保たれたのだった


「なによ二人とも、こっちがあんだけ苦労してる中ふたりでいちゃいちゃしてたわけ?」


「い、いちゃいちゃなんてしてないよ!」


「そうだぞ、それどころじゃなかったんだからなこっちは、親にメフィ達が鉢合わせするわ、それを隠すために嘘つくわ・・・正直生きた心地がしなかったよ」


「あー・・・そりゃご愁傷様」


さすがに陽太もこの件に関してはこれ以上言及することはなかった


なにしろ静希の抱えている問題は一家庭程度で済ませられるものではない


だからこそ同情はするが面倒事は御免であるというスタンスは変わらない


「どっちにしろ、それ気に入ってんだろ?」


「・・・まあな」


「ちゃんと礼言っとけよ?」


「わかってんよ」


なんだかんだいいつつも陽太は貰ったプレイヤーを大事そうに使いながら窓から外を眺めている


五月半ばの二つの家族の事件はこうして幕を閉じる


いや、事件というものですらないだろう


家族はどこまでいっても家族でしかないということである


思い返せば、それぞれの家族に苦笑させられただけの何ら変哲もない一日だったと言えるだろう


変わったことなどなく、何事もなく静希達の慌ただしい家族の一日は過ぎたのだ


五話はこれにて終了


二話同時投稿の理由としてどれくらいの進行速度と誤字の量を知りたかったので試験的に行いましたが



結果として一日二回は無理です


これからは一日一回+誤字報告orおめでたいことがあれば追加という風にしたいと思います


これからもお楽しみいただければ幸いです



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