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J/53  作者: 池金啓太
五話「五月半ばの家族の一日」
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親と子

静希が冷汗をかいていると携帯に電話が入る


相手は陽太だった


「あぁん?何か用か?」


『なんだよいきなり、もうガキの相手は終わったろ?こっち手伝ってくれよ』


陽太からすれば姉から逃げられるかどうかの瀬戸際なのだろうがそんなことに構っていられる場合ではない、今は緊急事態なのだ


「っざっけんじゃねえよ、こっちはこっちで面倒なことになってんだ、そっちはそっちで何とかしろ」


「それにしてもかわいいですね、触ってもいいですか?」


「構わないが、痛くしてくれるなよ?」


「おぉ、ふわふわじゃないか、本物の犬みたいだ」


「おぉふ、なかなかのテクニックをお持ちで」


なんだか背後で妙なことになってきている、これ以上は放っておけない


「とにかく切るぞ、実月さんにあったらよろしく言っといてくれ」


『あ、おい静希!』


陽太の言葉を遮って電話を切り静希は目の前の問題に立ち向かう


「父さん母さん、二人とも何でいきなり帰ってきてるんだよ、仕事はどうした!?」


「あぁすまん、すっかり忘れていたよ、これお土産、どっかの高いチョコだ、味わって食べるようにな」


「あぁありがと、じゃねえんだよ!いい加減にしろ!何の連絡もなく帰ってきて!仕事はどうした!?まさか失業か!?」


飄々とした和仁の態度に怒りを覚えながら静希はもらったチョコレートをテーブルの上に置いて再度つっかかる


「大丈夫、今日はたまたま日本に来る予定があったからちょっと寄っただけだ、夜にはまた飛行機の中さ」


「本当にそれだけか?二人がそれだけの用で来るとは思えないんだけど」


「あら、すっかりお見通しみたいね」


静希の母、麻衣は静希の察しの良さに微笑ましいものを感じるらしく嬉しそうに佇んでいる


「いやぁさすが我が息子だけあって勘が鋭い、実は空港で偶然懐かしい顔にあってね」


「懐かしい顔?」


「あぁ、その子がこっちに帰ってきてることも空港で初めて聞いてね、ここまで送るついでに愛しの我が子の顔を見に来たというわけだ」


なんともタイミングのいい、いやタイミングの悪い知人もいたものだ


こんな状況になるのなら外食でもすればよかったと本格的に後悔を始めていた


とにもかくにもメフィを始め人外シリーズをこれ以上両親と接触させるのは非常にまずい


静希が視線を明利と雪奈に送ると二人は察してくれたようで少し二人で話した後


「じゃ、じゃあ私達は親子水入らずには邪魔かな?」


「そうだね明ちゃん、私たちはお暇しよう、ほらメフィ達も、ここにいたら邪魔になっちゃうよ」


ナイスプレーだと静希は内心サムズアップしながら二人に称賛を与えていた


のだが


「いやいや、私達のことは気にしないでくれて構わないよ?せっかく家に来ているんだ、何か用事があったんだろう?」


まずい、この流れは非常にまずい


メフィや邪薙も自分達の存在を一般人の無能力者に知られるというのはよろしい事態ではない、いやメフィ達からすればそんなことは何でもないが、静希が問題なのだ


事の重要性を理解していない静希の両親がこのことを知ればうっかりどこかに情報が漏れてしまう可能性がある


一介の学生が悪魔と神格を許容しているなどということが公になればきっと大問題になる



それはもう面倒事が押し寄せてくる


そんなことは真っ平御免だ、そんなことだけは何としても阻止しなくてはならない


「父さんそういうなよ、せっかくみんな気を利かせてくれてるってのに」


何とかメフィ達だけでもこの場から離れる口実を作らなければ


ただの数秒でいい、数秒あればトランプの中に収納して三人とも帰宅したことにできるのだ


「いやいや、そう気にしないでくれ、それに若い娘さんがこんなにたくさんいるんだ、男として嬉しいことだよ」


「あら、和仁さん?ずいぶんと嬉しそうですね?」


「も、もちろん一番はお前だよ、当然じゃないか」


「そうですか?まったくもう」


一瞬麻衣から黒いオーラが出かかったのを静希は見逃さなかった


そう、静希の母麻衣は普段こそ非常に温厚な女性なのだが一線を越えると鬼神の如き怒りを見せる


だがその怒りは爆発するような激しいものではなく胃を締め上げていくかのような威圧感とともに恐ろしいほどに歪んだ笑みを浮かべる


静希の邪笑は間違いなく麻衣からの遺伝であると断言できる根拠の一つだった


「ところで皆は昼食の途中だったのか?」


「あぁ、二人が来たからいったん中断してるけど、まだ料理中だったんだ」


「おぉそうだったのか、そういえば私たちもお腹がすいたな」


「そうですね、久しぶりに静希の料理の腕を見てあげようかしら?」


「え?いやいいよ、俺と明利だけいれば十分」


「見てあげるわ、ほらきなさい」


有無を言わせぬ強引さ、というか強制力とでもいうのか


麻衣は静希と明利を引きずって台所に立つ


「あら、これじゃ材料が少し足りないわね・・・」


「足りないって・・・あ、メフィ達はもう昼食べてから来たからこれは三人分だぞ?俺と明利と雪姉の分」


この場にいる人数に対し料理の分は明らかに少ない


なにしろメフィ達は基本的に食事をしなくてもいいのだから


何とか立てた言い訳も酷く稚拙に聞こえてしまう


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