【来月施行】中国バッテリー輸出規制の本当の狙い。中小企業を襲う「PSEの悪夢」とは。「対岸の火事」ではない。中国リチウムイオン電池輸出規制が、あなたのビジネスを破壊する日
皆さん、ごきげんよう。北陸の貿易商、ツイ鳥です。
今、私のオフィスの片隅で、中国から届いたばかりのサンプル品が、静かに充電されています。USB充電式のポータブル加湿器、そして電動工具のバッテリー。
これら、私たちの日常にありふれた製品たちが、今、米中という二大国の覇権争いの最前線に立たされようとしています。
正直に申し上げて、今回のニュースは、私にとって決して他人事ではありません。むしろ、背筋が凍るような思いで、関連情報を読み漁っています。
「中国政府、リチウムイオン電池の輸出を規制へ」(2025年10月9日発表、11月8日施行)
皆さんは、どう受け止めましたか?
「ああ、また米中がやりあっているな」
「EVのバッテリーの話だろう。ウチには関係ない」
そう思われた方も多いかもしれません。しかし、貿易の現場に身を置き、日々、中国の工場とやり取りしている者として断言します。
これは、単なるEVやハイテク兵器の話ではありません。
私たちがAmazonや楽天で販売している小型家電、スマートフォン、そしてモバイルバッテリーに至るまで、ありとあらゆる「充電できる製品」のサプライチェーンを根底から揺るがしかねない、極めて重大な「事件」なのです。
私自身、中国製の小型家電の輸入を手掛けています。充電式の掃除機、髭剃り、ポータブル扇風機…。
これらの製品の心臓部には、ほぼ間違いなく、中国製のリチウムイオン電池(またはリチウムポリマー電池)が搭載されています。
もし、この心臓部の供給が不安定になったら?
いや、それだけではありません。後ほど詳しく解説しますが、今回の規制によって部品の変更を余儀なくされた場合、日本の法律(PSE法)に基づき、高額な費用と時間をかけて認証を「再取得」しなければならない。
そんな悪夢のようなシナリオすら現実味を帯びてくるのです。中小企業にとって、これは死活問題です。
中国は、過去数年にわたり、段階的に輸出規制を強化してきました。EVの輸出許可制、そしてグレーな通関手法「買単(マイダン)輸出」の規制強化。
これらについて、私は過去の記事で「中国政府による産業の大掃除」であり、「統制の強化」であると分析してきました。
今回のリチウムイオン電池規制は、その決定打とも言える一手です。
表向きは、APEC首脳会談を控えた米国への牽制、つまり「外交カード」のように見えます。しかし、その本質はもっと深いのではないか?
中国が自国の圧倒的な強みであるバッテリー産業を「戦略物資」と定め、国家の完全なコントロール下に置く。
そして、国内の玉石混交のメーカーを選別・淘汰し、真に強い企業だけを世界で戦わせる。そんな冷徹な国家戦略が透けて見えるのです。
今回は、この複雑怪奇なリチウムイオン電池輸出規制の全貌を、徹底的に解剖します。
具体的に何が規制されるのか?私たちのビジネスへの影響は?そして、中国政府の真の狙いはどこにあるのか?
いつものように、私の経験と、経営者・投資家としてのシビアな視点を交えながら、この「電池戦争」の深淵へと皆さんをご案内します。
これは、遠い国の話ではありません。あなたのビジネスの未来を左右する、極めて重要なテーマです。さあ、覚悟を決めて、ついてきてください。
第1章:規制の全貌解剖 ― 何が、なぜ、止められるのか?
さて、まずは落ち着いて、敵の正体を見極めましょう。今回の中国政府の発表(商務省・税関総署共同公告第58号)は、具体的にどのような内容なのでしょうか。読者の方から、こんな切実な質問が届いています。
Q1. ニュースを見ても専門用語ばかりで、何が規制されるのかよく分かりません。うちは車載用ではなく、小型の家電製品を扱っていますが、影響はあるのでしょうか?また、リチウムポリマー電池は大丈夫なのでしょうか?
