最推しの羽川翼と付き合いたい 作:羽川翼はヤベー奴
天翔お兄ちゃんはカッコイイ。
目鼻立ちが整ってる顔に加えて染めていないのに綺麗な茶髪だ。きっとモデルにだってなれちゃうって、火憐ちゃんと二人で盛り上がったことがある。
そして何より、あのお兄ちゃんとも友達を続けられる忍耐力と度胸は、他の男の子には無いものだ。
「みんな怖がってるもんね。暦お兄ちゃんのこと。暦お兄ちゃん自身はそのことに気が付いてないけど」
「まあ、暦兄ちゃんは色々とやらかしているからそうなるのも当然だけどなー。妹の私達ですらそう思うなんて相当だ」
「うん、暴走族の壊滅はやり過ぎだったよね。まあ、だからこその阿良々木ではあるんだけど」
穏やかに笑う天翔お兄ちゃんについつい見惚れてしまう。そして思わず自分の服装を見る。
「(シャツに灰色のサスペンダー付きスカートに加えて、帽子を被っていつもの着物とは違う感じを出したんだけど、そんなだったかな?
というよりも、懐かしい……みたいな?羽川さんって昔はこんな感じの服をきてたりしたのかなぁ。うーん、チョイスを間違っちゃったかも)」
お兄ちゃんからあんなにギャップ萌えを熱弁して貰ったけど、成功とはいかなかったみたい。ちゃんと会ってすぐに可愛いとは言ってくれたけど、見た感じドキッとはしてなかったと思う。
天翔お兄ちゃんはさらりと自然にそういうことを言っちゃうから分からないのだ。
「(爽やか系って言うのかな?でも、間違ったことをしたらちゃんと叱ってくれるから、私達もいつの間にか只野さんから天翔君になって、天翔お兄ちゃんになったんだよね)」
これがただただ嫌な
『
『えー?でも、ムカってしちゃうと自然と鉈を掴んじゃうんだよね』
『……失敗しちゃう月火ちゃんも可愛くて素敵だけどね』
『ええっ!?ててて天翔お兄ちゃん……っ!?そ、そんないきなり……!』
『あははっ、それで指切りできる?月火ちゃん。人を傷付けるようなことはしちゃいけないって』
『う、うん、頑張ってみる』
『もし、できたら何かご褒美をあげるよ』
『ご褒美!?何でも!?』
『いや、何でもとは言ってないよ』
『はあ~♡何にしよっかな~?彼女にして貰うっていうのは安直かな~。何かアクセサリーとか買って貰ったりするのもありかも』
『ねえ?聞いてる?……まさか、都合の悪い
それからは、非常事態のとき以外は暴力でどうにかすることはなくなった。
だって、そうすると天翔お兄ちゃんにハグして貰えるし、頭を撫でてくれるし、おねだりしたコスプレをして甘い言葉を囁いてくれるんだもん!
「(火憐ちゃんもズルいズルいって言い始めちゃって、今は二人一緒に天翔お兄ちゃんとイチャイチャしてるけど、私達のことを妹としか認識してないんだよね~……。
撫子ちゃんも天翔お兄ちゃんを最近狙ってるみたいだし、油断できないよ。とはいえ、大ボスである羽川さんを倒すには協力した方がいいのかな?)」
天翔お兄ちゃんの心を射止め続ける羽川翼さん。倒したいけれど力付くでどうにかしちゃダメだし、隙になるような黒歴史も見付からない。
う~ん、攻略方法が分からな~いっ!
「(だからこそ、こんなにガンガンに攻めてるのに気付かないのはどうかと思うな!
デートに行くときはいつもと違って髪型や服装を変えたり、腕を組んで密着したりしてるのに全然動揺してくれないんだもん!プラチナムカつく!)」
今日はもっと、もお~っと!甘やかしてくれないと許さないんだからっ!
天翔兄ちゃんはすごい。
確かに顔もカッコ良くて暦兄ちゃんだけじゃなく、男性の平均身長だって超える179cmだ。
空手をやってるから周りの男子じゃ敵わないくらいに筋肉だってすごい。まあ、それは暦兄ちゃんもだけどな!
