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J/53  作者: 池金啓太
五話「五月半ばの家族の一日」
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五十嵐和仁

一式用意された材料と下ごしらえ済みの料理を見て麻衣は首をかしげる


「私達の分もないじゃない、しょうがないわね、皆で買いに行きましょ」


「はあ!?今から!?」


「そうよ、明利ちゃん、雪奈ちゃん、静希も、行くわよ」


「ちょ!それじゃメフィ達が」


「あぁ気にするな、私が相手していようじゃないか、なに若い子の相手は得意だ」


この流れは最悪だ、一番眼を光らせていなければいけない連中を家に残しておかなくてはならない


母の強制力は異常だ、すでに財布をカバンに入れ静希と明利の腕を持って移動を始めている


「お、オルビア!ちょっとの間任せる!何とか間を持たせておいてくれ!」


「了解しました!」


今の状況で一番良識的な返答ができるのはオルビアである


静希もそしてメフィ達もその考えには同意しておりこの場はオルビアが取りつくろうことになったのだが


静希達が出て行った部屋からは一瞬全ての音が消え静寂が訪れる


「失礼ですが、父君はどんな仕事をなされているんですか?」


「ん?静希から聞いてないかい?」


「いえ、海外を転々とするお仕事としか聞き及んでおりません」


あたりさわりのない身辺の話ならば相手も話しやすい、無能力者ならば話すことに特に支障もない職業が多い、そしてそこから相手に話させるということもできる


特に盛り上がるわけでもないが時間を稼ぐことにおいては最良の内容である


「私は貿易商をしていてね、いろんなところに行って物を売ったり買ったり運んだりする仕事をしているよ、それこそ休む暇がない」


「ほう、ではいろんな国に行ったことがあるのですね、最近はどちらに?」


「そうだな、中国、アメリカ、オーストラリア・・・あぁそういえばフランスにもいったな」


話が弾み始めこれなら時間を潰すことも容易だとオルビアが確信した瞬間和仁の目つきが変わる


「そういう話もしたいんだけどね、今はちょっと別な話がしたいんだ」


「と申しますと?」


僅かに落ちた声音にオルビアはほんの少し警戒するが、すぐにその警戒を解く


相手が敵ならばまだしも、目の前にいる人物は静希の父親で無能力者、警戒したところでどうしようもない


「私は仕事柄いろんな人を見てきたよ、君達のような人も数少ないが見たことがある」


君達のようなと言われメフィも邪薙も少しだけ眉をひそめた


「私達というと、能力者のことでしょうか?」


「いやいや、人ではない存在とでも言えばいいかな?少なくともそこの二人は人間とは違いそうだ」


「・・・失礼ながら初対面の方に人間ではないというのは些か無遠慮が過ぎるのではないでしょうか?」


確信を突かれながらもオルビアは笑顔を絶やさない


少しでも情報を隠し時間を長引かせるのが今のオルビアの仕事である


これがカマかけである可能性も否めない以上全力を尽くす


「静希が何故二人、いや君も含めて三人の事を隠そうとするのか・・・無能力者の私でもわかる、情報の隠匿はいつだって厄介事が絡んでいる、違うかい?悪魔、そして神格か精霊の御両人?」


和仁が目を向けたのはメフィと邪薙


「ですから、一体何をおっしゃっているのか」


「もう無理よオルビア、多分この人には隠しきれないわ」


メフィはお手上げというかのごとく両手をあげて降参のポーズを取っている


「いつから気付いてたの?」


「最初君達を見たときに、悪魔には一度、神格には二度ほど会ったことがあってね、姿かたちは違えど纏う空気は似たようなものさ、それに昔、文献をあさってた頃もあってね二人の名前に心当たりがあった、誘惑の悪魔メフィストフェレスと名前から察するに東北地方の小村の守り神、だったかな?」


「・・・なるほど、貴方は確かにシズキの父君であるようだ」


洞察力、記憶力、そして推察力、どれをとっても静希以上の物を持っている


経験則というのもあるだろうが名前と本人を見ただけでこうも判断できるものだろうか、ほとんど能力に関しての基礎教養も受けていないはずのただの無能力者が


「ただ君だけがわからない、人の姿をしているのに人間らしくない・・・いや何て言ったらいいのかな、人間とは違うもののような気がする、でも精霊や神格の類でもない・・・」


オルビアを指さして和仁は考え出す


さすがの和仁も意志を持った霊装というのは見たことも考えたこともないようだ


「和仁様、マスターが・・・静希様が貴方に我々のことを話さなかったその理由を考えなかったのですか?知ればそれだけ巻き込まれる可能性が」


「何を言うんだい、子供の問題は親の問題とイコールだよ、子供が悩むなら親も悩む、それが親子ってものさ、頼ってほしいと思うのは当然だろう?無論あいつは頼ろうとはしないだろうけどね」


腕を交差しながら和仁は大きくため息をつく


「頼られたい半面、早く一人前になってほしいとも思う、なんとも矛盾しているかもしれないけど親って言うのはそういう面倒な生き物なんだ」


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