非常によく分かります。この手の発表は難解ですが、一つ一つ、丁寧に「翻訳」していきましょう。
1-1. 「許可制」という名のハードル
重要なポイントは、これが「輸出禁止」ではなく「輸出許可制(ライセンス制)」であるということです。
対象となる品目を中国から輸出しようとする場合、事前に中国政府(商務省)に申請し、「許可証」を得なければなりません。
「なんだ、許可を取ればいいだけか」と思われるかもしれません。しかし、これが曲者です。
許可制というのは、政府が輸出をコントロールするための強力な武器です。誰に、どれだけの量を、どのような目的で輸出するのか。
その全てを政府が審査し、判断を下す。
もし、政府が「認められない」と判断すれば、それは事実上の「禁輸」と同じ意味を持ちます。
中国政府は、今回の措置の目的を「軍民両用(デュアルユース)技術の管理強化」と説明しています。つまり、「高性能なバッテリーは、ミサイルやドローンにも使えるから、管理を厳しくしますよ」ということです。
1-2. 規制対象①:超高性能バッテリー本体 ― 「300Wh/kg」の壁
では、具体的に何が規制されるのか。リストは多岐にわたりますが、まず注目すべきはバッテリー本体です。
公告では、「重量エネルギー密度が300Wh/kg以上のリチウムイオン電池(セルおよびパック)」が規制対象として明記されています。
この「300Wh/kg」という数字が、極めて重要です。
エネルギー密度とは、簡単に言えば「バッテリーがどれだけのエネルギーを溜め込めるか」を示す指標です。
現在、私たちが日常的に使っている製品のエネルギー密度はどれくらいでしょうか。例えば、PCとかであれば、
ノートPC:約150~250Wh/kg
最大でも250Wh/kgくらいのものを工夫して使っていると言われています。
どうですか?「300Wh/kg」は、これらの水準をはるかに上回る、まさに「最先端」「次世代」のレベルなのです。中国当局自身も、「この基準は通常の動力電池のレベルをはるかに超えている」と説明しています。
結論から言えば、現在流通している多くの小型家電や、一般的なモバイルバッテリーに使われているリチウムイオン電池は、直ちにこの規制の対象にはならない可能性あると考えられます。
まずは、少し安心しましたか?
しかし、これはあくまで「現時点では」という話です。中国政府の狙いは、最先端技術を囲い込み、将来の技術競争における優位性を確保することにあります。
リチウムポリマー電池はどうなる?
さて、気になる「リチウムポリマー電池(LiPo)」の扱いはどうでしょうか。リチウムポリマー電池は、薄型化できるため、スマホやドローンによく使われます。
リチウムポリマー電池も、広義で今回は含まれるため。したがって、もしリチウムポリマー電池であっても、エネルギー密度が「300Wh/kg」を超えれば、規制の対象となります。
機器に組み込まれた電池は対象か?
もう一つ、実務上重要な点。「完成品に組み込まれた電池」も対象になるのか?
公告には例外規定は明記されていません。理屈の上では、完成品であっても、搭載されているバッテリーが300Wh/kg以上であれば、輸出許可が必要になる可能性があります。(ただし、多くの民生品はまだこの基準に達していません)。
1-3. 規制対象②:製造装置と技術 ― 「工場」そのものを止める戦略
今回の規制が恐ろしいのは、バッテリー本体だけにとどまらない点です。中国政府は、高性能バッテリーを製造するための「装置」と「技術」にも網をかけました。
具体的には、電池製造ラインの中核を担う装置(注液機、化成システムなど)がリストアップされています。
なぜ、装置まで規制するのか?
おそらく、「海外で高性能バッテリーを簡単に作らせないため」です。
欧米や日韓は、自国でのバッテリー生産能力を高めようとしていますが、そのためには中国製の高性能な製造装置が必要です。それを防ぎ、技術的な優位性を維持する。これが中国政府の狙いです。
魚(バッテリー本体)だけでなく、釣り竿(製造装置)も、釣り方(技術)も渡さない。そんな強い意志を感じます。
1-4. 規制対象③:材料(正極材・負極材) ― サプライチェーンの首根っこ
そして、最も広範な影響を及ぼす可能性があるのが、バッテリーの「材料」に関する規制です。
正極材(カソード)関連
バッテリーの性能を左右する正極材。ここでは、特に高性能な材料が狙い撃ちされています。ちょっと説明すると、
これは電池の“プラス側”で、容量・安全性・寿命・コストを大きく左右する主役素材です。ここが良くなると、走行距離が伸びたり(EV)、発火リスクが下がったり、長く使えたりします。主な規制素材は2つ。
1,高性能リン酸鉄リチウム(LFP)
細かく説明すると、
「リン酸鉄リチウム」を使う正極。安全性が高く、寿命が長い、コスパ良しで、EVや家庭用蓄電で急伸中している。どこが規制?