暦兄ちゃんが不良系の危ないイケメンだとするなら、天翔兄ちゃんは正統派の爽やかイケメンって感じだ。
でも、違うんだ。天翔兄ちゃんはそんな見てくれや中身が魅力的ってだけじゃない。
「(なんと──あの誰にも制御不能だと思われた、私の妹である阿良々木月火を矯正させた唯一無二の存在なのだ!)」
青天の霹靂。
驚天動地。
未曾有の事態だった。
「(さすがに、全部の行動が常識的かと言われると、たまにはっちゃけたりしちゃうから断言はできないけど、それでも遥かにバイオレンスさが薄まったんだ。これはまさしく偉業なんだぜ!)」
その一番の被害者であったお兄ちゃんは、天翔兄ちゃんの行動に助けられて感謝をしてたけど、同時に『あれ?これって僕、只野に兄として負けていないか……?』って、ガチ凹みしてたからな!
「まあ、暦兄ちゃんのエッチな本を探し当てて、大声で家族会議が始められそうになる度に飛び起きてるから、実はそんなに変わってない気もするけどな」
「流血沙汰よりかは余程平和だろう?」
「まあ、それは確かにその通りだ!」
首に巻いた赤いスカーフといつもは履かないスカートでやって来た私を見て、可愛いって天翔兄ちゃんは褒めてくれたところも、他の男子達とは違うぜ!
大人の余裕って奴だ。まあ、それが妹分としてしか見られていないみたいで複雑だけど、これからの頑張り次第だよな!
「えへへ、天翔お兄ちゃんの言う通りだったよ。暴力で付けた傷はすぐに無くなっちゃうけど、精神的に受けた
「うん、そうだよ。暴力は分かりやすい力だけど、数を集めたりすれば次は勝てるって思っちゃうのが人間だ。
でも、情報を利用した心の傷は相手が目の前に居なくても傷つけられるから、そんな風に思うことが失くなるんだよ。賢い月火ちゃんなら分かってくれるよね?」
「うん!だって私は賢くて可愛いファイヤーシスターズの参謀なんだから!」
「…………」
私は知っている。
この場面だけを関係の無い他人が見れば、幼気な年下の女の子に冷酷な断罪方法を教えている外道に天翔兄ちゃんは見えてしまうだろうけど、これが月火ちゃんの後先考えない暴力性を抑え込むための教育なんだってことを、私は知っている。
私や暦兄ちゃんが叱っても基本的に馬耳東風な月火ちゃんなんだけど、ご褒美があることと確実に結果として現れる天翔兄ちゃんの方法は、月火ちゃんの耳に残り安全なやり方へとレールを見事切り替えてみせた。
……まあ、よりねちっこくて再起不能になりやすくなったんだけど。
「(それでも事件性のあるやり方から、法律に反しない程度のものに変えちまったのはすごいとしか言いようがないぜ)」
心から感服しちまったぜ。そして一緒に遊ぶ内に自然と私は天翔兄ちゃんの子供を産みたいって思ったんだ。だから、私はこの競争率が高い男性の心を射抜いてみせる!
ポップコーンを天翔兄ちゃんと自分との椅子の間に乗せて、スクリーンを見る。
最近人気の恋愛映画で意識させてみせるからな!天翔兄ちゃん!
