最推しの羽川翼と付き合いたい   作:羽川翼はヤベー奴

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003.住所不定の金髪アロハ怪異交渉人

「阿良々木君。只野君、只野天翔君のことを教えてくれるかな?」

 

「いきなりどうしたんだよ忍野。藪から棒すぎやしないか?」

 

 学校帰りに学生塾跡に来てみればそんなことを忍野メメに聞かれた。

 金髪にアロハシャツなんていう如何にも軽そうな男だが、その突出した実力と達観した価値観を持つ、異色な男であることを僕は知っている。

 

「いや、何。あの阿良々木君の数少ない、本当に唯一無二の男友達だ。話を聞いてみてもいいだろう?どうやら彼も怪異絡みの厄介事にも関わってしまっているようだからね」

 

 それを聞いて納得する。聞いた話によると戦場ヶ原の身の安全も、只野の行動によって守られたことがあるらしい。戦場ヶ原曰く、『未来を先読みしているようで気持ち悪い』とのことだ。

 あれが本心なのか照れ隠しなのかは付き合いの短い僕では分からないけれど、十中八九本心だろう。

 

「まあ、いいけど。でも、僕が語れることなんて多くはないぞ」

 

「良いとも。君の口から彼のことを知っておきたいんだ」

 

 どういうつもりなのかは分からないが、この男が気になるというのだから何かしらの理由があるのだろう。

 

「僕と違って成績優秀で人との関係を大切にするタイプだ。僕が友人関係を誰とも取らなくなった中で唯一の友達だったのが只野だ」

 

「ふむ、その理由は?」

 

「実は小学生からの付き合いなんだよあいつとは。住んでる地区は違ったけど只野は火憐ちゃんと同じく空手をやってたからな。その繋がりで僕とも友達になったんだ」

 

 それからは、家に誘うほどの仲になった。常に余裕があって礼儀正しく誰とでもすぐに仲良くなれる只野のことを、両親も妹達もすぐに気に入ったことを覚えている。

 人の心にいつの間にかするりと入るような奴だった。

 

「面倒見も良いからさ。実の兄である僕を一人除いて妹達とも遊ぶこともあるんだぜ?まあ、あの二人の勢いに付いていけるだけすごいことだけどさ」

 

「お兄ちゃんとしては心配かい?」

 

「いや、あいつが好きなのはずっと羽川だからな。そういうことにはならないよ。振られても諦めないゾッコンぷりなんだから。忍野もそれは知ってるだろ?」

 

「まあね。だから委員長ちゃんの一件では()()()()()()()()()()()()()()()

 

 『いやぁ、あれは誰が死んでしまってもおかしくなかった』と笑う男が、どれだけ十全に準備をしても敗北してしまった事実を知っている身だと、とても笑う気になれない。

 

「【悪夢の九日間】……あの数日で僕達が物言わぬ死体になるかもしれなかったからな。

 それこそ、只野の場合は別に攻撃をしようと思ったわけでもないのに、連日エナジードレインを味わう羽目になったんだ。もし、猫が本気で殺しに掛かってたら只野も死んでたよ」

 

 何度も血を流して苦しみ喘ぐその姿は、僕としても記憶から消したいくらいに凄惨だった。

 

「ふむ、──やっぱりそこだね」

 

「ん?何が?」

 

「只野君の狂ってるところだよ」

 

「は?」

 

 急に友人がディスられた。生徒だけではなく先生からも一目置かれるだろう友人に対して、その向けられたその言葉に僕が疑問を抱いているのを見たからか、忍野はタバコを指で挟み口から外してから話し出す。

 

「いやいや、何を驚いているんだい阿良々木君。今の君が言った事のあらましは充分どうかしてるじゃないか。只野君はあの障り猫のせいで何度も何度も血を流して苦しんだ。

 誰だろうとトラウマになること確定だよ。それにも拘わらず、只野君は委員長ちゃんと未だに、君が見ても仲睦まじく一緒にすごしているって話じゃないか。

 僕からしたら信じられないよ。普通は恐怖からくる拒否反応の一つや二つ出てもおかしくないだろう?」

 

「それは……」

 

 確かに言われてみればその通りだ。粘着するように執拗に地獄の苦しみを受けたあの【悪夢の九日間】を経て、只野は羽川と一緒に居られる……?

 幾ら手加減されていたとしても、死ぬほどの痛みを何度も与えられた存在のすぐ近くで笑っていられるんだ?

 

()()()それしか手がないのだとしても普通は無理だろう?理性と感情は別物さ。自分を殺しに来るナイフを持った殺人鬼と誰が一緒に居られるって言うんだい。

 委員長ちゃんを見る度に発狂しても、僕は何もおかしくないと思うけどね」

 

 痛みとは危険を知らせるシグナル。それを散々他でもない羽川の手で味わった只野だ。普通は腰が引けたり近付かなくなったりするものだが、そんな兆候は確かにまるでない。

 

「そんな相手に嘘でも好きだとか言えちゃう只野君が僕は気持ち悪いよ。とても同じ人間だとは思えない───いや、そう考えるのが正しいのかな」

 

「正しい……?」

 

 人間だと思えないことが正しい。あの一途さは確かに普通の奴には理解不能かもしれないけど、人間扱いされないほどじゃないだろう。

 ならば、その言葉には別の意味がある。その僕の予想通りに忍野メメは真面目な顔で僕に告げた。

 

 

 

「只野君は怪異に憑かれてる」

 

 

 

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