“高密度・高容量のLFP材料”と、その製造技術・装置。 つまり、より進んだLFP配合や、焼成・混合・粉砕など作り方のノウハウや機械の対外持ち出しに“許可”が要る。なぜ重要?
LFPは世界で一気に普及。改良版LFPのノウハウは中国が強いので、これを握れば電池コストや安全面で競争優位を確保できる。輸出許可制で技術の外流出を抑える狙いがあるとも。
2,三元系(NCM/NCA)前駆体(高性能正極材の原料)
細かく説明すると。
NCM(ニッケル・コバルト・マンガン)、NCA(ニッケル・コバルト・アルミ)の正極を作る中間材料(前駆体)。これを元に製品を作る。
どこが規制?
この“前駆体”そのものに加え、製造プロセス技術や使う装置も“許可制”。原料段階で止めれば、下流の正極ライン全体が動きにくくなる。
なぜ重要?
高エネルギー密度(長距離EVなど)に効くのは三元系。前駆体の供給を握る=ハイエンドEV電池の首を押さえるのと同義と考えられる。
負極材(アノード)関連 ― 黒鉛の衝撃
さらに深刻なのが、負極材への規制です。負極材は、現在「黒鉛(グラファイト)」が主流ですが、ここにも強力な規制がかかりました。
ようは電池の“マイナス側”。プラス面と素材が別なんですよ。それで、いま主流は黒鉛で、充電でリチウムを受け入れる“器”のような役割。ここが弱いと充電が遅い・寿命が短い・発熱しやすい…などの問題が出やすい。
人造黒鉛(人工黒鉛)負極材料
何者?
石油コークス等を高温で“石墨化”して作る黒鉛。高純度・高性能で、近年はEV用で存在感が大きい。
どこが規制?
人工黒鉛の負極材そのものに加えて、
石墨化炉(箱型炉・エーチソン炉・連続石墨化炉など)
被覆・改質装置(大型スプレードライヤー、CVD回転炉、融合被覆装置等)
造粒や連続石墨化、液相被覆といった“製造技術”
…まで、素材→加工装置→加工プロセスを丸ごと“許可制”で囲い込む。
ようは「黒鉛に関わるほぼすべて」
なぜインパクト大?
黒鉛は中国が市場支配的(天然も人工も)
2023年には天然黒鉛の輸出も既に許可制にしており、今回は人工黒鉛+加工・被覆・石墨化の装置と技術まで拡大。
つまり、原料~高性能粉末~工程機械~ノウハウを一気通貫でコントロールできる体制に。世界の電池メーカーは調達や現地立ち上げが難しくなりやすい。
長々と説明してきましたが、この「黒鉛」の規制は、非常にインパクトが大きい。なぜなら、中国は世界の黒鉛市場をほぼ支配しているからです。
中国政府は2023年にも天然黒鉛の輸出規制を強化しましたが、今回、さらに人工黒鉛やその製造技術まで対象を拡大しました。
これは、世界のバッテリーサプライチェーンに対する中国の影響力を、さらに強固なものとします。
1-5. 第1章のまとめ:見えてきた「管理」の意図
ここまで見てきたように、今回の規制は、単に特定の製品を止めるだけのものではありません。
最先端技術(300Wh/kg以上)の囲い込み
製造能力(装置・技術)の流出防止
重要材料(黒鉛など)の供給コントロール
これらを組み合わせることで、中国はバッテリー産業全体を、自国のコントロール下に置こうとしています。
さて、規制の全体像は掴めました。一見すると、一般の輸入業者には直接関係ないように見えるかもしれません。
しかし、本当にそうでしょうか?次の章では、この規制が、巡り巡って私たちのビジネスにどのような影響を及ぼすのか。そして、私が最も恐れる「PSEの悪夢」について、具体的に掘り下げていきます。
第2章:貿易商の悪夢 ― 小型家電とPSEの「見えないコスト」
第1章で、今回の規制対象が主に「最先端」分野であることが分かりました。「うちは関係なさそうだ」と胸を撫で下ろした方もいるかもしれません。
しかし、貿易の世界は、そんなに単純ではありません。
Q2. ツイ鳥さんは、なぜそんなに危機感を持っているのですか?高性能品だけの規制なら、一般の小型家電には影響ないのでは?PSE問題とは何ですか?