「(なんで、羽川じゃなくて阿良々木の妹達とデートしてるんだろ?俺……)」
最早、無の極致である。
「(まあ、二人が可愛いのは認める。美少女と言っても過言じゃないほどに顔が整っている……けれどだ。性格的にめちゃくちゃ大変なんだよなーこの二人。
火憐はバイタリティーがエグいから基本的に振り回されるし、月火はもう存在自体がアレ。
無視もできないから不死鳥の怪異の特性を思い出しながら、石橋を叩いて渡るように褒め殺しでなんとか矯正できたことは、履歴書にも書けるだろう俺が心から誇れる数少ない偉業だ)」
ちなみにだが、月火の矯正は別に月火の将来を危惧してなどではない。
「(……あのサイコパスを放っておけば、なんだかんだ仲良くなってそれなりに会うようになった俺にも被害が出る。間違いなくだ。だからこそ、矯正を早急に行う必要があった。
自分の部屋にガソリン巻いて着火させようとする奴だ。何をしてくるか分かったものじゃない……いや、マジで怖かった)」
鉈を握り締めながら、『あっ、もしかして暦お兄ちゃんの友達?初めまして阿良々木月火だよ♪』なんて、言ってくる奴は何とかしないとヤバいだろ。
その刃をいつ笑顔のまま振り下ろしてくるかと戦々恐々だ。だからこそ、悲しいだとか辛いだとかいう記憶の残り方をさせずに、優しく諭すことに全力を尽くした。
「(実の兄である阿良々木の役目だろって?他人のお前がでしゃばるなって?……あいつ妹に甘過ぎるんだ。甘々だ。まあ、不死鳥だから反省させるのが難しいというのはあるけどそれにしたって甘過ぎる)」
とにかく、羽川を彼女にして末長く幸せになったあとに寿命で死ぬまでは、相手が誰であっても殺されるわけにはいかないのだ。
「(俺は羽川と結ばれるから、この異次元のバイタリティー空手少女と、若干丸くなったけど本質は全然変わらない破滅型サイコパスの相手は他の男に任せる。
原作でもこの二人には彼氏が居た筈だし、問題はないだろうけどな)」
作品に出てくるヒロインじゃないサブキャラの恋人事情なんて、そもそもそこまで記憶に残っていないため、流石に名前は忘れた。
原作よりも多少はマシになったんだ。まあ、彼らも俺に感謝をしていることだろう…………だから胸やらなんやらをぐいぐい押し付けるのはやめろ。
「(……だがしかし、そもそもの話であるがお前達には足りないものがある)」
それは何か?
年齢?まあ、それもある。
頭の良さ?まあ、それもある。
慎み?それはない。
行動力の早さ?それはありすぎる。
お前達に足りないもの───そう、おっぱいが足りていない。
顔を劇画調に変えてそう断言する。
「(月火ちゃんはもちろん、火憐ちゃんの将来は期待ができるが羽川には遠く及ぶまい。いいか、忘れるなよ小娘共。俺は巨乳こそが性癖なのだ)」
ささやかなサイズでは満足できない男、それが俺である。
「(世の女性は女性の好きなタイプやフェチで、巨乳を上げる男に軽蔑の視線を向ける。だが、逆に貧乳がタイプだと言う男のポイントが高くなるのか?と思うのだ。
150cm未満の身長の女性で寸胴体型の女性が好みというよりかは、遥かに健全の性癖だ。つまり、巨乳好きこそがノーマルな性癖でありフェチと言える。
それ以外は全て邪道だ。貧乳も普乳も俺は認めない)」
それはスクリーンに映る、貧乳のヒロインが織り成すラブロマンスを見ることで改めて認識する。
俺は巨乳が好きなのだと。
「(俺はルッキズムの権化だ。巨乳の美少女が嫌いな男なんて社会不適合者の異端児だと本気で思っている。火炙りで殺した方が世のため人のため。これは広辞苑にそう書いてある)」
え?それは性欲じゃないのかって?性欲ですが何か?
「(下心の無い恋愛しか尊くないというなら、70億も繁殖した全人類は薄汚い獣でかしかないじゃないか。
パパとママがベッドの上でズコンバコンして生まれた癖して、綺麗ぶってんじゃないこの偽善者達め!)」
なんか屋内で唐突に風が吹いて、髪が靡いているヒロインがスクリーンにアップで映っているが、俺の頭の中には獣欲を肯定する人類讃歌が大合唱をしていた。
というか、この映画のヒロインとヒーロー役の俳優達がこの映画のあとに結婚をしたらしい。つまりは、ホテルでズコンバコンしていたということだ。
その背景を知ると、途端にこの映画の内容が薄っぺらに感じないだろうか?
『小学生のときから……ずっと、ずっと、あなたのことが好きでした……!』
「(小学生のときからずっと好きでした……?こっちは母親の腹に宿る前から羽川が好きなんだよ!年季が違うんだよ!年季が!)」
死んでからやり直して来いと思う。でも、この程度の繋がりで結ばれるのなら、前世から羽川を想い続けている俺は、きっと羽川と結ばれるのだとそう思えるから不思議だ。
えっ……もしかして、この映画って名作……?