この質問に答える形で、私がなぜこのニュースに強い危機感を抱いているのか、その理由をお話ししましょう。
2-1. バタフライ・エフェクト ― なぜ一般製品にも影響が及ぶのか?
一見、高性能品だけの規制に見えても、それが一般製品に影響を及ぼすシナリオは、いくつか考えられます。
シナリオ1:材料の奪い合いとコスト上昇
今回の規制で、高性能な正極材や人工黒鉛の輸出が制限されます。これにより、中国国外での調達競争が激化し、材料価格が上昇する可能性があります。
また、中国国内でも、汎用品向けの材料や製造ラインのキャパシティが圧迫されるかもしれません。
サプライチェーンの上流で起きた混乱は、必ず下流に影響を与えます。
これはビジネスの鉄則です。
汎用品であっても、調達コストが上昇したり、納期が不安定になったりするリスクは否定できません。
シナリオ2:業界再編によるサプライヤーの淘汰
そして、より深刻なのが、中国国内の業界再編です。後述しますが、今回の規制は、中国政府による国内メーカーの「選別(足切り)」の意図があると私は見ています。
今回の規制強化は、中小メーカーにとって大きな負担となります。コンプライアンスコストが増大し、政府の監視が厳しくなる。その結果、体力のない企業は淘汰され、大手による寡占化が進む可能性があります。
もし、あなたが取引している工場が、この再編の波に飲み込まれてしまったらどうなるでしょうか?サプライチェーンが突然寸断されるリスク。これこそが、私が恐れていることの一つです。
シナリオ3:物流の混乱と税関リスク
実務的に懸念されるのが、物流の混乱です。
今回の規制では、税関での申告義務が厳格化されました。
注目すべきは、非該当品であっても、性能が近い場合には「規制品目に非該当」と明記し、主要な性能指標(エネルギー密度など)を具体的に示す必要がある、とされた点です。
もし、申告内容に不備があったり、正確なデータシートを提出できなかったりすれば、貨物は港で足止めを食らいます。
特に施行直後は、現場が混乱し、過剰な検査が行われる可能性が高い。これにより、物流が遅延するリスクは十分に考えられます。年末商戦を控えたこの時期に、これは痛手です。
2-2. 日本特有の壁:PSE(電気用品安全法)の悪夢
そして、私がいま最も懸念しているのが、日本独自の法規制である「PSE(電気用品安全法)」に関する問題です。
これが、今回の中国の規制変更と組み合わさることで、私たち輸入業者にとって「悪夢」となりかねないのです。
PSEとは何か?
PSEとは、電気製品の安全性を確保するために定められた日本の法律です。バッテリーを搭載した製品の多くは、この法律の規制対象となります。
特に、「モバイルバッテリー」などリチウムイオン電池に関係する商品の一部、PSEマークの表示が義務付けられています。
また、家電製品に内蔵されるバッテリーも、製品全体の安全性評価の一部として、厳格な基準を満たす必要があります。
このPSE認証を取得するためには、指定された検査機関で高額な費用(数十万〜百万円超)を支払い、複雑な試験を受ける必要があります。
しかも、数ヶ月かかることも珍しくありません。
なぜ「部品変更」が致命傷になるのか?
問題は、このPSE認証が「製品の設計」と紐付いている点です。
もし、製品の設計、特に安全性に関わる重要な部品が変更された場合、
原則としてPSE認証を再取得しなければなりません。
そして、リチウムイオン電池は、間違いなく「最も重要な安全部品」の一つです。
想像してみてください。
あなたが苦労してPSE認証を取得した製品があるとします。しかし、今回の中国の規制強化や業界再編の影響で、工場が突然、こう言ってきたらどうしますか?