「天翔お兄ちゃん、あのヒロインの子と男の子は小学生のときに出会って、高校生になってようやく結ばれるんだね!」
「うん、そう考えると長い片想いだよね。素敵な恋だと思うな」
「だよな~!小学生で出会ってから、ずっと一途に好きで居続ける女の子って素敵だよな~」
やたらと強く言葉を言う二人に思い至る。そうか、そういうことか!
「(え?原作に出てきたお前らの彼氏のこと、小学生のときには好きだったのッ!?マジで?幾らなんでもマセすぎだろ!
大まかな原作の流れとメインキャラしか覚えてないけれど、なんか難しそうな苗字の彼氏君が居るんだ……っけ?確か)」
えーと……何だっけか?蝋燭なんとかに水鳥?だっけ?なんか読むのが難しかったり奇抜な苗字だったはず。
なんか狙ってるみたいに思われるのが嫌だから、彼氏が居るかどうかなんてわざわざ聞いてはいないけど流石にもう付き合ってるだろ。
原作では確かそうだったし。
「(……って、この映画があんまりハマらなかったせいか、ちょっと思考が暴走し過ぎたな。……あんな阿良々木暦みたいな変態の理論を考え続けるなんて、あいつとまるで一緒じゃないか。
小学生のときから友達だったから、知らず知らずの内に影響されてたのか?)」
阿良々木を手本にしたムーブをしてきたけど、別にあいつになりたいわけじゃない。あくまでも、羽川の好みに近付くための努力なのだ。
そもそも、恋愛感情がないとはいえ美少女に抱き付かれて嬉しくないはずがない。
胸だけしか評価基準がない男ではない。胸も含めた全ての評価基準を満たした上で、その全てが200点の羽川翼が居ただけだ。
「(だから、役得だと思うのは当たり前なのに、胸の大きさを実際に比較するなんて流石にどうかしてるぞ。いつの間にかこの恵まれた環境に慣れていたのか?
……はあーっ、いけないいけない。転生者だからって調子に乗りすぎだな。いつからこんなに上から目線が当たり前になったんだ?まるで、八九寺にセクハラをする阿良々木と同じじゃないか。
何より、女の子に紳士に接する男が一番モテるんだ。羽川に失望されるような男になるわけにはいかないんだよ俺は)」
そして、そんな狂った思考を正常にしている内に映画が終わってしまった。
~映画のエンドロール終了~
電気が付けられてバラバラと映画を観ていた客が去っていく。人の流れに同じく流されて適当なカフェに入った。
いや、え?……何でこんなガチデートみたいなことしてんの?
「いやー、面白かったなー!」
「ねー、良かったよねー!」
ファイヤーシスターズがなんか盛り上がっている。あっ、このコーヒー美味いな。
普段の彼女を知っている者がこの場に居れば、思わず顎を外してしまいそうになってしまうほど普段とは印象が異なっていた、女の子らしい服装をした阿良々木火憐は、目の前でコーヒーに口を付ける男性に気安く話し掛ける。
「あの映画でヒロインに嫌がらせしてくる女子がさ、ヒロインの女の子を『醜いアヒル』って言ってたじゃん?それで思ったんだけどさ。
あのときに言った醜いアヒルって色々とズレた話だと思わないか、天翔兄ちゃん」
良い映画だったと一通り盛り上がっていたのだが、全てがすんなりと飲み込めたわけではないようだ。
「うん?どこがだい?」
「いやいや、だってさ、『醜いアヒルの子』って群れの中に居た醜いアヒルだと思っていた鳥が、実は美しい白鳥だったって話だろ?