「今まで使っていたA社のバッテリーが手に入らなくなったので、次回からB社のバッテリーに変更します」
貿易の現場では、こうした「サイレントチェンジ(事前の通知なしの仕様変更)」は日常茶飯事です。
しかし、PSEが関わる場合、これは単なる仕様変更では済まされません。バッテリーが変われば、それは「別の製品」と見なされる可能性があるのです。
その結果、あなたは再び、高額な検査費用を支払い、数ヶ月の時間をかけて、再認証を取得しなければならないかもしれません。
これが、私が「PSEの悪夢」と呼ぶ理由です。
利益を吹き飛ばす「見えないコスト」
もし、この部品変更が頻繁に発生したらどうなるでしょうか。認証を待っている間は販売できないため、大きな機会損失が発生します。
そして、再認証のコストは、せっかく積み上げた利益を簡単に吹き飛ばしてしまいます。
問題なのがPSE認証品でも、
中国の工場は、日本のPSEの厳しさを完全には理解していないことが多い。彼らにとっては「同じ性能だから問題ないだろう」という軽い気持ちでも、私たちにとっては死活問題なのです。
サイレントチェンジの本当の恐怖 ― 安全性が失われるリスク
そして、PSE認証の有無に関わらず、さらに恐ろしいのが「バッテリーの仕様を勝手に変えられることによる安全性の低下」です。
たとえPSEを取得していない雑貨系の商品であっても、内部にリチウムイオン電池が使われている以上、バッテリーの品質は命綱です。
ところが、今回の規制の件で、仕入れ先の工場が競争に勝つために原価を抑えるために、より安価なバッテリーや素材に“こっそり”切り替える可能性もあります。
または素材が手に入らず、「データ上は」同等レベルの素材。しかし安全性が担保されていない素材に変える可能性もあります。
見た目は同じでも、中身はまったく別物。セル構造の違い、保護回路の有無、耐熱性能の差…こうした要素ひとつで、発火・膨張・破裂といった重大事故につながる可能性があります。
中国では、電池のコストが1個あたり数円でも違えば、製品全体の利益率が大きく変わります。
そのため、工場側にとっては「似たようなバッテリーだから問題ない」と軽く考えた“コストダウン”でも、私たち輸入業者にとっては信頼と安全性を根底から揺るがすリスクになるのです。
特に、今回のように中国国内でのリチウム電池輸出が厳しくなり、従来の高品質セルが手に入りにくくなる状況では、代替調達が進み、品質のばらつきや“安かろう悪かろう”の素材混入が増える可能性があります。
つまり――
たとえPSE認証を通過した商品であっても、
中身のバッテリーが
知らぬ間に変わっていたら、
もはやその認証は意味をなさない。
これが、輸入業者にとっての“もうひとつの悪夢”なのです。
2-3. 過去の失敗談 ― 仕様変更で在庫がゴミになった日
思い出したくもありませんが、私自身、過去にサイレントチェンジで痛い目を見た経験があります。
ある電子機器を輸入していた時のこと、コストの安さだけで選んだ工場が、あるロットから突然、内部の基板設計を変更しました。
しばらくして、「動作が不安定だ」とクレームが多発。調べてみると、重要なチップが粗悪な模倣品にすり替えられていたのです。
結局、そのロットの在庫は全て廃棄処分となり、大きな損失を出しました。バッテリーの場合、単なる品質問題では済まず、発火事故などのリスクにも直結します。
だからこそ、私たちは今回の規制強化を機に、自社のサプライチェーンのリスクを徹底的に洗い出さなければならないのです。
さて、現場レベルでのリスクが理解できたところで、次の章では、視座を上げて、この規制の背景にある中国政府の真の狙いと、その国家戦略について考察してみましょう。
第3章:北京の冷徹な計算 ― 中国型産業政策の「勝利の方程式」
今回のバッテリー輸出規制。その背景には、どのような戦略的な意図があるのでしょうか。
表向きの理由と、その裏に隠された真の狙いを読み解いていきましょう。
Q3. 中国はバッテリー大国なのに、なぜ自ら輸出にブレーキをかけるようなことをするのでしょうか?米中対立だけが理由ですか?
一見すると矛盾しているように見えますが、その背景には、中国が歴史的に繰り返してきた「産業政策のパターン」があります。
おそらく表向きの理由は、
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【こんな人におすすめ】
・海外の経済や市場動向に関心があり、最新情報を知りたい方(特に今回の規制の動向を知りたい方)
・株式を含む投資や金融ニュースを幅広く理解したい方(特に中国の動向を知りたい方)
・海外ビジネス(輸出入など)を行っている方
・単にツイ鳥の知識が気になって仕方ない方
・純粋にツイ鳥を応援したり、購読代を払いたいという方
【本文予告】
1,今後のリチウムイオン電池の規制がどうなっていくのか?の考察
2,バッテリー市場がこのようになっているのか?の考察
3,これが日本に影響あるかどうかの考察、など



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