それってさ、結局は見た目の美しさこそが正義っていうことは何も変わらないんじゃねーの?」
「ああ、なるほど。確かにその通りだね。その醜いアヒルが群れを窮地から救った救世主とかならまだしも、結局は更なる美しさを持つ才能があったというだけだからね」
紺色のジャケットと白のVネックを着こなした只野は、コーヒーカップをソーサーに置いた。アホ毛がそのままの阿良々木暦とは違い、彼は妹分である少女達との買い物であろうともしっかりと髪をセットするきめ細やかさだ。
……そんな只野に見惚れる周りの女性客を睨み付けて、密かに牽制をする月火。もちろん、只野にバレないようにだ。
火憐はそのやり方が好みではないためしない。
「見た目や外見で人を判断してはいけないよって言う割には、才能が開花して美しさを手にしたことよる最後だもんねー。結局は内面の美しさじゃなくて外見の美しさこそが重要なんだって、幼い頃の私はそう認識をしていたものだよ。
あれ?そう言えば誰だっけ?この作品を書いた作者の人って?」
「ハンス・クリスチャン・アンゼルセンさ。デンマークの童話作家だよ。『マッチ売りの少女』や『人魚姫』を書いた巨匠だね」
「へー!そんなにすぐに答えられるなんてやっぱりすごい物知りだよ!天翔お兄ちゃんは何でも知ってるね!」
「何でもは知らないよ。ほとんど知らないさ」
……などと言いつつ、どこか得意気な顔をする彼を可愛いと思う二人の中学生は、その感情を頑張って落ち着かせると、その変化を気付かれないように気を取り直して先程までの話の続きを話し始める。
「そ、それはそうと、ルッキズムこそが正義ってどうしようもないよねー。結局は生まれ持ったものこそが、優秀か劣等かを決めちゃうってことは巻き返しが無いってことだもん」
「顔も大事かもしれないけど、そいつが何をできるのか、しているのかっていうことが一番大事だと私は思うな!」
その言葉を聞いた只野は頷く。
「まあ、そもそもルッキズムの否定は顔の優劣で判断をせずに、実力で判断するっていう考え方であって、顔の整っていない人に対して必要以上に特権を与えるってわけじゃないからね。
顔の良さやスタイルの良さで印象が良くなることは、幾つもの論文で実証されるように、誰にも否定することができない揺るがない事実でしかないから」
その発言にファイヤーシスターズが揃って驚いた顔をする。目をパチパチと瞬かせたあとに火憐が口を開く。
「お、おーっと……いやー、これは驚いたぜ天翔兄ちゃん。まさか、他でもない天翔兄ちゃんからそんな偏見みたいな言葉が出るなんて、明日は槍が空から降ってくる……いや、ミサイルが打ち込まれるんじゃないか?」
「私も天翔お兄ちゃんからその言葉が出てくるとは思ってなかったなー。別にそう思うのは至極当たり前のことだとは思うけど、天翔お兄ちゃんが口に出しちゃうのはビックリかも」
只野天翔は今までこのような傲慢に感じるような言葉を、一度として言うことはなかった。
もちろん、今の言葉には主語が無かったが、そう読み取れるような言葉を言うことさえ、只野という男にはなかったことなのだ。
そのようなことを思うことはないなどと、行き過ぎた理想の押し付けはしていなかったが、まさか自分達の目の前で口にするとは予想外としか言えない。
それを聞き只野はピクリッと僅かに指を動かすと、一つ息を吐いたあとに笑顔で二人に言った。
「……火憐ちゃんも月火ちゃんも可愛くて綺麗な女の子だからね。そんな二人に他の男子よりも格好良くて頼りになる男だと思って欲しくなるのは、自然な心の動きだということだよ」
「「ふえっ!?」」
今度は火憐と月火の身体がビクリッと大きく反応をする。顔を俯かせてたり前髪を整えたりして顔を隠している二人を余所に、只野は隠れて深く息を吐いた。
「ま、まあ、別におかしなことじゃないけどねっ!それこそ天翔お兄ちゃんに憧れてる子の中には、ガッカリしちゃう子もいるかもだけど。
でも、それはその子達の傲慢だもん。勝手に幻想を押し付けて、空想にして、偶像にまでしちゃったら、それはもう別の誰かだよ。天翔お兄ちゃんは天翔お兄ちゃんのままでもカッコイイからね!」
「そ、そうだぜ!天翔兄ちゃん!天翔兄ちゃんはカッコイイんだ!」
「あははっ、ありがとね。月火ちゃん、火憐ちゃん」
そんなことを喋り続けて良い時間になると、ようやく三人は道具を買いに向かう。それは、このショッピングモールに入って4時間後のことだった。
「…………………………………………」
対向車ぶつかりそうになって勢い良くハンドルを横に切れば、そのまま崖下に落ちていくのがオリ主の毎回の流れです。
これで毎回良い結果(悪い結果)に収まるのが、自分の実力だと勘違いしちゃうのが痛々しいところ。